ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション 作:さくらおにぎり
訂正通りに反映させました。
やべー奴と先生が店の外へ出ていくのを見送った後。
仮面の獣人はネオアメリカンコーヒーもすぐに飲み干すと、カップとソーサーをカウンターへ返す。
「すまんがマスター、会計を頼む」
「あら、もうお帰り?」
寂しいわねぇ、と言いつつもバーテンダーは手元の作業を片付けると、仮面の獣人へ向き直る。
仮面の獣人は自分のコンソールを呼び出すと、ブレンドコーヒーとネオアメリカンコーヒーのぶんのビルドコインを、カウンターの端末機器へ送信する。
これで精算は完了だ。
「彼奴ら二人のぶっ壊れっぷりを見て、正気ではいられなくなったか?」
彼奴ら二人ーーやべー奴と先生のことを指しつつ、トラちゃんは薄く笑う。
「正気でいられなくなる前に、だ。それに、どの道そろそろお暇しようと思っていたのでな」
コンソールパネルをトップ画面に戻し、ログアウトのコマンドを呼び出す仮面の獣人。
「ふむ、もう少しいてくれた方がありがたいのだが、無理強いはすまい」
トラちゃんも特に引き止めることはしない。
「では、失礼する」
小さく頭を下げると、仮面の獣人はログアウトしていった。
店内に残るのは、トラちゃんとバーテンダー、それと数人のウェイターのみ。
「急に静かになったわねぇ」
「全くだ」
お猪口に酒を注ぎ直しては、一口呷るトラちゃん。
ハバキリとセアのデート(第三者視点)の翌日。
学園内で散々コウダイに根掘り葉掘り訊かれて、ハバキリはどこからどこまでを嘘にするか本当のことを話すかを選びつつ、コウダイからの尋問をどうにかやり過ごした。
その日の放課後。
下校路からガンダムベースへ直行しつつ、ハバキリとコウダイは今後について話していた。
「そろそろ一回、フォース戦をやってみようと思うんだけどよ、ハバキリはどう思う?」
コウダイは先日から話していた、フォースバトルについての話題を持ってきた。
「とは言え、人数の問題は解決してねーだろ。結局、あれからめぼしー奴のスカウトなんざしてねーし」
フォースバトルの基本は5on5だ。
無論、双方のフォースの合意の上で変則的なルールとするのも認められているが、それでもフェアプレーを前提とするならやはり人数は揃えたいところ。
「とりあえずフォースを結成するだけして、足りない頭数は助っ人に頼るってのもアリじゃねーか?」
ハバキリが妥協案を挙げる。
「助っ人かぁ、出来れば正式にフォースに腰を落ち着けてくれる奴の方がいいけど、まぁそれは後が無くなった時の手段だな」
それを聞いたコウダイも、賛成こそしないものの、否定することもしなかった。
「んじゃ、セアさんとサッキー、ジルちゃんが揃ったら、とりあえずだけでもフォースの結成だな」
バトルに関しては追々ってことで、とコウダイは頷く。
ログイン完了。
しばらくは野郎二人で雑談に華を咲かせていたところで、最初にサッキー、次にセア、最後にジルがやって来た。
「よし、とりあえず全員揃ったな」
コーダイが率先して先導する。
フォースこそまだ組んでいないものの、この五人がいつものメンバーである、と言う認識が既に組み上がっている。
女子三人は、これから何かあるのかとコーダイに耳を傾ける。
「ハバキリとの協議の末、ここにいる俺達五人で、ひとまずフォースを組もうと思います」
フォースを組むと宣言するコーダイだが、すぐにサッキーが反応する。
「ねぇコーダイ、それって前に人数が足りないからって先延ばしにしなかったっけ?」
「人数の問題はまだ解決してない。それでも、とりあえずフォースを組むだけ組んで、足りない頭数は助っ人で補おうって話をしてたんだよ」
コーダイはハバキリの挙げた意見を取り入れた、現時点での妥協案を提示する。
「助っ人に関しては、俺とハバキリの両方で伝手を持ってるから、フォースバトルを実施する数日前にコンタクトを取れば、十分間に合う」
だからそっちの心配は必要ない、とコーダイはスタンバイさせていたコンソールパネルを開き、拡大させながら四人に見せる。
「今日決めたいのは、フォースの名前。あんまり中二臭いのとか、尊大過ぎるのは無しで頼むわ。何か良さげな名前とかあるか?」
コーダイがそう言い終えたところで、ハバキリが口を開く。
「ちなみに、オレは『地球外縁軌道統制統合艦隊面壁九年堅牢堅固』って意見を挙げたら、ナノ一秒で却下されました。解せぬ」
「それ、そのまま使ってるだけじゃないの。ってか、長過ぎて文字数足りないでしょ」
当たり前のようにサッキーからダメ出しをされる。
ハバキリは「そっかー」と残念そうに呟く。とても残念そうには見えないが。
「まぁ……あたしも名前なんて思いつかないんだけど。ジルちゃんは何かない?」
サッキーは隣にいるジルに目を向ける。
「うーん?名前?」
小首を傾げているジルだが、そもそも何の話をしているのかもよく分かっていないかもしれない。
そのジルのそばにいるセアは、思案しているように目を閉じている。
「…………」
とは言え、すぐに出てくるようなものでもない。
「俺達が所属していたフォースの名前が『アルディナ』……"大地"って意味だったからな。その対になるように"空"を意味する名前にしようって思ったんだけどな……」
コーダイは気まずそうに後頭部を掻く。
「オレとコーダイからしたら、それは元々フォースメンバーだった奴らへの反抗……ってか、裏切りになるんじゃね?ってな」
ハバキリは何気も無くそう言うが、彼にとってその名前はある種の戒めーー引き摺って歩かなければならないようなものだろう。
空に関するワードは禁句。
それでまた範囲が狭まったところで、セアの口と目が開いた。
「ーーーーー"自由"」
その二文字に、他四人が耳を傾けた。
「フリーダム……だと、私のガンプラと被っちゃうか。なら、他には……」
「……なら、"自由"を独語にして、『リヴェルタ』ってのはどーです?」
さらにそれを補足するのはハバキリ。
コーダイのコンソールパネルに指を伸ばし、フォース名の欄に『Liberta』と打ち込む。
「"自由"、か……変に捻るよりは、シンプルでいいですね」
コーダイもその『リヴェルタ』と言う言葉を咀嚼する。
セアは、その"自由"の銘を冠した、その理由も話す。
「ほら、私達って色んな経緯があってこうして集まってるでしょう?約束していたわけでもなくて、全部偶然の産物から生まれて、みんながみんな、"自由"な意思で動いていたから、私達は集まった……って意味を込めてるの」
そもそもの事の始まりは、ハバキリが元いたフォースを離れたことから。
ハバキリがセアと出会い、その二人にジルが拾われ、ハバキリを通じてコーダイがセアと知り合い、ハバキリ(シャルル)がサッキーと出会っては引き込んだ。
誰かがこうなることを仕組んだわけではないし、期待したわけでもない。
各々の自由意思が重なり合ったことで、偶然生まれたフォースだと、セアは言うのだ。
「はぇー、凄く深いネーミングですね……」
サッキーは納得したように頷いている。
「オレは賛成ですよ。コーダイはどーよ?」
「俺も異議なーし!」
ハバキリとコーダイも賛成し、それにサッキーも便乗。
「ジルちゃんはどうかな?」
ある意味で、このメンバーの最高決定者(?)であるジルを窺うセア。
そのジルは特に考えたような様子もなく首を縦に振る。
「なんか、カッコいい。うん、うん」
全員賛成による可決。
ここに、フォース『リヴェルタ』が結成した。
ちなみにフォースリーダーは、この中で一番歳上であることと、チーム名を可決させたと言う理由で、セアが推薦された。
本人は慌てて辞退しようとするものの、ハバキリが煽り立て、コーダイがベタ褒めし、サッキーがエールを送り、最後に最高決定者(?)のジルが再度推薦したことで、渋々と承認してくれた。
「さて、フォースが無事に結成されたところで、次の問題だな」
フォースが結成されたことによって、フォースネストの使用が認められるようになったハバキリ達は早速そこへ移動し、ブリーフィング用のモニターを起動させていた。
「オレ達のフォースの、デビュー戦。その相手を、どこのフォースにするかだ」
その問題を提唱するハバキリに、サッキーはすぐに意見を挙げる。
「そんなの、あたし達と同じくらいのランクのフォースでいいんじゃないの?」
何故そこで相手に悩む必要があるのかとサッキーは疑問符を浮かべるのだが、ハバキリはその理由を答えた。
「さて問題です。オレ達のフォースには、一人だけSランクって言う上級者がいます。それは誰でしょう?あ、ちなみにオレはDランクだからな。ホントダヨーウソジャナイヨー」
その問い掛けに、サッキーとセアの視線がコーダイに向けられる。
「って、そりゃハバキリはいっぺんデータ消したからランクが最初からになってるだけで、実力そのものはSランク級だろ?」
「まーな」
否定はしなかった。
「でもだからって、平均ランクSの上位フォースの相手になってもらうか?それじゃサッキーはともかく、セアさんには荷が重すぎる」
ハバキリが懸念するのは、メンバー達の中でランクや実力に差がありすぎることだ。
その逆もまた然り。
同じく結成したばかりでまだビギナーから脱却し切れていない者達ばかりの相手などしようものなら、ハバキリとコーダイの二人だけの独壇場と化すだろう。
「でもそれだと、私達にとっても相手にとってもちょうどいい相手って、少ないんじゃないかな?」
セアは申し訳無さそうにしながらも挙手する。
自分がこのフォースの平均ランクを下げているからだ。
「そーでしょーけど……とりあえず、フォース戦の募集を掛けてみますか」
ハバキリはコンソールを操作してフォース戦の募集掲示板を開き、自分達のフォース・リヴェルタの公開可能な範囲でのデータを投稿する。
『初心者、中級者、上級者、なんでもござれのワイワイフォース!同じようなフォース、探してます!初心者狩りの皆さんも大歓迎、一人残らずブチ○してあげます!』
と言う(物騒な)自己紹介文を打ち込み、投稿した。
「よし、募集は掛けた。コーダイ、助っ人の件は?」
ハバキリは、自分のコンソールパネルを操作しているコーダイに目を向ける。
「今、ミツキにメール送ったとこだ。この時間なら、すぐに返信してくれるはずだけど……」
そう言った途端、すぐさまコーダイに通知が届いた。
「おっ、来た来た。えーと、『了解しました。では、そちらの平均ランクを鑑みて、C、またはBランクの方を派遣致します』……だってよ」
概ね、色の好い返信のようだ。
フォースの結成と、フォース戦の募集、助っ人の問題もひとまず解決したところで、今日は軽めのミッションをこなすことにした。
その日の晩。
夕食を食べ終えてお茶を啜っていたハバキリは、ダイバーギアにメールの着信が届き、パッと手に取った。
「(セアさんからか)」
恐らく、今日のフォース戦の募集や、助っ人の派遣に関する連絡網だろう。
(形式上は)セアがフォースリーダーであるため、フォース・リヴェルタに関する連絡や通知は、一括して彼女に届くようになっている。
一度セアが目を通し、それからハバキリ達他のメンバーにも同じ内容を彼女から送信されるのだ。
セア:お疲れ様。今日のフォース戦の募集についてだけど、是非ともマッチしてほしいってフォースが来てくれたの。向こうのフォースの情報は、添付した画像に書かれているから、ちゃんと確認しておいてね。助っ人のことは、ミツキさんの方から直接みんなに連絡を入れるとのことです。
そのメッセージの下に添付されている画像を開き、拡大してみる。
フォース名『フラワーズ』
その名前を見て、ハバキリは目を細めた。
「(フラワーズって言えば、確かかなり上の方にいるフォースだよな?)」
フォース名から記憶を掘り起こすハバキリ。
確か、中高年層のユーザーが有志で集まって出来たフォースで、去年の初夏に勃発した、反マスダイバー連合軍とマスダイバー達の戦い『アデレート攻防戦』にも参戦していたはずであり、少なくとも全員Aランク以上には到達しているはずだ。
しかも噂によれば、あの伝説のフォース・ファイアワークスのメンバーの一部が吸収されたとも聞く。
何故そんなベテラン揃いのフォースが、初心者混じりの自分達とマッチしたいと近づいて来たのか。
しかしハバキリの記憶とは裏腹に、表示されているフォースメンバーは、D、C、Bと、ランクにややバラつきのあるメンバーで構成されており、(ハバキリがランク詐欺紛いなことをしている点を除けば)ちょうど自分達と均衡が取れたフォースともいえる。
フォースリーダーには、『鉄血のオルフェンズ 月鋼』の登場人物の一人である『ロザーリオ・レオーネ』に似た壮年の男性ダイバーの顔画像が表示されているが、他のメンバーは高校生、もしくは大学生くらいの若者だ。
画像の下にある自己紹介文に、『フォース・フラワーズの下部組織ですが、フォース戦は未経験です。お手柔らかにお願い致します』と書かれているのを見て、「二軍みたいなもんか」とハバキリは納得する。
「バトルの予定日は……今週の日曜か」
ちょうど一週間後と言うことらしい。
期間に幾分か余裕がある方が、後から参加してくる助っ人ダイバーと作戦を合わせることも十全に行えるはずだ。
それなら残る懸念は、ミツキから派遣される助っ人がどのような人物か、だ。
ミツキの伝手であれば、足並みを揃えずに独走するような者は送ってこないはずだが、それでも気になるものは気になる。
そこばかりは焦れても仕方ないとして、ミツキからの連絡を待つ他ない。
すると、続いて別のダイバーからのメールが届いた。
セアからの連絡網を一度閉じて、受信されたばかりのそれを開く。
焦れても仕方ないと割り切ったばかりのところへ、ミツキからのメールが送られていた。
ミツキ:お忙しいところに失礼します。例の助っ人の件についてですが、Bランクのダイバーをご紹介致します。助っ人さんは、明日にでも顔合わせをしたいとのことですが、いかがでしょうか?
なるほど、話が早くて助かる相手のようだ。
ハバキリはすぐにミツキへと返信する。
ハバキリ:オケー、理解した。一応、最後の承認はウチのリーダー、セアさんに任せてるから、そっちにも再度連絡頼むわ。
そう返信をしてから数十分後に、セアの方から再度連絡が送られ、明日の16時頃にエントランスロビーで待ち合わせをする、と言う運びとなった。
翌日。
「……まさか、ミツキの言う助っ人がアンタのことだったとはな」
GBNエントランスロビーで、既に待っていた助っ人の姿を見て、ハバキリは何とも言えぬ表情を浮かべる。
「ボクの方だって、君らのことって知らされずに請け負ったんだけど?」
ハバキリ達フォース・リヴェルタの前にいるのは、先日にセアが遭遇した、蒼い髪の中性的な容姿を持つダイバーである『エミル』だった。
微妙な空気になる前に、リーダーであるセアが積極的に動く。
「えーと、エミルくん、だよね。今回、私達のフォースの助っ人を請け負ってくれてありがとう。改めて自己紹介させてもらうけど、私はセア。一応、このフォースのリーダーをさせてもらってます」
「こちらこそ改めまして、ボクはエミルです。ミツキを通じて、一時的な助っ人と言う形でフォースに入隊させていただきます。これから少しの間、よろしくお願いします」
エミルの方も、セアの挨拶に対して相応の礼儀を返す。
ハバキリ、コーダイ、サッキー、ジルも各々の自己紹介をしてから、早速日曜日に控えているフォース戦の交流試合に向けてのブリーフィングを行うため、フォースネストへ移動する。
「はーいと言うわけで、俺達フォース・リヴェルタのデビュー戦に向けて、色々とお互い確認していきたいと思いまーす」
モニターの前に立って作戦会議の進行を買って出るのは、コーダイ。
エミルは「こう言うのって普通リーダーがするものでは?」とハバキリに零したが、リーダーであるセアはガンダムやガンプラに関する知識に乏しいため、参謀としてコーダイがそれを取って代わっている、と答えた。
その答えに特に異を唱えることもなく、エミルは黙ってコーダイの進行を聞く。
各々のガンプラのスペックや武装を見て、フォース戦におけるポジションや役回りの分担などを決め、バトル開始からの具体的な作戦進行などを組み立て、その通りに進められるどうかをトレーニングモードやクリエイトミッションなどで繰り返しシミュレートし、時には通常のミッションを受けることで互いの連携力を高めていく。
それらを数日かけて行い、一週間はあっという間に過ぎていった。
日曜日。
今日は、待ちに待ったフォース戦の当日だ。
ハバキリ達フォース・リヴェルタの面々は、ミツキの案内によって自分達のガンプラを搭載させた輸送機に乗って、フォース戦が行われる現地へと向かっていた。
指定されたその場所は、色とりどりの花々が咲き乱れる庭園と、それに合わせたように作られた巨大な城ーー実在するベルサイユ宮殿を再現したーー、今回の対戦相手となるフォース・フラワーズのフォースネストだ。
普段から彼らが利用しているハンマーヘッドもフォースネストと言う名目であるが、どちらかと言えば移動拠点のような扱いであると、フラワーズの幹部クラスの一人は語る。
庭園に設けられた発着場に輸送機を着陸させてから降りると、既に何人ものダイバーが待ってくれていた。
その代表だろう、シスター姿の女性ーーミスズが一歩前に出た。
「初めまして、フォース・リヴェルタの皆様。私はフォース・フラワーズの代表のミスズと申します」
それに対しては、一応のリーダーであるセアが応じる。
「こちらこそ、初めまして。フォース・リヴェルタの、一応のリーダーの、セアです。今日は、よろしくお願いします」
一応のリーダー、と言う言い方を聞いて、ミスズの後ろにいるメンバー達の、若者達からどういう事だろうかと言うような目でセアを見る。
それを止めさせるように、ミスズの方から話を切り出す。
「ミツキさんからお聞きしているとは思いますが、今回のフォース戦は私達フラワーズの、下部組織……新規入隊者によるチームがお相手致します。ではナオエさん、後はお願いします」
ミスズは一歩後ろにいる、下部組織のリーダーである、ロザーリオ・レオーネに似た壮年の男性ダイバーに目配せして、若者達の後ろに下がる。
「初めまして、『ナオエ』と言います。元釣具屋の店主で、今は楽隠居の身です」
じきに還暦を迎えるだろう年齢に見えるナオエは、穏やかな物腰でセアに一礼する。
「孫のために道楽でガンプラバトルを始めたもんですが、よろしくお願いします」
「お孫さんのために?あ、いえ、こちらこそお願いします」
込み入ったことを訊ねかけて、慌てて挨拶を返すセア。
その彼女の一歩後ろでナオエを見ていたハバキリは、表情に出さないように彼を睨んでいた。
「(あのおっさん……道楽者の目じゃねーな。ボケたフリした喰わせ者ってところか……)」
何にせよ、高齢とはいえ侮って勝てる相手ではなさそうだ。
「うんうん、若くて元気な子達と張り合えるってのはいい機会だ」
いかにも年寄り臭そうなことを言うナオエ。果たしてそれが演技なのか、それとも素なのか。
ハバキリの疑念を他所に、彼らと同行していたミツキが取り仕切る。
「これより、フラワーズ二軍とリヴェルタの交流試合を開始します。ルールは5on5の殲滅戦。制限時間は無し、先に全機撃墜したフォースの勝利となります。場所は庭園郊外の森林地帯。審判は私、ミツキが務めさせていただきます。何かご質問等はございますか?」
特に双方からの質問もなく、円滑に進められていく。
「それでは、五分のインターバルの後にバトルスタートの信号を発信します。参戦者の方は、ガンプラへの搭乗をどうぞ」
ミツキの手にあるタイマーが押され、五分のカウントダウンが開始、フラワーズ二軍の面々は慌ただしく自分達のガンプラを待機させている場所まで急ぐ。
その中で、セアはジルを連れてミスズの方へ向かう。
「えーと、ミスズさん。打ち合わせていた通りに……」
「そちらの、ジルちゃんのことですね。バトル中の間、こちらでお預かり致します」
ジルはバトルを行うわけではないので、安全な場所で観戦してもらう、と言うことを打ち合わせていた。
「ジルちゃん、フラワーズの皆さんに迷惑かけちゃダメだよ?」
「はーい」
嫌がることもなく、ジルはミスズへ預けられ、手を引かれて宮殿の方へ連れられる。
輸送機に積載しているガンプラに乗り込んでいくフォース・リヴェルタの面々。
「さて、オレ達のフォースのデビュー戦ってことで、リーダーのセアさん、一言どーぞ」
ジンライ改を起動させたハバキリは、オープン回線にしてそう言った。
「えっ、そう言うことも言わないとダメ?」
そのジンライ改の隣で、フリーダムガンダムのPS装甲を起動させているセアは戸惑うものの、
「よっしゃ!ここは一発お願いしますよ、セアさん!」
コーダイがそれに便乗し、
「セアさんのありがたいお言葉、あたしは聞きたいですね!」
サッキーが後押しし、
「士気を高揚させるのは、リーダーの役目のひとつですよ」
最後にエミルが正論で逃げ場を無くす。
「うぅ……分かった……、こほんっ」
諦めて、セアは一度咳払いで前置きを置く。
「えー……っと、今回、私達のフォースのデビュー戦になるわけだけど……みんなで協力すればきっと勝てるはずだから、が、頑張ろう!」
戦意高揚と言うにはあまりに稚拙だが、その言葉にコーダイとサッキーは囃し立て、ハバキリとエミルは静かに頷く。
五分のインターバルが経過し、ベルサイユ宮殿からバトルスタートの信号弾が上げられた。
「ハバキリ、ジンライ改!」
「コーダイ、キャノパルド!」
「サッキー、ガンダムデスレイザー!」
「エミル、七星剣士エクシア」
「セア、フリーダムガンダム!フォース・リヴェルタ、行きます!」
掛け声と共に、一斉に輸送機から出撃していくリヴェルタのガンプラ達。
ハバキリのジンライ改は、いつもと同じく、アサルトライフル、重斬刀、シースザンバーの三つを装備して出撃。
コーダイのキャノパルドは、ビームライフルと脚部にミサイルポッドに、今回は予備としてビームガンも追加している。
サッキーのガンダムデスレイザーは、相変わらず潔くビームシザース一丁だけ担ぎ、アクティブクロークをバサリと広げる。
エミルの七星剣士エクシアは、以前に邂逅した時とは異なり、本来のガンダムエクシアと同じ、セブンソードーー七つの近接武装を全て装備している。
そして七星の機体名が示すように、七つの近接武装全てに、北斗七星の銘を与えられている。
GNソードの【巨門】
GNビームサーベルの【天枢】【禄存】
GNビームダガーの【天権】【開陽】
GNロングブレイドの【玉衝】
GNショートブレイドの【揺光】
左肩から羽織っているマントだが、ガンダムエクシアリペアのように腕を失っているわけではなく、実はA.B.C(アンチビームコーティング)マントである。
セアのフリーダムガンダムは原典機にはない、『グングニル』と名付けられたオリジナルのバズーカ砲を持ち、本来のルプス・ビームライフルはリアスカートにマウントしている。
これは、元々は『ストライクバズーカ』と通称される、ストライクガンダムの装備のひとつであり、ハバキリがそれをザフトガンダムタイプ用に改造したものだ。
以前にセアとハバキリのデート(違う)の時に、「C.E.におけるハイパーバズーカ的な武装」として、ハバキリがセアのために作っていたものである。
森林地帯の深い木々の隙間に潜む陰が二つ。
白灰色と黒のモノトーンカラーのゲイレールと、ガンダムデュナメス。
フラワーズ二軍のリーダーであるナオエは、搭乗機であるゲイレールに片膝を着かせながら、メンバー各機に通信を行っていた。
『さて、鬼が出るか、蛇が出るか……各機、状況はどうかな?』
前線にいる、ウイングガンダム、ブレイズザクファントム、ブルーディスティニー1号機の三機の内、副長であるブルーディスティニーがそれに応じる。
『全機、配置完了しました。後は作戦通りに動くだけです』
『作戦通りに動くだけ……で上手く行けばいいんだけどねぇ。まぁ、無理せずに行くとしよう』
『了解!』
前線の三機は、油断なく身構えながらも前進し、残るゲイレールとガンダムデュナメスはそれとは別方向へ移動を開始する。。
出撃完了したフォース・リヴェルタ。
前衛はジンライ改と七星剣士エクシア、後衛はキャノパルド、中衛はフリーダムガンダム、遊撃はガンダムデスレイザーと言うフォーメーションを取りつつ、森林地帯を慎重に進む。
「どうだ?」
狙撃が行えるよう、高台を陣取っているコーダイは、ハバキリとエミル、セアの三人に通信を繋ぐ。
「敵さんはまだ姿が見えねーな」
「向こうも慎重ってことだね」
「こっちも、特に何も……」
注意深く辺りを観察している三人だが、それらしい反応はまだ見当たらない。
……と思った時には、ジンライ改と七星剣士エクシアのアラートが鳴り響き、一歩遅れてフリーダムガンダムも反応する。
前方からニ機、ウイングガンダムとブレイズザクファントムの三機が、それぞれマシンキャノンとビーム突撃銃で牽制を掛けながら向かって来る。
「来たっ」
セアはアームレイカーを捻り返し、襲い来る弾幕を回避していく。
「お出ましだな」
「数は二つか」
ハバキリのジンライ改も回避運動を取りつつもアサルトライフルを撃ち返し、エミルの七星剣士エクシアは右腕のソードライフルで続く。
しかし、その撃ち合いがほんの数秒だけ交錯すると、敵機は牽制を続けながらも後退を始めた。
「敵が下がる?」
牽制射撃を往なしつつ、エミルは相手の動きを見る。
「数的不利だから、ってわけじゃなそうだけど……」
セアは訝しみながらもグングニルのトリガーを引き、砲口から放たれた弾頭は、発射されてすぐに散弾となって飛び散るが、距離が開いているためにダメージらしいダメージを与えられずに、シールドに弾かれてしまう。
「……、……突っ込み過ぎない程度に、追いますか」
ほんの数秒で、相手が何を企んで下がるのかをいくつかシミュレートしたハバキリはそう進言し、三人は少しずつウイングガンダムとブレイズザクファントムを追う。
このまま追撃をしても、問題ないことを確信して。
フラワーズ二軍の前衛二機は、牽制を続けながらも後退している。
その様子をレーダーで確認している、小隊長のブルーディスティニーは、自分達の作戦通りに事が進んでいることにほくそ笑む。
『いいぞ、このままこいつらを目標地点まで誘い込め』
ウイングガンダムとブレイズザクファントムが向かう地点には、複数のトラップが仕掛けてある。
陽動を掛けて誘導、トラップで動きを鈍らせたところへ強襲、さらに遠距離からガンダムデュナメスによる狙撃も行わせ、一気に各個撃破……それが、彼らの目論見であった。
しかし、リヴェルタの三機が前進しているにも関わらず、キャノパルドがその場から動かず、またガンダムデスレイザーの動きが全く見えないのも気に掛かる。
見えないものは仕方ないとして、とりあえずは作戦進行通りに動き、問題が発生しても早急に対処出来るよう、余裕を保つ。
しかし、ガンダムデュナメスからの通信で、その余裕は焦燥へとひっくり返ることになる。
『おい大変だ!敵の一機が、トラップを破壊してやがる!』
『何っ!?』
ミラージュコロイドを解除したガンダムデスレイザーがビームシザースを振り抜けば、張り巡らされたワイヤーが焼き切られ、それと連動するトラップが機能停止する。
「これで三つ目っと。この短時間でよくこんなに仕掛けたわね」
続いて頭部のバルカン砲を地面に向かって撃ち込む。
どことなく不自然に掘り返されたような跡が見えるそこへ銃弾が突き刺さると、その地点を中心に連鎖爆発が起こる。
地中に仕掛けられた地雷を起爆させたのだ。
「さて、そろそろ気付かれるかな……っと!」
不意に、彼方から粒子ビームが放たれてきた。
しかしサッキーは予めスタンバイさせていたウェポンセレクターを押し込み、アクティブクロークを閉じる。
瞬間、粒子ビームはアクティブクローク表面の耐ビームコーティングに弾かれる。
防御に成功するなり、ガンダムデスレイザーはすぐにその場から離脱していく。
「さっきの狙撃は、HES-88方向だから……」
サッキーはフィールド全体を映すマップにマーカーを付け、それをコーダイへ送信する。
ガンダムデスレイザーから送信されてきた座標データを確認するコーダイ。
「よーし、サンキューなサッキー」
「わかったのは方角だけよ。高度とか、詳しい距離とかは分からないのに、やれる?」
「陸戦で狙撃出来るポイントってのは限られてるからな。まぁ、任せとけって……」
彼女との通信を終え、コーダイのキャノパルドは早速行動に移る。
どっしりと腰を落ち着けると、キャノパルドの肩部キャノン砲が可動、細かく位置調整されていく。
「(HES-88方向で正確な狙撃が出来る場所は……ここしかない)」
コンソールパネルに映し出されているマップを拡大、狙撃可能な位置をすぐに割り出し、そこへ狙いを付ける。
「当たればラッキー、外れてもプレッシャー掛けられりゃ十分だ……発射ァ!!」
雲を撃ち抜くかのように、蒼空へ向かってキャノパルドのキャノン砲が咆哮を上げた。
放たれた砲弾は放物線を描きながら、ある地点へ。
GNスナイパーライフルでガンダムデスレイザーを狙撃していたガンダムデュナメスは、アクティブクロークにビームが弾かれたことに舌打ちしていた。
『チッ、一発じゃ貫けないか』
翼の大きさから見ても1/100スケールのパーツを使用しているのだろうとは読み取れる。
狙撃されたことを警戒したのか、ガンダムデスレイザーはその場から離脱していく。
『このままおめおめと逃げられてたま……』
逃げられてたまるか、と言いかけたところに、ナオエのゲイレールが接触通信を行ってきた。
『何やってる、早くここから離脱だ』
『でも隊長っ、アイツが……』
『離脱だ。狙い撃ち返されるぞ』
ナオエがそう口にしたのが合図だったかのように、大気を切り裂く甲高い音と共に、空から何発もの砲弾が降ってきた。
空気抵抗の影響故か、それらは完璧ではないものの、この高台と言う場所を確かに狙っており、ドカンズドンと爆音を立てながら砲弾が地面に炸裂していく。
『なっ、何でこんなすぐに場所が……』
運悪く、ガンダムデュナメスの頭部に240mmのソレが直撃し、上半身を粉々に吹っ飛ばした。
ガンダムデュナメス、撃墜。
『あっちゃぁ……』
言わんこっちゃない、とナオエは嘆息を尽きながらすぐにその場から離脱していく。
その直後に、数秒前までゲイレールがいた地点に砲弾が着弾した。
ガンダムデスレイザーがトラップを先んじて破壊し、キャノパルドの長距離砲撃がガンダムデュナメスを撃破。
「あら、いきなりですの?」
ベルサイユ宮殿の来賓室のモニターは、各機から見た戦況が映し出されている中、ミスズはガンダムデュナメスが撃破されたのを見て目を丸くする。
「先に敢えて狙撃させることで、座標を割り出したのか。撃たれてからすぐにそれが出来るのも、十分凄いとは思うけど……」
元ファイアワークスのメンバーの一人の『マサユキ』は、腕を組みながら目を細めた。
「……はむっ」
椅子に座りながら、チョコミントアイスをもきゅもきゅと頬張っているのはジル。
ブルーディスティニーは、大慌てでウイングガンダムとブレイズザクファントムの二機と合流しようと急いでいた。
トラップからの各個撃破と言う作戦を早くも台無しにされ、相手を誘い込むためにわざと数的不利の状況を作り出していたのに、このままでは二機とも不利なまま撃墜される。
目視で戦況を確認。
幸い、必死に抵抗してくれたおかげで、僚機二人はまだ撃墜されていないものの、追い詰められているのがありありと見える。
すると、青いジンの改造機ーージンライ改が捕捉したのか、ウイングガンダムから目を切ってこちらへ向かって来る。
『(確かこいつはDランク……油断しなければやられはしない)』
フラワーズ二軍で、ナオエがリーダーとして就任する以前は自分が頭を張っていた彼は、自身がBランクであることを自負している。
故に、格下のランクであるジンライ改を相手にしても易々と突破出来るとは思っていなくとも、一対一で負けるはずがないと高を括っていた。
『(それに、まだ勝機はある。ナオエ隊長が来るまで持ちこたえれば、十分巻き返せる……)』
だが、彼は知らないのだ。
このジンライ改の『中の人』が、S、あるいはSSランク級の実力を持っていることを。
エミルはブレイズザクファントムと、ハバキリとセアはウイングガンダムと戦っているところへ、姿の見えなかったブルーディスティニーが駆け付けてきた。
ハバキリはそれを一瞥し、アサルトライフルでウイングガンダムを牽制しつつ、セアとエミルに声を掛ける。
「オレが今来たヤツを相手する。セアさん、ウイングガンダムの相手は任せましたよ」
「うん、任されました」
セアはウイングガンダムから注意を切らないまま応答を返し、グングニルで射撃を行い、それが最後の一発だったためにその場で放棄、リアスカートからルプス・ビームライフルを取り出す。
一方のエミルは、GNソード【巨門】とGNビームサーベル【天枢】の二つを持って、ブレイズザクファントムのビームトマホークと打ち合っている。
GNビームサーベル【天枢】とビームトマホークが鍔迫り合い、弾かれ合う。
ブレイズザクファントムは瞬時に右手にあるビーム突撃銃のトリガーを引き絞るが、銃口を向けられた時点で七星剣士エクシアは、SDガンダム特有の身軽さを以てその場から跳躍、ビーム弾を飛び越えると、空中で回転しながらGNソード【巨門】を振り下ろした。
「でえぇぃッ!」
対するブレイズザクファントムも、左肩のスパイクシールドを向けて防御の構えを取るが、GNソード【巨門】の質量と凄まじい斬れ味によって、スパイクシールドもろとも左腕を斬り落とされた。
『クソッ、やってくれたな!』
すぐに距離を取るべく、ビーム突撃銃を撃ちながらバックホバーして下がるブレイズザクファントム。
大苦戦。
フラワーズ二軍のブルーディスティニーは、控え目に言ってそれしか言葉が出てこない。
ブルーディスティニーは、ジンライ改のアサルトライフルの銃弾を辛うじて躱し、飛び下がりつつビームサーベルを脚部から抜き放つ。
『何なんだこいつっ……ほんとにDランクなのかよ!?』
「あー?Dランクに決まってんだろ、アルファベットも読めねーのかよ」
ジンライ改はアサルトライフルの弾が尽きたのか、それを放り捨てると、利き腕である左手に重斬刀を抜き放つ。
互いに接近戦になるようだ。
先に動いたのはブルーディスティニー。
振り抜かれるビームサーベルに対して、ジンライ改は丹念にコーティングされた重斬刀の腹でそれを受けてみせる。
ほんの少しだけ受ける力を逸らせば、ブルーディスティニーはビームサーベルを空振りし、ジンライ改はすぐさまその無防備な脇腹を蹴り飛ばす。
それを追撃せずに、ハバキリはセアとエミルの状況をサイドモニターから確認する。
セアのフリーダムガンダムはウイングガンダムとビームサーベル同士の格闘戦へ移行し、エミルの七星剣士エクシアはブレイズザクファントムを左腕を破壊して戦闘力を削いだようだ。
それだけ確認して再び身構えるジンライ改だが、不意にブルーディスティニーは明後日の方を向くと、踵を返して離脱していく。
「あれはゲイレール……あのおっさんの機体か?」
木々の隙間から、モノトーンカラーのゲイレールが見えた。
ブレイズザクファントムは、ビーム突撃銃をリアスカートに納めると、サイドスカートにマウントしてあるハンドグレネードを掴み、それを地面に放り投げた。
着弾すると同時に、ガスの噴射と共に灰色の煙が立ち込め始めた。
「スモークか」
ザクウォーリア(ファントム)の本来の武装である、煙幕弾を見て、エミルは下手に攻撃をせずに身構える。
一方のウイングガンダムの方は飛び下がり、バード形態に変形すると、ザクファントムが起こしたスモークに紛れるように飛び去った。
「エミルくん、追わなくていいの?」
セアはシールドで身を守りながら、様子を見ているエミルに声を掛ける。
「目の前もロクに見えない中を突っ込めって、ボクに「死んでこい」って言うつもりですか?」
「そ、そうだよね、今追い掛けたら危険だよね」
ここで追撃を行うことの危険性を理解したセア。
ふと、遊撃手として出撃して、トラップを破壊して回っていたサッキーのガンダムデスレイザーが合流してきた。
「相手さんは、仕切り直しってとこですね」
ブルーディスティニーが後退したのを見て、ハバキリのジンライ改も戻ってきた。
「んじゃ、こっちも仕切り直しだな」
前線を押し上げるために、コーダイのキャノパルドも高台から降りてくる。
そろそろスモークが晴れてくる頃合いだ。
だが、煙幕が晴れたと思えば、今度は光を反射する粒のようなものが辺りに撒き散らされる。
「ん?」
なんだこれ、とハバキリが目を細める。
同時に、味方からの通信がノイズに変わり、レーダー反応が消えてしまった。
「ミノフスキー粒子……いや違う、『ナノミラーチャフ』か!」
ナノミラーチャフとは、『鉄血のオルフェンズ』に登場する架空の物質であり、散布することでLCS通信やレーダー反応などを途絶させる撹乱物質だが、砲弾やミサイルの爆風などによって効果を失ってしまう欠点があり、劇中では実戦で使い物にはならないとされている。
しかし、使い物にならないと思われているからこそ、使ってくるとも思われず、虚を突くと言う点では有効である。
だが、今のジンライ改にはチャフを吹き飛ばせるだけの火器など装備していない。
そうなれば、とジンライ改はモノアイを回転させ、フリーダムガンダムの姿を見つけると、すぐに駆け寄って接触通信を行う。
「セアさん、聞こえてますね?」
「ハ、ハバキリくんっ?何だか急に通信が出来なくなって……」
「相手がそー言う撹乱物質を使ってきたんです。大丈夫、対処できます」
戸惑うセアを落ち着かせるようにハバキリは説明する。
「前方に向かってフルバーストをしてください。それでチャフを吹っ飛ばせるはずです」
「フルバースト……こう、だね」
セアは複数のウェポンセレクターを開き、ルプス・ビームライフル、プラズマカノン『バラエーナ』、レールガン『クスィフィアス』を同時に選択する。
すると、フリーダムガンダムの翼と翼の間に挟み込まれている巨砲と、サイドスカートに折り畳んでいる長砲が展開し、さらにルプス・ビームライフルも構えーー
「いっ、けぇッ!!」
五つの砲門が一斉に放たれた。
ビーム、重荷電粒子、電磁加速弾が木々を吹き飛ばし薙ぎ倒し、同時にナノミラーチャフを焼き払っていく。
「フリーダムが地面に足を着けてフルバーストって言うのも、なかなか絵になるなぁ」
通信が回復したらしく、エミルからそんな感想が聞こえてきた。
セアが放ったフルバーストが合図であったかのように、残る四機が焼き払われた木々から飛び出してくる。
ウイングガンダムがバスターライフルを構え、最大出力のそれは、熱プラズマの渦となってハバキリ達を呑み込まんと迫るが、瞬時に散開してやり過ごす。
それに続くようにブレイズザクファントムが背部のブレイズウィザードのバインダーを開き、その中に納められているファイヤビーミサイルを一斉射、さらにナオエのゲイレールの肩に取り付けられているミサイルポッドも発射されていく。
「ちっ、全部は迎撃出来ねぇかっ」
コーダイのキャノパルドも脚部のミサイルポッドを撃ち返し、ビームライフルとビームガンを撃ちまくって、合わせて40発近くのミサイルを撃ち落としていくが、それでも10発ほどしか数を減らせず、前にいる四機にミサイルのスコールが襲いかかるが、
「あたしに任せて!」
サッキーはミサイルのスコールの中へ突っ込むと、ガンダムデスレイザーはビームシザースを振り回し、ライトグリーンの旋風を思わせるビーム刃の波動を巻き起こし、ミサイルを次々に吹き飛ばしていく。
『こんな方法でミサイルを防ぐなんて!?』
「突撃あるのみぃッ!!」
ブレイズザクファントムは驚愕しながらも、右のシールドからビームトマホークを抜き放ち、続いて突撃してくるガンダムデスレイザーを迎え撃つ。
『待ってろ、今援護に……』
ウイングガンダムがブレイズザクファントムの援護に向かおうとするが、
「おーっと足が意図的に滑った」
瞬時に加速してきたハバキリのジンライ改がスライディングするようにウイングガンダムを蹴り飛ばす。
サッキーがブレイズザクファントムを、ハバキリがウイングガンダムをそれぞれ相手にするのを見て、エミルとセアは自身のターゲットをブルーディスティニーとゲイレールへと切り替える。
対するブルーディスティニーとゲイレールは、それぞれ100mmマシンガンと、グレイズ用の120mmライフルを連射して牽制してくる。
ガンダムデスレイザーのビームシザースと、ブレイズザクファントムのビームトマホークが何度も打ち付けられ、その都度にスパークが木々の葉を焦がす。
振り下ろされるビームトマホークを受け止めるガンダムデスレイザーは、すぐに弾き返すなり反撃を仕掛けるが、ブレイズザクファントムは振り抜かれるビームシザースを潜り抜けるように回避し、そのままガンダムデスレイザーの右側面へと回り込んだ。
「やばっ……」
『もらった!』
右脇腹へビームトマホークを叩き込もうと迫るブレイズザクファントムだが、
「……なんてね」
ガンダムデスレイザーは、ビームシザースを振りかぶったその状態から、背後を見ないままにその長柄の柄尻を突き出した。
いきなりビームシザースの柄尻が突き出され、それはブレイズザクファントムの頭部に突き刺さった。
『ぐわっ、カメラがやら……』
それを言い終えるよりも先に、最後に見えた光景は、ガンダムデスレイザーが振り向きながらビームシザースを薙ぎ払う姿だった。
ブレイズザクファントム、撃墜。
七星剣士エクシアとフリーダムガンダム、ゲイレールとブルーディスティニーが中距離から撃ち合う最中、ブルーディスティニーの100mmマシンガンが沈黙した。
『弾切れか……すみません隊長、仕掛けます!』
ブルーディスティニーは右手にビームサーベルを持ち直すと、
『EXAMシステム、起動!』
グリーン一色だったブルーディスティニーのバイザーが紅く発光した。
本来、このEXAMシステムは暴走する可能性の高い、非常に危険なシステムなのだが、GBN上では一定時間の間、機動性と出力を底上げする武装として組み込まれている。
「EXAMを使ってきたか。セアさん、ボクがコイツを相手します」
赤光が尾を引きながら迫り来るブルーディスティニーに対して、エミルが相手を引き受ける。
猛烈な速度で振るわれるビームサーベルに対して、エミルはあくまでも冷静に対応していた。
大振りなGNソード【巨門】をその場でパージし、もう片方のGNビームサーベル【禄存】を抜刀、二刀流の構えを以てブルーディスティニーを迎え撃つ。
『オラァァァァァ!!』
一撃、二撃、三撃と振り抜かれるブルーディスティニーのビームサーベルを、踊るように受け流していく七星剣士エクシア。
しかし、EXAMシステムによる圧力の前にはいつまでも凌げるわけではない、右手のGNビームサーベル【天枢】が弾き飛ばされてしまった。
『こいつでェェェッ!』
ビームサーベルを突き出しながら突っ込んでくるブルーディスティニー。
対する七星剣士エクシアは、空いた右手でマントを掴むとーー
ふわり、とそれをブルーディスティニーの頭部に放り被せた。
『なっ、えっ、ちょっ!?』
突然視界が真っ暗になり、ブルーディスティニーは突撃の速度を殺して狼狽えてしまう。
ビームサーベルの間合いにまで踏み込んできて、その狼狽は自殺に等しい。
「システムのパワーに振り回されてるんだよ」
そして、そんな隙を見逃すエミルではない。
七星剣士エクシアは右手にGNロングブレイド【玉衝】を抜き放ち様にブルーディスティニーの胴体に突き刺し、
「終わりだ」
間髪なく左手のGNビームサーベル【禄存】も振るい、コクピットを斬り裂いた。
ブルーディスティニー、撃墜。
蹴り飛ばしたウイングガンダムを追い詰めるように、ハバキリのジンライ改は急激に速度を上げながら迫る。
どうにか転倒しないように姿勢を保ったウイングガンダムは、向かって来るジンライ改へバスターライフルのトリガーを引こうとするが、
「読めてんだよ」
ジンライ改は左手に握る重斬刀を、槍投げの要領で投擲した。
投げ付けられたそれは、エネルギーが臨界寸前のバスターライフルの銃身に突き刺さった。
『やっべ!?』
暴発する、とウイングガンダムは慌ててバスターライフルを放り捨て、一拍を置いて持ち主を失ったバスターライフルが大爆発を起こした。
しかし安堵している暇はない、ジンライ改はすぐにでも迫り来る。
ウイングガンダムはシールドからビームサーベルを抜刀し、
ジンライ改へ接近戦を仕掛けようとするが、
「よっと」
突然、ジンライ改のフロントスカートが跳ね上がると、その内側からチェーンに繋がれたアンカーが飛び出し、ウイングガンダムの右腕に咬み付いた。
ハバキリは、ジンライ改のフロントスカートをジンハイマニューバのモノに取り換えるにあたり、余剰スペースに長くないものの、アクセサリチェーンを改造したものを取付けたものを仕込んでいたのだ。
『なっ、は、離せっ!』
「離せって言われて離すアホは……」
ジンライ改はそのまま力任せにウイングガンダムを引き込むと、
「いねーっての!」
リアスカートにマウントした状態のまま、シースザンバーから斬鋼刀を抜刀、ウイングガンダムを真っ二つに斬り裂いた。
チェーンアンカーがフロントスカートに納まると同時に、ウイングガンダムが爆散した。
ウイングガンダム、撃墜。
「後は、セアさんだな」
ジンライ改のモノアイが、激しく交錯するフリーダムガンダムとゲイレールの戦況を捉える。
エミルがブルーディスティニーの相手を引き受けた時点で、セアはナオエのゲイレールと戦うと決めた。
『君が相手かな?』
ゲイレールはフリーダムガンダムにロックオンし直すと、すぐさまライフルを撃ってくる。
対するセアのフリーダムガンダムは、シールドで銃弾を受けながらも距離を詰め、ある程度の距離に踏み込んだところで、ウイングバインダーからバラエーナを発射する。
一対の重荷電粒子はゲイレールを呑み込まんと迫るが、ナオエはゲイレールを跳躍させて片方を回避し、もう片方は肩の盾で防いだ。
「弾かれた!?」
セアは知らなかったのだが、ゲイレールーーに限らず、HGIBOのガンプラーーは『ナノラミネートアーマー』と言う特殊な装甲に守られており、直接打撃や炎熱には弱いものの、射撃武装のほとんどを弾き返してしまう代物だ。
とは言え、フリーダムガンダムの最大火力であるバラエーナの威力の前には、さしものゲイレールも完全に無効化は出来ず、吹き飛ばされてしまう。
『っとと、危ない危ない。これは何度も受けられないなぁ』
ゲイレールはどうにか受け身を取って着地するなり、リアスカートのホバーユニットを噴かし、今度は自らフリーダムガンダムへ接近戦を仕掛けに行く。
「射撃が通らないなら……」
セアはルプス・ビームライフルをリアスカートへ納め、右手にラケルタ・ビームサーベルを抜き、自らもまたゲイレールへ向かう。
瞬間、フリーダムガンダムのラケルタ・ビームサーベルと、ゲイレールのバトルアックスが衝突する。
しかし鍔迫り合いにはならず、ゲイレールの方から弾き返した。
反撃が来る、とセアはシールドでボディを守ろうとするが、ナオエの狙いは違った。
バトルアックスをシールド裏に引っ掛け、それを引っ剥がしてしまった。
「!」
続いてゲイレールはライフルのゼロ距離射撃を叩き込もうとするが、セアは咄嗟にラケルタ・ビームサーベルを振り上げてライフルを破壊した。
『やるねぇ』
ナオエのゲイレールはライフルの爆発から逃れ、一度フリーダムガンダムから距離を置いた。
同様に、セアもまたゲイレールから距離を取る。
「(射撃が通らないのは、装甲に何かタネがあるからで……)」
彼女の脳裏に再生されるのは、バラエーナを弾き返し、受け身を取って着地するまでのゲイレールの様子。
「(……それなら!)」
思案はそこまで、既にゲイレールが目前に迫り来る。
フリーダムガンダムはその場から動かない。
セアはロックオンカーソルを合わせていく。
『いただくぞ!』
バトルアックスを振り上げるゲイレール。
その寸前に、フリーダムガンダムの両サイドスカートのクスィフィアスが展開し、
「当たってぇッ!!」
放たれた一対の電磁加速弾の狙いはーーゲイレールの両腕の関節。
可動部を正確に狙い撃った電磁加速弾は、その両腕を貫いた。
ナノラミネートアーマーの恩恵を受けているのは、あくまでも装甲の表面のみ。
無論、内部フレームも容易く破壊されるものではないのだが、衝撃を殺し切れない可動部だけはどうしても脆い。
さらに、局所攻撃を行うに当たり、火力は高いもののナノラミネートアーマーに弾かれる可能性の高いバラエーナではなく、砲身が長く、ビームと比べても空気抵抗の影響を受けにくい実体弾であるクスィフィアスを選んだ。
セアはこの短時間、ゲイレールと僅かに競り合っただけで、その複数を見抜いたのだ。
『なんと!?』
予想外な形で両腕を破壊され、その衝撃でナオエのゲイレールは吹き飛ばされ、地面に叩き付けられると、リアスカートを構成していたホバーユニットが接続部から破損して外れてしまい、派手に砂煙を上げながら転倒してしまう。
コクピットの震動に顔を顰めるナオエは、ゲイレールが止まってから前方を視認する。
その目の前には、フリーダムガンダムがゲイレールを見下ろしながら、ラケルタ・ビームサーベルを突き付けていた。
「私の、勝ちです」
『ふむ……降参』
両腕を失っているため、ゲイレールのコクピットハッチを開けて生身を見せることで降参を示すナオエ。
他のメンバー達も、ナオエがセアと戦っている間にやられてしまったようだ。
『そこまで!』
途端、ミツキのアナウンスが戦場中に響き渡る。
『フラワーズ二軍の全機行動不能、降伏を確認。よってこのバトル、フォース・リヴェルタの勝利です』
一拍を置いて、停戦を表す信号弾が上げられた。
撃墜されたフラワーズ二軍のメンバー達がセーブポイントからリスポーンされてから、ハバキリ達とナオエは再びベルサイユ宮殿の庭園まで戻って来た。
「今日は、ありがとうございました」
リヴェルタの代表として、セアが一歩前に出て頭を下げ、同じくフラワーズ二軍代表のナオエも倣う。
「こちらこそありがとう。なかなか面白い体験をさせてもらったよ」
いやはや強いねぇ、とナオエは苦笑してみせるが、
不意に、誰かに対して通話の着信が届いた。フォース・リヴェルタのものではない。
「あぁ、少し失礼……」
ナオエのものだったらしく、セアの前から離れてから通話を応じる。
「はい、こちらイノグチで……、……ターゲットのログイン元が特定出来た?……分かった、すぐにログアウトして向かう。切るぞ」
その通話に応じる声は、好々爺のそれではない、まるで別人のようにトーンの低いものだ。
しかし、通話を終えるとすぐにまた穏やかな物腰に戻る。
「挨拶の途中で悪いけど、ちょっと急用が出来てねぇ。ログアウトさせてもらうよ」
それだけ告げると、ナオエはコンソールパネルを呼び出し、さっさとログアウトしていった。
どういう事かと、リヴェルタの面々は顔を見合わせているが、それは副長であるブルーディスティニーのダイバーが答えてくれた。
「ナオエ隊長は、楽隠居してるって周りには言ってるんだけど、たまにあんな風にいきなりいなくなるんだよ」
俺らの知らないところで危ないことでもやってるのかねぇ、とぼやく。
ナオエがログアウトしたことで、二軍ではないフラワーズのリーダーであるミスズが代わる。
「本日はお疲れ様でした。初めて……ではない方もいるようですが、初のフォース戦はいかがでしたか?」
ちらり、とミスズの視線がハバキリとコーダイに一瞬だけ向けられたが、男子二人は気付かないフリをした。
「緊張しましたけど、とても楽しかったです」
嘘偽りなく、真っ直ぐに答えるセア。
「それなら何よりです。これからも、その楽しむ気持ちを忘れぬよう、精進することを期待します」
ミスズはその言葉を区切りに、二軍の面々に向き直る。
「何をしているのです。お客様方がお帰りになられるのですよ?早急に輸送機の準備を」
「「「「はっ、はいッ!!」」」」
二軍の青年達は慌ててミスズに敬礼すると、ハバキリ達が乗ってきた輸送機の発進準備へ取り掛かっていく。
エンジンの起動やガンプラの積載なども全てフラワーズ二軍のメンバー達が全て行ってくれたおかげで、輸送機はすんなりと離陸を開始し、ベルサイユ宮殿から離れていく。
「案外楽に勝てたわね」
機内には自分達しかいないために、先ほどは対戦相手の手前、言えなかったことを口にするサッキー。
「まぁ、俺とハバキリからしたら、勝って当然って感じだけどな」
フォース戦に慣れているコーダイにとっては、今回の相手は取るに足らない相手とも言えた。
「あのナオエさんのゲイレールが、少し上手かったくらいじゃないかな」
エミルは、ガンダムデュナメスを撃破されてから、ナオエのゲイレールが合流してからの立て直しの早さに着目していた。
GBN初心者に変わりはないだろうが、年の功とでも言うべきなのか、落ち着いた立ち回りを最後まで崩していなかった。
三人が話している隣で、セアはジルと話していた。
「ジルちゃん、フラワーズの人達はどうだった?」
「えっとね、ちょこみんとあいす、って言う冷たいのを食べさせてくれたの」
「ご馳走してくれたんだ?」
私もなんか食べたくなってきちゃった、とセアは小さく笑う。
セアとジルが楽しそうに会話しているそのもうひとつ隣の座席では、ハバキリが頬杖を着きながら窓の外を見ていた。
「(オレとコーダイはこーして新しい居場所を作ったけど……お前は今何やってんだ?トーシロー)」
夕暮れの茜色の空に、かつての戦友を思い浮かべる。
その戦友との再会がすぐ近くに、そして全く予想外の形で待ち受けていることを知る由もなく、輸送機はゆっくりとベース基地の発着場へと減速していったーーーーー。
【次回予告】
エミル「さて、フォース戦も終わったから、ボクはこれにてお役御免だね」
セア「そう言う約束だったけど……エミルくん、どうしてもフォースには入らないの?」
サッキー「そうだよ。短い間だったけど、あたし達、仲良くやれてたじゃない」
コーダイ「まぁまぁ、今すぐ無理強いしなくてもいいだろ?気が向いたら、またいつでも来てくれよな」
エミル「そう言ってくれるとありがたいよ。じゃぁね」
ハバキリ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション
『Cold moon』」
ジル「エミル……どうしてそんなに苦しそうなの?」