13日戦争で滅びるはずだった両雄(新)   作:空社長

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今回はなんとか早めに出すことが出来た……


Episode.14【狂犬の反撃】

_C.C.(中央暦)1635年6月11日A.M.10時20分_

 

イスラエル連邦管理国首都テルアビブ・ヤフォ

国防軍参謀本部

 

 

「第7、および第188機甲旅団へ即時展開を指示。現在、国境線へと急行させています」

 

 大型モニターと作戦机を囲む重苦しい空気の中、師団参謀の中佐が地図上の部隊標識を東へと滑らせた。

 

「あの『ゴラン戦役』を生き抜いた精鋭か。……だが、間に合うか? 敵騎兵集団の進軍速度の方が早いぞ」

 

 懸念を突きつけられ、中佐が言葉を詰まらせる。

 その隣に立っていた陸軍少将が、重々しく口を開いた。

 

「首相からは『国民の犠牲は一人たりとも容認しない』と強く念を押されている。あの残虐な手口だ、奴らに躊躇などない。

たった10騎でも防衛線をすり抜けられれば、後方の町は地獄絵図だ。……空軍の状況は?」

 

 視線を向けられた空軍少将が、短く頷く。

 

「対地兵装を満載した攻撃機隊を、すでに上空で待機させています。基地の増援もスクランブル態勢に入っています」

「頼もしい限りだ。群がる前衛を即座に叩いてくれ」

「……ですが」

 

 空軍少将は一拍置き、硬い声で言葉を継いだ。

 

「敵騎兵の規模は、当初の報告をはるかに上回っています。広範囲に散開された場合、空からの完全撃滅は困難です」

「やはり騎兵は単なる露払いに過ぎんか。時間をかけるわけにはいかんが……」

 

 将校たちの間に、重苦しい沈黙が落ちる。

 

「───ならば、〈メレフ〉を投入する」

 

 静寂を切り裂く威厳に満ちた声に、一同がハッと振り返る。

 そこに立っていたのは、参謀総長だった。

 

「さ、参謀総長!?」

「遅れてすまない。官僚への説明に骨が折れてな」

「いえ、それは……しかし、本気で〈メレフ〉をお使いに?」

 

 問いかけた将校の声が、かすかに震えていた。

 

「そうだ。圧倒的な技術格差があろうと、相手は未知の脅威。一切の油断は許されん。敵の戦意を根底から砕くまでのこと。我が国のドクトリン通りにな」

「確かに……」

「刻限が惜しい。各自の作戦案はそのまま実行せよ。その上で、〈メレフ〉を解き放つ」

 

 参謀総長の一言により、防衛作戦は決した。

 全ては、一人の犠牲者も出さないために。

 

 

 

_1635年6月11日A.M.10時30分_

 

とある荒野

 

 

 イスラエル軍参謀本部の将官たちが予想した通り、100騎を超える騎兵集団は他部隊に先んじて国境付近へと到達しようとしていた。

 いくら軍馬とて無限に駆け続けられるはずもなく、一行は小休止を挟んでいた。

 

「ヴィク隊長、将軍閣下より伝令です。

『先行したワイバーン部隊からの連絡が途絶した。追って44騎を差し向けるので、そのまま攻め入れ』と」

「……途絶だと?」

 

 悪天候の気配すらない状況での音信不通に、ヴィク隊長は一抹の違和感を覚えた。

 だが、空中を行くワイバーンを阻める存在など思い当たらず、迷走しかけた思考をすぐに振り払った。

 

「……まあ、いい。このまま進む。予定通り5隊に分かれて進撃し、道を切り開く」

 

 自隊以外の4隊に信頼の置ける隊長を配し、自隊を最後尾に置いて進撃を再開する。

 依然として防衛陣地すら見当たらない状況に、彼は肩透かしをくらった。

 

「ふん、少々過大戦力だったか。やはり貧しい者たちに過ぎんかったな。ワイバーンの件もきっと気のせい───」

 

 そう言いかけた瞬間、これまで耳にしたことのない奇妙な風切り音が響き渡り、騎兵の1隊が巨大な爆炎に呑み込まれた。

 

「───は?……ち、散らばれ!!」

 

 業火に焼かれていく味方の光景に呆然としかけながらも、狙われていると察した彼は即座に散開を命じる。

 しかし、一瞬で一隊が壊滅した衝撃に騎兵たちの動きは鈍り、まもなく二つ目の隊も爆炎へと消えた。

 

「ダウ隊長、ギトン隊長、戦死されました!」

 

「見れば分かる……!さっさと散れ!」

 

 彼らに爆炎の嵐を叩きつけたのは、F-16IA〈スーファ〉ジェット戦闘機で構成された飛行隊であった。

 10騎以上で密集陣形をとっていた騎兵一隊に対し、全機が一斉に対地ミサイルを放つことで、一瞬にして一隊を粉砕する戦果を生み出していたのだ。

 

「飛行隊より司令部。敵集団の散開を確認した。後続とともに敵騎兵の掃討へ移るが、早期の砲撃支援を請う」

 

《了解した。〈メレフ〉による即応砲撃を実施する》

 

 〈メレフ〉──それはイスラエル軍が構築した戦略防衛兵器網であった。

 正式名称は包括的戦略防衛兵装システム〈ガドル=メレフ*1〉。

 敵地上戦力の完勝殲滅を目的として国内各地に十数基の要塞砲台が配備されており、防空・対地ミサイルやレーザー兵器などを備えていた。

 だが、その真の中核を成すのは、戦艦の主砲をも凌駕する威力を持つ440mm電磁投射砲(レールガン)であった。

 

「主砲、射撃諸元に問題なし。照準システム稼働!」

 

「射撃管制より報告。偵察衛星データ受信不可、観測手による情報で修正射撃へ移行する。主砲、発射準備完了!」

 

 第6次中東戦争にてアナトリア連邦陸軍を粉砕し、その真価を発揮した巨砲が、異世界の空へ再び咆哮をあげる。

 青白いプラズマの光とともに巨弾を吐き出した主砲は、固定された照準に従い、間髪容れず破滅の火力を叩き込み続けた。

 

 散開した騎兵たちであったが、その抗いすら無意味と切り捨てるように、地表に巨大な穴を穿つ砲撃が彼らを呑み込んでいく。

 混乱を極める騎兵集団に対し、上空からは〈スーファ〉による攻撃も継続されていた。

 機関砲弾の雨が肉体を切り刻み、ミサイルの爆風が人馬を粉砕していく。

 

「なんなのだ、これは……!?」

 

 甲高い風切り音が耳を刺した直後、ヴィク隊長の足元へ落ちた巨弾が炸裂する。

 身体を引き裂く激痛を感じる間すらなく、彼の意識は闇へと没し、その身は塵となって霧散した。

 

「───射撃中止!全部隊、攻撃を中止せよ!!」

 

 地鳴りのような足音が完全に潰えたのを確認し、参謀本部から戦果確認のための攻撃停止命令が下された。

 苛烈を極めた飽和攻撃により、騎兵集団は一騎残らず消滅していた。

 圧倒的な勝利で戦闘は収束したものの、これが敵の単なる先鋒に過ぎないことは誰の目にも明らかであった。

 

「我が国は降りかかる火の粉を払ったに過ぎない。敵本隊が別に存在するならば、先手を打って叩き、敵領土へと侵攻する」

 

 アーロンの発言はイスラエル伝統の基本戦略を述べたものに過ぎず、出席した閣僚や軍高官から異論は上がらなかった。

 参謀総長は準備が整い次第、ただちに侵攻を開始すると答えた。

 

 

 

_1635年6月12日A.M.2時25分_

 

敵本隊近傍

 

 

 夜が更ける頃、イスラエル国防軍は本格的な侵攻を開始した。

 〈スーファ〉及びF-15IA〈ラーム2〉で構成された飛行隊が、陸軍に先んじて敵陣上空へ侵入。

 目立った対空脅威が存在しないことを確認し、夜間偵察に入った。

 

「クロム3よりクロムリーダー、前方の天幕群付近に多数の熱源反応! サーマル画像で確認……大きな翼に二本足、キリヤットを襲った連中の同類です。まだあれほどの数が残っていたとは」

「全機攻撃態勢! ラフカ隊は上空待機」

『了解』

 

 対地各種兵装を満載した16機の〈ラーム2〉が機体を翻し、夜空から急降下を敢行。

 無数の対地ミサイルとロケット弾が地表へと降り注ぎ、眠りについていたワイバーン群を肉塊に変えていく。

 自力で飛び立とうと翼を広げた竜もいたが、逃れる術はなかった。

 広範囲を一瞬で焼き尽くす火力の前に、44騎の竜は一頭たりとも飛び立つことなく殲滅された。

 

 その大混乱の渦中へ、第7および第188機甲旅団の主力車列が突入する。

 暗闇から現れた無機質な機獣と、その長い砲身から放たれる圧倒的な一撃。

 兵士たちの混乱は絶頂に達し、篝火すら蹴り飛ばしながら蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

 

「旅団長、敵の一部が陣形を再構築しています。何か仕掛けてくるようです」

「ふむ……ファランクスか。一撃受け止めてやれ。無駄だと教える」

 

 整然と並べられた盾と長い槍の刺突。

 しかし、複合装甲を備えたメルカバの巨体にはかすり傷一つ付かず、槍先が無惨に砕け折れるだけだった。

 メルカバMark5〈バラク〉はわずかに後退して射角を確保すると、密集する盾兵の真っ芯に向けて主砲を叩き込んだ。

 強烈な衝撃波と爆煙と共に吹き飛ぶ兵士たち。

 同僚が一瞬で物言わぬ肉塊に変えられた光景を目撃し、生き残った者たちは武器すら投げ捨てて逃走していった。

 

「───閣下! ブラィク将軍閣下、応答を!!」

 

 本陣の隅、兵士たちが潰走する惨状の中で、必死に魔信を繋ごうとする男がいた。

 かつてイスラエルを容易く手中に収められると高くくっていたゲダン将軍は、今や惨めに身体を震わせている。

 

『ゲダン、君は……反乱勢力の掃討に向かっていたはずではなかったかね? なぜそのように取り乱しているのだ』

「そ、それは……謎の勢力に急襲されたのです! 城塞から直ちに援軍を……!」

『座標すら不明な場所に派兵などできるか。我々に一から偵察せよとでも言うのかね? ……もうよい』

「か、閣下……! くそっ!!」

 

 一方的に通信を切られ、ゲダンは怒りと絶望のあまり地面を叩きつけた。

 その間にも、イスラエル陸軍は本陣を文字通り物理的に打ち砕いていく。

 強力な投光器の光を照射しながら、1両のメルカバがうずくまる彼の背後で重厚な履帯音を止めた。

 

「き、機獣……」

 

 振り返ったゲダンの目に映ったのは、刺々しい増加装甲に覆われた機械の怪物。

 闇夜を切り裂く投光器の眩光に照らされ、その威容が容赦なく浮かび上がっていた。

 

「豪華な甲冑を着た人物を確認。敵指揮官と思われます」

「降伏を促す。今は撃つな」

 

 メルカバの背後に滑り込んできた装甲車から、アサルトライフルを構える歩兵を引き連れて第7機甲旅団長が降り立つ。

 銃口を向けられたゲダンの前に、旅団長は静かに立った。

 

「き、貴様がこの化け物どもの将軍か……!」

「将軍、か。あまり馴染みのない階級呼称だが、今はそう受け取ってもらって構わない。お前が敵の指揮官だな。降伏せよ」

 

 あまりに淡々と告げられた言葉にゲダンの顔が屈辱で歪む。

 

「なっ……私に降伏せよというのか、蛮族が!!」

「この戦況で残された選択肢はないはずだ。どうする?」

 

 圧倒的な現実を突きつけられ、ゲダンは頭を押さえて顔を真っ赤に染めた。

 そして、一歩、また一歩と怪しく後ずさりしていく。

 その不審な挙動に、旅団長は目を細める。

 

「蛮族め……私はっ……我々はまだっ、負けてなどないっ!! ───がぁっ!」

 

 ゲダンが飾りだらけの大剣を引き抜き、旅団長へ振り下ろそうとした瞬間。

 旅団長が腰の自動拳銃を一瞬で抜き放ち、その頭部を撃ち抜いた。

 血を流して倒れる敵将を冷ややかな目で見下ろした旅団長は、全軍無線に声を乗せた。

 

『全軍へ告ぐ。敵指揮官は降伏を拒否したため排除した。

各隊は現在地の安全を確保し、一時休息に入れ。これよりマッピングデータを基に、敵領土への更なる侵攻計画を策定する』

 

 

 

_1635年6月12日A.M.6時56分_

 

とある城塞

 

 

「閣下! お起きていらっしゃいますか!?」

「──起きている。何事だ」

「……はっ、掃討部隊が……散り散りに逃げ帰ってまいりました! これはいったい……」

 

 城塞指揮官ブラィク将軍の脳裏に、昨夜届いた救援要請を黙殺した記憶が鮮明によみがえる。

 5000を誇るはずの掃討部隊が、無残に打ち砕かれて逃げ戻ってきたのだ。

 敵の得体の知れぬ力に、背筋を冷たい汗が伝う。

 

「腕を失った者までおるのか……追撃は入っていないのだろうな!?」

「……今のところは……見張りの報告でも、追手の姿は見えぬとのことです……」

 

 湧き上がる焦りを必死に押し殺し、ブラィクは声を張り上げた。

 

「警戒を怠るな! 直ちに城塞の防衛陣形を整えさせろ! この”ガランダ”城塞を敵に引き渡すわけにはいかんのだ!」

「はっ!」

 

 部下の将校が踵を返し、混乱する兵士たちへの指示へと走る。

 

 

 その城塞の上空──肉眼では決して捉えられぬ遥かな高空を、イスラエル軍のF-15IAジェット戦闘機〈ラーム2〉が静かに滑空していた。

 

「レファド1より司令部。敵拠点と思われる石造りの城塞を確認」

《了解した。敵の推定戦力は先の遭遇戦と同等か?》

「詳細な人員数は不明ですが、同規模と推測されます」

 

 報告を終えた〈ラーム2〉に帰還命令が下り、機体は最速ルートで所属基地へと機首を向けた。

 

 イスラエル軍は広域航空偵察を全方向に展開していた。

 得られた画像解析データにより、先の戦闘地点から北──島の西北端に位置する敵拠点が特定される。

 作戦目標をこの敵拠点と定めた司令部は、直ちに新たな侵攻部隊の増派を決定した。

*1:
ヘブライ語で「偉大なる王」を意味する

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