ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション 作:さくらおにぎり
「トラちゃん。アナタ、『ファイアワークス』のことは知ってるでしょう?」
バーテンダーは、仮面の獣人が残していったコーヒーカップとそのソーサーを回収しながら、そのフォースの名を口にする。
「うむ。かつてフォーストーナメント三連覇を成し遂げた、あの伝説のフォースのことだな」
トラちゃんもその名を知っていたために頷く。
「そのファイアワークスのメンバーちゃん達が、引退したのはだいぶ前だけど、フォース自体を解散したのはつい最近のことなのよねぇ」
「去年の8月辺りだったか?確か……『GBN上におけるニュータイプ理論』を、オキバ・アキヒト氏が構築した『真阿頼耶識システム』で、クサナギを験体として実現しようとしていたはずだったな」
その当時の戦闘データは、不用意に再現されると危険であることもあって、ファイアワークスの面々によって削除、復元不可能なようにしたはずだが、例によって例のごとく、トラちゃんはそのデータのバックアップを取っている。無論、非合法な手段を用いて、だが。
「実験機として使われたRX-78(ガンダム)が暴走、いくらダイバーの救助を最優先していたとは言え、あのファイアワークスのフルメンバーが総出で掛かっても止め切れなかった。もっとも、ヒメカワ嬢が呼び掛けてようやく止まったようだが」
「アタシも、削除される前にその戦闘データを一度見せてもらったけど、とんでも無かったわねぇ。あれはもう、チートどころじゃないわ」
本気のキョウヤちゃんでも果たして止められたかどうか、とバーテンダーは溜め息をつく。
何もないところから、あらゆるガンダム作品の武器を生み出しては、雨あられのごとく飛ばしてくると言うものだ。
その上、ガンダム本体の戦闘能力も尋常ではなく、験体であるダイバーが日本武道の達人ともなれば、瞬きしたそのコンマ秒にパンチやキックを5、6発ほど叩き込まれていた、なんてこともあった。
最終的には、そのダイバーの幼馴染みの女の子の必死の呼びかけによって一瞬だけ動きを止めた隙に、ガンダムグシオンリベイクフルシティのシザーシールドが右足を、ガンダムバルバトスルプスのレンチメイスが左足をそれぞれ挟み込み、その上からガンダムバルバトスルプスレクスのワイヤーブレードで全身を雁字搦めにし、さらにケンプファーがガンダムを羽交い締めにし、なおも暴れようとするところへガンダムデスサイズヘルのツインビームサイズで頭部を斬り落として、ようやく止まったと言う。
「そのファイアワークスだが……解散した今、メンバーの一部は、ナンブ女史の『フラワーズ』に吸収されたとも聞く。後は……新参者の練兵にも力を入れているのだったな」
「新米ちゃん達は、あんまり訓練の成果を出せてないようだけどねぇ」
初戦の相手が悪かっただけかも、と苦笑するバーテンダー。
「すまんが姐さん、お冷のおかわりを頼む」
「はいはーい」
トラちゃんがそう頼むと、バーテンダーはトラちゃんのコップを取り、氷をいくつか入れてから水を注ぎ、カウンター席へ戻す。
「フッ、昔語りをしていたはずだったが、随分と話が脇道に逸れてしまったな」
「話したいことを話しに来たんでしょ?脇道も寄り道も、したっていいじゃないの」
「それもそうか」
ならばそうさせてもらおう、とトラちゃんはお冷を口へ注ぐ。
よく冷えた水が喉の渇きを潤すのを確かめてから、コップを置く。
「姐さんよ、俺はひとつ思うのだがな。ELダイバーとは、何を以てして、ELダイバーなのであろうな?」
「唐突な上に、よく分からない質問ね?」
そうねぇ、とバーテンダーは思案するように首を傾げる。
「……抽象的に言えば、ヒトの無意識の集合体、あるいは具現化かしら。何にせよ『存在自体が矛盾している』とも言えるわね」
「矛盾とな?」
「だってそうでしょう。データ化出来ないようなものが集積するなんて、矛盾以外の何物でもないじゃない。ましてや、GBNはあくまでもインターネット……科学技術の範疇を出ない。世間の社会的関心はあっても、学会では物笑いの種にもならないわ」
「辛辣だな、故に的確とも言える」
ELダイバーの誕生プロセスには、矛盾だらけーーと言うより矛盾しかないのだ。
証明出来ないものを証明していること……それが、『存在自体が矛盾している』のだと、バーテンダーは言う。
だが、そう捉えているだけであり、それが間違った存在だとは言っていない。
「だがな姐さん、こんな話を知っているか?ELダイバーの中には、相手の攻撃を先読みしたり、隠れた相手の位置を感じ取ったり、ガンプラの本来のスペックを超越した性能を発揮させたりすると言う、"本物の"ニュータイプのような話を」
「もちろん。リッくんとサラちゃんと言う前例を知っているもの」
それがどうしたのかとバーテンダーはトラちゃんの表情からその真意を汲み取ろうとする。
そのトラちゃんの表情は、不敵なーーように見えるが、どこか忌々しげにも感じられる。
「……そんな"本物の"ニュータイプのような力があれば、バトルに勝つことも容易いだろうな」
先程から"本物の"を強調してニュータイプと言う言葉を連呼するトラちゃん。
彼の零した言葉の意味は、羨望や嫉妬ではない……まるでバーテンダーにその続きを言ってもらうのを待っているかのように見られる。
「……、……そうねぇ。でも、いざニュータイプを探すと見つからない。だったら……」
キン、と氷とガラスが擦れる音が響いた。
ハバキリ達フォース・リヴェルタは、デビュー戦を大勝で飾り、ベース基地へ帰還して来たところだった。
自分達のガンプラを格納庫に納め、レンタルした輸送機を返却して、さて後は解散するだけと言う時。
「フォース戦も終わったことだし、ボクはこれにてお役御免かな」
全員にそう言ったのは、エミルだった。
そう。エミルはリヴェルタのメンバーではなく、あくまでも助っ人として雇われたに過ぎないのだ。
「あっ……そうだったね」
エミルからそう言われて思い出したのか、セアは残念そうな顔をする。
「元々そう言う約束だったけど……やっぱりちょっと寂しいかな」
「別に今生の別れってわけでもないでしょう」
また会うかも知れないんだし、とエミルは移動するためにコンソールパネルを呼び出していく。
「やっぱり、あたし達のフォースには入らないの?」
サッキーがそれを引き留めようとするが、それに対してエミルは首を横に振った。
「入らない。何度も言わなくても分かるでしょ」
「そうだけどさ……」
食い下がろうとするサッキーを遮るように、コーダイが割って入る。
「まぁまぁ、無理強いはよくないぜ。気が向いたら、いつでも遊びに来てくれよな。その時は歓迎するぜ」
俺達はいつでも待ってるからさ、とコーダイは頷く。
「ありがとう。それじゃね」
軽く手を振ると、エミルは移動していった。
それを見送ると、サッキーは小さく溜息をつく。
「エミルってば、なんであそこまでフォースに入りたがらないのかな」
「個人的な都合ってもんがあるんだろ。なんか事情があるかもしれねぇんだし」
コーダイはどちらも否定しない言葉を選んだ。
ダイバーのプレイスタイルは、その個人の自由意思によって決まるものだ。誰かがそれを強制し、従わせるのは規約違反にもなる。
「(……個人的な都合、か。あいつはあいつで何か爆弾を抱えてそーな気がするな)」
ハバキリは、自分が知る限りのエミルの行動を思い返す。
彼が野良のELダイバーを救助していたところをセアが偶然発見したのが始まり。
次に会ったのは、ミツキを通じてフォース戦の助っ人として。
それから一週間少しだけとは言え、連携を取り、背中預け合った仲だ。
決して自分勝手な行動などしていないし、むしろ不慣れなセアをよくフォローしており、フォースそのものに慣れているような節さえ見えた。
だからこそ、フォースへの加入を拒否する理由が見えないのだ。
「……ハバキリ」
ふと、ジルがハバキリの袖をくいくいと引っ張る。
「どーしたジル、オレはシナンジュじゃねーから袖なんか引っ張ってもビームサーベルは出てこねーぞ」
そんな反応をするハバキリだが、ジルのその表情を見て、ふざけるのをやめた。
「エミル……なんか、苦しそうだった」
「苦しそう?」
「うん……寂しくて、苦しくて、でも、誰も助けてくれないんだって」
「…………」
寂しくて、苦しくて、でも誰も助けてくれない。
その言葉は、まるで少し前のハバキリに似ていた。
足掻きと諦念が入り混じった、中途半端な惰性のままでいること。
もしかしたら少し前のハバキリも、ジルにはそう見られていたのかもしれない。
「ま、オレ達が首を突っ込んでいーもんかね……」
他に解決出来る人がいるのかもしれねーし、とハバキリはポンポンとジルの頭を撫でる。
この日はそれ以上何かをすることもなく、解散となった。
ハバキリ達と別れた後。
エミルは再び七星剣士エクシアに乗り込んで出撃していた。
何かミッションを受けたのではなく、誰かと待ち合わせをしているわけでもない。
そんな彼がどこへ向かうのか。
ディメンションの蒼空を飛翔すること数分。
七星剣士エクシアは、ある場所へ降り立った。
そこは、雪山の中に建てられたロッジーーフォースネストだった。
人工的に設けられたガンプラの発着場に七星剣士エクシアを着陸させると、エミルは外へと降りる。
ロッジの扉の鍵を開けて、中へと入るエミル。
「……ただいま」
誰もいなかった。
灯りはついておらず、暖炉には長いこと誰も使っていないかのように、溜まった灰しか残っていない。
「…………いないか」
誰かいると思って期待して、やっぱり誰もいなくてーーそれも、もうどれくらいになるのだろう。
あの日……かつて自身が所属していたフォースがバラバラになってしまい、もうどれくらいになるだろう。
それ以来、自分以外誰も来なくなってしまったこのフォースネストに通い続けて、もうどれくらいになるのだろう。
誰の帰りも待っていない部屋。
自分は、ここにいる必要があるのだろうか。
ふと、脳裏に思い浮かぶのは、フォース・リヴェルタのメンバー達だった。
彼らは、フォースに入ってほしいと願ってきた。
しかし、入るわけにはいかない。
自分はまだ、このフォースに所属しているのだから。
暖炉の上に立て掛けられた、デジタルフォトスタンドへ目を向ける。
写真の中には、かつての仲間達に囲まれて嬉しさと恥ずかしさに変な顔をしてしまった自分がいる。
皆、優しくて頼りになる、背中を預け合わせるに値するダイバー達だった。
そんな彼らと共に戦い、喜びと悔しさを分かち合っていたことが、どれだけ楽しかったことか。
ーーーーーけれど、それは全て過去。
暖炉の火も入れず、エミルはただそこでデジタルフォトスタンドを見ているだけだった。
エリア11。
通常の設定では上位ランカーが入れない初心者用サーバーに存在するエリアである。
そのエリア内の、ラグランジュ4の資源衛星群の中で、一人のダイバーがコンソールを片手に何者かと連絡を取り合っていた。
「……で、ア・バオア・クー……いいえ、今の時期はゼダンの門だったかしら?そこを通過するところを襲撃しろってことね」
『ミーシャがフラワーズを通じて見つけてくれた情報よ。私も合流したいけど、今はロイヤルナイツと動いてないといけないの。お姉ちゃん一人に"汚れ仕事"を押し付けるようで悪いけど……』
「別に、こう言うのはあたし一人でやるのがちょうどいいのよ。ユイちゃんは堂々と正義の味方をしてればいいからさ……切るわよ」
それだけ告げて、一方的に通話を切る。
黄土色とベージュが混ざったような色の髪を掻き上げれば、紺色と菫色のオッドアイが強化ガラスに映る。
「さってと、ちょいとめんどくさい仕事をしましょうかね……」
強化ガラスの向こう側にあるカタパルトデッキに鎮座している、『血に染められたような紅いガンプラ』を見下ろしたーーーーー。
ハバキリは今日、久々に一人で放課後を過ごしていた。
コウダイは何やら大事な書類を提出しなければならないとのことで学園に残り、セアは家の用事があるらしくGBNへログイン出来ないとのこと。
サッキーの方はと言うと、今日はリアル側の友人達と遊びに行くのだそうだ。
そんなわけで、さて今日はどうするか。
「(今日のところはソロプレイでもしますか)」
軽めのミッションをこなし、早めに帰ってテラスの家事でも手伝おう。
そう決めてから、ハバキリの足は真っ直ぐにガンダムベースへ向けられた。
ダイブ先をエントランスロビーに指定してから、ログイン完了。
ミッションカウンターに近付いたところで、最近になって見慣れるようになった顔が見えた。
蒼い髪に、刹那・F・セイエイの私服と同じものを身に着けたあのダイバーは、一人しかいない。
「……ん、ハバキリ?」
向こうもハバキリのことに気付いたらしく、目を合わせてきた。
「よーす、エミル。これからミッションか?」
特に取り繕うことなく、普通に声を返すハバキリ。
「まぁ、そんなとこ。今日は君一人か?」
「本日は皆さんお忙しーみたいでな。オレも今日のところはソロプレイでもするかなーって」
ハバキリは、エミルの方もソロプレイをするつもりだと読み取り、提案を持ち掛けた。
「今日はお互いソロなんだ、どーせなら一緒にやるか?」
「……まぁ、別にいいけど。君相手なら知らなくはないし、連携取るのだって楽だし」
仕方無く手伝ってやる、と言う様子を見せながらも、エミルはそれに頷いた。
「それで、何のミッションにするんだ?」
「今から考えるとこだ」
それに、とハバキリは自分の背後に振り向く。
すると、見慣れたピンク髪の少女ーージルがこちらに向かって駆け寄ってきた。
「ハバキリ、エミル、こんにちは」
「おぅ、こんにちはジル。今日はオレとエミルだけだからな」
他のメンバーはどうしたのかを伝えるハバキリ。
「そっか。今日はちょっと寂しいね」
いつもより人数が少ないからか、ジルは眉の端を落とす。
「ま、そーゆー日もあるってことだ」
ミッション行こーぜ、とハバキリはミッションカウンターを指し、三人揃ってそちらへ向かう。
受付嬢の営業スマイルを見流しつつ、ハバキリとエミルの二人がミッションを選び、ジルは一歩後ろでじーっと待っている。
「エミルが選ぶか?」
「ボクが選んでいいの?じゃぁ……」
ハバキリは選択権をエミルに移譲した。
エミルのランクはBで、ハバキリはランクこそDではあるが実力そのものはSランク級。
あまりにも難しいミッションでなければ、多少の問題はあるかもしれないが、十分クリア可能な範囲だ。
「……これ、受けてもいいかな」
エミルが指したのは、難易度レベル6のミッション。
ミッション名『ゼダンの門』
原典作品は『Z』からで、ハマーン・カーン率いるアクシズ軍と結託したエゥーゴが、ゼダンの門と名を変えられたア・バオア・クーにて、ティターンズと繰り広げられる戦いの再現だ。
達成条件は『敵機の全機撃墜、およびゼダンの門とアクシズの衝突完了』だ。
ゼダンの門とアクシズは、ミッション開始から一定時間が経過すれば、基本的に自動でに衝突するのだが、ある程度敵機の数を減らしていなければ、ゼダンの門が回避行動を取ってアクシズを躱してしまい、失敗してしまう。
そして、敵機の殲滅よりも先にゼダンの門とアクシズが衝突した場合、宙域には大量のスペースデブリが飛び散り、障害物だらけの中で戦闘を続行しなければならなくなる。
だからと言って、両者の衝突よりも先にティターンズを殲滅するのは至難の業である。
衝突する前に可能な限り敵機の数を減らし、衝突後の戦闘を長引かせないのが、クリアの鍵と言えるだろう。
「ゼダンの門か。これは初めてだな」
ハバキリはミッションの内容を見て目を細める。
「少し難しいかもしれないけど、気を抜かなきゃいけるさ」
エミルはミッション参加人数を三人に設定し、受注した。
今回は宇宙空間でのミッションであるため、まずはシャトルにガンプラを積載して宇宙に上がり、目的地まで移動するのだ。
滞りなく大気圏を離脱、そのまま戦闘中域へ突入していくシャトル。
オート操縦にした状態で、シャトルが減速を始めたのを見計らって、ハバキリ(とジル)とエミルは出撃を開始する。
「ハバキリ、ジル、ジンライ改、出るぞ!」
「エミル、七星剣士エクシア、目標を駆逐する」
ジンライ改と七星剣士エクシアがシャトルから発進し、その背景にはエゥーゴの艦のアーガマとラーディッシュ、それとアクシズ軍のグワダンが見える。
そして、刻一刻とゼダンの門へと迫る小惑星アクシズ。
「ま、とりあえずお互い自由に戦うってことでいんじゃね?」
「了解」
それだけ意思疎通して、ハバキリとエミルは前方から迎撃に現れたハイザックとマラサイの二個小隊を捕捉する。
「軽く慣らしてやりますか」
そう呟くなり、ハバキリはアームレイカーを押し込み、ジンライ改を一気に加速させる。
ビームライフルやザクマシンガン改を撃ってくるマラサイとハイザックの群れだが、ジンライ改は悠々と泳ぐように弾幕を潜り抜け、その最中にアサルトライフルを撃ち返し、ハイザックを一機撃ち落とす。
ハイザック、撃墜。
すると、もう一機のハイザックがザクマシンガン改による射撃を続行し、マラサイはシールド裏からビームサーベルを抜いてジンライ改へ接近戦を仕掛けようと迫る。
それを視認すると、ジンライ改はさらに加速、マラサイへ真っ直ぐに向かう。
間合いに踏み込み、マラサイはビームサーベルを振るうものの、その寸前でジンライ改は急旋回し、マラサイの脇を潜り抜けた。
ハバキリの狙いは、もう一機のハイザックだ。
ザクマシンガン改を撃ちまくるハイザックだが、もうそこは既にジンライ改の間合い。
ジンライ改は右手に重斬刀を抜き放ち様に、ハイザックの胴体を真っ二つに斬り裂いた。
ハイザック、撃墜。
振り返って追撃して来たマラサイは、ジンライ改の背後へビームサーベルを突き立てようと迫るが、ハバキリはそれを見もせずに回避し、すれ違い様にマラサイへ重斬刀の一撃を喰らわせて撃墜させる。
マラサイ、撃墜。
一方のエミルの七星剣士エクシアは、まずはソードライフルによる射撃で敵機を牽制、すぐさま加速して接近戦へ持ち込む。
ソードライフルのビームを躱すマラサイとハイザック一個小隊は、すぐにビームライフルやザクマシンガン改を構え直そうとするが、七星剣士エクシアはマントの下から左手に抜いていたGNビームダガー【開陽】をマラサイへ投擲、投げ付けられたビームの短剣はマラサイの頭部へ突き刺さった。
動きを止めたそこへ瞬時に肉迫する七星剣士エクシア。
GNビームダガー【開陽】を引き抜くと、間髪入れずGNソード【巨門】を一閃、マラサイを両断してみせる。
マラサイ、撃墜。
残るハイザック二機は、それぞれビームサーベルとヒートホークを抜いて前後から挟み撃ちを仕掛けに来る。
前と後ろを一瞥して、エミルは前から迫るビームサーベルを握るハイザックの方へ狙いを付け、七星剣士エクシアを真っ直ぐに向かわせる。
ビームサーベルを突き出したハイザックだが、その寸前に七星剣士エクシアは突き出されたビームサーベルを潜るように回避、そのままハイザックの懐に潜り込むと、GNビームダガー【開陽】をバイタルバートへ突き立てた。
ハイザック、撃墜。
動けなくなったハイザックを、もう一機のヒートホークを抜いたハイザックへ蹴り飛ばす七星剣士エクシア。
同じハイザックをぶつけられて仰け反った敵機にもすかさず接近、ヒートホークを握った右腕をGNビームダガー【開陽】で斬り裂き、返す刀でGNソード【巨門】を振るい、ハイザックの頭部から股間を真っ二つに両断する。
ハイザック、撃墜。
「まぁ、こんなとこかな」
エミルは特に苦にした様子もなく、GNソード【巨門】を折り畳み、GNビームダガー【開陽】を納める。
「難易度6って言っても、ハイザックとマラサイだしな」
ハバキリはアサルトライフルの残弾を確認しつつ、次に現れる敵機を確認する。
数秒の間を置いてから、背景にいる戦艦『アレキサンドリア』から出撃してきたのは、バーザムが四機。
他に類を見ない特異な形状のビームライフルを中距離から放ってくるバーザム四機だが、ジンライ改と七星剣士エクシアは瞬時に左右に散開してビームを躱す。
ジンライ改は牽制にアサルトライフルを数発だけ撃つと、すぐさまバーザムの下へ潜り込むように急加速する。
頭部のバルカンポッドも連射するバーザム隊だが、ハバキリはアームレイカーを捻り返し、それに呼応するようにジンライ改は大きく急カーブを描き、バルカンポッドの銃弾を往なしながらも接近しつつある。
バルカンポッドの弾幕が弱まる、その瞬間にジンライ改は一気にバーザムの一機に肉迫する。
足下近くにまで近付くと急上昇、バーザムの目の前でピタリと止まりーー重斬刀をバーザムのボディへ斬り込ませた。
バーザム、撃墜。
ジンライ改が接近戦を仕掛たことに合わせるように、七星剣士エクシアもジンライ改とは逆方向から接近していく。
バーザム隊の注意はジンライ改に向けられており、七星剣士エクシアの接近に気付くのが遅れる。
ようやく一機が七星剣士エクシアの接近に気付くが、モノアイをそちらへ向けた時にはもう遅い、GNソード【巨門】の一閃が、すれ違い様にバーザムの胴体を泣き別れにしていった。
バーザム、撃墜。
連携が取れなくなり、残り二機のバーザムの動きが鈍った隙を見逃すハバキリではない、その場で重斬刀を投擲、ロックオンしていたバーザムの右肩へ剣刃が喰い込んだ。
右腕の自由が効かなくなり、左手でビームサーベルを抜こうとしたバーザムだが、その左腕はジンライ改に掴まれ、次の瞬間にはアサルトライフルのゼロ距離射撃が胴体を穴だらけにしていた。
バーザム、撃墜。
苦し紛れにビームサーベルを抜いてジンライ改へ斬り掛かる最後のバーザム。
しかし、その側面から七星剣士エクシアがインターセプトし、GNソード【巨門】でビームサーベルを握った右腕を切断、瞬時にGNショートブレイド【揺光】を抜き放ち様にバーザムのバイタルバートへ突き刺し、その内部を刳り抜いた。
バーザム、撃墜。
黙々とミッションを進行させていく二人。
「ハバキリ、今日はあんまり喋らないね?」
ジルが、ハバキリの横顔を見つめながらそう訊ねる。
「んー?そりゃいつもはコーダイとかサッキーがいるからな。話し相手に困ってなかったし……そー言われると、いつもより静かな気がするな」
撃破したバーザムの右肩から重斬刀を回収しつつ、彼女に言われてからそれに気付くハバキリ。
まだ顔見知りになってから間もないエミルが相手では、どう話し掛けたものかと思うところもある。
とは言え、こちらからベラベラと話し掛けてもミッション中ではそれも迷惑だろう。
「ジルにはちょっとつまんねーかもしれねーけど、今日は口を慎むか」
「うん、お口チャック」
そう言うと、唇を閉じてみせるジル。
そんなやり取りをしている内に、次の相手が現れる。
扁平な放熱板に、鋭利なスタビライザー、機体の各部から複数のモノアイが覗く、青いエイに似たシルエット。
ここ、ゼダンの門で試作された可変MS『ハンブラビ』、それが三機だ。
『ダンケル、ラムサス、行くぞ!手当たり次第撃ち落とせぃ!!』
『『了解!』』
それぞれ、ヤザン・ゲーブル、ダンケル・クーパー、ラムサス・ハサの三人が搭乗している設定らしく、先程までの量産機とは動きが違い、一糸乱れぬフォーメーションを組んで迫り来る。
「ヤザン隊か」
ハバキリはアームレイカーを握り直して気を引き締める。
オールドタイプ最強パイロットの一角とされるヤザン、そしてそのヤザンがわざわざ名指しで呼び出すほどの実力派であるダンケルとラムサスの二人だ。
GBNにおいても、同レベルの難易度でも格の違う強敵として現れる。
「まずはダンケルとラムサスからだね」
エミルは三機いるハンブラビのが内の、ダンケル機をロックオンする。
「定石(セオリー)通りだな。じゃ、ヤザンの相手はオレがしますかね」
ハバキリはヤザン機のハンブラビをロックオンしつつも、ラムサス機も視界から外さぬように立ち回る。
数分前。
ゼダンの門へと進路を向け、核パルスエンジンを点火させたアクシズ。
そのアクシズの表面で、身を潜めているのは、一機の青いガンプラーーゼク・アインだ。
モノアイが映すモニターは、近付くに連れて大きく見えてくるゼダンの門。
ふと、ゼダンの門周辺で戦闘が始まった。
一般ダイバーがミッションを受注し、目的地がここだったのだろう。
モノアイを長距離望遠で覗いてみると、ハイザックとマラサイの二個小隊を容易く撃破したのは、SDのガンダムエクシアの改造機と、
青いジンーーーーージンライ。
パーツの一部がジンハイマニューバの物に交換されているようだが、あのカラーリングと改造度は間違いない。
確か以前に、ジャブローで見た時は、SDのシャア専用ザクのはずだったが、改めてジンライを使う気になったのだろう。
それはいい。
だが、あのジンライはただミッションのためにここへ来たのだろうか?
それも、"こんなタイミング"で。
続いてバーザム四機も瞬く間に撃墜し、次はヤザン隊のハンブラビ三機と交戦を開始している。
幸い、向こうはまだこちらの存在には気付いていないらしい。
であれば、下手なことをしなければ予定通りアクシズはゼダンの門へ衝突する。
ゼク・アインは、そのまま何もせずに静観し、このまま通り過ぎるのを待つことにした。
が、
『 こ ん に ち は 』
狂ったようなスピードで何かがアクシズに接近してきたと思えば、血塗られた肉厚の刃がゼク・アインに向けて振り降ろされた。
ゼダンの門へ向かうアクシズに、何かがぶつかり、デブリの破片が飛び散った。
「なんだ?」
それに一瞬気を取られ、視線を向けるハバキリ。
だが、その一瞬の隙すらも逃さずにヤザン機のハンブラビは突いてきた。
袖口のビームガンが放たれ、ジンライ改のアサルトライフルの弾倉を焼き切る。
「おっとっ、余所見した……」
すぐさまアサルトライフルを投げ捨てるジンライ改。
『今だラムサスッ、やれぃ!』
投げ捨てたアサルトライフルの弾倉が爆発すると同時に、ジンライ改の左腕に、橙色の何かが巻き付いた。
ティターンズ機の装備のひとつである電撃ワイヤー『海ヘビ』だ。
ラムサス機のハンブラビは、ジンライ改の左腕に巻き付けた海ヘビに高圧電流を流し込もうとするが、
「知ってた」
ハバキリは何ら慌てることなく、海ヘビのワイヤーをジンライ改に掴ませ、それをハンマー投げの如く振り回し始める。
メチャクチャに振り回されるラムサス機は、海ヘビの高圧電流を流すこともままならないどころか、その勢いのままヤザン機のハンブラビにぶつけられる。
体勢を崩されたハンブラビ二機の内、海ヘビを握ったままのラムサス機はジンライ改に引き戻され、
「よっと」
重斬刀の切っ先をバイタルバートへ刺し込まれた。
確実にコクピットを潰すために、念入りに刃をねじ込んで。
『ヤ、ヤザン隊ち……』
ハンブラビ(ラムサス)、撃墜。
『ラッ、ラムサス!?この野郎……よくも!』
姿勢を制御し直したヤザン機のハンブラビはMA形態に変形し直して距離を置き、ジンライ改は巻き付いたままの海ヘビを解く。
一方のエミルの七星剣士エクシアと、ダンケル機のハンブラビ。
MA形態の状態で、腕部クローを用いた格闘戦を仕掛けるダンケル機だが、七星剣士エクシアはGNソード【巨門】とGNロングブレイド【玉衝】を突き出し、二本爪であるハンブラビのクローとクローの間に挟み込ませ、その身動きを封じる。
ギチギチギチギチッ、と実体剣とクローが擦れ合う不快音が火花を散らす中、七星剣士エクシアはダンケル機のハンブラビの腹部を蹴り飛ばして怯ませる。
ハンブラビが怯んだその一瞬の隙に、GNロングブレイド【玉衝】を手放し、代わりにGNビームサーベル【天枢】を抜き放ち様に、一閃の元に両断した。
『何っ、バカなっ……』
ハンブラビ(ダンケル機)、撃墜。
『ダンケル!……このままで済むと思うなよ』
ドスの効いたヤザンのボイスの後に、最後のハンブラビはMA形態に変形し、即座に反転して退いていく。
このミッションのヤザン隊は、ダンケルとラムサスの二人を撃墜すれば、不利を悟ってヤザン機は撤退するのだ。
ハバキリとエミルはヤザン機のハンブラビが撤退していくのを見送りつつ、現在状況を確認し合う。
「エミル、まだいけるか?」
「ボクの方は大して消耗していないよ。……それより、君の方が被害が大きいんじゃないのか?」
「ライフル壊されちまったしなー、予備にザクマシンガンくらい用意するべきだったわ」
ちょっと反省、とハバキリはいつもの調子で言ってのける。
「……気付いたか?」
「何が?」
疑問符を浮かべるエミルに、ハバキリのジンライ改は左マニピュレーターの人差し指を、なおもゼダンの門へ向けて進行中のアクシズに向けてみせる。
「さっき、アクシズに何かが衝突したのを見た。……ゼダンの門に、じゃねーからな」
「ごめん、気付かなかったみたいだ。それで、確かめに行くのか?」
アクシズへ向かうのかと問い掛けるエミルに、ハバキリは首を横に振った。
「いや、スルーだな。それにもう少ししたら、ゼダンの門にアクシズがぶつかる。衝撃に巻き込まれるのは勘弁だしな」
「そっか」
後は、このままアクシズがゼダンの門へ衝突するのを確認して、残存する敵機を虱潰しにしていくだけだ。
しかしーー
「ーーーーーッ!?」
突然、ハバキリの近くにいたジルが身体を震わせた。
「どーした?」
ハバキリは首だけ振り返って、ジルの様子を見てすぐに全身ごと振り返る。
明らかにジルの様子がおかしい。
「なに、これ……声がする……それも、たくさん……」
両手で頭を抱えながらコクピットの中で膝をつくジル。
「おいジルッ、大丈夫か!?」
「ハバキリっ、ジルちゃんがどうしたの!?」
七星剣士エクシアがジンライ改に接触通信を図る。
「あ、あっちに、何か、声が……」
ジルは頭を抱えながら、その方向ーーアクシズを指す。
アクシズから何か、声を聞き取ったらしい。
「……エミル、前言撤回。アクシズに向かうぞ」
ハバキリはエミルに接触通信を返し、アクシズに向かうと伝える。
「アクシズに?……いいけど、じきにゼダンの門と衝突するんだ。急ぐよ」
ジンライ改と七星剣士エクシアはスラスターを加速させ、アクシズへ接近する。
すると、アクシズ表面にガンプラの反応が二つ見える。
その二つの反応を捉え、望遠で目視する。
そこにいるのは、ゼク・アインと、紅く塗装された『パラス・アテネ』らしき機体の二機。
両者が鎬を削り合って戦っているのが見える。
「(あのゼク・アイン……)」
ハバキリは表に出さないように、ゼク・アインを睨む。
あの時ーージャブローで出くわした時と同じ機体だろうか。
今すぐあの中へ介入し、ゼク・アインのダイバーをコクピットから引き摺り下ろして小一時間ほど問い詰めたいところだが、それをどうにか飲み込んで静観する。
一方で、エミルはパラス・アテネの方に目を向けていた。
「紅い、パラス・アテネ……?」
何だ、あの、『血に染まったような紅色』は。
片手で軽々と振るわれる血塗られたバスターソードに、爪先から伸びるビームサーベル。
あたかも、パラス・アテネでアルケーガンダムを模倣したかのような姿ではないか。
それはまるであの時のーーーーー
カタ、カタ……とエミルの握るアームレイカーが震えた。
何かと思って目を向ければ、アームレイカーが震えているのではなかった。
自分の手が震えているのだ。
「……おいエミル、どーした?」
不意にハバキリに声を掛けられて我に返るエミル。
「何でもない。それよりあの二機、何だと思う?」
「見た感じ、野良同士の戦闘ってところだろ。もうすぐゼダンの門とクラッシュするってのに、お元気なこって」
軽口と皮肉を織り交ぜながら返すハバキリだが、
「……違う、そっちじゃない」
ジルが消え入りそうな声で彼に伝える。
「そっちじゃない?」
彼女が何を感じ取ったのかは分からないが、あのゼク・アインとパラス・アテネのことではないらしい。
ふと、また別の反応をセンサーが捉えた。
ゼダンの門とアクシズの間近くを、一隻の船が通過しようとしている。
何の船だと思い、今度はそちらを拡大望遠してみる二人。
白く塗られた外装に、目立つようにペイントされた、赤十字のマーク。
「あれは、病院船?」
エミルはその船を、医療関係者、及び病人や怪我人などを同乗させる赤十字船だと読み取った。
「多分アレだ。一定時間撃墜させずに守りきれば、ボーナスポイントとか追加報酬が得られるとか言うヤツだな」
GBN上では、ミッション内容に記載されていないサブイベントなどが確率で発生する場合がある。
エース機の乱入や、防衛対象の出現、レアアイテムを隠し持った輸送機など、ミッションクリアには直接関係しないが、余裕があれば達成を狙ってみても良い、程度のものだ。
今回のそれは赤十字船の護衛らしい、とハバキリは言う。
しかし、
「あの、アレから……声がたくさん聞こえる……っ」
ジルはその赤十字船を指した。どうやら、あの船から何かをーーそれも複数をーー感じ取ったようだ。
「……ハバキリ、どうする?」
エミルはハバキリに問い掛ける。
赤十字船を護衛すればボーナスポイントや追加報酬が得られる。
しかし、ジルはその赤十字船から苦痛を感じているらしい。
以上を理解した上で、ハバキリは判断を下した。
「無視だな。ほっといてもミッション失敗にはならねーんだ。通り過ぎて達成出来るならそれでよし、撃墜されても痛くはねーよ」
ジンライ改は赤十字船から注意を切り、ゼダンの門とアクシズが衝突する頃合いを見計らい、アクシズから離れる。
だが、事態はここで急転する。
ゼク・アインと戦闘を継続していたパラス・アテネは、そのゼク・アインを蹴り飛ばすと、自身もまたアクシズから離脱し、ある方向ーー赤十字船へ向けて機体を加速させた。
「あいつっ、まさか病院船を狙うつもりか!?」
エミルは機体を反転させ、赤十字船へ真っ直ぐ向かっているパラス・アテネを追う。
「おいエミル!ほっとけって言ったろ!」
何をするつもりだと怒鳴るハバキリだが、不意にジルの手が彼の袖をくいと引っ張る。
「ハバキリッ、あの船を守ってあげて!」
「ジルッ、お前まで何言って……」
何を言っているんだと言いかけて、ジルのその嘆願が必死なものであることに声を押し止める。
「お願いっ、あそこっ、あそこには……ッ!」
「チッ……しゃーねーな!」
ハバキリはアームレイカーを捻り返して反転する。
パラス・アテネはなおも加速して赤十字船の背後へ猛迫、その機関部へ向けてバスターソードを振り下ろそうとするが、
その寸前にエミルの七星剣士エクシアが割り込み、GNソード【巨門】でバスターソードを食い止める。
「お前!自分が何を攻撃しようとしてるのかっ、分かってるのかッ!?」
『あーら、あんたも"アンチ勢"のお仲間?』
しかし、七星剣士エクシアとパラス・アテネのパワー差は歴然だ、パラス・アテネが少しでも力を加えれば、あっけなく弾き返された。
「くっ」
すぐに姿勢制御を行い、身構え直す七星剣士エクシア。
『あんたこそ、自分がなに守ろうとしてるのか、分かってんのかしらねぇ』
パラス・アテネのオープン回線から、下卑た女の声が届く。
『その"中身"、何が入ってると思う?』
そう告げながらもパラス・アテネはスラスターを吹かし、ユラユラと不規則に、なおかつ迎撃しにくいようにいやらしい軌道を描いて七星剣士エクシアへ迫る。
「何を言って……」
『知らないならそれでいいわよ。知らない方がいいだろうしねぇ』
気が付けば、パラス・アテネは右足の爪先のビームサーベルを蹴り上げて来ていた。
七星剣士エクシアは咄嗟にA.B.Cマントと、その下に隠しているシールドで防御するものの、耐ビームコーティングが施されたマントはおろか、その下にあるシールド諸共斬り裂かれた。
それでもまだ五体満足でいられるだけマシだった。
「くそっ」
エミルは悪態をつきながら、七星剣士エクシアを下がらせつつソードライフルで牽制する。
もう少し距離を取りたいが、これ以上下がるわけにはいかない、後ろには赤十字船がいるのだから。
連射されるビームをバスターソードで斬り弾きながら迫り来るパラス・アテネ。
距離が十分に縮まったところでバスターソードを振り上げる。
「(躱せるっ)」
一撃で致命打を与えるつもりなのか、動作が大振りだ。
エミルはバスターソードの切っ先を睨みながら、この攻撃は回避出来ると判断しーー
何故か七星剣士エクシアの両腕が斬り裂かれていた。
「なっ!?」
何が起きたのかとエミルは慌ててコンソールと正面にいるパラス・アテネを見比べる。
見れば、パラス・アテネはバスターソードなど振り下ろしておらず、両足爪先のビームサーベルが発振されている。
バスターソードを振り下ろそうとするフリをして、相手の注意をバスターソードに向けさせ、そのままサマーソルトの要領で両足のビームサーベルによる死角からの攻撃を行ったのだ。
パラス・アテネはすぐさま胴体を捻り返してバスターソードを振るい、七星剣士エクシアの頭部を斬り飛ばした。
「あっ……」
頭部を破壊されて、機体の視界を失うエミル。
『じゃぁね』
パラス・アテネは姿勢を制御し直すと、再び加速して赤十字船を追う。
両腕と目をを失い、まともな攻撃力を失った七星剣士エクシアに、これを追う力は残されていない。
「待てよっ……!」
今度こそ赤十字船を沈めようとバスターソードを振り上げるパラス・アテネ。
血塗られた切っ先が赤十字船を叩き潰すーー
「調子乗ってんじゃねーぞ」
寸前、その右腕に鎖に繋がれたそれが噛み付いた。
パラス・アテネの右腕に噛み付いているのは、ジンライ改のフロントスカートから放たれたチェーンアンカーだ。
ジンライ改はチェーンを強引に引っ張り上げて、赤十字船からパラス・アテネを遠ざけようとするが、
『んーもう、邪魔』
パラス・アテネは何の躊躇いもなく、チェーンアンカーに繋がれた腕を肘から切り離し、拘束から逃れた。
「てめっ、この……!」
バスターソードを握った右腕だけを引き上げてしまい、ジンライ改はそれを明後日の方向へ蹴り飛ばす。
その時には、もうパラス・アテネは赤十字船に近付き終えていた。
左腕のビームガンの銃口からビームサーベルを発振させーーそれで赤十字船を真っ二つに焼き斬った。
機関部の爆発と、その爆発に推進剤が引火、船内に行き渡っていた酸素がそれに拍車をかけ、赤十字船は瞬く間に燃え広がり、爆散していった。
「 ィ、」
ジルは、その光景をジンライ改のモニター越しに直視してしまった。
ビクッ、と彼女の背筋が震えると、
「ーーーーーーーーーー !!!!!」
ハバキリですら聞いたことのない、形容し難い金切り声が、ジンライ改のコクピットに響き渡った。
「ジルっ、どうしたっ!?」
明らかに正常ではない様子のジルに、ハバキリは右手で強引にジルを抱き寄せた。
「あ、あ、あ、あ、あ、イヤっ、イヤぁぁぁぁぁ」
両手で身体を抱きながら頭(かぶり)を振るジルは、ハバキリの声が聞こえていないのか、ただただ錯乱したように声を上げるだけだ。
「しっかりしろおい!……何がなんだってんだよっ」
これではもうミッションどころではない。
ハバキリはジンライ改を、頭部と両腕を失って漂っている七星剣士エクシアへ向かわせ、機体を掴ませると、すぐにゼダンの門から反転、自分達が乗り込んできたシャトルへ直行していく。
シャトルがこの宙域から離れると同時に、ゼダンの門とアクシズが衝突し、キノコ傘のような形をしたゼダンの門の上部とその下部が砕け折れ、辺りには無数のデブリが散らばる。
デブリの破片がゴンゴンと装甲にぶつかる中、パラス・アテネは即座に離脱、その一歩遅れてゼク・アインが、離脱していくパラス・アテネを見送ってしまう。
『……シテヤラレタカ。マァイイ、コッチモノゾムトコロデハナカッタシナ』
ゼク・アインは機体を反転させて、パラス・アテネとは反対方向へ離脱していった。
【次回予告】
ハバキリ「ったく、変な乱入に巻き込まれたせいでエラい目に遭っちまった」
エミル「ごめん、ボクが勝手なことをしたばかりに……」
ハバキリ「別に構わねーよ。それよりジルの方だ、何であんな急に取り乱して……」
エミル「……」
ハバキリ「なんか言ーたそうだな、エミル」
エミル「……聞いて、もらっていいかな」
ハバキリ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション
『傷痕』
ちょっとヘビーな話になりそーだな……」