アタランテお母さん~聖杯戦争で子育て頑張る!~ 作:ら・ま・ミュウ
「びぇぇぇぇ!!!!」
「どうした、どうした、今日のお前はよく泣くなぁ」
トントンと小刻みにマリーを“あやし”ながら、アタランテは育児本を広げる。
「熱はないし、便秘でもない、環境にも慣れ始めた頃だろう……黄昏泣き?……意味もなく泣く事があるのか、困ったなぁ」
アタランテはマリーの突発的な行動にも慣れ初め、驚いたり叫んだりするのではなく、落ち着きを払って対処しようと動く分には問題なくなった。しかし冷静になってもどうしようもない事はある。
夕焼けが沈みかけ、間も無く夜になる。
冷え込むこの季節、病院へ行くためとはいえ安易に外に出るのは躊躇われた。“赤ん坊は疲れを感じやすく長距離の移動は負担が大きい”と体験談の書かれた育児本で学んだのだ。
「どうしたものか……うん?」
「すぅ……すぅ……」
「ははっこいつめ、私の心配も知らないで」
いつの間にか、腕の中でも眠れるようになったマリー。
「さては抱き上げてもらう為に泣いたのだな?」
ツンツンとマリーの頬を突っつくアタランテは、幸せそうに微笑んだ。
月の影に隠れて赤のマスターの本拠地だと思われる教会の襲撃をマスターに命じられた黒のアーチャー『ケイローン』は一キロほど離れた木々の上から弓を構える。
通常の弓と使い手ならば、ここからの狙撃など考えられない距離だ。矢は風に誘われやすく勢いも100メートルほどで驚くほど落ちていく。
彼のマスターが命じたのは、赤の拠点を破壊、又は赤のマスターの捕縛である。威力も狙いも逸れるであろう超長距離……届く訳がない。これを見れば誰もがそう思う筈だ。
しかし神代に生き、数多の英雄達の師であり、弓の名手である彼はそれを可能とする。
ケイローンはスキル千里眼(B)のサポートによって赤のバーサーカーとその背後にある教会を目視。矢に魔力による強化を施し大きく弦を引き絞った。
『びぇぇぇぇ!!!!』
「馬鹿な……赤子だと」
引き絞った弦が解き放たれる事はなかった。
ケイローンはその赤子を目を細めて見つめ、手の甲に浮かぶ令呪をみて息を飲む。
すぐにマスターへ念話を繋ぎ、赤ん坊=マスター=優秀な魔術回路を備えた魔術師の卵、ここから導き出した一つの可能性を提示する。
「マスター、最悪の事態が起きたようです。
赤の陣営本拠地にてユグドミレニアの盟友…………の、跡取りと思われる赤子を発見しました。」
『了解しましたアーチャー。先の命令を破棄し最優先で赤ん坊の保護を命じます』
マリーちゃん、アタランテも遠くにいってしまうような気がして不安みたいだ。
―マリーはアタランテを覚えた―