ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション   作:さくらおにぎり

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20話 それぞれの時間

 ELダイバー"に"不正ツールを使えばどうなるのか。

 

 トラちゃんのその発言を聞いて、ケンさんの表情が凍り付いたように固まる。

 

「……それは、」

 

「ハーイ、そこまで」

 

 バーテンダーがそこで口を挟み、三人分のお冷を注ぎ直す。

 

「今は、楽しい思い出語りの時間でしょう?嫌なことはすぐに忘れて、楽しいことは何度でも思い出す。人生は、それが一番よ」

 

 今までに何人ものダイバーと語らい、そしていくつもの激戦を潜り抜けてきたバーテンダーの言葉には、やけに重みのある説得力があった。

 

「フッ、そうであったな。ここに来るとすぐに話が脱線してならん」

 

 トラちゃんは胡散臭い笑みを浮かべて、コーヒーを一口啜った。

 

「思い出話って、最初は何話してたの?あんた、けっこう長い時間ここにいるみたいだけど」

 

 マイマイはストローから唇を離すと、トラちゃんに何を話していたのかと訊ねる。

 

「はて、何を話していたか……おぉそうだ、フォース・リヴェルタのアメノ兄についてだったな」

 

 少しだけ思い出すような素振りを見せてから、トラちゃんはだいぶ逸れてしまった話の道筋を元に戻す。

 

「イチノ……いや、今はマイマイだったな?お前から見て率直に、奴はどのようなダイバーだと見る?」

 

 一瞬、現実側の名字を言い掛けたトラちゃんだが、すぐにダイバーネーム、それもコードネームの方で呼び直す。

 

「んー?そうねぇ……忌憚の無い意見でいい?」

 

「それが聞きたくて訊いたのだ」

 

 脚色などせず、見たままのことを話せと言うトラちゃんに、マイマイは一呼吸入れ替えてから口を開き直した。

 

「アレは、98点は取れても100点が取れない。そして、『持っているはずの才能を努力の積み重ねで捨ててしまっている』……そんな人間ね」

 

「ほう?」

 

「だってそうでしょ?努力って言うのは、裏返せば『余計な情報を入れないために固定概念で自分を塗り潰す』のと同じよ。凡人が天才を超えられないのは、その"余計な情報"を額面通り(自分勝手)に解釈して、受け入れないから。『努力の天才』なんてものは、"この世に存在しない"」

 

 弁解も侮辱もしない、ただ彼女の目から見たハバキリが、凡人を上回ることが出来ないと言うことを言葉にするだけ。

 

「なるほどな」

 

 トラちゃんのほうも、マイマイの言うことを理解したのか、そのように頷く。

 同期である二人だけの中で事が完結されようと言う時、この中で最も人生を長く生きているケンさんが口を出した。

 

「お嬢さん、あなたは少し、物事を俯瞰し過ぎてはいまいか?」

 

 マイマイをお嬢さんと呼ぶケンさんに、彼女は何の気無しに振り返る。

 

「まだ若いのだし、もう少し夢を見ていても良いのではないか、と言うのは年寄りの冷水か?」

 

 ケンさんの問い掛けに対するマイマイの答えは、酷く冷め切ったものだった。

 

「あたしには、もう夢を見る資格なんて無い。やりたくないことを放り出して、好き勝手なことばっかりして、親の期待を妹に押し付けた挙げ句、その妹を傷付けた。死神様が許したって、他の誰でもないこのあたしが、あたしを許さないのよ」

 

 誰かに理解してもらおうなんて思ってない、とマイマイは強がる素振りもなく、淡々と答えを出すのみ。

 

「……すまない、口が過ぎた」

 

 まさに年寄りの冷水だな、とケンさんは口を噤む。

 戻りかけた『楽しい思い出語り』に文字通りの冷水が掛けられた空気だが、それを瞬時に読み取ったトラちゃんは、バーテンダーにアイコンタクトを送った。

 

「(姐さん、"アレ"をやるぞ!)」

 

「(了解よトラちゃん)」

 

 アイコンタクトだけで、0.2秒で双方の役割を理解する二人。

 

「んンッ……、……ウソだろ……これが、ダンジ?」

 

 突然バーテンダーは、自分の掌を見つめながらわなわなと震えだした。

 演技のものか、いつもよりも飾り気のない男らしい声色だ。

 

「あぁ……MWの残骸から見つかったのは、阿頼耶識のピアスだけだった」

 

 対するトラちゃんも、演技によって声色を変えてバーテンダーに応じる。

 

「クッ!何でだよダンジ!お前言ってたじゃねぇか!「死ぬ時はでっけぇおっぱいに埋もれて死にてぇ」って!おっぱいはなぁ、柔らけえんだぞ……MWのシートみてぇに固くねぇんだぞ!」

 

「ぶっはははははっ!ママったら相変わらずシノの真似が上手いんだからぁ!もうシノの中の人でしょこれ!くっ、はっはははははっ……!」

 

 そのやり取りを聞いて、マイマイは腹を抱えて爆笑した。

 ……実は、このバーテンダーの特技の一つとして、『ノルバ・シノ』のモノマネが物凄く上手いのだ。

 鉄血のオルフェンズのアニメを視聴したことのあるユーザーなら、その声の違和感の無さに口が開かなくなるか、マイマイのように大爆笑するのかのどちらかに分けられる。

 

「う、うむ、む……?」

 

 ケンさんは何が起こったのかと視線を右往左往させるばかり。

 どうにか空気が戻りかけたのを見て、トラちゃんは「ひゃーっはっはっはっ」と笑ってみせる。

 

 

 

 

 

 イベントバトル『百花繚乱』から数日後。

 事の始まりは、フォース・リヴェルタのグループメッセージで呟かれた、コウダイからのひとつのメッセージからだった。

 

 

 

 コーダイ︰オフ会やろうぜオフ会!

 

 ハバキリ︰一泊二日の東京デスティニーランド旅行だな!代金は全額コーダイが負担してくれるってフォース全員に連絡すればいーんだな!よし、任せろ!

 

 コーダイ︰おいばかやめろ!俺の小遣いとお年玉が何年分吹っ飛ぶと思ってやがる!?

 

 ハバキリ︰何を戯けたことを抜かすかコーダイ、お前はそのために茨の園で三年待ったんじゃねーのか?

 

 コーダイ︰私は我慢弱い!(ハムさん感)

 

 サッキー︰はいはーい!コーダイが代金負担してくれるなら、あたしもデスティニーランド行きたーい!

 

 コーダイ︰ほれ見ろハバキリ!お前が変なこと言うからサッキーが誤解してるんだぜ!どうするんだぜ!?

 

 ハバキリ︰コーダイが俺達をデスティニーランドに連れて行ってくれればいんじゃね?

 

 サッキー︰ねぇ、何人殺せばいい?あと何人殺せばそこへ辿り着く?ゼロは俺に何も言ってはくれない、教えてくれコーダイ

 

 コーダイ︰やめろよ!そんな血生臭くて殺伐としたデスティニーランドなんか行きたくねぇよ!

 

 エミル︰僕達は、どうしてこんなところ(血生臭くて殺伐としたデスティニーランド)に来てしまったんだろう……僕達の、世界は……

 

 ハバキリ︰オーブの市街地で遠慮なくハイマットフルバーストをぶっ放してシンの家族を焼き払った諸悪の根源

 

 エミル︰リマスター版ではカラミティの砲撃に差し替えられてる辺り、ファンのキラ様崇拝が加速してる、誰よりも速く。

 

 サッキー︰元々、キラ、アスラン、シンは三人とも主人公って扱いだったのよね?アニメ本編はキラが主役で、その他ゲーム作品だとシンが主役、つまりアスランは結局二番目から抜け出せない、世界で二番目に有名な緑のヒゲ親父だった……?

 

 ハバキリ︰アスラン視点からのコミックもある。『THE EDGE』シリーズだっけな?

 

 エミル︰ガンダム無双2なら、最終的にアスランがキラを降すシナリオもあったし、シンがキラアス二人を同時に相手取る過去最高のシナリオもあるよ

 

 セア︰えーっと、オフ会をしたいって話だよね?

 

 コーダイ︰この状況、さすがセアさんと言うべきなのか、まともに話を聞いてくれるのがセアさんしかいないことを嘆くべきなのか……

 

 ハバキリ︰全く!コーダイが一泊二日の東京デスティニーランド旅行に連れて行ってくれるなんて、一体誰か言ったんだよ!?

 

 コーダイ︰お前だよ!

 

 サッキー︰あんたよ!

 

 エミル︰君だね

 

 セア︰あの、オフ会するんじゃないのかな?

 

 コーダイ︰もうハバキリなんか知らん!お前抜きでオフ会の話を進めさせてもらう!

 

 ハバキリ︰サーセン、謝るからオレも混ぜて

 

 コーダイ︰しゃあねぇな許してやるよ!でだ、まずはみんながどこに住んでるかを確認しなきゃならないわけだ。

 

 

 

 ハバキリ、コーダイ、セア、ステラの四人は通う学園が(ハバキリとステラは兄妹なので住所も)同じなので確認の必要はないのだが、サッキーとエミルに掛かっている。

 例えば新幹線や飛行機を必要とするような距離だと、そもそも会うのが難しいからだ。

 しかしコーダイの懸念に反して、サッキーとエミルもお互いそれほど離れた距離と言うわけでもないようで、交通費が少し掛かる程度だった。

 

 

 

 コーダイ︰距離的に見ても、シーサイドベースのガンダムベースが一番都合がいいと思うんだけど、どうだ?

 

 エミル︰シーサイドベースって言うと、エールストライクが立ってる場所だっけ?

 

 コーダイ︰そうそう、そこな

 

 サッキー︰そこならあたしの方からも遠くないし、大丈夫よ

 

 ハバキリ︰コーダイ、一番肝心なこと忘れてんぞ。そのシーサイドベースに、いつ集まるんだ?

 

 コーダイ︰そこは無難に、今週の日曜日辺りにしようと思ってる。ここのメンバーは全員学生だから、いける思うんだけど、その辺はどうなんだ?

 

 セア︰私は日曜日で大丈夫だよ

 

 サッキー︰セアさんに同じく!

 

 エミル︰ボクの方も日曜日が都合いいかな

 

 ハバキリ︰大丈夫だ、問題ない(僅かに数値が異なるのを見逃しつつ)

 

 コーダイ︰なんか一人、死亡フラグって言うニュートロンジャマー発生装置を地中に埋め込もうとしてるけど、大丈夫だな、よし!

 

 ハバキリ︰妹にはオレから伝えとくわ。あ、ステラのことな

 

 コーダイ︰また後日に伝え直すけど、暫定の時間帯は、開店の10時に合わせて集合、昼飯もそこでってことで。

 

 セア︰了解です。

 

 サッキー︰オッケー!

 

 ハバキリ︰任務了解、ターゲットロックオン、破壊する(バスターライフルをコーダイに向けて)

 

 エミル︰やめてさしあげて

 

 コーダイ︰んじゃ、今週の日曜日は、シーサイドベースでオフ会な!解散!

 

 

 

 コーダイの解散を確認し、ハバキリは一度ダイバーギアを持ったまま部屋を出て、向かいの部屋にいるテラスの元へ向かう。

 コンコン、と軽くドアをノックしてから、テラスを呼ぶ。

 確認を怠るから、ひとつ屋根の下と言うだけで問題が多発するのだ。

 

「テラスー、入っていーか?」

 

「ん、どうぞ」

 

 ちゃんと部屋主からの反応を確認してから、ドアノブを捻る。

 宿題をしているのか、机に座って教科書とノートを広げているテラス。

 

「今週の日曜日な、フォースの面子でオフ会やろーぜって話を今してたところだ」

 

「あ、ごめんなさい、ダイバーギア見てなかったです」

 

 テラスは部屋の隅で充電しているダイバーギアを手に取り、「わ、更新いっぱい来てる」と慌ててグループメッセージを開いて内容を確認する。

 

「えーっと、日曜日に……シーサイドベース?ってどこですか?」

 

「こっから電車とモノレールを乗り継いで40分くらいの距離だ。そこのガンダムカフェで集まろーぜって話だ。まずオレ達二人とコーダイの三人で移動、セアさんとサッキー、エミルは現地集合だ」

 

「分かりました。時間帯とかお昼ごはんは、ひとまずはメッセージ通りですね」

 

 テラスが日曜日の予定を把握するのを確認してから、ハバキリは踵を返して部屋を出る。

 

「宿題の邪魔して悪かったな」

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

 テラスは宿題へ意識を集中させ直し、ハバキリは自室に戻る。

 

 

 

 ハバキリの勉強机に敷かれたカッターマットには、改造途中のジンライがパーツごとに分解されて広げられている。

 机の隅には『リーオー』や『ギラ・ズール【親衛隊仕様】』などのパッケージが重ねられ、半開きになっているケースには作りかけ、もしくは完成済のパーツが詰め込まれ、塗装中のパーツは猫の手ツールに差し込まれて、開けっぱなしの窓際に立て掛けられ、手元近くにあるルーズリーフには、ジンライと思わしきガンプラのラフ画が描かれ、『ビームカービン』や『高初速ロケット砲』『シュツルムスラスター』などと殴り書きされた項目が見られる。

 

 ハバキリがジンライの改造を始めてから数日が経つが、進捗はあまり芳しくない。

 

 何度かはひとまずの完成を見て、試験運用を行ったものの、彼の要求するところまで機体性能が届かなかったり、酷い時には機体が空中分解を起こすこともあった。

 その都度に改造し直しては試験運用を繰り返しているのだが、それも限界が見えてきた。

 ハバキリは手元にあるペーパープランを取って睨むように目を通し直す。

 

「この辺は今度、コーダイと要相談だな……」

 

 シーサイドベースで集まる時に、サッキーやエミルの意見も求めるつもりだ。

 とは言え、少しでも時間があるなら手を加えておきたい一心で、ハバキリは再び机に向かった。

 

 

 

 

 

 日曜日。

 コーダイが立てた予定通り、今日はシーサイドベースのガンダムベースに集まってオフ会だ。

 ハバキリとテラスは、まずは最寄り駅前でコーダイを待つ。

 

「兄さんは、こう言うオフ会って初めてですか?」

 

 柱時計の時刻を確認しつつ、テラスはハバキリに、オフ会のような事は初めてなのかを訊ねる。

 

「あー、全く初めてでもねーな。以前にいっぺんだけ、昔のフォース仲間と会うことがあったくらいか。でもその時は、せいぜい隣町にいた連中くらいのもんだったし、今回見たいな、普段気軽には会えない距離にいる相手とは初めてだな」

 

 半分以上がリアルでの友人なので、純然なオフ会とも言い難いのだが。

 現実で初めて会うのは、サッキーとエミルの二人だ。

 少なくとも、サッキーが嘘をついていなければ、彼女は自分達と同じくらいの女子中学生と聞いている。

 今ひとつ正体がハッキリしていないのは、エミルだ。

 リアルではどうなのかと言う話を、エミルからはあまりーーと言うより、一度も聞いたことがない。

 アバタールックそのものは、自分達と同じくらいの男子学生だが、実際のところは不明。

 そう言う話題を振ろうとすると彼は「……GBNでそう言う話をするのは野暮じゃないか?」と意味深そうに毎回はぐらかしてしまうからだ。

 実のところ、エミルはオフ会に参加しないのではないのかと思っていたハバキリだが、今日までキャンセルの連絡が入っていないところ、ドタキャンでもなければ来るはずだ。

 

「私はもちろん初めてですけど……サッキーさんとエミルさんがどんな人なのか、楽しみですね」

 

 少し緊張しているのか、それを隠そうと明るく振る舞うテラスを見て、ハバキリは軽く頭を撫でてやる。

 

「そんな緊張すんなって。お前やセアさんを狙う怪しい奴が近付いてきたら、オレとコーダイがフルボッコにしてやるからな」

 

「ちょっ、人前で頭なでなでしないでくださいよ、恥ずかしい……」

 

 慌ててハバキリのなでなでから離れるテラス。ガラスに写る自分を見て髪形を頻りに確認している。

 やっぱ緊張してるなー、と苦笑していると、いつもの方向からコウダイがやって来た。

 

「お待たせー!待たせたか?」

 

「はよーっすコーダイ。どのくらい待ったかはご想像にお任せするぜ」

 

「そんなに待ってないってことにしとくぜ。テラスちゃんもおはようさん」

 

 コウダイが声を掛けてきたので、テラスは瞬時に振り返っていつもの自分を取り繕う。

 

「おはようございます、オオヤマ先輩。ちなみに、待っていた時間は10分くらいです」

 

「意識の高い時間前行動だな?」

 

 感心するコウダイを他所に、駅のアナウンスが快速急行電車が間もなく到着することを告げてくる。

 

「っとと、アレに乗らないとな」

 

 急げ急げ、とコウダイに急かされるようにハバキリとテラスは改札に切符を通す。

 

 

 

 

 

 途中で一度乗り換えて、目的の駅に着いたら今度はモノレールに乗り換えて、ようやく到着する。

 等身大のエールストライクガンダムが聳え立つ、臨海の街並みだ。

 

 モノレールのホームから降りてくると、既に待ってくれていたらしい、セアが手を振ってくれている。

 

「こっちこっちー」

 

 そのセアの隣には、中学生くらいの女の子か一人。

 改札に切符を通して、通行の邪魔にならない場所に五人が集まる。

 

「セアさんもそうだけど、他のみんなもそんなに変わんないね?」

 

 セアの隣にいた女の子が、ハバキリ、コウダイ、テラスの三人を順番に見る。

 話口調から聞いても、少なくともエミルではないようだが、一応ハバキリが確認を取る。

 

「もしかしなくても、サッキーか?」

 

「そうそう。っても、髪がちょっと違うくらいだから分かるよね」

 

 GBN上のサッキーは翡翠色の髪だが、ここにいる彼女は黄土色に近い色合いをしている。

 

「あたし、『サギミヤ・サツキ』って言うの。サツキの『ツ』を小さくして『キ』を伸ばして、『サッキー』ね」

 

 えーっと、とサッキー……基、サツキはハバキリの顔を覗き込むように見る。

 

「ハバキリでしょ?」

 

「おー、アメノ・ハバキリだ。リアルネームと同じな」

 

 次にコウダイを見て、

 

「リアルでも背ぇ高い……コーダイね?」

 

「正解!オオヤマ・コウダイだ。『コ』を伸ばしてコーダイってな、ほぼそのまんまだ」

  

 最後にテラス。

 

「で、ステラちゃん」

 

「そうです、アメノ・テラスです。テラスをアナグラム的に読み替えて、ステラってとこです」

 

 ぺこりとお辞儀するテラス。

 お辞儀するテラスとハバキリを見比べて、サツキはふと疑問符を浮かべる。

 

「って言うか、ホントに兄妹?全然似てないけど……」

 

「似てねーとはよく言われるけど、れっきとした血の繫がった兄妹だ。間違っても複雑なアレコレがあるわけじゃねーからな」

 

 親同士の再婚によって義兄妹になったとか、養子として引き取られたとか、そう言ったデリケートな家庭背景は無いから安心しろ、とハバキリは強調する。

 

「いやいや、そこまで聞かないから大丈夫」

 

 サツキとしても、ハバキリとテラスが似てないと言ったのは見たままの感想であって、他所の家庭の内情にまで踏み込むつもりはない。

 双方の自己紹介が終わったのを見計らって、セアは辺りを見回す。

 

「あとは、エミルくんだけだね」

 

 残るはエミルのみ。

 リアルに関する話題を避けていたエミルだが、今回のオフ会には来ると言っていた。

 

「そろそろ10時になりますけど、大丈夫ですかね?」

 

 コウダイは腕時計で時刻を確認する。

 後一分少しで、ガンダムカフェの開店時刻だ。

 

「電車が遅れてるとか?あたし、連絡取ってみるね」

 

 そう言ってサツキはダイバーギアをバッグから取り出そうとした時。

 

「あ、あの……」

 

 蚊の鳴くような小さな声が、セアの背中に届く。

 振り返ってみると、辛うじて中学生くらいだと判断出来るくらいの、綺麗に切り揃えられた紺色の髪をした、小柄な少女がいた。

 

「えっと……フォース・リヴェルタの方々です、よね?」

 

「? そうだけど……」

 

 フォース・リヴェルタの面々と会ったことのある人だろうか、とセア以外も少女の姿を見やる。

 すると、躊躇いがちな自己紹介する。

 

 

 

「その、信じられないかも、ですけど……ぼ、ボク、『エミル』です……」

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

「「「「……えぇっ!?」」」」

 

「わお、びっくり」

 

 セア、コウダイ、サツキ、テラスは驚き、ハバキリだけはびっくりと言いつつも、そんなに驚いていない。

 

 

 

 

 

 立ち話も何だと言うことで、開店したガンダムカフェへと向かい、予めコウダイが予約していた席へと案内される。

 六人用の席に着いたところで、まずはエミルの自己紹介から始まる。

 

「……『ヒカミ・メグミ』、です。メグミは、恩恵の『恵』と、美しいって書いて『恵美』で、エミルはメグミの一部を音読みにして、語呂合わせに『ル』を付け足して『エミル』です」

 

 五人の視線が集中する中、しおしおと縮こまるように席に座り直すメグミ。

 自己紹介の終わりを見計らって、コウダイが最初に口を開いた。

 

「……信じられねぇな。いや、疑ってるわけじゃなくてな、俺達が普段知ってるエミルとはえらい違いだから、なんつーか、なぁ?」

 

 GBNと現実とのギャップ差が激し過ぎて、コウダイは自分の言いたいことと語彙が追いついていない。

 冷静堂々とした振る舞いに、多種多様な近接武装を自在に操る敏腕ダイバー……の正体が、相手の顔色を窺いながらオドオドした少女だと、誰が想像出来るものか。

 同じことをサツキも思っていたらしく、彼女は率直に伝えていく。

 

「GBNの時みたいな喋り方でいいのよ。セアさん以外には普通にタメ口じゃん?」

 

 セアだけがこのメンバーの中で唯一歳上なので、敬語を使って話すのは別段不自然なことではないとしても、他のメンバーに対しても敬語で話す必要は無いとサツキは言うが、

 

「い、いえ、なんと言うか、GBNの『エミル』と、ここにいる『メグミ』を別人物として使い分けてるんです」

 

 それに、とメグミは他五人の顔を見比べていく。

 

「同じ中学生でも、ボクは一年生で、サツキさんは二年生、ハバキリさんとコウダイさんは三年生。セアさんに至っては高校生で……テラスさんしか同い年がいなくて……」

 

 テラス以外は皆歳上なので、どうしても遠慮してしまうのだと、メグミは言うのだ。

 そのテラスとも、この間にフォースメンバーに加入したとは言え、まともに話したのはまだほんの数回だけだ。しかもテラスの場合は百花繚乱の一件からログインを控えていることもあり、話し合った回数をさらに減らしてしまっている。

 

「ま、今すぐ慣れろって話じゃねーんだ。ボチボチな、ボチボチ」

 

 それよりも、とハバキリはメグミ本人にに関する話題を遠ざけつつ、自分の本来の目的を進める。

 

「こいつを見てくれ。こいつを……どう思う?」

 

 ハバキリは鞄の中のケースから、改造途中のジンライを取り出してテーブルに立たせた。

 一見すると完成しているように見えるが、一部のパーツは塗装をせずに仮組みの状態で組み込んでいる。

 

「お、久々に見たジンライ……の、改造途中か」

 

 コウダイはその青灰色のジンを一目見ただけで、それがまだ未完成だと見抜く。

 

「リアルで見るのは初めてだけど……これ、半分以上は出来てるんでしょ?作り込みとかすごいし」

 

 サツキはコウダイと顔をぶつけないように、ジンライを覗き込む。

 その隣のメグミもこくこくと無言で頷いている。

 

「何度か完成はしたんだけどな。いざGBNで使ってみたら思ったより性能が出なくてな。オレの独力じゃ限度があるし、他の奴の意見をいただこうと」

 

 ハバキリがそう言うなり、コウダイは「ちょいと触るぜ」と一言断ってからジンライを手にとって見る。

 

「……やけにアポジモーターの配置が宇宙世紀っぽいなって思ったらコレ、親衛隊ギラ・ズールの脚部を移植してんのな。フット部はジンハイマニューバのまま変わってねぇけど」

 

「HGCE系の二重関節じゃ強度に問題が出てきたから、ポリキャップの太い袖付き系にした。以前とは関節構造が違うぶん、細かいアジャストは慣れが要るがな」

 

 次はサツキが、ジンライの腕部に目を付ける。

 

「この腕ってさ、わざとこうしてるの?関節と下腕との間に隙間出来てるけど……」

 

「可動域を限界まで広げよーとしたんだが、代わりに中身がスカスカになっちまった。隙間があるぶん、強度にも問題が増えた。だからって隙間をパテで埋めたら重くなるしな」

 

 コウダイとサツキの間から隠れるようにジンライーーではなく、そのジンライを納めていたケースの中を見ていたメグミが、率直な意見をこぼす。

 

「……このライフルって、ビームマシンガンですか?」

 

「どっちかっつーと、『ビームカービン』だな。脚部をギラ・ズールのものに変えてペイロードに余裕が出来たから装備させるつもりだ。カービンって言っても、基本的にはザクウォーリアのビーム突撃銃と同じで、一発の威力より連射力重視だ」

 

 ハバキリはそのケース自体もテーブルの中央に置く。

 ビームカービンだけでなく、愛剣シースザンバーや以前から使用している無反動砲のキャットゥス、重斬刀、76mm重突撃銃と言ったジン本来の武装群が取り揃えられている。

 

 コウダイ、サツキ、メグミがあーだこーだと話し合っている中、まだそれほどガンプラについて詳しくないセアとテラスの二人が肩を寄せ合って、その様子を眺めている。

 

「百花繚乱の後くらいからですね、兄さんが少し悩んでそうに見えたのは」

 

「ちょうどその辺りから、ガンプラの改造で詰まってたのかな。私も、ハバキリくんの力になってあげたいけど、深くて細かい改造になると、ちょっと手が出せないし……」

 

「それもあるんですけど……」

 

 テラスは、コウダイと言葉を交わす兄を盗み見てからセアと目を合わせ直す。

 

「悩んでるのに、『焦ってるようにも見える』んですよ」

 

「焦ってる?」

 

 どういうことかとセアが訪ね返すのを尻目に、コウダイが大きく溜息をついた。

 

「ムチャクチャなことを言うな。このカタログスペック通りに完成したら、GBNの再現つっても10Gは軽い。しかもリミッター付きでそれだろ。リミッター解除したら……想像してみろよ、『四方八方から肋骨が砕けるような激痛』を抱えながら操縦するなんて、出来るか?」

 

「……フォン・スパークなら、首を爆破されての半仮死状態で10分は戦えるから、オレなら……、……三分くらいなら、なんとか?」

 

「おい、フリじゃねぇからやめとけ、冗談抜きで死ぬぞ」

 

 コズミック・イラ版のトールギスでも作るつもりかよ、とぼやくコウダイに、サツキも同調する。

 

「大体、そこまでムチャクチャな改造しなくても、今のジンライを完成させるだけでも十分だと思うけど……」

 

 ハバキリも、コウダイとサツキがそのような反応をするのは承知の上だったのか、気にせずに自分の意見を押し挙げる。

 

「いやな、『普通の相手』ならそこまでする必要はねーんだけど、……ちょっとこれから先、『普通じゃない相手』と戦うかもしれねーのさ。そんなのと出会さないならそれに越したことはねーけど……いざって時に対抗出来る力は、持っとかねーと」

 

『普通じゃない相手』と聞いて、コウダイ、サツキ、エミルの三人がどういうことかと無言で訊ねてくる。

 

「あー、えーっとな……」

 

 自分とナオエが、あの『複数のジル』の存在を目撃したことを素直に話すべきか。

 しかし、ジルのいないここで話すことは、彼女への不信感を煽るような行為にもなりかねない。

 ほんの数秒の思考の末、ハバキリは嘘をつかない程度に誤魔化すことにした。

 

「……サツキとかエミ……メグミは知らねーと思うけど、オレやコーダイは、以前は運営の強硬派の連中に狙われていたんだよ。まー、毎回返り討ちにしてやったな。最近はそう言うのも聞かねーけど、いつまたそんな輩が出てくるか分からねーし、何にせよやれることがあるならそれをやるべきだなと」

 

 少なくとも、嘘ではない。

 今は運営の中で隠れて行動しているトーシローのおかげで、以前のような襲撃は鳴りを潜めている。

 だが、いつまたあのような連中が現れないとも限らないし、もしそんな連中がイレギュラーなことに手を染めるかもしれない。

 

 それこそーー運営が新型ブレイクデカールを使うようなことを(その件に関しては運営の意志ではなく、ELダイバー・『サラ』のハッキングによるものだったとされている)。

 

 もちろんそれもあるが、

 

「(トーシローの真意が分からねーからな。この間はアレだったが、次に会うことがあるとすれば……)」

 

 恐らく、戦場で相見えることになるかもしれない。

 その時に、彼を踏み倒して進まなければならないことにもなるだろう。

 

 サツキとメグミは今ひとつ分からないようだが、コウダイはハバキリのその言葉に理解を示したように頷く。

 

「あぁ、なるほどな……」

 

 理解したと言うリアクションは見せたコウダイだが、彼自身は今ひとつ腑に落ちるものがない。

 少なくとも、"改"の銘を打たれる前のジンライですら、一対多数の状況を覆せるレベルの性能はある。

 なのに、今更になって運営の過激・強硬派のことを警戒する理由が分からないのだ。

 別のところに本音があるのだろうが、それを問い詰めたところでハバキリがそれを話すことは、恐らくない。

 その末に弾き出した結論は。

 

「(こりゃぁアレだな、こいつまぁた一人で勝手に行動を起こすつもりだな)」

 

 長年の付き合いがなせる業と言うべきか、皮肉と言うべきか。

 ハバキリは普段はちゃらんぽらんに見えるし、普段でなくともちゃらんぽらんそのものだが、その実は誰よりも責任感が強く、他者を巻き込まずに、裏で誰も見ていないところで処理しようとする側面がある。

 しかしそれは、他人のことを第一に考えているのではなく、「自分がこうしたい、こうすべきと思っているだけ」と、極めて自己中心的な考え方に基づくものだ。

 

 自分勝手で、自己犠牲……それが、アメノ・ハバキリと言う人間の基本。

 

「(たまには、俺にも仕事させろよなぁ)」

 

 そんなハバキリを、コウダイは嫌いではなかった。

 なればこそ、自分も彼に負けてはいられないと思い、行動に移したくなる。

 

「……次、いいかな」

 

 すると今度は、セアが小さく挙手した。

 全員の視線が自分に向けられたのを確かめてから、セアはバッグからガンプラケースを取り出し、その中にあるフリーダムガンダムを見せる。

 フリーダムガンダムと言っても、背部のウイングバインダーやサイドスカートなどは取り外され、シンプルな姿にされていた。

 

「あと、これも」

 

 続いてダイバーギアも取り出して、待機させていた画面も見せる。

 セアは以前からフリーダムガンダムの改造案の図面を引いており、それも凡そが描き上がったところだ。

 

「色々な作品を見て、私なりにフリーダムガンダムをどう改造出来るか考えてきたんだけど、こんな感じに出来ないかな」

 

 描かれているのは簡単な線画のみだが、どのような形になるかは分かる。

 まず、腰から踝(くるぶし)近くにまで掛けてドレスのように広がる増加装甲だ。

 形状を見るところ、フリーダムガンダム本来のウイングバインダーが使われているようだ。

 ウイングバインダーを下半身に移したところで空いた背部には、複数枚の展開式楊翼と一対の火砲で構成されたバックパックが背負われている。

 ちょうど、『アカツキ』のオオワシパックに似ているだろう。

 手持ち武装であるルプス・ビームライフルやシールドはそのまま装備させているようだが、この辺りはまだ手を加える余地が残っている。

 ハバキリ、コウダイ、サツキ、メグミの四人が食い入るようにダイバーギアの画面を見ては拡大させたりしている中、最初にコウダイがコメントした。

 

「フリーダムの翼をドレスっぽく見立てたってところっすね。指し詰め機体銘は、『フルドレスフリーダムガンダム』か」

 

 略して『フルフリ』だな、とコウダイが冗談めかして言うが、

 

「うん、名前はそうしようと思ってたの。コウダイくん、よく分かったね?」

 

 セアの考えているその通りだった。

 下半身にウェイトが集中し、バックパックにも新たな武装を装備して全備重量も増しているが、上下半身の重量バランスは取れており、火力や機動性も大きく強化されているため、パワーウェイトレシオで言えばこちらの方が上だ。

 サイドスカートが別物に代わったため、クスィフィアスレールガンはオミットされ、ラケルタ・ビームサーベルはセイバーガンダムと同じ両肩に移動されている。

 そのサイドスカートに、プラズマカノンのバラエーナがそのまま取り付けられているため、バックパックのキャノンとバラエーナ、手持ちのライフルと合わせれば、ハイマットフルバーストも可能だ。

 

 ハバキリのジンライと、セアのフルドレスフリーダムガンダム(仮)について話し合っている内に、時刻は既に正午前。

 コウダイの提案によって談義は一旦休止し、ランチタイムへ。

 

 

 

 

 ジルは、管理保護局の自室のベッドの上で、自身のコンソールを見ていた。

 

「いいなー、みんな……」

 

 いつもの日曜日なら、この時間帯にフォース・リヴェルタの面々は揃うことが多いが、今日は『オフ会』と言う、現実世界の方で遊ぶことだとセアが教えてくれた。

 彼らは自分と違い、GBNだけをやっているわけにはいかないことは知っている。

 誰かがいてくれる、と言うことが当たり前になっているのかもしれない。

 それはいけない、とジルは頭を振る。

 いつまでも彼らが来てくれるとは限らないのだ。

 そのいつかが来る前に、彼らに「ありがとう」を返さなくてはならない。

 

「……よしっ」

 

 ジルは勢いよくベッドから飛び起きる。

 

 

 

 外出許可を得てから、ジルはGBNシティを歩く。

 いつもなら誰かと付き添ってもらいながらだが、今日は一人だ。 

 行き先は、オリジナルアクセサリー製作のために頻繁に通っているアクセサリーショップ。

 

 入店すると、「いらっしゃいませ」と言う挨拶に迎えられる。

 ジルの姿を見つけるなり、受付のNPDが声を掛けてくる。

 

「今日もアクセサリーの製作ですか?」

 

「うん」

 

 こくりと頷いて、早速ジルはアクセサリー製作に取り掛かる。

 実のところ、これに関する進捗は良好だ。

 どのような形にするかのデザインを選び、次にカラーリング、外観が出来たら装飾品としてのカテゴリ、それらを決定した後は必要な素材と金額を確認し、最後に生産だ。

 ジルは、最終過程である必要素材と金額の確認の時点で、一旦データを保存している。

 自分を含めたリヴェルタのメンバー七人(新たにステラの分も製作するため)のアクセサリーのデザイン、それと必要な素材と金額を全て揃えてから、いっぺんに作るつもりだった。

 

 ーーそれも、もう終わる頃だ。

 

「ハバキリ、よし。セア、よし。こうちゃ、よし。サッキー、よし。エミル、よし。ステラ、よし。……わたしも、よしっ」

 

 指差し確認を終えて、満足げに頷くジル。

 今日まで保存してきたデータも合わせて、一括で提出する。

 

「ではこちら、合計で七つのアクセサリーになります。生産しますか?」

 

「はーい」

 

 ジルが提出したデータを読み取らせ、必要素材と金額も消費させ、次々にアクセサリーが完成されていく。

 いずれもネックレスとして作られ、

 

 ハバキリはオブシディアン、セアはダイヤモンド、コーダイはガーネット、サッキーはエメラルド、エミルはサファイア、ステラはブラックオニキス、そしてジルのものはパール。

 

「……出来たぁ!」

 

 完成され、並べられるアクセサリーを見て、ジルは嬉しそうにはしゃぐ。

 

「えへへー」

 

 アイテムボックスに入れることも忘れ、そのまま手に持ったままアクセサリーショップを出た、

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 何人かのダイバーがアクセサリーショップから出てきたジルを取り囲んでいた。

 

「ターゲットを捕捉、確保する」

 

「………え?」

 

 ジルの戸惑いを他所に、ダイバー達の内の一人が懐から何かを取り出し、ジルの首筋に当てた。

 

「あ"っ」

 

 バヂンッ、と言う音がジルの聴覚に届いた瞬間には、既に意識を失っていた。

 その何かーースタンガンの電流を浴びたジルが抱えていたアクセサリー達はその手を離れ、バラバラと床に散らばった。

 

「ターゲットの確保完了、帰投する」

 

 ダイバー達はジルを、違反者拘束用のバリアフィールドで拘束すると、すぐにその場を立ち去った。

 残されているのは、『六つの』アクセサリーだけだった。

 

 

 

 

 

 昼食後は、ガンダムベースの製作ブースでガンプラの改造に勤しむハバキリ達。

 ハバキリとコウダイの二人はジンライを分解しつつ、あーでもないコーダイでもない、と額を突き合わせて改造し合う。

 

「何言ってやがるコーダイ、プロペラントタンクなんか付けたら重くなる上に被弾面積だって広がるだろ。そんなもんいらんいらん」

 

「いやいや、こいつがスペック通りに完成しても、まともに動かすだけでも絶対推進剤が足りなくなるぞ。プロペラントタンクくらいサザビーやシナンジュだって付けてるし、いざとなったらパージすりゃいいんだよ。これ付けるだけで、稼動時間が少なくても二分は伸びるんだからよ」

 

「んー……ビーム兵器も使うとなると、やっぱペイロードの余裕はもーちょいいるかー」

 

「『ガイズジン』みたいに装甲を徹底的に削っ……たら、機体が加速度に耐えられなくなって"ヅダ"るんだったな」

 

 じゃじゃ馬とか暴れ馬どころじゃねぇなコレ、とコウダイは前髪を掻きむしる。

 

「腕部の隙間があるのは危険だよなぁ。可動範囲も十分にあって、スカスカにならない構造……いっそ、腕関節をガンダムフレームに置き換えるってのはどうだ?」

 

「……あ、いーなそれ。メモっとくぜ」

 

 コウダイの意見を聞き取り、すぐにメモ帳にペンを走らせるハバキリ。

 

 

 

 その一方で、セア、サツキ、メグミ、テラスの女子四人が、フルドレスフリーダムガンダムの製作を手分けてして行っていた。

 

「うわっ、すっごい綺麗に塗装されてるっ。セアさんって塗装上手いんですね!」

 

 サツキは、セアが塗装したのだろうパーツを見て驚いている。

 

「前に神社で塗装を教えてもらったって言ってたでしょ?それを実践しただけだから……」

 

 謙遜するセアを他所に、メグミとテラスは黙々とパーツを組み上げていく。

 

「学校に持っていくお弁当も、全部テラスさんが作ってるんですか?」

 

「そうですよ。たまに兄さんが作ってくれることもあるんですけど、基本は私が作ってます」

 

「すごいですねぇ……」

 

 同い年であって話しやすいのか、細々ながらもメグミとテラスの会話が交わされる。

 

 

 

 

 

 

 それから二時間ほどが経過し、ハバキリの新たなジンライと、セアのフルドレスフリーダムガンダム(仮)が八割ほど完成に近付いて来た頃。

 

 男子二人と女子四人とで分かれた製作ブースの中、不意にその場にいた者達のダイバーギアが一斉にメールの着信を告げる。

 さて何の通知かと、作業の手を一度止めてメールの内容を確認する。

 運営からのお知らせのようだ。

 

 

 

 GBN運営管理からのお知らせ︰平素はGBNをお楽しみいただき、誠にありがとうございます。

 大変申し訳ありませんが、11月18日の0:00〜23:59の間、緊急のメンテナンスを実行致しますので、上記の時間帯のログインが出来なくなります。

 皆様に安心安全なプレイを行っていただくためのメンテナンスですので、ご理解とご協力をお願い致します。

 

 

 

「あー、メンテのお知らせか」

 

 ま、しゃーねーか、とハバキリはメール画面を閉じて、マイページにまでバックする。

 

「去年の動乱事件以降、緊急メンテが増えたもんなぁ」

 

 コウダイもメールの内容を確認したのか、彼に倣うようにダイバーギアを閉じた。

 ELダイバーの過剰な誕生を抑止するために、内部データを整理し、なおかつエラーなどの修正が主な目的らしい。

 

 女子四人の方や他の利用客も、緊急メンテナンスのことを理解したようで、「緊急のメンテだって」「またかよー」などと交わしている。

 

「あ、ジルにもこれ伝えておかねーとな」

 

 再度メール画面を立ち上げ、送信先をジルに指定しようとして、

 

「……あ?」

 

 ハバキリは自分の目と、表示されている画面の両方を疑った。

 

 登録フレンドデータに、ジルのデータが無い。

 

 何度目視確認したり受信メールの更新確認を行っても、やはりジルの名前が見えない。

 

「っかしーな……悪いコーダイ、なんかオレの画面だとジルの名前が出てこねーから、代わりにメッセ頼むわ」

 

「おぅ」

 

 ハバキリに言われて、コウダイはメールの送信先を指定しようとするが、

 

「ありゃ、俺の画面にもジルちゃんのデータがねぇぞ?」

 

「……どーゆーことだ?」

 

 ハバキリは、隣の席にいるセア達四人にフレンド登録にジルの名前が消えてないかと訊ねてみる。

 

 すると案の定と言うべきなのか、フォース・リヴェルタ全員のフレンド登録から、ジルの名前が消えているのだ。

 

「なんでジルちゃんのデータが消えちゃってるのよ」

 

 疑問符を浮かべるサツキに、テラスは少し考えてから思い当たる意見を挙げる。

 

「間違ってログデータを消してしまった、とかですか?」

 

「だったらいーんだが……」

 

 ジルのログデータの消失に、運営の緊急メンテナンスの通知が(恐らく)同時に起きているのだ。

 ハバキリは形容し難い胸騒ぎのようなものを覚える。

 その一方でコウダイも顎に指を当てて考え込む。

 

「まさか……いやでも、ジルちゃんは保護されてるんだ。いくら強硬派の奴等でも、保護局に直接殴り込みが出来るはずがねぇ」

 

 コウダイは、例によって例のごとくELダイバー狩りのことを頭に浮かべたが、運営の保護管理局によって保護されている以上、それは無いと頭を振る。

 

「……ちょっと、ログインしてみようか」

 

 ここで考えても仕方ないと踏んだのか、セアは荷物を纏め始める。

 確かめないことには何も分からない、とこの場の全員が思ったようで、六人でダイブルームの使用許可を得てから、ディメンションへログインした。

 

 

 

 

 

 ログイン後、ハバキリとセアは保護管理局へ、コーダイとエミル(メグミ)がフォースネストへ、サッキー(サツキ)とステラ(テラス)がベースエリアの外周りへと、それぞれ三手に別れて行動を開始した。

 

 コーダイとエミルはフォースネストに入室してすぐに、ジルがいないことと、いたような痕跡も見当たらないことを確認する。

 

「フォースネストに来た様子もなさそうだな」

 

 ソファーの上に鎮座しているテディベアが、昨日の最後に見た配置と変わっていないことや、テーブルの上のプチッガイのガンプラも触られたような形跡がないことも確かめるコーダイ。

 

「こっちもネスト中捜したけど、やっぱり見当たらないね」

 

 落胆に声を落とすエミル。

 

「となると、とりあえずこっちはハズレだな」

 

 とにかく、フォースネストにはいないことを他四人にメールを送ってから、二人ともフォースネストの周りからジルを捜し始める。

 

 

 

 ハバキリとセアは、ELダイバー管理保護局の局番に通話を繋いでいた。

 数秒のコール音の後に、受付の局員の顔がモニターに表示される。

 

『こちら、GBNのELダイバー管理保護局です。ご用件をどうぞ』

 

「もしもし、ダイバーのハバキリと言う者です。えーと、そちらの保護局に、ジル……短いピンクの髪のELダイバーが保護されていますね?」

 

『確認致しますので、少々お待ちください。………………はい、ELダイバーNo.136『ジル』さんですね』

 

「そのジルにメールを送信しよーと思ったんですが、何故か彼女のフレンド登録データが消えておりまして……そちらに何かシステムエラーはありませんか?」

 

『いえ、こちらでは特にシステムエラーは確認されておりませんが、再度システムエラーが無いか検査を行わせていただきますね。それと、ジルさんでしたら、午前11時頃に外出許可を取られております』

 

「……外出許可を、取ったんですね」

 

『はい、間違いありません。これよりシステムエラーの有無を確認しますので、確認完了後に折り返しご連絡をさせていただいてもよろしいでしょうか』

 

「あー、はい、お願いします。失礼します」

 

 やや切り詰めるように通話を切るハバキリ。

 通話終了を終えてセアに向き直ると、その彼女の顔は青褪めている。

 

「外出許可を取ったってことは、もしかしてジルちゃん、一人で出掛けたんじゃ……!?」

 

「そ、の、可能性は高そーですね。フォースネストにいないとなれば、ジルが行きそうなところは……」

 

 最近前後で、ジルがよく出入りしている場所。

 それは、ひとつしかなかった。

 

「「アクセサリーショップ」」

 

 ハバキリとセアの声が重なると同時に、コンソールが通話の着信を告げる。

 保護管理局からの報告かと思えば、ステラからの通話だった。

 

「もしもし、どーしたステ……」

 

『兄さんっ、大変です!』

 

 通話越しのステラの声音は、本当に慌てている時のそれだった。

 何か分かったのかとハバキリが問い質そうとするよりも先に、ステラが続けた。

 

『ジルちゃんが通っているアクセサリーショップに行ったんですけどっ、これっ、見てください!』

 

 ステラは短い動画をハバキリに送信した。

 それをすぐにタップして、動画を再生する。

 アングルから見ても、どうやら監視カメラによるもののようだ。

 

 アクセサリーを完成させたジルが、嬉しそうに店を出た、その瞬間に運営のダイバー達に取り囲まれ、スタンガンを撃ち込まれて気絶させられ、そのまま拘束用のバリアフィールドに包み込まれ、連れ去られてしまった。

 

 ここで動画は終了だ。

 

「……は、ハバキリ、くん」

 

 セアは震えた声で彼の名を呼ぶが、

 

「セアさん、すぐに他の奴らにフォースネストに集まるように伝えてください」

 

 ハバキリは至極冷静に指示を飛ばしてきた。

 

「オレは運営と保護管理局に、この動画を提出しに行きます。それが終わったら、オレもフォースネストに向かいます。いーですね?」

 

「う、うん、分かった」

 

 セアはすぐにフォースネストへと移動していった。

 それを見送ってから、ハバキリはーーーーー

 

 

 

「これが、てめーのやることなのかよ……トーシローッ!!」

 

 

 

 今ここにいない、かつての最高の戦友へ怒りを込めて壁を殴った。

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 コーダイ「ジルちゃんが誘拐されたってのは本当なのか!?」

 

 ステラ「間違いないです、監視カメラにだってそう映ってましたし……」

 

 サッキー「なんで……なんでこんなことになるのよ!?」

 

 ハバキリ「……」

 

 エミル「ハバキリ、何か言いたそうだね?」

 

 ハバキリ「ちょーっと、信じられねー話をするな……」

 

 セア「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション、

 

『叛乱』」

 

 ????『さぁ、準備は整った。雌雄を決しよう、ハバキリ』

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