13日戦争で滅びるはずだった両雄(新)   作:空社長

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Episode.6【来訪】

_C.C.(中央暦)1635年6月11日A.M.8時_

グアム島北西空域

 

 雲一つ無い青空を神聖ミリシアル帝国航空機、『ゲルニカ35』型が飛行する。

 その前方に2倍以上の全長を持つB-52に先導されながら、真っ直ぐとグアム島を目指していた。

 機内では5人のミリシアル人、加えて北方連合国家国務長官のスクワイアが座席に座っていた。

 

「ふぅ……1時間程度の時間ですが、小休憩するのには丁度良いですね」

 

 腕を伸ばしながらライドルカがぼやく。

 窓を見ていたスクワイアはその声に気づくと、背筋を伸ばし口を開く。

 

「では予定通り、グアム・アンダーセン空軍基地に到着後、機体を乗り換えて頂きます」

「そうですか……本来なら我々が自国の機体で赴くべきですが、無補給で往復約1万kmを飛ぶことは難しいですからね」

 

 そう言うフィアームだったが、表情からは悔しさが滲み出ていた。

 

(片道でも5000kmはある……それを無補給で行くなど信じられない)

 

 自国の力を絶対視していた彼女にとって北方連合国家の力は信じ難かったが、上司から真面目に説明されたことで、巨大なタイプライター程の大きさもある魔導式計算機の持参を諦めていた。

 そんな様子のフィアームを意識外に置き、スクワイアは耳元の通信機から連絡を受信する。

 

「失礼。グアム島から歓迎の為、戦闘機が来るようです、いらないと断わったのですが、軍上層部がどうしてもやりたいと言っていたので、突然になり申し訳ありません」

「歓迎ですか……」

「ふむ……」

 

 使節団の5人はどんな機体が来るのかを想像する。

 あっという間にその時間は過ぎ、暴風のような轟音が機外から響く。

 

「……来ましたね」

 

 二ついるその機体は圧倒的な速さでゲルニカの両横を通り過ぎると、その後方で交差するようにして旋回しながら速度を落とす。

 そして、同じ高度に合わせると、ゲルニカに窓から最も見えやすい位置に微調整しながら並走し始める。

 

「予想していたが、これ程とは」

 

 左の座席に座るアルパナがその窓から歓迎していた機体を、特に機体後部と翼を注視して驚いていた。

 

「F-15戦闘機、最高時速2500km。我々北方連合国家が誇る支援戦闘機です」

 

 そんな使節団の様子を見ながら、スクワイアは淡々と機体の解説を行ってきた。

 

「2500km!?」

「それはすごい!」

 

 フィアームは想像を絶する速度に顔を青くし、ベルーノは鼻息荒く興奮した表情で窓の外のF-15を凝視する。

 

「ちょっと待ってください!支援戦闘機って……では主力は別にいるのですか?」

「ええ。もちろんです。この機体の初期型を運用し始めたのは今から60年も前の事です。既にそれより新しい機体が主力として活躍しています」

「そうですか……」

 

 ライドルカはそう返しつつ、想像を巡らせていた。

 

(時速2500kmもある機体が支援機だなんて、では主力はどんな性能なんだ……)

 

 しかし、この時ライドルカは失念していた。

 速さこそが全てではないことを。

 北方連合国家空軍主力戦闘機、F-35。

 それは神聖ミリシアル帝国が知らない概念であるステルス性を持ち、コストパフォーマンスに優れた機体でもあった。

 

_C.C.1635年6月11日A.M.9時_

北方連合国家アメリカ連邦地域グアム州

太平洋空軍アンダーセン空軍基地

 

 B-52の先導や、F-15の誘導もあってグアム島へと到着したゲルニカ35型は、先に着陸したB-52に続いて無事な着陸を果たしていた。

 B-52に搭乗するミリシアル空軍士官を介して管制塔の指示により駐機場へと移動する間、使節団の面々は窓からアンダーセン空軍基地の様子を眺めていた。

 

「これは……!」

 

 アルパナはそんな外の様子に釘付けとなって固まっていた。

 見える限りでも10機以上のB-52、数多の戦闘機が並ぶ光景に思わず唖然としていた。

 北方連合国家空軍が横田と並ぶ極東アジア方面の重要基地として重点的な配備を行っているアンダーセン空軍基地の姿がそこにはあった。

 

「これ程とはね……」

(これらは我が国へと向ける戦力では無いだろう、恐らく転移前での戦争に使う予定だったか……。しかし、もし侵攻してくれば古代兵器を駆使しなければ拮抗に持ち込むことすら不可能だね……)

 

 メテオスは思考に耽っている中で、敵対すれば脅威であることを認識し、瞬く間に蹂躙されかねない祖国の事を思い身震いする。

 

「それでは、そろそろ降りましょう」

 

 使節団の反応を見ながら、スクワイアは頃合いを見て催促する。

 タラップを降り、基地施設の応接間にて、アンダーセン空軍基地の基地司令官自ら出迎えた。

 

「ようこそ、グアム島アンダーセン空軍基地へ。世界最強たる神聖ミリシアル帝国の皆様にここグアム島へはるばるお越しいただけて誠に感謝しております。アンダーセン空軍基地司令のベイカー少将です」

 

 にこやかな笑顔と共に挨拶をしたベイカーは手を差し出した。

 彼の世界最強という言葉が上辺だけの言葉だと使節団の面々は理解していたが、決して上から見ない尊重した態度に気をよくしていた。

 フィアーム自らその手を握って握手をしながら笑顔のまま応える。

 

「こちらこそご丁寧な挨拶をありがとうございます。神聖ミリシアル帝国外務省から参りました外交官及び使節団代表のフィアームと申します」

「フィアーム殿ですか、短い時間ではありますがよろしくお願いします。歓迎式典を行えず申し訳ありません」

「いえいえ、こちらこそサプライズをいただきありがとうございます」

 

 その時、ふとベイカーの表情が切り替わる。にこやかな笑顔から意味深な笑顔へと変わっていた。

 

「そうですか……。ですが、それ以上の驚きが本土へと向かう間にも沢山ありますよ。身が持つか私としては心配ですな」

 

 ベイカーの言葉に、使節団の面々は衝撃を受ける。

 フィアームは若干顔を青白くし、その他の者は驚愕や興奮など様々な表情を浮かべた。

 

「まあ、あなた方なら大丈夫でしょう。それでは、短い時間ではありますが、休憩室へとご案内いたします。……何か質問はございませんか?」

「私からよろしいか?」

 

 ベイカーの発言にメテオスが手を上げる。

 

「ええ、大丈夫です」

「これはあくまでも私の推測なのだが、先ほど先導して頂いた機体やここに並ぶその同型機は、コア魔法、あなた方の言う核兵器を搭載することのできる爆撃機だと思うのだが、違うだろうか?」

 

 一瞬沈黙が走る。

 使節団側は不味いことを聞いてしまったかと不安がり、ベイカーとスクワイアは互いに目配せをする。

 

「ご明察です。このB-52は戦略爆撃機という機種に種別されます。我が国がかつて統一政体となる前から運用されている機体であり、当初は核兵器のみを運搬可能な機体として開発されました。今や核兵器による攻撃手段は別のものに代替されておりますが、現在も確かに核兵器を搭載して運用できる機体ではあります」

「なぜ代替されたのですか?」

「……そうですね、様々な理由がありますが、簡潔にお答えするならば、時代遅れが一番近いと思われます」

 

 時代遅れ。

 神聖ミリシアル帝国も爆撃機相当の天の浮舟から通常爆弾を投下する方法を採っているが、それを時代遅れと告げられた。

 常識的にあり得そうな攻撃方法を時代遅れとさせたのは一体どんな方法なのか、考えに耽る。

 その考えが休憩室にいる間に正解に辿り着くことは無く、時間は過ぎていく。

 

 その後、一行は待機していた北方連合国家連合政府高官専用機の『C-37B』へと搭乗し一路ハワイを目指した。

 時速900kmというゲルニカ35型の二倍近い安定した速度性能を発揮して使節団の面々を驚かせたが、一方でゲルニカをも上回る快適性に疲れることも無く、ゆったりと落ち着いた空の旅を過ごすことができた。

 

_C.C.1635年6月11日P.M.2時_

北方連合国家ハワイ州

オアフ島パールハーバー・ヒッカム統合基地

 

 北方連合国家インド太平洋軍の根拠地としてその機能の一部を有するパールハーバー・ヒッカム統合基地のヒッカム空軍基地に一行は降り立っていた。

 そして、そこで彼らの常識では考えられない衝撃の光景が映っていた。

 

「なんだ……これは」

 

 フィアームが顔面蒼白でぼやき、その他の面々も頬を叩いたり目をこすったりと、自分の目で見てるものさえ信じられないと思っていた。

 

「雲を突き抜けてる……相当高いですね」

 

 比較的ライドルカが声を震わせながらも冷静に分析する。

 

「軌道エレベーター。地上と宇宙を結ぶ道路みたいなものです」

 

 説明するスクワイアに、アルパナが自身に頭をフル回転させながら問いかけた。

 

「道路……?つまり、人と物も輸送するということですか?」

「しかし……いや、なぜ宇宙に物や人を送る必要があるのですか?」

 

 ベルーノは宇宙空間に活動領域を広げてることに疑問を持つも、まずはこの軌道エレベーターの必要性について質問した。

 

「必要性ですか、お察しの方もいるとは思われますが、我が国は宇宙へと活動領域を広げています。しかし宇宙で活動する際、毎回地上から宇宙へと輸送船などで運ぶ際には惑星の重力圏から脱出しなければならず、途方もないコストがかかります。それを解決したのがこの軌道エレベーターであり、我々には宇宙で作業することのできる船をもちますが、わざわざ地上へと帰還させずに宇宙空間で補給することも可能にしました」

「なるほど……ところで、現在は稼働していないように見えますが」

「よくお気づきで。転移前に行われていた戦争においてユーラブリカの海上戦力がここを急襲した際、軌道エレベーターが損傷してしまったので、現在は修理中です」

 

 情報官としての目敏さで動いていないことを疑問を思ったライドルカの問いにスクワイアは淡々と答えていく。

 スクワイアの言った宇宙での作業船が存在することは紛れも無い事実であったが、軌道エレベーターにはもう一つの役割があった。

 それは宇宙軍宇宙戦闘部隊の母港であり、武器弾薬の補給拠点でもあった。

 同様に宇宙艦隊を運用している三大陸合州国もその役割には気づいており、要塞化されたオアフ島に攻撃を仕掛け、軌道エレベーターに損傷を負わせていた。

 この宇宙艦隊を運用していることを神聖ミリシアル帝国に明かさない理由はただ一つ、弱小国を威圧する艦隊の事を教えて無用に刺激を与えない為であった。

 

(ふむ……作業船とはいえ、武装を付ければそれは戦闘艦艇となるだろう……それを明かさない理由はなんだろうね)

 

 誰もが軌道エレベーターに衝撃を受けている中で、メテオスが内心宇宙艦隊の存在に気が付いていた。

 

 その後、一行はヒッカム空軍基地を離れ、パールハーバーを一望できる小高い丘へと移動する。

 そこは平時だと軍艦マニアなどの間で写真を撮ることの多い著名な場所であったが、転移直後ということも相まって人は全くいなかった。

 

「これは凄い……!」

 

 ベルーノが興奮したような面持ちで、至る所に見える艦艇を観察する。

 

「しかし……遠目に見えるだけでも100隻以上の整列した艦艇が……小さい島なのに、これは一体」

 

 ライドルカが望遠鏡で覗き込み、整列した艦艇群に圧倒されながらも、スクワイアに尋ねる。

 

「ここは北方連合国家インド太平洋軍の太平洋艦隊の母港です。太平洋というのは前世界においてここから一望できる海の名称です。ベリアーレ海というのは存じ上げていますが、90年以上も使い続けている名称故、変更は難しいのです。さて、今後お伝えされるかもしれませんが、北方連合国家海軍の主要戦闘艦艇数は600隻に上ります。この5分の1を太平洋艦隊の管理下にありました」

 

 600隻という数に、使節団の面々は唖然とする。

 神聖ミリシアル帝国海軍でも200隻程度しかない事を考えれば、600隻という数に恐怖さえ覚えていた。

 

「また、下に戻ります。中には入れませんが、戦艦と空母を外見のみ観覧できます」

 

 その言葉通り、スクワイアは使節団一行をパールハーバー海軍基地へと案内する。

 一番近い岸壁にはそれぞれ1隻の戦艦と空母が停泊していた。

 前者はネブラスカ級戦艦「バーモント」、後者はアーヴィング・デイ級航空母艦「アルガード・H・グラスゴー」であった。

 

「デカい……!」

 

 アルパナは一目見て感じた印象を声に出す。

 ネブラスカ級戦艦は全長280m、アーヴィング・デイ級航空母艦に至っては344mという巨体を持ち、神聖ミリシアル帝国海軍の中でも最大のロデオス級が235mしかなく、小さく感じられた。

 

「これ程とはな……」

 

 既に北方連合国家が神聖ミリシアル帝国を軽く上回る国であることは何回も痛感しているフィアームであったが、戦艦と空母という神聖ミリシアル帝国が力を入れている技術分野が負けていることで、彼女の中で燻っていた世界最強のプライドは完全に潰えた。




■次回予告

Episode.7【衝撃】
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