ありふれた錬成師と治癒師と剣士で世界最強   作:nonohoho

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大迷宮は果たしてありふれているのだろうか…?

問題ない。トータスには7つもある。

名前  玉井淳史
性別  男
身長  175cm
体重  72kg
年齢  18歳
誕生日 7月9日
学校  南陽高校
解説  ハジメのクラスメイト
宮崎奈々の恋人。
園部優花、宮崎奈々、菅原妙子、相川昇とは小学校時代からの友人。
天乃河の暴力にやられた一人。
原因を作った檜山と天乃河を恨んでいた。
ハジメとはケモ耳に関して熱く語り合う仲。
香織と色々しているハジメを教祖と仰ぎ相川昇と共に夜の秘奥義を教わろうとしている。

名前  宮崎奈々
性別  女
身長  160cm
体重  47kg
年齢  17歳
誕生日 10月10日
学校  南陽高校
解説  ハジメのクラスメイト
玉井淳史の恋人。
園部優花、菅原妙子、玉井淳史、相川昇とは小学校時代からの友人。
天乃河の暴力事件の時、先生を呼びに行っていて難を逃れる。
が、親友の優花、妙子に暴力を振るった天乃河と檜山を恨んでいる。
ケモ耳マニアの玉井の為に猫耳をつけたりと、結構ラブラブな感じである。
次に初体験するのは玉井、宮崎ペアだと仲間内で囁かれている。


第十三話 ありふれた大迷宮

昨日天乃河達と合流したハジメ達は今朝【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた。

メルド団長が野太い声で大迷宮に挑む際の注意点を話していた。

 

「今日の訓練の目的は地下20階に行き地下21階への階段を見つけたところで終了、地上へと帰還する。お前達の実力なら魔物に関しては大丈夫だろう。一番気をつけなければならないのはトラップだ。トラップ対策として〝フェアスコープ〟というものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できる。ただし、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。気をつけるポイントは指定された場所に行かない事。それと迷宮内での私語の禁止。これは俺の指示や警告が聞こえなくなる事を防ぐ為だ。なるべく静かに行動する様に!」

「はい!」

「それと重要事項が一つ。檜山、近藤、斎藤、中野の4名は犯罪行為を繰り返した為昨日処罰が決定した。最大の罪は貴族の老婦人を蹴飛ばして怪我をさせた上金品を奪った罪だ。本来なら斬首に相当するが勇者の従者という身分を鑑みて、鉱山送りになった。死ぬまでか、又はエヒト様がお前達を故郷に送還するまで強制労働だ。」

 

驚く勇者パーティーの面々。

南陽高校のメンバーは特に何の反応もない。

 

「それでは出発する。ハジメ、香織、雫の三名は前線に出ないように!」

 

メルドは先頭に立ち迷宮へと入って行く。

 

メルドは昨日ハジメ達と合流した後の驚きを思い返していた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜

 

「派生技能が14? 南雲ハジメがか?」

メルドの驚愕をクゼリーは面白そうに見ていた。

何故ならクゼリー自身驚愕したのだから…

「はい。戦闘に適したスキルこそありませんが組み合わせる事によって恐ろしい程の強さを発揮します。また、ホルアド組は全員派生技能が一つはありますので、ホルアドでの修業は大成功と言えます。」

 

メルドは信じられなかった。

人類最強格と言われている自分ですら4個しか発生していないのに…

「南雲ハジメはどこにいる?直接見てみたい。」

「今なら訓練所にいると思いますが…」

「よし!案内してくれ!」

 

メルドとクゼリーが訓練所に行く途中檜山達の声が聞こえてきた。

 

「お前が南雲ハジメか?噂じゃ一般人と同然の無能野郎だってな?」

「君たちは誰だい?」

「ちっ、俺は檜山だ。てめぇは今日から俺のパシリだ!」

「檜山、コイツザコいクセに不満そうだぜ?」

「ちょっと俺らで鍛えてやるか!」

檜山、中野、近藤の三人が嘲笑っていた。

 

「…アイツら…」

メルドは頭を抱えた。

訓練の間も一般兵を暴行したり周りに迷惑かけまくっていた檜山達だが…

既に各方面から処罰を求める陳述がメルドに届いていたのだ。

生産職に力を誇示する馬鹿にどう処分をつけるか迷っているとハジメの声が聞こえてきた。

 

「遠慮するよ。何で僕より弱い君達のパシリをしなければならないの?」

「あん、てめぇは何を言ってるのかわかっているのか?雑魚錬成師」

「生意気だぞ?お前の白崎や八重樫、オマケに園部も俺ら4人で回して可愛がってやるよ!ははは…」

「園部は牝犬だ!ははははは…は?」

「生意気なのは君達の方だろ?四人がかりでなければ錬成師に喧嘩も売れない雑魚がいきがるな!!」

 

ハジメの怒号に檜山達がびびった瞬間、斎藤が数メートル後方に吹き飛ばされた。

そしてまるでマシンガンの掃射のような攻撃が斎藤に降り注ぐ。

 

檜山、近藤、中野は一歩も動けなかった。

そしてどうしていいのかわからずに途方にくれてしまった。

 

一番弱くて言う事を聞きそうな奴を選んだのに怯えてくれないのだ。

 

ハジメは激怒していた。

香織と雫と優花を回す発言はハジメの逆鱗に触れるものだった。

穏やかな一面は一切なくなり尋常ではない殺気を纏いはじめた。

 

何も出来ず佇んでいる檜山達にハジメは一切の手加減をしなかった。

 

次に吹き飛ばされたのは中野だった。

斎藤と同様にマシンガンの掃射のような攻撃をくらい泣き叫びながら命乞いをするも気絶するまで容赦なく打ち込んだのだ。

 

「……〜〜〜」

檜山は完全にびびってしまっていた。

何せ一人で喧嘩した事がないのだ。

いつも気弱な奴を選んで脅してるだけの惨めな男だった。

抵抗されたら四人がかりでフクロにして言う事を聞かせていたのだったのだが…

 

ハジメは槍を構える近藤を睨みつけた。

 

「………〜〜〜〜」

真っ青な顔して震える近藤。

恐怖で震えているのだった。

 

そして近藤も斎藤、中野同様にマシンガンの掃射のような攻撃を受け、泣きながら命乞いをするも気絶するまで容赦なく攻撃した。

 

メルドは影から見ていて驚愕を隠せなかった。

ハジメの攻撃がメルドにも理解出来なかったのだ。

そして何よりハジメの激怒だ。

「ハジメ様は優しい性格なので相手を傷つけるような攻撃はしません。ですが香織様や、ハジメ様の友達を狙ったら豹変します。」

「今みたいにか?」

「はい。」

 

「おいおい、ハジメ?俺達の分も残しておいてくれよ」

永山パーティーが檜山の右横からでてきた。

「全くだぜ、せめてその腰抜け野郎は俺達に殴らせてくれ」

太田パーティーも檜山の背後からでてきた。

「お前らだけがコイツの被害者じゃないぜ?俺たちにもやらせてくれ」

園部パーティーの相川も檜山の左横からでてきた。

 

香織と雫と優花もハジメの後ろから現れ、ハジメを落ち着かせるように抱きしめた。

「ハジメ君、大丈夫だよ?ハジメ君の側にずっといるから安心して」

「私も南雲君の側にいるから…だから落ち着いて」

「南雲の側にいれば…守ってくれるよね?だから落ち着いて…」

三人の顔は真っ赤になっていた。

ハジメの激怒が自分達に乱暴を働くと言った瞬間に起こったからだ。

嬉しくてしょうがないのだ。

 

そして香織と雫と優花は気付いていた。

激怒したハジメではあるが、攻撃は減速加速結界内より震動波砕を小石にかけ、打ち込んだだけ。

近藤、斎藤、中野は気絶しただけで怪我すらしていない事を。

 

「ひっ……〜〜」

檜山は完全に包囲されていた。

それも自分を憎悪する連中に…

 

「そこまでだ。」

メルドはそろそろ仲裁に入るべきだと感じていた。

「メ、メルド団長〜き、聞いてください、コイツら集団で俺らに暴行を…」

檜山はチャンスだとばかりにメルドに泣きつく。

これでこの場を逃れられると…

 

しかし…

「檜山、近藤、斎藤、中野。お前達を捕縛する。罪状は今更いい訳するなよ?

南雲ハジメへの集団暴行、および南雲香織、八重樫雫、園部優花への暴行予告だ。クゼリー、コイツらを牢に入れておけ!」

 

「はっ!」

 

「ま、待ってください、まだ何もしていな…」

「軍隊はな、命をかけて敵と戦うのだ。敵と戦う筈の仲間に襲われるなんて知ったら誰も戦場に立たん。お前達の行動は王城にいる頃から問題だらけだ。片腕を切り落とし鉱山で死ぬまで強制労働だ!」

 

こうして檜山、近藤、中野、斎藤の4人は片腕を切り落とされた挙句、鉱山に送られ強制労働に就く事になった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

その日の夜、ハジメは永山達に叱られていた。

本来なら、檜山がハジメに絡んできたら全員で包囲する予定だったのだが、突然ハジメが激怒して三人を叩きのめしてしまったからだ。

「俺たちも一発ぶん殴りたかった…」

永山にジト目を向けられたハジメは、香織が惚れ込んだ土下座で謝るのだった…

(まぁ南雲さんに乱暴働くと言われたら怒るわな…)

永山達は納得はしていたのでハジメにロケットパンチの製造という密約を結ぶ事でお開きになった。

永山も太田もロマンを愛する男だった…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

メルドはハジメの攻撃力に驚いていたが実はハジメの攻撃は相手を気絶させる事が精一杯だったのだ。

 

つまり檜山達がびびってしまったから恐ろしい攻撃に見えただけであって実際は気絶が精一杯の貧弱な攻撃だったのである。

 

メルドは頭を振り迷宮内に入っていく。

 

迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁だった。

 

縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

 

一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

 

と、その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 

灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

 

正面に立つ光輝達――特に前衛である蒼華の頬が引き攣っている。やはり、気持ち悪いらしい。

 

間合いに入ったラットマンを光輝、蒼華、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、メガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。

 

光輝は純白に輝くバスタードソードを視認も難しい程の速度で振るって数体をまとめて葬っている。

 

彼の持つその剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、お約束に漏れず名称は〝聖剣〟である。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという“聖なる”というには実に嫌らしい性能を誇っている。

 

龍太郎は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。

 

蒼華は、聖騎士らしくレイピアと盾のスタイルで盾で敵の攻撃を受け流し、その隙にレイピアで敵を切り裂く。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどである。

 

ハジメ達が光輝達の戦いぶりを見学していると、詠唱が響き渡った。

 

「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」

 

 二人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

 

気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

メルド団長の言葉に鈴と恵里の魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調よく階層を下げて行った。

 

そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。

 

現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

 

ハジメ達は戦闘経験こそ少ないものの、全員がチート持ちなので割かしあっさりと降りることができた。

 

もっとも、迷宮で一番恐いのはトラップである。場合によっては致死性のトラップも数多くあるのだ。

 

従って、ハジメ達が素早く階層を下げられたのは、ひとえに騎士団員達の誘導があったからだと言える。メルド団長からも、トラップの確認をしていない場所へは絶対に勝手に行ってはいけないと強く言われているのだ。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

メルド団長のかけ声がよく響く。

 

永山パーティー、太田パーティー、園部パーティーも順調に訓練をこなしていく。

 

しかし一番目を引いたのはハジメと香織、雫の三人の後方支援組だ。

 

ハジメが震動波砕付きの小石を連射し、弱った敵を雫の剣で倒す。

複数の敵には香織の魔法で足止めしハジメの援護射撃、雫が仕留めるスタイルは洗練されていた。

何よりもハジメの錬成が信じられないほど効果的に働いていた。

 

素早い敵にはハジメが錬成で地面をデコボコにし動きを封じたり、大きめな敵にはハジメは足元を柔らかくして地面に沈み込ませて動きを封じる。

 

騎士団員達が感心したようにハジメ達を見ている事には気がついていない。

 

実を言うと、王都から光輝達と同行した騎士団員達はハジメ達には全く期待していなかった。

 

騎士団員達としては、ハジメ達が碌に使えもしない剣で戦うと思っていた。ところが実際は、錬成を利用して確実に動きを封じてから、雫が止めを刺すという騎士団員達も見たことがない戦法で確実に倒していくのだ。

錬成師は鍛冶職とイコールに考えられている。

故に、錬成師が実戦で錬成を利用することなどあり得なかった。

 

小休止に入り、ハジメの横に座りながら香織は微笑んでいた。

 

「香織、なに南雲君と見つめ合っているのよ? 迷宮の中でラブコメなんて随分と余裕じゃない?」

 

からかうような口調に思わず顔を赤らめる香織

 

「もう、雫ちゃん!私はただ、ハジメ君の側にいたいだけだよ!」

「それがラブコメしてるって事でしょ?」

と、雫は追撃した。

 

そんな様子を横目に見ていたハジメは、ふと視線を感じて思わず背筋を伸ばす。

ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線だ。

今までも教室などで感じていた類の視線だが、それとは比べ物にならないくらい深く重い。

その視線は今が初めてというわけではなかった。

今日の朝から度々感じていたものだ。

視線の主を探そうと視線を巡らせると途端に霧散する。

朝から何度もそれを繰り返しており、ハジメはいい加減うんざりしていた。

 

(天乃河光輝か…)

 

深々と溜息を吐くハジメ。

香織もこの視線に気付いたようだ。

「もう天乃河君とは来たくないね…」

「本当ね。これで皆んなを率いるつもりだなんて…」

ハジメと香織と雫は溜息をついた。

 

休憩が終わり一行は二十階層を探索する。

 

迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。

 

現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。トラップに引っかかる心配もないはずだった。

 

二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。

この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。

 

そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりだ。

神代の転移魔法の様な便利なものは現代にはないので、また地道に帰らなければならない。

一行は、若干、弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

 

すると、先頭を行く光輝達やメルド団長が立ち止まった。

訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。

どうやら魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

メルド団長の忠告が飛ぶ。

 

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。

そして胸を叩きドラミングを始めた。

どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

メルド団長の声が響く。

光輝達が相手をするようだ。

飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。

光輝と蒼華が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

 

龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 

直後、

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。

ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。

魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

 

まんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。

 

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ鈴と恵里の後衛組に向かって投げつけた。

見事な砲丸投げのフォームで! 咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が二人へと迫る。

 

鈴と恵里が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。

避けるスペースが心もとないからだ。

 

しかし、発動しようとした瞬間、鈴と恵里は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 

なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。

空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて二人へと迫る。

その姿は、さながらル○ンダイブだ。

しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。

恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

 

が、ロックマウントは突然吹き飛ばされた。

そしてマシンガンのような掃射がロックマウントに浴びせられた。

 

蒼華が後ろを振り返るとハジメがロックマウントに何か銃撃のような掃射を浴びせていた。

 

「南雲君、やるじゃない。ピストルでも作ったのかしら?」

 

蒼華が銃撃らしき掃射を受け硬直したロックマウントを切り捨てる。

 

「ありがとう、南雲君!」蒼華と恵里がお礼をいう。

 

そんな様子を見てキレる若者が一人。

正義感と思い込みの塊、我らが勇者天乃河光輝である。

 

「貴様……よくも鈴と恵里を……許さない!」

 

どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。

彼女達を怯えさせるなんて!

と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする光輝。

それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。

逃げ場などない。

曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。

「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで蒼華達へ振り返った光輝。

蒼華達を怯えさせた魔物は自分が倒した。

もう大丈夫だ!と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。

 

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。

「ハジメ、ロックマウントとミストルシーバーを貯蔵庫にしまってくれ!後で魔石の取り出しと錬成素材になるからな!」 

メルド団長の声に

「わかりました」

ハジメはロックマウントとミストルシーバーを貯蔵庫にしまった。

 

その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。

まるでインディコライトが内包された水晶のようである。

香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。

特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。

求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

「素敵……」

 

香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。

そして、ハジメに視線を向け手を繋いだ。

 

「材料はグランツ鉱石にしようか?」

ハジメは香織に囁いた。

「…えへへ…で、でもハジメ君が作ってくれる物なら何でも…」

 

雫は(…ハジメさんから…指輪か…私にも貰えないかな…)

うっとりと妄想する雫。

 

「団長!罠の反応です。」

「そうか、お前達、よじ登ろうとするなよ?」

「はい!」

 

だがメルド団長はカメレオントルーバという魔物の存在を見落としていた。

 

カメレオントルーバは地球でいうところのカメレオンだ。

周囲に擬態する能力はロックマウントを遥かに上回る能力をもつ。

 

突然優花の近くに姿を現したカメレオントルーバが優花に襲いかかったのだ。

「きゃあーーーー!」

 

優花の悲鳴は、しかしすぐ後に聞こえた銃撃のような音に優花はすぐに冷静さを取り戻した。

「ハジメ!」

優花は泣きそうな、しかし嬉しそうな表情で呟く…

 

ハジメの震動波砕付き小石の連射で吹き飛ばされたカメレオントルーバは光輝の近くに吹き飛ばされた。

「ぐるぁぁぁぁぁーー」

 

光輝を無視するかのような魔物の態度に光輝はドス黒い感情に支配されていた。

何故あんな貧弱な攻撃に香織と雫が目を輝かせるのか?

 

自分の力を見せつけ、本来自分に向けられる筈の称賛を取り戻すのだ!と

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

 

「あっ、馬鹿者!さっきの忠告をもう忘れたのか!!」

 

光輝の攻撃によりカメレオントルーバは吹き飛ばされた…

罠のグランツ鉱石に向かって…

 

メルドは青ざめて退避を叫ぶ。

「しまった!全員退避ーーー!」

 

ハジメが咄嗟にカメレオントルーバの死体を貯蔵庫にしまったが間に合わなかった。

吹き飛ばされたカメレオントルーバがグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。

グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。

 

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。

まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

ハジメは香織と雫を抱きしめて転移先に何が起きようとも備える覚悟を決めていた。

 

 




檜山達の罪状は王城で新兵暴行、恐喝、巫女暴行を行なっており各方面から処罰を求める陳述がメルドに大量に届いていたのでした。
恐喝した中に貴族の老婦人がいて本来なら斬首モノなのですが神の従者という身分鑑みて片腕を切り落とし強制労働という罰に落ちつきました。
檜山達に力をつけさせてしまったら処罰も処分も出来なくなるという危機感からの処遇で、迅速すぎる処罰になるのは仕方なかったと言えます。
光輝はその頃、ホルアドの市長に招かれたパーティーで主役となっていました。

ハジメの震動波砕付き小石を連射する技は片手に小石を20個づつ持ち親指でハジキ飛ばす技。減速加速結界内から撃てば威力も跳ねあがる。
今のハジメの必殺技です。
他にないし…
命中率は最適化を繰り返したおかげで100%になっています。
射程距離はおよそ200メートル。
小石はBB弾程度の大きさで震動波砕を付与した状態で貯蔵庫に沢山入ってます。

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