ヴィク隊長とブラィク将軍があるのに無名将軍がいるのは違和感があったので。
因みに名前はゲダンです。
2026/10/12/0:00現在 お気に入り197件、ありがとうございます!
……結構増えていて感激です。200件まであとわずか。
ご感想もお待ちしています!
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イスラエル近海
夜明けを迎える海上で、北へと進む4隻の艦影。
イスラエル海軍の特別戦隊『シャイェテット・ヘレル』である。
彼女たちは作戦司令部より『城塞攻略作戦』への参加を命じられ、出撃の途上にあった。
「全く……海底の地形把握すら完璧でない海域に出撃とはな。海軍きっての火力を誇る艦隊ゆえ準備はしていたが」
艦長がこぼした言葉の意味は、『シャイェテット・ヘレル』という艦隊編成そのものに表れていた。
最新鋭のサール8型フリゲート艦に加え、海軍唯一のネブラスカ級戦艦〈ヘレル〉が配備されている。
〈ヘレル〉は第6次中東戦争の後、北方連合国家から供与された艦である。
だが、連合政府の管理下という特殊な境遇ゆえ、
とはいえ、沿岸戦闘に特化した調整が施されるなどイスラエル向けに最適化されており、その主砲の圧倒的威力は今なお健在だった。
「全艦、増速。散々演習を繰り返してきた我らの力を、奴らに思い知らせてやる」
第6次中東戦争以降、北方連合国家の庇護下に入ったイスラエルに実戦経験はない。
ゆえに戦艦〈ヘレル〉は、初の実戦をこの異世界の地で迎えることとなった。
_1635年6月12日A.M.11時12分_
ガランダ城塞近郊
静寂に包まれていた城塞一帯に突如響き渡った爆音は、その場の空気を一瞬で塗り替えた。
イスラエル本国の〈メレフ〉電磁砲台から2発、『シャイェテット・ヘレル』から放たれた1発の巡航ミサイルは、城塞守備隊の要所を的確に穿ち、粉砕していった。
「見張り塔が倒壊する! 離れろっ!!」
「食糧庫が燃えている! 駄目だ、炎が強すぎて近づけやしない!」
「田畑が水に浸かっているぞ……堰堤が壊されたのか!? 一体誰の仕業だ!!」
不意の強襲に城塞は一気にパニックへと陥るが、イスラエル軍の攻勢はそれにとどまらない。
「閣下!! 偵察に出た騎兵からの応答が途絶えました! 敵は目と鼻の先まで迫っています!!」
城塞指揮官ブラィクは苦々しい表情を浮かべ、敵の規格外の行軍速度に唸りを上げた。
部下の報告通り、地平線の向こうからは猛烈な土煙が巻き上がっている。
ブラィクはそれを、無数の歩兵が隊列をなして進軍しているものと想像していた。
ブラィクは胸を突く恐怖をねじ伏せ、兵たちへ矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「落ち着け! 敵を撃退する算段はある!
沿岸の敵兵に対し、戦列艦隊に砲撃を行わせる!
それに呼応して我らも打って出て、敵を二方向から包囲・挟撃するのだ!」
力強く言い放ったブラィクの作戦だったが、それは端から破綻していた。
ニード級50門クラス戦列艦14隻が健在であることは事実だが、彼らはそれに対抗し得る、未知にして圧倒的な火力の存在を完全に見落としていたのだ。
「全艦、陸上の敵戦力に向けて───」
「───前方に未知の艦影を確認!!」
戦列艦隊が沿岸へと魔導砲の砲門を向けたその瞬間、マストの見張り員から叫ぶような報告が上がる。
彼我の距離はすでに12km以内にまで迫っており、こちらが発見した時には、既に『シャイェテット・ヘレル』の照準は完了していた。
戦列艦の最大射程を10km以上も上回るアウトレンジから、フリゲート艦より7発の対艦ミサイル、そして〈ヘレル〉から6発の主砲弾が放たれる。
想像を絶する超絶的な火力を叩きつけられた戦列艦隊は、瞬く間に地獄絵図へと変貌した。
「火の手が! これ以上は消火できません! 船が燃え落ち───」
「落ち着け! 怯むな! ……どうした───がっ!?」
「て、提督! 総員……退艦! 退艦せよ!!」
大半の艦は初手の一撃で文字通り木端微塵に粉砕され、絶命を免れた艦でも大火災による延焼で焼死者が続出する。
倒壊したマストの下敷きとなる者も相次ぎ、艦隊の秩序は完膚なきまでに崩壊した。
14隻中12隻が壊滅的被害を受け、残る2隻には第7機甲旅団の2個戦車中隊から精密な追撃が加えられた。
結果、1隻は引火しやすい魔術回路装置に直撃を受けて大爆発を起こして沈没。
もう1隻もマストをへし折られ、ただ海上に漂うだけの木偶の坊と化した。
海上の戦列艦隊が無力化されるや、〈ヘレル〉の巨砲はガランダ城塞へと向けられ、9発の主砲弾が一斉射された。
狙われたのは見張り塔の土台をなす巨大な石垣。
圧倒的な破壊エネルギーがそれを容易く破砕し、見張り塔は爆音と共に呆気なく崩れ落ちた。
「離れろ! 巻き込まれるぞ!!」
「何なのだ……奴らは……怪物か!?」
砲撃の手は緩まない。
先の騎兵迎撃戦以降に起動を果たした3基を加え、計4基となった〈メレフ〉の砲台から、容赦のない鉄の雨が降り注ぐ。
その猛威は堅牢を誇った城壁を次々と爆砕し、兵員詰所を瓦礫の山へと変えて、内部の兵をことごとく圧死させていった。
「閣下っ! このままでは我らは砲撃で押しつぶされてしまいます!! 何とぞご指示を!」
「くっ……確かにこのままではただの的にすぎん。ならば城門を開けて打って出て、敵兵と会戦に持ち込むまで! 奴らとて雑兵に過ぎん!」
ブラィクは苦虫を噛み潰したような顔で、なおも抗う執念を見せる。
「それに、敵の砲撃威力はあまりに過大だ。敵の懐に飛び込めば、奴らとて同士討ちを恐れて砲撃を控えるはず!」
その分析自体は一理あった。
しかしそれは、イスラエル陸軍が誇る地上戦力───機甲旅団の圧倒的火力を完全に見落とした無知ゆえの慢心に過ぎなかった。
眼前に迫る敵の恐ろしさを察知できていないブラィクは、無謀にも正面攻撃を試みようとしていた。
「まずはリンドヴルムを先頭に立てて盾とし、我々も後に続く!」
分厚い甲殻を備えた巨大なワニガメのような姿を持つ、地上棲の竜。
"正規の陸軍"からの払い下げ個体ゆえ甲殻にひび割れや欠損が目立つが、それでも彼らにとってはこれ以上なく頼もしい相棒だった。
───かくして、激しい砲撃を潜り抜け城門から打って出た彼らは、城塞近郊まで進撃していた第7・第188機甲旅団と真っ向からぶつかり合う。
「敵、城門より出撃! 我々を迎撃する模様!───っ、敵集団内に亀状の大型生物を複数確認!!」
『奴らはあのような化け物を使役しているのか……優先目標に指定。砲撃開始!』
メルカバの主砲が唸りを上げて放たれた砲弾はリンドヴルムの分厚い甲殻を容易く貫通。
体内で炸裂し、凄まじい爆発と共に肉片と血煙を撒き散らした。
他車も一斉に砲撃へ参加し、敵集団を文字通り肉の微塵へと変えていき、圧倒的な殺戮が彼らを絶望の深淵へと叩き落としていた。
肉迫するメルカバに対し、生き残った兵が死に物狂いで牽引式魔導砲を撃ち込み、リンドヴルムが必死に火炎弾を吐き出すが、メルカバの複合装甲の前には傷一つつけることすらできない。
攻撃が一切通用せず、ただ一方的に潰されていく恐怖に兵士の士気は完全に崩壊し、武器を捨てて蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めた。
「待て! 逃げるな! 戻れ!!」
ブラィクが怒号を上げ制止しようとするも、狂乱した兵たちが命令に従うはずもなく、周囲にはわずかな兵しか残らなかった。
「くっ……総員撤退! この数で挑むのは愚行だ!」
ブラィクは前言を翻し、逃げ込むように城塞内へと後退を開始する。
重い牽引式魔導砲すら投げ捨てて逃げ帰った彼らは、追撃を阻もうと頑丈な城門を閉ざすが、それもメルカバの至近砲撃によって木端微塵に吹き飛ばされた。
塞がれた瓦礫すら、装甲の擦り傷など気にも留めない数両のメルカバが力任せに押し破り、イスラエル軍はついに城塞内部へと雪崩れ込んだ。
「ここが敵拠点の内部か……広いな。一種の城塞都市か」
「我々の感覚で言えば、敵の司令部は城塞の中心にあると考えられますが……」
「突入直後の組織的な迎撃がないところを見るに、残存抵抗戦力は極めて微小と見ていいだろう」
旅団後方に位置する指揮通信車内で、旅団長と幕僚が静かに言葉を交わす。
先頭車両の車載カメラ映像をモニター越しに確認しながら、冷静に城内の状況を分析していく。
旅団長は敵軍がすでに崩壊状態にあると確信し、作戦の最終段階について指示を出した。
「正直、これで作戦と呼べるのか怪しいレベルだな。だが彼我の戦力差を鑑みれば、これが最も合理的だ」
旅団長がそう評した作戦───それは、戦車部隊の圧倒的威力で敵軍を徹底的に踏みつぶし、その蹂躙劇を敵指揮官に見せつけることで完全に戦意を挫き、屈服させるという極めて単純かつ冷酷な内容であった。
_1635年6月12日P.M.3時38分_
ガランダ城塞 旧王城
ガランダがかつて独立した王国であった頃、城塞内には立派な王城が聳え立っていた。
かつての王族の居城は今や、イスラエル軍と敵対する軍勢の現地指揮所となっていた。
「ブラィク将軍! 敵は閉ざされた城門を瞬時に粉砕し、城塞内へ突入してきました!
その大半があの機甲の化け物であり、散り散りになった我らの戦力ではもはや勝ち目などございません……!」
斥候の報告は、もはや悲痛な悲鳴へと変わっていた。
(奴らは……一体何者なのだ。伝説でしか聞き及ばないような力をなぜ行使できる……まさか、魔帝の再来とでもいうのか……)
ブラィクが蒼白な顔で沈黙している間にも、絶望的な報告が矢継ぎ早に舞い込む。
「敵軍勢、この旧王城へ続く大通りを真っ直ぐ進撃中! 各所で魔導砲による抵抗を試みておりますが、まるで歯が立ちません……!」
戦況は目まぐるしい速度で崩壊へと向かっていた。
追い打ちをかけるように、王城前広場へと3発の砲弾が立て続けに着弾。
腹に響く爆音と共に凄まじい爆発が巻き起こる。
吹き荒れる衝撃波と熱風が指揮所を揺さぶり、ブラィクはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
「ひ、ひぃぃぃ……っ!!」
爆風で吹き飛ばされ尻もちをついた兵士が、恐怖のあまり悲鳴を上げながら後ずさりする。
「閣下……もはや、打つ手はないのでしょうか……」
ブラィクが全幅の信頼を寄せる老参謀が、諦念と憐みの混ざった眼差しで問いかけてくる。
腹を割って話せる唯一の友に対し、もはや強がりなど言えるはずもなく、ブラィクは苦渋に満ちた声で吐き捨てた。
「……すまん。もう……何もない」
「やはり……そうでございますか」
老参謀に本音を打ち明けたことで吹っ切れたのか、ブラィクは深く息を吐き出すと、腹を括って全軍に声を張り上げた。
「諸君……これ以上の抵抗はやめよ! 敵の寛大な処置に賭けるのだ……!」
やがて、イスラエル陸軍第7機甲旅団の先鋒が王城前へと到達する。
広場を占拠するように3両のメルカバが展開し、主砲の砲口を一直線に指揮所へと向けていた。
その中央を割るようにして、指揮通信車と装甲兵員輸送車が滑り込み、即座に多数の歩兵が展開する。
第7機甲旅団長も小銃を構える護衛兵を従えて降り立ち、ブラィクの眼前へと踏み出した。
「敵指揮官とお見受けする。
───我々は即時降伏を要求する」
「……ガランダ属領統治軍、将軍のブラィクだ。
貴様たちは一体───」
問いかけを遮るように、アズライが構えた拳銃の冷たい銃声がひとつ、広場に響き渡った。
「敗軍の将に質問の権利はない。……回答は?」
アズライの射抜くような冷徹な視線が、ブラィクを射貫く。
「分かった……降伏に応じよう。
だが……投降の前に身の回りの品を整理する時間を頂きたい」
ブラィクは圧倒的な威圧感の前に屈し、ついに降伏を受け入れた。
「……了解した。兵士2名を監視につける。
ただし、無駄な時間は取らせん」
アズライの許可を得て、わずかな猶予を得たブラィクは城内奥深くの小部屋へと足早に向かった。
部屋の中央にはテーブルと、見慣れぬ装置が置かれている。
2人の監視兵が不審に思い口を開くより早く、ブラィクは素早く呪文を詠唱した。
「───、───!」
ブラィクが聞き取れぬ言葉を呟いた瞬間、兵士2人の手足が虚空から現れた鉄の鎖によって縛り上げられた。
さらに口を謎の布で塞がれ、そのまま意識を刈り取られて倒れ込む。
「!?……くっ……」
監視兵が無力化されたのを確認すると、ブラィクはテーブルの上の装置へと飛びついた。
「……アルデ副司令官閣下! 応答を……頼む!」
ブラィクがすがったその装置───それは電話機の形状をした魔法通信機器だった。
雑音の混じるノイズがしばらく続いた後、通信の向こうから低音の声が返ってきた。
『……ブラィク将軍か。正規の命令系統を飛び越えて通信を入れてくるとは、感心しない───』
「───アルデ副司令官! 今はそんなことを言っている場合ではありません! ガランダが突如、謎の勢力による大規模な急襲を受けましたっ!」
すでに降伏を受け入れたはずの身でありながら助けを求めるという、敵に対する明らかな欺瞞行為であったが、ブラィクなりに必死だった。
『……何だと? 待て……敵は国名を名乗ったか?』
「確か、ノーザン・コンドミニアムの傘下にある、イスラエルとかいう蛮族どもです! 至急、増援のご手配を!」
『───ノーザン……コンドミニアム、だと……!?』
その国名を聞いた途端、通信の向こう側の空気が劇的に凍りついたのを、焦燥に駆られるブラィクは気づく由もなかった。
『……ブラィク。窮地に陥っている状況は理解した。
だが……グラーク司令官をはじめとする皇軍幹部との緊急閣議を通さねば動けん。
少しの間……何としてでも持ちこたえろ!』
「はっ、承知───」
言葉を返そうとした瞬間、ブラィクの背中に激痛が走り、横に激しく倒れ込んだ。
状況は僅かに遡る。
「……時間がかかりすぎている。小隊、城内へ突入せよ」
アズライは手元の腕時計を確認し、ブラィクの戻りが遅いことに眉をひそめると、即座に1個歩兵小隊を王城内へ向かわせた。
足痕を追って小部屋へ踏み込んだ小隊は、縛られて倒れている2名の味方兵士を発見した。
さらに奥で、降伏したはずの敵将軍が通信機器に向かって叫んでいる姿をとらえた。
「貴様、何をやっている!!」
小隊長は部下に味方の救出を命じると同時に踏み込み、怒号と共にブラィクの重い鎧姿の背中を全力で蹴り倒したのだ。
『───ブラィク! どうした!? ブラィク将軍、応答せよ───』
なおも音声を吐き出し続けていた魔法通信機に対し、小隊長は躊躇なく小銃を叩き込んで黙らせた。
「ふ、ふんっ……今更壊したところで手遅れだっ! すぐに皇国軍の増援が押し寄せる! 貴様らは怯えて待つがいい!!」
「増援だと……!? 貴様、降伏を受け入れておきながら、まんまと騙したというのか!!」
兵士たちはブラィクの卑劣な欺瞞降伏に対し、激しい怒りに身体を震わせた。
その光景を静かに見つめていたアズライはゆっくりと歩み寄り、倒れ伏すブラィクを冷酷な眼光で見下ろした。
「ブラィク将軍。……貴様には心底失望した。拘束せよ」
「なんとでも言え! 皇国の本当の恐ろしさを教えてやる! ───我らは列強だ! 栄えある文明国なのだ! 貴様らのような蛮族とは格が違うのだ!!」
アズライは聞くに値しないと一蹴し、小銃の銃床でブラィクの頭部を強く殴りつけて気絶させると、冷淡に連行を命じた。
「……マトカル*1へ伝達。敵は欺瞞降伏を行った。これより交戦を再開する……とな」
アズライは心底吐き気がするというように溜息を漏らし、その場を後にする。
イスラエルが対峙していたのは、単なる名もなき異世界の辺境国家などではなかった。
列強序列第4位───『パーパルディア皇国』。
その影が、今まさに立ちはだかろうとしていた。