俺、HP0なんですけど? 作:アルバティル
始まりの町から出た後、適当に北の村を目指して歩いているといい感じのゴブリンに出くわした。
レベルは1、同じレベルのミオンの相手にはもってこいの相手だ。
「お、いい感じにゴブリンがいるな……とりあえず殴ってみたらどうだ?」
「は、はい。『大いなる水よ、水球を綴りて敵を撃て』」
この厨二チックなワードを言うことで発動するのがこの世界の魔法システムだ。
かなり上級になってくると自分のオリジナルの魔法を作成したり、無詠唱や詠唱破棄といったことも出来るのだがまだレベル1では簡単な魔術程度しかできない。
しかし、普通の物理攻撃よりは火力は高く相手が物理系の攻撃を使う敵であればかなりの有効打になる。
「ギギャッ!」
「わ、わ! こ、こっち来ないで下さい!」
ゴブリンに水弾が当たると、ゴブリンのHPが2割ほど削れる。
ゴブリンも痛かったのか棍棒を振り上げて怒りを露わにしてミオンの方へと向かっていく。
「とりあえず走りながら詠唱しろ、魔法使い系のプレイスタイルはいかに息を切らさずに魔法を詠唱するかだ」
「は、はい! 『大いなる水よ、水球を綴りて敵を撃て!』」
「グギャッ!」
走りながらミオンがもう一度詠唱を行うのだが、ゴブリンがさらに怒ったくらいでHPはまだ6割近くも残っている。
うん、ロリっ子がゴブリンに追いかけ回されているようにしか見えない。
「はぁ、はぁ、『お、大いなる、水よ、水球を、綴りて、敵を撃て』、あれ?」
「詠唱を途切れさせるな、なるべく一息に詠唱しろ」
「グギャァ!」
「『大いなる水よ、水球を綴りて敵を撃て』」
ゴブリンを相手に何をやっているんだと思うかもしれないが、レベル1のプレイヤーのソロ狩りは普通こんなものだ。
走り回り、なるべく攻撃を避けてのヒットアンドアウェイで無様に逃げ回るのが一番勝率が高いのだ。
たとえレベル1であろうとも絶対に雑魚キャラでは無いのだ。
そもそも、敵キャラが簡単に倒せるのであれば何故冒険者ギルドに依頼が出るのか?
そういう問に神変態が出した答えがこれだ。
『簡単には倒せないから』
このゲームではたとえゴブリンやスライムといった一般的には雑魚キャラとされているような敵でも死ぬ可能性がある敵として登場する。
だから冒険者という職業には需要があるし、憧れとロマンがあるのだ。
「お、大いなる水、きゃっ!」
アドバイスだけして後ろから傍観していると、ミオンは足を取られて転んでしまった。
軽業スキルを習得していないとプレイヤーは時々転ぶ。
この使用はα版と同じだが、デスゲームで転けるのは絶望感が半端ないだろう。
「ギャギャキャ!」
「ハイハイそこまで、ちょいさー!」
ゴブリンが棍棒を振り下ろそうとした所で、俺が介入し、背負い投げで地面に叩きつけて倒れた所に拳で仕留めた。
パーティを組まずに1つのモブを倒した場合には経験値は貢献ポイントが高い順に割り振られ、アイテムは倒した方が総取りとなる。
今回はミオンにEXPが7振り分けられたみたいだ。
「はう、ご、ゴブリンに負けました……」
「あれだと転ばなければ転ばなければ勝ってたな。
まあ、こんな感じでレベルを1つ上げるのもソロだとキツいって事が分かったか?」
「はい……パーティの大切さがよく分かりました」
このゲームは6人パーティを組むだけでかなり変わるからな。
リアリティがあると言えばよく聞こえるのだが、ソロプレイヤーにはたまったもんじゃない。
ちなみにプレイヤースキルがかなりものをいい、VR版でもα版でも最高のプレイヤースキルを誇る変態☆紳士さんはイベントが来た時に初期装備1レベルのまんまで一階層の全てのボスを倒すなんて事をやってのけたりもしている。
VRになったβ版以降ではさらに鬼のような強さを発揮したらしく、今の俺がやっているみたいに単身で上層に進み続けていたらしい。
「ああ、そう言えばMP回復ポーションはどのくらいある?」
「な、ないです……」
「よし、とりあえずこれ持っとけ」
システムから取引の画面を呼び出してマナポーシを80個貸出する。
この貸出システムは返却期限や利子、担保、といったものを自由に設定できるのだが今回は返却期限三ヶ月、利子無し、担保はキャラクターとして入力しておく。
担保キャラクター、α版の方では担保にキャラクターを選択するような事はできなかったのだがこれ、違反するとどうなるのだろうか?
Wikiにもまだ情報は出ていないし、一度試してみたいものだ。
無担保のままでもできるのだが、α版の時と同じならば無担保で破った場合にはイエローになり、取引システムが一ヶ月使えなくなるそうだ。
「ま、マナポーション80個……た、確か今は1つ3ガルンですよね?」
「ああ、まあ日本円で24万円くらいだな」
「もしかして、本当に凄い人です?」
「たかだかマナポーション80個だ、別にそんな凄いものじゃないな」
いや、どうなんだろう?
他のプレイヤーがどのくらい稼いでるかとか分からないからな……。
でももうそろそろ一週間だし、240ガルン程度ならそこそこのプレイヤーならば稼げない額では無いはずだ。
俺とかもう何百万ガルンか稼いでるしな。
「え、えーと……この担保のキャラクターというのはなんなんですか?」
「まだWikiにも情報が出てないから俺にも分からんが、一応ちゃんと返せよって意味で付けておいた」
「か、返せるでしょうか……」
「まあ、何とかなるんじゃね?
とりあえず村目指すぞ」
ここから一番近い村までの距離はだいたい5キロメートル程先にあるらしい。
相変わらずマップが広くてやばい。
□□
「あ、あの……あそこで誰か戦ってませんか?」
「ん? よく見つけたな」
しばらく黙々と進んでいると唐突にミオンに声を掛けられた。
どうやら誰かが戦っているらしい。
「えーと……あれは多分PVPだな」
目を凝らして見てみると、人と人が戦っていた。
片方は短剣二本持ちのレンジャーの少女に剣士の少年と神官少女、弓使いの少年とまるでお手本のようなパーティだ。
もう片方は全員が盾持ちの片手剣使いで12人もいる。
「え、えと……も、もしかして、襲われているのです?」
「ぽいな、もしお前が一人ならどうする?」
「見捨てます」
おう……日本人とは思えないドライさだな。
あれ? 日本人だっけ?
ミオンの選んだのはかなりの薄情な選択だが、非常に正しい選択だ。
自分の強さに相当な自信があるのならともかく、一人が加勢してもそんなに形成が変わることは無い。
無駄死にする奴が一人増えるだけだ。
「かなり薄情かもしれないが、いい選択だ」
「あの、でも……助けれるなら助けてあげたいです」
「じゃあ今ならどうする?」
「たった2人で加勢しても人数は2倍もあります。
シオンさんが私の予想以上に強くなければ厳しいと思います」
「じゃあ正解を教えてやるよ、答えはこうだ」
俺はミオンの頭を撫でると全力で戦っているプレイヤーの方へと走り出した。
あ、ミオンにデバフ入ってる……まあいいか。
「そこの4人組、助けはいるか?」
「お礼はします! 加勢頼みます!」
「はっ、命知らずの兄ちゃんだなぁ?
一匹増えた所でそっちは五匹、こっちは12勝てるわきゃねぇだろ?」
「さてさて、地獄に堕ちる準備はいいか?」
「お、お兄さん、失礼だけどレベルは!?」
「内緒だよっと!」
実は今にも震え出しそうな足に気合いを送り込み、プレイヤー狩りをしている奴らに向かって突撃していった。
まずは一人!
「育神流合気柔術、奥義、【不可説転】!」
「うぉっ!?」
適当に今作った謎流派と数の名前を付けただけの謎奥義でちぎっては投げてちぎって投げてを繰り返す。
相手に触れるだけでデバフが付き、動きが少し鈍くなりその度に戦闘がやりやすくなる。
「な、なんだコイツ!?」
「きょ、距離を取れ! 触れた瞬間に倒されるぞ!」
「無駄だ、育神流合気柔術を極めた俺から逃れる事等できぬわぁッ!」
距離を取ろうとしてもレベル差の暴力で正直どうとでもなる。
装備はまだ整えてないのでそんなに差はないが、こっちのAGIは装備補正を含めて53であり一層のプレイヤーとは文字通りレベルが違う。
「成☆敗!」
「ぐわぁぁぁっ!」
「お、おかしらぁぁぁぁっ!」
「悪かったな、レベルが違いすぎた」
AGIだけでは無い、STRもDEXも格が違う。
これがレベル差の暴力。
ついでに俺のHPは0であり、どんな攻撃も効かないチートスペックを誇っている。
今の俺と対等に戦えるのはせいぜいがあの変態☆紳士さんくらいのもので、他のプレイヤーに負ける気はなかった。
「ふぅ……スカッとした」
うん、人を殺せるかとかクソ真面目に考えていたあの頃の俺がバカみたいだ。
殺した後もむしろ悪者を退治してスカッとしたくらいである。
これ俺、明らかなサイコパスじゃねぇか……。
「す、すげぇ……」
「育神流合気柔術……武術の達人がVRMMOするとこうなるんだな」
「ありがとうございました!」
「いくしん? え、えと、なんだっけ?」
「ふ、この俺の育神流合気柔術にかかれば容易いものだ。
礼は俺じゃなくてあの子にしろよ、あの小さな子がお前らの事を助けたいって言ったんだぜ?」
「はぁ、はぁ、や、やっと追いつけました」
思いっきり痛いやつだと思われると思っていたのだが、結構高評価だったようだ。
実際にはそんな流派があるわけもなく、リアルの俺はただの廃ゲーマーなのだが。
とりあえずようやく追い付いてきたミオンに全部擦り付けておく。
「お嬢ちゃん、俺はレンだ。
助けてくれてありがな」
「えーと、私はルアって言います。
人助けできるなんて偉いね」
「俺はフォースハルト、まあ適当にハルトとでも呼んでくれ。
この恩はいつか必ず返すからな!」
「わ、私はカオリです。ありがとうございました!」
俺が擦り付けると、戦いでボロボロになっている4人はミオンにそれぞれお礼を言った。
頭撫でたりされてるし、お嬢ちゃんとか呼ばれてるしもう完全な幼女扱いだな。
「ふえ? えと、え? し、シオンさん!?」
「幼女よ、こういう時は感謝は受け取っとくもんだぞ」
「よ、幼女じゃないですよ!?」
「分かってる分かってる、直ぐに大きくなれるからな」
「な、なりませんよ! 成長もう止まってるんですよ!」
それにVRゲーム内だしな。
これで成長までしたら一体どんだけ作り込んでるんだよって話だ。
……有り得そうな気がする。
NPCもAIとかそういうレベルじゃなかったし、子作りや子育てまでできそうな気がする。
「おっと、俺はシオン一応20歳で大学生だ。
こっちはシオン、10歳の小学生って所だ」
「ち、違いますよ! 小学生じゃないです!」
「よしよし、いい子いい子」
からかい過ぎてミオンがちょっと涙目になって来ているがこれはこれで可愛いので頭を撫でておく。
あ、呪いついた……これオフにできないのってかなりめんどくさいな。
「えーと、お2人は兄妹ですか?」
「あー、腹違いの兄妹でな。 家庭のじ……」
次々に設定を適当に作って行こうかなと思って話していたらミオンからのガチのストップがかかった。
うん、ふざけすぎた。
「か、勝手に設定を捏造しないでください!?
兄弟でもないですし、私はこれでも19です!」
「ほらミオンちゃん、お兄さんが話してるからちょっと離れた所で私と遊んでよっか?」
そんなミオンの言い分を全く信じない短剣の少女。
俺もわかるわ、この見た目じゃガチで信じられねぇよな。
「ふぇぇ。 ほ、ほんとうに19なんですよぉ……」
いつの間にか日が変わってたOrz
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