異世界救済RTA   作:猫毛布

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動画は準備できませんでしたので本編をどうぞ。


内政パートはー、語る事がないのでー、みーなーさーまのためにー

 人族を襲撃するまで内政をしなくちゃいけないRTAはーじまるよー……。

 さて、腕に関しては一晩寝ている間にユディアに接着してもらったので、何も問題ありません。ユディアが秘書官かよぉ!? ってぐらい相変わらず近いだけですので何も問題ありません。

 

 まずは魔王の地位を戴いたので現状の確認ですね。魔族領は大陸の東端に位置しており、この大陸大部分に分布している人族と敵対しております。国力的には人族よりも劣りますが、人族の国は多数に分裂してますので現状は無事です。魔族領をA国が攻めてきたらA国をB国が攻めるとかいうクソみたいな三つ巴状態が多数で行われている訳ですね。人側から見ても魔族側から見ても「何やってんだアイツら……」状態ですねぇ!! もう嫌になりますよ戦争……。

 魔族側は戦争とかやってる場合ではないです。交易はそこそこありますが、魔族相手に人族の商人はこちらの物品を安く買い叩いて、人族の物品を魔族に高く売りつけるという行為が横行してます。商人ルートで魔族領の出入りを楽にするのはその為ですね。

 魔族領の特産品はなんといっても純度の高い魔力石です。行けませんが人族の魔法使いに売れば今の交易一ヶ月分ぐらいの儲けになります。それを安く買い叩ける商人達は当然高く売る訳ですね! 笑いが止まらない程の利益になります。そんなクソ取引であろうと魔族にとっては大切な交易です。すぐに見直しますが。

 魔族の収益といえば夢魔族達もそうです。基本的に彼らは人族に紛れて食事をしてくるので討伐対象になることもありますが、娼婦などになっている事も多く、商人達との伝手を作っているのも彼らですね。魔族領の生命線なので好き勝手させておきましょう。下手に命令を出すと急にやる気をなくして本格的に魔族領への援助もなくなります。ユディアの命令も聞かなくなります(一敗)。

 他にも農作も色々していますが、特筆すべきものはその二つ。もう一つ、獣人族の奴隷販売とかいう裏技もありますがもれなくハクメンとバッチバチに敵対するのでNGです。ハクメンと敵対した場合、彼女は表面上は付き従ってくれますが、気付くとコチラを包囲して為す術なく殺してきます。彼女はそういう女性なので丁重に扱ってさしあげろ。年齢の事も言ってはいけない。いいね?

 

 次に出資に関してですが、魔族領の基本的な出資は防衛による被害の補填です。なんで戦争してるんだよ、って話にも繋がるのですが、魔族は大人しくはないですが、国力的に勝っている人族へ戦争をふっかける程馬鹿ではありません。前の魔王様も自身が万全の体制になるまでは守備重点で国を守っていた訳ですし。

 じゃあなんで戦争してんだよ、って事ですが人族が攻めて来ています。もう一度いいます、人族が攻めてくるのです。先程も言いましたが、A国が攻めてきたらA国にB国が攻めるという図式なのですが、二つの国が同盟を組めばあっさりとその条件はクリアされます。戦争がなくなって平和なのはいいことですね、魔族側だとそれが言えないのですが。

 人族の目的は先程も上げた純度の高い魔力石です。交易に使えば国庫が潤いますし、美味しいです。その代わりに魔族と戦わなければいけませんが、人族は魔族と戦い負けても大手を振るって「魔族が悪い、魔王が悪い」と喧伝する訳ですね。その後に待つのは国家を超えた種族間での戦争です。

 勝てば純度の高い魔力石。負ければ他国との同盟への足がかり。何もかも得しかありません。兵士が死ぬぐらいでしょうか?

 ともあれ、攻める国力もなく、守るしかない魔族ですが、ひたすらに個人が強いのでそれでどうにかなっている状態ですね。

 という事でミニゲーム感覚で既に覚えている政策を布きましょう。何、安心してください。何度も再走して実証している政策です。伊達や酔狂で多数の国でハンコをポンポン押していた訳ではありません!

 

 秘書ユディアさんですが、お前性癖の坩堝かよ! っていう感じにどこから仕入れてきたのかタイトスカートを履いたスーツ姿でOL風です。胸部のボタンが悲鳴上げてるじゃん。おっぱいの北半球見えてるじゃん。エルフに謝って! 王族に謝って!

 

「それで、魔王様ぁ。目を覚ましてからずっと執務室に籠もりきりですけど、私達を繋ぎ止めなくて大丈夫なんですぅ?」

 

 それに関しては何も問題がない。裏切るにしても今暫くは時間があるし、現状を打破するためには内政処理を進めなくては話にならない。目下一番裏切りそうなユディアがこの場にいるのも強運である。過去のガバがここで清算されている可能性が……? ガバ量は常に一定である可能性が……?

 内政パートですが、前の魔王が寝起きでバッチリ仕事をサボっていたのは知っているのでサクサクと終わらせなければいけません。素早く終わらせる事により秘書からお褒めの言葉とアイテムも貰えますので早急にクリアをしましょう。魔王はこの為に仕事を残していた可能性が……?

 

「おぉう!! 魔王様! 俺様と戦え!」

 

 扉を蹴破って来たブレザムに対しては一枚の命令書を渡します。このまま彼の願いを聴いても問題ないのですがアイテム取得が出来なくなる可能性もあるのでさっさと出撃の命令書を渡します。今魔族領に遊ばせている戦力なんてねぇんだよ!! 守衛とか必要、ないです。魔族領のど真ん中にあるんだから、多少はね?

 

「……中々面白そうじゃねぇか」

「あらぁ? こんな所攻めて大丈夫なのかしらぁ?」

 

 何回も検証したので問題など無い。というか、ブレザムがここじゃないと納得できないって反抗してくるから仕方なく渡すしかない。苦渋の選択とかじゃなくて必然的に選択肢など無い。他の選択肢は総じて遅くなります。言うとブレザムが反抗してきて戦闘に入ります。経験値もまずテイストなので意味が無いわけですね。

 命令書を見て楽しみなのか髪の熱量をあげたブレザムを見送っても私の仕事は終わりません。ウチさ、残業あるんだけど、やってかない? いやです……。

 魔王領ですべきことは内政の管理と未だに姿を見せてくれないトーンズへの命令です。トーンズへは魔王城改築の命令を出さなくてはいけないのですが、ランダムイベントなのでそれほど重要視はしていません。最悪今日に会えなければトーンズへと招集命令を出して、エルフの森への再訪問前に会いたいです。必須にすると再走回数が加速度的に上昇するので必須にならないようにチャートを組みました(半ギレ)。

 あと避けるべきイベントも幾つかあります。

 魔王ルートを走っている際に突然勇者が来訪するとかいうクソみたいなイベントがありましたが、現在の日程では起こり得ないイベントなのでスルーする(激ウマギャグ)。試走の時も起きなかったし、大丈夫でしょ。

 他にもユディアが急に私を攻撃するとか、突発的な遊びがありますがそれもユディアとの好感度に左右されるので魔王城への道中が一緒だったユディアの好感度は問題ありません。ガバ中の幸いですね。

 大凡ありえそうなイベント群ですが、現状はそれらに抵触しないように調整しているので、この掌握ルートにこれ以上のガバは決してない! と思っていただこうッ!

 

「すまんの。よいか?」

「あら、ハクメンまでどこかに攻め入るのかしら?」

「儂は今朝に求められておった仕事の報告じゃ」

 

 あぁぁぁぁあああ!! なんでなんでなんでなんでなんで!

 どこでイベントフラグ踏んだんだよ……お前ェ!! 試走の時は私が呼ばないと来なかっただルルォ!? なんで通しの本走の時に限って来やがるんだ!! ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁああああん!!

 …………。

 

 ふぅー。私は取り返しのつかないガバが発生した時こうして泣き叫んで頭を冷静にすることにしているのだ。

 はい、という事でハクメン叛逆イベントですね……正確にはその一歩前なので対処はできます。ただ政務をほっぽりだす必要があるので……今日のアイテムやお褒めの言葉は無しだ!

 

 

 

 

 


 

 ()()()()()()()()()羊皮紙がユディアの視界を覆った。

 反応が遅れたといえば、確かにそうである。けれど、もしもこの羊皮紙が無かったとしてもユディアは今の魔王への攻撃を防ぐ事はなかったし、防ぐことも出来なかったであろう。それに、今のように防ぐ必要もない。

 ハクメンの拳速によって積まれていた羊皮紙が舞い落ちる。鋭く伸ばされた細腕は一直線に魔王の顔を捉えている筈であった。

 

「ッフ、やはりやるのぉ」

 

 獣人族をもってして達人と呼ばれるハクメンの一撃を魔王は容易く受け流して、筆を走らせていた羊皮紙にピリオドを打ち、持っていた羽ペンを立てかける。ハクメンへと視線をあげたのは、そこでようやくであった。

 

「ハクメン、何をしているのかしらぁ?」

「何、儂の上に立とうというんじゃ。ちぃっとぐらい試しても罰など当たらん」

「それを決めるのも魔王様なのだけれど?」

 

 ユディアの問に対して魔王は溜め息を吐き出して身よりも大きな椅子へと深く腰掛け直した。相変わらずその瞳は黒黒と奥が見えずに、表面にハクメンとユディアを映すだけである。

 ここで自身を罰するというのならば、まあそれも良い。ハクメンとしては自身の行動に悔いはない。自身の種族を抱えて魔王から逃げるのも一興である。それに自身の疑問は早期に解決すべきだと判断もした。

 

「で、何用?」

「忙しいのにすまんのぅ。何、少しばかり話に付き合ってほしいと思ってのぉ」

 

 魔王はその小さな顔を左右に動かして鳴りもしない首をほぐす。肘掛けの先まで届かない手を置いて、完全に仕事は放棄したようだ。

 その様子にハクメンは満足げに微笑んでから口を開く。

 

「お主、未来から来たんじゃろぅ?」

「は?」

 

 咄嗟に声が出たのは魔王ではなくユディアであった。魔王はさしたる反応も見せずにアクビを一つだけしてハクメンに話を促す。

 ハッキリと言えば、今の魔王は異常であった。

 その小さな体躯もそうであるし、自身が修めている武の頂点に存在するのも、身一つで前の魔王を打倒したのも。何もかもが異常であった。ハクメンとて自身の武術には誇りがある。その頂点である自負もあった。研鑽の先もある事もわかっていた。その頂きに最も早く手を掛けるのも自身である、と信じて疑わなかった。

 けれどもそれは目の前の魔王に覆される。

 この魔王が老齢であるのならば理解できた。そうであるのならば頂点へと手に掛けていてもおかしくはない。けれども魔王は少女であった。

 この魔王が人族でないのならば理解できた。そうであるのならばあの魔王種を倒した事にも納得はした。けれども魔王は人でしかない。

 武の頂点。それが未来に存在する研鑽の頂きであるのならば、少女はその粋を集めた存在であり、どういった理由かは不明であるが未来から現在へとやってきた。そう考えるのならば、辻褄は合う。

 少女が魔族領に来てからは調べさせた。何故魔王城の所在を知っていたか。それは未来から来たからである。

 

「どうじゃ? 中々的を射た推論であると思うが?」

「ハクメン、貴女ねぇ。時間跳躍がどれほどの魔力を使うか計算した事あるかしら?」

「後学の為に聴いておこうかの」

「今、魔族領のいる全ての生命体を枯らしても無理よ」

「――その計算に、そこな魔王は入っておるのか?」

 

 ユディアは言葉に詰まる。魔法に適正を持った種族で随一であるユディアであるが、魔王の正確な魔力は測ってなどいない。少なくとも、自身よりも、あの以前の魔王よりも大きな魔力を持っているのは確かである。けれど、それでも、である。

 

「入れた所で誤差にしかならないわ」

「ほう。しかし儂の推論は遠い未来かもしれん。そこまでに時間跳躍が簡易になった可能性や魔力の貯蓄といった方法もあるかもしれんじゃろう?」

「時間跳躍の簡易化は不可能よ。そもそも人に行える魔法ではないわ」

「他ならば行える、と聞こえたが?」

「……竜種よ。それも伝説と呼ばれてる」

「ふむ……」

 

 それはお伽噺にも語られる竜と呼ばれる種族であった。

 世界を創造したという神と竜。神は世界の行く末を見守る為に生物達へと未来を託し、竜は神がいた事の証明に地上へと居座り世界を見続ける。そんなお伽噺だ。そんな物が存在している訳がない。

 そんなお伽噺の存在でしか、時間は跳躍できない。それはこの世界に生きている生物に許された魔法ではない。

 

「……まあ、ユディアの仮説はよい。して、どうじゃ?」

「……私は()()()()来ていない」

「ほう、ではお主の武術はどこで? あれは獣人族に古く伝わる武じゃろう」

「師は……愛しい人でもういない」

 

 黒々とした瞳に初めて見えたのは哀傷の感情であり、それも一瞬にして読み取れなくなる。ユディアだけに読み取れたその感情が向けられた先は正しくハクメンであった。けれど、ハクメンは生きている。ハクメンの外見的特徴と類似する獣人など存在している訳がない。九尾の狐という強大な存在があればどこかで気付くだろう。隠遁していた、というのならば少なくとも次世代であろうハクメンが知らない訳はない。

 けれど、ハクメンは何かを考える素振りを見せるだけで、前世代に関しては思い当たってはいない。

 

「……そうか。よい師じゃったようじゃの」

「ええ。理知に富んだ、いい女性(ヒト)だった」

 

 その師は全てを少女に授けたのだろう。自身の死を悟ってか、それとも別の理由であるかはハクメンにはわからなかった。既にこの世にいないであろう存在に敬意を向ける。同時にこの怪物に心が備わっている事に安堵する。歪である。怪物であるが、心がある。それは恐らく同門である自身と同じ物である事も、わかる。

 

「……獣人族に関して話がある」

「戦場には極力出さない。人族の奴隷になっている獣人族の解放。」

「……知っておったのか?」

「貴女が吹き飛ばした報告書にあったわ。他には何か必要かしら」

「……儂に出来る事であれば、なんなりと主様」

「うん。頭のいい貴女は好きよ」

 

 先程書き終えたばかりの羊皮紙をハクメンへと差し出し、手に取ったハクメンは目だけで文字を追いかけて頭を下げて踵を返した。

 残った魔王は椅子を降りて飛び散った羊皮紙達を集めていく。それを見てようやくユディアは慌てて近くの羊皮紙を集め始める。

 

「魔王様、知っていたのかしら?」

「獣人族?」

「えぇ。特に魔王様にそんな様子は無かったでしょぉ?」

「言ったでしょ。書いてあったのよ」

 

 張り付けたような笑みを浮かべた魔王は何も書かれていない羊皮紙を持ち上げて一瞬で燃やし尽くした。

 まるで証拠を見られないように。

 

 まるで証拠を隠すように。

 

「さぁ、仕事を再開するわ。何か飲み物を持ってきて」

「ええ、美味しいお茶を入れてあげるわぁ」

「砂糖は二つ。ミルクと睡眠薬は抜いてちょうだい」

「……かしこまりましたぁ」

 

 気を取り直して、と言わんばかりに机に向かいだした魔王はしっかりとユディアに釘を刺してから羽ペンの先をインク壺へと突き刺した。


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