努力は必ず身を結ぶとは限らない。
それでも尚、その叶わぬ夢追う姿は、いかにも美しいが、いかにも悲しい。
石ノ森章太郎 『キカイダー伝説』より抜粋
「やっと揃った。」
満足げに頷きながら元米国陸軍海兵隊IS師団師団長ポリー・ナポリターノはデスクの椅子にドカリと座り込んだ。
今彼女の机にはレン・アキヤマが記した7冊のノートが並べられている。
ここまで集めるのに5年かかった。
それでもなんとか7冊全て揃える事に成功した。
「にしても、このノートだけやけに厳重に保管されてたわね?」
そんなに読まれたくない物なのだろうか?
訝しみながらもポリーは好奇心に任せるままにノートを開いた。
このノートがもし誰かに読まれているとすれば、
それは非常に残念な事だ。
何故ならこのノートは今まで書いてきた5冊のノートと比べても最も忌むべき物語が記されているからだ。
1冊目の人類基盤史研究所占拠事件はまだいい。
俺が直接見てない部分はかなり想像で補ってるし、
基本的に過去の俺目線だ。
2冊目の沢芽市爆弾魔事件も人が死ぬ様な描写こそあるが、
あれを見つけれるとすればアンダーアンカーエージェントぐらい、あくまでも内々の話だ。
バディを失ったゼロワンからすれば失礼な言い方だが。
3冊目のアカツキ事件は誰かに見られる可能性が限りなくゼロだし問題ない。
4冊目のゼイビアックス事件に関する顛末もまあ、
一部の国の上層部は知ってるし、
一般人が読んだところで真に受けないだろう。
5冊目のオハイオ州ドラッグカクテル事件も、
なるべく個人名を伏せたし、かなり脚色したし問題ない。
だがこの6冊目は幾人ものにとって人生のターニングポイントになった事件について語る。
非常にデリケートな物で、これが元で、
誰かが傷付いてしまう可能性が非常に高い。
ので、出来れば誰にも読まれて欲しくなかったのだ。
じゃあ書くなと思うかもしれないが、
俺は今人生で初めて
『王様の耳がロバの耳だと知ってしまった床屋の青年』
の気分だ。
自分の口から何かの拍子で喋ってしまう前に全て書いて永遠に何処かに閉まってしまおうと考えた訳だ。
それでは、前置きはこのぐらいにしてこのノートを始めよう。
ストーリーテラーはこの俺レン・アキヤマ。
ただ人伝にこの話を聞いただけの男だ
語る事件は仮に名付けるなら『ダブルオー事件』。
鋼のボディに熱いハートを持ったヒーローとたった2人の少年少女のビギンズナイトだ。
それは月の綺麗な夜だった。
藤丸立香少年は目を星々の様に輝かせながら両親に続いて建物に入った。
ダーク・マジェスティック・エンジニアリング。
それがその会社の名前だった。
一応知らない奴の為にざっと説明しておくと多目的ロボットとIS部品の開発で大成した機業だ。
この日、彼は視察に来た両親に着いてきた形になる。
詳しくは書けないが、
端的に言うと技術共有に関する相談だった。
そんな所になぜ藤丸少年が連れてこられたかといえば、
彼自身の才能に他ならない。
彼は早くから機械に魅せられた。
1人で水戸博士のもとに赴き教えを受けていた程で発表されたばかりで眉唾物扱いされていたISにも興味を示していたほどらしい。
きっと将来は優秀な技術者になる。
水戸博士も弟子の息子とあって、
まるで孫の様に接したらしい。
そんな訳で藤丸少年にとってダーク社とは正に宝の山だった訳で好奇心を押さえられる物ではない。
セキュリティカードを渡されると藤丸少年は自由気ままに縦横無尽にダーク社を見学し尽くした。
そうなると今度は退屈ともっと見たいと言う好奇心が湧いて来る。
いかに優秀とは言え流石子供、我慢ができない。
一世一代の大冒険と意気込んで藤丸少年は近くを通った食事を運搬する為のカートを見つけると職員が目を離した隙に潜り込み、
まんまとセキュリティを超える事に成功した。
そして暗いカートの中、
食器の音とドアが閉まる音を聞いて終点に辿り着いた事を確信した藤丸少年はカートから飛び出た。
そこは無機質な部屋だった。
壁も唯一の家具のベットも白。
そしてその部屋の主と思われる少女の患者服のような服も白だった。
そのせいか、少女の薄紫色の髪が物凄く目立って見えた。
「……………。」
少女は困った様に藤丸少年を見ていた。
すると藤丸少年は一切迷わず少女の手を取り
「俺は藤丸立香。君の名前は?」
自己紹介した。普通ならこうはしないだろう。
しかし彼は何を隠そうただ一度会っただけのフォンブレイバーセブンの初代バディ滝本壮介をもって
「仮に相手がどんな英雄豪傑と崇められる人物であろうと悪鬼羅刹と唾棄される人物だろうと間違いなく友人になれる今世紀最強の人たらし。」
と評される藤丸少年だ。
目の前に初めて会う同じ年頃の少女がいるとなれば友達になる以外の選択肢はない。
「……私の識別コードを聞いてるんですか?」
「識別コード?」
「それで呼ばれています。」
紫髪の少女はハキハキと答えた。
「じゃあそれを教えて。」
「MSH151642635です。」
「!? ホントにそう呼ばれてるの?」
「はい。」
困った。もっとこの見た目通りの可愛らしい名前を想像していたのだが、まさかこんなカミングアウトで来るとは思わなかった。
「じゃあ、なんかあだ名決めない?」
「あだ名?」
「うん。例えば俺のあだ名は寝るとき凄くぐだーってなるからぐだ男って呼ばれてる。どんなのがいい?」
「特に希望はありませんが……。」
こうして始まったあだ名会議は難航を極めた。
何せ彼女に趣味と呼べる様なものが殆どなく、
私生活も外部から見ている者との会話がほぼ無いのだ。
「じゃあ元の名前を弄るしかないか。」
「元の名前を弄る?」
「うん。そうだな…MSHだから、
マシュなんてどうかな?」
「マシュ?……マシュ、マシュ。」
硬い菜葉を何度も噛む様に呟く少女。
「なんでしょうか、凄くしっくり来ます。」
「良かった。じゃあマシュって呼んでいい?」
「はい、立香さんが呼び易いなら構いません。」
「よろしくねマシュ。」
「はい。」
そう言って改めて握手を交わした。
その時、けたたましいサイレンと共に硬く閉ざされていた扉が開いた。
よく分からないが、
何か非常にまずい事態が起こっているらしい。
「これは一体……。」
「マシュ逃げよう。なんかまずい気がする。」
そう言ってマシュの手を引いて外に出た瞬間、
チュン!とゲームでよく聞くビームガンの様な音と共にドサリ、と白い防護服の男が倒れた。
「え?」
見るとそこには悪魔がいた。
黒い体に手足には黄色いしま模様。
尖った肩に三日月の様に釣り上がった赤い口に感情を感じないゴーグルアイ。
頭は強化ガラス越しに鈍い銀色の電子頭脳が見えている。
そしてその右手には先程防護服の男の命を奪ったビームピストルが握られている。
ダーク社がブラックマーケット向けに開発した量産型破壊用人造人間ハカイダーだ。
『大型個体撃破完了…
小型個体を視認…
目標変更…人類ヲハカイセヨ…
ハ、カイセヨ!』
ハカイダーがビームピストルを構える。
「危ない!」
藤丸少年はマシュを倒しながら床に伏せた。
今さっきまで2人がいた場所に小さなクレーターが出来る。
2人は慌てて部屋に戻った。
しかし戻ったからと言って何かが変わる訳じゃない。
さっきも書いた通り、部屋には何もないのだ。
打つ手なしの絶体絶命。
こうしてる間にも足音は近づいてくる。
気休め程度にはなるだろうと思い2人がかりてベットをバリケードにした。
これで一体どれだけ持つだろうか?
そう不安に思った時にガツン!
と足音の代わりに硬いものを叩いた様な鈍い音がした。
続いてビームピストルの発砲音。
そして2、3発の打撃音と殴打音。
そしてメリメリと硬い何かが圧縮される音がした後、
廊下が静まり返った。
しばらくどうしたものかと思っていた2人だったが、
ここに居ても仕方ないと思い、廊下を覗く。
そこに居たのは大学生ぐらいの青年だった。
白いライダースジャケットに真っ赤なジーンズルックを着ていて、前髪の長い髪型のクールな感じだ。
「!? 誰かいるのか?」
どうやら相当耳が良いらしい。
僅からもの音で2人の位置を知った彼は2人のもとに駆け寄って来た。
「子供…大丈夫か?怪我はないか?
具合は悪くないか?」
「!?…うん平気。マシュは?」
「はい。私も外傷はありません。」
「そうか、よかった。」
そう言って彼は立ち上がって部屋の外を見る。
「逃げよう。今ならハカイダーは居ない。」
「ハカイダー?」
「さっき外にいた量産型人造人間だ。
まあ、性能的にはアンドロイドマンに毛が生えた程度の通常兵器で倒せる様な雑魚だ。」
「ではあなたは低性能とは言え軍事用ロボットを1人で倒したんですか?」
「ああ。」
なんて事ない様に青年は答えた。
「兄ちゃん凄え!けど、それ危なくない?」
「それが俺の仕事だ。」
「軍事用ロボットと戦うのがですか?」
「ああ。」
「なんか兄ちゃん正義の味方みたいだね。」
「そうあれと作られた。それが俺だ。」
そう言って男は2人の手を抱えると走り出した。
「兄ちゃん本当にスーパーマンみたいだね。」
「喋るな。舌を噛むぞ。」
階段をおよそ二段飛ばしで一切スピードを落とさず駆け下り、
出口の階に到着する。
「……まあ、そうなるか。」
しかしというかやっぱりというか、
九体のハカイダーと三体のゼロワンが待ち伏せをしていた。
しかもゼロワンは起動補助スラスターに両腕にレールガン、
右腕にレーザーガン付きの大型手甲をそれぞれ装備している。
「ゼロワンか。ふん……大方code 01の設計図でも奪取して最初期型良心回路をオミットして量産用に小型化させたか。
雑魚だな。10秒以内に終わらせる。」
「!? 何を言ってるんですか!?
無理です出来っこありません!」
マシュが何を言ってるんだ?とでも言いたげに叫ぶが、青年は無視して2人を下ろす。
「君、マシュを頼んだ。
もし俺が戻ってくるまでに他のハカイダーやゼロワンが来たらこれを鳴らせ。飛んで駆けつける。」
そう言って立香にハーモニカを握らせる。
「うん、わかった。」
「では、行ってくる。」
「ま、待ってください!
幾らなんでも自殺行為です!
不可能に挑むことは勇気とは言いません!」
「マシュ、海野博士は最期に俺にこう言い残した。
たとえ机上の空論でも、
諦めない限り可能性はゼロじゃない。と。」
そう言って青年は走り出した。
一斉に振り向く戦闘ロボット達。
青年は、両腕を大きく振り上げ、二つの円とWの文字があしらわれたバックル前で交差させた。
バチンバチンバチン!
手首に取り付けられた電磁ベルトが起動して彼の身体が戦闘モードに移行、体表全体を覆う有機ELが映像投影を中止し、
特殊カーボンと強化ガラスのボディーが露わになる。
「チェインジ!
『mission code kikaider!』
認識音とともに彼はキカイダー00に変身した。
尚も走り続け、両腕をXの字に交差させる。
一の腕が二つに割れて中から超振動のプロトタイプ電磁ブレードが飛び出す!
直ぐに銃を構えるアンドロイド達だが00の方が早い!
『double slash!』
「W斬り!」
まず、レールガンのゼロワンを一撃の元に破壊して、
その爆発で出来た煙をブラインドにして背後にいた六体のハカイダーをなます斬りにする!
ハカイダーのロストした位置を頼りにゼロワンのサンライズマシンガンや残ったハカイダーのビームピストルが撃たれる。
しかし00は頭部以外が残っているハカイダーを盾にして進み、
手甲のゼロワンの顔面を抜手1発で貫通、破壊して倒す。
残るはハカイダーが2体にスラスターのゼロワンのみ、戦いは空に移った。
00が両脚のラムジェットエンジンを起動させて飛んだのに続いて飛んでくる。
「見様見真似の猿真似、
所詮設計から行動パターンに至るまでパクリの雑魚め。」
引導を渡してやる!
三体の銃撃を避けながら月を背に00は最大の切り札を切った。
「ブロウ!アップ!」
『all artillery equipment active!』
太腿の追尾ミサイル、両胸のマシンガン、
頭部レーザー砲、両手の指のビームガンが解放されて一斉に放たれる。
繰り出された百熱の嵐は三体のロボットを容赦なく鉄屑に変えた。
「ふん、数だけは居たな。予定通りだが、
目標達成とはいかなかったか。」
本当は一体につき0.5秒で終わらせるつもりだっただけに12体に約10秒はかかり過ぎだったと反省しながら00は藤丸少年とマシュの元に急いだ。
ナレーション「見事ロボット軍団に勝利を収めた00。
しかし、2人の元に急ぐ彼のもとにダークの破壊ロボット、ゴールデンバットとその配下達が立ち塞がる!
次回、infinite time キカイダー00、黄金塔でドラキュラが嗤う!にご期待ください!」