歴史映像の書き方に苦戦……
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連合首都フィールディングU.D.市内ホテル
「恐ろしい歴史の連続でしたね……」
「技術者の私としても、驚きに値するものばかりでした……まさか、彼らが100年近く前にコア魔法モドキを既に作り上げていたとは」
“ミラーカテドラル”を離れた使節団一行は用意されたホテルへと移動。
豪華な食事も半ば上の空で夕食を終え、それぞれの部屋から宿泊客専用のラウンジで集まった。
建国から第2次世界大戦終結までの歴史映像を見せられた彼らは自国の歴史とのあまりの違いに、半ばお通夜状態と化していた。
しかし、努力して世界最強となった国なりに、驚きの余り頭が真っ白になるほど怠惰ではなく、噛み砕いて持ち帰る為に考察を繰り返す。
「コンドミニアムの母体、確か……アメリカだったか。
かの国が大国なり得たのはやはり、戦争の後方にいたからでは無いだろうか。
言葉は悪いが、後方地域だったからこそ武器輸出で金を稼ぐ事が出来て、それで成長を遂げたのでは無いか?」
「フィアーム外交官、それは違うのでは?
確かに、1次大戦では完全な後方国家であり連合国を支援して途中からの参戦だ。
そう思われても致し方ないが、2次大戦では日本と真正面で戦争を繰り広げている。
稼ぐだけなら小国でも可能だが、彼らにあるのは豊かな経済力とそれに裏打ちされた戦争を終わらせられる戦力、そして技術を発展させようとする意思だ」
「そう、科学の発明によって敵国を圧倒する兵器を作り上げることが出来たのも、彼らが大国足り得る要因だろうね」
批評が一つも無い、唯の感想会という光景は変わらず、時間だけがすぎていく。
その中で一人の男、アルパナ軍務次官が表情を険しくしながら手を挙げる。
「先に結論から話そう。
詳細なデータも無いが、彼らの100年前に───我々は、間違い無く負ける」
静まり返った場にフィアーム外交官のため息が1つ。
「……分かりきっていたが、やはり圧倒的すぎる。
公式記録しか読んでいないが、あのような戦闘は我が国の記録には無い」
フィアームの反応と同時に、ライドルカ情報局員が貰った地球の地図を机上に広げていく。
「そもそも……2次大戦は総力戦であったのに、この国は2つの敵を同時に相手しているのですよ。
地図を見ても、ヨーロッパ側はイギリスという防壁がありますが、それでも二正面で戦っている。
規格外と評する以外に他ありません」
「彼らが大国となった理由には十分に理解した、しかし私としては彼らの行く末が気になる所だね」
ライドルカの話す内容によってアメリカが通常では考えられない二正面戦争すら可能な規格外国家ということを認識し、一行は息を吞む。
話題を変えようと、メテオスは明日話される歴史について言葉を零す。
「冷戦か……まず明らかなのは、ユーラブリカという国の母体となったのは、このソヴィエト連邦とかいう国だろう。
その素性を深く知ることは出来なかったが、共産主義とかいう王や皇帝を否定する思想を標榜した国家らしい」
「我々にとっては危険思想ですが……それはともかく、陛下がお聞きした話によれば、相互確証破壊を前提とした戦略で対峙していたとの事です」
アルパナが話すソヴィエト連邦の建前をフィアームは危険思想と評しつつ、外務大臣より伝えられた内容を話す。
「相互確証破壊?」
「我々と同行したスクワイア殿から話された事ですが、核による攻撃を受けた場合には核による報復を行い、敵国の戦争能力を奪う戦略とのことです」
フィアームの話した内容に一行は恐怖すら覚える。
「つまり……無限に核を撃ち合うことも可能、最悪互いに滅びるまで続く戦略か……」
「恐ろしい、としか言いようがないね」
その後、使節団一行は深夜近くまで議論を続けた後、就寝へと至る。
_1635年6月13日A.M.9時00分_
“ミラーカテドラル” 来賓室
翌日、再び使節団一行は映像の視聴を始める。
【第2次世界大戦後、連合国の軍隊は協定に基づいて国家の変革、非武装化を名目に枢軸各国の保障占領を開始します。
しかし、ソヴィエト連邦は協定に決められたドイツの分割以外に、講和条約以後も侵攻した日本の北側、反抗組織の鎮圧を名目にイタリアの東部すら占領。
度重なる協定違反にアメリカ、ソ連間の相互不信と対立は増していき、ドイツを筆頭に分断された国々はアメリカ、ソ連の手によって協力的な政権を樹立させました。
対立の最前線となったヨーロッパ地域において、1949年にアメリカ主導の北大西洋条約機構『NATO』、1955年にソ連主導のワルシャワ条約機構*1をそれぞれ結成。
その他の地域でも、アメリカを盟主とする陣営【西側】とソ連を盟主とする陣営【東側】への引き込みが進み、世界は陣営間の対立を深めていきました】
映像に映る世界地図が、西側を示す青と東側を示す赤の二色に染められていく様を見て、使節団の面々は息を呑む。
「再び、世界が分断されていく……」
【しかしアメリカ、ソ連共に核開発に成功しており急速な軍事開発を推し進める両国は膨大な被害が予想される直接対決を恐れ、核戦争の危機を数度迎えたものの、直接戦火を交えない戦争『冷戦』と呼ばれる対立状態を生み出しました。
一方でその冷戦下において、分断政権同士の対立を始めとし転覆工作や国家の分断工作等によって生じた代理戦争が数多く引き起こされ、対立勢力の抑止を目的に被害の大小問わず犠牲が容認されてきた時代でした。
冷戦の最中で対立の緩和という『雪解け』が何度か訪れ、幾つかの約束事が決められましたが、完全には和解に至らず。
結果的に、1989年に当時のソ連政権が経済再編を理由に冷戦終結へと合意し、世界は
「約40年もの間、核戦争を止める理性を失う事は無く対立を続けてきたのか……我々に同じ事はできないな……」
アルパナは眉を顰め、苦み潰したような表情を浮かべながら自国を評価する。
軍務次官として自国の軍務体制を知る彼だからこそ評価できるものだった。
「『緊張緩和』と……完全に終わったという言葉が紡がれないのは、やはり」
その隣でライドルカは目の前で対峙する国がアメリカではなく北方連合国家という国に変わっている現状から次の展開を察する。
【冷戦時代、アメリカとソ連の両国は激しい軍事開発競争に明け暮れており、特に代表的なのは黎明期であったジェット機とロケット技術の発展でした。
ジェットエンジンは敵地上空へと高速で進入する目的の為、より高速域での飛行が求められ、最高時速1000km以上の音速機が空戦の主役となっていきました。
それに加えて、砲弾や機銃よりも速くより遠い場所を狙い撃てる兵器として、誘導式の爆薬を積んだロケット、つまり誘導ミサイルが開発されました。
それは従来の戦場を塗り替え、回避し耐える事よりも、どう迎撃するか、妨害するかを求められるようになりました】
映像で見せられるのはジェット戦闘機が飛行し、積んでいたミサイルがどう標的への命中するかの実機映像、そしてミサイル駆逐艦が遥か彼方の標的艦に対艦ミサイルを放つイメージ映像であり、使節団の面々は自分達が知る戦場と異なる物に衝撃を受けていた。
「まさか……彼らの小型艦の砲が一門しか無いのは、ミサイルで十分だからということか……!確かに、ミサイルを砲弾で撃ち落とすのは難しいからな」
ベルーノはパールハーバーで見た海軍艦艇の事を思い出し、納得が言ったような表情と共に小型艦でも勝てない現実を突きつけられ、頭を抱える。
「……大型爆撃機が時代遅れとされた理由はおそらく───これだろうね」
隣にいたメテオスもアンダーセン空軍基地にて告げられた内容を思い出し、推測する。
その推測の答え合わせをするように、映像は続く。
【ミサイル技術の発展により、核兵器の運搬手段にも変化が訪れました。
従来、爆撃機に積載し敵地上空から投下する手段を取っていましたが、防空部隊により投下母機が墜とされるリスクがありました。
そこで開発されたのは自国領土から打ち込める核弾頭を積載した弾道ミサイルという存在であり、僅かな時間で敵地に被害をもたらす事が可能になりました】
「これが相互確証破壊という事態をもたらした要因ですか……」
核ミサイルのイメージ映像と共にフィア―ムはそう感じていた。
【また、軍事分野以外にもロケット技術の発展は寄与していきました。
ロケットにより大気圏を突破する事が可能となり、アメリカ・ソ連両国は宇宙すらも科学研究分野における競争の場としました。
有人ロケットに人が乗り初めて自分たちの星『地球』の姿を目にすること、衛星『月』へと初めて降り立つこと、様々な人工衛星によって地球を観測する事、外側の世界を知る為に探査機を飛ばすこと。
人類全体の発展に欠かせない事でしたが、宇宙をその手が届く領域としたのです】
ソ連のとある宇宙飛行士が『地球は青かった』と語り、アメリカ人宇宙飛行士が月面へと旗を立てる実際の映像。
地球の外側で人工衛星が太陽光発電パネルを広げて活動を開始するイメージ映像。
そうした映像を見ていた彼らは宇宙への可能性を考え始めていた。
「長くかかるかもしれないが、我々でもいけると思えてしまうな……」
【しかし、デタントの時代は約20年で終わりを告げました。
冷戦の終結は当時の冷戦体制の終結を意味しており、陣営の主だった国すら変化していきました。
特にソ連は国家そのものを解体し、一部領土を失った代償に国力を大幅に強化した上でアメリカとの対立を鮮明にしていきました。
一方のアメリカも国家連合の形成により領土と国力を大幅に拡大し、今の盟主国と同様の状態に近づいていました。
決定的だったのは2010年代末、東西両陣営にも属さない第三世界において高い国力のあった中国側からの侵略戦争において現在の加盟国である日本と共に戦略的圧勝によって大国の座から追放した事件により、中立を堅持していた国々を除き両陣営の勢力図が明らかとなりました。
第2次冷戦と呼ばれる状態は、陣営そのものを国家に統合させる事態まで引き起こしました。
そうして出来上がったのは、北方連合国家と三大陸合州国という2つの超大国でした】
「……そして、両国はその後20年近くに渡って長い対立を続け、その軋轢により大規模戦争を起こし、核戦争の危機にすら直面した。
その後は既に話されているように、北方連合国家という国はこの世界に転移するに至ったのです」
従来の地球地図が出現して映像が終わると共に、アルフォードの口からその後の顛末が語られていった。
「長らくご視聴頂き、感謝します。
質問は多々あると思われますが、それぞれ全ての質問にお応えするとなると、日が暮れるまでかかる恐れがあります。
ですから、短い視察中に我が国の事を十分に知っていただく為、こちらをお貸し致します」
アルフォードは手元のテーブルに並べてあった黒い長方形の金属板を指し示す。
使節団5名全員分が置かれていた。
「……これは?」
「我が国で日常的に用いられている電子端末といったもので『スマートリンク』、略称として『リンク』と呼ばれています」
西暦2032年に登場したそれは、従来端末と形状は酷似しているものの、ホログラム展開機能や思考AIの標準搭載等の新機能の数々で一線を画していた。
「国務長官も同じ物を持っていますが、これは電話や写真撮影、情報の検索、非現金決済等と基本的な機能を搭載しています」
神聖ミリシアル帝国ではどれもが一つの機械でしか成り立たない物をこの手に持てるサイズで集約していることに驚きを隠せない。
「け、検索……調べ物ということか?……これのどこに辞書のような機能が……」
アルパナは困惑の余り『リンク』の周りを観察しようとするが、残念ながら現物の本はどこにもない。
「非現金決済……つまり、これだけで支払いができるということかね……?」
メテオスは言葉の意味から想像するも、どのようにして支払いするのかまでは想像することが出来なかった。
「では、初回起動なので……皆様、側面にある突起を3秒程度長押ししていただけますか?」
よく見ると折り畳み式になっており官邸職員が開いて黒いガラス面が露わになった端末一台ずつに使節団の面々は近づいて指示通り長押しする。
すると、ガラス面に白い文字で電子認証が完了した事を示す画面が表示される。
「白い画面が表示されましたね、これで生紋認証は完了です。簡単に言えば認証バンドと同じ物になりますが、これで最初に使った人以外が使う事は出来なくなりました。さらに、画面を開いた状態で手に持つだけで電源が付くようになります」
スクワイアに見せられた物と同様の機能が日常的に使用される物に付いてるとは思わず、これでも驚きを露わにしていく。
その驚きを他所にアルフォードは使用上の注意を述べていく。
・まず、無期限で貸与する事。視察中は理由に関わらず補償・交換対応を行い、帰国後はサービスパックにより期限内であれば交換可能という事。
・次に、国外使用可能な通信回線を契約済みであり、帰国後も使用可能な事。先の歴史映像資料もデータに入っている為、自由に閲覧が可能な事。
・アルフォード大統領、スクワイア国務長官といった限られた要人の連絡先を登録済み。電話連絡の要あれば連絡可能な事。
「……以上の通り、使節団の皆さまにご提供いたします。
スマートリンクの使用方法については官邸職員がお教えしますが、ご気軽に質問頂ければ幸いです」
説明を聞いた使節団の面々は、あまりのサービスに唖然としていた。
すぐにこれを使う事が出来ない数多くのミリシアル人と比べ、あまりにも豪運だった。
アルフォードが立ち去ると共に、官邸職員が5人それぞれに付いて使用方法を丁寧に教えていく。
最初は画面を触る事さえ臆病になっていた面々だったが、ある程度覚えていくと納得し感心したような表情と仕草を見せており、その機能に驚く回数も減っていくように見えた。
その後、次の目的地に向かう為、ミラーカテドラルを出る。
冷戦の推移について分かりにくい部分があったかもですが……
第1次冷戦→緊張緩和(デタント)→第2次冷戦
↑↑↑
雪解け
というのが推移になります。