ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション   作:さくらおにぎり

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18話 悪意の矛先

 ELダイバーとは、ニュータイプであるのか?

 

 基本的にGBN上でしか存在出来ない彼らは、ヒトが生まれながらにして遺伝子的に備えられた本能である『種を残す』と言う行為が出来ないとされている(仮にそう言った行為が可能だとしても、胎に命を宿すことが出来るかどうかは不明)。

 

 ニュータイプと言う解釈のひとつ(生粋のアースノイドがニュータイプ能力を開花させた例も存在するため決定的な解釈ではない)である『生活圏を地球から宇宙へと移すことで、宇宙への適応力を身に着けた"人間"』のことを指すにしろ、『種を残すことが出来ない時点で、ELダイバーは人間ではない』

 

 しかし、これまではELダイバーの誕生経路は不明瞭なものであったか、ごく一部の者だけが知らされた、惑星『エルドラ』の存在の仮定と仮説を年々組み上げてきた結果、(100%の証明ではないが)、エルドラの古き民(『古代エルドラ人』と呼称する)が電子的な因子となってGBNに流れ着いたことによって発生するのがELダイバーである……と、されている。

 

 この説の登場によって、古代エルドラ人が我々地球人と同じ生殖機能を持っていると前提すれば、

 

 古代エルドラ人=ELダイバー

 

 古代エルドラ人=我々地球人が呼ぶところの『異星人』=宇宙人=宇宙に適応した人類=ニュータイプ

 

 ELダイバー=ニュータイプ

 

 と言う図式は成り立つ。

 

 その一方で、これまでにダイバー達の間で囁かれてきた『ELダイバーはガンプラへの想いの集積によって誕生する存在である』と言う仮説は否定されることになる。

 電子的な因子がネットワーク上に流れ着くことでELダイバーが誕生するのなら、ガンプラへの想いがデータ化するなどと言うのは戯言だ、と一蹴される。

 

 では、システムにガンプラがスキャンされる際に生じる1/1000000以下の余剰データとは何なのか、と言う疑問も浮上する。

 

 その余剰データに古代エルドラ人の因子が"着床"することによって性別や体格、容姿などが形成されると仮定すれば、多少強引ではあるが一応『ELダイバーはガンプラへの想いの集積によって誕生する存在である』説は残る。

 

 だが、現存するELダイバーの大半以上は、自分が古代エルドラ人であると言う記憶は無い。

 これは、余剰データに因子が"着床"する際に、記憶や感情と言ったデータ化出来ない情報は弾き出されてしまう可能性があり、「無い」と言うよりは「失われている」の方が適切かもしれない。

 現に、GBN史上『最初にその存在が認められた』フォース・ビルドダイバーズのサラに、エルドラに関する記憶が無いことが証明している。

 

 記憶の有無に関わらず、地球以外の場所で文化的な生活が行われていたことが驚嘆に値すべきだろう。

 地球以外の場所など、我々地球人にしてみれば、全てが真新しいものだ。

 

 地球人は、未だ重力から離れることは出来ない。

 しかし、重力の外への進出は進みつつある。

 ELダイバーという名のニュータイプは、その架け橋、あるいは水先案内と言えるのではないだろうか。

 

 いつの日にか訪れる、人が宇宙に住む時代の、先駆けたる存在として。

 

 

 

 

 

「……と言う論文を運営に提出しようと思っているのだが、姐さんはどう思う?」

 

 トラちゃんは、コンソールに打ち込まれた論文をバーテンダーに見せていた。

 

「個人的に興味深い論文ではあるけど、ちょっと仮定と希望的観測が多いわねぇ。特に、古代エルドラ人の辺りをもう少し掘り下げないと、伝わりにくいかも」

 

「ふむ、やはりそうか。可能ならば現地調査を行い、現地住民や、かの地に棲む聖獣なる存在に話を聞きたいところだが、ままならんな」

 

 バーテンダーからの意見を聞き、提出はまだまだ先になりそうだとトラちゃんはコンソールを引っ込める。

 

「……と言うか、トラちゃん?」

 

「どうした姐さん、ご覧の通り俺は怪しい奴だが、嘘はつかない誠実な男でもあるのだぞ?」

 

 怪しいのに誠実な人間などいるのだろうか、と言う言葉を飲み込み、バーテンダーは訝しげに目を細める。

 

「惑星エルドラが実在するとか、エルドラの古き民の仮定とか、なんで知ってるのかしら?それ、本当にごくごく一部の人間にしか知らないはずなんだけど」

 

 バーテンダーが知る限りならば、それはGBNの開発陣やベータテスター、しかもその中でも一握りぐらいしか知らないはずである。

 いくらトラちゃんの持つ情報網が並大抵のものではないにしろ、現実世界の個人の口頭でしか語られなかったそれを、何故知っており、さらに深く解釈出来るのか。

 

「フッ、蛇の道は蛇、と言うわけだ」

 

 やはり、胡散臭い笑みを浮かべるだけのトラちゃんであった。

 

 

 

 

 

 ジルの、ハバキリ達に『「ありがとう」を返す』ためのプレゼントの用意が始まってから一日が過ぎた。

 

 彼女がセアに付き添ってもらいながら訪れているのは、シティエリアのアクセサリーショップだ。

 多種多様なアクセサリーの販売、買い取りはもちろん、エリアに赴いての採集やミッション報酬などで入手可能な、アクセサリーの素材を消費することで、販売されていないアクセサリーを生産したり、オリジナルのアクセサリーを作成することも可能である。

 ジルの目的は、オリジナルアクセサリーの作成だ。

 この事はサッキーにも相談しており、『リヴェルタのメンバー達をモチーフにしたアクセサリーを作りたい』と語った。

 

「えっと、ハバキリが暗い青、セアが白、こうちゃが赤、サッキーが緑、エミルが明るい青……蒼?それとわたしがピンクで……」

 

 メモ帳に記した内容を復唱しつつ、ジルはオリジナルアクセサリー作成のヘルプ画面とにらめっこする。せっかくということもあって、自分の分のアクセサリーも作るそうだ。

 セアはその様子を優しく見守りつつも、自分のコンソールに表示させている図面を引く。

 フリーダムガンダムをベースにどう改造するか、塗装するかを少しずつ描き進めているのだ。

 その図面の端には、『G-アルケイン フルドレス』や『ウイングガンダムゼロ』などの画像が貼り付けられているのは、これらを参考にしているためだ。

 

「(本体のホワイトと、こっちのホワイトは別のものに塗り直して……あ、こっちも組み込めるかも?)」

 

 別のラフ画が新規で描かれようとしたところで、

 

「セアぁ」

 

 ジルの困ったような呼び声が聞こえたので、そちらに意識を向け直す。

 

「何か困ったことがあった?」

 

「うん、ハバキリの分のアクセサリーを作ろうとしたらね、えーっと、こくよーせき?コレが足りないって」

 

 そう言いながらジルが画面を見せてくるので、それを見てみると、どうやら素材アイテムのひとつである『黒曜石』が足りないのだそうだ。

 

「それ、私が持ってるかも。ちょっと待っててね……」

 

 セアは自分のアイテムボックスを開き、素材アイテム一覧を確認する。

 

「黒曜石、黒曜石……あ、あった。これ、ジルちゃんにあげるね」

 

「いいの?」

 

「うん。今は使う予定が無いから、ジルちゃんが欲しいならその方がいいと思うの」

 

 はいこれ、とセアは黒曜石をジルに送る。

 ピコン、とジルのコンソールの端にアイテム受け取りのアイコンが表示されたので、それを受け取るジル。

 

「うんっ、ありがとセア!」

 

 受け取ったばかりの黒曜石を消費して、早速アクセサリー作成に取り掛かる。

 

 

 

 一方、フォース・リヴェルタのフォースネストには、ハバキリとサッキーの二人だけがいる。

 コーダイはソロプレイ専用のミッションに赴き、エミルは以前のフォース仲間と会いに行っているそうだ。

 

 ソファーに腰掛けながら、ハバキリはGBNのオフィシャルサイトのニュースを閲覧していた。

 

「…………」

 

 読み進めば読み進むほどに、ハバキリの表情は険しいものになっていく。

 

「難しそうな顔して、何見てるの?」

 

 そう声を掛けながら、サッキーはハバキリのコンソールを横から覗き見ようとするので、ハバキリは少しだけ身体の位置をズラして見せてやる。

 そのニュースの内容とは、昨日の朝にもテレビにも出ていた、元ゲームマスター・カツラギ氏の逮捕についてだった。

 

「昨日の朝のニュースにも出てた。なーんかちょっと怪しくてな……」

 

「あっ、これあたしも知ってる」

 

 サッキーもこの事を知っているようだ。

 

「昨日の夕刊だとね、端末とかアカウントの更新履歴には、不正取引をしたことは確かに記録されていたんだけど、それ以外の他の更新はされてなかったらしいね」

 

「……?」

 

 不正取引は履歴に残っていて、それ以外の更新は無かった?

 

 ハバキリは険しくしていた目をさらに訝しげに細めた。

 

「……それな、逆に言えば『不正取引したこと"だけ"は履歴に残っていた』ってことにならねーか?」

 

 だけ、の部分を強調するハバキリ。

 そう言われて、サッキーも的を得たように目を見開く。

 

「でも、なんでそれだけ履歴を残してたんだろ?ってか、都合の悪いことを隠したいなら、それを一番最初に消さなきゃいけないはずだけど……」

 

「……さーな、お賢いお偉いさんのお考えは、オレ達一般市民の理解の範疇には及ばねーんだろ」

 

 一瞬だけ考えるような間を置いてから、ハバキリは吐き捨てた。

 その一瞬だけ、すらもサッキーは聞き逃さなかった。

 

「ハバキリ……あんたもしかして、危険なこと考えてない?」

 

 それを聞いて、ハバキリの指先が僅かに揺れた。

 

「女のカンってこえーな。ま、心配しないでいーぜ。それをするのは『オレじゃねーから』」

 

 今ひとつ納得出来てなさそうなサッキーを尻目に、ハバキリはオフィシャルサイトを閉じて、ログアウトのコマンドを選択する。

 

「んじゃ、今日はこの辺でお暇するぜ。妹が待ってるんでな」

 

「うん、またねー」

 

 軽く手を振り返しつつ、ハバキリはログアウトしていった。

 サッキーは、先程までハバキリがいた位置に座り直し、背もたれに背中を預けた。

 

「ハバキリ……?」

 

 なんとなく、ハバキリの発言の裏を考えて。

 

 

 

 

 

 翌日。

 ハバキリは昨日に考えていたことを行動に移そうとしていた。

 コウダイとセアには「ちょっと野暮用があるから今日はパス」と、テラスには「今日もGBNするから帰りは夕方頃」と、それぞれ内容の異なるメールを送る。

 一度自宅に帰宅すると、自転車の鍵だけ取るとすぐにまた出る。

 今日もGBNにログインするのは変わらないが、今日は自転車で行ける距離にあるホビーショップからログインするのだ。

 いつもの駅前のガンダムベースではなく、わざわざそちらに赴いてまでログインするには理由があった。

 

 ハバキリは入店する前にダイバーギアを開き、GBN上で活動するためのアバターの情報を書き換え、それを完了させてからログインしていった。

 

 

 

 短めの金髪に、青い瞳の、スレンダーな身体付きの少女ダイバーが、エントランスロビーにログインしてきた。

 

「さって、と……」

 

 それはハバキリーーではなく、『シャルル』だった。

 

 そう。

 

 今からシャルルは『危険なこと』をやろうとしている。

 それに他の仲間を巻き込むわけにはいかない。

 だから『ハバキリではない別の誰か』を装って行動に出たのだ。

 

 ダイバー情報をもう一度確認してから、格納庫へ移動する。

 

 

 

 格納庫に鎮座しているのはもちろんジンライ改ではなく、SDのシャア専用ザクだ。

 素組みにスミ入れだけだった状態から、しっかりとした塗装改造が施され、以前のモノと比較しても格段に性能が高まっている。

 だが、ここにあるのはシャア専用ザクだけではなかった。

 

 シャア専用ザクと向かい合う形で、何故かガンダムデスレイザーまでハンガーにいるのだ。

 

「ッ」

 

 アクティブクロークに包まれたその姿を見て、シャルルは思わず足を止めた。

 

 

 

「「それをするのはオレじゃねーから」って、『そうじゃない誰か』が危険なことするってことでしょ?」

 

 

 

 不意に、ハンガーの陰から聞き慣れた声が聞こえたと思えば、『翡翠色の髪と魔法少女のコスプレをしたダイバー』が現れた。

 

「チッ、なんでバレてんだよ……」

 

 その姿ーーサッキーを見て舌打ちするシャルル。

 

「それくらい分かるわよ。わざわざ「オレじゃない」って言い方までされたらね。……コーダイやセアさんじゃ分からなかったと思うけど」

 

 ハバキリのことを最もよく知るのはコーダイだが、『シャルルのことを最もよく知るのは』サッキーだ。

 まぁそれは置いといて、とサッキーはシャルルの元へ歩み寄る。

 

「危険なことだって分かってたら、尚更一人じゃ行かせられないって。あたし一人だけでも、道連れにしてってよ」

 

「……しゃーねーな、好きにしろ」

 

 ハバキリは敢えて素っ気ない言い方をしたが、内心ではありがたいと思っていた。

 ついでに言えば、隠密行動に適したガンダムデスレイザーの性能は、今回の"危険なこと"には最適だった。

 

「じゃ、好きにしよっかな。……それで、どこを探るとかって目星はついてるの?」

 

「ある。迂闊に喋るわけにはいかねーから、とりあえずオレについてきてくれ」

 

「おっけ」

 

 

 

 シャルルはシャア専用ザクに、サッキーはガンダムデスレイザーにそれぞれ乗り込んで出撃を開始する。

 

「ハバ……シャルル、ザク出るぞ!」

 

「サッキー、ガンダムデスレイザー、出撃するよ!」

 

 リニアカタパルトから打ち出され、ディメンションの蒼空を翔ぶ二機。

 シャルルのシャア専用ザクがサーバーゲートへ進入し、その後をガンダムデスレイザーも続く。

 

 

 

 シャルルが向かった地点は、エスタニア・エリアの『ホンコンシティ』だった。

 市街地に被害を出さないように、港とは反対側の郊外で待機する中で、ガンダムデスレイザーはビームシザースの柄でシャア専用ザクと接触通信を行う。

 

「ここって、あのフォース『虎武龍』の縄張りでしょ?何があるって言うの?」

 

 サッキーは、ハイランカーが目を光らせている場所で何かが起こるとは思いにくい、と言いたいようだが、シャルルは視線を周囲から切らずに応える。

 

「ミツキってダイバーは知ってるだろ?そいつの伝手を通じて情報と、助っ人を呼んでもらった」

 

「ミッキーさんのことは知ってるわよ。でも、助っ人って?」

 

「そろそろ待ち合わせ時間だから、もー来るはずだ」

 

 時刻を確認しつつもう少しだけ待っていると、水平線の向こうから輸送機が飛来してくる。

 シャルルがその輸送機の識別照合を確認し、シャア専用ザクの右手を振る。

 輸送機は着陸しないようで、格納庫から一機のガンプラが出撃してきた。

 

「すまないねぇシャルルさん、ちょっと待たせたかな」

 

 モノトーンカラーのゲイレール。

 通信を繋いできたのは、この間にハバキリ達と交流試合を行ったフォース・フラワーズ二軍のリーダー、ナオエだった。

 

「いえいえ、こっちも来たばっかですから」

 

 シャア専用ザクが一歩前に出て応じる。

 ふと、ゲイレールの頭部がガンダムデスレイザーに向けられる。

 

「ん、そっちの死神みたいなガンプラは、確かリヴェルタの……」

 

 ナオエが思い起こそうとしている途中で、サッキーも通信に割り込む。

 

「どうも、お久しぶりでーす。あたし、"シャルル"のフレンドのサッキーって言います。無理言って付いてきちゃいました」

 

 話の口裏を合わせるために、シャルルのフレンドと言うことを先に伝えておく。

 

「あぁ、やっぱりリヴェルタのメンバーさんだったね」

 

 久しぶり、とナオエが返すのを見てから、シャルルは話を切り出す。

 

「ナオエさん、久しぶりの再会のところ悪いんですが、早いところ始めましょ。せっかく足取りを掴んだのに、逃げられたんじゃ意味がない」

 

「っとそうだったね。早速、"仕事"に入ろうか」

 

 ナオエのゲイレールは、シャア専用ザクとガンダムデスレイザーに接触通信を行う。

 

「今、このエスタニア・エリアの港に、"不審な貨物船"が停泊し、積荷を下ろしている」

 

 声の量とトーンを落とした低い声に、シャルルは何事も無さげに、サッキーは背筋を強張らせる。

 続いて送信されたデータに、つい数分前に撮影された画像が映し出される。

 そこに映っているのは、真っ黒な船体に、ドクロマークがデカデカと主張する黒い幌、やたらと刺々しく趣味の悪そうな装飾が過剰に施されている。

 

「貨物船、ってかどう見てもコレ『海賊船』じゃないですか」

 

 サッキーがそう言うのは尤もらしいことだ。

 これのどこが普通の貨物船に見えるだろうか。

 

「そう、海賊船だね。もちろんGBN上では、艦船型のフォースネストもあるから、これはそのひとつだろう。歴史の授業を受けているなら分かると思うけど、中世期の海賊は、海軍に偽装したりして悪事を働くことが多々あった」

 

 ナオエが補足する途中で、シャルルがその言葉の裏に気付く。

 

「海軍に偽装した海賊がいるなら、『海賊に偽装した海軍』……この場合なら、素行の悪いプレイヤーのフリした運営がいる、と?」

 

 シャルルのその答えに、ナオエは頷いた。

 

「うんむ、シャルルさん正解。まぁ普通、運営なら「私達は運営の者である」と主張しておけば、誰も手を出そうとはしないんだけど……『運営の者であると公言出来ないような、何か後ろめたいことを腹に隠している』とは思わないかな?」

 

 それを聞いて、サッキーは何のことかと小首を傾げ、シャルルは「ま、そんなところだろ」と呟く。

 

「この海賊船も気になるけど、それよりも気になるのが、積荷の方だ」

 

「……その積荷が、『後ろめたいこと』ってヤツですか?」

 

 サッキーは訝しげに、画像の端に見えるコンテナを拡大する。

 見た目はただの貨物コンテナだ。

 

「恐らく。僕が気にしてるのは積荷の方……と言うよりは、その積荷の宛先かな」

 

 荷物の中身が後ろめたいのなら、当然受取主も何かしら後ろめたい事情を抱えているものだ。

 

「送り先そのものを調べたいけど、向こうも警戒はしてるだろうねぇ。そこで今回、シャルルさんに頼もうとしたのは、海賊船に攻撃を仕掛けての陽動だ」

 

「オレが陽動を掛けて、ドンパチで混乱している内にナオエさんが潜入するって予定を立ててたけど、方向修正だ」

 

 シャア専用ザクのモノアイが、ガンダムデスレイザーに向けられる。

 

「この陽動は、サッキーに任せたい」

 

「あたしが?」

 

「デスレイザーにはミラージュコロイドがあるし、ビームシザースは水中でも使える。オレのザクよりも海での戦闘に向いてるって理由だ」

 

 ターゲットを急襲し、撹乱させるのなら、ステルス機能を備えたガンダムデスレイザー、その使い手であるサッキーの方が向いているとシャルルは言うのだ。

 

「もちろん、適当なところで切り上げて撤退してくれた方が、足が付かなくて助かる。やってくれるか?」

 

「つまりあたしは、海賊船にちょっかい掛けて荒らすだけ荒らしたら、トンズラするってことね。ん、分かった」

 

 サッキーもその理由に納得したようで、頷く。

 

「なら、最終確認だ。サッキーさんが陽動を仕掛けて、その隙に僕とシャルルさんが内部に潜入、可能な限り調査した後はすぐに逃げる。合流地点は、ポイントX01Dでいいかな」

 

「「了解」」

 

 ナオエが確認を纏め、それに了解を返すシャルルとサッキー。

 

「よし……作戦開始だ」

 

 同時に、サッキーのガンダムデスレイザーはアクティブクロークを閉じてミラージュコロイドを起動、その姿が風景に溶け込む。

 シャルルとナオエは、それぞれシャア専用ザクとゲイレールから降りて、目標地点へ向かう。

 

 

 

 

 

 シャルル、サッキー、ナオエの三人が作戦を開始した頃。

 海底スレスレを蒼いガンプラと、それに牽引してもらう形で『桜色のSDガンダム』が通過していた。

 

『なんかごめんね、ミーシャくん。アスクレプオスが水中活動に向いてるからって、わざわざ運んでもらって』

 

『いいんですよ。ガンプラひとつ運ぶくらい、何ともないですから』

 

 その蒼いガンプラーーガンダムアスクレプオスシャードが、アイカメラを海面へ向ける。

 同時に、アクティブソナーが大型の艦船の反応を捉える。

 

『いました、"例の荷物"を積んだ海賊船です』

 

『サヤ先輩の戦術予報が正しいなら、ちょうど今積荷を降ろしてる頃かな?』

 

 ガンダムアスクレプオスシャードが捉えているデータが共有される。

 今は近付き過ぎない程度に様子を見るべく、ガンダムアスクレプオスシャードはパイソンクローをアンカー代わりに海底に突き刺して、機体を固定する。

 

『攻撃開始のタイミングは、ユイさんの狙撃が合図でしたね』

 

『うん。ユイちゃんもそろそろ時間合わせしてると思うし……』

 

 気楽そうに会話を交わす二人だが、不意にアクティブソナーが別の反応を捉えた。

 

『ソナーに別の反応?これは……MSです』

 

『海賊船に近付いてるみたいだけど、護衛の随伴機とかじゃないよね?』

 

 それが想定外のイレギュラーだと気付くのは、この直後であった。

 

 

 

 

 

 海賊船ーーに偽装した貨物船は、突然の激震に襲われた。

 

「爆発!?索敵班は何をしていた!」

 

 船長が怒鳴り散らす中、すぐに乗組員達が状況把握を急ぐ。

 

「所属不明機による攻撃です!」

 

「アンノウン、既に本船に取り付いています!」

 

「第三カーゴブロック大破、損傷箇所から浸水を確認!」

 

「所属不明機、ガンダムデスサイズヘルがベースである模様!」

 

『こちら第三格納庫!浸水が激しいぞ、損傷箇所のブロックを切り離して隔壁閉鎖だ、急げ!』

 

『MS隊は迎撃だ!今すぐ出せるアンクシャを全部出せって言ってんでしょ!』

 

『敵機の反応なんかどこにも無かっただろ!?なんでいきなり出てくるんだ!』

 

『バカ野郎!ステルス持ちの奴に決まってんだろ!』

 

『こっ、こちら第二格納庫っ、あ、あくまっ、悪魔が出t』

 

『おぉいっ、こっちは積荷降ろしてる最中だぞ!?えぇぃもういい中止だ中止!タラップを上げろ、積荷を攻撃されたらたまらん!』

 

 あちらこちらで矢継ぎ早に報告と指示と怒鳴り声が飛び交うブリッジの中で、船長は歯軋りで怒りを抑えようとする。

 

「ゲリラどもめ……さすがに笑えんぞッ」

 

 

 

 

 

 所属不明機ーーサッキーのガンダムデスレイザーは、ミラージュコロイドを展開した状態で海賊船に接近、カーゴブロックに取り付いてからミラージュコロイドを解除しつつアクティブクロークを開き、ビームシザースで隔壁を一閃。

 船体を穴だらけして浸水させ、水害を与えると言うものだ。  

 

「さってと、ちょっと派手に行こうかしら、ねっ!」

 

 サッキーはアームレイカーを引き上げ、ガンダムデスレイザーを上昇、敢えて姿を晒すように海賊船の甲板に取り付くと、対空砲や主砲を片っ端からビームシザースで破壊していく。

 

 暴れ始めてから数十秒が過ぎた頃、破壊し切れていない格納庫から、シャッターを無理矢理抉じ開けながら這い出るように、丸みを帯びた上半身と鋭角な下半身混ぜ合わせたような青緑色の機体ーーアンクシャがMS形態で一機、また一機と現れる。

 ビームライフルでは船に被害を与えてしまうため、ビームサーベルで排除しようとガンダムデスレイザーに迫る。

 アンクシャを見据えつつ、サッキーはモニターの端に映る港をちらりと目を向ける。

 

「MSも出てきたし、後は逃げよっかな」

 

 これだけ船に被害を与えておけば、少しの間くらいは修復に時間を割かなくてはならないだろう。

 帰る前に火器のひとつでも潰しておこうかと算段を立てるが、

 不意に明後日の方向からアラートが鳴り響く。

 

「ロックされたっ?」

 

 サッキーは慌ててガンダムデスレイザーのアクティブクロークをクローズモードに切り替え、直後に彼方から放たれたビームが黒翼に直撃する。

 高密度のパーツの上から耐ビームコーティングが施されているアクティブクローク越しにも、ビリビリとした振動がコクピットの中のサッキーにも伝わる。

 詳細は分からないものの、射程も出力も並大抵のビーム兵装ではないことだけは確かだろう。

 

「んッ……別働隊のスナイパー?」

 

 万が一を想定していたのか、遠距離から狙撃出来る者を控えさせていたのだろう。

 であれば、なおのこと長居は無用だ。

 ガンダムデスレイザーはそのまま海に飛び込もうとするが、その前に一際大きく海賊船が揺れた。

 エンジン部が炎上し、船そのものが傾き始め、アンクシャ達は震動に足を取られて転倒したりバランスを保とうと四苦八苦している。

 

 明らかにこの船を狙った攻撃だ。

 

「っ、今度はなに!?」

 

 それはつまり、『自分以外にもこの海賊船を狙う第三者がいる』と言うこと。

 その『第三者』も、すぐに海中から飛び出しては甲板に着地してきた。

 

『武者飛駆鳥』をベースにしているらしい、桜色のSDガンダム。

 後頭部から伸びる黒髪のようなバインダーが、海水に濡れて艷やかに光る。

 

 機体銘『麗桜姫頑駄無』

 

『ちょっとちょっと、これどう言う状況?』

 

 そのダイバー……『ハルナ』は、アンクシャ部隊とガンダムデスレイザーを見比べては、この事態を前に躊躇する。

 

 

 

 

 

 港がパニック状態に陥っている最中、シャルルとナオエはそのどさくさに紛れつつ、コンテナの中身が運ばれている施設へ接近している。

 誰かに気付かれないように細心の注意を払う二人だが、外の騒乱のせいでそれどころではないのか、いとも容易く施設内へ潜入出来た。

 

 足音を極力立てぬように、壁を背中にしつつ、気配も殺しながら進む。

 

「シャルルさん、銃の腕前に自信は?」

 

 懐から拳銃を抜きつつ、ナオエは目線だけをシャルルに向けつつ、白兵戦の心得はあるかと遠回しに訪ねる。

 

「対MS砲があれば、ザク一機をぶっ飛ばせるくらいには」

 

 シャルルもアイテムボックスからアサルトライフルを取り出し、弾倉をセットしつつ『銃の腕前』を答える。対MS砲が銃の腕前に含まれるのかは些か疑問だが。

 

「そりゃ頼もしい。……行くぞ」

 

 ナオエのトーンの低い声に肯き、さらに施設の奥へ進む。

 

 

 

 裏口の窓から入ってすぐは、何の変哲もないオフィスのようであったが、奥へ進むほどに照明器具の数が減り、まるで夜中の病院とさえ思える。

 

「……ん?」

 

 ふと見えた光景に、シャルルは足を止めた。

 

「どうした?」

 

 ナオエもすぐに振り返って戻ってくると、シャルルの視線の先を見やる。

 

『SHI-ELD』と言う文字が赤い照明越しに見える。

 その下には、鍵の掛かったドア。

 

「ここ、なんか怪しーですよ。普通、『シールド』なんて単語、ドアの表示に使わねーでしょ」

 

「ふむ……」

 

 どのみち、時間もあまりない。

 ナオエはドアの鍵穴に拳銃を押し付けると、一発、二発と撃ち込む。 

 ガギンッ、ガギンッ、と言う耳障りな音が二回響き、ナオエは力任せにドアノブを回し開けた。

 鍵を壊したのだ。

 ドアが開かれると同時に、シャルルが油断なくアサルトライフルを構えつつ中を覗う。

 ドアを開けたらいきなり撃たれた、なんてことはなく、それでも油断なく辺りを見回す。

 ナオエも拳銃を構え直しつつ続いてくる。

 

 無機質な壁に張り巡らせるように設置された、巨大な試験管ーーカプセルだろうか。

 

 それを見たシャルルは、

 

「ッッッッッ!?!?!?」

 

 声を上げそうになった口を抑えた。

 ナオエも、その光景を見て絶句する。

 

 培養液か何かに満たされたカプセルの中に、『ジル』がいる。

 

 しかもーー『それと同じもの』が、壁中に。

 言ってしまえば、

 

 

 

『た く さ ん の ジ ル が カ プ セ ル に 閉 じ 込 め ら れ て い る』のだ。

 

 

 

「なんな、んだよ、こ、れ……」

 

 何故ジルがここにいる?

 何故ジルと全く同じ容姿をしたELダイバーがこんなにたくさんいる??

 ジルを閉じ込めているこのカプセルはなんだ???

 どうしてこんなものがこんなところにある????

 一体どんな目的があってこんなことをする?????

 

 ????????????????????

 

 シャルルーーアメノ・ハバキリに書き込まれる情報が脳のキャパシティを超えそうになった時、

 

「……シャルルさん、ここまでにしよう」

 

 ナオエがシャルルの腕を掴むと、ぐいっと引っ張り上げた。

 

「脱出し、合流予定地点に向かう」

 

 そのままシャルルを引きずるようにして、その場を後にしていく。

 

 

 

 幸い、誰にも見つかることなく施設から脱出することが出来たシャルルとナオエだが、まだ港の方から爆発などの戦闘音が聞こえてくる。

 

「サッキーさん、まだ戦っているのか?」

 

 ゲイレールを立ち上げつつ、ナオエはレーダーに目を通して現状把握を急ぐ。

 

「囲まれて逃げられなくなってるかもしれません。一度様子を見にいって、サッキーがいるならそのまま救出、いなけりゃ反転して合流予定地点に向かいましょ」

 

 混乱しかけていたシャルルだが、戦闘になる可能性が高いと読むとすぐに頭を戦闘モードに切り替え、スリープモードにしていたシャア専用ザクを再起度させるなり、すぐにフルスロットルで加速させて港へ急行、ナオエのゲイレールも遅ればせながらもその後を追う。

 

 

 

 

 

 ホンコンシティの港から少し離れた離島の海岸線には、菫色のケルディムガンダムーーガンダムマナジュリカが、大型のロングライフルを腰溜めに構えていた。

 そのダイバーのユイは、ライフル型コントローラーに片目を通しつつ舌打ちした。

 

「ちっ、あのデスサイズヘルが邪魔ね……」

 

 自分の最初の狙撃が、作戦開始の合図としていた言うのに、突然現れた第三者ーーガンダムデスレイザーと言うらしい改造機のせいで台無しだ。

 だからといって作戦を中止するわけにはいかない、とにかく事態を動かすための一撃を放った。

 あの機体、ガンダムデスレイザーを排除しようとしたものの、巨大なアクティブクロークに阻まれて撃墜には至らなかった。

 自分が最初の一撃を撃ったことで、ハルナとミーシャもそれぞれ動き始めてくれた。

 ハルナは船上で火器郡を破壊して回り、ミーシャは船を攻撃して浸水させるはずだったが、それも全てガンダムデスレイザーがやってしまったではないか。

 そのせいでハルナもミーシャも、どう行動したものかと戸惑いながらも行動を開始している。

 海賊船(の外観をした貨物船)へ与えた被害はもう十分だろう、やり過ぎても返って都合が悪い。

 ならばこれ以上の戦闘は無意味だが、それを伝えようにもここからでは距離が遠く、短距離通信も届かない。

 ガンダムマナジュリカはその『GNロングライフル』を左肩へマウントさせ、各部スラスターから粒子を吐き出しながら現場へ急ぐ。

 

 自分達と、ガンダムデスレイザーと、アンクシャの群れ。

 

 想定外のイレギュラーの出現によって、三つ巴の混戦へ陥ってしまった。

 

 

 

 

 

 沈み始める海賊船の甲板で、ビームシザースを振り回しながらサッキーは悪態をついていた。

 

「ホント何なのよ、この、状況ッ!」

 

 接近してきたアンクシャが振るうビームサーベルを、ビームシザースで弾き返し、返す刀の要領で振り抜き、真っ二つにしてみせる。

 

 アンクシャ、撃墜。

 

 直後、抜き放った小太刀を逆手に構えた麗桜姫頑駄無が斬り掛かってくる。

 大振りな武器であるビームシザースでは、小回りの効く相手と相性は良くない。

 ガンダムデスレイザーはすぐにビームシザースを引き戻し、柄で小太刀を受けながしつつ喰い止める。

 ギリギリギリギリとビームシザースの柄と小太刀が火花を散らす中、麗桜姫頑駄無から接触通信が届く。

 

『ねぇっ、いきなり介入したと思ったら邪魔したりしてっ、何なの!?』

 

「はぁっ?こっちからしたら、あたしが邪魔されてるんですけど!?」

 

 売り言葉に買い言葉とはまさにこれ。

 ガンダムデスレイザーは強引に麗桜姫頑駄無を蹴り飛ばし、ビームシザースで斬り掛かろうとするが、即座に側面からアラートが鳴り響く。

 海面から上半身を覗かせるガンダムアスクレプオスシャードが、パイソンクローの中央部からビームガン『ラピッドショット』を連射して牽制してくる。

 

「水中にもいるし……っ!」

 

 サッキーは咄嗟にアクティブクロークの一部を閉じて、ラピッドショットを防ぐ。

 その間にも体勢を立て直した麗桜姫頑駄無だが、近くにいたアンクシャがビームサーベルを振り翳して来る。

 

『あぁもぉっ、なんかムチャクチャ!』

 

 ビームサーベルが麗桜姫頑駄無に届くよりも先に小太刀がアンクシャの腕を斬り裂き、間髪なくバイタルバートに切っ先を突き立てられた。

 

 アンクシャ、撃墜。

 

 それとほぼ同時に、ラピッドショットでガンダムデスレイザーを牽制しているミーシャから通信が届く。

 

『ハルナさんっ、11時方向から敵の援軍です!数は六つ、空中と水中から来ます!』

 

 彼の通信内容通り、その方向からジェットストライカーを装備したウィンダムと、マリンハイザックの二個小隊が波を蹴り立てながら迫り来る。

 

『……ちょっと派手にやり過ぎたかも?』

 

 本来なら増援が来る前に事を片付けるつもりであったが、その増援が到着した今、ここらで離脱しなくては囲まれて逃げられなくなる。

 であれば、現時点で最大の脅威であるガンダムデスレイザーをどうにか退けて、ガンダムアスクレプオスシャードに引っ張ってもらうしかない。

 だが、彼女の意志とは関係なく事態はさらなる混乱を生むことになる。

 麗桜姫頑駄無が再度ガンダムデスレイザーへ接近しようとするものの、

 

「ところがアルケー!」

 

 不意に足元に銃弾が降り注いできた。

 何事かと見上げる麗桜姫頑駄無の視界に、ヒートホークを頭上に構えながら降ってくるSDのシャア専用ザクが映る。

 

 

 

 

 

 偽装海賊船が何者かの攻撃を受けている。

 その報せを受け、すぐにスクランブル発進したウィンダム隊とマリンハイザック隊。

 報せ通り、偽装海賊船がゲリラらしきガンプラの攻撃を受けて沈み掛かっているのを発見する。

 大立ち回りを演じるガンダムデスサイズヘルの改造機と、桜色のSDガンダム、及びSDのシャア専用ザクとガンダムアスクレプオスを目視で確認。

 

『敵機を捕捉……攻撃開始!』

 

 船への被害を最小限に留めつつビームライフルを放とうとするウィンダム部隊だが、隊長機のウィンダムのビームライフルが、横から割って入って来た銃弾によって撃ち抜かれ、破壊される。

 

『何だ!?』

 

 ビームライフルの爆発をシールドで防ぎつつ、銃弾が飛んできた方向に頭部を向ける隊長機。

 

 視界の先に、目視でギリギリ見えるような距離に、水上をホバーで機動する白黒の機体ーーナオエのゲイレールが、グレイズの120mmライフルを構えているのが見える。

 

「さてさて、ちょいとおじさんと遊んでもらおうかい」

 

 ホロスコープのターゲットマーカーを焦点に合わせ、ナオエはトリガーを引き絞る。

 

 

 

 沈みつつある海賊船の上で、シャア専用ザクのヒートホークが麗桜姫頑駄無の小太刀と打ち合い、そのすぐ下の海中ではガンダムデスレイザーのビームシザースとガンダムアスクレプオスシャードのシザーブレードが打ち合う。

 シャルルとサッキーの二人は、どちらかと言えば苦戦していた。

 シャア専用ザクと相対する麗桜姫頑駄無は、その性能差が大きい。

 スピードならどうにか互角だが、パワーに関して言えば分が悪い。

 小振りで華奢に見える小太刀は、その実凄まじい斬れ味と強度を持ち、下手をすればヒートホークの刃すら斬り裂きかねないほどだ。

 しかも、それが目視困難な速度で振るわれるのだ、目の前で死線を交わし合うシャルルからすれば、0.1秒でも集中力が途絶えた瞬間に首が飛ぶとすら見ている。

 とは言えシャルル自身、ここで麗桜姫頑駄無を倒そうとは考えていない。

 背を向けても良い頃合いを見計らい、その時が来ればさっさと逃げるつもりだ。

 

「(つっても、その頃合いが全く見えねーな)」

 

 麗桜姫頑駄無からの攻撃と攻撃の合間は二秒未満、まさに息つく暇もないのだ。

 

 一方、海中のガンダムアスクレプオスシャードと戦うサッキーのガンダムデスレイザーだが、相手がそもそも水中機動性に優れた機体であり、いくらビームシザースが水中でもビーム刃を形成できると言っても、それはアドバンテージにはなり得なかった。

 その上、高度なAMBACと飛行能力を持つアクティブクロークも、水の中ではその質量や面積が仇になってしまっていた。

 水圧の影響を受け過ぎるからだ。

 結果、アクティブクロークは防御の役割しか果たせず、しかしその防御力も瓦解しつつある。

 ノロクサとしか動けないガンダムデスレイザーに、各部のハイトルクスラスターによって縦横無尽に泳ぐガンダムアスクレプオスシャードは、その黒翼にパイソンクローを何度も叩き付けている。

 

『この翼も堅い……!?』

 

 並大抵の装甲ならば一撃で粉砕するほどの威力のパイソンクローを何度も防がれて、ミーシャは驚きを隠せない。

 

「褒め言葉をどー……もっ!」

 

 アクティブクロークを開きながら反撃にビームシザースを振り抜くが、ガンダムアスクレプオスシャードは一瞬で間合いから離れてしまう。

 それを見やりつつ、サッキーは自機の損傷状態を確認する。

 アクティブクロークの損傷は大きく、これ以上下手に防御すれば破られる恐れがある。

 どうする、とサッキーはビームシザースを構え直しつつ、水泡を纏いながら猛スピードで向かってくるガンダムアスクレプオスシャードを睨む。

 

 

 

 ウィンダムからのビームライフルとジェットストライカーによるロケットポッド、さらにはマリンハイザックからのサブロックガンが、文字通りの波状攻撃となってナオエのゲイレールを襲う。

 

「さすがに六対一じゃ厳しいねぇ……」

 

 リアスカートのホバーユニットのおかげでどうにかイニシアティブを維持出来ているが、ライフルの残弾も心許ない。

 不意にウィンダムの一機がビームライフルを捨ててビームサーベルを抜刀、ジェットストライカーを加速させて一気に接近してくる。

 接近戦になるか、とゲイレールは左手に握るバトルアックスで迎え撃とうとするが、その直前で接近してきたウィンダムが横殴りのビームを受けて爆散した。

 

 ウィンダム、撃墜。

 

「ん?」

 

 何事かとナオエはそのビームが放たれた方向に視界を向ける。

 

 その間にも、もう一機ウィンダムがビームに貫かれた。

 まだいるのかと動揺して動きを止めた最後のウィンダムは、ゲイレールからの射撃で撃ち落とされた。

 狙撃を行っているのは、GNロングライフルを両手で構えた機体ーーガンダムマナジュリカ。

 あちらの方が脅威だと判断したのか、マリンハイザック達は水面から顔を出して肩やバックパックからミサイルを全弾発射する。

 それらミサイルの群れを前に、ガンダムマナジュリカは冷静にGNロングライフルを捨てて、流れるように2丁のGNビームピストルⅡを抜き放つ。

 それを無造作に正面へ向け、大した狙いも付けないまま連射、放たれるビーム弾は吸い込まれるようにミサイルの群れを捉えていく。

 爆発の閃光が水面を眩く照らしーー次の瞬間には、ガンダムマナジュリカの右肩に連結されたダブルガトリングガンが猛火を吹き、マリンハイザック達を次々に沈没させていった。

 

「これはまた……強敵か」

 

 ウィンダムやマリンハイザックなど足元にも及ばぬ強敵が現れたとナオエは警戒するが、ガンダムマナジュリカはゲイレールなど目もくれずに反転、炎上する海賊船へ向かった。

 

 

 

 ついに、酷使のあまりヒートホークが小太刀によって折られた。

 

「チッ……!」

 

 唯一の近接武器を失い、シャルルは舌打ちしつつシャア専用ザクを飛び下がらせる。

 こんな相手にライフルなど通じるまい、しかしやるしかないとザクマシンガンを構えようとするが、不意に麗桜姫頑駄無は明後日の方向にマニピュレーターを振り始めた。

 すると、どこからか現れた菫色のケルディムガンダムーーガンダムマナジュリカが海賊船に近付き、麗桜姫頑駄無を抱えるように掴む。

 

『もー、ユイちゃん遅いよ。こっちは大変だったんだから』

 

『仕方ないでしょ、こんなに混乱した戦況じゃ考える時間だって要るんだから。……トランザム!』

 

 圧縮粒子を全面解放、ガンダムマナジュリカがトランザム特有の赤い輝きに包まれると、一瞬で麗桜姫頑駄無を連れて行ってしまった。

 

 それに一拍遅れて続くように、接近戦モードのガンダムアスクレプオスシャードは突如反転、この海域から離脱していく。

 

「……逃げた?」

 

 遠くへ消えていくガンダムアスクレプオスシャードを見送るサッキーは、アクティブクロークを開いてガンダムデスレイザーを浮上させる。

 海面から顔を出すと、既にシャア専用ザクとゲイレールが合流しているところだった。

 

 シャア専用ザクはホバーユニットの生きているゲイレールに運んでもらい、ガンダムデスレイザーは未だ健在のアクティブクロークを羽ばたかせて、エスタニア・エリアを離脱、サーバーゲートを通じてベース基地へと帰還する。

 

 

 

 

 

 メンテナンスハンガーに各々のガンプラを降ろし、整備を始めていく。

 シャルルのシャア専用ザクは装甲の損傷は当然だが、機体を構成するCSフレームには過剰な摩耗が生じていた。

 いくら全塗装と簡単な改造を施しているとは言え、その完成度や、シャルルーーハバキリに合わせた改修が施されているジンライ改には及ばない。

 こりゃーこっちにも本格的な改修改造が要るかもな、とぼやきながらもシャルルは後は時間経過を待つだけの状態にまで終わらせる。

 ナオエのゲイレールは、弾薬と推進剤の補給が必要なくらいで機体の損傷はそれほどでもなかった。

 サッキーのガンダムデスレイザーは、アクティブクロークの損傷が甚大、加えて水圧の影響を受けていたせいで翼全体にも負荷が掛かっており、もう少し時間が必要そうだ。

 

「あーもう、これ直すの大変なのに……」

 

 彼女が四苦八苦している後ろで、シャルルは先程に見た光景を思い出していた。

 

 何人もの"ジル"が培養液に満たされたカプセルの中で眠っていた、あの不気味な光景を。

 

 アレは、本当に何なのだろうか。

 初めてジルと出会った時、彼女は運営の強硬派の者達に追われているようだったが、あれと何か関係があるのか。

 それに、アレを他のメンバー、ーー特にジルに話しても良いものか。

 自分は、見てはいけないものを見てしまったのか。

 

 どうするべきかと悩んだ時、ナオエの方から通話のコール音が聞こえた。

 

「はいこちらナオエです。……何?……の改竄?それは……ははぁ、なるほど……カツラギ氏の……には何かおかし……っていた。……裏は取れて……、……」

 

 断片的に聞こえてくる単語から、何やら不穏なことが起きているらしく、そちらへ目を向けるとナオエの表情が険しいものになりつつある。

 すると、

 

「そんなバカな!連中はそこまでするのか!?正気の沙汰とは思えん!」

 

 怒鳴るような声にシャルルは目を細め、サッキーも「ひゃっ!?」と竦み上がる。

 

「……あぁすまん、ログアウトする。一度切るぞ」

 

 ナオエは一度通話を切り、すぐにログアウトしていった。

 サッキーはシャルルの顔を覗う。

 

「ナオエさん、どうしたんだろ……なんかすごい怒鳴ってたけど」

 

「……さーな、何か良くないことでも起きたんじゃねーの?」

 

 シャルルはシャルルで、何となくながらナオエがどこの誰に何を話していたのかの察しはついている。

 恐らく、RMTを始めとする、GBNに関する犯罪などを取り締まるエージェントーーその長頭か何かだろう。

 今回のあの不気味な光景のことを報告してーー何か分かったことがあるのかもしれない。

 

 それは恐らくーーロクなことではあるまい。

 

 

 

 

 

 GBN内の、奥深くのサーバー。

 暗礁宙域の中に、スペースデブリーーに偽装した"何か"。

 その内部は司令部のようになっており、暗がりの中で数人のダイバーがコンソールを叩く音だけが響く。

 

「エスタニア・エリアの"ラボ"の映像を再生しろ」

 

「ハッ」

 

 再生される映像には、二人組のダイバーが『SHI-ELD』の部屋の鍵を壊して侵入しーーすぐに出て行くまでの一分間。

 

「見られているか……"爆破"しろ」

 

「了解、自爆コードを入力。五分後に爆破します」

 

 ダイバーの一人がコンソールに何かを入力していくのを尻目に、次の指示が下る。

 

「『ニュータイプ部隊』の完成には、後どれくらいになる?」

 

「当初の予定よりも五日……いえ、一週間ほど遅れております。"完成体"の逃走と、ゲリラによる妨害が痛手である、とのことです」

 

「そうか。……『百花繚乱』の開催は今週末だったな」

 

「ハッ、スポンサー『サザメス』からの提供も、万事滞りなく行われます」

 

「それをエサに"完成体"の所属するフォースを誘き寄せ、目標を確保せよ」

 

「司令、『五代目スゴック』にもこの件を連絡を?」

 

「……あのボーカルバンドグループか。リーダーに少々問題はあるが、実力と経歴は申し分ない。要求は全て呑んでやると返信してやれ」

 

「ハッ」

 

 暗闇に潜み、計画を進めていく者達。

 

 それを統括するのはーーーーー『ガンダイバー』の姿をしたアバターであった。

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 ハバキリ「む……」

 

 コーダイ「おいハバキリ、何そんな変な顔してんだ?」

 

 ハバキリ「……あー、今日の晩飯何かなーって」

 

 コーダイ「なんだそりゃ。それより、今週末に『百花繚乱』が開催されるんだ!テンション上げようぜ!」

 

 エミル「今年は、大手ブランドの『サザメス』がスポンサーらしいな、噂にはあの『五代目スゴック』も来るとか……」

 

 セア「『百花繚乱』?」

 

 サッキー「女性限定の一対一のバトルトーナメントですよ。あたしも出ようと思ってるんですけど、セアさんもどうですか?」

 

 ジル「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション、

 

『百花繚乱!乙女達の戦い』」

 

 ハバキリ「ん、どーしたテラス。なぬ、お前も出たい?」

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