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ワシントン州ヤキマトレーニングセンター
ミラーカテドラルを発ち空港から高官専用機『C-37B』にて向かう事、約5時間。
神聖ミリシアル帝国使節団の姿は北方連合国家陸軍の軍事演習場にあった。
高層ビルが建ち並ぶ首都とは打って変わって、乾燥した砂漠地帯の荒野。
しかし、砂漠ばかりではなくその中には建設途上のビル群という印象を与える都市区画があった。
『ブランセル』と呼ばれるそれは連合首都の新設時に候補とされていた場所であり、建設途中の不祥事により建設が中止されていた。
その廃墟同然のビル群を有効利用しようと買い取ったのが連合陸軍だった。
訓練の度に壊されるが、残骸の撤去と建物の設置という工兵部隊にとって最適な実戦演習の場であった。
軍事演習場の演習指揮センター、5階建ての建築物の屋上にて、使節団の面々が貸与された双眼鏡を構える。
都市区画を望む小高い丘にM1A4/HDE〈エイブラムスⅣ〉重戦車を筆頭とした戦車隊が並び、───ズドォン!という轟音と共に都市周辺へと砲撃を加えていく。
───演習の目的は敵戦力が存在する市街地へと進入し制圧する事。
所詮使節団へのデモンストレーションではあるが、演習に参加する者たちの表情は真剣そのものであった。
「あの主砲の威力、我々が知る陸上砲より明らかに大きい……まさか艦砲並みか……!?」
使節団の反応は様々であった。
アルパナはミリシアル陸軍が運用する牽引砲と比べて、その重戦車の主砲威力の過大さに驚き、
「あれが……無限軌道ですか、とはいえ図案の姿とは大きく違いますが。
完成形の姿はあのような規模の走破能力を持つのですね」
ライドルカは冷静さを装いつつも引きつった表情を浮かべながら砂漠を疾走する戦車の走破能力を分析する。
「ミサイル車両もいるのか...!あれ程の量を4つの場所に正確に着弾させるとは!」
ベルーノは戦車隊の後方にいた
「私は兵器にあまり詳しくないが……ミサイルの方が遥かに強いだろう?
何故、未だに砲弾を使う戦車を運用してるのだ?」
同じく双眼鏡で眺めていたフィアームは近くの陸軍士官に疑問を投げかける。
「確かにミサイルの方が遥かに強力なのは間違いないです。
しかし、当然強い兵器は基本的に高価な物ばかりです。
全弾命中が絶対出来るのであれば、問題は無いでしょうが……現実的に考えて、そんな事は難しいです」
彼は一度言葉を区切ると、砲兵等がいる方向へと視線を向けて、説明を再開する。
「一方、砲弾は基本的に安価で量産体制が整っています。
更に昔はともかく、今では優秀な照準システムがあるので、高い命中率を維持している為、長期的に見ても砲弾を使う方が安いのです」
「なるほどな……確かに砲弾は安く、数も揃えられるからな」
士官とフィアームが話してる間、無言で観察していたメテオスが口を開く。
「これは凄いねぇ…しかし奇妙だね。
彼らは
メテオスの気づきに士官達の間でわずかな動揺が走る。
「そ、それは……ゴホンッ、貴殿が仰られた通りです。
こちらの画面をご覧下さい」
画面には都市周辺の戦術MAPが表示されており、都市内部に赤い点が複数あるのが見えていた。
「説明が難しいので特殊な機器とさせていただきますが、それを用いて演習参加部隊にはこの赤い点を本来は存在しない敵部隊として認識させています。
そして、この敵に砲撃等を行うことで損害判定が出され、撃破したと見なされた場合にはこの赤い点が消えます。
この赤い点には測定機器が存在するのみで人への実害は一切ありません」
あまりにも奇想天外と思える物に使節団の面々は驚きの声を上げる中、演習は次のフェーズに移行する。
演習部隊指揮官が偵察情報から周辺の敵が排除されたと判断し、先行部隊を都市へと送り込む。
〈エイブラムスⅣ〉の後ろから勢いよく飛び出してきた複数の小柄な影、高台から平地への僅かな段差をものともせず、履帯を勇ましくキュルキュルキュル...!と回転させながら都市へと迫る。
M2A1〈パッカー〉軽戦車は不整地でありながら最高時速80kmの高速性を発揮し、躊躇なく砲塔を旋回させ先の重戦車主砲より口径の小さい主砲を連続で撃ち込む。
捕捉された軽装甲車両等が次々に撃破判定を下される中、ある1両の〈パッカー〉が未確認の敵演習車両から砲撃を受ける。
その砲撃は当該車両を充分に破壊可能な砲撃であったため、即座に撃破判定が下された。
「今のは……?」
アルパナが画面のMAPに映る青い点に否定記号がマークされた事に気づく。
「どうやら砲撃を受けた模様です。恐らく事前砲撃で敵戦車を掃討し切れていなかったかと」
この演習システムはただ砲撃訓練をさせる為では無く、戦術を間違えれば手痛い反撃を被る実戦演習であり、故に演習参加部隊の諸兵には実戦同様の緊張感があった。
予想だにしなかった火点からの砲撃は機動力を重視した軽戦車部隊にとって天敵であり、彼らは半壊に近い損害を受ける。
されど、多くの部隊が陣形を乱していない演習部隊側が依然として優勢であった。
更にはその反撃を封じるように大口径砲による様々な砲火が敵部隊のど真ん中に飛ぶ。
その状況を鑑みて演習部隊指揮官は温存していた主力戦車部隊を前に出し、トドメを刺そうと試みる。
「あの戦車は……また別の車両?」
M3A2〈グラントⅡ〉、
〈グラントⅡ〉は従来の主力戦車であった〈エイブラムスⅣ〉から多くの性能強化が図られているが、最も代表的なのは従来型が有人だった砲塔を無人化して、更に大口径の主砲を搭載した事だった。
従来砲よりも長い距離から重装甲化された車両を貫徹する事に特化させたもので、砂漠という戦場においては最適な主砲だった。
「あの巨大な砲……あの射程と威力、こっちの戦車は巡洋艦にも劣らぬ主砲威力を持つのか……!!」
〈エイブラムスⅣ〉を上回る超遠距離から放たれる〈グラントⅡ〉の主砲に対し、ベルーノは陸上の車両という常識から外れた存在に感じて激しく狼狽。
また主砲だけではなく、攻撃ヘリの武装を流用した砲塔上部の機関砲より放たれる、自動車すら粉砕する弾幕でビル街の壁面に無数の穴を開けていき、砲塔後部の爆弾投擲機で戦車の装甲にダメージを与える爆弾を投擲し、敵陣地に爆炎を降らせるといった猛獣のような闘いぶりには目を見張る。
それが約10両もの数で敵を圧倒していく様子に、使節団の面々は呆気に取られていた。
やがて、敵部隊の損耗が作戦行動が困難な限界値に達したと判断され、約2時間の演習は終了した。
終盤には日が落ちかけ視界は暗くなっていたが、その悪視界の中でも交戦が行われ夜間でも正確な砲撃が行える点で使節団を驚かせた。
_1635年6月13日P.M.9時00分_
ワシントン州ピアース郡タコマ 市内ホテル
演習後、行きと同様にルイス・マッコード合同基地を経由した使節団は、そのまま周辺のホテルへと宿泊する。
各々明日への支度を終えると、軽い話をしようとばかりに談話室へと集まった。
「明日は……ネリス空軍基地、空軍か……今更だがどう思う?」
明日の予定を確認していたアルパナが、一番先に今までの事について話題を振る。
「ハハハ……いやぁ、驚く事はまだまだありそうですが……彼らを理解しようとすること自体諦めかけていますよ」
「……残念ながら私もですね……圧倒的軍事力はもちろんの事、我々では理解が及ばない技術があり過ぎますね」
ベルーノとライドルカは理解する事を諦めかけており達観した気持ちになっていた。
「……当然の反応だな……この私とて理解が出来ているか怪しいレベルだ。
メテオス、あなたは?」
頭を抱えながらアルパナはメテオスに尋ねる。
「そうだね……少なくとも彼らの歴史については十分に理解できたと私は思うね。
後は難解な物ばかりだけど……それは感想として本国に持ち帰ってもいいと思う。
そうすれば、彼らを否定する頭の固い官僚の説得材料にはなるんじゃないかな?そうだろう、フィア―ム」
「……ええ、ただの感想だとしても持ち帰る価値はあります。
そもそも、まだお互いの言語を読む事すら叶わないのに、理解するには少し早いでしょう」
彼女自身が書き留めていたメモを見返しながら、フィアームはメテオスに言葉を返す。
「……確かにそうだな。空軍か……理解はともかく少し楽しみになってきたな」
アルパナがそうボヤくと共に、話は終わり参加者は就寝に入る。
_1635年6月14日A.M.10時20分_
ネバダ州ネリス空軍基地
国際航空軍事演習『レッドフラッグ』開催の地、ネリス空軍基地。
しかし、現在この場所には他国軍の軍用機は存在していない。
北方連合国家空軍はデモ演習を目的に、レッドフラッグの事前短期空戦演習『ショートファイト』の繰り上げを決定。
神聖ミリシアル帝国使節団がネリス空軍基地へ到着し、展望の良い演習作戦室にて観覧の準備が整ったタイミングでそれは開始された。
広大な演習区域の中で最も先頭にいるのはF-15XASの飛行隊であり、彼らは敵機の索敵を行いつつ全速で飛行する。
この演習でもヤキマで用いられた演習システムが採用されており、敵機の場所には無人標的機が存在していた。
やがてF-15のレーダーが複数の敵機を捉え、飛行隊全機が対空ミサイルを打ち放つ。
結果は9割撃墜、2機を逃がすも上々の戦果だった。
「ま、待ってくれ……敵機との距離は80kmあったはずだ。
その距離で撃墜できるのか……?」
戦術MAPを見ていてアルパナがあまりの撃墜の速さに疑問を投げかける。
「ええ。長射程の空対空ミサイルだと、200kmの射程を持つものもあります。
最近の空戦は基本的に視界外で敵機を落とせるかどうか、というものになっていますので」
アルパナだけでなく、ベルーノやライドルカといったメンバーも従来空戦の常識を覆す事実に目を見開いて驚く。
その反応を他所に演習は続いていき、F-15の飛行隊はレーダーの効きにくい分厚い雲海に隠れていた敵飛行隊の襲撃を受ける。
敵機からも複数の対空ミサイルを放たれ、複数の機体が撃墜判定を受ける。
その背後からF-35率いる別の飛行隊が現れ敵機に対空ミサイルを放つが、その部隊の不審な点にメテオスは気づく。
「ふむ、この機体だが何故敵からは反撃を受けていないのかね?
もしかして……敵から見えないようにする技術があるとかかね?」
あからさまな演習の演出であった為、露見する事は想定済みではあった。
しかし、大半の空軍士官は本当に露見するとは思っておらず、冷静さを装いつつもその鋭さに驚いてる者もいた。
「まさに……その通りです。
レーダーやミサイルの進化は空に逃げ場が無くなる事を意味しており、故にレーダーへの反射を抑える技術が生まれました。
正確には完全に見えないわけではなく、鳥程度にしか映らないというものですが」
メテオスは「本当にあるとは凄いね」と呟きつつ、演習の経過を眺める。
今回の演習では戦闘機部隊が互いに2部隊ずつという小規模な空戦であった為、航空優勢は短時間で掌握される。
その後は地上への攻撃になるが、2飛行隊が警戒をしている間に漆黒の影が空域に姿を現す。
「確か……
今まで見てきた物ではあるが、室内モニターに映る姿を見てその大きさに圧倒されていた。
3機のB-52は編隊を組むと共に翼内の爆弾倉を開き、大量の対地ミサイルを放ち始める。
核兵器運搬の役目から外れ、爆弾投下も時代遅れに等しい今の現代戦にて与えられたのは、対地ミサイル攻撃という役目だった。
「確かに、あのミサイルの搭載量は非常に脅威です……だからこそなのでしょうが、凄まじいものですね」
あまりにも激しい攻撃にライドルカは声を震わせながら話す。
B-52の攻撃量は圧倒的であり、敵地上部隊が全て撃破判定が下されたことで、演習は終了する。
「陸戦とは違って、本当にすぐに終わったな……」
「全て速さを求められる戦場だからでしょうが……それでもあまりにも早すぎる」
アルパナの呟きにベルーノが反応し、同じような感想に至る。
一方でメテオスはライドルカと話し、魔帝の技術研究を加速させる必要がある事を今一度感じていた。
また、フィア―ムはネリス空軍基地の基地司令と話し、機密に触れない程度の話をしていた。
_1635年6月13日A.M.11時54分_
連合首都フィールディングU.D. 大統領官邸”
大統領執務室
職務中のアルフォード大統領は一件の着信を受ける。
着信の正体は国務省と繋がる専用特別回線であり、スクワイア国務長官が別件で本省庁舎には不在である事を知っていた彼は、
それが緊急の要件であることを勘づいた。
彼はすぐに手を伸ばして回線を開く。
「……副長官、何があった?」