アタランテお母さん~聖杯戦争で子育て頑張る!~ 作:ら・ま・ミュウ
「……我が、愛しき…子供達…………サンザーラに人としての夢、あれ」
ルーマニア上空『虚栄の空中庭園』
「GARRRRRRRRRRR!!!!!!」
常人ならば肺の焼かれる毒の臭気が立ち込めるそこでアキレウスは呼吸を整え槍を握る。
爬虫類のような鱗を生やし、魚のようなエラを持ち、体内には猛毒の血液を蓄え、切り落とした頭は二等に別れて再生する異常な回復力を持った異形……ヒュドラ。
その高い生命力から不死と云われる怪物は神代において数多くの英雄を殺し、彼の師であるケイローンはその毒により味わう地獄の苦痛に耐えかねて自ら死を乞うた。
「
「…………アハハハ!!!!」
「チッ、狂人めが」
ふと、獣のような咆哮が真上からして、どう倒せばいいのやらと適当に切り落とし十二頭に増えたヒュドラの首の一つが鞭打ちの要領で振るわれる。
アキレウスはその喉を掻き切って溢れ出る血を避けるように下がった。
「おほっどうでしょう!凄いでしょう?サンザーラは!!」
ヒュドラの毒はギリシャ最大の呪いだ。故に如何なる耐性も貫くと云われ、解毒するのはほぼ不可能でありあの大英雄ヘラクレスですら恐れているのにこの男!!?
「アハハハ!……ごほっ、ごほっ、何ですか突然口の中に水が入ってきました。いや、しかしサンザーラは素晴らしい!!!」
肺からこみ上げる血を吐き捨て笑う。
狂ってる……いや、そんな生易しい言葉で片付けられる存在ではない。大英雄で激痛に泣き叫ぶ猛毒を全身で浴びながら苦しむ素振りすら見せずに何らかの魔術を行使する男は理解不能。
半神だと言っていたが、不死性でもあるのか?
それとも毒に耐性が……そんなヤツが血を吐く訳がねぇ。
アキレウスは思考するが、男の行動心理を読み解く事は叶わない。
「GARRRRRRRRRR!!!!!」
ヒュドラは牙を鳴らして暴れ回る。
「この狭さだと戦車も出せねぇな!」
肉体に絡み付こうとするその首を切り落としては血を避け、噛みつこうとする口を踵の防具で粉々にしていくアキレウス。
壁際まで押される事はあってもギリシャ一の俊足の名は伊達でなく、一瞬の隙をついてはその間合いから外れてみせた。
「早めに焼いてケリをつけてやりたいが、こんな所に火種はねえ。クソッ!」
ヒュドラの首を伝い走るアキレウスはその根元に打撃を加え、地面にめり込ます。
ヒュドラの攻略法は兄弟子であるヘラクレスの逸話から判明しているのだが、焼いた傷口は再生能力を失う――空に浮かんだこの庭園の何処にこの巨体を焼ける炎があると言うのか。
アサシンクラスでありながら魔術を使ってみせた赤のアサシンとは相性がいいだろう。
泥沼の戦いがお望みなら地面を砕いて地上にぶん投げるという手も打てるが、あの女王様気取りのアサシンはマスターの解毒に忙しく、この空間は大聖杯を格納する所から壁一枚隔てたすぐ隣であり、下手に壊せばこの庭園は落ちるらしい。
アフリカ象の数倍はあろう巨体で突進するヒュドラの足下をさばいて床に転がすアキレウスは跳び上がる。
「(先ずは術者を叩いてみるか。水蛇が消滅する可能性は薄いが、制御を失えば俺の戦いやすい戦場に誘い込む事も出来る)」
このヒュドラの狙いは俺だ。しかしこの空間から出ようとはしない。ケイローン先生の授業で一応の知性を持っているとは聞いていたが、怒りに狂ったヒュドラというのは何もかもをお構い無しに暴れ回るものだと教えて貰っている。
首を何度も切り落として内臓が潰れる威力でぶん殴っているのだ。これでキレないヤツは聖人か何かだろう。
アキレウスの頭脳はヒュドラがこの空間から離れないのは術者である男のせいだと睨む。
そして高い治癒能力を持つとはいえヒュドラの毒が効いている以上は不死性の持ち主でないことを見抜いた。
槍を手の内で転がした彼は突きの構えを取ると天井を足場にして一直線に迫る。
「アハハハ!!!!」
「―――終わりだ」
男の心臓へ槍が突き刺さる。