13日戦争で滅びるはずだった両雄(新)   作:空社長

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物語の始まりは13日戦争の開戦直後から始まります。


Episode.0(プロローグ)(前)【13日戦争の幕開け】

 「赤い旗は朽ちず」

 

 この世界は我々の世界から認識できず、且つ歴史が違うパラレルワールドである。

 ワルシャワ条約機構(WTO)盟主、ソヴィエト社会主義共和国連邦(USSR)が崩壊することなく、アメリカ合衆国に並ぶ国力を保持し続けた。

 冷戦は数度の雪解けを経つつも終結することは無く、幾度の代理戦争が起き、朝鮮半島、インドシナ半島、中東、アフリカ、バルカン半島、ドイツ、そして日本が東西両陣営の軍隊が争う舞台となった。

 その後、ソヴィエトが東欧を軛から解放し、ロシア・ユーラシア社会主義諸国連邦という連合体へと姿を変えても対立は終わらず、やがて両陣営は統合国家を形成し、西側、東側陣営共に世界をほぼ二分する2つの超大国が出来上がった。

 

───北方連合国家(ノーザン・コンドミニアム)三大陸(ユナイテッド・ステーツ)合州国(・オブ・ユーラブリカ)という2つの超大国が───

 

_A.D.2039年6月1日P.M.4時_

北アメリカ大陸アラスカ

 

 戦車の砲撃、爆弾の炸裂音が響き渡り、二階建ての家屋は砕け散り、高層マンションは地響きを立てながら崩れ落ちる。

 銃撃も間髪無く聞こえ、平和には遠い日常である。

 三大陸合州国による宣戦布告直後の北アメリカ侵攻は、わずか二日でアラスカの大半を占領したものの、その侵攻速度は停滞しつつあった。

 アラスカ州アンカレッジ市にあるエルメンドルフ空軍基地は、アラスカ州唯一の空軍基地ということもあり、ユーラブリカ軍の襲撃を受けて陥落、現在は接収されて侵攻軍の臨時司令部が置かれた。

 

「同志中将」

 

 北米侵攻軍司令官である男が、参謀から一つの端末が渡される。

 

「全軍の侵攻速度が低下しているようです、さらにハワイを急襲した第67潜水艦師団は、ハワイの防衛戦力に撃退されたようで」

「やはり二日もたてば、こちらの機甲戦力に相当する部隊を投入してくるか……、ハワイなどは戦争前から予想できたことだ」

 

 中将は手元のコップでコーヒーを飲み、一息つく。

 

「幸い、この空軍基地を利用しての航空連隊の展開は完了していますので、航空優勢は取れています」

「その航空優勢を生かしたいのはやまやまだが、地の利はコンドミニアム側にある。そろそろ、戦域弾道弾による戦術ミサイル攻撃を行うべきか……敵の地上戦力ごと街を吹き飛ばすぞ」

「はっ」

 

 アンカレッジ前線後方にある戦域弾道ミサイルシステムは、射程内のアメリカ大陸西岸の都市に照準を向ける。

 中将が発射命令を下そうとする、その時、司令部周辺の対空レーダーが航空機の接近を通報した。

 

「同志中将!真東、三時方向より、3機の敵性航空機の接近を確認!F-35系列だと思われます!」

 

 オペレーターが、司令部に入ってきた情報を簡潔にまとめ、報告する。 

 

「ただちに迎撃機を出撃させろ、防空ミサイルも補足次第順次発射だ!」

 

 滑走路より、スクランブル待機していた迎撃機が命令を聞くまでもなく次々に飛び立ち、基地周辺の多連装防空ミサイルシステムは、対空ミサイルを撃ち尽くす。

 

「なぜ、たった3機で……」

「もしかすると、戦域弾道ミサイルの破壊目的では?」

「予測されるのはそれぐらいだが……」

 

 アフターバーナーを起動し、超音速巡航でアンカレッジ上空高度5000mに侵入したF-35AL3機は、迎撃ミサイルを探知するとすぐに翼下のハードポイントの無人航空機4機を順次射出しデコイとして降下させ、その内1機が多数の対空ミサイルの餌食となる。

 F-35AL3機はある程度の距離に分散し、アフターバーナーを切り、ウェポンベイを開放する。

 

「Drop now.」

 

 その一声ともに、スイッチが押され、3機より筒状の物が落とされる。

 筒は、高度3000mまで降下した時点が内蔵されたシステムにより、自壊。その中から現れたのは、先端が鋭く細長い筒であり、分散した破片は1個1個がデコイとして機能、対空ミサイルの追尾を受ける。

 一方で筒の方は、重力加速度に伴い、急加速。いつの間にか、対空ミサイルの迎撃不可能距離の内側に入り、そして、地上手前で起爆する。

 眩いばかりの閃光が発せられ中将は遅いと思いながらも、無線機に叫ぶ。

 

「全員、身をかがめ!頭を伏せろ!」

 

 しかし、衝撃音は一切せず、熱さや痛みを感じない、肌にふれる空気の感触も冷たいものだった。

 不思議に思った中将は頭を上げると、そこには数十秒前とは変わらぬ風景が広がっていた。

 

「さっきのは一体……?」

 

 中将が疑問を抱いていると、起き上がった1人のオペレーターが異変に気付く。

 

「ち、中将!これを───」

 

 その言葉は突然遮られる。黒い影が臨時司令部のすぐ近くに落下し爆発音を上げる。

 ユーラブリカ空軍ステルス戦闘機Su-57は大きく損壊し炎を上げ、近くにいた者によってパイロットが救出される中、横たわっていた。

 その光景を見て、中将は一つの答えに辿り着く。

 

(まさか、これは……)

「中将!すべての電子機器が反応しません!先ほどのは……EMP爆弾だと思います」

「……だろうな……くそがっ!」

 

 中将は机に拳を叩きつける。

 

「同志中将、これからどうしますか?」

「どうもこうも悩む余地はない。この端末にあった報告で、敵前線部隊の数が少なくなったとあった。おそらく、EMPに晒されても活動可能な部隊を残していたのだろう、部隊の現状は、同期が不可能になった以上、直接連絡を取り合うしかあるまい」

「伝令兵を派遣しますか?」

「ああ、降伏にするにせよ、抗戦するにせよ、まずは集結する以外ない、偵察隊の中から人員を選別しろ」

「はっ」

 

「一切の電波が発されなくなった。ミッションクリアだ、全機帰投する」

 

 EMP爆弾投下後、起爆効果範囲外に待機していた3機は戦果確認を行った。今回の強襲に際しF-35ALにはAAM2発以外の通常武装は搭載されていない為、帰投するしかない。

 

「恨むなよ、ただ我々は母国の勝利の為に作戦を遂行したのだから」

 

 一人のパイロットが下を見つめながらつぶやく。直後、3機はアフターバーナー無しの最高加速に達し、アラスカ上空を離脱した。

 

_A.D.2039年6月1日P.M.6時_

北方連合国家(ノーザン・コンドミニアム)北アメリカ大陸連合アメリカ連邦地域ミシガン州

連合中枢特別区(Union Central District)フィールディング

 

 北アメリカ大陸東部、アメリカ連邦地域ミシガン州。ミシガン湖とエリ―湖に挟まれた平地で、シカゴとデトロイトの間に一つの巨大都市がある。シカゴとデトロイトを含む大都市圏に属するそれは北方連合国家の中枢が集まるいわば首都であった。

 アメリカ合衆国第48代(最後の)大統領であったチェスター・B・フィールディングが、西側諸国の連合体である北方連合国家の成立を宣言したのを記念し、北アメリカ大陸連合の行政、北方連合国家の統制を行う首都として、その名が冠され、本人は北方連合国家初代連合大統領に就任している。

 その巨大都市フィールディングの中心部、政府機関が連なっている中で、一つの巨大施設がある。

 

 連合政府緊急事態戦略センター(ALESC)

 

 地上3階、地下7階という層で構成され、地上よりも地下の方が容量の大きいこの施設は、地上より地下の施設の重要度が高いという内部の構成から戦争等の非常事態に臨時統括指揮所を兼ねることが伺える。

 

連合安全保障省ALESC内安全保障統合指令室

 

「F-35AL、ミッションクリア。現在帰投中」

「EMP爆弾の効力継続中。周辺の空軍基地には回避要請を行います」

「敵部隊に動き無し、電波発信も確認されず。敵部隊は完全に沈黙した模様」

「ハワイの損害は軽微、敵潜水艦隊は現在ペトロハブロフスク・カムチャツキー基地へ帰投中の模様」

「アジア戦線の動きは変わらず」

 

 職員が走り回り、オペレーターは戦闘部隊からの報告を簡潔に口に出し、手慣れた動きで戦闘情報を分析室のデータに送り込む。

 その騒がしい安全保障統合指令室の奥には、安全保障長官用の別室が設けられていた。安全保障長官シミオン・T・カーは、自分の手元で三、四個の情報端末を起き、目の前に設置されたディスプレイに映された相手の顔を見る。

 その相手は、北方連合国家第3代連合大統領で連合政府のトップに当たる、ニコラス・C・アルフォードである。

 彼はALESC内に設けられた大統領執務室におり、ALESC内の専用回線で連合政府の全閣僚と繋げている。なお、彼の執務室では、地下にいるという憂鬱な気分を晴らすため、座席の後ろの壁にフィールディングの街並を投影している。

 

『状況を説明してくれ』

 

 アルフォードが口を開く。その言葉を安全保障長官である自分に向けて話すということは、戦況説明を求めているだろうということは簡単に予想がつく。

 

「ユーラブリカのアラスカ侵攻軍ですが、精鋭3機によるEMP爆弾投下によって敵部隊はしばらく動くことができないことから、速やかに反攻部隊を編成し、アラスカの奪還に赴く予定です。また、同日ハワイに潜水艦隊の強襲がありましたが、軽微の損害で撃退に成功しています。ただ、ユーラブリカ本土への攻撃は現在不可能に近いです。イラン、ウイグルでは、両軍共に多数の機械化部隊を動員しており、元々のインフラが悪いことも影響し、突破は不可能です。バルト海からの侵攻も計画していましたが、ユーラブリカのバルチック艦隊の攻撃に晒される為、困難を極めます。本土への強襲上陸について検討もしていますが、ユーラブリカが我々と同じような手を使ってしまえば、元も子もありません」

 

 カーの発言にアルフォードは眉をひそめる。その不快感は、カーに向けたものではなく、その報告した内容に向けてである。

 

『膠着状態か……未だ2日、いやたった2日というべきか。最後の代理戦争から数十年程経っているが、これほどとはな』

「代理戦争とは、規模が比べ物になりません。そもそも両国ともにあれは本腰ではありませんでしたから」

 

 ふむ、と呟きつつ、アルフォードは端末を見つめる。

 

『地図上に戦略ミサイル潜水艦の配置を載せているということは、安全保障省もそれを覚悟しているということか、核戦争を

「ですが、やりたくはないものです。一撃で数百万人が吹き飛ぶ爆弾を投げつけあう野蛮な戦争は」

『それは、私も同感だ。核戦争をやるにしても、我々は受け身でなければならない。ユーラブリカから先に核攻撃が行われたという正当性を、後世に残さなければならない』

「確かに先制攻撃は間違いであることは、歴史が証明しています」

 

 カーの発言は、アメリカ合衆国が、他国へ核兵器を譲渡した疑いをかけ、ある国へと戦争を行い、後にその戦争はやるべきではなかったと批判されたことを遠回しに伝えていた。それは、今までの大統領の政策を一通り見てきているアルフォードも理解する。

 

『あの戦争は、その国を混乱に導いたからな、今では他国の属国となっている始末だ』

 

 アルフォードはそう答え、一息つく。そして、決断を出す。

 

『先制核攻撃は行われてはならないが、反撃の手段を整えなくてはならない。カー長官、わが国が有する戦略ミサイル潜水艦全艦を展開させろ。また、核搭載型巡航ミサイルを搭載できる攻撃型潜水艦の配備も行え』

「地上配備型弾道ミサイルの展開はどうしますか?」

『かえって、圧力をかけてはまずいだろう。その前に迎撃手段の配備が最優先だ。会議は1時間後、それまでにすべての指令を出しおいてくれ』

「分かりました」

 

 映像回線が閉じられる。カーは命令の多さにため息をつく。が、そう休む暇もなかった。

 

「長官、アラスカ方面戦術統合任務部隊(ATF)の再編が完了しました」

「ただちに作戦を開始。敵の反撃は少ないと思うが、十分注意しろ」

「分かっております、それでは」




■次回予告

Episode.0(プロローグ)(後) 【秒読み段階】

緒戦の結果を知った三大陸合州国は実行に移す。
それは世界を滅ぼしかねない代物だった。

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