アタランテお母さん~聖杯戦争で子育て頑張る!~   作:ら・ま・ミュウ

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姉さんが壊れた

生前、憧れを抱くも会うことの出来なかった人と聖杯大戦という舞台で共闘することになった。

正直、聖杯なんぞに叶えてもらいたい願いなど無いが、俺は逸る気持ちを抑えられず「――俺は赤のライダーって言うんだ!アンタが赤のアーチャーか!?」その人を召喚した魔術師を迎えにいった神父と横を歩く女性を見つけると、見張り役を投げ出して戦車で駆け出していた。

 

ヒヒーン!

ガタゴトガタゴト

 

「びぇぇぇ!!!!」

 

「―――ンンンン!!!!?」

 

「えっ、ガキ?」

 

女性の腕で横抱きに泣き叫ぶ赤ん坊と、声にならない悲鳴を上げる「フンッ!」「アボラッ!?」女性が蹴り上げた小石が額に当たり俺は戦車から転げ落ちた。

「その精度……間違い、ない……アンタがアタ、ランテ……」ガクッ

 

「ほーら!ほらほら!変な人参は倒したぞー!馬は…そうだ!馬刺しにして、後で食ってやろうなー!馬は美味しい、美味しいからな!」

 

「(私の六十年が…)」

 

赤のライダー『アキレウス』が気絶する最後に見たのは、赤ん坊を宥めるアタランテと死んだ目をする神父だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぅすぅ」

 

「……あぁ、やっと泣き止んでくれた。」

 

『赤子がマスターとは……シロウ、お前は面白い事をするのぅ』

 

アタランテが“泣き止んだ”と言うより泣き疲れて寝てしまった赤ん坊にケモ耳をピョコピョコさせながら喜びを表す中、それを宝玉に映して見ていた赤のアサシンは念話を用いてマスターであるシロウ・コトミネをからかうように笑いかける。

 

『勘弁して下さい……これは完全に予想外なのですよ』

 

『ほう、まぁ私とお前の仲だ、そういう事にしてやらんでもない。ただ、我が庭園に招き入れるのか?

……赤子の死体は臭うぞ?』

 

『調子に乗るなアサシン。赤ん坊を犠牲にするほど私は落ちぶれていない。彼らとは別の手段で、あの子にはマスター権を破棄して貰う』

 

『まったく、何処までも甘い男よ』

 

呆れたような声を最後に念話を切ったアサシンは、玉座に腰をおろし、ふと先程の赤ん坊を思い出す。

 

「――はて、生前どこかで見たような…………気のせいか」

 

妙な既視感を感じる赤子であったが、赤子など顔の見分けも難しいだろうと庭園の調整に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は…………何者だ」

 

「俺は赤のランサーだ。お前は赤のアーチャーだな」

 

聖杯大戦は“マスター”と呼ばれる聖杯に参加権の令呪を与えられた魔術師達が“七騎”過去の英雄を召喚し、最後の一人になるまで殺し合う聖杯戦争の亜種的な存在であり、七騎対七騎の殺し合い。“十四騎”によるまさに大戦だ。

赤と黒に分かれ赤の陣営に属するアタランテは、監督役の神父から説明を受け一先ず赤の陣営の拠点までついてきたものの、キャスターの陣地作成も受けていない、何の変哲もない教会にケモ耳をピンッと逆立て怒りを露にしていた。

赤ん坊が居なければ、怒号を上げていたかもしれない。アタランテは教会の隅で棒立ちになるサーヴァントの男に、この気持ちを共感出来ないものかと語りかけた。

 

「このお粗末な拠点に、不満はないのか?」

 

「…………ない。だが、赤子が居るべき所ではない」

 

ここで、口足らずな赤のランサーの言葉を翻訳すると「赤ん坊を戦争に連れてくるな」である。

 

「そうか!やはりそうだよな!まったく、赤のキャスターは何をやっているんだか!」

 

“マスターを守るには適さない拠点”と言う解釈をしたアタランテは嬉しそうにケモ耳を揺らす。赤のランサーは、ダメだコイツ……と言う目をしながらも、アーチャーのテンションが高いせいで“ぐずり”だす赤ん坊の手に指を絡ませ、優しく頭を撫でた。

 

「お前には、苦労をかけるだろう」

 

「…………すぅすぅ」

 

赤のランサーは己のマスターにこの赤ん坊を守護する事を許して貰えるよう、打診する事を密かに決意した。




次回『圧制者』

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