Fate/Littered with Fakes 作:湯瀬 煉
「よもや、初陣でこのような醜態を晒すことになるとはな……」
町が一望できる山の上の方の坂道。そこに立つ電柱の上に、深緑のパーカーを纏う男は座っていた。この聖杯戦争における、真なるアサシンである。夜の闇に溶け込むその様はまるで亡霊。誰も、よほど注意を払わねば、敵性サーヴァントも彼を見つけることは不可能に近い。少なくとも、彼はそう思っていた。
そう、ソレがやってくるまでは。
(──風?)
不自然な風が、真アサシンを振り向かせた。これに気づけなかったならば、真アサシンはセイバー、アサシン、ギルガメッシュ、アルトリアを前に堂々と立ち回ったという戦績を残したにも関わらず、その日のうちに敗退、消滅するという道化と堕ちていただろう。三メートル程の大剣が振り下ろされたのを、跳躍で躱す。コンクリートの地面を、鉄製の電灯を蹂躙し尽くし、一瞬で鉄屑へ還元する。カラン、という音共に鉄の棒が地面を転がり、周囲には粉末にまで分解されたコンクリが砂塵のように舞った。
「──我が身を捉えたか。貴様は……
真アサシンが、首をかしげる。大剣を振り下ろしたソレは、サーヴァントではなかった。全身が白で構成されており、目の無いウナギのような頭と、猛禽類のような翼を持つ五メートルの巨人……いや、怪物、か。
「ほう、神獣を
真アサシンに恐怖は無かった。所詮は生命体であるならば、命を一瞬で狩る暗殺者の敵ではない、というのが彼の基本的な思想だったからだ。そして、予定通り宝具を開帳し、相手を絶命させんと魔力を回す。ハサンの名を襲名した者が各々持つ奇跡、彼の場合は……
「──『
一秒経った。二秒、三秒……。最優と謳われるセイバーすらも屠りかけた妙技は果たして、怪物の息の根を止めるに至らなかった。怪物は依然と、平然と真アサシンの前で大剣を振りかぶっている。
「──っ!」
咄嗟に横へ跳んで大剣を避けるが、少し遅れて大剣が地面につき立てられた際に発生した衝撃波で宙を舞う。
(……よもや、コイツ生き物では無いのか!?)
自慢の技を外した真アサシンだったが、熟練というか、ここで冷静に次の一手を模索し始めるあたりは、プロであった。だが、怪物はそんな事情など知り得るはずも無い。宙を舞い、着地する寸前に次の一手を思いついた真アサシンの鳩尾へ、行動を妨げるように蹴りが撃ち込まれ、すっ飛んでいく。弾丸のように吹き飛ばされた暗殺者の身は、元いた場所が高台だったことも手伝ってビルを一棟貫通して、5階建てビルの屋上に不時着する。
「ごはっ……」
大きさとは、一つの暴力である。
だが怪物は、あまりにも規格外が過ぎた。一撃必殺の宝具は効かず、目の無い頭はつまり、目潰しをして逃走するという手段を撰ばせない。得物は巨大がすぎる諸刃の大剣であり、一度振るわれる度に衝撃波がまき散らされるため、オーバーに回避しなくては吹き飛んでしまうだろう。
自然生物の冒涜、物理法則への叛逆。アレを倒すには、暗殺者の持ちうる攻撃手段は貧弱が過ぎる。
「…………チッ」
「──────
悪態をつき、怪物の方を見上げようとしたとき、背後から声がした。悔しいことに、暗殺者はソレを気取ることが出来なかったらしい。なんらかの魔術か、もしくはそも霊基がそういう仕様なのか。赤く、矢尻のような穂の大身槍を持つ、紫を基調として緑のラインがいくつか入ったタイツ……にみえる鎧を来た青年が、そこにいた。
「君は、暗殺者に見える。何者だ?」
「そのように問われて容易く名乗るようなバカはいまい。そういう貴様は分かりやすいな、ランサー」
気付けば、背後の怪物の気配が消えている。──そうか、ランサーの従属だったらしい。
「それもそうだね。知らない
ぞわり、と恐怖が己が身を襲った。ランサーの言葉は明確な処刑宣告となり、重圧と化して全身にのしかかる。動かなければ、殺される、という確信のみが、暗殺者を突き動かした。
「──クソッ」
ビルを飛び降りて、その場から逃げ出す。
「逃がさねぇよ」
ランサーの冷たい声だけが、鼓膜に響いた。
路地を縦横無尽に駆け回ると、たまたま近くを通ったトラック? とかいう乗り物に目がいく。レッカー車と呼ばれるそれは複数の車を満席状態に詰んでおり、隠れ蓑としては相応しい。慌ててすれ違い様に車の上に跳ぶと、さっさと身を隠してからランサーの位置を確認する。ココを見られてしまっては、作戦の意味が無くなるからだ。幸い、ランサーは見当たらなかった。
(──これで、安心……)
車は高速道路へ進入していく。おそらくは、この詰んである車をどうこうするには、県外に行く必要があるのだろう。
まあ、いい。頃合いを見計らって降りるとしよう、と安心した刹那に、サーヴァントの気配がした。
(まさか───!?)
みよ、時速百キロにも達したこの車両に迫る人影を。紫に、緑のライン。間違いない。ランサーだった。
(なるほど、アレが現代の馬か)
ランサーは、生前見たあらゆる駿馬を凌ぐ速度で地面を駆ける鉄の馬へ、駆け足で迫っていた。生前は此処まで健脚では無かったが、『知名度補正』とやらを受けているらしく軒並みステータスが上昇していた。聖杯より与えられた知識が本当ならば、おそらく自分は極端な秘境でも無い限り同等の知名度補正を受けるだろう。いや、ギリシアなどで召喚されればそれこそ敵無し、か。
(──にしても、なんだ、あのアサシンは。二人目のアサシンが召喚されることがあるなど、聖杯からは聞いていないが)
『正直にいえば、まったく俺も分からない。だけどなんだか、
脳裏に男の声だけが聞こえた。己の召喚者にして
「………承知した、我が
地面を蹴る度に加速していき、鉄の馬──レッカー車というらしい──に迫っていく。後輪を斬って停車させることも考えたが、それでは無関係の車の運転手が憐れだと思い、仕方なしに車を追い抜くことにした。地面を蹴る周期を短くして、さらに車両に迫る──直前に、アサシンからの阻害を受けた。レッカー車に詰められていた車の一つを、此方へ投げつけてきたのだ。無論、暗殺者風情の筋力など恐るるに足らず、車は此方に来る途中で落下したが盾のように縦になったまま、機関部を此方へ晒しながら迫ってくる。何もしなければ直撃し、押し潰される恐れがある。とはいえ横へ躱すのは減速の恐れもあり面倒くさい。故に選択肢は一つ。正面突破、だ。
「フン……!」
何のひねりのない突きが、此方へ迫る車両に突き刺さる。古き時代の主装備たる槍と現代社会の象徴である車。二つが衝突すればどうなるのか、多くの者は槍で車に敵うはずが無いと思うだろうか。だが、英霊の持つ槍を、そう甘く見てはならない。巨大な穂は機関部を穿ち、破壊した。エンジンを壊された車の末路は悲惨だ。その場で爆裂四散し、復元は二度と叶わぬ状態となる。
申し訳ないと少し思ったが、仕方あるまい。炎を槍で軽く払うと、槍を地面に突き立て、棒高跳びの要領でアサシンの乗るレッカー車に飛び乗った。
「追いついたぞ、暗殺者」
「…………………………」
槍を右手で軽く回し、構える。相手はアサシン。“マスター殺し”に長ける一方、戦闘においては他のクラスに劣るといわれる『雑魚』である。とはいえ、向こうもまさか諦めて何もしないなんて事はあるまい。両手に短剣を構え、此方へ駆けだしてくる。それを槍で押し返すと、横腹、心臓、額へ突きを放ち己の得意な間合いにアサシンを留めさせる。近づかれすぎてはいけないし、離れられすぎてもダメだ。一つの場所に押し込め、かつ一撃を加える。相手も英霊だ。短剣で槍の一撃をいなし、身をかがめて躱し、隙を突いて喉元へ一刺しする。槍と短剣の攻防を続けること十数合。予想に反し、思ったよりも拮抗した戦闘となった。だが、三大騎士クラスと謳われるランサーと、サーヴァント同士の戦闘では最弱ではないかとすらいわれるアサシンでは、あまりに実力差がありすぎた。槍を薙ぐと、アサシンは背を反らしてこれを躱す。だが、それこそランサーの望む動きだった。背を反った瞬間を狙って前蹴りを放ち、アサシンを後方の車に叩きつける。槍の長さは穂先から石突きまでで7メートル程。もちろんアサシンは射程内だ。
「でりゃぁぁっ!!」
両手で槍を持てば、車を乗せている檻ごとアサシンを千切りにしようと振り回す。檻を構成している金属は硬かったが、宝具である槍はソーセージでも斬っているように、僅かな抵抗感はありつつも易々と寸断していく。
「なん───ッ!」
アサシンも流石にこれを受け流すのは不可能らしく、レッカー車から跳び降りながら槍を躱し、地面を転がる。ソレを確認した瞬間、アサシンの代わりにズタズタに切り裂かれた車体が爆発を起こし、全身が炎に包まれた。
暗殺者は、変わらず夜のビル街を駆け抜けていた。暗殺者の影を追うのは、無傷のランサー。アサシンは仮面の下で下唇を噛みながら、ビルを飛び移りながら逃走する。
(アレは、規格外が過ぎる。私のような英霊では……太刀打ちできぬ……!)
ビルから跳んでまた他のビルに飛び移ろうとした瞬間、上から濃厚の殺意が降ってきた。
「どぉおりゃぁぁああッ!!」
槍を構えたまま落下してきたランサーである。槍が刺さるのは避けたが、勢いに押されて地面に自由落下し、地面をスーパーボールのように跳ねる。だが、こうして寝てもいられない。すくい上げられるように振られた槍が首へ迫っている。飛び上がって槍を避け、猿のようにビルを駆け上がって距離を置く。一瞬でも視界から逃れられれば、この逃走劇は終了だ。せめて、一瞬。
ビルを駆け上がり空中に飛び出た瞬間に、ふと振り返り、彼我の距離を測る。
───いなかった。ランサーが、そこにはいなかった。
「………逃れられた………? …いや、これは」
最後までつぶやきは言えない。背中から衝撃が駆け抜け、弾丸のような勢いでビルの屋上、給水塔に突き刺さる。だが、この程度ではあの槍兵は止まらない。慌ててその場から飛び上がると目と鼻の先を槍が通って、一瞬前まで自分が居たところへ突き立てられる。───槍を投げて攻撃したようだ。振り返ると、丸腰のランサーがいた。だが、攻撃に転じる余裕は無い。それよりもさきに、ランサーの蹴りが鳩尾に刺さり、500メートル先のビルに落下した。
気配で分かる。まだ、あのランサーは自分へ迫っている。このままでは、死ぬ───!
「チッ………! 騎士風情が…ッ」
体の節々が痛むが、此処で減速しては致命的だ。ビルとビルを飛び移り、猿のように縦横無尽に、陸上選手のようにまっすぐに夜の街を駆けていく。ふと振り返れば、もうランサーが、50メートル後方にいた。ランサーは最も速い英霊が選ばれるというが、なるほどこれは『足が速い』という次元を超えている。猟犬のように獲物を追い立て、食らいつく。槍はビルに突き刺したままらしく、
「私に追いつくことを優先したか。────ならばその選択、後悔させてやろう」
確か、この先に小さな噴水があったはず。あそこならば、迎撃はしやすかろう。
あっという間に数百メートル先にある目的地へたどり着き、ランサーを待ち受けるように振り返る。……と、その前に短刀を二本取り出して照明を破壊しておいて。
「──ここが終着か?」
ランサーは狙い通りの位置に着地した。噴水を照らすためのライト以外に、光は消えている。光が点るまで、残り三秒。短刀を四本投げる。ランサーは、直接狙わない。狙ったとて、当てられる相手ではない。
ランサーの方は、さすがに暗闇では動きづらいとみて、その場でじっとしていた。だが、それも数秒間だけだ。足下から光が溢れていき、噴水が立ち上がる。ランサーを囲うようにあたりに光が現れ、闇から四本の刃が現れた。狙いはその首、4方向から放たれた短剣。それは、既に避けるには難しい距離にまで迫っている。
(───獲った………!)
だが、刃はランサーの喉を貫くこと無く、地に落ちた。ランサーの体を、薄い膜が覆い刃を弾いたのだ。
「───流れ矢の加護、という奴か?」
「そんな素晴らしいものではないとも。たんなる、心の壁……とでもいおうか」
噴水が湧くのは数秒間。その後はまた周囲は暗闇に戻る。……これ以上の攻防は危険だ。紫に緑のラインが入ったその服装と、幾度も我が首へ迫った巨大な赤い槍。まるで親の仇敵のように、じっとランサーを見詰め、口の中だけで次は殺すぞ、とだけ呟いた。
噴水が立ち、光があたりを包んだときには、既にアサシンは居なかった。
「───すまない、我が主よ。逃した」
『……いいんだ、ランサーが無事で良かったよ』
マスターの声に、相手は見えているかどうかは別として深々と礼をすると、自分の周りに落ちた四本の短剣を見る。
「─────黒く塗った短剣を、暗がりに紛らせて、か。なんと稚拙な」
ランサー「私の活躍回だねぇ、わかるとも!」
槍アニキ「……なあ、これHF一章の俺の戦闘シーンじゃね? なんでコイツは心臓獲られなかったの? なんなの?」
アーサー「いいですか、ランサー。これが幸運値の違いです。というかそもそも相手が違いますし」
ランサー「………そんなことより俺の真名、このタイトルと宝具でバレる可能性がやばい」
アーサー「この回のタイトルで5割の方が、貴方の使役する獣で6割が、次いで槍の名前とかバレたら10割の方が気付くでしょうね」
槍アニキ「つか、名前これにするならあの真アサシン捕食されるべきじゃねえの?」
ランサー「………いやね、確かにあの宝具だけで他のサーヴァント一掃できるけど、ダメでしょ。私、初登場した途端にこれまでの話を無視して一人勝ちとかめっちゃ嫌な奴になっちゃうもん」
ねえ、君達。唐突に僕と読者さんの唯一といっても過言ではないコミュニケーションツールたる後書きにまで進出するのやめてね。
槍アニキ「コミュニケーションする読者さんが居るのか問題」
アーサー「感想/Zero、評価/Zero なんですけど、私たちがここに来ちゃいけない理由はソレでOKですか?」
ランサー「つまり、コメントが欲しいという事である」
遠回しなコメント要求である!
アーサー「だからコメントが来ないのである!!」
責任をとって自害せよ、ランサー
ランサー「やっぱこうなるのかよ!!」