アタランテお母さん~聖杯戦争で子育て頑張る!~ 作:ら・ま・ミュウ
「何も起きないな……」
「――そうだな」
柳洞寺へ足を踏み入れる。御参りをして成長祈願の御守りを購入した。マリーはお花見の間、ずっと起きていたからは今はぐっすりとアタランテの腕の中で眠っている。
今日の彼女は何処か御機嫌斜めな所があった為、恐らく起きれば“ぐずり”だすのだろう。
持参しているベビーカーもあったがアタランテは抱っこを止めるつもりは更々ない。
それと言うのも……今でこそ抱っこを嫌がる頻度は減ったが、赤ん坊の機嫌とは気紛れなもので抱っこ中、何かの拍子に暴れだす事が多々あった。そうなってしまえば少なくとも一時間は触らして貰えない。
つまり、抱ける内に抱いておこうという魂胆だ。
ランサーの冷めた瞳には軽蔑の色が映ったが役得である。
コイツは子供を大切が思うが故に、子供の障害を出来る限り取り払おうとするタイプの人間だ。嫌がる行為は絶対にしないだろう。ニンジン嫌いなら他の野菜で栄養素を補おうとする筈だ。
だが、私は違う。
嫌いな食べ物はバレないように細工するタイプ。
要は気付かない内に楽しめばよかろう。
「ランサー、そろそろマリーの夕飯の準備がしたいのだが」
「……いいだろう」
「元はお前がここに来るよう言ったのだろう」やる気のないアタランテに一言言おうとしたが、グッとカルナは言葉を詰まらせる。
元は聖杯戦争から棄権する案を出したのは己自身だ。計画性も聖杯大戦が終結した後のマリー未来図も無計画のまま飛び出し、あくまでアタランテは行き先を定めただけである。
何かが変わるという期待があっただけに失望を隠せないでいたが、幸いにも時間はまだ残されている。
明日にでもこの地を再度訪れてアーチャーをここまで導いたナニカを調査すればいいだろう。
「今日の献立はなんだ?」
「お芋をトロトロになるまで煮かしこんだものだ」
「マリーはお芋が嫌いだ。カボチャにしろ」
「駄目だ。マリーは好き嫌いがない子に育て上げるのが私の教育目標だからな!」
「……そうか」
困ったような顔をしてランサーは頷く。
『マリーは好き嫌いがない子に育て上げるのが私の教育目標』
……か。端からお前はマリーの側から離れるつもりはないという訳か。
――もし、もしこの瞬間。聖杯大戦が終結したのなら。
この幸せは泡のように消えてしまうのだろうか。
そう考えると急かされる思いに狩られていた己が居た。
死ぬ覚悟はしていたつもりだった。しかし、共に生きる覚悟とは如何せん、ハードルが高い。
「びぇぇぇえ!!!!」
「うわっちょっ!?マリーぃぃ!ごめんなぁぁ……いや、ランサー!助けてくれ!」
彼は小さな笑みを作り、ベビーカーを組み立てる。
「だから抱っこは止めておけと言っただろう」
「マリーが急に起きるとは思わなかったんだ!」
確かにこんな日々が続くのも悪くないかもしれないな。
カルナはそう小さく呟いた。