ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション   作:さくらおにぎり

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2話 偶然と必然と

「姐さんよ、『フォース・アルディナ』のことはご存知か?」

 

『ADAMS APPLE』の一席に着いた"トラちゃん"の昔語りは、ある特定のフォースの名前を挙げるところから始まった。

 その問い掛けに対して、バーテンダーは人差し指を頬に当てて考え込むような顔を見せた。

 

「ん〜フォース・アルディナねぇ。ここ二、三年で一気に名を上げていたフォースで、腕利きのメンバーちゃん達の中でも『白き聖騎士』と『青き狂戦士』が双璧を誇っていた……ぐらいかしらね、アタシが知ってるのは」

 

「うむ。その勢いは飛ぶ鳥をも落とす……勢いだけなら、かつての『獄炎のオーガ』のフォース『百鬼』にも匹敵するほどだとも噂されていたが……」

 

 その途中で、バーテンダーはグラスにワインを注いでいく。

 

「今年の9月……ちょうど、"エル"ちゃんの反乱から一年が過ぎた頃だったかしら?」

 

 バーテンダーの目が細まり、それに答えるようにトラちゃんは頷いた。

 

「ある時、『青き狂戦士』の音沙汰が消えた」

 

 ワインの水面から一滴撥ねて、グラスから零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 何故ハバキリの青いジンーージンライが、ダイバーの操縦もなしに突然現れたのか。

 

 ハバキリはログインしてすぐに格納庫へ向かい、ある設定を調整していた。

 

 それは、『ダイバーの任意によってガンプラを自動でベース基地から発進させる』と言うものだ。

 

 ダイバー達の間ではあまり活用されていないが『補給輸送システム』と言うコマンドが存在しており、ミッションを開始する前に予め武装の追加などを設定しておくことで、ミッション中に好きなタイミングで装備を換装することが出来る、と言うものだ。

 連戦ミッションなど長期戦が想定される場合や、複数の敵機が出現するミッションなどに活用すれば、出撃時の積載量を減らしつつ、現地で武器を交換、様々な戦況に対応出来るようになる。

 

 例を挙げるのなら、連戦ミッション中に大型MAと戦闘を行う際、戦闘前に対艦装備に換装する、と言うことが可能になるのだ。

 

 この『補給輸送システム』だが、実はガンプラの輸送も可能である。

 とは言えこの場合は制約があり、プレイヤー個人が複数のガンプラをGBNに読み込めないように、ミッション中に他のガンプラに乗り換える、と言うことも当然出来ない。

 しかし、コレクトミッションのようにガンプラに乗らなくともミッションを受けられるような場合には、何かしらの要因で急にガンプラに乗る必要がある際に役立つ。

 

 ハバキリはセアに初心者の指導を行うに当たって、『トラブルに巻き込まれる可能性』を考慮したのだ。

 昨今、『ELダイバー狩り』、或いはそれを名目とした悪質行為が散見されるため、もし仮にそれに巻き込まれた時、ハバキリが操縦を代わるだけでは対処しきれない場合がある。

 

「(ま、何も無ければ良しとするかー)」

 

 ちょーっと徒労が無駄になるだけだ、と言い聞かせつつ、ハバキリは約束の16時ギリギリまで調整を急ぐ。

 

 ーーその結果、ハバキリの想定通りになったわけだが。

 

 

 

 

 

 突如として現れた、ハバキリのジンライ。

 その大剣をゼフィランサスから引き抜くと、残るリック・ディアス、ギラ・ドーガ、ユニオンフラッグの三機にゆらりと向き直る。

 

『ハッ……『青き狂戦士』だか何だか知らんが、三対一で何が出来る!』

 

 リック・ディアスは鼻で笑いながら、即座にクレイバズーカの引き金を引いた。

 放たれた砲弾は、真っ直ぐにジンライをぶち抜かんと迫る。

 それに対してジンライは僅かに屈むと、

 

 次の瞬間にはリック・ディアスの視界からジンライが"消える"。

 

『は?』

 

 当然、クレイバズーカの砲弾は誰もいない所を通り過ぎる。

 

「よっと」

 

『え、ちょっ』

 

 それとほぼ同時に、リック・ディアスの近くにいたユニオンフラッグが、バラバラに砕け散りながら吹っ飛ばされる。

 なんのことはない、単にジンライがクレイバズーカの砲弾を躱し、その回避した先にユニオンフラッグがいたので『ついでに』一撃を入れてやっただけ。

 

 "消えた"と誤認するくらいのスピードで、だ。

 

 ユニオンフラッグ、撃墜。

 

『こ……こんのっ、バケモンがぁぁぁぁぁ!!』

 

 ギラ・ドーガがヤケになってジンライにビームマシンガンを撃ちまくる。

 

 自分達とて素人ではない。

 数的有利の状態で慢心するようなヘマはしていない。

 それを自覚できる程度の腕前はあるはずだ。

 なのに。

 だと言うのに。

 

「おいおい、人をバケモン呼ばわりとは失礼な奴だな」

 

 たった一機に、たった一機の、ガンダムタイプですらない量産型のカスタム機に翻弄されている。

 その事実が、現在進行形になって冷静さを失わせる。

 

 撃ち出されるビーム弾に対して、ジンライはその大剣を寝かせるように構えると、それを盾にしながら猛スピードで突撃してきた。

 

 ジンライのその機動を可能にしているのは、機体各部に増設されたスラスター群。

 単一のパーツを上乗せするのではなく、複数の小型パーツを埋め込むことで出力を事細かく調整可能にし、さらにそれを戦況に合わせてマニュアルでリアルタイムに最適化することで、少量のエネルギーで最大出力を瞬間的に叩き出す。

 

 何発、何十発ものビーム弾が当てられてもビクともしない、大剣の黒鉄色が見る内に迫り来る。

 

『うわ、うわっ、うわッ……あ』

 

 一度失った冷静さは、そう簡単に戻らない。

 だから残弾管理を忘れ、ビームマシンガンの残弾がゼロになって空撃ちをしてから、弾切れだと気付く。

 

「残弾管理も出来ねーのかよ」

 

 それに気付いたときにはもう遅過ぎる、既に間合いに踏み込んできていたジンライは大剣を横薙ぎに振り抜き、ギラ・ドーガはユニオンフラッグと同じ末路を辿る。ギラ・ドーガの方が装甲が厚い分、機体がバラバラになるようなことはなかったものの、バイタルバートが原型を留めていないのでは結果も変わらない。

 

 ギラ・ドーガ、撃墜。

 

『ふ……ふざけるなァッ!!』

 

 一番最初に攻撃しておきながら、結局相手にもされていなかったリック・ディアスは、なけなしのプライドを怒りに変えてジンライへ襲いかかる。

 頭部のバルカンファランクスを速射しながらも、クレイバズーカを撃ちまくる。

 しかし、その程度の攻撃が通じるような相手ではない、ジンライは最低限の挙動だけで砲弾を往なし、バルカンファランクスの銃弾は大剣の腹に弾かれる。

 

『貴様にっ、貴様ごときにっ、GBNを守る俺達が、負けるはずなど……ッ』

 

「へー、正義を掲げりゃジャンケンでも必ず勝てるってのか?あっそうか、正しいなら後出しだって反則じゃねーもんなー?」

 

 弾の切れたクレイバズーカを捨てようとしてーーーーーその一瞬の隙を正確に突いて来るジンライ。

 リック・ディアスのマニピュレーターからクレイバズーカが離れた時には、もう大剣が振り下ろされている。

 だが、辛うじて冷静な部分が生きていたリック・ディアスは、左腕を盾にするようにして大剣を受けた。

 

「おっと、防がれたか?」

 

 リック・ディアスとは元々、シールドを装備しない代わりに分厚く頑強な装甲が持ち味の機体だ、受ける力を逸らすことで大剣の刃を食い止めることに成功する。

 

『もっ、もらったァ!』

 

 動きを止めることが出来た、と確信したリック・ディアスは空いた右手にビームサーベルを抜き放ち、それをジンライに振り抜こうとするが、

 

「『シースザンバー』、抜刀」

 

 ハバキリのその呟きと共に、ガチャンと何かが外れる音が届く。

 同時に、大剣の刃から柄が切り離されーー否、何かが引き抜かれていく。

 

 金属同士の摩擦音を鳴らしながら、抜き放たれた。

 

 それは、一振りの大刀。

 

 

『シースザンバー』と銘打たれたその大剣は、その名の通り『鞘(シース)』

 つまり、鞘そのものがひとつの武器であり、そしてその中に仕込まれた大刀もまた武器である。

 

『ア、アスタロトのスレッジハンマーだとでも言うのか!?』

 

「違うけど、似たようなもんだ」

 

 シースザンバーから抜き放つと同時にリック・ディアスのビームサーベルを躱したジンライは、空振りしたリック・ディアスにその大刀『斬鋼刀』を一閃する。

 

 頭部から股関節に切り目が入り、

 

「オレに喧嘩を売ったのが、運の尽きな」

 

 二つに割られたリック・ディアスは、一瞬のズレと共に爆ぜ散った。

 

 リック・ディアス、撃墜。

 

 五機いたはずのガンプラは、ものの数分でたった一人によって全滅された。

 黒煙が立ち昇る工廠地帯の中、ジンライは斬鋼刀の鞘(シースザンバー)を拾い納めた。

 

 セアは、ガンダムMK-Ⅱのコクピットからその始終をただ呆然と見ているしか出来なかった。

 

「すごい……」

 

 その三文字を、無意識の内に口にして。

 

 シースザンバーを肩に担いだジンライは、ゆっくりガンダムMK-Ⅱの元へ歩み寄ってくると、接触通信を行う。

 

「悪いねセアさん。いきなり変なことになってさ」

 

「う、うぅん、私は大丈夫」

 

 それよりも、とセアは自分のすぐ側にいる桜色の髪の少女と、モニター越しのハバキリの顔を見比べる。

 

「この娘、どうしよう?」

 

「んー……まさかこんなところでこんな拾い物をすることになるとはなー」

 

 参った参った、とハバキリはポリポリと頬を掻く。

 

「立ち話もなんだし、ひとまず帰還しますか。チュートリアルミッションも終わってることだし」

 

「あ、うん」

 

 セアはガンダムMK-Ⅱを飛び立たせ、その後にハバキリのジンライも続く。

 

 

 

 

 

 ベース基地に帰還、ガンダムMK-Ⅱとジンライがメンテナンスハンガーへ収容される。

 

「さてと、セアさん」

 

 格納庫からエントランスロビーに移動したハバキリとセアと少女の三人。

 

「さっき拾ったそのピンク髪なんだけど……」

 

「……わたし?」

 

 ピンク髪と言われて、自分のことかと指を自分に向ける少女。

 

「そそ、君のことね。で、だ。その君に質問」

 

 ハバキリは少女にいくつかの質疑応答を求める。

 

「君、名前は?」

 

「……んーと、えーと、…………『ジル』」

 

 まず、ダイバーネームは『ジル』と言うらしい。

 

「どこからログインしてる?」

 

「ログイン?……分からない」

 

 現実世界のどこからログインしているのかが分からないのか、(それが分からないのもおかしな話だが)そもそもログインと言うカタカナ四文字の意味がわからないのか。

 どちらにせよ、ハバキリの予想通りの答えに変わりなかった。

 

「よし分かったありがとう」

 

 それだけを聞いてハバキリは即決、再びセアに向き直った。

 

「セアさん。このジルって言う娘は、『ELダイバー』だな」

 

 ハバキリの言う『ELダイバー』と言う単語を聞いて、セアは考え込むような顔を見せる。

 

「ELダイバー……確か、去年の今ぐらいの時期に、GBNがELダイバーに乗っ取られたとかって、ニュースで見たことあるけど……」

 

 GBNをプレイしていない人間でも、社会的な関心として『ELダイバー』と言う単語は世に出回っている。

 

「そうです。言ってみれば、ジルはそいつの仲間……って言うか、同胞ですね。ELダイバー全員が全員、GBNを乗っ取ろうなんて考えないので」

 

 何でこんなボロボロなカッコしてるのは知りませんけどね、と付け足すハバキリ。

 ハバキリとセアの会話を聞いていて、自分のことを話しているのに、その本人が置いてけぼりにされていることに、ジルはキョトンとした顔をしている。

 

「それで、ジルちゃんはどうするの?」

 

 ログアウトする先が無いジルは、これからどうする、どうなるのかとセアはハバキリに訊ねる。

 

「GBNの利用規約の『電子生命体(ELダイバー)らしきプレイヤーを発見した場合、『ELダイバー保護管理局』にまでご連絡をお願い致します』に従って、運営に連絡しますね」

 

 ハバキリはGBN運営の中でも最近新たに発足された局番である、ELダイバー保護管理局に通話を繋いだ。

 

「あ、もしもし?GBNプレイヤーのハバキリと言う者ですが。はい、はいそうです、多分野良のELダイバーです。ミッション中に見つけたんで、エントランスロビーに連れ帰りました」

 

 それからいくつか言葉を交わしてから、ハバキリは通話を切った。

 

 ものの数分後に、女性の運営のダイバーが数人、エントランスロビーへ駆け寄ってきたのを見て、ハバキリは軽く手を振る。

 

「お待たせしました、ELダイバー保護管理局の者です」

 

 このディメンション内での身分証とも言うべき、ダイバーデータを見せてくる運営ダイバー。

 

「どもども、お忙しいところありがとうございます」

 

 ハバキリが応対し、その一歩後ろにセアとジルが着く。

 

「それで、保護対象のELダイバーは……」

 

 運営ダイバーは、セアの隣にいるジルに目を向ける。

 

「あ、この娘です、はい。ほれ、ジル」

 

 ハバキリはジルに、前に出るように諭す。

 ジルはこくりと頷くと、運営ダイバーの前に歩み出る。

 それを確認して、その場で屈んでジルと目線を合わせると、優しく頭を撫でてやった。

 

「もう大丈夫だよ、ここなら安全だからね」

 

「安全?死なないでいいの?」

 

「そうだよ。もう怖がらなくていいからね」

 

 怯えさせないように優しく接し、ジルの警戒を解かせていく運営ダイバー。

 ジルの方は何がなんだかと小首を傾げるだけ。

 とは言え、暴れて抵抗されるよりはずっと良い。

 

「では、彼女は我々が責任を持って保護致します。ご協力、ありがとうございました」

 

 深々と一礼してから運営ダイバーはジルの手を取って、その場から移動していった。

 

 それを見送ってから、ハバキリはセアに向き直る。

 

「あー、セアさん。一応言っとくけど、ミッションに出る度にこんなことがあるわけじゃないですからね?今回のはたまーにあるイレギュラーで……」

 

「それは分かってるつもりだよ」

 

 言い訳を捲し立てるハバキリに、セアは小さく笑って頷く。

 

「それよりも、さっきはありがとうね。私一人だったら、どうしたらいいか分からなかったから」

 

「へぁ?あーはい、どういたしまして」

 

 今回の件で、セアのGBNへの警戒を強めてしまっただろうと思い込んでいたハバキリだったが、それは杞憂だったようだ。

 GBNデビューの初ミッションでいきなり初心者狩りに遭って、楽しむよりも先に諦めてしまうダイバーも少なからずいる。

 ハバキリとしては、せっかくの初心者にそんな思いはさせたくない。

 セアは時刻を確認すると、「あ」と何かに気付いて眉の端を落とす。

 

「思ったより時間掛かっちゃうんだね、もうこんな時間」

 

 つられてハバキリも時刻を確認する。

 

「あ、もう17時過ぎてるのか。説明やら何やらしてると時間喰うな」

 

「うーん、もうちょっとしてたいけど、この後は用事があるから……」

 

 セアは時刻を閉じると、ログアウトのコマンドを探る。

 

「じゃぁ、ハバキリくん。今日はありがとう」

 

「いえいえ、大したことしたわけでもなし」

 

 軽く言葉を交わして一礼してから、セアはログアウトしていった。

 

「さてと、オレはどうするか……」

 

 まだクリアしていない軽めのミッションでもこなそうかと思った時、メッセージの着信が届いた。

 メッセージの送信者のダイバーネームを確認する。

 

「ん、テラスからか」

 

 GBNをプレイしていると、現実での通知に気付けないのがネックだ。

 なので、ハバキリは連絡に困らないように、テラス用のアカウントとダイバーギアも用意している。

 ダイバーギアを通じてのメッセージなら、現実側にいるテラスと、ディメンション内にいる自分とでリアルタイムにやり取りが可能だ。さすがにバトル中にメッセージの確認は出来ないが、それは双方で了承している。

 とは言え、テラスは基本的にハバキリとの連絡としか使わず、ディメンションにダイブした回数は、片手の指で足りるほどしかない。

 

 表示をタップ、テラスとのやり取りを確認する。

 

 Terrace:今日はGBNですか?晩ごはんは遅い時間にしますか?

 

 夕食の時間はいつにするのかと訊いているようだ。

 

「……オレも帰るか」

 

 特にやりたいことも無いため、ハバキリもログアウトすることにした。

 

 Habakiri:今からログアウトして帰る、だから早い時間でもダイジョーブ。

 

 テラスに返信だけして、セーブデータを保存、ログアウトのコマンドを入力した。

 

 

 

 

 

 

 ログアウトした後は寄り道せずに真っ直ぐ帰宅する。 

 

「ただいまー」

 

 ダイニングキッチンには、エプロンを着用したテラスが夕食を作っているところだった。

 

「お帰りなさい、兄さん。もうすぐご飯出来ますから、ちょっと待っててくださいね」

 

「おー、んじゃ食器とか出しとこうかね」

 

 一度自室に戻って荷物を置き、部屋着に着替えてから、ハバキリはリビングに戻る。

 

 

 

「「いただきます」」

 

 アメノ家の今日の食卓。

 炊きたてのご飯に味噌汁、焼魚、添え付けの野菜炒めと、シンプルでオーソドックスな献立だ。

 味噌汁を一口啜って、ハバキリは味を確かめる。

 

「はー、美味い。ほんとに料理上手くなったなー」

 

「中学に入ってからはほぼ毎日作ってますからね」

 

 素直に美味いと言うハバキリに、テラスは嬉しそうに小さく笑みを浮かべる。

 

「いやはや、家庭的な妹がいて、お兄ちゃんは大助かりだわー」

 

「兄さんもたまには作ったらどうですか?」

 

「やめとけやめとけ、俺が味噌汁を作ろうとしたらいつの間にかおでんを作ってたりするからな」

 

「何をしたら味噌汁が突然おでんになるんですか。しかも、味噌汁よりもおでんの方が手間かかるのに」

 

 ハバキリが面白おかしく話を切り出し、テラスがそれに的確にツッコミを入れる。

 いつもの二人の光景だ。

 

「そう言えば兄さん」

 

「ん、どうした?」

 

「今日はGBNに行っていたのに、早く帰ってきたんですよね」

 

 テラスの知る限りでは、ディメンションにダイブしているハバキリは、ガンプラに乗って戦闘を行っている時間の方が長く、メッセージを送ってもすぐに返信出来ないことが多々ある。

 今日は珍しくメッセージの送信から間もなく既読、返信が返ってきたのを不思議に思ったようだ。

 

「あー、区切りの良いところでメッセージが来たからな、やりたいことも済んでいたし、ダラダラしてるくらいなら、帰って晩飯の準備でも手伝うかーってな」

 

「そうでしたか」

 

 特に取り繕うこともなく、ありのままを話すハバキリに、テラスは疑うこともなく頷く。

 話の方向を変えようと、ハバキリは学校のことを話題に切り出す。

 

「テラスが入学してから、もう半年だよな。中学生活はどうだ?」

 

 兄のハバキリは中学三年生、妹のテラスは一年生だ。

 三年生であるハバキリは、一般的には受験生と呼ばれる学年ではあるのだが、通っている学校が中高一貫校なので、このままエスカレーターで高等部へ上がるため、受験を行う必要がない。

 そうでなければ、毎日のようにGBNに通えるはずがない。

 

「特に不便とかは感じませんよ。友達も何人かいますし、クラスに馴染めていないってことはないです」

 

「そっか。ま、何か困ったらオレのクラスに来いよ。イジメに遭ってたりしたら、授業中だろうがそいつのクラスに殴り込んでやるからな」

 

「そんなことしたら、兄さん停学になっちゃいますよ」

 

「それで済むんなら安いモンだ、テラスに手を出すならどうなるか思い知らせられるなら、何度だって停学になってやろうじゃねーか」 

 

「そしたら今度は出席日数足りなくなりますよ?」

 

「おっと、そりゃマズい。オレだって後腐れなく進学したいからな」

 

 冗談めかして言っているハバキリだが、テラスが虐められているようなことを知れば、本気でそのような連中を〆るつもりだった。

 

 アメノ兄妹の晩は、今日も穏やかだ。

 

 

 

 

 

 

 入浴を終えて、後はもう寝るだけと言う状態を整えてから、ハバキリはダイバーギアを近くに置きつつ、ジンライに手を加えていた。

 

 ダイバーギアを近くに置いているのは、元フォースメンバーであるコウダイーー基『コーダイ』とのメッセージのやり取りを行うためだ。

 

 Ko-dai:ウィッツ・スー。

 

 Habakiri:天国なんてあるのかな。

 

『ガンダムX』劇中のやり取りから始まったメッセージは、様々なガンダム作品のネタを織り混ぜながら繰り広げられ、同時に今日のハバキリのプレイログが再生される。

 

 Ko-dai:見せてもらおうか、ハバキリの四日ぶりのGBNのプレイとやらを

 

 Habakiri:や、やってやる!相手がガンプラなら、人間じゃないんだ!僕だって!

 

 Ko-dai:ハバキリ少佐!自分は、あのMK-Ⅱを見ておりません!

 

 Habakiri:分からなければどうと言うことはない、『いいね!』しろ!

 

 コーダイの言うMK-Ⅱとは、セアと共に乗り込んだガンプラのことを指しているようだ。

 チュートリアルミッションの『怒れるモノアイ』が開始されるところまで再生されていく。

 

 Ko-dai:初心者の動きじゃない、コーディネイターなのか!?

 

 Habakiri:邪魔すんなコーダイ!

 

 Ko-dai:邪魔はテメーだよ!

 

 Habakiri:すげぇよキラは

 

 Ko-dai:鉄華団団長さんチーッスwww

 

 そんなやり取りをしている内に、セアの操縦するガンダムMK-ⅡがNPDリーオーを全機撃墜、ハバキリがジルの救助を行っている場面に移る。

 

 Ko-dai:女……の子?

 

 Habakiri:何だと思ってたんだ!(カガリ感)

 

 Ko-dai:ステラ(サブタイ)

 

 Habakiri:つまり、この後カミーユがアムロのガンダムを倒そうと躍起になってるところをクワトロ大尉に咎められると見た

 

 Ko-dai:いいよカツ、負けの経験なんて参考にならない

 

 Habakiri:これが若さか……(涙)

 

 そこから、ゼフィランサス達五機が現れ、ハバキリがジルを引き渡すと見せかけて、カラミティガンダムを騙し討ちする。

 

 Ko-dai:ノォウ!!

 

 Habakiri:【悲報】 運営の強硬派の中にイオク様(笑)レベルの人がいた件について

 

 Ko-dai:お前ら頭あるんなら使えよ!

 

 Habakiri:ジオング「頭だけで白い悪魔さんを戦闘不能に追い込みましたが、何か?」

 

 Ko-dai:違う、そうじゃない

 

 ガンダムMK-Ⅱがゼフィランサス達の攻撃を捌きつつ、ハバキリがコクピットから飛び降りてジンライへと乗り換え、そのついでにゼフィランサスをシースザンバーの一撃で撃墜する。

 

 Habakiri:相対速度を(現実的に)考えろよ、身体がミンチになるだろうが

 

 Ko-dai:奴はハバキリだ!それくらいは平気でやってくる!

 

 Habakiri:マルバならギャラホのパトロール艦隊を率いてそうだったのにな、マッキーが来るまで保たなさそうだけど

 

 Ko-dai:ドレン大尉のことか、中の人的なアレ

 

 ジンライが瞬く間に残った全機を撃墜、ガンダムMK-Ⅱと共に帰還したところで、動画は停止する。

 

 Habakiri:四日ぶりのGBNで運営の強硬派の相手とかマジで萎える。ってか萎えた。過去形

 

 Ko-dai:萎えるとか言いながら容赦なく叩っ斬っていくハバキリさんマジリスペクトwww

 

 Habakiri:で、話を変えるとだ。今度の日曜日って空いてる?

 

 Ko-dai:おぅ、ガラ空きガラ空き。久々に二人でやるか?

 

 Habakiri:オケーオケー。んじゃオレはそろそろ寝るわ。また学校でなー

 

 Ko-dai:止まるんじゃねぇぞ……

 

 コーダイとのやり取りに区切りをつけて、ハバキリは消灯して眠りにつくことにした。

 

 

 

 

 

 アメノ・ハバキリと言う中学生は、有り体に言えば「変わっている」少年だった。

 

 制服を着崩したりするなど、素行は良いとは言えないが、不良のように無闇に噛み付いたり突っ張っているわけでもない。

 真っ当な注意を受ければ素直に返事をして従うが、それが間違ったものだと捉えれば真っ向から反論する。

 学生同士の喧嘩には無関心だが、弱者が虐げられるような"イジメ"を見掛ければ、相手が何人だろうと暴力を以って介入し、それに対する男女の別はない。

 負けん気も強ければ腕っ節も強く、何人もの生徒を返り討ちにさせたこともある。

 それでいながら、学年十指に折られるほどの成績を当たり前のように叩き出している。

 その素行の良くなさに反比例して高い成績は、彼のことを遠巻きに見ているだけの人間の多くのやっかみの対象になっている。

 しかし、彼と言葉を交わしたことのある者は言う。

 

「イイ奴だし、面白い奴だし、何が悪いのか分からない」

 

「あいつと喧嘩したことはあるが、その翌日は面倒ごとに最後まで付き合ってくれた」

 

「イジメられていたところを助けてくれたけど、イジメていた奴らに仕返ししようとしたら殴られた」

 

 読み取れるとすれば彼は気分屋なのではなく、正しいと思うことに味方し、悪いと思うことに敵に回る、"正義の味方"なのだろう。

 しかし、普段の素行は真面目とは言えず、喧嘩は当たり前のように発生し、そこには必ずと言っても良いほど暴力で解決される。

 このようなアウトローな側面も見られることから、正義の味方とも悪党とも程遠い。

 教師達からのハバキリの認識は、そのようなものだ。

 

 そんなハバキリの普段の学校生活と言えば……

 

「待たせたなーハバキリ」

 

「おー、待ちくたびれて背が腹に代わるところだったぜ」

 

 至って普通だ。

 

 昼休み。

 多くの生徒で賑わう学生食堂の中、きつねうどんを購入してきたコウダイがやって来ると、ハバキリは鞄の中から巾着袋に包まれた弁当箱を取り出した。

 コウダイが帰ってくるまで席を陣取り、先に食べずに律儀に待っていたのだ。

 

「ハバキリは今日も弁当なのな」

 

 一味唐辛子を汁の中に振りかけながら、コウダイはハバキリの弁当を見下ろす。

 

「基本はテラスが作ってくれるからな。我が妹ながら頭が上がらねーな」

 

 昨夜の余り物である、焼魚の小骨を器用に取り除いていくハバキリ。

 

「ったくよぉ、家庭的な妹ちゃんがいるとか、羨まし過ぎか!」

 

「それ聞くの65回目。いい加減耳にタコどころかイカが出来るわ」

 

 そんなどうでもいい会話を交わしながら昼食を食べ終えた時、ハバキリの鞄の中にあるダイバーギアから、メッセージの着信を告げるバイブが発される。

 

「ん?」

 

「フォースの連中からか?」

 

 コウダイも気付いたようで、視線がハバキリの鞄に向けられる。

 

「どうだろーな……っと!」

 

 ハバキリは足元に置いている鞄を蹴り上げ、宙を舞った鞄をキャッチすると、流れるようにダイバーギアを取り出し、西部劇のガンマンのようにクルクルと遊ばせながら起動する。

 コウダイが「無駄にスタイリッシュな取り出し方だな」と笑っているのを尻目に、ハバキリは送信者のダイバーネームを確認する。

 

「(……セアさんから?)」

 

 昨日にフレンド登録を交換した初心者ダイバーのネームである『Sea』のそれだった。

 

「で、誰からなんだ?」

 

「昨日の初心者さんからだな」

 

 そう答えつつ、メッセージ内容を確認する。

 

 Sea:昨日はありがとう!

 ところで、今週の日曜日って空いてるかな?

 もし良ければ、一緒にミッションを受けてほしいの。

 一人だとまだちょっと不安で……(汗)

 

「うーむ」

 

 予定が重なった。

 日曜日はコウダイと約束していた。

 しかし、目的自体はセアと同じ『GBNでプレイすること』だ。

 ハバキリはダイバーギアから目を離して、コウダイに向き直る。

 

「コーダイ、初心者さんがミッション手伝ってほしいって言ってるんだけど、良かったら一緒に混ぜていいか?」

 

「お、初心者さんも来るのか?俺は全然構わないぜ」

 

 目的が同じGBNと来れば、コウダイも了承してくれた。

 

「わりーな、急に予定変えて」

 

「気にすんな気にすんな」

 

 コウダイの了承を確かめて、ハバキリはセアからのメッセージを手早く打ち込んでいく。

 

「ところでよ、初心者さんってどんな感じのダイバーだ?フレンド交換してるんならさ、プロフィール見せてくれよ」

 

「ちょい待ってくれ、……っと」

 

 Habakiri︰オレは大丈夫ですよ。友達のGBN仲間が一人加えわるんですけど、セアさんは大丈夫ですか?

 

 返信を完了してからメッセージを閉じて、フレンド登録画面を呼び出す。

 最終更新に近い、セアの名前を選択する。

 

「まー、まだ初心者だから全然初期設定だな」

 

 そう言いつつ、ハバキリはセアのプロフィールデータをコウダイに見せた。

 すると、途端にコウダイの挙動が固まった。

 

「……な、なぁ、ハバキリ。この、セアって初心者さんなんだけどよ」

 

「ん?もしかしてコーダイも知ってたか?」

 

「一応、一応訊いておきたい。もしかしてこの人の名前って、聖なる愛って書いて、セアって読んだりする?」

 

「あー、確かそう言ってた気がするな。聖なる愛って、なかなかのキラキラネー……」

 

 何気なく言っているハバキリだが、それを聞いたコウダイはガタッと椅子を蹴り倒した。

 

「おまっ!何そんな落ち着いてんだよ!?」

 

 コウダイの声の音量が無駄に大きいせいで、周りが何事かと振り向く。

 

「逆に何でそんなに慌てんだよって訊いていいか?」

 

 あ、返信きた、とハバキリはメッセージに目を向け直す。

 

 Sea︰私は大丈夫だよ。お友達に迷惑とかじゃなければ、お願いしてもいいかな。

 

「で、セアさんが何だって?」

 

 何故にコウダイがそこまで取り乱しているのか、本気で分からないハバキリ。

 

「お前な!セアさんって言ったら、この学園の人気No.1アイドルだろ!?今年の春、彗星のごとく現れては全校男子生徒の人気を掻っ攫っていった、あの『ホシザキ・セア』さんだぞ!?」

 

 唾を飛ばさん勢いで迫るコウダイだが、

 

「あ、セアさんってこの学園にいるのか」

 

 対するハバキリは「そっかそっか」と頷くのみ。

 そんな淡白な反応するハバキリを前に、コウダイは大袈裟に手で顔を覆って天井を仰ぐ。

 

「かーっ!!この学園でセアさんのこと知らないとか抜かしだすアホはお前くらいだぞ!?」

 

「そんなに有名ならさすがのオレでも知らなくはないんだろうけどなー……まさか、高等部の人か?」

 

「そうだよ!高等部の人だよ!知ってるじゃねぇか!」

 

「高等部のことなんか知らんがな。つーか、高等部のことを知ってるコーダイの方がよっぽど……」

 

「だーもー!これだからハバキリってヤツはよ!!」

 

 するとコウダイはかっ食らうようにうどんと油揚げを口の中に放り込んで飲み込む。

 

「ごちそうさんでした。……ハバキリ!ちょっと来い!」

 

 ちゃんと「ご馳走様でした」を告げて食器を返却棚に戻し、ハバキリの襟首を掴むとそのまま教室の外へ連れ出していく。

 

「おいおいオレまだ弁当食ってる途中だぜ」

 

 弁当箱と箸を手にしたまま引き摺られていく。

 

「呑気にメシなんざ食ってる場合か!ほれ行くぞ!」

 

 

 

 コウダイがハバキリを連れてどこへ向かうのかと思えば、案の定と言うべきか、高等部の一年生の階層だった。

 セアのクラスだろう教室の出入り口から覗き見るコウダイ。

 

「よし、いるな……」

 

 視線の先に、席について雑談を交わす女子生徒が二人。

 

「ったく、校内で食べ歩きしてるとか、先生に見つかったらどーするつもりだったんだよ」

 

 もりょもりょとふりかけの掛かったご飯を食べるハバキリ。

 そんな彼の抗議を無視するように、コウダイはハバキリの襟首を掴んだまま「うぃーッス、失礼しまーす」と堂々と踏み込み、真っ直ぐにその方向へ向かう。

 

「あのっ、ホシザキ・セアさんっすよね?」

 

 通称、学園人気No.1アイドルを前に緊張しつつも、コウダイはセアだろう女子生徒に話し掛けた。

 

「……?そうですけど」

 

 コウダイに向き直るセアらしき女子生徒。

 

「ハバキリっ、いつまでもメシ食ってねぇで、お前も挨拶くらいしろ!」

 

 コウダイは、自分の後ろで尚も弁当を食べているハバキリを前に引っ張り出す。

 

「しゃーねーな……」

 

 箸の手を止めてコウダイの隣に立つハバキリ。

 

「えっ?ハバキリって……」

 

 その名前を聞いて、セアは跳ね返ったようにハバキリの顔を見る。

 ハバキリとセアの目が合う。

 

「どーも、リアルでは初めまして。ハバキリこと、アメノ・ハバキリです」

 

 とりあえずまずは、ダイバーネームの方で名乗る。

 

「あっ、もしかして、昨日のハバキリくん!?」

 

 セアの方も合点が入ったらしく、ハバキリを『昨日に初心者の自分を守ってくれたダイバー』だと認識したようだ。

 

「そーですそーです。昨日のハバキリくんです」

 

「同じ学園だったんだ……」

 

 信じられない、とセアは目をぱちくりとしている。

 

「あっ、えーっと、昨日はありがとうね」

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

 微妙に緊張しているコウダイとは対照的に、ハバキリはマイペースだ。

 

「ねぇセア。この二人とは知り合い?って言うか、知り合いだよね?」

 

 セアとは向かいの席にいた女子生徒が、どう言うことかと視線を左右させている。

 

「そうだよカナちゃん。昨日、初心者の私を指導してくれた人」

 

「ふーん」

 

『カナちゃん』と呼ばれたもう一人の女子生徒が、品定めでもするように訝しげにハバキリへ視線を向ける。

 そのハバキリは訝しげな視線など気にせずに、弁当の残りを箸で突いている。

 

「……ま、セアが良いって言うんなら、良い奴なんだろうね」

 

 何かに納得したのか、品定めを止める。

 

 次にセアの視線が、ハバキリの隣にいるコウダイに向けられる。

 

「ハバキリくんのお友達かな?」

 

 セアに話しかけられてか、コウダイはテンションを爆上げして答えた。

 

「ハイそうでーす!ハバキリのダチやってます!オオヤマです!コウダイです!合わせてオオヤマ・コウダイです!!」

 

 コンビ漫才のような自己紹介をするコウダイ。 

 セアはそれを見てクスリと笑った。

 

「もう知ってるかもだけど、ホシザキ・セアです」

 

「一応、名乗っていた方がいいよね。高等部一年の『クラサカ・カナデ』だよ」

 

 えーっと、とセアはハバキリとコウダイを見比べる。

 

「ハバキリくんのGBN仲間って言うのが、オオヤマくんなのかな?」

 

 そう尋ねられ、ハバキリは頷いた。

 

「うるせー奴ですいません、セアさん。でも大丈夫、コーダイはうるせー奴ですけど実力は確かですよ。うるせー奴ですけど」

 

「うるせー奴うるせー奴うるせぇ奴だなハバキリ!」

 

 ナチュラルにどつき漫才に発展するハバキリとコウダイを見て、「なんだか楽しそう」と笑うセア。

 それを傍から見ている立場であるカナデは「変な後輩達だな」と溜め息をついていた。

 

 一頻りどつき漫才をし終えてから、コウダイの方から話し掛けた。

 

「っとですねセアさん。クラサカ先輩とは友達っすか?」

 

「そうだよ。私とカナちゃんは親友同士。ね?」

 

 そう答えつつ、セアはカナデに同意を求めるように視線を向ける。

 しかし、対するカナデは斜に構えたような答え方をした。

 

「んー、親友と普通の友達ってどう違うのかな。セアと親友同士だったら、世の中親友だらけだと思う」

 

「カナちゃんひどいっ!?間違いなく親友だよね!?」

 

 親友かどうかはともかく、この様子ならセアとカナデの仲は良いのだろう。

 ちょうど弁当を残さず食べ終えたハバキリは、自分の要件ーーダイバーギアのメッセージのことを話すことにした。

 

「仲のいいとこすいませんけど、セアさん。日曜日にGBNしに行くって話ですよね」

 

「あっ、そうそう。えっと、日曜日に、私とハバキリくん、それとオオヤマくんも来るってことだったね。うん、私は大丈夫」

 

 セアの方に問題が無いのなら、後は万事解決だ。

 ハバキリはその日の時間帯も指定していく。

 

「なら、日曜の午後13時くらいに、GBNのエントランスで待ち合わせ……でいいですか?」

 

「うん、それでお願い」

 

「じゃー、決まりですね。よし」

 

 予定が決定したことに頷いてから、ハバキリは「失礼しましたー」と『コウダイの襟首を掴んで』教室を出ようとする。

 

「っておいハバキリ!?どこ行くんだよ!?」

 

 コウダイは慌てて抵抗しようとするが、襟首を掴まれた時点で体勢が悪く、ズルズルとハバキリに引き摺られる。

 

「自分のクラスに戻るだけだろ。いつまでもよそのクラスの教室にいたら迷惑だからな」

 

「ちょ待てって!せっかくだからセアさんともうちょい話を……はっ、離せ!はぁなせコラぁぁぁぁぁァァァァァ……!!」

 

 高等部の校舎に、コウダイの情けない悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 昼休みが過ぎて、放課後。

 今日は金曜日で、日曜日までにはまだ一日空いている。

 

「コーダイ、日曜日はセアさんの手伝いになるだろうし、二人プレイは今日にするか?」

 

 終礼が終わってすぐに、ハバキリはコウダイに話し掛けたが、そのコウダイはそれを訊かれて申し訳なさそうな顔をした。

 

「あぁ、悪ぃハバキリ。今日はちょいと野暮用があってさ」

 

「野暮用?……あぁ、前にスマホの修理がどうとか言ってたな」

 

「そうそう、その受け取りが今日だからな。つーわけで、また日曜日にな」

 

 それだけ告げると、コウダイは足早に教室を後にしていった。

 

「さて、オレはどうするかねー」

 

 久々にソロプレイでするのも良し、真っ直ぐ帰って自宅で家族サービスするも良し、特に何も無くても道草しに行くのも良し。

 そんな風にのんびりぼんやりしていると、不意に廊下の方が騒がしくなる。

 

「あっ、まだいてくれた。ハバキリくーん!」

 

 周囲を騒がしくしていたのは、他ならぬ学園人気No.1、ホシザキ・セアだった。

 そのセアが、特定の男子の名前を口にしようものなら、当然ざわめきは大きくなる。

 

「んー?あれ、セアさん?」

 

 ハバキリは何気なく反応するが、その反応が周囲のーー特に男子生徒の声が聞こえてくる。

 

「お、おい、今ホシザキ先輩、アメノのことを下の名前で呼んだぞ」

 

「アメノもホシザキ先輩のことを下の名前で呼んだし……」

 

「えー、あの二人ってどう言うカンケイ?」

 

「まさか、だって相手はあのホシザキ先輩だよ?」

 

「ファッ!?ウッソだろお前、有り得ねぇ……」

 

 そんな周りの声など完全に無視しつつ、ハバキリはいつもの調子でセアに話し掛ける。

 

「どーしたんです?」

 

「ハバキリくんって、今日は予定空いてるかな?」

 

「空いてますよー。これからどうするか暇してたくらいですし」

 

「! じゃぁ、今日もだけど、ちょっと私に"付き合って"くれないかな?」

 

 

 

「「「「「!?!?!?」」」」」

 

 

 

 セアの「私に付き合ってくれないかな?」発言によって、周囲の空気がさらに激変するが、発言者であるセア本人は自分が事の原因であることへの自覚はない。

 ハバキリはハバキリでこの空気を瞬時に読み取り、「あ、これ以上はヤバイかもしれん」と即断した。

 

「あぁー、ガンプラのことですか?いいですよー、オレで良ければ」

 

 敢えてガンプラと言う単語を挙げることで、周囲には「セアとは"お付き合い"の関係ではありません」をアピール。

 それで何人かの興味を逸らすことは出来たようだが、効果は今ひとつ。

 こう言う時は逃げるが勝ちだ。

 

「んじゃー、善は急げです。行きましょー行きましょー」

 

「あっ、うん。行こっか」

 

 ハバキリはそそくさと逃げるような早足で、セアと共に学園を後にしていく。

 

 

 

 

 

 校門の外へ出ても、しばらくは周囲からの視線を感じつつ、ハバキリとセアは通学路を歩む。

 

「それでセアさん、オレに用ってことは、やっぱりガンプラ関連?」

 

「うん。ほら、昨日は私、レンタルのガンダムMK-Ⅱを使っていたでしょ?これからGBNをしていくなら、自分のガンプラがあった方がいいかなって」

 

 ハバキリの予想通り、セアは自分のガンプラを作りたがっていた。

 レンタル品も、いつも同じガンプラが使えるとは限らない。

 そのレンタルガンプラも、自分ではないどこの誰かが作ったものだ。

 細かい機体の特徴や癖などは、直に触って見てみなければ分からない。

 

「でも、ガンプラ作るのは初めてだから、分かる人に付いてほしいけど、周りの友達でガンプラ作ってる人っていないし……」

 

「ん?ってことは、クラサカ先輩はGBNをやってないんですか?」

 

 ハバキリは脳裏に、セアと一緒にいた女子生徒の顔を思い浮かべた。

 

「カナちゃんはGBN友達じゃないよ。普通の親友」

 

「あぁなるほど。それで、同じ学園にオレがいたのは渡りに船だった、と」

 

「うん。ハバキリくんなら、お願いしても安心かなって」

 

「過分な期待に、答えられるか分かりませんけどね」

 

 謙遜するハバキリだが、頼られると言うのは悪いものではない。

 その頼られる相手が美少女ならば、男冥利につきると言うもの。

 

「とりあえずは、ガンダムベースに行きますか」

 

 

 

 

 

 ガンダムベースに到着して、早速物販コーナーへと足を運ぶ二人。

 

「ガンダムMK-Ⅱのガンプラってあるかな?」

 

 セアのお目当てのガンプラは、昨日に使用していたものと同じキットだ。

 

「売り切れてなけりゃありますよ。……あ、これです」

 

 ハバキリがHGUC REVIVEのガンダムMK-Ⅱ【エゥーゴカラー】を発見して手に取るものの、その彼女は別の方向へ視線を向けている。

 

「ねぇハバキリくん。あれもガンダムMK-Ⅱみたいだけど、でもなんか……『スーパーガンダム』って名前だね?」

 

 あれはどう言うことかと、セアは問いかける。

 

「あー、あれは旧HGのキットですね。同じHG 1/144のキットでも、可動範囲とかパーツの数、色分け……ようするに、組み立てた時の完成度が違うってことです。あの青い背負いモノは、『Gディフェンサー』って言う戦闘機で、MK-Ⅱと合体してこうなるんです」

 

 それとついでに、とハバキリはもうひとつ別のエゥーゴカラーのガンダムMK-Ⅱを手に取る。

 

「こっちは、Gディフェンサーじゃなくて、『フライングアーマー』が附属してるキットです。合体とかはしませんけど、これに乗ることで単独で大気圏に突入出来たり、空を飛べたり出来るってマシンです。あと、大気の摩擦熱にも耐えられる関係上、けっこう丈夫なんで攻撃喰らっても簡単に壊れません」

 

「へ、へぇー……?」

 

 スラスラペラペラと解説するハバキリだが、当のセアはよく分かっていない模様。

 

「まー、こっちのREVIVE版のキットが、昨日セアさんが使ってたのと同じヤツです」

 

 そう言いつつ、ハバキリは最初に手にしたそれをセアに手渡す。

 セアはパッケージの側面の写真などを見て回して「うん、これだと思う」と頷く。

 

「……あ、ニッパーとかも要るよね?」

 

「道具に関しては、今日はここの工作室で借りるとしましょ。セアさんが今度、自分でガンプラを作る時にってことで」

 

 ガンダムベースの工作ブースでは、ニッパーやヤスリなどの工具を無料で貸し出している。ガンプラを買ったその場で作れる、と言うわけだ。

 

 とりあえずガンダムMK-Ⅱだけを購入、その足で工作ブースへ向かう。

 座席の一角を占拠し、ハバキリとセアは向かい合わせて座る。

 

「それじゃー、オレに出来る範囲でのガンプラ製作のレクチャーを始めまーす」

 

「よろしくお願いします、先生っ」

 

 セアは姿勢を正して、ハバキリに対する呼び方も変える。

 

「先生呼ばわりはしなくていいです……で、とりあえずは説明書通りに組み立てれば問題なしです。マニュアル通りにやってもアホじゃありません」

 

「……?うん、そうだよね?」

 

 さり気無くギム・ギンガナムの「マニュアル通りにやってますと言うのはアホのやることだ」と言う台詞を掛け合わせたのだが、ガンダム初心者であるセアには通じなかった模様。

 それを気にすることもなく、ハバキリはレクチャーを続けていく。

 

「まずはランナー……つまりパーツがたくさんくっついた"コレ"の切り取り方から」

 

 ハバキリはビニール袋に包まれたまま未開封のそれを手に取ると封を破き、その中身を取り出す。

 流れるようにニッパーも手に取れば、セアも一歩遅れてそれに続き、ハバキリの真似をしようとする。

 

「いきなりパーツの根本から切ろうとすると、切り取った表面に余計な傷がついたり、キレイにカット出来ない場合があります」

 

 なので、とハバキリはパーツとランナーを繋ぐ部分から、少しだけ離れたところを切り取ってみせる。

 

「こんな風に、最初はわざとはみ出して切り取ります。で、この状態からもう一度ニッパーを当てて切り取ります」

 

 パチパチパチ、と手慣れたように手早く切り取ってみせるハバキリ。

 

「んでもって、仕上げに紙ヤスリで切り取った部分を軽く削って形を整えます。これを、ゲート処理って言います」

 

 ランナーから切り取った後は、ニッパーから紙ヤスリに持ち替えて、つい先程に切り取られた部分に紙ヤスリを当てていく。

 

「ふむ、うん……」

 

 セアは真剣にハバキリの話を聞きつつ、その彼の真似をしていく。

 

 

 

 

 細かいパーツはハバキリが手を掛け、それ以外をセアが自分で行っていく。

 セアもすぐにコツを掴んだようで、ゲート処理の速度も徐々に早くなっていく。

 組み立て図の半分が過ぎた頃には、ハバキリの手助けも必要なくなったようで、ハバキリ自身は自分のガンプラであるジンライを取り出して手直しに掛かった。

 

 そうして二時間ほどが経過すれば、バックパックが背中に取り付けられ、ハイパーバズーカはリアスカートに、ビームライフルは右手に握らせる。

 

「……うん、よし。これで完成!」

 

 セアは達成感と共に、完成したガンダムMK-Ⅱをテーブルに置いた。

 

 その隣には、ハバキリのジンライも置かれている。

 

「お疲れ様です。初めて作ったにしては、良く出来てますよ」

 

 ハバキリの細かいアドバイスやセーフによって、セアが組み上げたガンダムMK-Ⅱは、元々のキットの完成度の高さも合わさって、目立った綻びもなく完成した。

 

「ハバキリくんが手伝ってくれたおかげだよ。私一人だったら、もっと何時間も掛かってたと思う」

 

 さすがに疲れちゃった、とセアは軽く目を擦る側で、ハバキリはスマートフォンを開いて時刻を確かめる。

 16時辺りから始まって、約二時間ともなれば、18時が過ぎた頃だ。

 

「お疲れのところすいませんけど、もうすぐ暗くなる時間帯ですから、早いとこ帰宅しますか」

 

「あ、集中してて気付かなかったけど、もうそんなに経ってたんだね」

 

 セアは作り上げたばかりのガンダムMK-Ⅱをパッケージに戻すと、レジ袋へ入れ直す。

 ハバキリもジンライをケースに収めて鞄の中に戻して、鞄を担ぐ。

 レンタルしていた工具もちゃんと所定の場所にまで返却、テーブル周りも軽く掃除してから、二人はガンダムベースを後にした。

 

 

 

 昨今、日本各地のガンダムベースは、基本的に多数の交通機関が行き交う、広大な一等地に建造される。

 施設だけではない、1/1スケールの主人公ガンダムも同時に建造されるからだ。

 初代、ファースト、或いはRX-78と呼ばれる最初のガンダムから始まり、それ以外で特に有名なものはユニコーンガンダムやエールストライクガンダムなど。

 

 この地に聳え立つガンダムは『Gガンダム』に登場する『シャイニングガンダム』だ。日中はノーマルモードとバトルモードの二形態を数時間おきに変形するのみだが、日没後はスーパーモードに変形し、各部が金色に発光するという。

 現在時刻ではまだノーマルモードのままだが、あと数十分もすればスーパーモードに変形するだろう。

 

 そのシャイニングガンダムを背に、ハバキリとセアは歩幅を合わせて歩く。

 

「へー、セアさんは電車通なんですね」

 

「そうなの。普通電車で15分くらいの距離から」

 

 セアの通学手段が電車であるため、その駅前までハバキリが送っていると言う形だ。

 

「ってことは、GBNにログインする時は地元からですか?」

 

「うん。家の近くのショッピングモールの中の、ゲームセンターからログインしてるの。……あ、ここまででいいよ」

 

 ガンダムベースからの最寄り駅に到着し、セアは鞄から学生定期を取り出す。

 

「それじゃぁハバキリくん、また日曜日にGBNでね」

 

「はい。セアさんも、お疲れ様でした」

 

「うん、お疲れ様」

 

 軽く手を振り返してから、セアは改札を潜っていく。

 それを見送って、ハバキリも踵を返して自宅への帰路へ足を向ける。

 

 明後日の日曜日を、少し楽しみにしながらーーーーー。

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 コウダイ「あの学園のアイドルのセアさんとGBNプレイだなんて、イヤッフォーイッ!!」

 

 ハバキリ「マチルダさんの写真貰ったアムロかてめーは」

 

 コウダイ「いやはや、ハバキリと親友で良かったって心の底から感謝だぜ」

 

 ハバキリ「微妙に嬉しくねー感謝の形だなおい」

 

 コウダイ「まぁそれは置いといてだ。何のミッションをやるんだ?」

 

 ハバキリ「セアさんがバトル慣れするのが目的だからな、難易度低めでザコ多めのミッションってとこか」

 

 コウダイ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション

 

『連撃のオデッサ作戦』

 

 っておいハバキリ!誰だあのピンク髪の娘!可愛いじゃねぇかチクショー!!」

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