ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション   作:さくらおにぎり

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13話 傷痕

 氷とグラスが擦れ合った音が、沈黙を彩った。

 だったら……、と口にしたバーテンダーも、敢えてその先を言わなかった。

 

「……まぁ、それとコレはケースが全く異なる。何せ、実体が無いのだからな」

 

 トラちゃんはその短き沈黙を破った。

 

「ELダイバーには感情がある。つまり、AIでは無いということだ。SF等では、感情があるようにしか思えぬAIもあるが、それは除外していいだろう」

 

「そうねぇ。人間の意図の外で生まれているし、人工知能とかじゃぁないわね。『作られた世界の中で意図せずして作られた存在』……」

 

「卵が先か、鶏が先か?」

 

「卵には卵の、鶏には鶏の美味しさがあるからいいのよね。親子丼とか、アタシも好きよ」

 

 突然全く違う話をぶっ込んで来たバーテンダーだが、トラちゃんも腰を折ることなくごく自然に返す。

 

「フッ、ちなみに俺はカツ丼派だ。ゲン担ぎにはちょうど良い」

 

「あぁ、カツ丼も良いわねぇ」

 

 そしてそのまま丼ものの話になっていく。

 

「俺は牛丼と言えばヨシノ屋だと思うのだが、姐さんはどこ屋派だ?」

 

「んー、どこも美味しいから迷うのよねぇ」

 

 ……少なくとも、酒場でする話では無いだろう。

 

 もう数分だけ牛丼はどこ屋派だと言う、関係がない上にとてつもなくどうでもいい話を続けたところで、トラちゃんが突然話を元に戻す。

 

「そうだな……やはり、"クローニング"だろうな」

 

「パーソナルデータを別のハードに移し換えることが出来るくらいだもの、それくらいは普通に可能でしょうね」

 

「いや、クローニングですらないか。単なる"コピー"に過ぎんな」

 

 どちらにせよやるだけなら容易なことだ、とトラちゃんはもう一口お冷を口に注いだ。

 

 

 

 

 

 極東ベース ノース・エリア

 

『0080 ポケットの中の戦争』の冒頭の戦場となる北極基地では、数人のダイバーがドックの中で話し込んでいた。

 その内の、エスニックな民族衣装を纏った少年ダイバーが頷いた。

 

「分かりました」

 

 その少年の向かいに立つ数人のダイバーは、礼として頭を下げた。

 

「ありがとう。俺達じゃどうしても、な……」

 

「気にしないでください、荷物を届けるだけならお安い御用ですから」

 

 では早速出撃を、と言いかけたところで、不意に基地内に敵機接近を知らせる警報が鳴り響く。

 

「敵襲!?」

 

「なんでここに!?」

 

 泡を食って慌てるダイバー達だが、少年ダイバーは迷わずにその場から駆け出し、待機させているガンプラに乗り込む。

 

 青緑色の装甲と銀色のフレーム、その上から着込ませたような形を取る蒼い外装ユニットが特徴的だ。

 

「敵は水中から来てます。この機体なら、水陸両用機でも引けを取らないから大丈夫です」

 

 コクピットハッチを閉じ、TVモニターのような赤いアイカメラを光らせた。

 

「ミーシャ、『ガンダムアスクレプオスシャード』、行きます!」

 

 少年ーーミーシャは、愛機であるガンダムアスクレプオスシャードを海中へ飛び込ませ、潜水ハッチをオープン、基地へ迫る敵機の迎撃に掛かった。

 

 ハッチが閉じられて間もなく、アクティブソナーが機影を捉える。

 

 ズゴックが二機と、グーンによる一個小隊のようだ。

 

 格闘戦が不得手なグーンが後方から砲撃し、ズゴック二機が距離を詰めていく、と言うスタンスらしく、距離がある内からグーンは両腕の魚雷を連射、その魚雷を追うようにズゴック二機が加速する。

 対するガンダムアスクレプオスシャードは、機体各部のハイトルクスラスターを加速させ、その重厚な見た目を裏切るほどの水中機動性を以て、グーンからの魚雷を文字通り泳ぐように掻い潜る。

 ズゴック二機の内、一機はガンダムアスクレプオスシャードの背後を取るように迂回し、もう一機は正面から白兵戦を仕掛ける。

 甲殻類の鋏を思わせる三本のアイアンネイルを突き出すズゴック。

 しかし、ガンダムアスクレプオスシャードも同じく、巨大な前腕に装備された白銀の巨爪『パイソンクロー』で迎え撃ち、アイアンネイルを弾き返し、

 

「はぁッ!」

 

 すかさずもう片腕のパイソンクローを突き出し、超震動を発するそれはズゴックの装甲を容易く突き破ってみせた。

 

 ズゴック、撃墜。

 

 その間に、回り込んでいたもう一機のズゴックは、頭部からロケットランチャーを発射、放たれる多数の弾頭がガンダムアスクレプオスシャードの背後から迫る。

 既に避けられる間合いではなく、ガンダムアスクレプオスシャードは振り返ると同時に前腕で機体のバイタルバートを守る。

 ロケットランチャーが次々に着弾していくものの、重厚かつ頑強な装甲はそう易々と破られるものではない、ガンダムアスクレプオスシャードは全弾受け切ってみせた。

 魚雷の爆風を切り裂きながらガンダムアスクレプオスシャードは突進、一機目のズゴックと同じく装甲をパイソンクローで貫き砕いた。

 

 ズゴック、撃墜。

 

 残るはグーンのみ。

 僚機であるズゴック二機を一瞬にして失ったグーンは、自らガンダムアスクレプオスシャードへと距離を詰め、一対のフォノンメーザー砲を照射する。

 この音波兵器は、目視出来ない水中用のエネルギー武装だが、軸合わせ用の目視可能なレーザーも同時に照射している。

 ガンダムアスクレプオスシャードは、そのレーザーを目印にフォノンメーザーを掻い潜り、瞬時にグーンへ接近してみせる。

 しかし、グーンは巡航形態へと変形して突然加速、頭突きの要領でガンダムアスクレプオスシャードへ体当たりを敢行した。

 

「くっ……」

 

 機体ごとぶつけられた震動に顔を顰めるミーシャ。

 吹き飛ばされて水中の惰性で回ってしまうガンダムアスクレプオスシャードへ、グーンは再びフォノンメーザーを照射しようと照準を合わせようとする。

 しかし、ガンダムアスクレプオスシャードの挙動が変わった。

 巨大な前腕と、扁平な頭部からせり上がり、その下からスマートな腕と、ツインアイが輝くガンダムフェイスが現れたのだ。

 水陸両用機を思わせる形態が『接近戦モード』

 本来のガンダムアスクレプオスの『ガンダム』としての姿が、『高機動モード』なのだ。

 ガンダムアスクレプオスシャードは、リアスカートから長剣を抜き放つと、再びハイトルクスラスターを加速させて突っ込む。

 照射されるフォノンメーザーは、長剣の腹で弾き返し、ついにガンダムアスクレプオスシャードとグーンの間合いがほぼゼロ距離になる。

 悪あがきにマニピュレーターで殴ろうとするグーンだが、それは叶わなかった。

 ガンダムアスクレプオスシャードの長剣が"開き"、それでグーンの胴体を挟み込んだ。

『シザーブレード』と銘打たれた、その"鋏型"の長剣はその名の通り、対象を挟み潰すための武器だ。

 グーンの水圧に耐えるための重装甲がメギメギメギメギと嫌な軋轢音を立てながら圧壊を始めーー

 

「ふんっ!」

 

 真っ二つに裁ち斬ってみせた。

 

 グーン、撃墜。

 

 他に襲撃者がいないかとアクティブソナーに目を通すミーシャだが、周囲にガンダムアスクレプオスシャード以外の反応が無いことを確認して、一息つく。

 

「こちらミーシャ、敵機の排除を確認。帰投します」

 

 シザーブレードを納め、ガンダムアスクレプオスシャードは踵を返して基地へと戻る。

 

 "本来の"依頼を受け直すために。

 

 

 

 

 

 ミッション『ゼダンの門』をリタイアしたハバキリとエミル、ジルの三人(正確にはハバキリが二人をリタイアさせた)。

 

 放心してしまったエミルと、異常なまでに取り乱してしまったジルを連れて、ハバキリはフォースネストへ訪れていた。

 エミルを椅子に座らせ、ジルを簡易ベッドに寝かし付けてから、ハバキリは一度フォースネストを出て、すぐに戻ってきた。

 

「ほらよ」

 

 外の自販機でドリンクを購入してきたハバキリは、エミルにそれを放ってやり、ジルには封を開けてストローを指した状態で手渡してやる。

 

「ごめん、後で……」

 

「金ならいらねーぞ、それ飲んでとっとと落ち着け」

 

 ぶっきらぼうに言い付けるハバキリに、エミルは申し訳なさそうにドリンクの封を開けて、それを一口飲む。

 

「…………ふぅ」

 

 溜息混じりに一息つくエミル。

 ハバキリも自分のドリンクを飲んで、気を入れ換える。

 

「ったく、なんかエラい目に遭っちまったな」

 

「……そうだね」

 

 呼吸を入れ換えた頃を見計らって、ハバキリの方から話しかけたが、エミルはただ相槌を打つだけ。

 

「……あの病院船に、何かあったのか?」

 

 ハバキリは、エミルに話を持ち掛ける。

 あの紅いパラス・アテネが赤十字船を撃沈させた時、ジルは突然激しく苦しみだした。

 それには何か理由があるはずだ、とハバキリは言うが、エミルは首を横にふるだけだった。

 

「分からない……」

 

 でも、とエミルは言葉を続ける。

 

「あのパラス・アテネのダイバーが言っていたんだ。「そっちこそ何を守ろうとしているのか分かっているのか」、「その船の中身は何だと思う?」って」

 

「中身……?アレはただのNPD機じゃねーってのか?」

 

「だと、思う。ハッキリとは分からない」

 

「破壊したらジルが苦しむ中身か……」

 

 皆目見当もつかねーな、とハバキリはドリンクを飲み干すと、ダストボックスへそれを放り捨てる。

 エミルはドリンクの蓋を見つめるように俯いたまま。

 

「……なんか言いたそーだな、エミル」

 

 ハバキリはエミルの様子から、何か言いたいことを我慢しているようだと読み取った。

 それは的外れでは無かったらしく、エミルは少しの躊躇の後に口を開いたーーーーー

 

 

 

 

 

 ーーーーーボクは元々、『コキュートス』と言うフォースに所属していたんだ。

 仲間にも恵まれていたし、ボク自身も楽しくやれていた。

 

 だけど、その楽しかった日々は、突然終わりを告げてしまった。

 

『ファーストELダイバー・サラ』による、GBN運営権の乗っ取り。

 それはあまりにも突然で、現実味の無い演説だった。

 しかし、新型ブレイクデカールを蔓延させていたのは彼女だったと理解すれば、怒りが沸いた。

 

 お前など害虫どころではない、文字通りのウイルスーー汚染物質だ、ってね。

 

 秘匿チャットでフォースのアライアンスと連絡を取り合い、あの『サラ』を打倒すべく行動を起こした。

 

 

 

 結果は、最悪だった。

 

 

 

 ベース基地へと侵攻を開始したところまでは良かった。

 

 ボク達の目の前に現れた『血のように紅いレギンレイズジュリア』の改造機。

 

 圧倒的で、そして暴力的だった。

 嵐のように振り回されるバスターソードと、目まぐるしく放たれるブレードキックを前に、為す術なく戦闘力を奪われてしまった。

 

 戦闘力を失ったボクを守ろうとする仲間達は次々に撃墜され、ボクはそれを見ることしか出来ず、生き残った仲間達と撤退すること余儀なくされた。

 

 その上、撃墜された者はその後の行方を絶った。

 

 後にこの事件が解決し、『ELダイバー動乱』と呼ばれるようになった頃、行方を絶った仲間達から連絡があった。

 

「もうGBNなんて出来ない、死にたくない」

 

 恐怖に震えた声だった。

 撃墜された者達は、気が付いたら病院にいて、何日も眠り続けていたと言う。

 誰からそれを聞いたのかは知らないけど、『ログデータにウイルスを植え付けられて強制ログアウト出来なかった』らしい。

 下手をすれば、そのまま廃人になっていたかもしれない、とも……。

 ログデータは削除され、彼らはそれ以来二度と戻って来なかった。

 ボクを含めた残された者達は、ログイン回数が減り始め、やがて顔を合わせることすらやめてしまった。

 

 フォースは確かに存在している。

 しかし、それは既に形骸。

 

『血のように紅いガンプラ』

 

 それを見る度に、このことを思い出してしまう。

 

 フォース自体はまだ残されているし、ボクもまだ所属はしているけど、ボク以外はみんな抜けてしまった。

 それでも、きっと誰かがまたコキュートスに戻ってきてくれる……今日までそう信じていた。

 だけど、まだ誰も帰ってこない。

 期待しては落胆するだけの日々の繰り返しだった。

 でも、心のどこかで「会いたくない」って気持ちもあった。

 GBNをやめていった人達はみんな、ボクを守ろうとして、死ぬような目に遭わされたんだ。

 ……きっと、ボクの顔なんて二度と見たくないのかもしれない。

 どうしてこうなったんだろう。

 フォースなどに入らなければ、こんなことにはならなかったのかもしれない。

 

 ボクは今、何のためにGBNを続けているのか、それすらも分からない。

 いや、分からないんじゃない。

 

 ただ、臆病なだけだ。

 

 目の前の現実も見ようとしない、ただの臆病者ーーーーー。

 

 

 

 

 

 ーーーーー自分の過去を語り終えて、エミルは溜め息でそれを締め括った。

 

「……お前がフォースに入りたがらねーのは、そーゆー理由があったのか。(……んじゃアレはそー言うことか)」

 

 エミルの話を聞き終えたところで、ハバキリは少しの思案の後に声を返す。

 

「過去に囚われるのはやめるんだ、そんなことをしても何も戻りはしない、とでも言うつもり?」

 

「言わねーよ、そんな格闘する度に奇声を上げまくるどっかのアスランじゃねーんだから。……オレも過去を引きずりながら、今ここにいるからなー」

 

 ハバキリは軽口で応じた。

 

「オレとコーダイも、昔に所属していたフォースがあった。……今はもう、知らねー内に解散されちまったけどな」

 

「……」

 

「気掛かりとか心残りは、当然ある。それがあるくらいにはフォースに愛着はあった。どっかのハイネなら、「割り切れよ」って言うだろーけど、割り切れるくらいなら、そんな『割り切れる程度の愛着しか持ってねー』ってことだ。……エミルは、そーじゃねーんだろ?」

 

「……うん」

 

 諦めきれるものなら、そこまで思い詰めはしない。

 諦めきれないものがあるから、思い詰めるのだと、ハバキリは言う。

 

「ま、今すぐどーのこーのって話じゃねーしな。とりあえず落ち着かねーとな」

 

 ハバキリは席を立つと、出入り口の方へ足を向ける。

 

「さってと、さっきは消化不良だったからなー。ちょーっとフリーバトルでもやってくるわ。じゃなー」

 

 軽く手を振ると、フォースネストを後にしていった。

 

 残されるのは、エミルとジルの二人だけ。

 

「……落ち着いたところで、どうなるって言うの」

 

 くしゃ、とドリンクの紙カップを握り凹ませる。

 落ち着いて、それから?

 何をすればいいのか?

 その先が全く見えない。

 

「……エミル、怒ってる?」

 

 不意に、簡易ベッドにいたはずのジルが、エミルのそばに近付いていた。

 先程まで酷く錯乱していた彼女だが、落ち着いたらしい。

 

「怒ってるわけじゃないよ」

 

「……んー」

 

 ふと、ジルはエミルの頭へ手を伸ばし、

 

「ぽんぽん」

 

 ぽんぽん、とエミルの頭を優しく撫で始めた。

 

「?」

 

「ぽーんぽん」

 

「??」

 

「ぽんぽ、ぽんぽ」

 

「あの、ジルちゃん?」

 

 何を思って頭を撫で始めたのか分からず、エミルは頭を動かさないままに問い掛ける。

 

「これは、一体……?」

 

「辛そうな人がいたら、優しくしてあげなきゃいけないって。だから、ぽんぽんするの。ぽぽんぽ、ぽん」

 

 つまりジルは、エミルを慰めようとしているらしい。

 ぽんぽん、ぽんぽん、とジルはエミルを撫でる。

 撫でまくる。

 

「ぽんぽんぽぽん、ぽんぽぽん」

 

 いつの間にかリズムに乗りながらぽんぽんするジル。

 エミルもそれをやめさせたりせず、ただジルの好きなようにぽんぽんさせていた。

 それが数分ほど続いた時、フォースネストの自動ドアが開かれた。

 

「いやー、遅くなっちまって悪い悪い。思いの外時間が掛かっ……」

 

 学園での用事を終えたのか、コーダイがログインしてきた。

 そして、ログインしてきて最初にこの光景を見て、口を止める。

 

「……えーーーーーっ、と。どう言う状況だ、コレ?」

 

 エミルの頭をぽんぽんするジル。そんなエミルは抵抗することもなくぽんぽんされるがまま。

 

「…………ジルちゃんに、ぽんぽんされてる、かな?」

 

 ありのままを答えるしかなかった。

 

 

 

 もう数分だけジルにぽんぽんされてから。

 コーダイはジルに「エミルばっかずりぃ!俺にもぽんぽんして!」とお願いしたのだが、

 

「こうちゃは元気だから、ぽんぽんしなくても大丈夫」

 

 と返されたので、しょんぼりしてしまった。

 しょんぼりし終えてから、コーダイはエミルに向き直る。

 

「そう言えば、ハバキリはどうした?」

 

「ハバキリなら、消化不良だったからってソロプレイしに行ったよ」

 

「消化不良?」

 

 どう言うことだとコーダイが訊ねると、エミルは少しの躊躇の後に、先程にミッションに失敗したことを話した。

 その失敗が、自分の独断先行によるものだとも。

 

「あちゃぁ……まぁ、そんなに気にすんなって。気を取り直しに、今度は俺と行くか?」

 

「いい。今日はもう、やる気にならない。ログアウトするよ」

 

「そりゃ残念。そう言うこともあるか」

 

 それじゃぁ今日はどうするかな、とコーダイはコンソールパネルを開き、エミルはログアウトしていった。

 

 

 

 

 

 一方、(本来の目的であった)ソロプレイに駆り出たハバキリ。

 フォースネストのカタパルトデッキから出撃したジンライ改。

 今回は特にミッションを受けておらず、フリーバトルをするつもりだ。

 

 フリーバトル専用のフィールドに赴き、エリアに足を踏み入れたその瞬間からバトルは始まるのだ。

 時間制限も無ければ、特殊なルールもない、正面から堂々と戦うのもよし、罠に嵌めてからトドメを刺すのもよし、よってたかって一人を潰すのもよし、文字通りのフリーバトルと言うわけだ。

 

 エリアの境界線に突入し、まずは自由飛行で敵機を捜索。

 すると、同じくフリーバトルに勤しんでいた者達が、突然の闖入者を次々に捕捉する。

 ハバキリはアームレイカーを押し出し、ジンライ改は一気に加速、森林のど真ん中へ突入していく。

 迎撃しようと地上からビームライフルを放っているジムⅢに狙いを付け、さらに加速しつつ急降下。

 ジムⅢが肩のミサイルランチャーを発射しようとしているがもう遅い、ジンライ改からのアサルトライフルの銃弾が、発射寸前のミサイルランチャーを撃ち抜き、誘爆させる。

 ミサイルの爆風に煽られるジムⅢに、擦れ違い様に重斬刀を一閃、コクピットブロックを真っ二つに斬り裂いた。

 

 ジムⅢ、撃墜。

 

『何だあのジンは!?』

 

『お、おい、あの青いジン……』

 

『まさか……『青き狂戦士』!?』

 

 周囲にいたダイバー達がジンライ改の姿を見て、動揺を見せる。

 ジンライ改はモノアイを光らせながらゆらりと振り返り、

 

「さーてと、今日のオレはちょーっと気が立ってるんでね……とりあえずお前ら全員スクラップな」

 

 手当たり次第に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 エミルがログアウトした後。

 コーダイは、ハバキリとエミルの二人が失敗したミッション『ゼダンの門』のリプレイを観ていた。

 ちなみに、ジルは保護管理局の元へ帰った。

 

「(ミッションの進行は順調だな。ここから何があって失敗したのやら……)」

 

 ハイザックとマラサイの二個小隊、バーザム四機、ヤザン隊のハンブラビ二機を撃墜、一機を撃退したところで、ジンライ改と七星剣士エクシアが、ゼダンの門の衝突する寸前のアクシズへ向かう。

 そこにいる、ゼク・アインと紅いパラス・アテネ、そしてその側を通過しようとする赤十字船。

 

「(ん?ちょっと状況が乱れてきたな)」

 

 パラス・アテネがゼク・アインとの戦闘を放棄、赤十字船へ向かうその途中で七星剣士エクシアと交戦、これを一瞬で無力化させた。

 赤十字船に肉迫しようとしたところで、今度はジンライ改のチェーンアンカーに掴まれるが、右腕の関節を切り離して拘束から逃れ、左腕部のビームガンの砲口からビームサーベルを発振、赤十字船を撃沈させる。

 

 そこからが不可解だった。

 

 ジンライ改は両腕と頭部を失った七星剣士エクシアを抱えると、ミッションを継続するのではなく、シャトルに乗り込むなりすぐにゼダンの門から離脱していった。

 ここでミッションリタイアとなって、リプレイ動画が停止する。

 画面を閉じて、コーダイは腕を組んで考え込む。

 ハバキリなら、こうなったらパラス・アテネやゼク・アインのことをスルーして、ミッションクリアを優先するはずであるし、そもそも赤十字船を撃沈されたところでミッションが失敗になるわけではない。

 にも関わらず、すぐにでもミッションをリタイアする選択を取ったのだ。

 考えられるとするならば、あくまでも憶測であると言うことを前提とするならば。

 

「(あの赤十字船はサブイベントじゃないな)」

 

 恐らく、"本物"の赤十字船だったのだ。

 とは言え、GBN上では痛みを錯覚することはあっても、実際に傷害を負うわけではない(ごく一部を除いて)ので、船内に怪我人や病人がいたとは思えない。

 だと、したら。

 

「(何か『知られちゃまずいもの』を載せていたってところか)」

 

 赤十字船と言う、攻撃をタブーとするものを隠れ蓑にして、一般公開させるわけにはいかないものを運んでいたのかもしれない。

 そして、パラス・アテネはその中身が何か知った上で攻撃を仕掛けたのだろう。

 

「(ハバキリがすぐに撤退したのも、下手すりゃ運営からIDを削除される可能性もあったのかもな)」

 

 一般公開してはならない、後ろめたいものに関わりかけたのだ。

 最悪、口封じとして近くにいたダイバーを問答無用でID削除、と言うことも有り得なくないだろう。

 その点、ハバキリが速やかに撤退したことで「自分達は何も見ていません、見なかったことにします」とアピールしたことにもなる。

 

「(とは言え、その"中身"ってのは実際何なんだろうな)」

 

 どうせ、知りたくもないものでも仕込んでいたのだろう。

 溜め息をついてリプレイを停止させ、コンソールを閉じたところで、ふと来客を告げるインターホンが鳴った。

 

「ん、お客?」

 

 一体誰だ、とコーダイは再度コンソールを開き、来客に応じる。

 

「はいよ、どなたですかー?」

 

 モニターには、中学生くらいの、エスニックな服装をした少年ダイバーーーミーシャが映し出されている。

 

『突然ですみません。エミルさんが、ここのフォースにいるって聞いたんですけど……』

 

「エミル?あー、エミルならついさっきログアウトしましたよ。なんか、あいつに用事でもあるんすか?」

 

『用事と言うか。ちょっとエミルさんに渡したいものがあるんです。外に出て来てもらっていいですか?』

 

「渡したいもの?はいはい、とりあえず出ます」

 

 コーダイはコンソールを閉じて、フォースネストの外に出た。

 

 外には、モニターに映っていたダイバーと、その後ろに小さなコンテナを抱えた『ガンダムアスクレプオス』の改造機ーーガンダムアスクレプオスシャードが膝をついてくれている。

 ミーシャはコンソールパネルを呼び出し、何かしらのコマンドを打ち込む。

 すると、ガンダムアスクレプオスシャードはゆっくりと挙動を開始し、マニピュレーターに持っているコンテナを地面に下ろす。

 

「エミルさんへ渡してほしいって頼まれた荷物です。それと……」

 

 ミーシャは今度はメールの画面を開き、未開封であるメールをコーダイへ送信した。

 

「このメールを、エミルさんに」

 

「お?」

 

 コーダイのコンソールにメールの着信を告げ、受信を確認する。

 

「……とりあえず、そのコンテナとこのメールを、エミルに渡せばいいんだな」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 じゃぁボクはこれで、とミーシャは踵を返してガンダムアスクレプオスシャードへ乗り込もうとするが、

 

「ちょっと待ってくれ」

 

 その前にコーダイが呼び留めた。

 

「あんたは、エミルが元々いたフォースの仲間か?」

 

 彼の問い掛けに、ミーシャは振り返りながら答える。

 

「違いますよ。エミルさんのフォース仲間に、荷物を届けてほしいって頼まれただけですから」

 

「……なんで仲介する必要があるのか分からねぇけど、まぁ分かった。引き留めて悪かったな」

 

 頷くコーダイにミーシャは軽く会釈すると、今度こそガンダムアスクレプオスシャードのコクピットに乗り込み、その場から飛び去っていった。

 それを見送ってから、まずはコンテナを格納庫に移動させようと、キャノパルドの元へ向かおうとするコーダイだが、ガンダムアスクレプオスシャードと入れ替わるように、ハバキリのジンライ改が帰還してきた。

 片膝を着きながら着地し、ジンライ改からハバキリが降りてくる。

 

「おー、コーダイ。用事は終わったのか?」

 

「まぁな、思ったより時間食っちまったぜ」

 

 苦笑するコーダイを見て、ハバキリは側に置かれているコンテナへ目を向け直す。

 

「あのコンテナはなんだ?」

 

「あぁ、なんか、エミルが元々いたフォースの仲間が、代理人を通じて送ってきたらしいんだよ」

 

 俺が受け取り人ってわけだ、とコーダイもコンテナへ目を向ける。

 

「ハバキリ、悪ぃけどそれ、ジンライで格納庫にまで運んでくれるか」

 

「おー、分かった」

 

 ハバキリはジンライ改に乗り込み直し、そのコンテナを持って格納庫へと入庫、コーダイも一緒に格納庫に入り、シャッターを閉じる。

 

 大した損傷もないジンライ改のメンテナンスをそこそこに済ませておき、ハバキリは自分が運んできたコンテナとコーダイを見比べる。

 

「それで、エミルの元フォースメンバーの連中が送ってきたってことは、エミル宛の荷物ってわけか」

 

「どうやらそうらしい。本人に直接渡せばいいのにな」

 

「……開けたら爆発するとかじゃねーだろーな?」

 

「だとしたら、えらい手の込んだ嫌がらせだな。一応スキャンもしてみたけど、その危険は無さそうだぜ」

 

 あぁそれと、とコーダイは未開封のエミル宛のメールをハバキリに見せてやる。

 

「それは?」

 

 ハバキリはそれが何のメールかと覗く。

 

「これも、エミルに送ってくれって頼まれた」

 

 コーダイがそう答えて、ハバキリは少しだけ考え込む。

 

「……なーコーダイ」

 

「どうした、そんな難しい顔して」

 

 ハバキリは、自分の考えをコーダイに話した。

 

 それを聞いてコーダイは「お前もなかなか意地の悪い奴だな」と笑った。

 

 

 

 

 

 翌日。

 エミルはダイブ先をフォースネストに指定してからログインした。

 昨夜に、ハバキリから連絡があったのだ。

 

 ハバキリ:エミルに渡したいものがいくつかある。ただし、フォースネストに来て、直接手渡しで、だ。都合の良い日で構わない。

 

 明日の夕方でも構わないと返信し、エミルはハバキリの指定通りに、リヴェルタのフォースネストへ赴いた。

 そこには既に、エミルを除いたフォースメンバー全員……ハバキリ、コーダイ、セア、ジル、サッキーが待ってくれていた。

 

「あ、来た来た」

 

 サッキーがエミルの姿を見て笑みを浮かべた。

 そのサッキーの笑みを見て、エミルは内心で警戒した。

 

「……それで、渡したいものって?」

 

 目を細めながら、メンバー達を睥睨する。

 すると、ハバキリがコンソールパネルを開きながら一歩前に出た。

 エミルに見せつけてやるように、昨日にコーダイがミーシャから受信したメールを差し出す。

 

「こいつは、フォース・コキュートスのメンバーさん達が、エミルに宛てたメールだ」

 

「!」

 

 コキュートスの名を聞いて、エミルが反応する。

 

「昨日の今日にこー言うものが送られるってことは、向こうさんはお前の近況を知ってるってことだ」

 

 んでもって、とハバキリはエミルへ向けてそのメールを送信した。

 エミルのコンソールに受信確認の音声が届く。

 

「エミル。そのメール、今ここで読め」

 

「え?」

 

 何故?とエミルがコンソールに向けていた目線を上げる。

 

「そのメールには、コキュートスのメンバーさん達の、今のお前に対するメッセージが込められてるはずだ。あー、先に言っとくと、オレ達はこのメールを読んでねーからな」

 

 ハバキリは真っ直ぐにエミルを見据える。

 

「お前、昨日言ってたよな。自分のために犠牲になったメンバーさん達が何を思っているか分からないから、それ知るのが怖いから、自分は臆病者だって」

 

 エミルに言葉を返させないように、続けて畳み掛ける。

 敢えて、憎まれるような言葉を使って。

 

「そのメールが読めねーんなら本当に臆病者だ。臆病なくらいでちょーどいいってんなら、読まねーでもいいぜ。臆病者、軟弱者、てめーなんざZガンダムのシールドにぶち抜かれるジ・Oのコクピットがお似合いだ、やーいやーい、弱虫アホエミルのあんぽんぽーん」

 

「ッ……!言ったなお前」

 

 キッ、とエミルがハバキリを睨み返す。

 

「あぁ読めばいいんだろ?読んでやるよ!今、ここで!!」

 

 半ばヤケクソ気味になりながら、メールを開いた。

 

「…………………………」

 

 時間にして、十数秒ほどが過ぎたのだろう。

 エミルはハバキリに向き直る。

 

「……ハバキリ、ボク宛のコンテナってどこに置いてある?」

 

 その質問に、ハバキリは黙って自分の背後へ親指を向けた。

 ちょうど、七星剣士エクシアのすぐ近くに、それが置かれていた。

 エミルはキャットウォークを駆け上がり、七星剣士エクシアのコクピットへ飛び込むと、マニピュレーターですぐにそのコンテナの封を切った。 

 

「これ……」

 

 コンテナの中に納められているのは、ガンプラに装備させるパーツ、それもSDガンダムのサイズに合わせたものだ。

 まるで、エミルと、七星剣士エクシアのために用意してくれていたかのように。

 

「…………」

 

 仲間達は、決して自分を嫌ってなどいなかったのだ。

 それが分かった時、エミルはコンテナを閉じ直し、すぐに出撃準備を整えていく。

 予感がするのだ。

 きっと、今行けば会えるはずだと。

 その様子を見上げながら、ハバキリはエミルに声を掛ける。

 

「どーやら憑き物は取れたみてーだな、エミル」

 

 足元にいるハバキリにツインアイを向ける七星剣士エクシア。

 

「ごめん、ちょっと出掛けてくる。今日もパスで」

 

「おー、行って来い行って来い。気の済むよーにしてこい」

 

 ひらひらと手を振り返すハバキリを見ながら頷き、エミルを乗せた七星剣士エクシアはオールグリーンを確認、ディメンションの空へ打ち出されていった。

 

 発進が完了してから、ハバキリ達はその背後を見送る。

 

 

 

 

 

 エミルが向かった先は、一昨日にも訪れた、フォース・コキュートスのフォースネストだった。

 遠目から見た光景は、一昨日のものと変わらない。

 それでもエミルは七星剣士エクシアをロッジへ接近させ、着陸させた。

 コクピットから飛び降りて、駆け足でロッジのドアを開けた。

 

 室内は、一昨日と同じだった。

 

「……世の中、そんなに都合よくないよね」

 

 とんだぬか喜びだった。

 それとも、あんなメールひとつで浮かれてしまう自分が単純過ぎるだけか。

 溜め息をひとつ零してから、ドアを閉めようとして、

 

「エミル?」

 

 最後に聞いたのはいつだったか、それでも確かに聞き覚えのある声が届いた。

 

「!?」

 

 ドアノブを離して跳ね返ったように振り返るエミル。

 

 その振り返った先には、数人の男女ーーコキュートスの面々が立ち並んでいた。

 面々の中には、ログデータを消したはずの者までいるではないか。

 

「せっかくサプライズで出迎えてやろうと思ってパーティーの準備までしてたのに、来るの早過ぎなんだよ」

 

 フォースリーダーだった青年は、口ではそう言うものの、その顔は安堵と喜びに満ちている。

 彼の後ろにいるメンバー達も同じ顔をして頷いている。

 

「みん、な……」

 

「何そんな幽霊でも見たような顔してんだよ。ちゃんと生きてるだろ?」

 

 確かに死にそうな目には遭ったけどな、と苦笑するリーダーと、「そうだそうだ」「勝手に殺すなよー」と口々に笑い声が上がる。

 

「立ち話もなんだし、入ろうぜ。……"俺達の家"に」

 

 "俺達の家"と指された、ロッジ。

 それを聞いたエミルは、瞼から溢れそうになっていたものを拭って、

 

「うん……!」

 

 清々しい笑顔で頷いた。

 

 

 

 

 

 カタパルトデッキから、一度フォースネストのレストルームに戻ったハバキリ達。

 

「エミルくん、どこに行ったのかな」

 

 セアは、エミルはどこへ向かうのかと首を傾げる。

 

「さー、どこ行くんですかね?……何となく、想像は出来ますけど」

 

 ハバキリはセアの言葉に応じつつ、コンソールパネルにタップとスワイプを繰り返す。

 

「って言うかハバキリさ、さっきのはホントに意地悪だと思うわよ?」

 

 コンソールの操作をしているハバキリの背中に、サッキーが溜め息混じりで声をかける。

 

「メールの内容は分かんないけど、もしあの内容がエミルへの批難とかだったら……」

 

「あ、それはねーよ」

 

 ハバキリはいとも簡単に断言した。

 

「オレ達がエミルを助っ人として加入させて、三日くらいだな。このフォースネストの周りでコソコソしてる奴らがいたんだよ。遠巻きに見てるだけで悪さするわけでもなし、とりあえず放置して様子を見ても何もしねーし。で、昨日にエミルの話を聞いてピンと来たってわけ。ありゃエミルのことが心配なだけのストーカーだな、って」

 

「えぇ!?あたし、全然気付かなかったんですけど……」

 

「私も知らなかった……」

 

 自分達が知らない内に外から見られていたことに、サッキーは驚き、セアも申し訳なさげに首を振る。

 

「俺は何となく視線を感じてたくらいだな。別に気にしちゃいなかったが」

 

 ハバキリほどの視野は持っていなかったが、誰かの気配や視線は感じ取っていたコーダイ。

 

「ジルちゃんは気付いてたか?」

 

「うん。「エミルは新しいフォースに入ったけど大丈夫かな?」「上手くやれるといいな」って」

 

 ジルに至っては心の声まで聞こえていたようだ。

 

「ま、そんなところだろーな」

 

 ハバキリが最後に〆てから、エミル以外の全員に向き直る。

 

「ま、それは置いといて、だ。さて、今日は何のミッションを受けましょーかね」

 

 その日の内にエミルがリヴェルタのフォースネストに帰ってくることはなく、ミッションをクリアしてから解散となった。

 

 

 

 

 

 GBN上の、とある秘匿チャット。

 そのある集まりが、不定期的に連絡を取り合っていた。

 

 フリューゲル:と言うわけで、今日もまた不定時連絡を取りたいと思う。ビーフさんは別件が入ったから、先に欠席連絡があった。

 

 ムラクモ:出席。

 

 チェリリン:出席でーす♪

 

 スミレ:出席します。あ、マイマイさんは出張で欠席してます。

 

 フリューゲル:あとはレイヴンさんだけか。とは言えレイヴンさんはログイン率も下がって来ているし……今日のところは四人で始めよう。

 

 レイヴン:遅刻寸前でスライディング出席!

 

 ムラクモ:ムラマサブラスター

 

 チェリリン:セーフティ解除!

 

 スミレ:この瞬間を待っていたんだ!

 

 フリューゲル:三人の連携力は草を生やすに値するな。

 

 レイヴン:スマン、親父がぎっくり腰やらかしてアタシの仕事が増やされた。

 

 チェリリン:お父さんェ……

 

 フリューゲル:始めていいだろうか?

 

 レイヴン:おうよ。

 

 スミレ:どうぞ。

 

 チェリリン:ヒューヒュー!パチパチパチパチー!

 

 ムラクモ:チェリリンさん静かに。

 

 フリューゲル:まずは俺から報告させてもらう。先日に予測した通り、"コピー体"は既に量産体制に入っていた。それと、例の"船"はマイマイさんが撃沈を確認したそうだ。以上。

 

 ムラクモ:俺からの報告です。アンチELダイバー勢の中で、RMTの疑いのあるダイバー数名を追跡、内2名はイノグチ警部が逮捕した模様。以上。

 

 チェリリン:わたしからの報告です。プロトシングルナンバー1は現在、フォースネストNo.178に所属中です。以上。

 

 スミレ:私からの報告です。現在、ポイントX42Sから666Sまで、ターゲットが移動中。引き続き追跡を続行します。以上。

 

 レイヴン:アタシからの報告です。と言いたいいが、ほとんどログイン出来てねぇから報告内容がない。以上。

 

 フリューゲル:スミレさん、X42Sから666Sへ移動中と言うことは、地上に降下していると言うことか?

 

 スミレ:昨日まで資源衛星MO-Ⅲに点在していましたが、今日になって真っ直ぐに地球へ降下、既に大気圏に突入完了したようです。今、進路を割り出しているところです。

 

 ムラクモ:宇宙へ行ったり地球に降りたり、相変わらず行動が読めんな。

 

 チェリリン:ターゲットは、かなり自由に動いてるらしいよ。少し前には独断でジャブローに介入してたくらいだし。

 

 フリューゲル:よし、みんなからの報告も上がったし、今後の行動に関する通達だ。ムラクモさんとチェリリンさんは引き続きRMTの疑いのあるダイバー、及びプロトシングルナンバー1の動向を追跡してくれ。

 

 ムラクモ:了解です。

 

 チェリリン:了解でーす。

 

 フリューゲル:スミレさんは例のターゲットとそれに関する周囲の状況を逐一確認。それと、今日の不定時連絡の内容をマイマイさんにも通達を頼む。

 

 スミレ:分かりました。

 

 フリューゲル:レイヴンさんは現状は自由に動いて構わない。だが、気になることがあればすぐに伝えてほしい。

 

 レイヴン:アタシだけ戦力の勘定に入ってねぇ捨て駒みてぇな扱いだな。

 

 フリューゲル:そんなつもりは無いんだが……ログイン率が低い以上は、出来ることも限られているしな

 

 レイヴン:まぁこっちはこっちで、『フォース・出雲』の伝手もある。……出来れば頼りたくねぇけどな。

 

 フリューゲル:各人への通達は以上だ、他に何かあるか?

 

 ムラクモ:特にありません。

 

 チェリリン:特になしです。

 

 スミレ:上二人に同乗します。

 

 レイヴン︰アタシも特になし。んじゃ、ログアウトさせてもらうぜ。

 

 フリューゲル︰では、以上で今日の不定時連絡を終了する。解散! 

 

 

 

 

 

 さらにその次の日。

 ハバキリとコウダイはダイブ先をフォースネストに指定してからログイン。

 次にサッキー。

 その次にセアがジルと一緒にフォースネストへ入室してきた。

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

「エミルくん、もう来てくれないのかな……」

 

 セアは出入り口へ振り返る。

 元々、エミルはフォース戦のための数合わせとして一時的にリヴェルタに所属していたに過ぎない。

 彼自身も「フォース戦も終わったから、お役目御免だ」と言っていた。

 

「実力もあるんだし、このままいてくれたら良かったですね」

 

 サッキーも溜め息混じりにセアに同意する。

 

「ま、昨日にあんなもの見せられちゃ、なおさらウチにはいられねぇわな」

 

 コーダイも同じく。

 自分のことを案じてくれただろうメールと、その自分を思って作ってくれたパーツ。

 それだけの施しを受けていながら、他所のフォースに腰を落ち着けるなど、解釈は人それぞれだと分かっていても、不義理と言うものかもしれない……少なくとも、コーダイにはそう感じられた。

 

「……とは言え、オレ達に何の連絡も無いってのも不自然だと思うんだがな」

 

 ハバキリは腑に落ちないものを感じていた。

 短い付き合いながらも、エミルの性格は何となく分かっているつもりだった。

 彼は決して感謝や恩を無碍にする人物ではない。

 なればこそ、(些か乱暴な)後押しをしてくれたハバキリ達にメールのひとつこそ送りそうなものだが、一晩が経ってもエミルからのメールや通話は届いていない。

 

「大丈夫」

 

 皆が皆、大なり小なり「エミルはもうフォースに戻ってこないかもしれない」と思っている中、ジルだけはそうは思わなかった。

 

「エミルなら、ちゃんと帰ってくる」

 

 何も疑っていない、信じる者の目をしている。

 ジルが、エミルから何を感じたのかは分からないし、そうだとしてもそれは不確かなものだろう。

 

 エミルのことならば、折を見て連絡でも何でもするだろうと結論づけようとしたところで、フォースネストに誰かが入室してきた。

 

「ごめん、ちょっと遅くなった」

 

 エミルだった。

 その彼の顔には、確かな決意が見える。

 

「……その様子だと、ただ礼を言いに来たわけじゃなさそーだな」

 

 ハバキリは心中で「そー言う結論に至ったか」と呟く。

 エミルはこくりと頷くと、セアに向き直る。

 

「セアさん。お願いがあります」

 

「何かな?」

 

 セアも、エミルのただならぬ様子に自然と背筋を改める。

 

 

 

「ボクをこのフォース・リヴェルタに、『正式』に入隊させてください」

 

 

 

 迷いも澱みもないその言葉にセアは目を見開き、すぐに少しだけ細めた。

 

「……、エミルくん。君が前までいたフォースのことはどうしたの?」

 

 もちろん、エミルがリヴェルタに戻ってきてくれたことは嬉しく思っているセアだが、その前に気になることがあるのだ。

 

「私達に恩があるとか、そんなことはいいの。君がどうしたくて、ここへ戻って来てくれたのか、それを聞かせて」

 

 セアは、エミルの意思を確認する。

 その意思は果たして、自分の本心なのかと。

 エミルは呼吸を入れ換えてから、昨日にあったことを話し始めた。

 

「ボクは昨日、前のフォース仲間と会って、色んなことを話し合いました。バラバラになってしまってからどうしていたのか、今は何のガンプラを使っているのか、……今、GBNで何をしているのか」

 

 エミルの言葉の端々から、押し隠しているような様子は見られない。包み隠さず話しているのだろう。

 

「……みんなには、一時的にとは言え他所のフォースに加入していたことも話しました。もしかしたら、批難されるかもしれなかったんです。……それが怖くても、話さなくちゃいけなかった」

 

 でもね、とエミルはおかしそうに苦笑した。

 

「そしたら、「なんでそんなことで謝るんだ」「一時的にじゃなくてちゃんと正式に加入しろよ」「新しい居場所が見つかって良かったな」「さすがエミルだ、何とも無いぜ」って、笑ってくれました。ついでに、たくさん"どつかれ"ましたけど」

 

 つまり、エミルが気にしていたようなことは何も無かったのだ。

 

「ボクからも伝えましたよ。「リヴェルタのメンバーになりたい。なってもいいか」って。みんな、快く送り出してくれました。……だから、ここに"出戻り"に来たのは、ボクの本心です」 

 

 嘘偽りの無い、真っ直ぐな言葉。

 

 セアはそれを確かめてから、頷いて右手を差し出した。

 

 

 

「うん。改めて、ようこそ。フォース・リヴェルタへ」

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 サッキー「エミルも正式に入ってくれたし、これで万事オッケーね!」

 

 エミル「えーっと、これからよろしくお願いします」

 

 コーダイ「なーに他人行儀ぶってんだよ、俺達もう一緒に戦った仲じゃねぇか」

 

 セア「うんうん。お客さんじゃないんだから、遠慮とかしないでいいんだよ」

 

 ハバキリ「…………」

 

 サッキー「ハバキリ?なんか、あんまり嬉しそうじゃないけど……」

 

 ハバキリ「あー……気になることがあってな、ちょーっと外行ってくるわ」

 

 コーダイ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション

 

『大地は雨に打たれて』」

 

 ジル「なんか、今のハバキリ……怖かった」


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