俺、HP0なんですけど? 作:アルバティル
デスゲーム開始からようやく一週間が経過した。
まだほんの二日くらいしか経ってないような気がするが、時間の流れというのは早いものだ。
第三階層では特にやることも無いのでレベルアップも何もせず第一層へと戻ったのだが、自称解放者(笑)達が未だに屯していた。
なんか言われたのだが、文明がそもそも違うのか意味が分からなかったので適当に投げと軽業スキルを使って超強引に突破した。
この迷惑さはガチで圏内PKも考えるレベルだ。
今日の予定はベッドで寝る。
一日中寝る。
……という訳にはいかずに、ミオンとパーティを組んでどこかのクエストをクリアしていくつもりだ。
俺、これまでクエスト系ガンスルーでボスだけ殴ってたからね。
『拝啓、ミオン様
物騒な命を懸けた世の中ですが、私は本日も変わらずに元気であります。
さて、昨日ミオン様は本ゲーム最強候補の一角である私にパーティの申し込みをされたかと思われるのですが、当方の予定が完了し、共にクエスト等を行える事をご報告致します。
ミオン様がレベル上げ等を行いたかったという場合、大変心苦しいのですが、最東のワニエリアにてレベル上げを行いますので命を駒にする覚悟が無ければクエストを共に行う事をオススメ致します。
本日の12時頃、中央区の喫茶店チョリチョリにてお待ちしておりますので、首を洗ってお待ちください』
送信っと。
後はいつものように喫茶店チョリチョリで優雅に紅茶を飲んで過ごしていればいいだろう。
紅茶を飲みながら適当に周りを見ていると喫茶店チョリチョリも買えることに気がついた。
というか基本なんでも買えるなこのゲーム。
喫茶店チョリチョリって7000ガルン、だいたい700万円で買えるのか……これは買いだな、うん。
買いのボタンをプッシュ、今の俺の懐はボス討伐のおかげで超暖かいのでこのくらいはらくらくである。
後は名前を極東商会喫茶店チョリチョリに変えておく。
7000ガルンのうちどのくらいが回収できるかは分からないが、結構流行っている店な事は間違いないしそれなりの儲けにはなりそうだ。
ピコン!
『メッセージを受診しました』
『from:ミオン
ご連絡ありがとうございます。
偉大なるシオン様とこうしてパーティを組ませていただくことを誇りに思います。
本日の12時頃、そちらへ向かわせていただきます。
こちらはクエストについては余り詳しくないため、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします。
って、なんなんですかコレΣ(゚ω゚ノ)ノ』
「12まであと一時間もあるしWikiでも見ておくか……」
この一階層にはかなりのクエストが存在するらしいのだが、Wikiを見る限りではNPCが本当にこの世界で生きている為に、誰か一人のプレイヤーがクリアしたらそれで終わりとかいうクエストが大半らしい。
何度でも受けれるものは冒険者ギルドに貼られてあるクエストくらいのもので、NPCから直接受けれるタイプのものはたまたま見つけるしか方法がないらしい。
とりあえずは始まりの町から出てどこかの村に行くのがいいのかもしれない。
なんせ、始まりの町には現在130万人という数のプレイヤーが居て、めぼしいクエストは片っ端からクリアされていっている筈だ。
何故この町の外にも村や小さな町があるのに、こんなに人が集まっているのかと言うと、この中央エリアの始まりの町以外は【聖神の加護】の有効圏外だからである。
この聖神の加護が働いている空間であればあらゆる生命体は一切のダメージを受ける事がなく、窃盗や住居侵入、強姦などなどの犯罪行為も全くと言っていいほど行えなくなる。
つまりはこの外に出てしまうと普通に人を殺せるし、ものを盗んだり、破壊したりもできるわけだ。
聖神の加護の中は倫理神の加護と秩序神の加護という2つに分けられるのだが、この倫理神の加護はダメージの無効化とハラスメント系の禁止をしてあり、秩序神の加護ではアイテムの盗難、破壊の禁止や住居侵入の禁止を行っている。
これらが一切の効果を発揮しないのが圏外だ。
つまりはその気になれば簡単にヤれる空間であり、プレイヤーではなくNPCに対してそういった行為を行うプレイヤーが問題になっているらしい。
こういった犯罪行為をしたプレイヤーは違反した内容の加護が一定時間働かなくなるといったペナルティがあるのだが、童貞を捨てれるなら死んでもいいというような潔のいいプレイヤーが一定数いる為、やはりこうった行為が無くなることはないのだ。
違反の重さには軽度のイエロー、中度のオレンジ、重度のレッド、最重度のブラックの四段階が存在する。
イエローだとせいぜい3日違反内容の加護が効かなくなるくらい、オレンジだと2週間、レッドだと一ヶ月。
ブラックに達すると各ギルドで賞金首として指名手配され、圏内に今後立ち入る事が不可能になるらしい。
こういうプレイヤーが来た村を探し、クエストを受けて村人達の前に引きずり出す。
これが恐らく一番速い筈だ。
基本的にこういったプレイヤーは弱い所にしか現れない為、行くのは北である。
フィールドに点在する村を片っ端から尋ねていけばそのうちヒットする筈だと思う。
「問題は俺がプレイヤーをやれるかどうかだな……」
敵モブは人型であっても躊躇なく殺せるのだが、プレイヤーとなると少し話は違う。
いくらここが殺伐としたデスゲームとは言ってもリアルの人を殺すのには多少の抵抗感がある。
「あの、し、シオンさんです?」
「ん? ああミオンか、今日はよろしくな」
色々と考えながらWikiを見ていると、ミオンがやってきた。
時間を見るともう12時になっており時間ピッタリだ。
「は、はい、それでどこに行くんですか?」
「とりあえずは1番弱い北だな、そう言えばレベルいくつ?」
「ま、まだ1です……」
「なら経験値吸うといけないしとりあえずパーティ化は無しでいいか?
レベル差があると俺の方に経験値が流れてくるし、しかも俺のレベルは北のボブじゃ殆ど上がらんからな」
「だ、大丈夫です」
「ついでに他のプレイヤーを殺す覚悟はあるか?」
「ほ、他のプレイヤーを、ですか!?」
あ、やべぇなんか言い方を間違えた気がする。
これじゃあ俺がPKに誘ってるみたいだ。
「ああ、犯罪行為を行っているプレイヤーのHPを0にする事はできるか?」
「ば、場合によると思います」
「ならこの世界のNPCを殺す事はできるか?」
「それならできると思います」
「その違いはなんだ? 同じ地球から来たからか? それともNPCなら命は無いから殺しても大丈夫なんて甘い考えを持ってるのか?」
「ふ、ふぇ? え、えと……えと、リアルに帰った時に責任を求められる可能性があるからでしょうか?」
「なるほどな……」
ふむふむ、俺も言われてみればそうかもしれない。
が、何故リアルの事を気にする必要性があるのかということに気がついた。
今この瞬間を生きれない者に明日を考える資格はないと思うのだ。
「つまりお前は100階層の全てのボスが攻略されて、邪神と戦うその瞬間まで自分だけは絶対に死なないなんて甘い考えをしているのか?」
「え、えと」
「ここは平和な日本じゃあない。
ふとした事で死ぬかもしれない命のやり取りを行う殺伐とした世界、ファンターシェだ。
明日も自分が生きているなんて甘い考えは捨てた方がいい。
そして今日を生き、明日へと繋げる為には金と経験値は絶対に必要なわけだ。
今はまだ大丈夫なのかもしれないが、このゲームの初期の手持ちは20ガルンしかない。そのうち絶対に金が必要になって金を稼ぐためには力がいる。そして力を得るためには経験値が必要だ。経験値を得る為にはもちろん自分の命を駒にして圏外へと出なければならない。
そしてゲームの供給するリソース、つまりは金や経験値には限りがある。ということはお前が生きる為には誰かの分の金や経験値を必然的に奪うと言うことでもある。
お前に他者を殺してまで生きる勇気と資格はあるか?」
「……」
答えは沈黙。
そりゃあいきなりこんなシリアスな話をされたら困ると思う。
だが、これは俺の俺に対する問でもある。
自分の為に他者を虐げ、殺す。
これができないようであれば俺の生きる価値はない。
「あります」
「本当によく考えて出した結論か?
これはゲームじゃないんだぞ?」
「正直な所、まだそんな実感はないです」
「なら、その場の雰囲気に流されて自分の頭で考える事を辞めて、俺についてこようとしているのか?」
「でも、死にたくはないです。
そのために犯罪者を、悪人を殺して、その結果まともに生きる人が少しでも多く、命の椅子に座れるというのなら…………が、頑張ってみます」
「さすがだロリっ娘、よく言った」
「ろ、ロリじゃないですよ!」
これはただのゲームじゃない。
世界ファンターシェという一つの世界で送る命と命の物語。
だからこそこのゲームを俺は美しいと感じるし、面白いと感じるのだ。
腐ったように親に甘えて、だらだらと呑気に過ごしていた地球と比べて自分の力で生きているという実感がはっきりとある。
デスゲームという形で地球には帰れなくなってはしまったが、生きるという事の意味に気が付かせてくれたこのゲームとこのゲームを作った神変態を俺は恨んでは居ない。
俺だけではなく、多くのプレイヤーがそうなのかもしれない。
かなりショックや恐怖を受けた人も中にはいるだろうが、そういったスレがほんの2、3件しか作られていないのをみると俺は思うのだ。
命の危険に晒されることも無く、生きてきた日本人にはこれは良い薬だと。
「よし、それじゃあそろそろ行くか」
「はい、お願いします」
俺はミオンと共に外の世界へと足を踏み出した。
その一歩が何か大きな第一歩に感じで、俺の心の中のモヤモヤの塊がスッキリとどこかに飛んで行った。
待たせたな世界。
待たせたな俺の人生。
ここからが俺による、俺のための物語の始まりだ。
書きたいことを書けた感じがあります。
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