アタランテお母さん~聖杯戦争で子育て頑張る!~ 作:ら・ま・ミュウ
「…………この子は何と言う名なのだろうな」
日が沈んだ夜の刻
赤ん坊の心臓の音に耳を傾けるアタランテは、名も付けられぬまま親に捨てられた赤ん坊を思いだしポツリと呟く。
マスターは魔術師の子ではあるが、あの死んでいた魔術師の子供という線は薄い。マスターは既に魔術刻印を受け継いでいて、次代当主を触媒にくべるなど正気ではない。
何よりあの魔術師にはまだ魔術刻印が残っていた。
…………誘拐か、
考えられるとすればそれしかあるまい。
「仮に、私が聖杯に願いを叶えればこの子は親元に帰れるのだろうか…………」
アタランテが聖杯に『この世全ての子供らが、愛される世界』そう、願ったとしよう。
マスターは愛している親と暮らせるのだろうか?
親が子を愛さなければ、神の追放されたこの地で誰が捨て子に愛を注ぐのだろうか…………
「ひぷふっ」
「あぁ、起きてしまったのか……お腹が空いたか、それともオムツか?」
感傷に浸っていたアタランテは優しく語りかけ、
「げえぷっ」
白い液体を口から吐き出した赤ん坊を見て凍りついた。
「ぜぇ……ぜぇ……ここに赤のマスターが、」
此度の聖杯大戦でルーラーとして召喚されたジャンヌダルクは数百キロに及ぶ道なりをヒッチハイクや馬車に乗せてもらう地道な作業を繰り返し、ついに聖杯大戦の行われる地へたどり着いた。
だが、おかしい。
各マスター達はサーヴァントを召喚し終え、戦いが始まる!
…………何も始まっていなかったのだ。
これはジャンヌのあずかり知らぬ事だがスパルタクスが動かなかった為に、シロウが※※する前にカルナ本来のマスターが「……ほどほどにしとけよ」赤ん坊を守護する事を許してしまった為に「ルーラーの討伐をお願いできますか?」「不可能だ」「……そう、ですか」
両陣営の衝突は未だ起こらず、冷戦のような状況が続き、
本筋のようにルーラーが襲われる事もなく、黒の陣営を観察したジャンヌは山を越え林を越え、微かな魔力残滓をたどり、教会まで行き着いた。
「私は“ルーラー”です!赤のマスターはいらっしゃいますか!」
……………………
…………
……
――病院
「大丈夫だ!しっかりしろ!私がついてるぞ!」
「すまないが金はない……どうか俺のグッ!……この、父から授かったッ鎧で何とか!」
「打ち勝つのだ幼子よ!」
アタランテ・カルナ・スパルタクスは赤ん坊を連れ、教会を離れた近くの病院まできていた。
赤ん坊が吐いてからアタランテの悲鳴を聞き付けたスパルタクスとカルナ。聖杯の知識ではどうしようもない子育て未経験の彼らは急いで病院へ行くことを提案し、戸籍とか神秘の秘匿とかその他諸々を放り出して病室の椅子に腰かけている。
明らかに現代の装いではない。異様だ。
しかし、医者は赤ん坊を優先させたのか軽い触診を行い、
「えぇ……吐いたそうですが、何かおかしな事はなかったですか?」
「おかしな?……いや、直前にミルクを飲ませたぐらいで……ゲップはさせたぞ!それなのに、それなのに!」
アタランテは自分が知識不足なばっかりに、とても大変な事を仕出かしてしまったのではないかと頭を抱える。
「あぁ、このくらいの年齢は胃が未発達だから吐いちゃう事があるんだよ」
「「「えっ?」」」
「私も専門ではないからね、心配なら明日にでも……」
医者は信頼のおける病院の紹介状をアタランテに渡した。
「すぅ…すぅ…」
「気をつけて帰りなさい」
「……ありがとうございました」
そのあと、念のため紹介された病院で診てもらったが赤ん坊に異常はなかった。
「…………子育てって大変だな」
「あぁ」「そうですな」
いきなり吐いたらパニックになるよね。