アタランテお母さん~聖杯戦争で子育て頑張る!~ 作:ら・ま・ミュウ
身を焦がす灼熱の業火は、夜の街を覆う霧を払い去り、落ちるマリーを包み込んで――弾けた。
「……誰だよお前」
現れた赤い衣を纏う色白の男。ジャックは声を低く不機嫌そうに尋ねた。
「赤のランサー カルナ」
その男の腕の中にはマリーが寝かされ、彼女は気づいているだろうか……温厚な彼が、此れから矛を交える相手に名乗りを最低限で済ませるほど怒っている事に。
「黒のアサシンとお見受けして問う、何故マリーを傷つけた」
「そんなの決まってるじゃん!お腹が空いているんだよ!」
「成る程、食事……悪食の類いか」
カルナはふわふわとした衣にマリーを包んでそっと地面に下ろす。「アーチャーの抱き心地には及ばないだろうが、」短く言葉を残して、ジャックへと振り返った。
そんな彼の目の前には風のような速さで頭上へと迫りナイフを振りかざす、正に殺人鬼の名に相応しいジャック・ザ・リッパーの姿。
不死性を持つ彼からすれば、無意味な行為だろう。しかし、ジャックはナイフを突き刺すのではなく滑らせ……伝説を最誕せんと皮膚に接着した、彼を不死至らしめる黄金の鎧を剥ぎ取るべく僅かな隙間に突き刺した。
「残念だが、この鎧は俺以外に外すことも奪うことも出来ない」
ナイフは鎧を通り抜け、カルナの槍がジャックを襲う。
ジャックは住宅街の壁に打ち付けられるも、起き上がった。
「けほっ……強いんだね」
「此方はあまり時間がない。一撃で決めさせてもらう」
カルナの構えた黄金の槍は炎を纏う。
それは太陽のごとき光だった。並の英雄が到達出来ぬ、最高の神秘。地面が熱に溶かされ夜空が夕焼けのように赤く輝く。
「……あぁそう。貴方はもう負けちゃったんだね」
ジャックはその炎を焼き付けるように見て、消えた。
恐らく彼女のマスターの令呪による強制転移だろう。
「マリー!」
「……アーチャーか、」
霧が晴れたことで、マリーとカルナを見つけることが出来たアタランテはマリーに駆け寄り優しく、その体温に涙しながら抱き締める。
「感謝するランサー!」
カルナはそれにとても幸福そうな顔を浮かべて、頷く。
「あぁ、そうだ。もとよりこの戦い…過去の影に過ぎない俺には荷が重すぎたのかもしれない……そんな駄々を捏ねるのではなく、最後にそんな笑顔が見れてよかった。」
カルナの体は薄く不安定となる。
アタランテは息を飲んだ。
「マスター一人守れなかったこの俺に、それを守らせてくれてありがとう。」