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イスラエル連邦管理国首都テルアビブ・ヤフォ
ラビンキャンプ 国防軍
「第7、第188機甲旅団に早急な部隊展開を指示、現在国境付近へと前進しています」
机の上に地図が広げられ、一人の師団付佐官が部隊を示す駒を少し東に動かす。
「ゴラン戦役で活躍した連中か。
だが、展開には時間が足りない、敵騎兵集団の方が先に到着するぞ」
懸念していた事を突きつけられ、その士官は言い淀む。
その隣にいた一人の陸軍少将は咳払いして話始める。
「首相はこれ以上国民の犠牲を許容していない。
あの殺し方だ、奴らに躊躇は無い。騎兵の10騎でも紛れ込めば、混乱は必至だろう。
空軍はどうだ?」
話題を投げかけられ、空軍少将は話を続ける。
「それについて、対地装備を搭載した戦闘機部隊を空中待機させています。
また、増援についてもスクランブル待機を行っています」
「ありがたい、敵騎兵集団を叩いてくれ」
陸軍少将の発言に対して、ですが、と一拍置き話を続ける。
「敵騎兵の規模は報告に合った数より更に膨らんでいます。
散開すれば、完全な撃破は難しくなります」
「恐らく騎兵は先行部隊だ、時間を掛けたくはないが……」
二人の発言で、「うぅむ……」と一同は沈黙する。
「───ならば、〈メレフ〉を使う」
少し遠目に聞こえてきた堂々とした声に一同は驚き、声が聞こえた方向に振り向くとそこには参謀総長がいた。
「さ、参謀総長!?」
「すまない遅れた、少し官僚と話をしていたのだ」
「それは構いませんが……メレフを使うと?」
質問をしながら聞いた将官は少し口が震えていた。
「そうだ、敵との技術格差こそあるが、油断はできぬ状況。
ならば、全力で叩くまで。我が国の従来からの戦略計画に基づいているものに過ぎん」
「確かに……」
「時間が惜しいな、貴官らの作戦案も予定通り実行せよ。その上でメレフも使う」
参謀総長の言葉によって防衛計画が最終決定した。
全ては一人の犠牲者も出さない為に。
_1635年6月10日A.M.10時30分_
とある荒野
イスラエル軍参謀本部の将官らが予想したように、100騎以上もいる騎兵集団は先に国境付近へと到着しようとしていた。
軍馬と言えども長時間永遠に駆け続ける事はできず、小休止を取っていた。
「ヴィク隊長、将軍閣下より伝文です。
『先行のワイバーン部隊からの連絡が途絶した。44騎を後で送るが、そのまま攻め入れ』と」
「……途絶だと?」
ヴィク隊長は部下の報告に、悪天候の気配すら無い状況での連絡が途絶したことで、違和感を覚えた。
だが、ワイバーンを阻む存在に覚えが無く、考えが迷走しそうになったところでその思考を断ち切った。
「……まあ、いい。このまま進む、予定通り5隊に分かれて進撃し、道を切り開く」
自分が率いる隊以外の4隊に信頼できる隊長を定め、自分の隊を最後方に位置させて進撃を再開する。
依然として守る兵が見えない状況に、彼は肩透かしをくらう。
「ふんっ、少々過大戦力か。やはり貧しい者達であったな。ワイバーンの件もきっと気のせい───」
そう言いかけた瞬間、今まで聞いたどの音とも違う奇妙な風切り音が聞こえてきて、騎兵集団の1隊が巨大な爆炎に呑まれる。
「───は?……ち、散らばれ!!」
隊の1つが業火に骨まで焼かれていく光景に呆然としかけ、狙われる事を悟った彼は散開の指示を出す。
だが、一瞬にして隊の1つを失うという足を止める程の衝撃にその足取りは重く、まもなくもう1つの隊が爆炎に呑まれた。
「ダウ隊長、ギトン隊長、戦死された模様!」
「見れば分かる……!さっさと散れ!」
彼らに爆炎の嵐を投じたのは、F-16IA〈スーファ〉ジェット戦闘機で構成される飛行隊であり、
騎馬10騎以上が密集して動いていた事から飛行隊全機から対地ミサイルを同一目標へと一斉に放つ事で、先の戦果を実現させていた。
「飛行隊より司令部、敵集団の散開を確認した。後続と共に敵騎兵の掃討を行うが、早急な対処を求む」
《了解した、〈メレフ〉による攻撃を行う》
〈メレフ〉、それはイスラエル軍が構築する防衛兵器の一種だった。
正式名称は包括的戦略防衛兵装システム〈ガドル=メレフ*1〉。
敵地上戦力殲滅を目的として、イスラエル各地に十数基の砲台が配備されており、防空・対地ミサイル及びレーザー兵装等が装備されている。
しかし、その中核となっているのは戦艦の主砲威力に匹敵する火力を持つ440㎜電磁投射砲だった。
「主砲、射撃設備に問題無し、照準システム作動!」
「射撃管制、偵察衛星からのデータ受信は無し、観測手からの観測射撃に移行する。主砲発射準備完了!」
第6次中東戦争にてアナトリア連邦陸軍を粉砕する等、その真価を発揮した主砲は、異世界にて再び放たれる。
青白い光を灯して巨弾を撃ち放った後、照準を固定した主砲は連続でその火力を叩き込む。
散らばった騎兵集団だったが、その行動自体が無意味とばかりに巨大な穴を穿つような砲撃が彼らを呑み込む。
騎兵集団が翻弄されてる最中も〈スーファ〉による攻撃は続けられ、機関砲弾の雨が騎兵を引き裂き、ミサイルによる爆発が粉砕していく。
「なんなのだ!これは!?」
甲高い風切り音が聞こえた直後、巨弾がヴィク隊長の足元へと落ち、体を引き裂かれる痛みと共に彼は意識を失い、塵と化す。
「───射撃中止!全部隊攻撃中止!!」
騎馬の音が聞こえなくなった後、参謀本部から戦果確認の為、攻撃中止の命令が飛ぶ。
激しい攻撃により騎兵集団は1騎残らず殲滅された。
戦闘は終わったが、これが先行部隊である事は誰の目で見ても明白だった。
「我が国は降り掛かる火の手を振り払ったに過ぎん。敵本隊が別にいるのであれば、先に攻撃を仕掛け、敵領土に侵入する」
アーロンはイスラエルの基本戦略を語ってるに過ぎず、閣僚や軍高官から反対は無かった。
参謀総長は参加部隊の準備が出来次第、侵攻を開始すると答えた。
_1635年6月10日P.M.10時25分_
敵本隊近傍
夜が更ける頃にイスラエル軍は侵攻を開始した。
〈スーファ〉及びF-15IA〈ラーム2〉戦闘機の飛行隊が陸軍に先んじて敵地上空へと侵入。
邪魔者が現れない為、夜間偵察を開始した。
「クロム3よりクロムリーダー、前方のテントらしき影付近に生体探知機が反応!」
「大きな翼に、二本足……キリヤットを襲った連中の同類か、まだあんな数がいたとは……全機攻撃態勢!ラフカ隊は上空待機を!」
《了解した》
対地攻撃装備を満載した〈ラーム2〉16機は機体を翻して直ちに急降下。
対地ミサイル及び大量のロケット弾が地面へと降り注ぎ、眠っていたワイバーンを殺傷していく。
中には自力で飛び立とうとしていた竜もいたが、広範囲に攻撃が及んだことでそれは叶わず、44騎全てが死亡し肉片と体液が辺りに散乱する。
混乱の最中で第7・第188機甲旅団も現場へと到着する。
未知の機獣とそこから伸びる棒から放たれる破壊的な一撃で、兵士達の混乱もピークに達して殆どの兵士は篝火も蹴り飛ばして逃げる始末だった。
「旅団長、敵の一部に変化が。何か仕掛けてくるようです」
「ふむ……ファランクスか、一撃貰っておこう……無駄だろうがね」
当然ながら密集方陣による槍の刺突を喰らっても装甲にダメージは与えられず、槍先が折れるばかりだった。
メルカバMark5主力戦車〈バラク〉は至近距離の為一時後退した後、盾兵のど真ん中に主砲による一撃を喰らわす。
衝撃波と共に吹き飛ばされた兵士達は同僚が物言わぬ肉塊と化すのを見て恐怖を更に増し、武器すら捨てて逃げていく。
「───閣下!ブラィク将軍閣下、応答を!!」
兵士達が潰走する惨状で、本陣の隅に隠れて連絡を送ろうとしている者がいた。
その者はイスラエルを手中に収めようとした将軍であり、無様にも身体を震わせていた。
『将軍、君は……反乱の掃討を行っていたはずでは無かったかね?なぜそんなに震えた声をしているのだ?』
「そ、それは……謎の勢力に襲われたのです!城塞から応援を……!」
『どこにいるのかも分からぬのに、派兵する事は出来ん!我々に一から偵察せよと言うのかね?……もう、良い』
「か、っか……くそっ!!」
上司であるブラィク将軍に一方的に魔信を切られ、怒りの余り地面を叩く。
その間にもイスラエル陸軍は本陣を文字通り物理的にも蹂躙していき、投光器を点けたメルカバは蹲る彼の背後で停止する。
「き、機獣か……」
振り返った彼の目に見えたのは、刺々しい装甲を備えた機械の獣。
夜だというのに光に照らされるせいで、その姿ははっきりと見えていた。
「豪華な鎧を着てる、敵指揮官だと思われます……」
「降伏を促す、今は撃つな」
第7機甲旅団長はメルカバの背後にいる指揮車両から降り、将軍の眼前に立つ。
「き、貴様がこいつらの将軍か……!」
「将軍、か。あまり好きではない言葉だが、今はそう捉えても良い。お前が敵の指揮官か、ならば降伏せよ」
旅団長の言葉に将軍は怒りで身体が震え始める。
「なっ……私に降伏せよというのか蛮族が!!」
「この戦況で選択肢は無いはずだ、どうする?」
現実を突きつけられ、手で頭を押さえながら怒りで顔を赤くする。
そして一歩ずつゆっくりと後ずさりしていく。
その不審な動きに旅団長は怪訝な表情を浮かべる。
「蛮族め……私はっ……我々はまだっ、負けてなどないっ!!───がぁっ」
将軍は飾りだらけの大剣を持ち出し、旅団長に振り下ろそうとした。
しかし、旅団長は即座に拳銃を構えて頭を撃ち抜く。
血を流して倒れる将軍を冷たい目で一瞥した後、旅団長は無線で全軍に通達する。
《全軍に告ぐ、敵指揮官は降伏を拒否した。
攻撃は再開されるが、敵領土のマッピングしたデータに基づいて再度侵攻計画を練る。
一度、安全を確保した上で休息に入られたし》
_1635年6月11日A.M.4時56分_
とある城塞
「閣下!起きていますでしょうか?」
「───起きている、何があった?」
「……掃討部隊が散り散りに逃げ帰ってきており……これは一体何が……?」
城塞指揮官のブラィク将軍は昨夜の応援要請を黙殺した事を思い出す。
5000もの兵がいた掃討部隊がボロボロの状態となっており、敵の存在へ恐怖した。
「腕を失った物もいるか、追撃は来ておらぬか?」
「……今のところは……見張りからも何も見えぬと……」
焦りを隠して将軍は指示を出す。
「警戒を怠るな。それと城塞の防衛を整えておくように。
この”ガランダ”城塞を敵に占拠されるわけにいかぬのだ」
「……はっ」
部下の兵がブラィクの指示に応え、兵士達に指示を出していく。
その上空、肉眼で捉えられぬ遥か高い空に〈ラーム2〉はいた。
「レファド1より司令部、敵拠点と思われる城塞を確認しました。石造りの城塞です」
《感謝する、敵戦力は先の戦闘と同等か?》
「詳細な数は不明ですが、同等程度と思われます」
偵察結果を伝達した後、偵察装備の〈ラーム2〉は帰還命令を下され、最速ルートで帰還する。
陸上での偵察は行っていないが、イスラエル軍は上空にて各方面へと偵察を送り込んでいた。
偵察により、先の戦闘が行われた地点より北方向、つまり島の西北端に敵拠点が確認された。
イスラエル軍は作戦目標をこの城塞と定め、侵攻戦力の新たな増派を行った。
どこまで許容という内容の続きですが、物語の展開、という話ではないのです。
五月蠅い程に兵器の諸元表が本文中にあったら流石に見にくいよね、というお話です。
因みに1000万人救済について。
流石に魔帝戦までお待ちを……遠い未来の話でもありませんが。
ただ、実行する国家が違うという事だけ、です。