アタランテお母さん~聖杯戦争で子育て頑張る!~ 作:ら・ま・ミュウ
目を覚ますと私はマリーを抱き上げた状態で、マリーの瞳は変わらずエメラルドのような緑だった。
「……ぁぁう?」
マリーはキョロキョロと辺りを見渡し、アタランテの方を見ると両手を広げてにこりっと笑った。
「ッゥ!?……そうだよな、そうだな」
らしくない。
壊れそうな笑顔でマリーを抱擁するアタランテを見たとき、彼女を知る誰もがそう思うだろう。
「お腹が減ったのか、それともオムツか?」
マリーが夢の中で母親を名乗った彼女を求めているのではないかと息を詰まらせ、自分を選んだ途端にケモ耳をちぎれそうなぐらい振るわす。
無意識に、戦いを遠ざけるようになっている姿をみて。
彼女らしくない。そう思うのだ。
霧の街
「ねぇねぇ!お母さん!お腹すいちゃったなぁ!」
「あらあら、また来たのね?」
「うん!」
それは古い一軒家の跡地だった。
今は亡き魔術師が利用する、現在の彼女達の拠点であり、この聖杯大戦におけるもう一つの親子の形。
黒のマスターいや、“この子”だけのマスター『六導玲霞』
黒のアサシン『ジャック・ザ・リッパー』
方や、魔術師ですらない生け贄として暗示を掛けられた一般人であり、方や、産まれずしてこの世をさ迷う、今度こそ産まれる事を望みながら聖杯を求める水子達の
「真名かいっほう!」
アサシンの宝具は真の力を解放し、街に立ち込める静かな霧は猛毒と化す
「朝までには帰ってくるのよ」
「うん!待っててねお母さん!」
赤のバーサーカーが退場し、黒のセイバーが思わぬ最後を迎えた聖杯大戦の夜。
事態は大きく動こうとしていた。
「マリー!?」
街の空気が変わった。
アタランテは酸の匂いを感じとり、素早くマリーを抱き上げて天井へと飛び上がる。
「黒のキャスターの仕業か!」
酸の霧だ。対策を施した魔術師や特殊な防護衣に身を包んだ人間ならまだしも、常人には呼吸しただけで肺を焼かれ死に至らしめる猛毒である。
アタランテは足下まで広がるそれにさっと顔を青ざめる。
こんな中にマリーが居れば、何秒持つか。
「マリー……行くぞ」
敵に此方を認識される前に離れなければならない。
「見ぃつけた!」
そして、銀色の何かが腕を通り抜ける。
「あっ」
――腕が斬られた。それはいい。切断される前に離れたから。
「あぁ」
――足下が崩れる。当然だろう。それは地面(=天井)を突き破って現れた。バランスは崩れたが、それでも弓を構えるには問題ない。
待て――
何故両手が開いている?
私が抱いていたマリーは…………マリーはァ!!!!
「……霧の、中に」
ア"ア"ア"ア"ア"ァァァァ!!
黒い影と共に猛毒の霧の中へと消えていくマリー
声にならない悲鳴を上げながらアタランテは霧の中に飛び込んだ。
次回『施しの英雄』