アタランテお母さん~聖杯戦争で子育て頑張る!~ 作:ら・ま・ミュウ
空は薄桃色の花びらが舞い、気持ちの良い風と共に鼻をくすぐる。
桜舞い散る冬木の春空
それはとある公園から始まった。
「……あれ、あの子は。」
「――にゃ!」
レジャーシートの上でお弁当を積めたバスケットを広げる紫髪の女性は困ったような声を漏らす。
「どうした桜?」
「あ、先輩。みてください」
女性の指差す先、彼女達を桜の大樹で遮る向かい側のシートの上で赤ん坊が一人此方をみていた。まだハイハイも出来ないだろう、首がやっと座ったかという本当に小さな赤ん坊である。
先輩と呼ばれた白髪混じりの赤毛の青年は、金髪にエメラルドの瞳をした赤ん坊に今はなき大食らいの少女を重ね…懐かしいなと思わず感傷にくれつつ、その赤ん坊の周辺に保護者らしき影が一切ない事に気づいた。
「親はどうしたんだ?」
「それが…少し前までお父さんらしき人が側にいたんですが、女の人の名前を呼びながら離れてしまって、一緒に連れていったのかと思ったんですけど、どうやらあの子だけ置いていってしまったみたいで」
「母親を呼びに行ったきり帰ってこないか……直ぐ戻るつもりだったけど、この人混みだし迷っちゃったのかもな」
例年の花見シーズンが訪れた影響で人混みの多い公園を見渡しポツリと呟く。決して広くない公園だが目立った建造物がなく視界不良とか人混みに揉まれているせいで中々帰ってこれないのだろう。
そう考えると、赤ん坊を連れていかなかったその父親は正解かもしれない。あの人混みの中では真面目に赤ん坊の生命が危ぶまれる。
「みゃ!」
頬っぺたを赤くする赤ん坊は此方に手を上げて甲高い声を立てた。
その動作で赤ん坊に掛けてあったタオルケットは横に落ちる。
「何分ぐらい経ったんだ?」
「……ええっと、少なくとも三十分ぐらいは経ったと思います」
寒々とした横風が頬を撫でる。
「……先輩」
「そうだな」
青年と女性は頷いた。春先のまだ肌寒いこの季節に赤ん坊を長時間、それも一人で放っておくなど出来る訳がない。
女性は赤ん坊を抱き上げ、青年は膝掛けをその上から被せた。
「あぅ……?」
女性の豊満な――
「…外人さんですかね」
「そうだな…ヨーロッパ辺りの観光客が桜を見に来たんだろう」
彼らは満開に咲き誇る桜を見つめ、他愛ない話を続けながら赤ん坊の保護者を待った。
「全く貴様と言う奴はマリーを一人で!」
「しかし、俺が抱けば泣いてしまうだろう」
やがて、二人の男女が慌てながら走ってくる。
「……もし、家族が増えたらまたこうして桜を観に行こう」
「……そうですね」
「……にゃぁ」
二人して耳を真っ赤に染めるそんな姿に赤ん坊は呆れたような声を漏らした。
「マリー心配かけてごめんなぁ!」
女性にお礼をいい、マリーを抱き上げるアタランテ
「……(ぷいっ)」
何か違うという顔をして顔を背けるマリー
その視線は紫髪の女性の胸部へと注がれている
「……バカな」
自身の胸とその女性とを見比べてアタランテは傷ついた。
効果は抜群だ。