アタランテお母さん~聖杯戦争で子育て頑張る!~   作:ら・ま・ミュウ

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汝は圧制者か!

素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。 手向ける色は“黒”

降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

 

――――告げる

 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

 

誓いを此処に

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者、

 

汝三大の言霊を纏う七天

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!

 

「「「召喚の招きに従い、参上した……我ら黒のサーヴァント、我らが運命はユグドミレニアと共にあり、我らが剣は貴方々の剣である!」」」

 

この日、黒の陣営のサーヴァント達が召喚され、間も無く赤の陣営最後のサーヴァント“セイバー”最優と云われる彼女(かれ)が召喚された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖杯戦争で召喚されるサーヴァントには主に七つのクラス分けがある。

 

セイバー…剣を使う英雄

 

アーチャー…弓を使う英雄(近接戦を好む者が多い)

 

ランサー…槍を使う英雄

 

ライダー…騎兵の英雄

 

キャスター…魔術を使う英雄

 

アサシン…暗殺を得意とする英雄

 

そして、バーサーカー…理性を失った英雄

 

エクストラクラスなどの例外中の例外を除き、聖杯大戦でもそのルールは変わらない。聖杯戦争とは違いルーラーと呼ばれる十五騎目のサーヴァントが赤と黒、どちらの陣営にも属さず召喚されるらしい……が、大戦への参加権はない。

 

「うえ…………首が据わってないから、この子は三ヶ月未満なのか、いや、こっちには遅くて半年で首が据わったという話も…………」

 

ピピッとケモ耳を小刻みに揺らすアタランテは、赤のキャスターが持っていた育児本を読み漁り、赤のライダーに作らせたベビーベッドに寝ころがる赤ん坊をチラチラと見る。

まだ首が据わってないので、寝返りで窒息することはないが、本にあった突然死の発生率をみてから不安になっていたのだ。

 

「掛かり付け医……アスクレピオスしか知らんぞ、メディア様なら呪いは…………初めて行った産婦人科?予防接種?母子手帳……ぁ、これは日本だけか」

 

「根を詰めるなアーチャー、母親のストレスは子に負担を与えるぞ」

 

「誰が母親だ!」

 

 

そんな見ているだけで危なっかしいアタランテに忠告するのは「圧制者よ!」でお馴染みのスパルタクス

理性を失った英雄“バーサーカー”である彼が、赤のキャスターの書庫を襲撃し大量の育児本を調達してきた当初は激しく警戒するアタランテであったが、何でもマスター(赤ん坊)を見て、自力で【狂化(EX)】(英雄から思考を奪う忌々しいスキル)を克服したらしく生前の武勇伝を揚々しく語り始めた頃にはアタランテが折れていた。

 

元々聖杯の知識だけでは不十分で、いずれライダーに育児本を買いに行かせようと考えていたアタランテにとって彼の行動は実に有り難かったのだ。

 

――しかし、“母親”と言われればいくら子供好きのアタランテでも容認しかねない。

 

「私はサーヴァントだ。生きた子供がいるわけなかろう」

 

「義母でも構わない、大切なのは子を想う気持ちだ」

 

「子を想うだと…………」

 

すやすやと寝息を立てる赤ん坊にへにゃぁとケモ耳を緩めて、「いやいやいや!」かぶりを震うアタランテ。

 

「私が、“母親”になれるわけがない!」

 

赤ん坊の手前、大きな声を出すのは躊躇われる。だが、これだけは言わなければならなかった。

 

 

「…………」

 

スパルタクスはその()()()()()()()()()()()をみて、無言で立ち上がる。

 

「我は叛逆の英雄……汝がその在り方を保つならば、剣を向ける事はせず。しかし今の汝では、その赤子は惨たらしい最後を迎えるだろう」

 

最後に不気味な言葉を残し、教会を出る。本筋ならば、赤のキャスターにそそのかされ黒の陣営に襲撃を掛けるスパルタクスであったが、彼はキャスターの話を無視して教会の前でどかりと座り込んだ。

 

「……来るがいい、圧制者よ。我が後ろは何人たりとも通さん!」

 

英雄としての彼が庇護すべき対象として二人を選んだのだ。




スパルタクスはアタランテを殺し、赤子を救うつもりであった。しかし、如何なる心境の変化か二人を庇護する道を選んだようだ。

次回『聖女』

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