ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション   作:さくらおにぎり

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19話 百花繚乱!乙女達の戦い

 トラちゃんとマイマイが、GBNの機密に関わるような案件をベラベラと喋る中、ケンさんはいたたまれない気持ちになりながらも『俗物』を啜り、ふと気になったことをバーテンダーに訊ねた。

 

「店長、先程のお二方の話を聞いていて申し訳ないのだが、『強化人間』や『クローン』とはなんの事か教えていただけないだろうか?」

 

 ケンさんの問い掛けによって、バーテンダーはハッとなった。

 

「あぁー……そうだったわ、今ここには一般ユーザーもいるんだった。ケンさん、今のお話はオフレコでお願いね?」

 

「内容がよく分からんから、言い触らしようがないのだが……まぁそれは分かった」

 

「で、強化人間やクローンについて、だったわね?ガンダム的な解釈になるけど、それでもいい?」

 

「私はガンダムについてもよくは知らんからな。それで頼む」

 

 ケンさんの確認を取ってから、バーテンダーは言葉を選びながら話し始める。

 

「まずは、強化人間の方ね。まぁ……簡単に言うと、"生きた兵器"、MSのパーツの一部扱い。人間の脳や身体を、薬物や洗脳によって人為的に強化する、文字通りの"強化"人間ってこと。普通の人間には耐えられないようなG(重力加速度)に対応したり、増幅された脳波を用いてサイコミュ……つまり、専用の小型の端末機器を思考だけで動かしたりもするわ」

 

「なるほど。"非人道的"であることに目を瞑れば、確かに強力な"兵器"になる、と言うことか」

 

 非人道的、兵器、と言う言葉を強調しつつ、ケンさんは頷いた。

 

「で、もうひとつのクローンね。これは、優れた能力を持った人間の遺伝子を解析して、それと同じか、もしくは限り無く近い形の塩基配列に組み替えて複製した人間のこと。あくまでも遺伝子を組み替えているだけだから、これが強化人間と同じかどうかは、解釈次第。……一番非人道的なのは、『強化し終えた人間と同じ遺伝子配列をクローンとして増産すること』ね」

 

「人間を外的要因によって強化するだけでも唾棄すべきだが、そのような者を"消耗品"扱いし、あまつさえその"代替品"さえ作り出すとは……"ガンダム"とは誠に奥が深く、命が軽いものだな。……現実にあってはならんことに変わらんが」

 

 さらには消耗品、代替品と言う言葉まで使ってみせるケンさん。

 

「まぁそれはあくまでもアニメの設定の話であって、今現在の世界にそんなことは行われてないわよ。オリンピックに向けたドーピングだけは絶えないけど」

 

「……その強化人間やクローンが、GBNとはどう関係するのだ?オンラインゲームのアバターの能力強化などは、あり触れたものだと思うのだが」

 

 強化人間とクローンの意味について知ったところで、ようやくケンさんの本題に移る。

 強力な武器を装備したりアイテムを使うことで能力を上げたり下げたりするのは、別段おかしなことではない。

 何故そんなことが問題になるのかとケンさんは言うのだが、その先はトラちゃんが答える。

 

「GBNに限らず、この手のオンラインゲームは、性能を引き上げる不正なツールやデータ……"チート"が横行しやすいのです。現に、六年前の旧ブレイクデカールや、去年のルビスシステム……新型ブレイクデカールなどがその凡例」

 

 まぁそれだけならまだ良かったのですが、と言葉を続ける。

 

「本来ならガンプラに落とし込むためのソレを、『ELダイバーに使ったらどうなる』のでしょうな?」

 

 

 

 

 

 調査を終えたシャルルは、それ以上長居する気は起きず、ログアウトした。

 

 シャルルから本来のアメノ・ハバキリに戻った彼は、ヘッドギアを外して、ダイバーギアとシャア専用ザクを取り出す。

 脳裏に浮かぶのは、あの光景ーー『複数のジルが培養液に満たされたカプセルの中に閉じ込められている』場所。

 アレが何なのかを推し量ることは、出来なくもなかった。

 

 ーー多分に、あまり想像して気持ちのいいものではないがーー。

 

 とはいえ、ログインしていないのにいつまでも居座っていては他の利用客の迷惑だ。

 ハバキリは早々にダイブルームを後にして、そのまま帰宅していった。 

 

 

 

 

 

 帰宅してから、テラスがダイニングキッチンで夕食を作っている間、ハバキリは自室のベッドに寝転がって再び思考に耽る。

 

 あそこにいた複数のジルの中で、『フォース・リヴェルタの』ジルがいたとは考えにくい。

 今、ジルは誰かに付き添ってもらいながらアクセサリー作成を行っており、足りない素材があればその都度ミッションを受けて素材を集めに行く、と言うことを繰り返している。

 故に、あそこにいる複数のジルは全て、"別の誰か"だろう。

 ハバキリは、頭の中に浮かぶいくつかの例を口に出してみる。

 

「『クローニング』『バイオ脳』『ソキウス』『カーボンヒューマン』『イノベイド』……」

 

 いずれも、人間の遺伝子(もしくは人工脳)を複製して生み出された存在で、ベースとなった検体と全く同じか、限り無く近い容姿として生み出されるケースが多い。

 その中のいずれかにせよ、そんなものを量産して何をするつもりなのか。

 

「………………、…………、……」

 

 しばらく思考を回し続けること数分。

 

 もしも。

 もしも、万が一、『ジル』があの複数の"ジル"に何か関係があったとしたら……

 

「兄さん、晩ごはん出来ましたよ」

 

 テラスからのノックと呼び声で思考の回転が元に戻る。

 

「おー、わーったわーった……」

 

 あーらよっと、と背伸びしながらドアを開けて、リビングへ降りていく。

 

 

 

「それでですね、兄さん。私もGBNを始めようと思うんです」

 

 食後から間もなく、テラスの口からそのような言葉が出てきたのが始まりだった。

 

「……お、お?」

 

 一瞬、何を言われたのか理解に遅れたハバキリは、少し間を置くための時間が必要だった。

 

「ダイバーギアとアカウントはもう持ってますから、後は自分のガンプラと、その操縦技術があれば大丈夫のはずです」

 

 いきなり始まったと思えばトントン拍子に話を切り出していく妹に、ハバキリは元の速度に戻していた思考を再び速める。

 

「えー、つまり?明日かその辺にでもガンプラの購入と製作をしに行きたいってところか?」

 

「そうです。私一人だとちょっと不安ですが、百戦錬磨の兄さんがいれば憂い無しです」

 

「まー、オレをアテにしてくれるのは嬉しーんだが、今になって急にやりたいなんて、どー言う風の吹き回しだ?」

 

「それは風に訊いてください。……と言うのは冗談ですけど」

 

 テラスはスマートフォンを手に取ると、待機させていたその画面を見せる。

 

「んー、女性限定の1on1のバトルイベント……あー、『百花繚乱』のことか」

 

「兄さん、知ってるんですか?」

 

「そー言うのがあるってのは知ってた。当たり前だが、出たことはねーな」

 

 ……ハバキリとしてではなく、『シャルル』としてなら出場可能だろうが、それはルール違反……にはならないが、「これでいいのか?」と言う気分になるだろう。

 

「せっかくGBNのデビューをするなら、大きなイベントの中でしたいんです」

 

「ま、記念になるからな。気持ちは分かるが……」

 

 ハバキリはカレンダーを目にやる。

 今日は火曜日で、百花繚乱の開催は今週の日曜日。

 実質、四日ほどしか時間がない。

 

「ガンプラの購入と製作は明日の放課後、残りの三日で操縦訓練……何とかなるか?」

 

 四日ほどの内、どう言う風にテラスを実戦投入可能なレベルにまで仕立て上げるかの算段を立てるハバキリ。

 

「何とかしましょう。私も頑張りますから」

 

 テラスのモチベーションも高そうだ。

 それを見てハバキリは算段を組み立て直す。

 

「……よし、その気があるなら予定を繰り上げだ。片付けが終わったら、ガンプラ買いに行くぞ」

 

「え、今からですか?」

 

 明日の放課後にとばかり思っていたテラスは、思わず時刻を確かめる。

 18時19分。

 駅前のガンダムベースなら、閉店までまだ時間がある。

 さすがに店内で作る時間までは取れないが、それは自宅でも問題ない。

 

「『兵は拙速を尊ぶ』って言うからな、こー言う時の行動は早い方がいい」

 

 そう言うなりハバキリは食べ終えた食器を流し台に持っていき、続いてテラスの分の食器も取り上げて洗っていく。

 

 

 

 

 

 ハバキリの手によって食器の後片付けも一瞬で終わり(それでもきちんと洗われている)、アメノ兄妹は通学路の途中にある駅前のガンダムベースの物販ブースに訪れていた。

 

「それで、テラスはどのガンプラが欲しーんだ?いきなりMGとかRGに手を出すなんて暴挙はやめろよ?」

 

「兄さん達がいつも使っているのはHGでしょう?それくらい分かります。初心者向けのガンプラってどれですか?」

 

 そーだな、とハバキリはぐるりと品揃えを一目で確認する。

 

「まー、基本中の基本はRX-78-2……よーするに初代『ガンダム』だが、運動神経いいテラスなら可変機とか格闘機でもアリだな。とは言え、可変機だと物によっちゃ組み立てが大変だしな。組み立てやすさと性能バランスとかも考えたら、ウイングガンダム辺りが……」

 

「あ、これなんだろ」

 

「って聞けよ」

 

 ハバキリの言葉を無視しながらテラスが手を伸ばしたのは、『HGFC ノーベルガンダム』だった。

 

「兄さん、このセー○ームー○みたいなガンプラはどうなんですか?」

 

「あー、ノーベルガンダムか。オレは作ったことねーけど、コーダイが作ってたのなら知ってる。パーツ数は少ねーし、可動範囲も広いし、MF(モビルファイター)なら格闘戦も得意だし、テラスならちょーどいーな」

 

「じゃぁ、コレにしますね」

 

 言うや否や、早速レジに並びに行くテラス。

 ハバキリとしてはもう少し選んでからでも良かっただろうが、テラスがコレが良いと言うのであれば、それ以上口を挟むつもりもなかった。

 

 

 

 

 

 ノーベルガンダムを購入してすぐに帰宅して、ハバキリからニッパーや紙ヤスリなどを借りて早速製作に取り掛かるテラス。

 困ったことがあれば呼べよ、と言い残してからハバキリは自室に戻る。

 

 テラスもGBNを始めたいと言うのは喜ばしいことだ。

 しかしーー先程の懸念が頭に浮かぶ。

 

 あの『複数のジル』があまり考えたくない通りの存在だとしたら……

 

 ハバキリは、今日はシャア専用ザクを使っていたために勉強机に立てられているジンライ改を手に取った。

 

「……わりーなジンライ、付き合ってもらうぞ」

 

 愛機に一言詫びを入れてからーーパーツの分解を始めた。

 

 

 

 

 

 それからの三日間、ハバキリはリヴェルタの面々に「妹が百花繚乱に出たいって言うから、今日から三日間で実戦投入可能なレベルにまで仕立て上げる。しばらくはフォースネストに来れない」と伝えておき、放課後から夜までの数時間をバトルの特訓に費やした。

 

 その夜の間、テラスは「ちょっと考えていることがあるんです」と自分なりに塗装したいらしく、ハバキリからガンダムマーカーをいくつか借りた。

 ハバキリもガンプラの施しにまで口を出すつもりはなく、好きなようにさせていた。

 

 

 

 

 

 三日後。

 今日はいよいよ待ちに待ったレイドイベント『百花繚乱』の開催だ。

 出場する前に、まずはテラスをフォースメンバーと顔合わせしておく必要がある。

 コーダイとセアは学園でテラスのことは知っているが、サッキーとエミル、ジルは会ったことがないからだ。

 

「……とゆーわけで、こいつがオレの妹。つっても、ダイバールックだがな」

 

 ほれ、と背中を軽く押してメンバー達の前に立たせてやる。

 

「改めて初めまして。兄さん……ハバキリの妹で、ここでは『ステラ』と名乗らせております。僭越ながら本日付けでフォース・リヴェルタに加入することとなりました。未熟者ですが、よろしくお願い致します」

 

 ぺこり、と丁寧にお辞儀をするテラスーーではなく、ステラ。

 ステラと言うダイバーネームも、『テラス』を『ス』から読み始めたものとしている。

 彼女の自己紹介が終わったところで、最初にセアが出る。

 

「こっちでは初めましてだね。ステラちゃん、ようこそ、フォース・リヴェルタへ。歓迎します」

 

 エミルが正式に加入を求めた時と同じように、右手を差し出すセア。

 

「こちらこそよろしくお願いします。ホシザ……いえ、セアさん」

 

 一瞬、現実側の名字を言いかけて、すぐにダイバーネームを言い直すステラは、セアの右手を握り返す。

 その様子を見ながら、エミルはハバキリとステラを見比べながら、兄の方に話しかける。

 

「良く出来た妹さんだね。本当にハバキリの妹かどうか怪しいくらいだ」

 

「オレって言う兄貴がこんなんだからな、妹がしっかりしてるくらいでちょーどいーのさ」

 

 猫被ってるってのもあるがな、と軽口で返すハバキリ。

 次にサッキーがステラに話しかけていた。

 

「よろしくねステラちゃん。あたし、サッキーって言うの」

 

「はい、よろしくお願いしますサッキーさん」

 

 さてそれじゃぁボクも、とエミルがステラに自己紹介しようとしているのを尻目に、ハバキリはコーダイに向き直った。

 

「コーダイ、百花繚乱の会場はイースト・エリアの、特設場だったよな」

 

「おぅ、輸送機の手配も今終わったとこだ」

 

 百花繚乱のエントリー用の輸送機のレンタルを完了させたコーダイは、コンソールを閉じる。

 

「ところでよハバキリ、来てなかった三日間はテラス……ステラちゃんの特訓に付き合ってたみてぇだが、大丈夫か?」

 

「大丈夫って何がだ?」

 

「いや、百花繚乱ってな、女性限定って以外で特に制限はねぇだろ?上位ランカーと当たる可能性もあるし、初心者のステラちゃんにはちょっとハードル高くね?」

 

 セア、サッキー、ジルと、女子トークに興じるステラを見やりつつ、コーダイは懸念する。

 

「大丈夫大丈夫。ちょっと強い奴に当たったくらいで負けるよーな鍛え方はしてねーよ」

 

「ならいいんだけどよ」

 

 ハバキリとコーダイがそのような会話をしている最中に、アナウンスが流れる。

 

『間もなく、イベントバトル『百花繚乱』の開催です。出場者の方は、イースト・エリアの特設会場まで移動してください。繰り返します……』

 

 それを聞き、ハバキリ達フォース・リヴェルタは、レンタル登録したばかりの輸送機の待機している格納庫へ向かった。

 

 

 

 今回、格納庫には男子三人のガンプラは無く、エンハンスドガンダムMK-Ⅱ、ガンダムデスレイザーと、もう一機いる。

 それは、ステラが作り上げたノーベルガンダムだが、カラーリングが原典機と異なっていた。

 

 青や赤の部分は黒灰色に、金髪のような頭部放熱板は艷やかなブラックに塗装され、胸部や背部のリボン状のスラスターはメタレッドにと、全体的にシックなカラーリングだ。

 ……シックな、と言うよりは。

 

「日本の女子高生みたいなノーベルガンダムだな?」

 

 真っ先にコーダイが、ここにいる誰もが思っただろう感想を口にする。

 

「ウチの学園の制服って真っ赤じゃないですか。私、こう言う黒めの制服に憧れてたんです」

 

 このような塗装した理由を答えるステラ。

 確かに、日本の女学生の制服のように見える外観だろう。

 エミルはそのノーベルガンダムとステラを見比べる。

 

「ステラさんはこれが初めて作ったガンプラなんだよね?初めてにしては思えないくらい、よく出来てる」

 

 よく見れば塗装にムラが見え隠れしているが、それでも遠目から見る分には目立たない。

 

「兄さんって言うガンプラバカがいますからね。見様見真似でやってみました」

 

 兄の隣で堂々とバカ呼ばわりするステラだが、ハバキリはそれに気を損ねることもなく、「ガンプラバカなのは事実だしな」と軽く笑い飛ばす。

 

「んじゃ、遅れねー内に早速乗りますか」

 

 三機のガンプラを輸送機の格納庫へ積載し、百花繚乱が行われる特設会場へ急ぐ。

 

 

 

 

 レイドイベントバトル『百花繚乱』

 

 女性ダイバー限定のロードレース『ナデシコアスロン』から派生したイベントで、こちらは一対一のガンプラバトルを行うものだ。

 出場クラスは『エンジョイ』と『ガチ』の二つに分かれ、そこからA〜Hブロックでトーナメント戦が行われ、各ブロック優勝者によるベスト8でさらにトーナメント戦が行われる。

 そして、『エンジョイ』『ガチ』双方の優勝者同士がバトルする『美のガンプラマイスター決定戦』が行われるのだ。

 

 色とりどりの花々で彩られた特設会場に、セア、サッキー、ステラの三人が開会式に出式し、ハバキリ、コーダイ、エミルの男子三人と、ジルが観客席へ座る。

 

 会場全体が静まったところで、アナウンスが開催宣言を告げる。

 

『これより、第四回百花繚乱サザメス杯を開催致します。本日はゲストとして、人気ボーカルバンドグループの『五代目スゴック』のリーダー、『ジュン』君にお越しいただいております』

 

 すると、舞台の床が開き、その下から一人の青年ダイバーが現れた。

 

『ハーイみんなチョリーッス!今日はたくさんの女の子達が集まってきてくれて、男としては嬉しい限りだよー!イェーイ!!』

 

 ハイテンションな挨拶をするジュンに、大多数の女性ダイバー達は「キャーーーーー!!」と黄色い声をあげ始めた。

 

「ジュンくん!モノホンのジュンくん!」

 

「える・おー・ぶい・いー・ジュンくーん!」

 

「ジュンくーん!ケッコンしてー!」

 

「「「「「キャーーーーー!!!!!」」」」」

 

 周りの皆が皆黄色い声を上げる中、ステラはサッキーに耳打ちする。

 

「誰ですか、あの人」

 

「ステラちゃん、『スゴック』って知らない?十年くらい続いて、もう五代目になるボーカルバンドグループよ」

 

「へぇ、そうなんですね」

 

 誰なのかとわかると、ステラは興味無さげにジュンの挨拶を聞き流す。

 

 

 

 もうしばらく黄色い声援が会場を支配してから、ようやく大会進行が始まる。

 

 セアとステラは『エンジョイ』に、サッキーは『ガチ』の方へ、それぞれ参加。

 

 セアはDブロックに、ステラはAブロックに。

『ガチ』側のサッキーはCブロックに。

 

 観客席からは複数のモニターによってバトルの様子が中継されるため、大会進行そのものはスムーズに進められるのだ。

 

 各ブロックでの第一試合が行われ、フォース・リヴェルタでは最初にサッキーが戦うことになった。

 

「よっし。さーて、あたしの相手は……」

 

 対戦相手をトーナメント表で確認し、

 

「え"っ?」

 

 絶句した。

 

 フォース・『ロイヤルナイツ』所属『ノエル』

 

 ガチの中のガチだった。

 

 

 

 

 

「勝てるかぁぁぁぁぁーーーーーッ!!」

 

 案の定、一瞬で負けた。

『エーデルνガンダム』と言う、νガンダムの改造機を前に手も足も出せなかったのだ。

 開幕、フィンファンネルからのビームでアクティブクロークを一瞬でズタボロにされ、ビームシザースで斬り掛かろうものならそのフィンファンネルに弾き返され、挙げ句の果に五体をビームレイピアで破壊されて降参するハメになると言う、情けない結果で終わり、泣く泣く観客席へ戻っていく。

 

 

 

 その様子を観客席のモニターから見ていた男子三人とジルは。

 

「うん、ありゃ相手が悪かったなー」

 

「ロイヤルナイツって、現在の最上位フォースの一角だろ?」

 

「そんなの相手に一対一は無茶だよ」

 

 ハバキリ、コーダイ、エミルは至極淡々と「負けてもしょうがない」と声を揃える。

 

「あれ、サッキー負けちゃった?」

 

 もぐもぐモグモグとポップコーンを頬張るのに夢中だったジルは、そもそも観戦すらしてなかった。

 

 

 

 サッキーが敢え無く初戦敗退の結果で終わり、次に『エンジョイ』側でステラが出る試合だ。

 

「見せてもらおうか、ハバキリの妹さんの実力とやらを」

 

 シャア・アズナブルの名言のひとつを用いつつ、エミルはステラのノーベルガンダムを見やる。

 それと相対するのは、レズン・シュナイダー専用の青い『ギラ・ドーガ』だ。

 

 

 

 試合開始のゴングが鳴り響く。

 

「ステラ、ノーベルガンダム、行きます」

 

 ステラはアームレイカーを握り締めて身構える。

 ノーベルガンダムは懐からホルダーを抜き放ち、本来なら『ビームリボン』として鞭状に形成されるそれを、ビームソードとして発振させた。

 対するギラ・ドーガも、右手にビームマシンガンを手にした状態で、左手にビームアックスを抜く。

 

『はんっ、ノーベルガンダムなら農家で鈴を鳴らしてりゃいいんだよ』

 

 牽制にビームマシンガンのトリガーが引かれ、連射されるビーム弾がノーベルガンダムに襲いかかるが、

 

「遅いです」

 

 ステラは跳ね上げるようにアームレイカーを引き上げ、ノーベルガンダムはその場から跳躍、飛び越えるようにビーム弾を躱す。

 跳躍で宙に浮いた状態から、頭部の冷却フィンをAMBACとして振るい、『直角に逆V字を描くような形で』一気にギラ・ドーガへ迫る。

 

『なっ、速……』

 

 一閃。

 

 ギラ・ドーガの脇を通り抜け様に着地するノーベルガンダム。

 一拍を置いてから、ギラ・ドーガの上下半身が泣き別れにされた。

 

 ギラ・ドーガ、撃墜。

 

 

 

 バトル開始から、わずか8秒。

 文字通りの秒殺に、観客席は歓声とどよめきが入り混じる。

 

「お、おいおいハバキリさんよ、アレホントに初心者の動きか?」

 

 ステラの瞬間的な跳躍とAMBAC機動を見たコーダイは、瞬きを繰り返しながらハバキリに問い掛ける。

 

「おー、実戦は今回が初めてだな」

 

 さすがテラスだ、なんともないぜ、とハバキリは頷きながら答えたが、エミルは訝しげに彼を睨む。

 

「いや、あんな動きが出来る初心者がいてたまるか。ハバキリ、お前ステラさんに一体何を仕込んだ?」

 

 たかが三、四日間の数時間の特訓だけで、エンジョイ勢相手とは言え秒殺など出来るだろうか。

 どんなマジックをすればそうなってしまうのか。

 

「大したことはしてねーよ。ただちょっと『あるシミュレーションをやらせた』だけだ」

 

 あるシミュレーション、と聞いて、コーダイとエミルは二人揃って真っ青な顔をした。

 

「お、おいハバキリ……おま、まさか、全くの初心者に"アレ"をやらせたってのかよ!?」

 

 コーダイの言う、"アレ"。

 それは聞く人が聞けば、真っ白に燃え尽きたり、エクトプラズムを口から浮かべたり、虚ろな目で体育座りしたり、白目を剥いて痙攣したり、ノイローゼに陥ったり、ケタケタと不気味に笑ったりすることで有名なシミュレーション訓練だ。

 何を言おうと、その訓練内容がとにかく理不尽なのだ。

 

 具体的に言うと『ザクⅡでS型のゲルググ一個大隊を倒すくらい出来て当たり前』である。つまり、それ以上に理不尽な訓練がごまんと揃えられていると言うわけだ。

 常人にさせれば、クリアする頃にはまともな感性や正気を失うレベルである。

 

「なるほど……"アレ"をやらせたって言うなら、納得……したくないけど出来てしまうか」

 

 エミルは『納得はしないが理解は出来た』

 

「オレとコーダイも"先生"のお世話になったけど、エミルも"アレ"をやったのか」

 

 あの、ボサついた髪に地球連邦軍の軍服を崩して着用した「使いじゃねぇ」ことで有名な、漆黒のダブルオーガンダム使いを脳裏に浮かべる。

 

 

 

 

 

 ステラに続いてはセアの試合だ。

 しかし、彼女のエンハンスドガンダムMK-Ⅱは、相手のティエレンタオツーを前に攻められないでいる。

 人革連系のMS特有の、Eカーボンの重装甲で固めた鈍重そうな外見に見合わない機動性の高さは、ビームライフルやレールガンなど通じない。

 

『避けてみせる……ッ!』

 

 ビームと電磁加速弾の波状射撃を掻い潜って、エンハンスドガンダムMK-Ⅱへ迫るティエレンタオツー。

 

「……」

 

 対するセアは、攻撃が通じていないことに焦りを覚えるどころか、さらに冷静になっている。

 レールガンを片方だけ発射、しかしそれはティエレンタオツーの直撃コースではなく、すぐ足元を狙ったものだ。

 石畳が捲りあげられ、砂煙が立ち昇る。

 

『そんなものに!』

 

 ティエレンタオツーは滑腔砲に取り付けられたカーボンブレイドを構え、砂煙を切り裂いて肉迫する。

 カーボンブレイドが振り降ろされる瞬間、セアはアームレイカーをグイッと引き下げて、エンハンスドガンダムMK-Ⅱを飛び下がらせた。

 ティエレンタオツーもすぐに反応し、さらに加速して追い縋ろうとする。

 再びビームライフルとレールガンの波状射撃が仕掛けられ、ティエレンタオツーは先程と同じように躱そうとして、

 

『なっ』

 

 直撃された。

 

 ビームと電磁加速弾の三発が、『ティエレンタオツーの回避したその先に叩き込まれた』のだ。

 

 さすがに重装甲だけあるものの、被弾によって動きを鈍らせたティエレンタオツーに、セアはターゲットロックを固定、真っ直ぐにティエレンタオツーのコクピットを撃ち抜いた。

 

 ティエレンタオツー、撃墜。

 

 

 

 セアの勝利によって、彼女の顔画像がトーナメント表をひとつ進むのを見つつ、エミルは先程のセアの戦いを見て感想をもらす。

 

「苦戦したみたいだけど、何とか巻き返せたね」

 

 だが、ハバキリとコーダイの二人は、エミルとは違う感想だった。

 

「……最後の一斉射撃な。アレ、完っ璧に相手の動き読んでたぞ」

 

「苦戦してたんじゃなくて、ありゃぁ相手の動きを見てたんだな。……この短時間でほぼ完璧に先読みが出来るってのも、そう簡単じゃねぇ」

 

 そのニュアンスは「凄い」ではなく、「末恐ろしい」だ。

 具体的には、フラワーズ二軍との交流試合を行った時からだろうか、セアの『見る』力はその時から急速に高まりつつある。

 アドラステアを巡るレイドバトルでも、攻略を見出したのは彼女の観察眼によるものだったのだ。

 

「今はまだ頭に操縦技術が追い付いてねーけど、それが比例するよーになったら、間違いなく"化ける"な」

 

 

 

 

 

 各ブロックで順々にトーナメント戦が進む中、ゲストルームでは先ほどに挨拶を行っていたジュンが、ソファーに腰掛けながら、大会関係者と言葉を交わしていた。

 

「……報酬はこの通りの額で出させていただく」

 

「フォース・リヴェルタの、ELダイバーちゃんを確保すればいいんでしょう?」

 

 ジュンはコンソールに表示されている情報を読み取っていく。

 

「そうだ。あのフォースの中に、我々の"完成体"がいる。名前は……」

 

「分かってますよ。ちょうど、分かりやすい名前のようだし……」

 

 コンソールを閉じたジュンは、観客席からバトルの中継の様子を見やる。

 

 その視線の先にいるのはーーーーー黒灰色のノーベルガンダム。

 

 

 

 

 

 その後も、トーナメントは順調に進んでいた。

 中でもセアとステラは目覚ましい活躍を見せ続けている。

 

 セアは基本に忠実かつ安定した操縦によって隙を見せず、戦闘中に相手の機体特性や操縦の癖などを観察し、そこから弱点を見抜くことで、確実に勝ち目を拾う。

 

 一方のステラは、兄から課せられた『例のシミュレーション』を短時間で集中的に体験したことと、ステラのリアルーーテラスとしての運動神経の良さ、そしてノーベルガンダムと言う機体の性能が功を奏し、特に近接格闘では初心者とは思えぬほどの圧倒的な戦闘力を見せつける。

 

 二人とも瞬く間に各ブロック内で優勝して、『エンジョイ』のベスト8へと進出。

 選ばれし八人のダイバーネームがトーナメント表に並ぼうと言う時、再びアナウンスが流れる。

 

『おっと、ここでジュン君からのメッセージです。ではジュン君、どうぞ』

 

 すると、会場中央に先程にも挨拶に現れたジュンが登壇し、それを見た大多数の女性ダイバーが黄色い歓声を上げる。

 

『ヘイみんな!ガチ勢もエンジョイ勢も、どっちも華やかで熱いバトルを繰り広げてくれるね!こんなの見てたら、俺もバトルがやりたくなってきちゃったよ!』

 

 黄色い歓声が徐々に収まりつつある頃を見計らって、ジュンはメッセージを続ける。

 

『そこで!俺はあるダイバーと戦ってみたいと思う……』

 

 バッ、と手振りをしながらエンジョイ勢ベスト8のトーナメント表の中の一人ーーステラを指した。

 

『それは……ステラさん、君だ!』

 

 観客のほとんどはトーナメント表に、残りはステラのノーベルガンダムに視線を向ける。

 

「……私が?」

 

 何故自分が、とステラは困惑する。

 

『聞けば!昨日今日GBNを始めたばかりなのに、経験者達を次から次へと打ち倒していくと言う、今大会最強のダークホース、期待の新星!それを聞いて、一人のファイターとして戦ってみたいと思うのは自然なことだと、俺は思う!』

 

 グッ、と拳を握って見せるジュン。

 大多数の女性はその姿に見惚れるところだが、生憎とステラはそこまで盲目ではなかった。

 

「(それはない。私と同じかそれ以上の活躍をしているセアさんを指名しないで、素人に毛が生えた程度の私を指名する理由は無いはず。どうせ、スポンサー辺りからベスト8の誰かと戦えとかって言われたんでしょうけど)」

 

 芸能人であれば演技や演出で魅せるのは当然だろうが、それとこれとは違う。

 それに、

 

「(……私が昨日今日始めたばかりの初心者だと、『どうして知っている』の?)」

 

 参加登録をする際に、設定性別が女性であることと、ダイバーネーム、それと所属フォースの名前を書き込んだくらいだ。

 具体的なランクやプレイ時間などは明かされていないはずである。

 それが筒抜けになっているとすれば、

 

「(あの人まさか、『最初から私と戦うつもり』だった?)」

 

 それこそ何故だ?

 ステラの疑問を他所に、アナウンスが本人の意向を無視して勝手に進行させていく。

 

『おーっと、ここで即席エキシビジョンマッチです!と言うわけでAブロック優勝者のステラさん、バトルの準備をお願いします!』

 

 初めからそうなるのは分かっていただろうに、白々しく驚いてみせるアナウンスに苛立ちすら覚えるが、それを押し隠しつつ、ステラはノーベルガンダムに乗り込んだ。

 

 

 

 観客席は、ジュンがバトルを行うという興奮と、何故あんなポッと出の女がジュンのお眼鏡に掛けられるのかという嫉妬が渦巻く中、リヴェルタの男子三人は小声で言葉を交わし合う。

 

「……なぁ、サプライズにしちゃえらい不自然じゃねぇか?」

 

 コーダイが最初にそれを言った。

 次に反応したのはエミル。

 

「普通、公平性を保つために、個人に肩入れするようなことは望ましくないはずなんだけど……」

 

 目的が見えない、とエミルは言う。

 

「兄であるオレが控えめに言っても、絵面を狙うならセアさんの方が適してるはずだ。……ロリコンなのか知らんが連中、ステラの何が目的だ?」

 

 ハバキリは二人に会話を合わせつつも、ステラのノーベルガンダムを横目で見やる。

 今回の百花繚乱、どうも何か裏がありそうだ。

 

「……オレ、ちょっとトイレ行ってくるわ」

 

 そう言い残してから、ハバキリは観客席を立って行く。

 残されるコーダイとエミルだが。

 

「GBNなんだからトイレとか無いよな?」

 

「無いね」

 

 あのシスコン、間違いなく何か"やらかす"つもりだ。

 二人とも言外に頷いた。

 

 

 

 ノーベルガンダムが待機しているところへ、会場地下のガンプラ用のエレベーターから、ジュンのガンプラだろう機体が姿を現した。

 

 薄いライトブルーで全身を塗装され、ひょろ長い四肢に、腰と背中に二対の鋭角な揚翼。

 ジムのようなバイザー付きの頭部の左右には、それぞれ長さの異なるアンテナ。

 右手にはライフルを、左腕には両端を尖らせたようなプロペラのようなシールドを備えている。

 ステラはその機体を知らないが、『00』に登場する量産機『ユニオンフラッグ』だ。

 

『ステラさん、俺の挑戦を受けてくれてありがとう!』

 

「……私は受け入れた覚えはないですよ。拒否していいのなら拒否しているところです」

 

『……"大人の都合"ってヤツでね、申し訳ない気持ちはあるんだよ』

 

 一瞬、ジュンの語気がブレたのをステラは聞き逃さなかった。

 どうやら、このバトルを不本意としているのは向こうも同じらしい。

 疑心を抱くステラに、個人回線による通信が届く。

 それは、ハバキリからのものだった。

 

「もしもし、兄さん?……え?…………あぁ、はい。それなら…………はい……うん、分かりました」

 

 ハバキリとの通信を終えて、再度ジュンへ向けて通信を繋ぐ。

 

「ジュンさん、でしたっけ?私の兄から、あなたへのメッセージがあるそうです」

 

『お兄さんから?』

 

 一体何かと耳を傾けるジュンに、発信源不明のオープン回線で届けられた。

 その内容とは、

 

 

 

『てめーごときチンパンがオレの妹に手を出すなんざ、リアルな数字で十年早いんだよチンパン。だからてめーはチンパンだっつってんだろチンパン。チンパンはチンパンらしく、E衛星でバルブスにでも乗ってロリコンの相手でもやってろチンパン。分かったかチン○ン』

 

 

 

 ……とんでもない罵詈雑言だった。

 

『ッッッッッ…………』

 

 回線越しに、ジュンの怒りを圧し殺すような声が漏れる。

 

「兄さん……なんてことを」

 

 嘆くように左手で顔を覆うステラ。

 

『……、お兄さんからのメッセージは以上かな?』

 

 どうにか怒りを圧し殺して見せたジュンは、その営業スマイルを引き攣らせつつ、ステラに確認する。

 

「以上みたいですね。すみません、ウチの兄さんが……それじゃぁ、そろそろバトルにしましょう」

 

 謝罪の意を見せるのは上辺だけ。内心はステラもハバキリのメッセージに頷いているからだ。

 ステラはアームレイカーを握り直し、ノーベルガンダムのビームソードを構える。

 ジュンのユニオンフラッグも、圧し殺し切れていない怒りで震えそうになっている右手のリニアライフルの銃口をノーベルガンダムへ向ける。

 両者身構えたところで、アナウンスのレフリーが試合開始を告げる。

 

『それでは!ガンプラファイト、レディー……ゴー!!』

 

 ゴングが打ち鳴らされ、ノーベルガンダムとユニオンフラッグの両者は同時に動き出す。

 接近戦に持ち込みたいステラは一気にノーベルガンダムを加速させ、対するジュンのユニオンフラッグはその場でリニアライフルの銃弾を連射して牽制を掛ける。

 電磁加速された銃弾を掻い潜りながら、距離を詰めていく。

 

『そぉら墜ちろ墜ちろ墜ちろォ!』

 

 自らも動きながらも、さらにリニアライフルによる牽制射撃を重ねるユニオンフラッグは、懐に左手を伸ばしてプラズマソードを抜き放つ。

 間合いにまで踏み込んだノーベルガンダムがビームソードを振るい、ユニオンフラッグのプラズマソードがそれを押さえつける。

 ビームとプラズマが鍔迫り合ったのはほんの僅か、ユニオンフラッグがビームソードの一撃を逸らし、空振りしたノーベルガンダムへ、プラズマソードを突き立てようとする。

 

「っと!」

 

 しかしステラの反応も早く、瞬時にアームレイカーを引き戻し、ノーベルガンダムはバック転をしながらプラズマソードの切っ先を躱しつつ距離を取り、着地と同時に頭部のバルカン砲を速射する。

 ユニオンフラッグは左腕の盾『ディフェンスロッド』を回転させて、バルカン砲の銃弾を防ぎ、凌げばすぐにリニアライフルで撃ち返す。

 銃弾が装甲を掠めながらも、ステラは最小限の回避でやり過ごす。

 

「……伊達だけでGBNでアイドルをやっているわけじゃないと」

 

 ユニオンフラッグは身を翻すと、一気にノーベルガンダムへ迫る。

 振り抜かれるプラズマソードに、ノーベルガンダムはビームソードで迎え撃つ。

 再びビームソードとプラズマソードが激突、一撃、二撃、三撃、四撃と打ち合いが繰り広げられる。

 

『俺はスポンサーから、君を確保しろって言われてるんでね』

 

「やっぱりっ……どうしてそこで私が、あなたに確保されなくちゃならないんですっ!?」

 

 やはりそうか、とステラは目を細める。

 自分の何が目的なのかと問い質すステラに、ジュンは答えない。

 

『さぁな。君はスポンサー達から"完成体"とか呼ばれてるし、むしろ君の方が確保される理由が分かっているんじゃねぇの?』

 

「"完成体"……?何のことですかっ」

 

 鍔迫り合いの状態から強引にユニオンフラッグを蹴り飛ばすノーベルガンダム。

 

「私はただの初心者です、誰かの作った作品なんかじゃありません!」

 

『チッ、しらばっくれやがる……』

 

 一度距離を取り合い、ユニオンフラッグはリニアライフルで牽制、ノーベルガンダムは銃弾を躱しながら詰め寄る。

 もう何発かリニアライフルの牽制弾が放たれて、一瞬だけその銃撃が止まる。

 

「(弾切れっ。攻めるなら今!)」

 

 その一瞬を"弾切れ"と判断したステラは、ノーベルガンダムを加速させて一気に距離を詰める。

 しかし、悪い偶然が重なった。

 

『そっちから来てくれちゃうかぁ!』

 

 弾切れを起こしていたはずのユニオンフラッグは、すかさずリニアライフルをノーベルガンダムへロックオン、トリガーを引き絞ると、牽制としてばらまいていた射撃とは段違いな出力の電磁加速弾が放たれた。

 

「!?」

 

 ステラの動体視力はそれを視界に捉えることが出来たが、回避や防御を行うには身体の反応が遅すぎた。

 結果、ノーベルガンダムの胸のリボンーー胸部サブスラスターにリニアライフルの銃弾が直撃、内蔵されていた推進剤が誘爆した。

 

 

 

 

 観客席に戻ってきていたサッキーは、爆炎に呑み込まれたノーベルガンダムを見て思わず腰を浮かせた。

 

「ステラちゃんっ!?」

 

 バイタルバート付近への直撃だ、今の一発で撃墜されたかもしれない。

 コーダイとエミルは至極冷静に今の戦況を読み取っていた。

 

「今の時間差の射撃、リニアの電力チャージだな」

 

「うん。少電力の射撃で牽制してステラさんの動きをある程度誘導して、接近してくるタイミングに合わせて本命の一撃だね」

 

 リニアライフルは銃弾へ供給する電力を調整可能であり、与える電力を高めればそれだけ強力な射撃を撃てるが、当然ながらその与えるための電力のチャージも必要になる。

 

「なに呑気に解説してるのよっ、今のでステラちゃんがやられちゃったかもしれないのに!」

 

 慌てるサッキーだが、

 

「大丈夫」

 

 それを遮ったのは、ポップコーンを食べ終えてからは不動の姿勢で試合を見ている、ジルだった。

 

「ステラのガンプラ、「まだ大丈夫」って言ってる」

 

 ジルの、ガンプラの心の"声"を読み取るかのような、オカルト染みた言葉。

 彼女はこれまでに何度もその"声"を聞き、ハバキリ達にそれを伝えてきた。

 そしてそれは予言のように、一度も外れたことはない。

 

 

 

 ノーベルガンダムの反応は健在。

 ジュンのユニオンフラッグは既に電力供給を完了させたリニアライフルを油断なく構えつつ、爆煙が晴れるのを待つ。

 

 黒灰色の靄の中から現れたのは、『胸部サブスラスターを失っている以外に損傷らしい損傷の見えない』ノーベルガンダムだった。

 

『んなっ!?直撃のはず……!』

 

 ジュンには分からないが、これには仕組みがある。

 この胸部サブスラスター、防御範囲を限定した『炸裂解除外装甲(リアクティブアーマー)』でもあり、ちょうどコクピットに当たる部分である胸部に一定以上の衝撃や熱量を受けた際、外部装甲と本体装甲を繋ぐボルトロックが爆破され、外部装甲を強制的に切り離すことで本体ヘのダメージを減らすと言うものだ。

 とは言え、原典のノーベルガンダムにこのような機能は無い。

 しかも、

 

「(この胸のリボンって、こんな機能あったっけ?)」

 

 実はステラもこれを知らなかったりする。

 何故なら、今日の前日にステラーーテラスが寝静まった頃、ハバキリがこっそりノーベルガンダムを持ち出し、胸部サブスラスターをリアクティブアーマーとして改造していたのだ。

 自分が知らないだけで、そう言った機能があるのだろうかと勘違いし、ステラは再びユニオンフラッグへ向き直る。

 しかし、このまま接近戦を仕掛けてもプラズマソードにふせがれ、距離を取るなら向こうにリニアライフルによる射撃の自由を許してしまう。

 せめて、あともう少し機動性があれば……

 

「あ、そうだ」

 

 ふと何かを思い付いたステラは、ノーベルガンダムの左手を頭部のバインダーに掛けて、

 

 ーーなんと、ビームソードでそのバインダーを焼き斬ってしまった。

 

「うん、これで少しは軽くなる」

 

 斬り落としたバインダーを捨てて、ノーベルガンダムはビームソードを構え直す。

 

『……その程度の軽量化が何になる!』

 

 あたかも断髪でもするかのような行動に驚愕するジュンだが、即座に戦闘に意識を切り替え、電力を抑えたリニアライフルでノーベルガンダムを牽制する。

 が、対するノーベルガンダムは前傾姿勢ーー陸上競技のクラウチングスタートのような姿勢を取ってリニアライフルの銃弾をやり過ごし、

 

 走り出すための最初の踏み込みと、スラスターによる推進力をシンクロさせた。

 ハバキリがほぼ無意識に行っている『機体のAMBACとスラスターによる加速を同時に行うことで急激な旋回と加速を行うこと』……それに近い操縦技術を、ステラはこの場で行ったのだ。

 

 突風が吹き抜けたような風切り音をユニオンフラッグが集音した時には、既にノーベルガンダムが懐にいた。

 

『はっ!?』

 

 ジュンの方も辛うじて反応し、咄嗟にユニオンフラッグを飛び下がらせるが、ノーベルガンダムが斬り上げたビームソードにリニアライフルを破壊されてしまう。

 彼は"断髪"したノーベルガンダムを「その程度の軽量化で何になる」と口にしたが、ステラにしてみれば「その程度でも軽量化出来れば十分」なのだ。

 

 斬られたリニアライフルを捨てて、すぐにプラズマソードで反撃を試みるユニオンフラッグだが、ノーベルガンダムはその低い姿勢のままサマーソルトキックの要領で腹部を蹴り飛ばす。

 

『グッ……こいつっ、急に動きがッ』

 

 姿勢を取り戻しつつ、プラズマソードを右手に持ち直すユニオンフラッグだが、そのほんの一秒未満の隙を、ノーベルガンダムはビームソードで突いてきた。

 ユニオンフラッグも咄嗟にプラズマソードを寝かせるように構えて切っ先を受け、鍔迫り合いにもつれ込む。

 しかし、姿勢を制御しきれていないユニオンフラッグは体勢が悪く、ノーベルガンダムに押し込まれつつある。

 

『これ、がっ、ELダイバーの実力だとでも……ッ』

 

「あのですねぇ、さっきから何なんですか?人のことをELダイバーだのELダイバーだのELダイバーだの……」

 

 苛立ちを隠すことなく、ステラは接触通信で吐き捨てる。

 

「私は、初心者だって、言ってるでしょう」

 

 ノーベルガンダムは強引に鍔迫り合いを中断し、ユニオンフラッグのプラズマソードを空振りさせ、ビームソードでそれを斬り飛ばした。

 

 宙を舞うプラズマソード。

 ノーベルガンダムはその場で跳躍してプラズマソードを掴む。

 右手にビームソード、左手にプラズマソードを構え、ユニオンフラッグへ迫る。

 

「だからあなたはチンパンなんですよ。分かりましたかチンパン」

 

 瞬間、ビームとプラズマの光刃がX字を描くようにユニオンフラッグを四散させ、一拍を置いて爆炎が舞った。

 

 ユニオンフラッグ、撃墜。

 

 

 

 

 

「はぁ……せっかくのデビューなのに、なんか散々です」

 

 ガンダムベース内のカフェのテーブルで、テラスは溜息をついた。

 同席には、ハバキリ、コウダイ、セアの三人が着いている。 

 

 あの後、ステラがジュンを撃墜したことによって観客と参加者を含めた大多数の女性ダイバーが発狂し、大会の意向を無視してステラをリンチ(私刑)にしようとする者が続出したため、彼女は運営側の判断によって一度強制ログアウトされたのだ。

 ステラがログアウトされたのなら、とハバキリ達もログアウトし、一人だけ置いてかれたセアは途中棄権してからログアウトした。

 ログアウト直後に、テラスのダイバーギアに運営から謝罪とお詫びのメール、及び参加賞とAブロック優勝の景品が届けられた。

 

「ま、あーゆーアイドル狂信者に目を付けられたら、冗談抜きで殺されるからなー。テラスを強制ログアウトさせた運営の判断は正しいな」

 

 ハバキリがコーヒーを啜りながら一息つく。

 恐らく今頃SNS上では『謎のノーベルガンダムがジュンくんをボッコボコにした!許せない!』などと掲示板言う名の火薬庫で花火大会をしていることだろう。ついでに、ステラの個人情報の開示を運営にしつこく要求しているに違いない。

 ほとぼりが冷めるまで、しばらくテラスはログインしない方がいいかもしれない。

 

「でも、テラスちゃん本当に強かったよね。お兄さんといい勝負出来るんじゃないかな?」

 

 セアは、アメノ兄妹を見比べて率直に頷く。

 

「さすがに兄さんには勝てませんよ。私はそれほどトチ狂ってませんし」

 

「おいこら、さらっと兄貴をディスっていくスタイルか」

 

 ハバキリとテラスがじゃれ合っているその側で、コウダイはジュースを飲みながら顔を険しくしていた。

 

「……結局、あのジュンとか言うアイドルが、テラスちゃんを狙っていた理由は分からず終いだな」

 

 何故ジュンーーと言うよりもそのスポンサーが、ステラ=テラスを狙っていたのか。

 

「あの人、私のことをELダイバーって勘違いしていたみたいですよ」

 

 テラスは、ジュンから言われたことを話す。

 

「なんかですね、ELダイバーを確保しろって言うのがスポンサーからの指示だって……」

 

「「「!!」」」

 

 ハバキリとコウダイ、セアは「ELダイバーを確保しろ」と言う言葉に強く反応した。

 

「なんでオレの妹がELダイバー扱いされてるのかは知らんが、どーにもきな臭いな」

 

「ってことは、あいつのスポンサーの狙いは、本当はジルちゃんだったってことか?」

 

 同時にハバキリの脳裏に、ナオエと共に潜入した施設のことを浮かべる。

 やはり、どうにも良くないーー気に入らないことが裏で動いているらしい。

 

「(きな臭いなんてレベルじゃねーな、既に表面化し始めてるってことなのか……?)」

 

 GBNに見えない暗雲が立ち込め始めている。

 それが確信に変わるのは、もう間もなくのことであった。

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 コーダイ「オフ会やろうぜオフ会!」

 

 ハバキリ「いきなり唐突だなおい」

 

 セア「オフ会って、リアル同士で会うんだよね?サッキーさんとかエミルくんはどうなのかな?」

 

 サッキー「あんまり遠くなかったら、あたしは大丈夫ですよ」

 

 エミル「ボクは、……うん、大丈夫だと思います」

 

 ステラ「私も参加していいんですよね?」

 

 コーダイ「おぅ、もちろんだ。実物のガンプラを持ち寄って、ついでに改造案とかも出し合ってさ……」

 

 ハバキリ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション

 

『それぞれの時』」

 

 ジル「いいなーみんな、わたしだけお留守番……」

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