_???年?月2日A.M.7時_
太平洋空軍アンダーセン空軍基地
「レーダーに反応!北西十時方向より機影を捕捉!まもなく数分後に防空識別圏に進入します!!」
オペレーターの言葉で、アンダーセン空軍基地司令室内に緊張感が走る。
三大陸合州国との開戦時、さらに遡れば第二次日中戦争時に日本側に立って大国である中華人民共和国へと宣戦布告して軍事介入する前夜の緊迫感に包まれた。
「機体識別は?」
「AI分析によって既存機体と全く一致しません!識別不明です!」
オペレーターの告げた言葉に基地司令官は怪訝な表情を浮かべる。
しかしそれも一瞬な事で、やるべきことを認識し大声で指示を出した。
「
滑走路上に待機中だったF-15XAS”セカンドサイレントイーグル”2機にパイロットが乗り込んでいく。
僅かなチェックを終えて、タキシングをしながら離陸位置へと移動する。
そして、スロットルを上げてアフターバーナーを点火させ、高速で離陸していく。
「未確認機ですが、単機で侵攻してくるとは思えません。おそらく、哨戒機だと思われます」
「……そうだろうな。だが、現実に絶対などあり得ない。心してかかるべきだ」
_
中央世界東方 ベリアーレ海
その上空に地球のジェット戦闘機に似た形状の機体が単独で飛行していた。
地球上のジェット戦闘機とは違い、後退翼が無い代わりにテーパー翼がついており、何より見た目と比べて鈍足すぎる速さだった。
だが、機体に搭乗する当人達は気にすることも無く、悠々と空を飛び続けていた。
「凪いだ海、そして静かな空はいいもんだな」
「何言ってるんですか。任務に集中しませんと」
神聖ミリシアル帝国空軍の制空型天の浮舟、エルぺシオ3の複座仕様に搭乗するパイロットは任務に関係ない発言を言って後ろに座る分析担当に窘められる。
「分かってる。だが、突然出現した島に単機で行かされて、嫌な奴なんていないだろ?…ちと、霧が多くなってきたか」
パイロットは目を凝らし前方を見つめる。
すると、その視界に2つの影ができて段々と大きくなり、やがてエルぺシオ3の両隣を高速で通過した。
「なんだ!?」
「ひ、ひとまず回避行動を!」
助言に従い、エルぺシオ3は降下を開始する。
だが、レーダーで捉え続けているF-15XAS二機は加速を緩めた後、旋回してその後ろを追う。
最高速度を出しているはずのエルぺシオ3を余裕で追い抜き、数度旋回を強いられるが、それだけでもエルぺシオ3に十分な恐怖を与えていた。
「こいつら、速い!!」
F-15XASは呼びかけを一切行わず、ひたすら無言で目標を追い続ける。
やがて既定の防空識別圏から出ようとしないエルぺシオ3に対して発砲する。
命中させず、エルぺシオ3を左右から挟む形で両横を20㎜機関砲弾の雨を走らせた。
「撃ってきた……!」
その恐怖に加えて、一メートルずれたら命中しているという掠めるような正確な射撃を行っているという驚愕も混じった感情が溢れ出る。
「どうしてこいつらは執拗に追ってくるんだ!」
「……もしかして、あの島に近づけさせない為では?」
「それだ!!」
分析担当の言葉にパイロットはハッとした表情を浮かべ、機体を急旋回させる。
「これ以上いたらやられる!あんなとこに突っ込みたくはない!」
パイロットは操縦桿を握り、エルぺシオ3は最高速度に近い速度で本土へと戻る動きを見せた。
その動きを防空識別圏境界線まで追うF-15XASのパイロットが遠目で見つめる。
「目標、進路変更。……しかし、あまりにも遅すぎる……」
『私語は慎め。警戒を怠るな、範囲外に出るまできっちりと監視を続けろ』
「了解」
その後、防空識別圏からエルぺシオ3が脱すると、二機のF-15XASは大きく旋回して帰投する動きを見せる。
しかし、その後ろから別の機体が追尾を始めていた。
『未確認機の帰投先を特定しろ。決してバレるな』
「もちろんです」
その機体はアンダーセン空軍基地に配備されているF-35ALだった。
機外に装備を一切せず、抜群のステルス性を発揮した状態で高輝度遠視カメラからひたすらエルぺシオ3の動きに注視し続けた。
「……見られてる?」
F-35ALパイロットからの鋭い視線に寒気を感じたのか、分析担当が怯えるような表情で口を出す。
それをエルぺシオ3パイロットは寒気を吹き飛ばすように笑い出す。
「何言ってんだ。そんなわけないだろう、後ろには何もいないじゃないか」
「そうだといいですか」
やがてエルぺシオ3は神聖ミリシアル帝国本土へ到達する。
F-35ALは既にエルぺシオ3へ注意を向けるのをやめ、帝国本土の街並みや軍港と思わしき場所等の撮影を開始し、それは滞りなくアンダーセン空軍基地や安全保障省のコンピュータへとデータが送信されていく。
撮影を終えると、踵を返してアフターバーナーを点火させて通ってきた航程を逆戻りしてアンダーセン空軍基地へと帰投した。
_C.C.1635年6月2日A.M.8時_
首都フィールディングU.D. ALESC連合安全保障会議室
引き続きALESC内の会議室で行われている会議では、カー安全保障長官の報告を受けていた。
「……という事です」
一瞬会議室を沈黙が包むが、閣僚らは口々に感想を言い合う。
アルフォードもその1人であり、自分で思考をまとめながら必要な物のみ質問を繰り出した。
「第二次世界大戦前期程度の文明を有すると思われる近代国家か……」
「外観からはそう判断しました。しかし、F-35の探知手段をもってしても、あらゆる電波及び通信が観測されないのが不可解です」
「……我々の知らない別の伝達技術を持っている可能性があるか……」
欲しい情報を得られたと判断したアルフォードは少し考えた後、指示を出した。
「太平洋方面を観測可能なGPS衛星の打ち上げを急がせろ、予定を繰り上げても構わない。接続機器が機能開始次第、艦隊を派遣する」
「武力侵攻、ではなく接触ですか」
「ああ。この出来事が無くとも、兎に角我々はこの星の情報を知らねばならない。その機会が早々に訪れたことに感謝しなければな」
「それでは……」
「それと、呼び掛けは出来ないとしても、発砲はやりすぎだ。今後は向こうが攻撃する兆候がない限り、禁じる」
「承知致しました」
「少しは戦争を忘れて過ごしたいものだ」とアルフォードは小さく呟くが、結果的には誰にも聞こえていなかった。
報告前に行われた会議にて転移後の国内対応もまとめられており、先程の発光現象や衛星通信の使用不能について、即座に国民に向けて北方連合国家は別惑星へ転移した事実が知らされた。
さらに、
GPS衛星の早期打ち上げも公表されたため、各航空会社、運輸交通安全局含めた各国運輸管理局は航路の再策定を行い始めた。
そして、グアム島沖合にて戦闘機同士の遭遇という最悪レベルの印象を与えかねないファーストコンタクトによって初めて接触した中央世界の覇者、神聖ミリシアル帝国でも動きが見え始めた。
_C.C.1635年6月2日A.M.9時_
神聖ミリシアル帝国帝都ルーンポリス
アルビオン城
5大列強の中で列強序列第1位の座を戴く神聖ミリシアル帝国。
帝都ルーンポリスにある皇宮であるアルビオン城では帝前会議が開催されていた。
帝国皇帝ミリシアル8世の視線が向かう先は神聖ミリシアル帝国軍を統括する立場にいるアグラ・ブリンストン国防省長官であった。
「──まだ分からないことは多々ありますが、これにて報告は以上とさせていただきます」
ブリンストンが話し終えると、その場の沈黙は破られ、ざわめきが覆う。
ミリシアル8世が静粛を命じると、ある程度は抑えられたものの、一部官僚同士が話し合う様子が見られた。
それに目も暮れず、ミリシアル8世はアグラに質問を行った。
「本当なのか?」
「はい、パイロットの精神状態には異常が見られなかったため、真実をお伝えするべきと思いました」
嘘をついてる様子は見られない、とミリシアル8世は一目見て判断すると共に、目の前に課題に唸る。
「しかし……ベテラン揃いの本国戦闘団では無く、哨戒隊に属するとはいえ、エルペシオ3を上回る速度を発揮する天の浮舟とは……」
「調査をするべきだな……」
ミリシアル8世に続いて閣僚が感想を言う。
「しかし、このような接触の仕方ではいずれ武力衝突を招きます、いえ向こうが威嚇だとしても撃ってきたことに変わりは無いのですが……何か平和的な接触の仕方があればいいのですが」
ブリンストンが「調査」という言葉に穏やかながら釘を刺しつつ、悩んでるそぶりを見せる。
そこに再びミリシアル8世が発言を行う。
「諸君、余は先の夜が昼のように明るくなった現象とこの事に関連があるように思えてならないのだ。あの時も申したが、昼が夜のように暗くなる現象とは逆なのだ」
「つまり……どこかの国が姿を表したのでしょうか?」
ジョージ・ペクラス外務大臣が必死に頭を悩ませて考えた答えを口にする。
ミリシアル8世は回答など期待していなかったような表情だったが、ぺクラスの答えを聞き感心するような表情に切り替える。
「そうだ、少なくとも余はそう考えている」
「……お待たせしました」
その時、対魔帝対策省の長官が現れる。
その名前はミリシアル8世以外の者は誰もが知り得ず、その素顔も仮面によって隠されていた。
この場にいる誰よりも寡黙な対魔帝対策省長官は一言言うと、定位置へと移動する。
「対魔帝対策省では、このような高速な天の浮舟の開発は行っているのか?」
ミリシアル8世は彼にそう尋ねる。
「……ああ、件の浮舟ですか。実のところ、一切行っておりません」
「そうか……」
ミリシアル8世は少し落胆する表情を浮かべる。
「……ですが、必ずや成果を出して見せましょう」
_C.C.1635年6月4日A.M.10時_
北方連合国家北アメリカ大陸連合フロリダ州
ケネディ宇宙センター
「第一段分離!!第二段分離準備!」
ケネディ宇宙センター第39発射施設からGPS衛星を搭載したロケットが打ち上げられていた。
「第二段も分離!!まもなくです!」
おお、と感嘆する声が各所から聞こえる。
モニターには既にロケット自体は映ってないものの、どこにいるかのレーダー画面とシステムが正常に動いてるかどうかの確認画面が映されており、制御室にいる面々はそこに視線を集中させていた。
「衛星、切り離し成功!!まもなく、周回軌道に移ります」
皆が固唾をのんでその瞬間、オペレーターから嬉しい報告が舞い込むのを待った。
「衛星……周回軌道に乗りました!成功です!!」
その声が聞こえた瞬間、制御室にいる全員が即座に立ち上がり、拍手をしたり抱き合うなどして喜びを分かち合った。
転移後初の衛星打ち上げは軌道再計算に際して、大本の
_C.C.1635年6月5日P.M.6時_
北方連合国家ハワイ州
ハワイ諸島オアフ島ヒッカム統合基地
「まさか……貴方自ら赴かれるとは」
「悪いかね?」
「いえ……」
第17空母打撃群司令官のアルバート・G・フォスター少将は驚きの最中にあった。
その理由は全権代表として赴かれるのが目の前にいるスクワイア国務省長官であったからだ。
向かう先が近代国家の装いをしているのはフォスター少将も知る事実であったが、地球の歴史において近代国家だとしても相手を不快に思わせる国などが存在した例もあり、彼なりの懸念があった。
「……まあ、いいでしょう。我々軍人があなた方の身を守ります」
「頼んだぞ」
そして日を跨いだ6月6日A.M.2時。
「全艦、出港せよ」
アーヴィング・デイ級航空母艦「ジェシー・V・スペンス」を旗艦とし、ネブラスカ級戦艦「ネブラスカ」、「デラウェア」、クインシー級巡航艦「ヒューストン」、「ハンブルク」、シャイロー級ミサイル駆逐艦6隻で構成される第17
行く先は西の大陸国家。
それがこの世界において序列第一位の神聖ミリシアル帝国であることは現時点では知る由も無かった。
_C.C.1635年6月7日_
ヒッカムを発ってわずか約1日後。
ハワイ諸島から西に1000㎞程度の
『こちらヴィベーク04、司令部! ベリアーレ海洋上に11隻からなる不明艦隊を発見! 繰り返す! 不明艦隊発見!』
この報告は『魔写』と呼ばれる写真と共に、ベリアーレ海上空の哨戒を担当する東部方面防空司令部にもたらされ、神聖ミリシアル帝国上層部はこの事実に震撼した。
中央暦1635年6月、
■次話予告
Episode.3【世界最強の動揺】
旧世界においての覇権国家と現世界の覇権国家は遂に接触を果たし、神聖ミリシアル帝国は旧世界の覇権国家に動揺する。