ありふれた錬成師と治癒師と剣士で世界最強   作:nonohoho

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おぉ…もう18話まできた…お気に入りも700人近くまで…
趣味100%のこの作品を、これからも頑張って更新しますので応援よろしくお願いします。✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。

前回、魔物を食べる事によって得たスキルはかなりの数です。

ハジメ達はまずスキルの確認から始めます。

さらに香織と雫はスキルを使いこなす訓練を

ハジメは装備の作成、更新を行っています。

目標は爪熊。

そして…


第十八話 ありふれた反撃

「「「なにこれ?」」」

 

魔物の肉を食べたら何故か技能が大量に増えていた。

 

増えたスキルを見ると、何となく食べた魔物のスキルっぽいかな?と推測したハジメ達は、まず増えたスキルの確認を行なっていた。

 

一番気になったスキルは3つ

 

「私は…魔力操作と「 」の加護と胃酸強化が気になるかな?」

「そうね…他は食べた魔物の特性を取り込んだみたいだけど…」

「じゃあ、まずは魔力操作からいこうか」

 

文字通りなら魔力が操作できるということだろうか。

 

「さっきから感じている奇妙な感覚は魔力なのかな?」

 

と推測し、集中し〝魔力操作〟とやらを試みる。

ハジメが集中し始めると、赤黒い線が再び薄らと浮かび上がった。

そして体全体に感じる感覚を右手に集束するイメージを思い描く。

すると、ゆっくりとぎこちないながらも奇妙な感覚、もとい魔力が移動を始めた。

 

「おっ、おっ、おぉ~?」

 

集まってきた魔力がなんとそのまま右手にはめている手袋に描かれた錬成の魔法陣に宿り始めた。

驚きながら錬成を試してみるハジメ。

するとあっさり地面が盛り上がった。

 

「凄い…詠唱無しで…魔力の直接操作はできないのが原則。例外は魔物。……魔物の肉を食べたせいで、特性を手に入れたのかな?」

「香織、私達も試してみましょう!」

…………

………

……

「凄い…詠唱無しで魔法も発動した…」

「私も魔法陣無しで刀の付与機能が操作できた…」

 

大正解。

ハジメ達は確かに魔物の特性を取得していたのだ。

 

「纏雷も試してみるか…これは多分電気…かな?あれか?二尾狼が使っていた…使用説明書が欲しいとこだけど…」

「ふふっ本当にそうね!ステータスプレートに書いて欲しいわ…」

「魔物は詠唱とか魔法陣に式書き込んだりしないから…イメージかな?ハジメ君の錬成みたいに」

 

「う~ん」と唸りながら、香織の言う通り、錬成するときはイメージが大事だということを思い出す。

 

ハジメはバチバチと弾ける静電気をイメージする。

すると右手の指先から紅い電気がバチッと弾けた。

 

「おお~、できた………なるほど、魔物の固有魔法はイメージが大事ってことだね!」

「「…綺麗…」」

 

香織と雫が紅い光を纏っているハジメを見て、ウットリとした表情で見つめる。

 

その後、香織と雫も纏雷を使い、バチバチと放電を繰り返し、練習する。

香織の纏う電気は黄金色で女神のように美しかった。

雫の纏う電気は、淡い紫色で、美しい藤の花を連想させた。

しかし、三人とも、二尾狼のように飛ばすことはできなかった。

おそらく纏雷とあるように、体の周囲に纏まとうか伝わらせる程度にしかできないのだろう。

電流量や電圧量の調整は要練習だ。

 

「胃酸強化は…魔物肉を食べても苦痛が軽減するのかな…?」

 

「するのかな…?と言うよりそうであって欲しいわ…」

ゲンナリした表情を浮かべて雫が答える。

 

「うん…生きていく為だからって…食べるたびに激痛に襲われるのは…」

香織も雫と同意見のようだ。

 

しかし、迷宮に食物があるとは思えない。

飢餓感を取るか苦痛を取るか。

その究極の選択を、もしかしたらこの技能が解決してくれるのではとハジメ達は期待する。

 

「嫌な実験だけど確認しない訳にはいかない…よね」

と、ハジメが言い神水入りのマグカップを複製して並べる。

 

ハジメが一人で食べてみようとしたら、香織と雫が反対した。

また、苦しむかもしれない。だったら三人一緒じゃなきゃダメ!と言われてしまい三人で食べる事に…

 

ストックのある、二尾狼から肉を剥ぎ取り纏雷で焼いていく。

覚悟を決めて食べるとは言え…女子高生が狼の生肉を食べるのは酷だ…

 

それに飢餓感が癒された後で、わざわざ生食いする必要もない。

 

調理をかってでた香織が涙目を浮かべながら、強烈な悪臭に耐えてこんがりと焼く。

 

そして三人、意を決して喰らいついた。

 

十秒……

 

一分……

 

十分……

 

何事も起こらない。

 

香織が次々と肉を焼いていき再び喰ってみる。

しかし、特に痛みは襲って来なかった。

胃酸強化の御蔭か、それとも耐性ができたのか。

 

わからないがハジメ達は喜んだ。

これで食事の度に、地獄を味わわなくて済む。

 

久しぶりにお腹一杯になった三人は「 」の加護について考えていたが…

 

かろうじてわかった事は、魔物を食べた時の苦痛が和らいでいく時、三人とも頭に声のようなモノが響き、「加護」と言う言葉だけが理解できた。

 

「 」の加護の謎は置いておくとして、あの爪熊に勝てる可能性ができたのだ。三人はしばらく新たな力の習熟に励むことにしたのである。

 

その前に貯蔵庫にある全ての魔物を解体して、ステーキ状に切り分ける。

肉を石製の腐敗防止と消臭の効果を付与した保管容器に入れ、ハジメの貯蔵庫に入れておく。皮や牙など錬成素材になりそうなモノも、分類して袋に分けて貯蔵庫に入れておく。

 

ハジメ達はスキルを一つ一つ使い、その特徴を話し合いながら理解していった。

一通りスキルを理解した後、ハジメは香織と雫と交わり、最適化を自分も含めて三人に使った。

 

派生スキルのオンパレードになったのは言うまでもない…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ハジメ達は一日を三分割し戦闘技術の特訓、天職スキルの特訓、獲得スキルの特訓を行なっていた。

 

ハジメは香織と雫の三人で剣術、格闘術、槍術、ガン=カタを特訓していた。

スキルは無くとも鍛えて熟練する事はできる。

ハジメと香織は接近戦の技術と遠距離攻撃が必須だった。

戦闘全てを雫だけに負担かけさせる訳にはいかなかったからだ。

特訓後最適化

 ↓

この合間に食事

最適化

 ↓

香織は回復魔法の特訓

雫は剣術、

ハジメは装備作成

特訓後最適化

 ↓

この合間に食事

最適化

 ↓

スキルの習熟

特訓後最適化

 ↓

この合間に食事

最適化

 ↓

最初に戻る。

 

こんなサイクルで特訓する事4日

 

ハジメの錬成能力は桁違いに上達していた。

 

香織と雫はハジメと同じ武器を使いたいと言いハジメと同じガン=カタスタイルでいくようだ。

雫は日本刀も作ってもらい、状況によって使い分けるつもりだ。

 

ハジメはホルアドにいた頃から銃自体は完成していたのだが、それに見合う素材が見当たらずに開発を中止していた。

ハジメが作ったこの洞穴の周囲で見つけた鉱石で開発が可能になったのだ。

 

全長は約三十五センチ、この辺りでは最高の硬度を持つタウル鉱石を使った六連の回転式弾倉。長方形型のバレル。弾丸もタウル鉱石製で、中には粉末状の燃焼石を圧縮して入れてある。

すなわち、大型のリボルバー式拳銃二丁と、全長28cmとサイズを小さめにした中型のリボルバー式拳銃を四丁作成した。

タウル鉱石を圧縮し重さのバランスを雫専用にした日本刀"藤"も作成した。

 

ハジメは二丁の大型のリボルバー式拳銃で戦うガン=カタスタイル

香織は二丁の中型リボルバー式拳銃で戦う同じくガン=カタスタイル

雫も香織と同じタイプの銃で戦うガン=カタスタイルと八重樫流剣術を使い分けするスタイルで戦う事に決め、連携攻撃の特訓を開始した。

 

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緑光石

魔力を吸収する性質を持った鉱石。魔力を溜め込むと淡い緑色の光を放つ。

また魔力を溜め込んだ状態で割ると、溜めていた分の光を一瞬で放出する。

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燃焼石

可燃性の鉱石。点火すると構成成分を燃料に燃焼する。燃焼を続けると次第に小さくなり、やがて燃え尽きる。密閉した場所で大量の燃焼石を一度に燃やすと爆発する可能性があり、その威力は量と圧縮率次第で上位の火属性魔法に匹敵する。

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タウル鉱石

黒色で硬い鉱石。硬度8(10段階評価で10が一番硬い)。衝撃や熱に強いが、冷気には弱い。冷やすことで脆くなる。熱を加えると再び結合する。

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ドドドドンッ!

 

キューーー

 

蹴りウサギの悲鳴が響いた。

香織の銃が蹴りウサギを仕留めたのだ。

 

ハジメの銃はドンナーとシュラークと名付けた。

三人の持つ銃の中で最大火力と射程距離をかね備えている、

 

全員の銃身には加速門が仕込まれており加速段階が1〜5まで切り替える事ができる。1では通常の銃と同じ威力大体マッハ1、2ではマッハ5、3ではマッハ9、4ではマッハ13、5ではマッハ17で撃ち出せる。

 

香織の銃は、リヒトゥとヴンシュと名付けた。

光と願望を意味する言葉だ

香織の銃には光属性付与と魔法陣が刻んであり、魔法の発動体も兼ねている。

ハジメの銃より若干威力が落ちるが香織はこのサイズが一番扱いやすいようだ。

 

雫の銃はグラジオラスとサンビタリアと名付けた。

「ひたむきな愛」と「私を見つめて」を意味する花言葉からとった。

雫の銃にはグラジオラスには雷属性付与と、サンビタリアには火属性付与が刻んである。

 

ハジメ達が奈落に転移してきて丁度8日目、現在この洞窟を探索しながら戦闘経験を積んでいた。

 

蹴りウサギ、二尾狼は既にハジメ達の敵ではなかった。

 

天歩の派生スキルのおかげで移動が高速になり、既に洞窟の構造を把握するに至っていた。

 

眷族通話のおかげで高速移動中も意思疎通に不便しない。

 

ハジメ達の目的は地上への出口と爪熊へのリベンジだ。

 

既に地下へ降りる階段らしき物は見つけていた。

 

もし、地上への出口が無ければ下に行くしかない…

 

だが爪熊だけは自分達の手で倒さなければならなかった。

 

ハジメと香織と雫の決意は固かった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

香織はハジメと出会った時の事がダブって見えていた。

 

あの時、私は不良に絡まれるお年寄りと子供を助ける事もできずに、うろたえる事しかできなかった。

そんな時、不良に土下座までして助けたハジメ君の強さに惹かれた。

ハジメ君と知り合い、共に過ごすうちに、あの頃より私の心は強くなったと思っていた。

今ならハジメ君と一緒に土下座してでもお婆さんと子供を助ける事ができるかも…と思っていた。

しかしとんだ思い上がりだった。

あの頃と同じで私は恐怖の前に何もできなかった。

あの頃と同じように、ハジメ君は我が身をかえりみずに私と雫ちゃんを助けてくれた。

そしてハジメ君を失う恐怖を知った。

死ぬまで側にいてお互いを幸せにするはずなのに…

あの時の恐怖は不良の恐怖、光輝の恐怖、爪熊の恐怖など比較にならない。 

 

嫌だ。

私は何も変わっていない。

私はあの頃の弱いまま…

ハジメ君の力にも支えにもなれない自分なんて嫌だ。

このままではハジメ君のパートナーとして胸を張れない。

 

香織から雑念が消えていく。

 

弱い自分を受け入れて、少しでも強くなろうと願う。

私は弱い…でも少しでもハジメ君に近づけるよう…少しでも優しさと強さを

 

「私の望みは…ハジメ君の側で、パートナーとして胸を張ってお互いを幸せにしながら一生共に歩む事…」

 

香織の目に強い光が宿る。

それは何者にも揺るがされる事のない…極限の意思だった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

雫は自分の不甲斐なさに腹を立てていた。

 

目の前に迫る爪熊に震えて何も出来なかった事を

強敵を前に生きる為に立ち向かい、行動したハジメを誇りに思う反面、泣いて助けを求めた自分の不甲斐なさが雫の心を打ちのめす。

私を守ってくれたハジメさんを…正直に言えば愛している。

 

私を女の子として扱ってくれたハジメさん。

可愛らしい猫のヌイグルミをプレゼントしてくれたハジメさん。

恐怖で震えていた私を脚を犠牲にまでして助けてくれたハジメさん。

いつの間にか香織と同様、ハジメさん以外の男に興味などなくなっていた。

だが…私を助ける為にハジメさんが死にかけた事は…絶望と恐怖だった。

 

ハジメさんを失う恐怖は爪熊の恐怖など比較にならない。

私には八重樫流の剣術があるのに…大切な人を守る事もできないの…?

強い敵がでたら全部ハジメさん任せで…私は泣いて震えてるの…?

 

雫は弱い自分を自覚していた。

剣を振るうことはできるが命を奪う行為に、やはり震えがくる…。

でもハジメさんを失うぐらいなら、私は戦う…

しかし自分の弱さでは戦っていれば、心が折れてしまう…という不安が顔をだす。

 

不意に私は、オルクスの迷宮で初めて敵の命を奪って震える私にハジメさんは「まだ進める…かな?」と優しく聞いてくれた事を思い出した。

その瞬間私は不安も恐怖も………無くなったではないか!

そうだ!私は一人で生きていくのではない!

ハジメさんと共に戦い、生き延びるのだ!

 

雫から雑念が消えていく。

 

戦いは怖い…でもハジメさんと一緒なら不安も恐怖も乗り越えられる。

 

「私の望みは、ハジメさんの側でパートナーとして胸を張ってお互い支えあいながら生きていく事」

 

雫の目に強い光が宿る。

それは何者にも揺るがされる事のない…極限の意思だった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

香織と雫の思いは一緒だった。

爪熊を倒さなければ、心の弱さをそのままにしてしまう。

この先強敵がでたら、また自分達は何も出来ずに、ハジメが身を削って助けてくれる姿を眺めるだけの足手まといになってしまうかもしれない…

今回は神水という奇跡が私達を生かしてくれたが次もそうだとは限らない…

 

二人はハジメと共に戦い、共に生きたいと願っていた。

だから絶望と、恐怖を自分達に与えた爪熊を倒して克服しなければならなかった。

 

「「だから必ず爪熊は私達が倒す!!」」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ハジメの方も爪熊に対して身体の一部を食われてしまう恐怖に打ち勝つ必要があった。

蹴りウサギを倒した後、油断してしまった自分の情けなさに怒りがこみ上げる。

戦闘終了直後、血の匂いがする戦場にさらなる捕食者が来るのは当たり前だ。

こんな閉鎖された空間で僅かな血の匂いは捕食者を呼び寄せるだけだという事を僕は理解していた筈だ。

 

それなのに油断して愛する香織と雫を危険に晒してしまった。

許せるはずがない。

僕の目の前で腕と足を食べた爪熊の恐怖に震えたままではいられない。

この先どんな強敵がいるかもわからない。

だから…この先、僅かな油断も見せない、恐怖も乗り越えなければならない。

 

その為にも爪熊の恐怖を今克服しなければならない。

ハジメの心が静かに澄んでいく。

 

雑念、恐怖全てが消えていく…

「僕の望みは…香織と雫を愛し、一緒に生きて故郷に帰る事。」

 

ハジメの目に強い光が宿る。

 

それは何者にも揺るがされる事のない…極限の意思だった

 

「だから必ず爪熊は僕いや、俺が倒す!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ハジメ達は洞窟内をひたすら爪熊をさがしまわっていた。

 

そしてついにその時がきた。

 

爪熊は現在食事中のようだ。

蹴りウサギと思しき魔物を咀嚼している。

その姿を確認するとハジメ達はニヤリと不敵に笑い、悠然と歩き出した。

 

爪熊はこの階層における最強種だ。

主と言ってもいい。

二尾狼と蹴りウサギは数多く生息するも爪熊だけはこの一頭しかいない。

故に、爪熊はこの階層では最強であり無敵。

 

それを理解している他の魔物は爪熊と遭遇しないよう細心の注意を払うし、遭遇したら一目散に逃走を選ぶ。

抵抗すらしない。

まして、自ら向かって行くなどあり得ないことだ。

 

しかし、現在、そのあり得ないことが目の前で起こっていた。

 

「久しぶりだな爪熊。随分探したぞ?俺の腕は美味かったか?」

「食事中みたいだけど遠慮はしないよ?」

「もう逃さないわよ?覚悟しなさい。」

 

爪熊はその鋭い眼光を細める。

目の前の生き物達はなんだ?

なぜ、己を前にして背を見せない?

なぜ恐怖に身を竦ませ、その瞳に絶望を映さないのだ? 

 

かつて遭遇したことのない事態に、流石の爪熊も若干困惑する。

 

「リベンジマッチだ。まずは挨拶からだ。香織、雫!」

「うん!」

「ええ!」

 そう言って、ハジメ達はそれぞれの銃を抜き銃口を真っ直ぐに爪熊へ向けた。

 

ハジメは構えながら眷族通話で香織と雫に問う。

「怖いか?」

答えは否だ。

「ハジメ君が傷ついたりいなくなっちゃう事に比べたら全然怖くないよ!」

「そうよ!ハジメさん、私も香織も貴方と共に戦い生きたいの。護衛対象って思わないで…貴方のパートナーと思って!」

 

三人は絶望に目の前が暗くなることも、恐怖に腰を抜かしガタガタ震えることもない。

 

あるのはただ、三人でどんな苦難にも恐怖にも立ち向かう強固な意思だけだ。

三人の目には緊張もない…静かな目を爪熊に向け宣戦布告する。

「おまえを倒す!」「「あなたを倒す!」」

 

その宣言と同時にハジメはドンナー、シュラークを、香織はリヒトゥとヴンシュを発砲する。ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!と炸裂音を響かせながらマッハ9の超速でタウル鉱石の弾丸が爪熊に迫る。

 

「グゥウ!?」

 

爪熊は咄嗟に崩れ落ちるように地面に身を投げ出し回避した。

 

弾丸を視認して避けたのではなく、発砲よりほんの僅かに回避行動の方が早かったことから、おそらくハジメの殺気に反応した結果だろう。

流石は階層最強の主である。

二メートル以上ある巨躯に似合わない反応速度だ。

 

だが、完全に避け切れたわけではなく肩の一部が抉れて白い毛皮を鮮血で汚している。

そこに雫の愛刀藤が振り下ろされる。

 

雫の刀は蹴りウサギに切り掛かった際に折れてしまったが、新しくハジメに作ってもらった藤は前回とは比べ物にならない程の切れ味を見せた。

 

「ガァアア!!」

爪熊の左腕が宙に舞う。

雫は爪熊がハジメにした事をそっくりやり返してやるつもりで剣を振るった。

 

咆哮を上げながら物凄い速度で距離をとりハジメ達の方へ振り返る。

二メートルの巨躯と広げた太く長い豪腕が片腕をうしなっても尚脅威だと認識する。

 

「ハハ!そうだ!俺達は敵だ!ただ狩られるだけの獲物じゃない!」

 

 

爪熊から凄まじいプレッシャーを掛けられながら、なお、ハジメ達は平静を崩さない。

 

ここがターニングポイントだ。

 

ハジメの左腕を喰らい、恐怖と絶望を突きつけた魔物を打ち破る。

これから前へ進むために必要な儀式。

それができなければ、きっと己の心は妥協することを認めてしまう。

ハジメ、香織、雫はそう確信していた。

 

突進してくる爪熊に、再度、ドンナーを発砲する。

超速の弾丸が爪熊の眉間めがけて飛び込むが、なんと爪熊は突進しながら側宙をして回避した。

 

自分の間合いに入った爪熊は突進力そのままに爪腕を振るう。

固有魔法が発動しているのか三本の爪が僅かに歪で見える。

 

ハジメの脳裏に、かつてその爪をかわしたにもかかわらず両断された蹴りウサギの姿が過った。

ハジメはギリギリで避けるのではなく全力でバックステップする。

 

刹那、一瞬前までハジメがいた場所を豪風と共に爪が通り過ぎ、触れてもいないのに地面に三本の爪痕が深々と刻まれた。

 

「成る程、これがお前の固有魔法か!」

 

爪熊が獲物を逃がしたことに苛立つように咆哮を上げる。

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

咆哮を上げた瞬間、香織と雫が発砲する。

 

ギリギリでかわした爪熊だが、爪熊の足元にカランと何かが転がる音がした。

釣られて爪熊が足元に視線を向けると直径五センチ位の深緑色をしたボール状の物体が転がっている。

爪熊がそのことを認識した瞬間、その物体がカッと強烈な光を放った。

 

ハジメが作った閃光手榴弾である。

 

原理は単純だ。

緑光石に魔力を限界ギリギリまで流し込み、光が漏れないように表面を薄くコーティングする。

更に中心部に燃焼石を砕いた燃焼粉を圧縮して仕込み、その中心部から導火線のように燃焼粉を表面まで繋げる。

 

後は纏雷で表に出ている燃焼粉に着火すれば圧縮してない部分がゆっくり燃え上がり、中心部に到達すると爆発。

臨界まで光を溜め込んだ緑光石が砕けて強烈な光を発するというわけだ。

ちなみに、発火から爆発までは三秒に調整してある。

苦労した分、自慢の逸品だ。

 

当然、そんな兵器など知らない爪熊はモロにその閃光を見てしまい一時的に視力を失った。

片腕をめちゃくちゃに振り回しながら、咆哮を上げもがく。

何も見えないという異常事態にパニックになっているようだ。

 

その隙を逃すハジメ達ではない。

再び銃を構えてすかさず発砲する。

加速スイッチを最速の5にした絶大な威力の弾丸が暴れまわる爪熊の右肩と右足に命中し、根元から吹き飛ばした。

 

「グルゥアアアアア!!!」

 

その生涯でただの一度も感じたことのない激烈な痛みに凄まじい悲鳴を上げる爪熊。

その肩からはおびただしい量の血が噴水のように噴き出している。

吹き飛ばされた右腕と右足がくるくると空中を躍り、やがて力尽きたようにドサッと地面に落ちた。

 

「こりゃあ偶然にしてはでき過ぎだな」

 

ハジメの前にあるのは爪熊の左腕と右足だった。右肩は雫の方に転がっていた。

 

故に、かつて奪われ喰われたハジメと同じ左腕と右足を奪うことになったのは全くの偶然だった。

 

ハジメは、痛みと未だ回復しきっていない視界に暴れまわる爪熊へ再度発砲する。

 

爪熊は混乱しながらも野生の勘で殺気に反応し横っ飛びに回避した。

 

ハジメ達は、縮地で爪熊の左腕、右肩、右足を回収した。

こちらを強烈な怒りを宿した眼で睨む爪熊に見せつけるかのように左腕を持ち上げ掲げた。

 

そして、ハジメはおもむろに噛み付いた。

魔物を喰らうようになってから、やたらと強くなった顎の力で肉を引き千切り咀嚼する。

かつて爪熊がそうしたように目の前で己の腕が喰われるという悪夢を再現する。

 

「あぐ、むぐ、それにしてもマズイ肉だ。……なのにどうして他の肉より美味く感じるんだろうな?」

 

そんなことを言いながら、こちらを警戒しつつ蹲る爪熊を睥睨するハジメ。

 

爪熊は動かない。

その瞳には恐怖の色はないが、それでも己の肉体の一部が喰われているという状況と両腕と右足を失った事、回復しきっていない視力に不用意には動けないようだ。

 

それをいいことに、ハジメは食事を続ける。

すると、やがて異変が訪れた。

初めて魔物の肉を喰らった時のように、激しい痛みと脈動が始まったのだ。

 

「ッ!?」

 

急いで神水を服用するハジメ。

あの時ほど激烈な痛みではないが、立っていられず片膝を突き激しい痛みに顔を歪める。

「ハジメ君!?」「ハジメさん!?」

香織と雫が不安そうに駆け寄るがすぐに原因を察した。

 

どうやら、爪熊が二尾狼や蹴りウサギとは別格であるために取り込む力が大きく痛みが発生したらしい。

 

だが、そんな事情があろうとも爪熊には関係なかった。両腕と右足を失った爪熊はもはや死を待つだけのエサに成り下がっていた。

 

香織と雫が地面に手をあて、そして雷を纏う。

最大出力で放たれた香織と雫の纏雷は地面の爪熊の血を伝い、爪熊を容赦なく襲った。

 

自らの流した血溜りの中にいる爪熊を強烈な電流と電圧が瞬時にその肉体を蹂躙する。

神経という神経を侵し、肉を焼く。

最大威力と言っても、ハジメ達が取得した固有魔法は本家には及ばない。

 

「ルグゥウウウ」

 

低い唸り声を上げながら自らの血溜りの中で倒れ伏す爪熊だが、未だ鋭く殺意に満ちていてハジメ達を睨んでいる。

 

ハジメと香織と雫は、真っ直ぐその瞳を睨み返し、ゆっくり立ち上がった。そして、銃を構えながら爪熊に近づき、爪熊の頭部に銃口を押し当てた。

 

「さようならだ…」

「強かったよ…」

「私達の勝ちね…」

 

その言葉と共に引き金を引く。

撃ち出された弾丸は主の意志を忠実に実行し、爪熊の頭部を粉砕した。

 

迷宮内に銃声が木霊する。

 

爪熊は最期までハジメから眼を逸らさなかった。

ハジメ達もまた眼を逸らさなかった。

 

想像していたような爽快感はない。

だが、虚しさもまたなかった。

ただ、やるべきことをやった。

生きるために、この領域で生存の権利を獲得するために。

 

ハジメは香織と雫を抱き寄せた。

そしてハジメ達はスッと目を閉じると、改めて己の心と向き合う。

そして、この先もこうやって三人で生きると決意する。

戦いは好きじゃない。

苦痛は避けたい。

腹いっぱい飯を食いたい。

そして……生きたい。

理不尽を粉砕し、敵対する者には容赦なく、全ては生き残るために。

 

そうやって生きて……

 

そして……

 

故郷に帰りたい。

 

そう、心の深奥が訴える。

 

「そうだ……帰りたいんだ……俺は。香織と雫を連れて…地上で待っているクラスの仲間達と共に…帰りたいんだ…故郷に帰って香織と雫をお嫁さんに貰うんだ……」

「うん、私もハジメ君と雫ちゃんと…クラスのみんなと…日本に帰りたい…日本でハジメ君と雫ちゃんの三人で幸せに暮らしたい…」

「ええ、帰らなきゃ、クラスのみんなと…私の家族と香織の家族を説得して…三人で仲良く暮らしましょう」

 

「「「三人で生き抜く!そして必ず…故郷に帰る!」」」

 

 

 




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南雲ハジメ 18歳 男 レベル:20
天職:錬成師    職業:冒険者 青
筋力:600
体力:600
耐性:600
敏捷:600
魔力:600
魔耐:600
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+鉱物系探査][+精密錬成][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+複製錬成][+自動錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物系融合][+鉱物系分離][+鉱物系分解][+貯蔵庫][+貯蔵庫内複製][+貯蔵庫容量増加][+震動波砕][+震動波砕道具付与][+震動波砕効果範囲拡大]・魔力操作・胃酸強化・魔力視・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・威圧・纏雷[+雷耐性]・纏氷[+氷耐性]・纏光[+光耐性]・纏闇[+闇耐性]・纏風[+風耐性]・纏火[+火耐性]・纏水[+水耐性]・纏地[+地耐性]・気配遮断・再生[+超速再生]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地]・高速魔力回復・眷族通話(香織、雫)・飛爪・減速加速門・最適化・言語理解・「 」の加護
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南雲香織 18歳 女 レベル:20
天職:治癒師    職業:冒険者 青
筋力:450
体力:450
耐性:450
敏捷:450
魔力:900
魔耐:900
技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇] ][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇]・光魔法適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇]・魔力操作・胃酸強化・魔力視・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・威圧・纏雷[+雷耐性]・纏氷[+氷耐性]・纏光[+光耐性]・纏闇[+闇耐性]・纏風[+風耐性]・纏火[+火耐性]・纏水[+水耐性]・纏地[+地耐性]・気配遮断・再生・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地]・高速魔力回復・眷族通話(ハジメ、雫)・飛爪・言語理解・「 」の加護
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南雲雫 18歳 女 レベル:20
天職:剣士    職業:冒険者 青
筋力: 650
体力: 650
耐性: 500
敏捷: 700
魔力: 600
魔耐: 600
技能:剣術[+抜刀速度上昇][+斬撃威力上昇][+斬撃速度上昇][+命中精度上昇][+弱点看破][+衝撃波追加]・先読・気配感知[+特定感知]・隠業・魔力操作・胃酸強化・魔力視・魔力感知[+特定感知]・威圧・纏雷[+雷耐性]・纏氷[+氷耐性]・纏光[+光耐性]・纏闇[+闇耐性]・纏風[+風耐性]・纏火[+火耐性]・纏水[+水耐性]・纏地[+地耐性]・気配遮断・再生・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地]・高速魔力回復・眷族通話(ハジメ、香織)・飛爪・言語理解・「 」の加護
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