ありふれた錬成師と治癒師と剣士で世界最強 作:nonohoho
これはスキルではありません。
ハジメ達のいた世界の神々の加護です。
神々の使う言葉はあまりにも膨大な情報量があり人間には聞き取る事も表記する事もできません。
それゆえ「 」の加護と表記されています。
ハジメ達が下位世界の神気取りのエヒトに拐われた時、咄嗟に神々は魂の強さ順に加護を与えました。
魂が弱いと神の加護を受け止める事が出来ないからです。
結果神の加護を得たのはハジメ、カズト、香織、雫、優花、蒼華の6人だけでした。
魂に馴染むまで時間がかかりましたが、加護を受けている今、エヒトや天使モドキはハジメ達にかすり傷すら与える事が出来なくなっています。
ハジメ達は気付いてませんが…
ハジメに与えられた減速門と最適化は神々の権能を“「 」の加護〟から一部与えられたモノです。
本来の減速門の意味は時空間操作。
ところがハジメの理解は減速したり加速したりする結界と認識してますので、スキルの名前もハジメの理解に沿ったモノになっています。
わかりやすく説明するとパソコンの中に大量のソフトが入っているのにエクセルしか使っていなくて、このパソコンで出来る事はエクセルだけと思っている状態です。
当然、時空間操作の権能を超える事はできません。
最適化は本来は周りのあらゆる存在や法則に合わせて自分を最適化する…
です。
つまりブラックホールの中心にいても何不自由なく日常生活が送れます。
マグマの中で温泉気分を味わえます。
初級の技は無駄が多いし正確さがありません。最適化すると無駄を省き正確さがまします。
スキルが派生しまくってたのは、この最適化の恩恵のほんの一部です。
ちなみに…ハジメ君は香織と雫に繋がった状態で最適化してますが体の相性も最適化されてたりします。
物語の中では次話で意外な人物からハジメ達に少しだけ明かされます。
何故ハジメ達にこの加護が与えられたか…それはミレディのところで明らかになります。
ハジメは、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。
随分と懐かしい感触だ。
これは、そうベッドの感触である。
頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを感じ、ハジメのまどろむ意識は混乱する。
(何だ? ここは迷宮のはずじゃ……何でベッドに……)
まだ覚醒しきらない意識のまま手探りをしようとする。
しかし、両手はその意思に反して動かない。
というか、ベッドとは違う柔らかな感触に包まれて動かせないのだ。
手の平も温かで柔らかな何かに挟まれているようだ。
(何だこれ?)
ボーとしながら、ハジメは手をムニムニと動かす。
手を挟み込んでいる弾力があるスベスベの何かはハジメの手の動きに合わせてぷにぷにとした感触を伝えてくる。
右手は香織の太ももかな?左手は雫だな……多分…
「……ぁん……」
「…あっ…ん…」
(!?)
何やら聞き覚えのありすぎる、艶かしい喘ぎ声が聞こえた。
その瞬間、まどろんでいたハジメの意識は一気に覚醒する。
ゆっくり目を開けたハジメは、自分が本当にベッドで寝ていることに気がついた。
純白のシーツに豪奢な天蓋付きの高級感溢れるベッドである。
場所は、吹き抜けのテラスのような場所で一段高い石畳の上にいるようだ。
爽やかな風が天蓋とハジメの頬を撫でる。
周りは太い柱と薄いカーテンに囲まれている。
建物が併設されたパルテノン神殿の中央にベッドがあるといえばイメージできるだろうか? 空間全体が久しく見なかった暖かな光で満たされている。
さっきまで暗い迷宮の中で死闘を演じていたはずなのに、とハジメは混乱する。
(どこだ、ここは……まさかあの世とか言うんじゃないだろうな……)
どこか荘厳さすら感じさせる場所に、ハジメの脳裏に不吉な考えが過ぎるが、その考えは隣から聞こえた艶かしい声に中断された。
「……んぁ……ハジメ君……ぁう……」
「…ハジメ…さん…ぁん……」
「!?」
ハジメは慌てて横を見ると一糸纏わない香織と雫がハジメの両手に抱きつきながら眠っていた。
そして、今更ながらに気がつくがハジメ自身も素っ裸だった。
「なんだ、いつも通りの朝か…ん?雫とベッドは初めてか……ってそうじゃない!」
考えてみれば雫とは迷宮でワイルドにやりまくっていた為、ベッドの上で甘えるような姿は中々新鮮な光景だった。
「香織、雫、起きてくれ。」
「んぅ~……」
声をかけるが愚図るようにイヤイヤをしながら丸くなる香織と雫。
ついでにハジメの両手は香織と雫の太ももに挟まれており、丸くなったことで危険な場所に接近しつつある。
「朝チュンコース間違いないけど…流石に今は自制すべきか…?」
阿呆な事を考えながら、ハジメは何とか両手を抜こうと動かすが、その度に……
「……あんっ…ハジメ…君の…エッチ♡……」
「……はぁっ…ん…ハジメ…さん…そこは…」
と実に艶かしく喘ぐ香織と雫。
ハジメの理性が吹き飛びかけるが、ギリギリのところで堪える。
一応状況確認はしなければならないが…
香織と雫の顔には涙の跡があったのを見つけたハジメは、二人の気持ちを優先する事にした。
状況は飲み込めないが、二人が危険地帯で裸になって寝るはずは無い……
多分……
きっと…
ハジメは大人しく天井を見ながら、二人が起きるのを待つ事にした。
「…そういえばカズトとユエは無事なのか…?」
ここにいないカズトとユエに気づき二人の気配を探る。
少し離れた場所をゆっくり移動していた。
動きから推測すると、どうやら周辺の探索をしているようだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
もみもみ…
「…あんっ…」
「…ふぁ…あ」
二人が中々起きない為、暇を持て余したハジメはとりあえず揉む事にした。
何度揉んでも病みつきになるぐらい、二人の身体は弾力さと柔らかさがある。
二人の可愛らしい声を聞きながらハジメはこれまでの行程を思い返す。
「生きているのが不思議なぐらい、過酷な迷宮だったな…最も一階ごとに三種類の魔物しか出ない時点で修業の意味合いが強かったんだろうけど…」
「…ハジメ…君?」
「…ハジメ…さん?」
「香織、雫、目が覚めたか?」
「ハジメ君!」
「ハジメさん!」
「?!」
目を覚ました香織と雫は茫洋とした目でハジメを見ると、次の瞬間にはカッと目を見開きハジメに飛びついた。
もちろん素っ裸で。
必死に理性を保つハジメ。
香織と雫がハジメの首筋に顔を埋めながら、ぐすっと鼻を鳴らしている事に気づき二人に謝る。
「ご、ごめん、随分心配かけたみたいで…」
「心配したんだよ……ハジメ君…」
「全然目を覚まさないんだから…」
しがみついたまま離れそうになかったし、倒れた後面倒を見てくれたのは香織と雫なので気が済むまでこうしていようと、ハジメは優しく二人の頭を撫で続けた。
それからしばらくして、ようやく二人が落ち着いたので、ハジメは事情を尋ねた。
ちなみに、二人はハジメに抱きついたままだ。
「それで、あれから何があったの?ここはどこなんだ?」
「うん。あの後ね…」
香織曰く、あの後、ぶっ倒れたハジメの傍で二人が寄り添っていると、突然、扉が独りでに開いたのだそうだ。
すわっ新手か! と警戒したもののいつまでたっても特になにもなく、消耗が少なかったカズトとユエが確認しに扉の奥へ入った。
ハジメの受けたダメージが不明の為、香織は治療のしようがなかった。
外傷、状態異常もないのに意識不明だったからだ。
ハジメという司令官不在の状態で、新手でも現れたら一巻の終わりだ。
そのため、確かめずにはいられなかったのだ。
そして、踏み込んだ扉の奥は、
「反逆者の住処だったの。」
中は広大な空間に住み心地の良さそうな住居があったというのだ。
カズトとユエは、危険がないことを確認して、ベッドルームを確認したユエは、ハジメ達を連れてきてベッドに寝かせ看病していたのだという。
ハジメがいない為、神水の補充が出来なくて焦った香織と雫だが、自分達の分も予備の分も含めて全てハジメに飲ませ続けた。
「……そうだったのか…助かったよ!ありがとう、香織、雫」
「「うん♡」」
ハジメが感謝の言葉を伝えると、香織と雫は心底嬉しそうに瞳を輝かせる。
「ところで……何故、俺は裸なの?」
ハジメが気になっていたことを聞く。
「…えーと…汚れてたし、血だらけだったから…その…綺麗にしたの♡」
「そ、そうよ…傷が化膿しないように…ねっ!丁寧に…舐めたの♡」
香織と雫はハジメの質問に、恥ずかしがりながらも笑みを浮かべ、ペロリと舌を出した。
何となくブルリと体が震えたハジメ。
「そ、そうか…ところで…何か久しぶりだから…いいかな…?」
「…ハジメ君ったら…ふふ♡……」
「…え、ええ…あ、あのハジメさん…私はベッドでは初めてだから…優しくしてね♡」
「香織、雫、まずは神水飲むか…っていうかもう始まってるし…」
「「2日ぶりだから…いっぱい愛してね!ハジメ君(さん)」」
こうして4時間ほど過ぎたあたりで、カズトとユエがやってきた。
「…目が覚めたか?ハジメ。盛ってないでそろそろ探索しないか…?」
遠慮がちに物陰から話しかけてきたカズトに
「心配かけたみたいで悪かった。ちょっと準備してから行こうか!」
香織と雫が非常に満足そうな顔で甘えているが、反逆者の住処を探索することにした。
ユエが先に探索した館から見つけてきたらしい上質な服を持ってくる。
男物の服だ。
反逆者は男だったのだろう。
それを着込むとハジメは体の調子を確かめ、問題ないと判断し装備も整える。一応、何かしらの仕掛けがあるかもしれないので念のためだ。
後ろで同じく着込んでいた香織と雫も準備が完了したようなので振り返るハジメ。
……香織と雫とユエの三人は何故か下着とカッターシャツ一枚だった。
「香織、雫……狙ってるのか?」
「ち、違うよ!…サイズ合わないだけだからね!」
「ハジメさん、その…ヒュドラとの戦いで服がぼろぼろになっちゃったから…」
香織と雫が慌てたように言った。
カズトは見ないように先頭を歩かされてる…
その隣はユエだ。
ベッドルームから出たハジメは、周囲の光景に圧倒され呆然とした。
まず、目に入ったのは太陽だ。
もちろんここは地下迷宮であり本物ではない。
頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。
僅かに温かみを感じる上、蛍光灯のような無機質さを感じないため、思わず〝太陽〟と称したのである。
「ハジメ君、夜になると月みたいになるんだよ!」
「マジか……」
次に、注目するのは耳に心地良い水の音。
扉の奥のこの部屋はちょっとした球場くらいの大きさがあるのだが、その部屋の奥の壁は一面が滝になっていた。
天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいく。
滝の傍特有のマイナスイオン溢れる清涼な風が心地いい。
よく見れば魚も泳いでいるようだ。
もしかすると地上の川から魚も一緒に流れ込んでいるのかもしれない。
川から少し離れたところには大きな畑もあるようである。
今は何も植えられていないようだが……その周囲に広がっているのは、もしかしなくても家畜小屋である。
動物の気配はしないのだが、水、魚、肉、野菜と素があれば、ここだけでなんでも自炊できそうだ。
緑も豊かで、あちこちに様々な種類の樹が生えている。
ハジメは川や畑とは逆方向、ベッドルームに隣接した建築物の方へ歩を勧めた。
建築したというより岩壁をそのまま加工して住居にした感じだ。
「ハジメ。少し調べたけど、開かない部屋も多かったんだ。お前が目覚めるまで迂闊な事するのはやめてた。」
「そうか……みんな、油断せずに行くぞ!」
「了解!」
石造りの住居は全体的に白く石灰のような手触りだ。
全体的に清潔感があり、エントランスには、温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。
薄暗いところに長くいたハジメ達には少し眩しいくらいだ。
どうやら三階建てらしく、上まで吹き抜けになっている。
取り敢えず一階から見て回る。
暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレを発見した。
どれも長年放置されていたような気配はない。
人の気配は感じないのだが……言ってみれば旅行から帰った時の家の様と言えばわかるだろうか。
しばらく人が使っていなかったんだなとわかる、あの空気だ。
まるで、人は住んでいないが管理維持だけはしているみたいな……
ハジメ達は、より警戒しながら進む。
更に奥へ行くと再び外に出た。
そこには大きな円状の穴があり、その淵にはライオンぽい動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座している。
彫刻の隣には魔法陣が刻まれている。
試しに魔力を注いでみると、ライオンモドキの口から勢いよく温水が飛び出した。
どこの世界でも水を吐くのはライオンというのがお約束らしい。
「まんま、風呂だな。こりゃいいや。香織、雫、後で入ろう!」
「「うん♡」」
思わず頬を緩めるハジメと香織と雫。
ハジメが洞穴に作っていた風呂は開放感が無かった。
やはり、広さや開放感があると気分的に違う。
安全確認が終わったら堪能しようと頬を緩めてしまうのは仕方ないことだろう。
そんなハジメ達をを見ていたユエが一言、
「……カズト…入る? 一緒に……」
「……一人でのんびりさせて?明日から一緒に入ろ?」
「むぅ……ハジメと香織と雫は一緒に入るのに…」
素足でパシャパシャと温水を蹴るユエの姿に、一緒に入ったらくつろぎとは無縁になるだろうと断るカズト。
ユエは唇が尖らせて不満顔だ。
それから、二階で書斎や工房らしき部屋を発見した。
しかし、書棚も工房の中の扉も封印がされているらしく開けることはできなかった。
仕方なく諦め、探索を続ける。
5人は三階の奥の部屋に向かった。三階は一部屋しかないようだ。
奥の扉を開けると、そこには直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。
いっそ一つの芸術といってもいいほど見事な幾何学模様である。
しかし、それよりも注目すべきなのは、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影である。
人影は骸だった。
既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。
薄汚れた印象はなく、お化け屋敷などにあるそういうオブジェと言われれば納得してしまいそうだ。
その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。
その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。
魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。
寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか……
「……怪しい……どうする?」
全員この骸に疑問を抱いたようだ。
おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているようである。
「まぁ、地上への道を調べるには、この部屋がカギなんだろうしな。俺の錬成も受け付けない書庫と工房の封印……調べるしかないだろう。香織、雫、一緒に来てくれ。カズトとユエは待っててくれ。何かあったら頼む。」
「もちろんハジメ君と一緒に行くよ!」
「ハジメさんから離れないから…ねっ!」
相変わらず三人はイチャイチャしている。
砂糖を吐きそうな表情のカズトとユエは
「さっさと調べろよ…」
「ん……気を付けて」
ハジメ、香織、雫の3人は魔法陣へ向けて踏み出した。
そして、ハジメ達が魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。
まぶしさに目を閉じる3人。
直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからのことが駆け巡った。
やがて光が収まり、目を開けた3人の目の前には、黒衣の青年が立っていた。
中央に立つハジメ、香織、雫の眼前に立つ青年は、よく見れば後ろの骸と同じローブを着ていた。
「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」
話し始めた彼はオスカー・オルクスというらしい。
【オルクス大迷宮】の創造者のようだ。
驚きながら彼の話を聞く。
「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」
そうして始まったオスカーの話は、ハジメ達が聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なった驚愕すべきものだった。
それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。
神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。
人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。
争う理由は様々だ。
領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は〝神敵〟だから。
今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。
その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。
だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。
それが当時、〝解放者〟と呼ばれた集団である。
彼らには共通する繋がりがあった。
それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。
そのためか〝解放者〟のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。
何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。
〝解放者〟のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集めたのだ。
彼等は、〝神域〟と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止めた。〝解放者〟のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。
しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。
何と、神は人々を巧みに操り、〝解放者〟達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。
その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした〝反逆者〟のレッテルを貼られ〝解放者〟達は討たれていった。
最後まで残ったのは中心の七人だけだった。
世界を敵に回し、彼等は、もはや自分達では神を討つことはできないと判断した。
そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。
試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。
長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。
「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」
そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。
同時に、ハジメ達の脳裏に何かが侵入してくる。
ズキズキと痛むが、それがとある魔法を刷り込んでいたためと理解できたので大人しく耐えた。
やがて、痛みも収まり魔法陣の光も収まる。ハジメ、香織、雫はゆっくり息を吐いた。
「おい…ハジメ……大丈夫か?」
「ああ、平気だ……にしても、何かとんでもない事聞いてしまった…」
「うん…ハジメ君…どうする?」
「聖教会が牛耳ってるこの世界で…やっかいだわ…ハジメさん…」
香織と雫がオスカーの話を聞いてどうするのかと尋ねる。
「その前にカズトとユエはどう思った?」
「は? 別にどうもしないだろ? 元々、勝手に召喚して戦争しろとかいう神なんて迷惑としか思ってないからな。それに尻尾振ってるこの世界の住人がどうなろうと知ったことじゃない…。天乃河レベルの妄想家だらけの世界で、苦労しながら救うとか無理ゲーだから。地上に出て帰る方法探して、故郷に帰ろうぜ?。……ユエは気になるのか?」
とはいえ、ユエはこの世界の住人だ。
故に、彼女が放っておけないというのなら、カズトも色々考えなければならない。
オスカーの願いと同じく簡単に切って捨てられるほど、既にカズトにとって、ユエとの繋がりは軽くないのだ。
そう思って尋ねたのだが、ユエは僅かな躊躇ためらいもなくふるふると首を振った。
「私の居場所はここ……他は知らない」
そう言って、カズトに寄り添いその手を取る。
ギュッと握られた手が本心であることを如実に語る。
ユエは、過去、自分の国のために己の全てを捧げてきた。
それを信頼していた者たちに裏切られ、誰も助けてはくれなかった。
ユエにとって、長い幽閉の中で既にこの世界は牢獄だったのだ
その牢獄から救い出してくれたのはカズトやハジメ、香織、雫の4人だ。
だからこそカズトの隣こそがユエの居場所であり、カズトと一緒にハジメ、香織、雫と共に行動したい。
「……そうかい」
若干、照れくさそうなカズト。
「一応俺もカズトと同意見だ。クラスのみんなと日本に戻る為に全力を尽くそう。この世界の人間に関しては助けられる範囲で助けよう。神は…多分色々干渉してくると思う。だから神と戦う準備も密かに進めたい。」
「そうね…準備無しでいきなり神と戦うなんて無茶だもんね。」
「?あ~、あと何か新しい魔法……神代魔法っての覚えたみたいだ」
「……ホント?」
信じられないといった表情のユエ。
それも仕方ないだろう。
何せ神代魔法とは文字通り神代に使われていた現代では失伝した魔法である。ハジメ達をこの世界に召喚した転移魔法も同じ神代魔法である。
「何かこの床の魔法陣が、神代魔法を使えるように頭を弄る? みたいな」
「うん…ハジメ君…大量の情報を無理矢理詰め込まれるみたいな…」
「そうね…他に表現しようがないわ…でもこの魔法、ハジメさんの為にあるみたい…」
「……どんな魔法?」
「え~と、生成魔法ってやつだな。魔法を鉱物に付加して、特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法だ」
ハジメの言葉にポカンと口を開いて驚愕をあらわにするユエ。
「……アーティファクト作れる?」
「ああ、そういうことだな」
そう、生成魔法は神代においてアーティファクトを作るための魔法だったのだ。
まさに〝錬成師〟のためにある魔法である。
実を言うとオスカーの天職も〝錬成師〟だったりする。
「カズトとユエも覚えたらどうだ? 何か、魔法陣に入ると記憶を探られるみたいなんだ。オスカーも試練がどうのって言ってたし、試練を突破したと判断されれば覚えられるんじゃないか?」
「俺、錬成出来ないけど…」
「……うん…錬成使わない……」
「まぁ、そうだろうけど……せっかくの神代の魔法だぜ? 覚えておいて損はないんじゃないか?」
「そうだな…一応覚えるか…異世界モノのテンプレだと全ての神代魔法覚えると何か起きるしな…」
「……ん……カズトが言うなら」
ハジメの勧めに魔法陣の中央に入るカズトとユエ。
魔法陣が輝きカズトとユエの記憶を探る。
そして、試練をクリアしたものと判断されたのか……
「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー……」
またオスカーが現れた。
何かいろいろ台無しな感じだった。
ハジメ達はペラペラと同じことを話すオスカーを無視して会話を続ける。
「どうだ? 修得したか?」
「ん……した。でも……アーティファクトは難しい」
「魔法剣士には意味ないな…やっぱり神代魔法も相性とか適性とかあるのかもな」
そんなことを話しながらも隣でオスカーは何もない空間に微笑みながら話している。
すごくシュールだった。
後ろの骸が心なしか悲しそうに見えたのは気のせいではないかもしれない。
「あ~、取り敢えず、ここはもう俺等のもんだし、あの死体片付けるか」
カズトに慈悲はなかった。
「ん……畑の肥料……」
ユエにも慈悲はなかった。
「一応墓ぐらい作ろう?神代魔法くれたし…」
「そうだよ!とんでもなく酷い目にあわされたけど…ヒュドラなんか配置する人でなしだけど…」
香織の無意識な追撃の言葉に、風もないのにオスカーの骸がカタリと項垂れた。
オスカーの骸を弔い、きちんと墓石も立てた。
流石に、肥料扱いは可哀想すぎる。
埋葬が終わると、ハジメ達は封印されていた場所へ向かった。
次いでにオスカーが嵌めていたと思われる指輪も頂いておいた。
墓荒らしとか言ってはいけない。
その指輪には十字に円が重った文様が刻まれており、それが書斎や工房にあった封印の文様と同じだったのだ。
まずは書斎だ。
一番の目的である地上への道を探らなければならない。
ハジメとユエは書棚にかけられた封印を解き、めぼしいものを調べていく。
すると、この住居の施設設計図らしきものを発見した。
通常の青写真ほどしっかりしたものではないが、どこに何を作るのか、どのような構造にするのかということがメモのように綴つづられたものだ。
「ビンゴ!みんな。あったぞ、!」
「ハジメ君、やったね!」
ハジメから歓喜の声が上がる。
全員、嬉しそうだ。
設計図によれば、どうやら先ほどの三階にある魔法陣がそのまま地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。
オルクスの指輪を持っていないと起動しないようだ。
盗ん……貰っておいてよかった。
更に設計図を調べていると、どうやら一定期間ごとに清掃をする自律型ゴーレムが工房の小部屋の一つにあったり、天上の球体が太陽光と同じ性質を持ち作物の育成が可能などということもわかった。
人の気配がないのに清潔感があったのは清掃ゴーレムのおかげだったようだ。
全員で分かれて資料を調べる事にした。
工房には、生前オスカーが作成したアーティファクトや素材類が保管されているらしい。
後で根こそぎ譲ってもらうとして…今は資料探しだ。
「ハジメさん…これは日記ね…」
「うん?」
ハジメが設計図をチェックしていると他の資料を探っていた雫が一冊の本を持ってきた。
どうやらオスカーの手記のようだ。
かつての仲間、特に中心の七人との何気ない日常について書いたもののようである。
その内の一節に、他の六人の迷宮に関することが書かれていた。
「……つまり、あれか? 他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔法が手に入るということか?」
「ハジメ!テンプレきたな!7つ集めたら巨大な龍がでるとか…」
「似たようなモノかもな…カズト、パンティーを頼むなよ?」
「そんなモン願うか!!」
手記によれば、オスカーと同様に六人の〝解放者〟達も迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を教授する用意をしているようだ。
生憎とどんな魔法かまでは書かれていなかったが……
「これなら、帰る方法も見つかりそうね」
「うん!雫ちゃん…日本に戻ってハジメ君と赤ちゃん作ろう♡」
雫の言う通り、その可能性は十分にあるだろう。
実際、召喚魔法という世界を越える転移魔法は神代魔法なのだから。
「ああ。これで今後の指針ができた。地上に出たら七大迷宮攻略を目指そう」
「「「「おーー!!」」」」
明確な指針ができて頬が緩むハジメ。
思わず香織と雫を抱きしめる。
カズトもユエを抱きしめている。
それからしばらく探したが、正確な迷宮の場所を示すような資料は発見できなかった。
現在、確認されている【グリューエン大砂漠の大火山】【ハルツィナ樹海】、目星をつけられている【ライセン大峡谷】【シュネー雪原の氷雪洞窟】辺りから調べていくしかないだろう。
しばらくして書斎あさりに満足した二人は、工房へと移動した。
工房には小部屋が幾つもあり、その全てをオルクスの指輪で開くことができた。
中には、様々な鉱石や見たこともない作業道具、理論書などが所狭しと保管されており、錬成師にとっては楽園かと見紛うほどである。
ハジメは、それらを見ながら腕を組み少し思案する。
そんなハジメの様子を見て、香織が首を傾げながら尋ねた。
「ハジメ君、どうしたの?」
ハジメはしばらく考え込んだ後、みんなに提案した。
「う~ん、みんな…。しばらくここに留まらないか? さっさと地上に出たいのは俺も山々なんだが……せっかく学べるものも多いし、ここは拠点としては最高だ。他の迷宮攻略のことを考えても、ここで可能な限り準備しておきたい。どうだ?」
香織、雫、カズトはクラスのみんなに会いたいだろう。
ユエは三百年も地下深くに封印されていたのだから一秒でも早く外に出たいだろうと思ったのだが、全員ハジメの提案にキョトンとした後、直ぐに了承した。
不思議に思ったハジメだが……
「私の居場所はハジメ君の側だよ?」
「ええ香織、私の居場所もハジメさんの側よ。それにどうせならしっかりと準備した方がいいわ!」
「ハジメ、どうせなら、ここでみっちり修業しようぜ?」
「…カズトがここにいるなら…私もいる。私の居場所はカズトの側…」
そういうことらしい。
香織と雫のこの不意打ちはどうにかならんものかと照れくささを誤魔化すハジメ。
結局、全員で可能な限りの鍛錬と装備の充実を図ることになった。
桃園の誓い〜オスカーの隠れ家〜
「…良く来てくれた…」
ユエは某ネル○の司令官のような体勢で香織と雫を迎えていた。
どうやって手に入れたかはわからないが、メガネ付きだ。
「どうしたの?ユエ…?」
香織が不思議そうに聞く。
「前から思ってたんだけど、貴女日本から転生したんじゃないの?」
雫がジト目をしながらユエに聞く。
「…あっしは生まれも育ちも…トータスでさ…」
「「………」」
香織と雫はスルーする事にした。
「…香織…雫…日本の事を教えてほしい…」
「いいけど…?篠原君から聞けばいいんじゃないの?」
「…カズトの日本の知識は…何か偏ってる気がするの…」
香織と雫は納得した。
「うん。とても偏ってるよ…」
「でも…ユエなら日本の特定地域にいても違和感全くないわ…」
「…むぅ…褒められた気がしない…」
さっと目をそらす香織と雫。
若干不満そうなユエだが、話を続ける。
「…もし教えてくれたら、私も二人にとっておきの知識を教える…」
「知識?魔法はいつも教わってるし…」
「…王家に伝わる姫専用の性技…吸血鬼一族3000年の歴史あるよ…」
「貴女絶対日本人よね?」
「ユエみたいな人、秋○原にいっぱいいるから心配しないで」
ユエは何も聞こえないアピールをして話を続ける。
「……王族の姫は、殿方を満足させる技を習うの…浮気防止もあるけど何より子孫を残す為なの…殿方がやる気になって貰わないと…いけないから…」
「成る程。王族って大変だね?」
「そうね。でも私達に必要かしら…?いつも気持ちよくておかしくなっちゃいそうなのに…」
「……それは、ハジメも気持ちいいの…?香織と雫だけが、気持ち良かったら…いずれ飽きられる…」
「「!!!!!!」」
香織と雫は思わず考えこんでしまう。
「確かにハジメ君は私達を気持ちよくしてくれる。でも…ハジメ君は気持ちいいのかな…?」
「…だからこそ吸血鬼一族の姫に伝わる奥義を伝授する…この教育映像を見て学べば…ハジメをメロメロにできる…」
「ハジメ君を…」
「メロメロに…?」
香織と雫はお互いの顔を見ながらユエの言葉を検討する。
「…ユエ…私に異存は無いわ…」
「…う、うん。私もハジメ君の為なら…」
そして三人は協力し合う事を誓う。
ここはちょうど桃の木の下だ。
「…南雲香織、南雲雫、ユエ…私達三人、生まれた日は違うけど…義理の姉妹になる事を誓う…そして…死ぬ時は同じ日に死ぬ事を…天地の神に誓う…」
三人は神水を飲み干し…
「「「…変わるまいぞ…」」」
こうしてオルクスの地下迷宮の深淵で三人の義姉妹が誕生した。
長女は精神年齢が高い雫。次女は香織。三女は年齢的にはぶっちぎりだが精神年齢の一番低いユエがなったそうだ…
そしてその日から、ハジメの神水使用量が跳ね上がったという統計結果が残されている…
ちなみに本編とは何の関係もありません。
愛子先生はハジメのハーレムにいれるかどうか?
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南雲ハジメのハーレム入り
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全く別の人物の妻