ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション   作:さくらおにぎり

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14話 大地は雨に打たれて

 ふと、オーダーが無いにも関わらずバーテンダーは珈琲豆をメーカーに注いでいく。

 

「どうした姐さん。別に俺はコーヒーのオーダーなどしとらんぞ?」

 

「アタシが飲みたいのよ。他にお客はいないんだし、いいでしょ?」

 

「構わんさ。まぁせっかくだ、俺もコーヒーを頼む」

 

「はいはーい、ブレンド1ね」

 

 トラちゃんがそこでオーダーし、バーテンダーはもう一人ぶんの豆をコーヒーメーカーが豆を挽いていく。

 三度、ガーガーと言う音が鳴り響く中、トラちゃんはお冷やに口を付ける。

 

「……コピー体、か。今でこそ運営の利用規約でそれも禁止されるようになったが、少し前まではそれが動乱の再来を引き起こしたとは、思いもしなかった」

 

「ホントにねぇ。強化人間なんてものは大概ロクな結果を齎さないって、分かっているはずなのにね」

 

「ELダイバーが新しい命の形……ニュータイプだとするなら、その研究開発はされて然るべきなのだろうがな。……全く気に入らん」

 

 腕を組んで憮然として溜め息をつくトラちゃん。

 

「気持ちは分かるわよ。でも、誰かがアクションを起こさない限り、人は戸口の前で足踏みしたままよ。リッくん達が尽力したからこそ、サラちゃんは救われたし、その後に生まれたELダイバーも自分の人生を謳歌出来るようになった。……救われなかったコも、大勢いたけどね」

 

 バーテンダーの脳裏に、白金色の髪を二つ結びにし、誰かからプレゼントされたのだろうエメラルドのイヤリングを愛おしそうにしていたELダイバーの少女が思い浮かぶ。

 

 

 

 ーーーーー世界から存在を抹消された、"本当の"ファーストELダイバーをーーーーー

 

 

 

「なぁ、姐さんよ。『ELダイバーにも、生まれ変わりはあるのだろうか?』」

 

 ふとトラちゃんは、そんなことを訊ねた。

 

「どうかしらねぇ?その辺りは霊的な専門家にでも相談しないと分からないけど……でも、生まれ変われる方が、ロマンスがあっていいじゃない。例え今生きている時に会えなくても、その後で会えたらって思うのは、ステキなことだと思うわ」

 

「フッ、そうだな。その方が"人間"らしいな」

 

 バーテンダーのロマンチストな答え方に、トラちゃんはいつもの胡散臭さ通常の三倍の怪しい笑みで頷いた。

 

 

 

 

 

 エミルがフォース・リヴェルタに『正式に』加入してから数日。

 

 ハバキリ達は今、一週間ほどログインを自重している。

 理由とは、学生ならば誰しも避けられぬ壁ーー学期ごとに二回に分けられる、定期考査だ。

 その一回目、中間考査がひとまず終わるまではテスト勉強をしなくてはならない、と言うことをハバキリとコーダイ、セアが話し、同じく学生であるサッキーとエミルも頷く。

 いずれ同じタイミングでサッキーやエミルもテスト勉強のためにログイン出来なくなるだろう。

 ジルだけはELダイバーなので学業とは無縁であるため、ハバキリ達がログインしてくる日までは保護管理局の元で大人しくするそうだ。

 

 と言うわけで、ハバキリ、コウダイ、セアの三人はテスト勉強に勤しむことになるのだが。

 

「ハバキリー、帰りにどっかで勉強会やらねぇか?」

 

 放課後、コウダイはハバキリに話しかける。

 

「あー、悪いコーダイ。オレ、妹の勉強見てやるって約束してんだわ」

 

 しかし、ハバキリの方は既に妹ーーテラスの方に先約があった模様。

 

「そっか。お兄ちゃんは大変だな」

 

 家族サービスは大事だもんな、と納得するコウダイ。

 

「ったく、オレはオレで忙しーんだってのによ」

 

「……。今日、妹ちゃんの勉強見終わったら何するんだ?」

 

「この間買った『メッサー』の組み立て」

 

「っておいィ!?そこは嘘でも自分の勉強だって言えよ!?」

 

 テスト期間中だと言うのにガンプラに手を出そうとしているハバキリに、コウダイはツッコミを入れる。

 

「別にテスト前だからって慌てて勉強しなくても、普段から教科書とノートを見直してりゃ普通に点は取れるだろ」

 

「そりゃ出来るヤツの意見だろ……普通はそれだけで点数は取れねぇんだって」

 

 コウダイ自身も忘れかけていたが、ハバキリは毎度学年トップ10入りしているほど成績優秀なのだ。

 それだけ優秀でもなければ、学年の違う妹のテスト勉強を見ながら自分の趣味にも手は出せないだろう。

 

「そんなに不安なら、先輩で学年トップのセアさんにでも教えてもらえよ」

 

「あっ、その手があったな!よしっ、そうと決まれば善は急いで回らず!」

 

『善は急げ』と『急がば回れ』をごっちゃにしながら、コウダイはスマートフォンを取り出してセアに連絡を飛ばす。

 

 結果は、セアはセアでカナデとテスト勉強をするらしく、お断りされてしまったのだが。

 

 

 

 

 帰宅してからは、コウダイに言った通りにテラスのテスト勉強を見てやっているハバキリ。

 集中の妨げになると言うことで、テレビや音楽などは流さず、飲み物を注いだコップ以外に余計な物は置かない。

 

「えっと兄さん、ここなんですけど……」

 

「あー、これはこっちに代入してからな……」

 

 分からない所を素直に聞いてくるテラスに、ハバキリもいつものように面白おかしくすることもなく普通に教えている。

 テラスはテラスで、一から十まで教えなくとも、少しだけヒントを示すだけで残りは理解してくれる。

 その分からない所の数も多くはないので、テラスが問題を進めている間はハバキリも自分の教科書とノートを広げて勉強をしている。

 

 そんな集中された勉強時間が二時間ほど過ぎた所で、ハバキリのスマートフォンに予め設定していたアラームが鳴り、すぐに止められる。

 現在時刻、18時ちょうど。そろそろ食欲が自己主張を始める頃だ。

 

「よし、今日はここまで。飯作るか」

 

「はーい」

 

 

 

 兄妹で手分けして夕食の準備を整え、すぐに食卓に着く。

 鶏肉団子のスープを啜りつつ、テラスは会話を持ちかける。

 

「兄さん、最近のGBNはどうですか?」

 

「んー、色々あったけど、新しくフォース作って順風満帆ってところだな」

 

 それがどーかしたのか、とハバキリは聞き返すが、対するテラスは安心したような顔をしている。

 

「最近の兄さん、何だか楽しそうですから。ちょっと前まで、悩んでばっかりだったのに、今はGBNを始めたばかりの頃みたいだなって」

 

「ま、よーやく面白くなってきたしな……」

 

 ここ最近は、問題が発生してはそれを解決しての繰り返しで、楽しむどころでは無かったのだ。

 エミルが正式にフォース・リヴェルタに所属してからまだ数日だけだが、ようやくハバキリが「楽しい」と感じられる形になってきた。

 ふとハバキリは、別の話題を持ち出す。

 

「あー、そーだテラス。最近お前の噂がすげーぞ。中等部の一年生の中に、『男子の理想の大和撫子な女の子』がいるって」

 

「ちょっ、兄さんっ、それどこから聞いたんですかっ?」

 

 自分の噂話のことになり、テラスが途端に慌てふためく。

 

「一年の女子からよく聞かれるんだよ、「テラスちゃんのお兄さんですよね?」ってな」

 

「私に兄がいるって話してないのに、どこから洩れてるんですかそれ……」

 

「それだけじゃねーぞ、色んな女子の運動部からも聞かれまくりだ。さすが、学年女子の体力測定全イチなだけあるな」

 

「……どおりで体育祭が終わってから、やたらと運動部から勧誘が来るとは思ってました」

 

 名字が同じなら身内だろうかと思われるのはともかく、この兄妹、とにかく学園内で目立つのだ。

 

 兄は成績学年10位内の常連者で、なおかつ荒事に関しても悪名高い。

 そんな兄の身内であると言うだけでも悪目立ちすると言うのに、その妹は体育関連で目覚ましい才能を見せ、さらに料理上手で礼儀正しい。

 加えて、どちらも顔立ちが良く、特にテラスの方は"大和撫子"とさえ呼ばれるほどの美少女。

 

「勿体ねーな、せっかくなら運動部に入っちまえよ。テラスなら練習なしで即戦力だぜ」

 

「兄さんは兄さんで私のこと買いかぶり過ぎです。そう言う兄さんこそ……」

 

「オレは中学に上がったらGBNするって決めてたからな」

 

 運動部に入ったらどうですか、と言いかけたところでハバキリがそれを遮る。

 

 いつもと何ら変わらない、アメノ家の団欒だった。

 

 

 

 

 

 学生達の戦場であるペーパーテストもあっと言う間に過ぎ、ハバキリとセアは難なく、コウダイとテラスも問題なく突破。

 

 一週間ぶりに、GBNの解禁である。

 

「よっしゃァテスト終了!」

 

 最後の科目のテストを終えて、コウダイは中学生離れした身長を思い切り伸ばしながら声を張り上げる。

 

「くあー……、テストも終わったってのにうるせーぞコーダイ」

 

 開始十分少しで全ての解答を埋め、残りの30分以上を居眠りに当てていたハバキリは欠伸しながら文句をつける。

 

「そう言うお前はテストも終わったってのにテンション低いんだよ!昼飯食った後はGBN行こうぜGBN!」

 

「へいへい……昼飯くらいはゆっくり食わせろよ」

 

 コウダイのテンションの高さに辟易としながらも、ハバキリは荷物を纏めて帰りのホームルームを待つ。

 

 

 

 

 

 食堂で昼食を終えて、ハバキリとコウダイは一度帰宅して、サッキーとエミルの、平日のログイン時間に合わせて駅前のガンダムベースへ向かう。

 セアは地元の方からログインすると昼食中に連絡があった。

 テラスにも夕方までGBNにいると伝えて、ハバキリはガンダムベースへ向かう。

 

 

 

 ガンダムベースに入店、使用許可を得てからダイブルームに入るが、まだコウダイは来ていないようだ。

 一足先にログインするか、とハバキリはいつものようにジンライ改とGPベースをセット、ダイブ先をフォースネストに指定し、現実世界からディメンションへ飛び込んだ。

 

 

 

 

 フォースネストに到着してすぐに、ハバキリは"違和感"に気付いた。

 

「(……なんだ?)」

 

 チリチリと身体に張り付くような"違和感"。

 似たような感覚は、つい少し前にあった。

 エミルの元いたフォース、コキュートスのメンバー達が陰から自分達を見ていた、その視線。

 

 だが、今回のそれは以前ほど明らさまではない、気配を殺しているのだろうが、しかし確実に誰かを見ていると感じ取られる程度に、GBN上のハバキリの感性は鋭利なものだ。

 

 ……否、気配を殺したようなこの感覚はさらに前に一度、同じものを感じたことがある。

 

「(……何が目的だ?)」

 

 ハバキリはしばらくの間、その視線に気づかぬフリをしつつ、G-Tuveの動画などを視聴しながら様子を見ていた。

 数分が経過しても、何のアクションも見えない。

 

 代わりに、フォースネストにジルがやって来た。

 

「おー、ジルか。一週間ぶり」

 

「こんにちは、ハバキリ。えっと、てすと?してたんだよね?」

 

 トテトテと入って来ると、早速備え付けの椅子にちょこんと座るジル。

 

「そーそー。ったく面倒ったらねーぜ」

 

 ジルがやって来たことで、謎の視線のことを一度頭の片隅に置いておくハバキリ。

 

 もう数分が経つと、セアがフォースネストにログインしてきた。

 

「こんにちはハバキリくん。テストお疲れ様」

 

「こんちはセアさん、今回もまた学年トップですか?」

 

「だから、ハバキリくんもだけど、みんな私のこと買いかぶり過ぎだよ。まだ結果だって分かってないのに」

 

 苦笑するセアにとりあえずの挨拶だけは返し、意識は謎の視線に向けられたまま。

 

「ジルちゃんも、一週間ぶりだね」

 

「セアもてすと、お疲れ様」

 

 セアとジルが談笑を始める様子を近くで見ているハバキリは、表情に出さない程度に目を細める。

 

「(ジルは何も感じてねーのか?)」

 

 否、それはないだろう。

 自分ですら気付くのに、感知能力を持ったジルが気付かないはずがない。

 周囲に気を遣って、分かっていても知らないフリをしているのだろうか。 

 

 続いて、サッキーとエミルが一緒にやって来た。

 

「あ、セアさんにハバキリ、一週間ぶりでーす」

 

「テスト、お疲れ様です」

 

 サッキーは軽く手を振りながら、エミルは一礼して、フォースネストに入ってくる。

 

 そして最後にコーダイがログインして来た。

 

「っと、もうみんな先に来てたか。よーし、一週間ぶりに全員揃ったところで、今日のミッションは……」

 

 そこまで言いかけたところで、ハバキリは意を決した。

 

「あー、コーダイ。一週間ぶりで悪いんだけど、オレちょっとソロでやらせてもらうわ」

 

 それだけ呟くと、ハバキリは椅子から立ち上がって格納庫へ向かおうとする。

 

「っておいおいハバキリ?なんで全員揃ってからソロプレイになるんだよ」

 

 コーダイがそれを呼び留めようとするが、

 

「気になることがあってな。10分経っても帰ってこなかったら、オレ抜きでやってくれ」

 

 振り返らないままにハバキリは室内を後にしていった。

 

 

 

 格納庫に到着するなり、そのままジンライ改へ乗り込んだ。

 

 カタパルト展開、オールグリーン確認。

 

「ハバキリ、ジンライ改、出る!」

 

 リニアカタパルトによって打ち出されるジンライ改は、そのまますぐ近くの森林地帯へ向かう。

 

「(あの感覚が確かなら、アレは……ジャブローの時と同じ奴だ)」

 

 木々の中へ突入してすぐに、ハバキリのお目当ては見つかった。

 

 ずんぐりとした青い機体ーーゼク・アイン。

 

 あちらもジンライ改をーー最初からーー捕捉しただろうゼク・アインも、モノアイを向けてくる。

 対するジンライ改は堂々とゼク・アインの前に降り立つ。

 

「よー、この間はどエラい世話になったなー」

 

 全周波通信でゼク・アインへと呼び掛けるハバキリ。

 

「とりあえずてめーをコクピットから引き摺り下ろして、そのツラ拝ませてもらうついでに、じっくり話を聞かせてもらおーじゃねーか!」

 

 すると次の瞬間には何の勧告も無しにアサルトライフルを向け、躊躇いなくトリガーを引き絞った。

 連射される銃弾を前に、ゼク・アインもその場から身を翻してやり過ごす。

 

「ハッ、前と同じよーにやれると思ってんじゃねーぞ!」

 

 回線をオープンにしたまま、ハバキリはアームレイカーを殴り倒し、ジンライ改を加速させてゼク・アインとの距離を詰めていく。

 ゼク・アインも反撃にビームライフルを連射するものの、ジンライ改はそのピーキーなまでに突き詰めた機動性を駆使して閃光を掻い潜り、その最中にもアサルトライフルを撃ち返す。

 アサルトライフルとビームライフルの交錯が数度繰り返され、先に仕掛けるのはジンライ改。

 アサルトライフルを右手に持ち替え、ハバキリの利き手である左手に重斬刀を抜き放つ。

 鋭角なカーブをジグザグに織り交ぜながら、接近戦へ持ち込む。

 ゼク・アインの方もその気になったのか、ビームライフルを納め、シールド裏からビームサーベルを抜いた。

 そのまま重斬刀とビームサーベルが衝突するーーと思いきや。

 

「だーれがてめーの思惑通りに戦ってやるかよ!」

 

 重斬刀を振り抜こうとするフリをして一回転すると、流れるような動作でアサルトライフルを近距離で撃ちまくる。

 だがゼク・アインの反応も早く、すぐに肩のシールドで防御の姿勢を取ってアサルトライフルの銃弾を弾き返す。

 ガードするために足を止めている内にアサルトライフルの射撃を止め、重斬刀で斬り掛かるジンライ改。

 今度こそ振り抜かれた剣刃。

 しかしゼク・アインは銃弾を防いだ姿勢のままで重斬刀を受け流してみせる。

 ダメージを与えられていないと即断し、ハバキリは強引にアームレイカーを捻り返してジンライ改を飛び下がらせ、その0.5秒後にゼク・アインのビームサーベルが振り抜かれる。

 ビーム刃の波動がジンライ改の胸部を焦がすが、損傷はない。

 

 一度距離を置き、身構え直しながらハバキリはなおも挑発する。

 

「何だ何だ、今日はだんまりか?この間みてーにベラベラ喋ってみせろ、よッ!」

 

 アサルトライフルを撃ちまくりながら再び接近戦へ持ち込むハバキリ。

 

 

 

 

 

 ハバキリがジンライ改で出撃した後。

 

「何だよハバキリの奴、今日はノリ悪いな……」

 

 普段はもっとノリノリでおちゃらけてるのにな、とコーダイは不満そうにボヤく。

 

「「気になることがある」って言ってたけど、何のことかな……」

 

 セアも、ジンライ改が飛び去って行った方を見ながら呟く。

 サッキーとエミルも、何のことだろうかと頭を悩ませているところで、不意にジルが口を開いた。

 

「さっきのハバキリ、何かおかしかった」

 

 この時コーダイは「ハバキリがどっかおかしいのは今に始まったことじゃねぇけど」と言いかけて飲み込んだのはナイショ。

 

「それに……ちょっと怖かった」

 

 彼女の「怖かった」と言う言葉に全員が耳を傾ける。

 

「確かに……上の空、ってわけじゃねぇが、何となく別のことを考えてるみたいな感じはあったな」

 

 しかし、エミルが正式にフォースメンバーに加入して、今のところフォース・リヴェルタに問題らしい問題は見つからないはずである。

 だとすれば、ハバキリは何を思って行動に出たのか。

 彼は「10分経っても帰ってこなかったら、今日は自分抜きでやってくれ」と言っていた。

 それほどまでに、他人に関わらせたくないことなのだろうか。少なくとも、付き合いの長いコーダイにすら。

 

「……私、ちょっとハバキリくん探してくる」

 

 セアは開いていたコンソールを閉じる。

 

「待ってよセアさん、ハバキリがどこ行ったのか分かるんですか?」

 

 先走ろうとするセアに、サッキーはそう問い掛ける。

 

「さっき、ハバキリくんのジンライが東の方に飛んでいくのを見たから。それに、10分で行って帰ってこれる距離なら、多分そんなに遠くには行ってないはず」

 

 それだけ返してから、セアは格納庫へ駆け出す。

 

 

 

 キャットウォークからフリーダムガンダムのコクピットへ飛び移り、すぐに出撃準備を整えていく。

 

「セア、フリーダムガンダム、行きます!」

 

 リニアカタパルトによって外へ打ち出されたフリーダムガンダムは、蒼翼を広げ羽ばたき、ジンライ改が向かっただろう方角へ機体を飛翔させる。

 

 今日のディメンションの空は、暗雲が覆い尽くしていた。

 

 

 

 

 

 いつの間にか、雨が降り頻っていた。

 重斬刀とビームサーベルが打ち付け合うのも、戦いが始まって既に100回は超えただろう。

 にも関わらず、ジンライ改とゼク・アイン、両者に目立った損傷は見られない。

 ハバキリはゼク・アインへの注意を切らないように、ジンライ改の状態を確かめる。

 コンソールからは、重斬刀の耐ビームコーティングが剥がれ落ちてきていることを告げており、そろそろビームサーベルを防げなくなるだろう。

 ついでに、アサルトライフルの残弾も心許無い。

 

「そろそろ本気出してやるよ、感謝しな」

 

 潔く重斬刀をその場に捨てると、リアスカートからシースザンバーを抜き放ちーーすぐさまゼク・アインへ飛び掛かった。

 振り下ろされるシースザンバーに対し、ゼク・アインはその場から飛び下がって大剣の切っ先を躱す。

 だが躱されることはハバキリの想定の内、空振ったシースザンバーが草木を砕き潰しながらも武装フォルダを開き、チェーンアンカーを選択する。

 ジンライ改のフロントスカートから鎖付きの鉤爪が放たれ、一瞬だけ挙動の遅れたゼク・アインの左腕へ噛み付いた。

 それを確認すると、ジンライ改は繋がれたチェーンをゼク・アインごと力任せに引っ張り上げようとするが、

 

 ゼク・アインもまた、チェーンアンカーに噛み付かれた左腕を引っ張り上げており、ジンライ改と綱引きをするような形になっていた。

 

 ギチギチギチギチとチェーンが火花を散らす中、ジンライ改とゼク・アインの綱引きが続く。

 

「チッ、初見殺しとはいかねーか……」

 

 舌を打つハバキリだが、

 次の瞬間にはニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。

 

「じゃ、やーめた」

 

 不意にジンライ改はフロントスカートからチェーンを切り離した。

 拮抗し合っていた力の片方が失われ、後ろに引っ張ろうとしていたゼク・アインの勢いが余って仰け反る。

 

 その隙が、ハバキリの狙っていた瞬間だ。

 

 瞬時にジンライ改を加速させて、地面を削りながらゼク・アインへとシースザンバーを斬り上げる。

 

「殺(と)った!!」

 

 シースザンバーの切っ先の向かう先はゼク・アインのバイタルバートだ。

 

 しかし、

 

 

 

 

 

『ダミーアーマー、パージ』

 

 

 

 

 

 ハバキリ自身が確信するほどの会心の一撃。

 

「……あ?」

 

 だが、その手応えはあまりにも軽過ぎた。

 

 シースザンバーが捉えたのは、ゼク・アインの『パーツだけ』だったからだ。

 

 またしてもシースザンバーは空を斬る。

 そんなことは問題ではない。

 

「……は?おいおいちょっと待て、どーゆーことだ?」

 

 ハバキリは、前方に見える光景に目を疑った。

 

『バラバラになったゼク・アイン』のパーツの中から現れたのは、白銀に塗装された『ジム・クゥエル』の改造機だった。

 

 そして、ハバキリにとってそれは見間違うはずのない姿だった。

 

 

 

「ちょっと説明してくれるか?『トーシロー』」

 

 

 

 二度と交わることは無いと思われた青と白が、交錯した。

 

 

 

 

 

 出撃を完了したセアのフリーダムガンダムは、ハバキリのジンライ改が向かっただろう方角へ進みつつ、辺りを見回している。

 

「途中で曲がったりしなかったら、多分この辺に……」

 

 例えどこかで進路変更したとしても、それほど遠くには行けないはず、とセアは注意深くモニターの数々を見比べーー

 

『……………いちょっと待て、どーゆーことだ?』

 

 不意にオープン回線の通信を、フリーダムガンダムが傍受した。

 

「ハバキリくん?」

 

 セアはアームレイカーを引き戻し、フリーダムガンダムをその場でホバリングさせる。

 傍受した通信がどこからのものであるかの特定を急ぐ。

 

 それは、すぐ近くの地上からだった。

 

 フリーダムガンダムの視界をそこへ向けさせると、シースザンバーを握ったジンライ改と、もう一機、白銀のガンプラーー確かジムと言うMSだったはずーーがそこにいた。

 

 互いに武器を構え、睨み合ったまま動かない。

 セアもそこへ介入はせずに、フリーダムガンダムをゆっくり降下、着地させると、木々の隙間に片膝を着けさせる。

 

『ちょっと説明してくれるか?『トーシロー』』

 

「(トーシロー?)」

 

 トーシローと言うのは、ダイバーの名前のことを言っているのだろうか。

 あの二機の間に、何があるのか。

 

 セアは通信に耳を傾けたまま、しばらくの間静観することにした。

 

 

 

 

 

 かつて、フォース・アルディナで双璧を誇った二機のガンプラ。

 

 ひとつは、青く塗装されたジンを使う『青き狂戦士』

 

 もうひとつは、白銀に塗装されたジム・クゥエルを使う『白銀の聖騎士』

 

 その後者が今、前者の前に立っている。

 

 機体銘『ジム・クゥエルロゥ』

 

 それも、わざわざゼク・アインに擬態していて。

 

「お前、トーシローだろ?人違いじゃーねーよな?」

 

 ハバキリがそう問い掛けても、目の前のジム・クゥエルロゥは黙ったまま。

 パージしたゼク・アインのシールドを拾うと、それを左手に持たせて盾代わりにする。

 互いに睨み合い、静寂が訪れる。

 もう数秒の沈黙の後に、先に動いたのはハバキリだった。

 

「よし分かった、どーやら人違いみてーだな。じゃー、遠慮なく……ぶっ潰す!!」

 

 再びシースザンバーを担ぎ直して、ジンライ改はジム・クゥエルロゥへ突進する。

 対するジム・クゥエルロゥは、その場で足を止めてビームライフルを連射して迎え撃つが、ジンライ改はシースザンバーの腹でビームを防ぎながら距離を詰めていく。

 間合いに踏み込むと同時にシースザンバーを振り下ろすーーと見せかけて、瞬時に加速しながら迂回、ジム・クゥエルロゥの左腕後ろ側面へ回り込みながら、回転の遠心力も含めてシースザンバーを薙ぎ払った。 

 これに対し、ジム・クゥエルロゥは先程拾ったゼク・アインのシールドで防ごうとする。

 結果、シールドに遮られたせいでジム・クゥエルロゥの胴体は捉えられなかったものの、シールドを砕き飛ばしーー

 

 たその隙間から、ジム・クゥエルロゥのビームライフルの銃口が覗いておりーーーーー

 

 ーーその動きは、ジャブローで出くわしたゼク・アインと全く同じでーー

 

「ーーーーーッッッッッ!?」

 

 ハバキリの頭の天辺から足の土踏まずまで、鳥肌が立った。

 そのせいで反応が鈍り、ジム・クゥエルロゥが放ったビームライフルへの回避が遅れた。

 咄嗟に機体を捩らせることでバイタルバートへの直撃を防ぐが、ジンライ改は右腕を撃ち抜かれてしまった。

 すぐに機体をバックホバーさせて距離を置き直す。

 

「……なー、やっぱお前トーシローか?トーシローだろ?トーシローだな?はい決定、お前トーシローな」

 

 今の動きで理解したーー理解できてしまった。

 仕方なくシールドで防がざるを得なかったと見せかけて、ビームライフルで必殺のカウンターを狙っていた。

『そうしてくると知っていなければ』、ジンライ改は今の一発でコクピットを撃ち抜かれていた。

 

 そしてーージャブローで出くわしたゼク・アイン(の見た目をしたジム・クゥエルロゥ)の動きと、全て繋がった。

 

「おいトーシロー、一体何のつもりだよ。ジャブローの時に、ぜダンの門の時に、今回のコレに。……まさか、オレが分からないなんてことはねーだろ」

 

 そう。

 ジャブローの時のゼク・アインは、ハバキリの動向を見透かしているかのような発言をしていた。

 だとすれば、あの耳障りなノイズの正体がトーシローだと言うのは頷けることだ。

 

「なんだよ、そこまでして信じられねーのか?」

 

 しゃーねー奴だな、と呟くとハバキリはコンソールを打ち込み、ジンライ改のコクピットハッチを開けて、生身を晒した。

 ハッチの縁に片足を乗せて、堂々と姿を見せてやる。

 

「ほらよ、これで満足か?オレが自分からツラ見せてやってんだ、お前も降りてこいよ」

 

 数秒の間を置いてから、ジム・クゥエルロゥのコクピットハッチも開かれ、相手のダイバーも姿を見せた。

 ジム・クゥエルロゥに合わせた白銀の軍服を纏い、首から上を完全に覆ったフルフェイスタイプの仮面。

 その仮面に手を掛けると、あっさりとそれを外して見せた。

 

 ーー見紛うことなき、背中まで伸ばしたプラチナブロンドの長髪と、エメラルドグリーンの瞳を持ったダイバーだった。

 

 ダイバーネーム『トーシロー』

 

 雨の中、ハバキリのダークブルーの瞳と、トーシローのエメラルドグリーンの瞳がぶつかり合った。

 

「……久しぶり、とでも言うべきか?ハバキリ」

 

 その口から放たれた声は耳障りなノイズなどではない、変声期の狭間に近い、青年の声色。

 

「なーにほざいてやがるトーシロー、ついこの間に会ったばかりだろーが」

 

 寝言言ってんじゃねーよ、とハバキリは警戒を強めた。

 今目の前にいるトーシローが、自分の知っている彼で無くなっているのでは、と懸念しているからだ。

 

「さて、じっくり話を聞かせてもらおーじゃねーか……一体何のつもりだってな」

 

「…………」

 

「あ、じゃー質問変えるわ。『てめーは今何をしてやがる?』」

 

「…………」

 

「答えられねーよーな『後ろめたいこと』をやってんのか」

 

「 ……」

 

 ハバキリの言葉に、ほんの僅かだがトーシローの眉が微動した。

 

「相変わらず嘘のヘタな奴だな。それとも土壇場で嘘を通すために、オレに嘘のヘタな奴だと思わせるための演技か?」

 

「……僕は君ほど器用に出来た人間じゃない。嘘が下手なのも、否定はしない」

 

「そーか。で?そろそろ本題に入ろーじゃねーか。……お前、『運営の強硬派の人間になっちまったのか?』」

 

「ッ」

 

 今度はあからさまに動揺した。それでも動揺を隠しているつもりなのだろう。

 

「その反応、図星か」

 

「……」

 

 図星を指されてなお、沈黙を続けるトーシロー。

 

「いー加減に答えろトーシロー、お前マジで何考えてやがる?俺達のフォース、アルディナが解散になった……『お前がそうさせた』、そもそもの原因だった、その連中の汚職の片棒を担いで……てめーのやってること、ムチャクチャじゃねーか」

 

「それは違う」

 

 不意に、ハバキリの言葉をトーシローが否定した。

 

「君は、僕がアルディナを解散させた原因を、運営のせいだと言いたいようだが、それは違うな」

 

「……違う、だ?なら、野良のELダイバーに接触したオレが悪いとでも言うつもりか?」

 

「それも違う。ハバキリが悪いなんてことは無い、全く無い」

 

「チッ……んじゃ何だよ、オレ達のフォースをムチャクチャにしてくれやがったのは、運営のドアホどもでも、オレでも無いってんなら、何だ?何が全ての原因だ?」

 

 ハバキリのその問いかけに、トーシローはさも当たり前のように答えた。

 

 

 

「悪いのは、全部僕のせいだ」

 

 

 

 トーシローの答えに、ハバキリはすぐに返すことが出来なかった。

 

「フォースの、例え末端が引き起こしたことだとしても、その責任はリーダーたる僕が負わなくてはならない。なら、責任を取ってフォースリーダーを辞退するのは、当然のことだ」

 

「……」

 

「運営は不正を正そうと行動していたに過ぎない。例えその行為が、一般プレイヤーにとって害を与えるようなものでも」

 

「……」

 

「それに、アルディナの皆が運営からマークされていることも知っている。だから僕は素性を隠して運営に協力し、その裏でアルディナの皆に可能な限り類が及ばないようにしていた」

 

「……」

 

「僕のやり方が100%正しいとは言えないし、君にとって納得できることでもないだろう。だが、これが今の僕に出来る最善の……」

 

 

 

「ーー最善のやり方なら、『ELダイバーを片っ端から殺しても構わない』ってのか?」

 

 

 

 不意にハバキリが声を返した。

 何の感情も込もっていない、冷たく無機質な声で。

 

「お前の言ったことは全部マジなんだろーよ。素性を隠してたってんなら、ゼク・アインに偽装してたってのも分かる」

 

 でも、とトーシローに言い返す隙を与えずに言葉を続ける。

 

「お前今、ELダイバーのことは何も言わなかったな?アルディナの奴らに類を及ばないように、運営に協力する。……それって、連中のELダイバー狩りに加担することに何の疑問も持ってねーってことだろ」

 

「何を言って……」

 

「アルディナの奴らに害が及ばないようにはする。逆に言えば、『今度はそれ以外の誰かに害を向ける』ってことでもあるんじゃねーのか?」

 

「……」

 

「トーシローがそんなことも分からねー奴だとは思いたくはねーけど、そーなったら、またオレ達と同じよーな奴らが出てくるぞ。……そー言うの、死ぬほど気に入らねーな」

 

 ハバキリの言葉が杭となって、トーシローへ打ち込まれていく。

 

「トーシロー。お前の本音はどこにあるんだ?」

 

「……やはり、君には分かってしまうんだな」

 

 不意に、トーシローは観念したように溜め息をついた。

 

「だが、ここで僕が本音を言ったところで、君は納得しないだろう」

 

「……その本音が何かってのを、さっきから訊いてんだよ」

 

 不意に、トーシローはコクピットに入り戻ると、ジム・クゥエルロゥを再起動させた。

 

『すまない』

 

 それだけを告げると、ジム・クゥエルロゥはビームライフルを放ち、ジンライ改の左脚を撃ち抜いた。

 

「なっ、ちょっ、おいっ……!?」 

 

 ジンライ改がバランスを失って転倒する中、慌ててジンライ改のコクピットハッチを閉じて、どうにか落下を防ぐハバキリ。

 その間にも、既にジム・クゥエルロゥは踵を返して遠くへ飛び去ろうとしていた。

 

「待てよおいトーシロー!クソっ、こんなんじゃ追うことも出来ねー……ッ!」

 

 左脚を失ったジンライ改は、起き上がることすら満足に出来

ず、そのまま見送ってしまう。

 

 ーーそれはまるで、ハバキリがフォース・アルディナ脱退を決意した、あの日と立場が逆になったかのようにーー。

 

 

 だが、ふとどこからか現れたフリーダムガンダムが、ジム・クゥエルロゥの後を追っていた。

 

 

 

 

 

 森林地帯から海上に出たところで、背後から何者かが追ってきていることをアラートが知らせてきた。ジンライ改ではないだろう。

 トーシローはジム・クゥエルロゥを反転させ、追ってきた何者かーーフリーダムガンダムを視認する。

 同時に、オープン回線でフリーダムガンダムのダイバーからの通信が届く。

 

「待って、攻撃の意志はないの」

 

 フリーダムガンダムは構えを取ることなく、棒立ちの状態でホバリングして速度を止める。

 

「私はセア。あなたの友達の、ハバキリくんのフォースの、リーダーです」

 

「……そうか、あなたがリヴェルタのリーダーの、セアさんか」

 

 トーシローも、攻撃の意志はないことを示すために、ビームライフルを下げる。

 

「盗み聞きをするつもりじゃなかったけど、さっきのあなたとハバキリくんの会話を聞いた。……どうして、もっとハバキリくんと話そうと思わなかったの?」

 

「セアさん。あなたも、ハバキリと一緒に戦ってきたのなら分かるはずだ。あいつは、自分が正しいと確信したことは絶対に曲げずに貫き通そうとする、己の正義を地で行く奴だ。……そして今の僕は、あいつとは"分かり合えない"場所にいる。恐らく、近い内に敵としてまた会うことになるだろう」

 

 トーシローの言葉には、確固たるハバキリへの理解が見える。

 しかし、『理解しているからこそ逆に"分かり合えない"』こともあるのだと、彼は言う。

 

「理解しているのに分からない?それは、どう言うこと……?」

 

「これは、僕とハバキリの問題だ。あなたは関わらないでほしい。……ハバキリのジンライは動けないはずだ、救援に行ってくれ」

 

 トーシローの声のトーンが下がる。

 これ以上関わるなら手荒な真似をするぞ、と、暗に告げている。

 だが、セアはここで回れ右をするつもりは無かった。

 

「ハバキリくんと君だけの問題じゃない。私達リヴェルタと、君の元のフォース仲間達、みんなの問題のはずだよ。……ハバキリくんに言えないのなら、私にだけでも、本音を伝えてほしい」

 

「そうか……なら、無礼を許してもらう」

 

 ジム・クゥエルロゥは即座にビームライフルを構え直すと同時にトリガーを引き絞るが、対するフリーダムガンダムも咄嗟にシールドでビームを防いだ。

 

「……戦うつもりならっ」

 

 セアはアームレイカーを握り直し、フリーダムガンダムはウイングをハイマットモードに広げて飛び上がる。

 上方からルプス・ビームライフルを連射するフリーダムガンダムだが、ジム・クゥエルロゥは海面を滑るように機動し、避けられたビームが海面にぶつかると激しい水飛沫を立ち昇らせる。

 

「(距離が遠い……もっと詰めないと)」

 

 フリーダムガンダムはジム・クゥエルロゥとの距離を詰めるために、高度を落としながらも前方へ加速する。

 頭部の機関砲『ピクウス』を速射しつつ、ジム・クゥエルロゥの動きを注視する。

 ジム・クゥエルロゥもその場でビームライフルを連射し、フリーダムガンダムを近付けさせまいとするが、セアは冷静に回避とシールドによる防御で被弾を防ぎつつ、確実に距離を詰めていく。

 

「ここでっ!」

 

 ある程度の距離を縮めたところで、セアはウェポンセレクターを三つ同時に開き、ルプス・ビームライフル、バラエーナ、クスィフィアスによる合計五門の火砲を一斉射する、ハイマットフルバーストを放った。

 だが、ハイマットフルバーストを放つためにバラエーナとクスィフィアスを展開すると言う動作を見た時点で、ジム・クゥエルロゥは既に射線の外へと回避しており、五筋の火線はただ海面を薙ぎ払っただけに終わる。

 ハイマットフルバーストの反動を殺し切れていない内に、ジム・クゥエルロゥは瞬間的に加速、一気に近接格闘の間合いにまで踏み込み、左手に保持したままアイドリングストップを掛けていたビームサーベルの光刃が発振される。

 

「(速いっ!?)」

 

 セアが辛うじて反応出来たのは、ハバキリのジンライ改と言う身近な具体例があったからか、瞬時にシールドを前に向け、振り翳されるビームサーベルから機体を守るが、先程から何発もビームライフルを防いでいたために損傷しているシールドでは防ぎ切れず、真っ二つに斬り裂かれてしまった。

 それを認識するなり、セアはすぐにアームレイカーを引き戻し、フリーダムガンダムを急速後退させる。

 すぐに距離を取ったおかげで、返す刀でビームサーベルを斬り返すジム・クゥエルロゥの一撃を躱すことに成功する、

 が、回避に成功したとセアが認識した瞬間には、既にジム・クゥエルロゥのビームライフルの銃口が向けられていた。

 

 放たれた一射は、フリーダムガンダムのルプス・ビームライフルを撃ち抜く。

 

「あっ!?」

 

 ルプス・ビームライフルを失った、とセアの思考に動揺が生じ、

 

 その一瞬の動揺が、勝敗を分けた。

 

 すぐまた距離を詰めてきたジム・クゥエルロゥはビームサーベルを一閃、フリーダムガンダムの頭部を斬り飛ばした。

 セアの動揺が深まる中、モニターが砂嵐へと切り換わってしまう。

 

「サ、サブカメラに切り替えを……」

 

 すぐに視界をメインカメラからサブカメラへ切り替えようとするが、もう遅い。

 

 右腕をロスト。

 

 左腕をロスト。

 

 右足をロスト。

 

 左脚をロスト。

 

 右翼、及び右バラエーナをロスト。

 

 左翼、及び左バラエーナをロスト。

 

 右クスィフィアスをロスト。

 

 左クスィフィアスをロスト。

 

 フリーダムガンダムのボディ以外の部位全てが、ジム・クゥエルロゥのビームサーベルによって破壊されてしまった。

 

「こん、な……ッ!?」

 

「……藻屑になる前に、誰かに見つけてもらってくれ」

 

 最後にジム・クゥエルロゥはフリーダムガンダムを蹴り飛ばし、海中へ叩き込んだ。

 

 まともな推力を失い、セアはフリーダムガンダムがただ沈んでいくのを見ているしかなかった。

 

 

 

 

 

 同じ頃、サッキーのガンダムデスレイザーは、ハバキリからの救援要請を受けて出撃していた。

 

 指定ポイントは出撃して間もなくの位置であったため、サッキーはすぐにジンライ改とハバキリを発見した。

 

「随分派手にやられちゃったみたいだけど……大丈夫?」

 

 左足と右腕を失って横たわるジンライ改の近くに片膝を着けて着陸させ、左マニピュレーターをハバキリへ差し出す。

 

「いやー、すまん。助かったわ」

 

 ポリポリと後頭部を掻きながら、ハバキリはガンダムデスレイザーの掌に乗り、サッキーはハバキリを乗せた左マニピュレーターをコクピットハッチへ近づけ、そのままコクピットの中へ入れてやった。

 

 ハバキリの確保に成功してから、サッキーは彼に問い質す。

 

「ハバキリ、セアさんがここに来なかった?あんたが心配だって飛び出してっちゃったんだけど……」

 

 彼女がそれを訊いてくると言うことは、ついさっきに見えたフリーダムガンダムは、セアの機体だろう。

 ハバキリはそのフリーダムガンダムが向かって行った方向へ目を向ける。

 

「……さっき、フリーダムが3時の方向に飛んでいくのが見えたから、多分セアさんの機体で、オレとやり合ってた機体を追って行ったんだろーな」

 

 確証はねーけど、と付け足す。

 

「セアさんのことは気になるけど、とりあえず回収するわね」

 

 サッキーはガンダムデスレイザーのコクピットハッチを閉じて機体を立ち上げさせると、近くに転がっているジンライ改を抱え、元来た道を戻るように飛翔する。

 

 

 

 

 

 沈んでしまったフリーダムガンダムのコクピットの中で、セアはコンソールを開き、救難信号のコマンドを入力していた。

 水深はゆうに100mは越えているだろう、こんな海中ではいくら生身では無いにしろ、自力での脱出はまず不可能だ。

 とは言え、こんな海中から発信されている救難信号など、拾ってくれるだろうか。

 それでも、何もせずに潮に流されて深海にまで沈み、水圧で機体が破壊されるのを待つよりは遥かにマシだ。

 救難信号が発信されたのを確認してから、セアは一息つく。

 

「(……何も、出来なかった)」

 

 勢い勇んでハバキリを、トーシローを追い掛けたのは良かった。

 しかし、トーシローの実力を前に、まともに戦うことすら出来なかった。

 挙げ句、コクピットを破壊されずに戦闘力だけを奪われると言う、情けを掛けられた。

 

 ハバキリのような実力者と対峙するとは、こう言うことなのだと、ハッキリと思い知らされた。

 

「(……私だけだ)」

 

 ハバキリやコーダイ、サッキー、エミル。

 自分の仲間達は皆、自分なりに愛機に塗装や改造を施し、実力をモノにしている。

 自分は、自分だけが、何の改造や塗装らしい事もしていない、無改造のガンプラを使っている。

 

「(私も、みんなに追い付かなきゃ)」

 

 いつまでもこのままではいけない。

 フォースのリーダーである自分が、リーダーの自分だからこそ、彼らと並んでも恥のないガンプラでなくてはならない。

 

 そのためにもまずは……ここから脱出しなくてはならないのだが。

 

 不意に、ガクンッと機体が揺れて、下方へ降りていく感覚が伝わる。

 

「……沈んでる!?」

 

 潮の流れに引かれ、より深海へと機体が沈んでいく。

 しかし、今のセアに出来ることはもう無くなってしまっている。

 

 これではもう、水圧で機体もろとも潰されて強制ログアウトされるしかない……

 

 そう諦めかけた時、またガクンッと機体が揺れて、機体の沈下が止まった。

 

「え……?」

 

 岩に引っ掛かりでもしたのだろうか?

 だとしても根本的な解決にはならない。

 すると、数秒のノイズの後に接触通信が届く。

 

『こちら、『フォース・ロイヤルナイツ』所属のリヒターだ。聞こえるか、フリーダム』

 

 白い四肢に、青灰色の鎧を纏ったガンプラが、フリーダムガンダムを抱えていた。

 

 

 

 

 

 サッキーがハバキリを連れてフォースネストへ帰還するや否や、格納庫内は慌ただしくなっていた。

 セアのフリーダムガンダムを捜索、及びハバキリのジンライ改を回収するために、コーダイとエミルも出撃を急いでいるのだ。

 

 キャノパルドのコクピットに乗り込んで機体を立ち上げながらコーダイは、メンテナンスハンガーで補給を受けているサッキーのガンダムデスレイザーへ通信を繋ぐ。

 

「ジンライが放置されたポイントから三時方向だよな!?」

 

「そう!まずそこまで移動してから、その方角沿いに探すの!」

 

 ガンダムデスレイザーの推進剤の補給が完了したのを確認してから、ハンガーから下ろす。

 

「もしかしたら海中に沈んでいる可能性もあるけど、水中用装備なんて用意してないよ……!」

 

 いち早く七星剣士エクシアの機体を立ち上げて出撃準備を終えたエミルは、すぐにでも発進しようと急ぐ。

 ハッチ開放、カタパルト展開、オールグリーンを確認。

 

「エミル、七星剣士エクシア、目標を……」

 

 捜索する、と言いかけたところで、何者かのガンプラがフォースネストに近付いて来ていることを、コンソールが告げてくる。

 こんな時になんだ、とエミルはフォースネストの外回りの様子をモニタリングさせる。

 

 フォースネストの外には、デュエルガンダムーー否、アレックスの改造機が、PSダウンしたフリーダムガンダムのボディを抱えた状態で、待ってくれている。

 

『こちら、フォース・ロイヤルナイツのリヒターと言うものだ。そちらのフォースリーダーの、セアさんの機体から救難信号を受信、人道的立場から救出した。機体と身柄を引き渡したい、誰かいないか?』

 

 オープン回線のそれを聞いて、エミルは七星剣士エクシアをカタパルトから下ろし、直接ハッチから降りる。

 向こうの回線の周波数を合わせ、エミルが通信に応じる。

 

「こちらフォース・リヴェルタのエミルです。リーダーを救出してくださり、ありがとうございます」

 

『ただの通りすがりだ。礼を言われるほどのことじゃない』

 

 七星剣士エクシアが降りて来るのを見て、アレックスーーブルシュヴァリエは片膝を着き、セアを乗せたフリーダムガンダムのボディを差し出す。

 エミルがそれを受け取ると、ブルシュヴァリエはすぐに立ち上がり、『確かに引き渡した。これで失礼する』と告げて、踵を返し飛び去っていった。

 ブルシュヴァリエを見送ると、エミルはすぐに七星剣士エクシアを帰還させ、フリーダムガンダムのボディを広い場所に下ろす。

 

「セーフティシャッターは作動してるから、放射能漏れは起きてないはずだけど……」

 

 フリーダムガンダムの動力機関は核分裂反応炉であり、万が一心臓部が損傷していたら、コクピットにいるセアは放射能汚染を受け、ライフを失って強制ログアウトされている可能性があった。

 それを可能な限り防ぐための自動セーフティシャッターは閉じられているため、その可能性は低いと見ているエミルだが、不安なものは不安だ。

 一応、『SEED DESTINY』劇中で、フリーダムガンダムのパイロットであったキラ・ヤマトは、インパルスガンダムとの戦闘で機体が甚大な損傷を負った際、咄嗟に機関部を閉鎖して停止しさせたように、手動でもセーフティシャッターを閉じることは出来るが、普通の人間でそこまでのことは出来ないだろう。

 

 すると、すぐにハバキリとコーダイに、サッキーに手を引かれてきたジルが駆け付けて来る。

 ハバキリとコーダイがフリーダムガンダムのセーフティシャッターに取り付くと、すぐにコンソールを通じて強制解除のコードを入力していく。

 十数秒の後に、コーダイはエンターキーを押し込んだ。

 

「よし、シャッターを開けるぜ」

 

 強制解除コードが認証され、フリーダムガンダムのセーフティシャッターが開かれ、ハバキリは中を覗き込む。

 しかし既にコクピットの中はもぬけの空になっていた……なんてことはなく、

 

「え、えーっと、ただいま……?」

 

 申し訳なさそうな顔をして、「ただいま」を告げてくれた。

 

 その顔を見せることで、メンバー達は初めて安堵したのだった。

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 セア「フォースのみんなに遅れを取らないように、私もガンプラの塗装や改造をやってみたいんだけど、ハバキリくん、今度の連休って予定空いてるかな?」

 

 ハバキリ「あー、すいませんけど今度の連休はウチ、両親が帰ってくるから空けられないんですよ。コーダイはコーダイで予定が埋まってるみたいだし……」

 

 セア「そっか、先約があるんじゃ仕方ないね」

 

 ハバキリ「代わりと言っちゃなんですが、ちょっとミツキの伝手を借りてみますね」

 

 セア「ミツキさんの伝手?」

 

 ハバキリ「鴉野(からすの)神社、ってとこなんですが……」

 

 セア「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション、

 

『鴉野神社へようこそ』

 

 わ、綺麗な巫女さん……え?あの人、元ヤンなの!?」

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