ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション   作:さくらおにぎり

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1話 迅雷の如く

 夜の星明りさえ霞むほどのネオンライトが、夜道をきらびやかに照らし、街を眠らせない。

 とは言うものの、この街明かりは本当に消えることはない。

 

 それは、この街ーー世界が、そもそも現実のものではないのだから。

 ガンプラバトル・ネクサスオンライン。通称、『GBN』と呼ばれる、世界規模のオンラインゲームだ。

 

 そのオンラインゲームの中で再現される、真昼のように明るい中道を、ジオン軍の佐官クラスの軍服を着こなした、一人の男が歩く。

 目的の場所へ到着したのか、男はその右手側にある、『ADAMS APPLE』と言う看板の掲げられた、クラシカルな木造建築の建物へと入る。

 

 作りは古いものの、特に老朽化の目立たないドアが開くと同時にカランコロン、と分厚いベルが鳴り、来客が告げられる。

 カウンターの向こうに立つ、やたらと奇抜な格好をしたバーテンダーはその音色を聞いて、玄関口を見やる。

 すると、やって来たのは見慣れた相手だと気付いて、上機嫌な声で出迎えた。

 

「あっらー!"トラちゃん" じゃなーい!」

 

 "トラちゃん"と呼ばれた来客の男も、バーテンダーの反応に忌避感を示すこともなく、堂々とカウンターの席に着くなり挨拶を返すと同時にオーダーする。

 

「これはこれは姐さん、ご息災で何よりだ。あぁ、いつもので頼む」

 

 鼻につくような、胡散臭さが音になったような声色の男。

 バーテンダーもトラちゃんの「いつもの」で通ったようで頷いてから、近くにいる、『フリフリのエプロンを着用する筋骨隆々としたマッチョな"男"』にオーダーを掛けた。

 

 この『ADAMS APPLE』と言う場所は、酒場と言えば酒場ではあるが、従業員は男性のみで、なおかつオネエ言葉で話す、所謂『ゲイバー』である。

 バーテンダーも含め、独特な趣味嗜好を持つ彼らは、それら奇抜かつマッチョな見た目とは裏腹に、GBN初心者に優しく親身になってアドバイザーを務め、そして不正や悪質行為を許さぬ、正義感の強い者達である。

 実際、彼らの手助けを受けたダイバー達は皆、強く正しいプレイヤーとしてGBNを楽しんでいるのだから。

 

 オーダーした飲み物を待つ間、バーテンダーから差し出されたお冷で喉を潤すトラちゃん。

 

「それで?今日はどうしたの?」

 

 バーテンダーは表にこそ出さないが、緊張の糸を張った。

 トラちゃんがここに来る時は大抵、何かしらの話があるとバーテンダーは読み取っている。

 

「いいや、今日は何か問題が起きたと言うわけではない。ただ、良い酒を飲みつつ、良い話し相手と昔語りでもしようと、な」

 

「あら、そうなの?去年の夏みたいに、『エル』ちゃんがGBNを乗っ取ろうとしている、なんて話が来るのかとばっかり」

 

 大したことを話すのではないと分かるなり、バーテンダーは緊張を解いた。

 

「フッ、いつから俺は厄介事引受の仲介人になったのだ?」

 

 まぁ似たようなものだから否定はせんがな、と軽く流すトラちゃん。

 

「さて、何から話そうか。そうだな、まずは……」

 

 数秒の物思いの後に、記憶を遡っていくーーーーー。

 

 

 

 

 

 鈍色の雲から、涙が零れ落ちた。

 一滴、二滴、三滴、四滴五滴六滴七滴八滴九滴……

 

 やがてそれらは零れ落ちるのではなく、思い切りぶちまけるような勢いで垂れ流しになる。

 

 雲の涙ーー雨は、焼き払われへし折られた木々の隙間から立ち昇る黒煙へと降り注ぎ、"破壊"をすすぎ流していく。

 

 その"破壊"によるものなのか、巨大な鋼鉄の兵士ーーガンプラが何機も平伏していた。

 平伏している者は皆、首を落とされ、手足をもぎ取られ、心臓を焼かれており、もう二度と動き出すことはないだろう。

 

 死屍累々と重なるガンプラの中で、二機だけが立っていた。

 

 ひとつは青灰の戦士。

 

 もうひとつは白銀の騎士。

 

「……おーい『トーシロー』、生きてるかー?」

 

 青灰の戦士を操る創造主ーービルダーは、白銀の騎士を操るビルダーへと声を繋いだ。

 

「あぁ、何とか。……『ハバキリ』も生きてそうだな」

 

 トーシローと呼ばれたビルダーは返事を返す。

 もう一方の、ハバキリと呼ばれたビルダーは小さく溜息をついた。

 

「……"ダメ"、だな」

 

 ハバキリのそれは、半ば諦念を含んだ呟きだった。

 

「……"ダメ"、か。考え直してはくれないのか」

 

 トーシローの呟きは、口惜しさの滲んだものだった。

 

「考え直してはくれないのか、だって?」

 

 ハバキリはその言葉をオウム返しにすると、青灰の戦士は左手に握っているその刀を肩に担いだ。

 

「そんなモン、百回考え直したから"ダメ"って答えたんだろ」

 

 たった百回だけかもな、と付け足してから、決意を言葉にした。

 

「今回の件で決心がついた。……やっぱ、オレはフォースを抜けるべきだな」

 

 ハバキリはコンソールパネルを開き、数回の入力を行う。

 

『フォース・アルディナから脱退しますか?』

 

『YES』と『NO』二択の表示に対して、ハバキリは迷いなく前者を人差し指で触れようとして、

 

「待ってくれっ、ハバキリッ!」

 

 それを制止するように、白銀の騎士の手が青灰色の戦士の肩を掴む。

 

「もっと他に方法があるはずだっ。君が皆の前から去ることはないだろう!?」

 

「その台詞は聞き飽きたぜ、トーシロー」

 

 引き留めようとするトーシローに対して、ハバキリは何でも無いかのように言い、青灰の戦士は白銀の騎士の手を払い除けた。

 

「ちょっと顔を合わせる回数が減るだけだって。別にこれが今生の別れってわけじゃねーんだし」

 

「だが……っ」

 

「お前一人が良くてどーすんだよ。俺に巻き込まれる奴らのことも考えてやれって。……今更引き留めるなんて、やめろよ」

 

 ハバキリは押し損ねていた『YES』ボタンを押した。

 

 一拍を置いてから、トーシローのコンソールに『ハバキリがフォース・アルディナから脱退しました』と言う通知が届いた。

 

「……ハバキリ」

 

「じゃーな、トーシロー。これで少しは、まともなバトルが出来るぜ」

 

 ハバキリはアームレイカーを押し込み、青灰の戦士は背中の推進力を噴射して飛び去った。

 

 雨の滴る中に残されたのは、白銀の騎士だけ。

 

 そのコクピットの中でトーシローは、青灰の戦士の飛び去った方向を、ただ見ていた。

 

 見ていることしか、出来なかった。

 

 

 

 

 

「うぃーっと……」

 

 GBNからのログアウト完了、自意識がディメンションから現実世界に戻って来たことを確認するように、彼ーー『アメノ・ハバキリ』は筐体のシートの上でヘッドギアを取り外し、大きく背伸びをした。

 ボサついた鉛色の髪を掻き上げて、首を軽く回すとコキキ、と骨の擦る音が聴覚に届く。

 状態確認を終えたところで、ハバキリはすぐ目の前にセットしているダイバーギアと、青灰色のガンプラを手元に戻し、席を立った。

 

 ガンダムベースの店内にあるダイブルームから退室、そのまま真っ直ぐに店を後にした。

 

「……お前の気持ちだって分かってるつもりだよ、トーシロー」

 

 ディメンションの向こう側にいる、親友とさえ呼べる少年を脳裏に思い浮かべ、一人呟いた。

 

「(けど、こうするしかねーんだよなぁ……)」

 

 確かに他の方法だってあったかもしれない。

 だが、それが見つかるか、あるいはそれが最的確かどうかは、また別だ。

 そんな、いつになるか分からない先のことなど、待っていられない。

 

 さてこれからどうするか、とハバキリは軽く考える。

 

 とりあえず、ほとぼりが冷めるまでGBNへログインはしない方が良いだろう。

 適当な頃合いを見て、パーソナルデータ等を書き換えて別人を装ってから、またふらっとログインすればいい。

 そんな吹く風のように、ハバキリは学生鞄を担ぎ直して、自宅への帰路を辿る。

 

 ーーその選択が、自身の運命を流転させることに気付くこともなくーー。

 

 

 

 

 

 ハバキリが、自分のフォース『アルディナ』から脱退して三日が過ぎた。

 何気も無く自分が通う中高一貫校へ行き、何気もなく授業を終えて、終礼も終えてさて帰ろうかと言う時だった。

 

「おーい、ハバキリー!!」

 

 軽く頭を掻きながら鞄を肩に担ごうとしていたハバキリは、クラスメートの無駄に大きな声に反応してそちらの方へ向く。

 同じ中学生とは思えない、身長180cmはあるだろう体躯の男子生徒が、どかどかとハバキリの席に向かってくる。

 

「おーコーダイ、相変わらず背も声もでけーな」

 

「まぁな!俺は身も心も"広大"なのさ!!」

 

 なっはっはっはっ、と笑う男子生徒ーー『オオヤマ・コウダイ』は、ハバキリの前の席の机に腰掛けると、その笑いを止めた。

 

「……なぁハバキリ。お前、ホントにもうフォースに戻らないってのか?」

 

 コウダイは声のトーンを落として、身を案じるようにハバキリに問い掛ける。

 

「トーシローの奴も心配してるぞ」

 

 この二人は、三日前まで同じフォースに加入していたのだが、"ある事件"を切っ掛けに始まったことから、ハバキリはフォースを辞退した。

 

「心配性だなトーシローは。それに、別に戻らないとは言ってねーよ。ほとぼりが冷めるまでのちょっとの間、抜けるだけだって」

 

 なんのことはない、とハバキリは軽く笑ってみせた。

 

「あ、なんだいつかは戻って来るのな。トーシローの口ぶりから、もう二度とフォースに戻らないみたいな感じだったから、マジで心配したぜ」

 

 それなら大丈夫だな、とコウダイは安堵する。

 

「それで、コーダイは今日もGBNか?」

 

 ハバキリはコウダイの今日の放課後の予定を訊ねてみたが、その彼は「いんや」と首を横に振った。

 

「俺は今日はさっさと帰るわ、完成途中のガンプラがあるからな」

 

「そっか。んじゃ今日のところ"も"、オレも帰るとしますかね」

 

 行こうぜ、とハバキリは鞄を担ぎ直して教室を出て、コウダイもその後に続く。

 

 

 

 

 

 コウダイとは、いつもの分かれ道でまた明日を告げる。

 

 海沿いの団地に、ハバキリーーもとい、アメノ家が住むマンションはある。

 

「ただいまーっと」

 

 靴を脱いだ後は、足先を使って丁寧に揃え直す。ずぼらなのか几帳面なのかよく分からない行動だろう。

 真っ直ぐ自室には向かわずに、まずはリビングを経由。

 平日のこの時間帯でハバキリよりも先に帰宅しているのは、一人だけだ。

 

「あっ、おかえりなさい、兄さん」

 

 

 テーブルに着いてスマートフォンを触っていた妹ーー『アメノ・テラス』は、兄ハバキリの帰宅を見て、出入り口へ向き直る。

 

「今日も早いんですね?私の知らない間に彼女でも出来ましたか?」

 

「おいこら、さり気なく嫌味なこと言ってんじゃねーぞ。仮にも実兄に対して言う台詞がそれか?」

 

「何を言ってるんですか兄さん。もし兄さんが義理の兄だったら、私が兄さんの彼女になってますよ。実兄だからこその台詞です」

 

「妹がヒロインなんてのはマンガとゲームの世界だけにしとけよ」

 

「まぁ兄さんの色恋沙汰なんて置いといて……」

 

 置いとくんじゃねー、と言うハバキリのツッコミを無視しして、本題を切り出す。

 

「……もしかして、フォースの人達と喧嘩した、とかですか?」

 

 不意に神妙な顔つきになって窺うテラス。

 テラスも、ハバキリがGBNのプレイヤーであることは知っているし、放課後すぐに地元のガンダムベースに赴いてはGBNにどっぷりなのも知っている。

 そんな兄が、この三日近くはガンダムベースへは向かわずに真っ直ぐ帰宅しているのだ。

 

 何かあったのかと、こうしてテラスは兄に事情を訊ねている。

 

「(……さすがに何かあったと思われたか)」

 

 不自然過ぎたな、とハバキリは心底で呟くと、即座にいつものあっけらかんとした感じを装って答えた。

 

「喧嘩じゃねーって。トーシローの奴に言われたんだよ、「妹さんがいるなら、たまには家族サービスしてやれ」ってな」

 

「ふーん?ただ早くに帰ってくることが、家族サービスなんですか?」

 

 テラスの目が疑わしいものになる。

 だが、これでいい。話題をGBNから遠ざけることが出来れば良いのだから。

 

「普段はお前が全部やってくれる家事を代わってやってるんだ、十分サービスだろ」

 

 ここアメノ家は、兄のハバキリと妹のテラスの二人だけで暮らしている。

 何か複雑な事情あったり、不幸なことが起きたのではない、単に両親共々それぞれ単身赴任で、帰ってこれないだけである。

 

「まぁ、普段を考えればサービスなんでしょうけど……」

 

「そー言うことだよ、そーなんだよ」

 

 テラスの疑念は晴れないままであったが、ハバキリは強引に話を終わらせて、荷物を置きに自室へ向かった。

 

 

 

 学生鞄を勉強机の椅子の上に置き、さて制服から私服に着替えようとして、充電器に差したままにしている、GBN用の情報端末、ダイバーギアにメールが届いていた。

 

「まーたくっだらねーガチャメールだなっと」

 

 どうせ大した当たりなどないガチャの案内か何かだろうと決めつけて、開きもせずに削除しようとしたところで、メールの差出人がフレンドからのものだったことに気付く。

 

 差出人:Mitsuki

 

「ん、ミツキからか?」

 

 その名前は、GBNにおける最上位ランクのフォースの一角『トレイルブレイザー』の一員であるダイバーのもの。

 ハバキリとミツキはフレンド同士ではあるが、お互いに顔を知っているだけで、特別仲が良いわけでもない。

 知り合い以上、友達未満と言ったところだが、そのミツキが自分に何のメールを送ってきたのか、とハバキリはつい数分前に届いていたソレを開いてみた。

 

 Mitsuki:お久しぶりです。

 実は、明日の午後にGBN初心者への指導を依頼されていたのですが、訳あってそれを受けられなくなってしまったのです。

 なので、私の代行者を探しているのですが、すぐに相談出来そうな相手がハバキリしか思い当たらず、こうしてメールを送りました。

 もし明日の予定が空いているのであれば、私の代行を引き受けていただけますか?

 返事は可能な限り早くにお願いします。

 17:00を過ぎた時点でメールの返信を確認出来なかった場合は、お引き受け出来ないとして判断しますので、ご了承を。

 

「……よっぽど急ぎの用らしいな」

 

 刻限付きの『依頼受諾の依頼』とは、また急な話だ。

 その依頼の内容も『初心者の指導』で、つまるところ、GBNの簡単なシステム説明と、チュートリアルミッションを案内してやれと言うことだろう、無理無茶なことではない。

 ハバキリ自身、ここ数日ログインしていないと言うだけで、予定そのものはフリーだ。

 ハバキリは、右手に持っていたダイバーギアを左手に持ち直すと、リズミカルにタッチパネルに文字を打ち込み、送信する。

 

 Habakiri:任された。詳しい時間帯とかを頼むわ。

 

 すると、ほんの数十秒後に返信が送られてきた。

 

 Mitsuki:ありがとうございます、助かりました。

 時間帯は、明日の16:00にエントランスロビーの、ミッションカウンターの前で待ち合わせを。

 件の初心者には『麗しき蒼銀の騎士が、あなたをお待ちしております』とお伝えしましょう。

 では明日、よろしくお願いします。

 

「……『麗しき蒼銀の』までは分からんでもないが、"騎士"ってのは返上してー称号だな」

 

 それはむしろ"アイツ"の方がお似合いだ、と呟いてから、ハバキリは再度了解のメッセージを送信し、テラスにも日曜日の予定を伝えるために再度リビングへ赴いた。

 

 

 

 

 

 翌日の放課後。

 今日は四日ぶりの放課後プレイだ。

 コウダイには急ぎの用があるからとだけ伝えて、ハバキリは足早地元のガンダムベースへと向かった。

 現在時刻は15:45。

 約束の時間まで15分も無ければ、のんびりもしていられない、ハバキリはダッシュに近い速度で通学路を駆ける。

 普段ならこうも急がずとも、16時までには余裕で間に合うのだが……

 

「帰りのホームルームにまで喰い込む授業って、明らかに時間外業務だよな……ッ!」

 

 訴訟して裁判沙汰にしてやろうか、などとぼやいてから、ガンダムベースに入店する前に呼吸を整えて、ついでに自販機で飲み物を買ったその場で飲み干して、それからダイブルームの使用許可を得る。

 

 シートに腰を降ろし、ダイバーギアを筐体にセット、備え付けのヘッドギアを装着する。

 

「……初心者の指導、か」

 

 一瞬だけ思考を働かせてから、自分の愛機を読み込ませ、同時に自意識がディメンションへと飛び込んだ。

 

 少しだけ、回り道をしてから。

 

 

 

 

 

 ーーーーー地面を抉り、草木を蒸発させる雨から逃れて、もうどれだけの時間が過ぎたのか分からない。

 どうして"わたし"は彼らから狙われているのだろう。

 目が覚めたらよく分からない場所にいて、しばらくぼーっとしていたら、"わたし"の何倍もある巨人が何人も現れて、突然近づいて来て、何かを向けてきた。

 それらが何なのかは"わたし"には分からなかった。

 それでも、逃げなければならないと感じられたのは良かった。

 あれを浴びたら、"わたし"は地面や草木と同じような目に遭うから。

 

『いたぞ!』

 

『絶対に逃がすな、確実に仕留めろ!』

 

『証拠ひとつ残すんじゃねぇぞ!』

 

『ゲームマスターに見つかったらアウトだ、急げよ!』

 

『ログデータの偽造更新、忘れるなよ!』 

 

 彼らは口々にそんなことを言っていた。

 "えるだいばー"と言うのは、"わたし"のことを言っているのだろう。

 呼び方なんてどうでもいい。

 

 このままでは、わたしは殺されるのだから。

 

 逃げて、逃げて、逃げ続けて、ようやく隠れられそうな場所に着いたのがついさっき。

 薄暗いけど、狭くない。

 身を隠せそうなものもたくさんある。

 さっきまで"わたし"を殺そうとしていた巨人によく似たモノが並んでいたけど、動かないみたいだ。

 とりあえずここに隠れよう。

 見えにくそうな四角いそれに入り込み、腰を下ろす。

 

「ん……、ふぁ……」

 

 座り込んだ途端、耐え難い眠気が"わたし"を包み込んだ。

 眠い……

 そう感じた時には、"わたし"の意識は沈んでいたーーーーー。

 

 

 

 

 

 本名と同じ『ハバキリ』は、リアルの容姿よりも長く伸ばした銀髪を無造作に揺らす。

 軽装の上から金属製のアクセサリーを複数身に着けた出で立ちだ。

 

「さて、ミッションカウンター前だったな」

 

 待ち人は既に来ているだろうか、とミッションカウンターに足を向けようとしたところで、「あ」と何かを思い出した。

 

「(オレ、相手さんのアバター知らねーや……)」

 

 完全に失敗した、とハバキリは自分の確認不足を嘆いた。

 名前も顔も知らされていないのは、こちらも向こうも同じだ。

 ミッションカウンターの前に立って、やって来るダイバーに片っ端から声を掛けるわけにもいかないだろう。

 さてどうしたものか、とハバキリはとりあえずミッションカウンターの近くまで移動する。

 ミッションカウンターの側に、誰かを待っているような様子の少年のダイバーを見かける。

 ハバキリはひと呼吸を入れ換えてから、声を掛けてみた。

 

「あー、えーと、オレに初心者の指導を頼んでくれた人かな?」

 

「……?俺、フォース仲間待ってるんだけど」

 

 早速人違いをやらかしたようだ。

 

「悪い悪い、人違いだったわ。すまん」

 

 軽く会釈してから、ハバキリはこそこそとそこから離れる。

 

 

 

 先程の位置とは反対側で、ハバキリは頭を抱えたくなった。

 ミツキのことなら、キャンセルの連絡があればすぐに伝達してくれるはずだが、今のところは何の連絡もない。

 そうでなくとも、向こうもハバキリのアバタールックを知らないのだ。

 すれ違っていたとしても気付かずに素通りしてしまったかもしれない。

 

「(やべーな、このままじゃ骨折り損じゃねーか)」

 

 せっかくの四日ぶりのGBNで、何もしないままログアウトなんてやってられない。

 何食わぬ顔で悩むこと数分。

 

「あのー、初心者指導の方ですか?」

 

 不意に、ハバキリの背中に声を掛ける者がいた。

 

「へぁ?」

 

 思わず間抜けな声を出してしまいつつ、ハバキリは背後へ振り返った。

 

 ハバキリに初心者指導の者かと訊ねてきたところ、どうやら件の初心者らしい。

 その容姿を見て、ハバキリは咄嗟にしかけた言葉を呑み込んだ。

 

「(こいつ、ネカマか?)」 

 

 最初に目についたのは、腰まで伸びた黒髪。それも、ハバキリのような無造作なものではなく、綺麗に切り揃えられたものだ。

 意志の強そうな鳶色の双瞳が、真っ直ぐにハバキリに向けれている。

 道行く人を振り向かせるにはーー否、実際に振り向かせている美貌を持った、ハバキリより一つか二つ目上の少女型のダイバーだった。

 服装も、白を基調にしたファンタジーの剣士のような、派手過ぎない可愛らしいものだ。

 耳が尖っているのも、同じくファンタジーのエルフを意識したものだろう。

 

 しかし、ここはGBNと言うアバターを通じたオンラインゲーム。

 女性を騙った男性などいて当たり前、その逆も然りだ。

 

 その老若男女隔たりなく受けの良い、出来過ぎな容姿を見て、「恐らくネカマだろう」と即断。

 故にハバキリは、その彼女(便宜的に女性とする)には男性的に扱うことにした。

 

「あーはいはい、初心者指導さんの方ですよーっと」

 

「あ、良かった。『麗しき蒼銀の騎士がお待ちしております』なんて言われたから、誰のことなのか分からなかったの」

 

 そう言えばミツキがそんなことをメールに書いていたな、とハバキリは思い返す。

 髪の色で判断されたのかと思うと少し複雑な気分になるが、気を取り直し、まずは自己紹介から始める。

 

「えーと、オレはハバキリって言います。ちょっと言いにくいなら好きな呼び方でどーぞ」

 

 ハバキリはコンソールパネルを呼び出すと、公開許可範囲でのプロフィールデータを見せる。

 

「じゃぁ、ハバキリくん、でいいかな?」

 

「(その呼び方が尚更ネカマ臭いな……)どーぞどーぞ」

 

 さりげ無く失礼なことを脳裏に浮かべつつ、ハバキリは話を進めさせる。

 ここでムウ・ラ・フラガのように「君、コーディネイター(ネカマ)だろ?」なんて藪を突く必要はないのだから。

 

「えーと……こう、かな」

 

 少女ダイバーは先程のハバキリの真似をするように、覚束ない手付きでコンソールパネルを呼び出し、ほぼ初期設定状態のプロフィールデータを見せてくる。

 

「私は『セア』。聖なるの"聖"と、愛って書いて『聖愛(セア)』です」

 

「はいはい、セアさんね。とりあえずフレンド登録だけでもしときましょーかね」

 

 やって損するもんじゃねーから、とハバキリはフレンド登録の画面を開き、公開許可範囲のプロフィールデータを少女ダイバー『セア』へと送信する。

 対するセアも同様に、ハバキリの真似をしてプロフィールデータを送信してくる。

 双方のフレンド交換が完了したところで、早速ハバキリは話を切り出す。

 

「んじゃーまずは、ミッションの受け方から」

 

 セアと並んでミッションカウンターにいる受付嬢に話しかけるハバキリ。

 

「セアさんには最初に、チュートリアルミッションってのをやってもらいま……あ、ちょっと待って、ログインする前にガンプラを読み込ませてますか?」

 

 ガンプラを読み込ませなくともログインすることは可能なので、その可能性も考慮して質問し直す。

 

「あ、うん。自分のガンプラじゃなくて、お店のレンタルだけど」

 

 ガンダムベースのダイブルームの受付所には、ガンプラの完成品のレンタルも行っており、ガンプラを持っていないGBN初心者などが利用するケースが多い。

 

「オーケーです。それだけ確認したかったんで」

 

 それを確認してから、ハバキリは改めてチュートリアルミッションについて説明する。

 

「GBNでは、ここでミッションを受けて、ガンプラに搭乗して出撃、依頼を達成したら帰還、最後にここに戻って来て報酬……つまり、GBN内での仮想通貨やアイテム、バッジ、リアルのガンプラに使えるパーツデータとかが受け取れます」

 

 この辺は一般的なオンラインゲームと同じです、と付け足してから次の説明ヘ。

 

「じゃーセアさん、自分でチュートリアルミッションを受けてみてください」

 

「うん」

 

 ハバキリに諭されて、セアは受付嬢に話しかけて、二言三言交わすと、スムーズにチュートリアルミッションの受注が完了される。

 

 チュートリアルミッション『怒れるモノアイ』

 工廠地帯を模した場所でのミッションで、達成条件は『NPDリーオー三機の撃墜』。

 NPDリーオー三機との戦闘は、チュートリアルミッションの多くの共通点だ。

 

「次に、出撃するためのシーケンスです。さっきみたいにコンソールを開いて、移動コマンドから格納庫を選んでください」

 

「えーと……」

 

 セアはハバキリの言う通りにコンソールパネルを呼び出し、移動コマンドを何度か押してみて、『Mobile Suit Deck』を選択、ダイバー達が行き交うエントランスロビーから一転、無機質なスチールグレイに囲まれた場所に切り替わる。

 

 

 格納庫のハンガーには、セアのレンタル品らしいガンプラが一機だけ待機してくれている。

 

 

 白い四肢に黒灰色の胴体、足回りにバーニアが集中した脚部。

 武装はビームライフルにシールド、ビームサーベルが二基に加えて、外付けされたバルカンポッド言うオーソドックスな構成。

 ロボットアニメの主役級のメカでありながら、リアル寄りの配色が施された、ガンダムタイプのガンプラだ。

 

 それを見たハバキリは『何故か』一瞬だけ顔を顰めて、その機体銘を呟く。

 

「…………、『ガンダムMK-Ⅱ』か」

 

『Z』に登場する、物語前半までは主人公『カミーユ・ビダン』の搭乗機として活躍し、後半からは『エマ・シーン』が、続編の『ZZ』では『エル・ビアンノ』がメインパイロットを務めたガンダムだ。

 単なるハイエンド試作機と言う立場ではなく、その優秀な機体設計が後の百式やZガンダムを生み、さらにその後のバーザムやジムⅢ、ジェガンにも影響を齎しており、連邦軍のMS開発に一石を投じることとなった、今なお高い人気を持つ名機である。

 

「お店の人に、「初心者向けのガンプラってどれですか」って訊いたら、これがオススメだって」

 

 顔を顰めたハバキリの表情には気付かず、セアは自分が使うガンプラである、白いガンダムMK-Ⅱを見上げる。

 

「まー、確かに初心者向けっちゃ初心者向けですね」

 

 他作品の主人公ガンダムと比べると耐弾性はやや低いものの、その代わりに軽量な装甲は優れた機動性と柔軟な運動力を生み、武装も扱いやすくそれなりに強力だ。

 

「ところで、ハバキリくんのガンプラは?」

 

 セアはキョロキョロと格納庫内を見回す。

 この格納庫に鎮座されているのは、セアのガンダムMK-Ⅱだけで、他のガンプラは見当たらない。

 

「オレは今回、セアさんのMK-Ⅱに乗せてもらうつもり。不測の事態が起きた時は、オレが操縦を代わるってことで」

 

「なるほどね」

 

 だから彼のガンプラは無いのかと納得するセア。

 

「ほんじゃ、機体の確認も済んだところで、お待ちかねの出撃タイムへ」

 

 ハバキリは、ガンダムMK-Ⅱのコクピットへ伸びるキャットウォークを指す。

 

 

 

 最初にハバキリがコクピットに乗って見せて、後からセアも続く。

 コンソール類が起動を始め、スタンバイモードに切り替わる。

 セアが『Mission start』の項目を入力し、ガンダムMK-Ⅱがハンガーから降ろされ、リニアカタパルトへ乗せられる。

 

「出撃の合図は音声入力です。行きまーすってアレ」

 

「……よしっ」

 

 アームレイカーを握り締めて、深呼吸をして、口を開く。

 

「セア、ガンダムMK-Ⅱ、行きます!」

 

 音声入力を認証、リニアカタパルトが勢いよく打ち出され、ガンダムMK-Ⅱは蒼空へと放たれる。

 

「すごい……本物のガンダムに乗ってるみたい!」

 

 機体にかかるG、空気抵抗、ガンダムMK-Ⅱの挙動に合わせて上下左右する視界、推進剤の燃焼音、リアルだと錯覚するほどその全てが、セアにとっては真新しく物珍しいものだ。

 

「(オレにもこんな時期があったなー)」

 

 そんなセアの様子を盗み見つつ、ハバキリはGBNを始めたばかりの頃の自分を思い出していた。

 アニメのキャラクター達のような気分で、出撃する度、出撃するだけで舞い上がっていたものだ。

 その楽しい楽しい出撃シーケンスが、ただの単純作業と化してしまったのは一体いつからだったのか。

 それは一旦記憶の片隅に追いやることにして、ハバキリはセアのナビゲートに専念することにした。

 

「まずはこのまま真っ直ぐ進んでください。その内境界線が見えてくるんで、そこを通過したらミッションスタートで」

 

 ハバキリの言う通り、出撃して間もなくドーム状のラインが見えてくる。

 そこを通過すると、すぐ目下に工廠地帯が見える。

 

「んじゃ、着地しましょうかね。ゆっくり減速しつつ、機体と地面が垂直になるように」

 

「うん」

 

 セアはアームレイカーを少しずつ引き下げ、それに呼応してガンダムMK-Ⅱも減速、徐々に高度を落としていく。

 やや膝に反動を残しながらも、無事に着地。

 

 チュートリアルミッション、スタート。

 

 直後、格納庫がビームによって突き破られた。

『SEED DESTINY』の1話を再現するように、それぞれ『カオスガンダム』『アビスガンダム』『ガイアガンダム』のカラーリングに似せられた、緑、青、黒のNPDリーオーが三機、格納庫から現れる。

 

「あの三機を撃破すればミッションクリアです。まー、初心者向けに弱く設定されてるんで大丈夫ですよ」

 

 さーどうぞ、とハバキリはセアに操縦を促す。

 

「よーし……」

 

 セアは緊張しつつも、モニターに映る三機のNPDリーオーを見据え、ガンダムMK-Ⅱを前進させる。

 NPDリーオー達はその場から歩き回りつつ、遠巻きにガンダムMK-Ⅱの様子を見ている。

 ウェポンセレクターからビームライフルを選択、しっかりと照準をNPDリーオーに合わせてから、一射。

 確実にロックオンされてから放たれたビームは、大気の流れもあってゼロコンマ以下のブレこそあるものの、青のNPDリーオーの胴体を撃ち抜くには十分な精度だ。

 

 NPDリーオー(青)、撃墜。

 

 三機の一機が撃墜されたことで、NPDリーオーの動きが変わる。

 遠巻きに様子を見ているだけの状態から、移動しながら105mmマシンガンやビームライフルを持って射撃してくる。

 

「撃ってきた……っ」

 

「慌てずに回避。それとシールドも」

 

 ハバキリの冷静な助言を聞き取り、セアはアームレイカーを捻る。

 ガンダムMK-Ⅱは脚部のバーニアを活かし、その場から飛び退く。

 その回避運動がビームを躱し、遅れてやって来た銃弾は胴体を守るシールドによって呆気なく弾かれる。

 攻撃をやり過ごしてから着地、ガンダムMK-Ⅱはすぐにビームライフルを撃ち返し、105mmライフルを装備している緑のNPDリーオーを正確に撃ち抜く。

 

 NPDリーオー(緑)、撃墜。

 

「いい感じです」

 

 初めての割には的確な操縦だ。

 同じようなゲームに慣れているのかもしれない。

 

 最後の一機になった黒のNPDリーオーは、ビームライフルを捨てて、シールドからビームサーベルを抜き放ち、ガンダムMK-Ⅱに接近してくる。

 とは言えそれは、のしのしと歩くような速度だ、セアがこのまま射撃を継続するか、近接攻撃へ移行するかどうかを判断するくらいの余裕はある。

 

「次は、ビームサーベル……」

 

 セアはウェポンセレクターを回転させ、ビームライフルからビームサーベルへと切り替える。

 ガンダムMK-Ⅱはビームライフルをリアスカートへ納め、バックパックからビームサーベルを抜刀。

 ようやく接近してきたNPDリーオーはビームサーベルを振り下ろして来るが、ガンダムMK-Ⅱはビームサーベルを寝かせるように構え、ビームの斬撃を受け止めてみせる。

 数秒の鍔迫り合いが続いて、セアのガンダムMK-Ⅱが押し上げるようにしてNPDリーオーのビームサーベルを弾き返した。

 体勢を崩したNPDリーオーは、一歩二歩と後ずさる。

 

「やぁッ!」

 

 一歩踏み込んで間合いを詰め、ガンダムMK-Ⅱのビームサーベルが横薙ぎに振り抜かれた。

 胴体を真っ二つに斬り裂かれ、NPDリーオーの上半身がアスファルトの上に転がり、残された下半身共々爆散していった。

 

 NPDリーオー(黒)、撃墜。

 

『Mission Clear!』

 

 クリア条件を達成し、セアのコンソールにファンファーレが表示される。

 

「ふぅ、これでクリアだね」

 

 安堵に一息つくセア。

 

「お疲れ様です。まーこんな感じでミッションをクリアするってことで、後はベース基地に戻……、……?」

 

 

 戻るだけです、と言いかけたハバキリは、コンソールが小さく映している"何か"を発見する。

 

「……」

 

 一瞬、気付かなかったフリをしようと考えた。

 今の自分はセアを指導しているところだと、それ以外を考える必要はないのだからと、自分に言い訳を重ねるがーー

 

 ーーそんな自分が気に食わなかった。

 

「ハバキリくん?」

 

 ガンダムMK-Ⅱのビームサーベルのエネルギーを切って、バックパックにマウントさせようとしていたセアは、ハバキリの様子を見てその手を止めた。

 

「セアさんちょっと失礼……」

 

 セアの横からコンソールを操作し、NPDリーオー達が現れた格納庫を映す画面を拡大、その一部に目を向ける。

 

「(オレって奴は、なんでこんなにお人好しなんだろーな)」

 

 

 先程NPDリーオー達と戦闘を行っていたそこに、ボロボロのスモックのような衣服を纏った、薄桃色の髪の少女が倒れている様子が映し出されている。

 

「っ、どうしてあんなところに人が!?」

 

 ガンプラ同士の戦闘が起きていた場所に、自分達以外の誰かがいたことに驚くセアだが、対するハバキリは至極冷静に判断する。

 

「とりあえず、救助しときますか。セアさんはちょいと待ってて」

 

 ハバキリは慣れた手付きでガンダムMK-Ⅱをアスファルトに跪かせ、コクピットハッチを開けるなり左手を伝って機体から降りて、倒れているダイバーへと駆け寄る。

 

「おーい、生きてるか?……いや、生きてなかったら"消えてる"か」

 

 少女を軽く揺すりながら抱き起こすハバキリ。

 

「ぅ……?」

 

 気を失っていたらしい少女は、ハバキリの介抱によって閉じられていた瞳を開いた。

 

「お、気が付いたか。こんなとこで昼寝してちゃ危ねーぞ。……好きでこんなとこにいたわけじゃなさそーだが」

 

 とは言えここにいては、いつ格納庫が倒壊するか分からないので、ひとまずセアの待つガンダムMK-Ⅱのコクピットへ連れて行こうとするが、

 

 ハバキリのダイバーとしての聴覚に、風切り音が届く。

 

「今度は何だ?」

 

 その風切り音が聞こえる方向へ目を向ければ、遠方から複数のガンプラが飛来、工廠地帯へと次々に着陸する。

 

 ゼフィランサス、リックディアス、ギラ・ドーガ、カラミティガンダム、ユニオンフラッグと、いずれもタイプも原典作品もバラバラな五機が揃う。

 

「(オレを狙っている……わけねーな、ここにあるのはMK-Ⅱだけだ)」

 

 ハバキリが思考を回す最中、ゼフィランサスからスピーカーを通じた音声が響く。

 

『そこの銀髪のダイバー、君が抱えている彼女をこちらに引き渡してほしい』

 

 ゼフィランサスーーひいては周りにいる四機の目的は、今ハバキリが抱えている少女らしい。

 それだけを聞いて、ハバキリは舌打ちした。

 

「(やっぱりこいつら、"強硬派"の連中か。となると、このピンク髪は……)」

 

 引き渡せば、きっと気に入らないことになるだろう。

 ハバキリは敢えて声を上げて応じた。

 

「おーなんだアンタらー!いきなりやって来ていきなり引き渡せってのはどーゆー了見だー!?」

 

 何も知らないフリを通しつつ、さり気なく少女を抱えながらガンダムMK-Ⅱの左手近くへと戻っていく。

 

『いきなりで申し訳無いのは承知の上だ。すまないが、早急に引き渡してくれ』

 

「大体なー!ここは初心者用のチュートリアルミッションのフィールドだぞー!何勝手に入ってきてんだよー!」

 

 初心者用のフィールドに無断進入してきたことを言及するハバキリ。

 ついでにコンソールパネルを開いて手早く何かを入力していく。

 

「あ、セアさん。コクピットに乗せて」

 

「え?う、うん」

 

 ハバキリの指示に従い、セアはガンダムMK-Ⅱを動かして、ハバキリと少女を乗せた左手をコクピットハッチへ近付ける。

 

『さっさとそこの女を寄越せって言ってんだよ!撃ち殺すぞ!』

 

 カラミティガンダムが右手のバズーカ砲『トーデスブロック』の砲口を向けて威嚇してくる。

 

 その間にもガンダムMK-Ⅱのコクピットに戻ったハバキリは、「ちょっと代わりますよ」と一言断ってから、セアに少女を押し付けて代わりにアームレイカーを奪い取り、通信回線をオープンにする。

 

「はいはい、サルみてーにウキャウキャ喚かなくても聞こえてるっつーの」

 

 ハバキリの操縦に従い、ガンダムMK-Ⅱは左手をコクピットハッチに近付けながら、カラミティガンダムの方へ歩み寄る。

 向こうからは、シールドが陰になって胴体周りが見えない。

 

「ハバキリくん、一体何を……」

 

 セアは不安げにハバキリを見つめるが、その彼は無表情だ。

 

『最初っからそうすりゃいいんだよ』

 

 カラミティガンダムはトーデスブロックを下げて、左手を差し出す。

 

「それじゃー、しっかり受け取ってくれよ」

 

 ガンダムMK-Ⅱは左腕をカラミティガンダムへ差し出す、

 と同時に右腕も差し出した。

 

 

 

 

 

「ビームサーベルをな」

 

 

 

 

 

『は?』

 

 ズヴッ、と言う音が聞こえた時には、カラミティガンダムのコクピットは蛍光ピンクの光束に焼かれていた。

 ダイバーを失ったカラミティガンダムは、その場で崩れ落ちて小爆発の後に動かなくなった。

 

 カラミティガンダム、撃墜。 

 

 そこにいるのは、左手には何も持っておらず、ビーム刃を発振させたビームサーベルを突き出しているガンダムMK-Ⅱ。

 

「こんな罠ですらねー罠に掛かるなんざ、やっぱサル……いや、警戒出来るサルの方がまだ賢いな」

 

 しょーもねー連中だ、と『オープン回線で』呟くハバキリ。

 

『き、貴様!』

 

 次の瞬間、撃破されたカラミティガンダムを除いた四機が、一斉にライフルやマシンガンを向けて放ってきた。

 

「よっと」

 

 しかしハバキリは慌てることなくアームレイカーを一気に引き下げて、ガンダムMK-Ⅱをその場から跳躍させて銃火器からの射撃を回避する。

 初撃を回避してからは、ハバキリは目まぐるしくアームレイカーを振り回しながらもウェポンセレクターからバルカンポッドを選択、銃弾を速射させて牽制しつつ距離を離していく。

 

「えっとなセアさん、悪いけどちょっとオレ、"乗り換え"ます」

 

「の、乗り換えるって?」

 

「このMK-Ⅱのスペックであいつらの相手は出来ねーから、別の機体に乗り換えます。オレがコクピットから降りたら、出来るだけ遠くに逃げてください」

 

「え、え?」

 

 もはや何が何だか分からずに困惑するだけのセア。

 

「そろそろ、"来る"はずだから……」

 

 バルカンポッドを全弾撃ちきった後、ガンダムMK-Ⅱは踵を返して、ゼフィランサス達から背を向けるようにして加速する。

 

『逃がすなっ、撃ちまくれ!』

 

 再び襲いかかる、ビームと銃弾の嵐。

 それらを往なしつつ、ハバキリはレーダー反応を見て、ニヤリと笑う。

 アームレイカーを押し上げて、ガンダムMK-Ⅱはその場から飛び上がる。

 ある程度の高度にまで到達したところで、ハバキリはコクピットハッチを開けた。

 

「じゃ、また後で」

 

 アームレイカーをセアに押し付け返してーーーーーそのままコクピットから飛び降りた。

 

「ハバキリくんっ!?」

 

 しかし、ハバキリがコクピットから飛び降りたと同時に、ガンダムMK-Ⅱと向かい合う形で、"何か"が凄まじいスピードで飛んでくるのが見えた。

 

 

 

「来い、『ジンライ』!!」

 

 

 

 その声に応じたかのように、『ジンライ』と呼ばれた青灰色のガンプラのモノアイが力強く輝き、落下中のハバキリの下に回り込み、自動的にコクピットハッチが開いた。

 ハバキリは開かれたハッチの縁に手を引っ掛け、落下の反動を活かしながらコクピットの中へ飛び込む。

 

 1G以下の重力下の中、時速100km以上で高速移動している物体に対し、自由落下中の状態からどこかへ身体を引っ掛ける。

 これを現実で行おうものなら、相対速度の問題から身体がミンチになる。

 GBNと言う仮想現実だからこそ出来る、とんでもない荒業と言えるだろう。

 

 そのとんでもない荒業をさも当たり前のようにやってのけたハバキリは、コクピットハッチを閉じて、アームレイカーを握り締めてスロットルを開き、その速度をさらに加速させる。

 

 ゼフィランサスは突如として彼方から現れた機体を目視で捉えた。

 

『なっ!?あの"青いジン"は、まさか……』

 

 そこまで言いかけた時、"青いジン"はその速度のままゼフィランサスに肉迫、抜き放った細長い鉄塊を振り上げ、兜割りのように頭部から叩き付けてやった。

 青き機体が放った強烈な一撃は、頭部を粉砕するだけでは済まされない、そのまま機体ごと地面へ叩き伏せて陥没させた。

 

「ったく、四日ぶりのGBNで、何でこんな奴らの相手しなきゃなんねーんだか……」

 

 ゼフィランサス、撃墜。

 

 

「とりあえず、お前ら全員スクラップな」

 

 機体銘『ジンライ』。

 

 かつて、フォース・アルディナで双璧を誇った『白き聖騎士(ホワイトパラディン)』と対を成す、『青き狂戦士(ブルーバーサーカー)』が、今ここに舞い戻ったーーーーー。

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 ハバキリ「まー、アレだわ。ちょっかい出してきた連中は置いといて、と」

 

 セア「この女の子、どうしよう……?」

 

 ハバキリ「説明がめんどいな……とりあえずあいつらをミンチよりひでぇやにして、それから考えるかー」

 

 セア「……ハバキリくんって、何者?」

 

 ハバキリ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション

 

『偶然と必然と』

 

 ただの中学生ですが、何か?」 

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