Fate/Littered with Fakes 作:湯瀬 煉
というか気付けばそろそろHF三章公開ですってよ、土方さん。
もしもこれが聖杯戦争でなかったら、俺は悲鳴を上げて逃げ出していただろう。
月光通らぬ雨の夜、道の真ん中。アーサーたちとは真逆の立ち位置に『ソレ』はいた。寿命僅かの街灯が点滅しながら照らす、濡れたアスファルトの上に浮かぶ、白い骸骨。
———「本来、聖杯戦争にて召喚されるアサシンは骸骨の仮面をかぶった暗殺者なのだ。...少なくとも貴様は贋作のアサシンの可能性がある。...此度の宴、なかなかにきな臭いぞ」———
ギルガメッシュの言葉が脳裏をよぎる。
「...『真アサシン』......」
骸骨は再びナイフを投擲する。音もない、黒いナイフは並の者ならばすでに頭部に深く刺さり、退場するハメになっただろう。だが、セイバーも俺も高い『直感』があるわけで。なんとかそれを落とし、敵に突っ込むか否かを判断する。
セイバーのマスターが素早く危険を感じ、俺のマスターも口を開く。
「…アサシン。撤退だ!!」
「分かってらぁ、マス……」
真アサシンが動く。
奴は手を銃の形にして俺とセイバーに向けた。
予感が走る。
と、同時に体をよじった。と、同時に顔のすぐ横をナニカが通り過ぎていく。
「……針か…!」
相手方が全く話をしてくれないのでは対応に困る。とりあえず攻撃だけはしのいで一端退く。
「……ぐっ!?」
その時だった。
セイバーが崩れたのは。
「んな……っ」
先程の攻撃が胸に当たったらしい。
「セイバー!」
その動きに変な違和感があった。だから、つい足を止めてしまう。
(なんだ……? これは…。
撃たれた胸では無く、首を押さえながら倒れて。
首……ということは………)
三度、針が飛んできた。しかしそれを素早く短刀で弾くと、セイバーを負ってマスターの所へ。と、同時にギルガメッシュが宝具を機関銃のように撃ち出す、例の技で俺が逃げるまでの時間を稼いでくれる。
「ありがとう…!」
「ふん。ここで死なれては興も乗らぬ。それだけの事よ」
あと少しで、十分な距離が取れる…その直前、再び『嫌な予感』がした。
これまでとは違い、全く
「なん…………!?」
「・・・・・・ぁ・・・ぃーや」
聞き取れなかったが、それが悪意に満ちたものだということだけは分かった。
それと同時に
口の中を満たすのは異物感。息が吸えない。中にあるナニカを吐き出したい。
「ぼご…、ぶっ…」
「アサシン!?」
首を押さえるセイバー。今の感覚。これは……溺れているのに近い。
「か……は……」
溺れる、ということは溺死した者なのか。もしくは水系統の魔術を操る英霊か。ならば
この英霊の正体を探るが、苦しくて上手く頭が回らない。ならば……。
「………ガッ!? は……」
短刀の刃に触れると、急激に不快感が遠のいた。ほぼ同時にすばやくセイバーに刃を当てると、セイバーの呼吸も安定していく。
「チッ……仕留め損なったか……」
骸骨はぼそりと呟き、こちらを睨んでくる。身長はやや高い。よく見れば、深緑のパーカー、もしくはローブ、だろうか。、フードを少し深めに被り、ぶかぶかの物を着ている。骸骨の面は不気味に笑っていた。
記憶と照らし合わせる。俺が知っている『真アサシン』、つまりイスラム教ニザール派の長は四人。初代と、全身の体液が毒の者と、呪いの手を移植した者と、多重人格の者。眉唾な、髪を自在に操るだとか、頭を爆弾にするだとかは除いて、だが。あの仮面は、彼らの物とよく似ている。おそらく、俺の知らないハサンなのだろう。ならば、先程の呟きは『ザバーニーヤ』と言ったのだろう。分からないのは、宝具の効果だ。アレは……何をされたのだろう?
セイバーが静かな怒りを込めて、骸骨に問う。
「決闘の最中に乱入とはな。何者だ」
すっと背筋を伸ばし、竹刀を構えて相手を見据える。刃は無いと知っていても、見る者に死の気配を感じさせるその姿を、骸骨は不気味な笑みのまま、不気味な声を発する。
「……クカカカ。その、刃無しの剣で私を斬ると。剣士様は異なことを言いなさる。カカカカ……」
「貴様ァ!」
セイバーが怒りを露にして駆け出す。まさに人外の域。一瞬でその深緑のパーカーの目前にたどり着き、竹刀で首を突く。あまりの速さに風が生まれ、周囲を軽く払った。
「…………ャ……」
しかし、次の瞬間、骸骨が再びなにか呟くと同時に、セイバーはもといた場所まで戻される。
「な…かはっ……!」
そして、何事もなかったように、骸骨が再び笑う。
「ク、ク、ク。真の戦場も知らぬ若造が刃無しのおもちゃをもって何を言うか。クカカカカ………」
特別、すごい事を言ったわけではない。しかし、その言葉には濃厚な死の臭いがした。なるほど、これが本場の暗殺者ということらしい。
「それが……どうしたってんだよっ!」
セイバーには不可能でも、同じアサシンの俺なら少しは違うはず。野球選手がボールでも投げるように、思い切り腕を振り切った。その手には最初、何も握られていなかったが、九十度ほど腕が動いたときには指と指の間でナイフを掴んでいた。生前の経験より培われた、殺人の技術の一つ。無音のままに、高速で装備したナイフ計四本を真アサシンへ投げつける。俺は神秘の薄い時代の英霊だ、ステータスは決して高くはない。だが、弾丸並みの速度でナイフを投擲するなど、造作もない程度にはちゃんと『サーヴァント』だった。もちろん三騎士や強力無比な上位英霊──例えば近くに居るギルガメッシュやアーサーが相手であれば弾丸程度の速さのナイフなど簡単に凌げよう。だが、相手はアサシン。自分も含めてそうだが三騎士はおろか、他の全クラスと比べてもステータスは基本低め。故にかすり傷でも負ってくれないかな、と微かに期待を込めたのだ。
だが現実は、決してそんな生ぬるいものではなかった。真アサシンは懐より黒光りする刃に球体の柄を持つ、特徴的な短剣を
「何を偉そうに演説を始めたかと思えば。所詮は貴様もコレと同じ戦場に憧れる道化に過ぎぬではないか」
破壊の余波である煙が少しずつ晴れる。英雄王ではないが、所詮はアサシンだ。あの攻撃に耐えうるはずもない。予想通り、深緑のパーカーはその場から跡形もなく消失していた。
「──いえ、どうやらあのアサシンは撤退したようです。おそらく、ギルガメッシュの宝具が当たる前に霊体化などの手段で避けたのでしょう。煙の中で身を潜めどこかへ飛び去る奴の姿を、なんとか見ることが出来ました」
アーサーの『直感スキル』は視覚への妨害もある程度は無効化できるという。なるほど、上手いこと逃げ去ったらしい。逃げたことは分かったとて、深追いは危険か。
「セイバー。此処は」
「……分かっているとも」
この日は、これ以上の戦闘は危険だと判断し撤退することにした。双方、サーヴァントの消耗が激しい。此処で相討ちなど、しゃれにならない。
マスターの家に到着すると、俺は真っ直ぐにリビングにぶっ倒れた。
「だーっ! つ~か~れ~た~」
「……此処も確実に安全とはいえないのですよ? 仮にもマスターを守る立場にある貴方がこんなに緩んでいて良いのでしょうか……?」
アーサーに眉をひそめられるが、しかし全身を襲うこの倦怠感からは逃れられない。サーヴァントになって、疲れない体になったはずなのだが、精神的な疲れだけはどうにもならない。
「暫く寝かせておけ。どうせ動いていても動いていなくても役には立たぬ」
ギルガメッシュからはなんともいえない辛口の評価が下ったが、その言葉に甘んじて目をつむる。魔力と傷の回復は、コレだけで済む。申し訳ないが、戦線復帰はしばらく諦めて貰うしか無い。ゆっくり、ゆっくりとまどろみに任せて意識を沈めていく。あの真アサシンの考察でもしながら………ゆっくりと………………………………。
………………………。
「それで? ここの無防備に寝ている雑種のマスターよ、
「ええ、それには同意します。
アーサーとギルガメッシュの様子が豹変する。二人は無遠慮にアサシンのマスターへ敵意すらも含めた視線を向ける。二人のサーヴァントに睨まれたマスターの方はソレに気押されることも無く二人を見つめ首を横に振った。
「……さぁな。俺の方も唐突だったもんで、なんとも。ただまあ……聖杯戦争やってる、裏側の奴らが首謀者だろうよ。……つまるところだ、セイバー、ギルガメッシュ。テメェらも俺も、まずは勝ち抜かねぇと何も分からねぇってことだよ」
英雄王と騎士王の、なぞの召喚。
真なるアサシンの登場。
この聖杯戦争は、確実に歯車を狂わせていく。それをハッキリと参加者全員が知覚するのは、まだ先のことである。
アーチャー、ランサー、アサシンの三クラスが好きなんですけどもね?
私、キャスターに愛されておりまして。ええ、キャスターをナーサーリーちゃんにしたいと思うくらいに相思相愛ですよ。
とにかくそろそろランサーを登場させたい。