ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション 作:さくらおにぎり
バーテンダーとトラちゃんの即興演技によって、爆笑するマイマイと戸惑うケンさん。
「ハッハッハッ……まぁ、中の人に関する話はその辺にしておいて、だ」
頃合いを見計らって、トラちゃんは別の話題を持ってくる。
「マイマイは当然だが……姐さんよ、覚えているか?」
「ん、何かしら?」
何のことかと聞き返すバーテンダー。
「ちょうど一ヶ月前になるな……例の、『運営の内乱』だ」
それを聞いて、マイマイは目を細め、バーテンダーもグラスを磨く手を止めた。
ケンさんだけはこの剣呑な空気を読み取り、黙って我関せずを決め込む。
「そうねぇ……ちょうどあの時は、緊急のメンテが入るからってその日は別の予定を入れていたのよ。日付けが代わってログインしてみたらもう祭りの後だったから、アタシは何もしてないし、知らなかったんだけど」
後から自分の伝手と言う伝手から情報を集めてたわね、とバーテンダーは息をつく。
「運営本部を中心とした『正規軍』のGBNガードフレームは一万機を上回る大部隊。対する『反乱軍』はNPDリーオーなどを含めてもせいぜいが二千機ほど。五倍近い戦力差など、普通なら覆せはすまい?」
「まぁ無理ね。……その戦いが、『普通の戦い』ならそうはならなかったんでしょうけど」
古来より起こり得る戦は『戦力の少ない方が勝つ』ことが多いとされているが、それは歴史上の人物を脚色するために誇張されているケースが多分に含まれている。
実際ガンダム作品においても、一年戦争におけるジオンが国力30倍の連邦に勝つことは出来ず、グリプス戦役でも連邦軍がエゥーゴに肩入れするようになったことでティターンズは壊滅(ティターンズ内における内乱が原因ともされる)。
第一次ネオ・ジオン抗争(ハマーン戦争とも呼ぶ)も結局は内乱によって自滅同然に終わり、第二次ネオ・ジオン抗争でも、ロンド・ベル艦隊だけでなく、連邦宇宙軍全軍で迎え撃てばアクシズは地球圏に到達することもなく終結したとされている(諸説、異説多数あり)。
「うむ。数の不利を覆せるようなご都合主義が罷り通るのなら、鉄血のオルフェンズも『レギンレイズジュリア大勝利!希望の未来へ、レディー・ゴー!(苦笑)』と言う結末で終わることはなかったろうな」
まぁそれは置いておこう、とトラちゃんは話の腰を戻す。
「……先にも話したが、『ニュータイプ』が戦争の優劣を決めることもあると言うのは間違いではないな」
「あの一ヶ月前の内乱は、末端の一部の暴走だったとはいえ、運営最大の汚職ね。何せ……」
バーテンダーは溜息で一拍置いた。
「『適正のあるELダイバーを"強化人間"に仕立て上げ、そのデータで作り上げたコピー体達を"ニュータイプ部隊"と称した』んだもの」
ステラが送ってくれた動画を、運営への通報と保護管理局へ送信してから、ハバキリはリヴェルタのフォースネストへ向かった。
到着するなり聞こえたのは、コーダイの怒鳴り声だった。
「……どう言うことか説明しろッ!!」
何故彼が怒っているのか、大体の察しはついている。
「落ち着いてコーダイ、怒ると判断力を失う」
諌めようとするエミルだが、コーダイの怒りは収まる気配がない。
「ジルちゃんが誘拐されたんだぞ!?これが落ち着いてられるかッ!」
怒り心頭のコーダイと向かい合っているのはステラ。
「説明も何も、この動画の通りとしか言えません……」
動画だけでは、どこの誰がジルをどこへ連れて行って何をするつもりなのかが全く分からないのだ。
ーー少なくとも、ELダイバーの存在を疎ましく思っている者達による仕業だろうが。
「あたしとステラちゃんがアクセサリーショップに着いた時にはもうジルちゃんはいなくて、その場に残ってたのは、ジルちゃんが作ったネックレスだけだったのよ」
サッキーはテーブルに、ジルが作ったばかりの複数のネックレスをテーブルに並べる。
セアのダイヤモンド。
コーダイのガーネット。
サッキーのエメラルド。
エミルのサファイア。
ステラのブラックオニキス。
ジルのパール。
「……ひとつ、足りなくないか?」
エミルは六つのネックレスを見て、違和感に気付く。
ジルを含めたフォース・リヴェルタのメンバーは、合計で七人いる。
「確か、オブシディアン……兄さんのぶんのネックレスが無……」
ステラがあと一つ足りないそれが誰の物かを挙げようとするが、コーダイはテーブルを叩いてそれを黙らせた。
「んなことは今どうでもいいだろ!」
それよりもジルちゃん本人のことだ、と続けるコーダイだが、真っ先にサッキーがその発言に喰って掛かる。
「どうでも良くないわよ!ジルちゃんがこれを作るのにどれだけ頑張ったと思ってるのよ!?」
「無くしたんなら作り直しゃいいだろ!?アクセサリーの話をして、ジルちゃんが帰って来るんならいくらでも話してやるよ!」
「はぁ!?バッカじゃないのあんた!それでジルちゃんが帰って来たらっ、こんなことになってないっての!」
ジルが彼らのために作ったアクセサリーのことも大事だが、それを気にしたところで事態は解決しない……コーダイとサッキーも分かっているはずだが、エスカレートし始めた感情はそう簡単に止められるものではない。
今にも取っ組み合い殴り合いでもするのではないかとエミルが動こうとするが、
「二人とも喧嘩はやめて!!」
フォースリーダーであるセアが金切り声でそれを強引に仲裁する。
「……二人が喧嘩しても、ジルちゃんは戻ってこないよ」
結局は、そこなのだ。
ジルがいなくなった、それがどうだこうだと騒ぐばかりで、具体的な行動には出ていない。
セアのその言葉を境にして、ハバキリはフォースネストに入室した。
「悪い、今戻った」
自分を除いた五人の視線が集まるのを確認して、ハバキリは決心する。
「……今からオレが話すことは、恐らくジルに関係することだと思う。とりあえず聞いてくれ」
ハバキリが話すことは三つ。
一つ目は、かつてのフォース・『アルディナ』のリーダー、トーシローが素性を隠して運営の過激・強硬派に所属していること。
二つ目は、ナオエと共にホンコンシティのある場所を調査した時に『複数のジル』を発見してしまったこと。
三つ目は、トーシローとその複数のジルが、自分達の敵になって襲い掛かる、もしくは立ち塞がる可能性が高いこと。
以上を話し終えて、コーダイが真っ先に椅子を蹴り倒した。
「……どうしてそれを今まで話さなかったんだよ!?」
「言えばトーシローのことはともかく、ジルへの不信感を煽ることにもなる。簡単に口外するわけにはいかねーだろ」
「だからってな……」
ハバキリとコーダイの二人の口論になりかけるところで、エミルが「ハバキリ、ちょっといいか」と声を掛ける。
「これはボクの想像の範囲に過ぎないけど……前にゼダンの門で、病院船を破壊したらジルちゃんが苦しんでいたことがあったな?」
「あー、あの時アレか?」
エミルがまだ正式にフォース・リヴェルタに所属する前、ゼダンの門でのミッションの最中に病院船が出現し、それを追う紅いパラス・アテネと交戦した時のことだ。
「あの病院船……もしかしたら、さっき言ってた『複数のジル』ちゃんがいたのかもしれない。ジルちゃんはあの時、声がたくさん聞こえるって言ってたし、可能性はあると思う」
「……99%自分と同じ存在が近くにたくさんいて、それを虐殺されたら、発狂したくもなるか」
それはまるで、海賊船に偽装した貨物船と同じではないか。
その積み荷が、ジルのコピー体とも言えるようなもので、彼女が今、何者かに誘拐されたとなれば。
「どうにも、ボク達はものすごく厄介なことに巻き込まれているみたいだね」
「自分達は運営の者である」と公言出来ないものを積み、その積み荷の破壊(或いは奪取)を狙う勢力との抗争。
自分達はその渦中にいるのではないかと、エミルは呟く。
「……今のハバキリくんの話は驚いたけど、重要なのはそこじゃないよね?」
セアは話を進めようとして、ハバキリはすぐに意識を切り替える。
「そーです。いくら現状確認したって事態は変わりませんしね」
ハバキリはフォースネストのコンソールを打ち込み、電灯を落としてモニターを起動させる。
何も表示されていない無地の画面に、ハバキリが文字を打ち込んでいく。
「ジルがどこに攫われたのか。ハッキリ分かってるわけじゃねーが、怪しそーなところの大体の目星がコレだ」
・アーモリー1
・オデッサ鉱山基地
・ジャブロー
・フラワーズのフォースネスト
・ゼダンの門、及びアクシズ
・ポイントX666S(セアとトーシローが遭遇した地点の周辺)
・ホンコンシティ
・百花繚乱の特設会場
ハバキリが挙げたこれらは、『ジル』、『過激・強硬派』、『トーシロー』の三点のいずれかが関係した地点である。
無論、あくまでも大体の目星に過ぎないので、挙げたこれらが全てハズレの可能性もあるが、僅かでも可能性があるならば探らなくてはならない。
「心当たりのある場所を片っ端からか、まさに人海戦術だな」
コーダイは腕を組みながら頷く。
ジルを除けば、今ここにいるのは六人。
ここから手分けして捜すのだ。
ハバキリは該当地点とメンバー達を見比べて、それぞれに合った指示を出す。
「まず、セアさんはアーモリー1と、フラワーズのフォースネストにアポを取ってください。特に、アーモリー1の方は周辺区域も厳重注意を」
「うん、分かった」
次にコーダイ。
「コーダイはオデッサを頼む」
「奴らの攻撃を受けた地点だな、よっしゃ」
次にサッキー。
「サッキーはホンコンシティ周辺を探ってくれ」
「あの怪しい施設を調べたらいいの?」
「いや、あそこは陽動があったから上手く行っただけだ。もう一度ってのは難しーかもしれん。港周辺と、あと聞き込みを頼む」
彼女が頷くのを見てから、エミルへ。
「エミルはゼダンの門宙域周辺の調査を頼む。あと、近くにアクシズがいるなら、そこもな」
「あまり思い出したくないけど……了解」
セア、コーダイ、サッキー、エミルの四人への指示を終えて、ステラが挙手する。
「兄さん、私は何をすればいいですか?」
「お前はオレと一緒にジャブローに行く。ほとぼりは冷めてると思うが、前の百花繚乱の時に発狂した狂信者どもが彷徨いてるかもしれねーからな。あと、オレの補佐役な」
「……つまり私は、兄さんと一緒に一番危険なところに行くってことですね?」
「おー、賢い妹でお兄ちゃんは嬉しいぜ」
なんだか複雑です、と嘆息をつくステラを尻目に、ハバキリはパンッと手を叩く。
「ジルが誘拐されてキレてんのはみんな同じだ。もちろんオレもな。でもキレてる暇があったら、出来る事やれる事をひとつでもやった方がいい。こーしてる内にも、強硬派のあんぽんたんどもは要らんことをやらかしてるけど、保護局や運営の本丸も、もしかしたら力を貸してくれるかもしれん。……泣いて喚いてキレるなら、全部終わってからでもいーだろ?」
この場にいる全員が、ハバキリの言葉に耳を傾けている。
「ほれ、みんな何ボサっとしてんだ。行くぞステラ」
「あっはい」
ハバキリに連れられ、ステラがフォースネストを後にしていく。
それを見送ってから、サッキーもバッと席を立った。
「あたし、ナオエさんと連絡取ってみる。何か知ってるかもだし……」
ナオエとの通話を繋ぎながら、彼女も格納庫へ向かう。
「シャトルと長距離ブースターをレンタルしてきます。宇宙で長時間活動するなら、準備も掛かる」
エミルもすぐに行動に出る。
フォースネストに残っているのは、セアとコーダイの二人。
「強いんだね、ハバキリくんって」
そう言ったのはセアだった。
ジルが誘拐されたと知って、それでも怒りも焦りも見せずに、的確な判断と指示をしてみせたのだ。
しかし、コーダイはセアの言葉を肯定出来なかった。
「……そうですかね」
「コーダイくんの方が知ってるでしょ?」
「いや……」
首を横に振るコーダイ。
「あいつね、他人に……妹のステラちゃんにさえ、自分の内面を見せないようにしてるんですよ。ハバキリはそれを隠してるつもりみたいですけど……もしかしたら、俺達の見てないどこかで、怒ったり泣いてるのかもしれません。もし、気付いたらでいいんで、ハバキリのこと気に掛けてやってくれませんかね」
「……うん」
セアもコンソールを開き、格納庫へ向かう。
残るはコーダイ一人だが、彼はまだフォースネストを出ない。
出来る事があるならそれをやれと、ハバキリに言われたことを実践するために。
格納庫に並ぶリヴェルタのガンプラ達。
ステラはその中にあるノーベルガンダムに乗り込み、メインカメラに視界を映す。
その向かいには、まだ未完成だがスキャンさせてダイブしてきたハバキリの新たなジンライがハンガーから降ろされる様子が見える。
「兄さん、そのガンプラってまだ未完成なのに使って大丈夫なんですか?」
「んー……色々ととりあえずの間に合わせ品を使ってるが、今回は戦闘するわけじゃねーんだ。いざとなったら逃げりゃいい」
そう言ってのけるハバキリのジンライは、いかにも間に合わせでございと言わんばかりのものだった。
胴体部は軽量化とアタッチメントの増設によって一回り小型になっている。
肩から腕に掛けては、ジンの腕装甲の中に無理矢理HGIBOのガンダムフレームを組み込んだようで、やや歪な形状をしている。
腰部から脚部は、HG SEED系の本体規格を中枢としてギラ・ズール【親衛隊仕様】のものがほぼそのまま移植され、フット部だけは元のジンハイマニューバのものを使われている。
バックパックは、脚部と同じギラ・ズール【親衛隊仕様】のものを使用し、シースザンバーはリアスカートに懸架させてちる。
左手にはジンライ改から使い続けてきたアサルトライフル。
これだけでも十分な性能を発揮出来るように見えるが、ハバキリ曰く「これなら元のジンライ改の方がまだマシ」と言い捨てるほどだ、性能は上がっているかもしれないが、どこに弊害が生じているか分からない。
「私が先に出ますね。……ステラ、ノーベルガンダム、行きます!」
リニアカタパルトから打ち出されるノーベルガンダムを見送ってから、ハバキリ機も続く。
「機体銘なんざまだ考えてねーんだがな。ハバキリ、『ジンライ改弐』、出るぞ!」
機体銘もとりあえずだ。
ジンライ改弐は、先行したノーベルガンダムを追って発進する。
サッキーはガンダムデスレイザーを飛行させながらも、現実世界側にいるナオエと連絡を取っていた。
ジルが強硬派の手によって誘拐されたことと、今自分達がジルの足取りを追っていることも伝える。
「……って言うことなんですけど」
『ふむ……』
サウンドオンリー画面の向こう側で、ナオエの考え込むような呟きが聞こえる。
『サッキーさん、元ゲームマスターのカツラギ氏が、悪質なRMTの疑いで検挙にかけられたことは知っているかな?』
「あ、知ってます。ニュースとかでもよく取り上げられてましたし。なんで、ログデータには不正行為しか残ってなかったんですかね。足が付かないようにするなら、都合の悪いことは真っ先に証拠隠滅するのが普通なのに……」
『……不正行為の記録しか残っていなかった?他の記録は何も無かったのか?』
サッキーの意見を聞いて、一瞬だけナオエの言葉が止まる。
「だから何か変なんですよね。そんなのまるで「自分はこんな悪い事をしましたよ」って自首してるような……」
『そういう事かッ!?』
不意にナオエの声量が増して、サッキーは驚いてたじろぐ。
「なっ、なに、どういう事ですか?」
『すまんねサッキーさん、急用が出来たから切らせてもらうよ』
「えっ、ちょっと!何が分かったのか教えてくだ……」
彼女が言い終えるよりも先に通話を切られてしまった。
「……まぁ、後で教えてくれるでしょ」
そろそろホンコンシティに到着する頃合いだ。
サッキーはコンソールを閉じて、ガンダムデスレイザーの操縦に集中する。
フォースネストで『やるべきこと』を終えてから出撃、オデッサ鉱山基地に到着したコーダイは、高台から捜索を開始する。
もしジルがここ周辺に連れ去られたのだとしたら、どこかに怪しげな基地があるはずだとコーダイは予想していた。
キャノパルドのフットローラーを駆動させつつ、レーダーと目視確認を見比べる。
「(にしても、まさかトーシローが運営の強硬派の奴等の中にいたとはなぁ……)」
ハバキリは以前から知っていたようだが、何故それをもっと早く教えてくれなかったのか。
下手なことをして混乱させたくないと言う、彼なりの配慮のつもりだろうが、それは余計な世話というものだ。
「(俺達を守るために、敢えて強硬派の一部に取り入るか。分からんでもねぇ話だが……)」
不可解なのは、何故二度もハバキリに攻撃を仕掛けてきたのか、だ。
一度目はジャブローで、二度目は『ポイントX666S』で。
ハバキリは、その真意が分からない以上はトーシローの全部を信じることは出来ないと言っていた。
彼は一体何を目的に動いているのか?
「……っと、それは後回しだな」
今は捜索と操縦に集中しなきゃな、とコーダイはアームレイカーを握り直す。
意識片手間で操縦して、事故でも起こそうものならハバキリに笑われる。
セアは未完成のフルドレスフリーダムガンダム(仮)ではなく、エンハンスドガンダムMK-Ⅱで出撃していた。
行き先は、彼女の初めてのミッション『怒れるモノアイ』を行った場所である、アーモリー1。
もしもあの時、ハバキリが操縦を代わってくれなければ、どうすればいいかも分からず、ジルを助けることが出来なかったかもしれない。
それからまだなのか、もうなのか、二ヶ月以上も経っている。
「(あっという間の毎日だったなぁ……)」
GBNを始めてからの毎日は、本当に過ぎるのが早く感じる。
それだけ充実した日々だったのだろう。
そんな楽しくて充実した日々を送ってこられたのは、自分自身だけでない。
ハバキリがいて、コーダイがいて、サッキーがいて、エミルがいて、ステラがいて、
そして、ジルがいてくれたから。
だからこそ、ジルが誰かの好き勝手のために利用されていいはずがない。
戦闘を行った場所であるアーモリー1に到着。
しかし、見たところは何の変哲もなさそうだ。
セアはコクピットから降りて、生身で探索を行うことにした。
NPDリーオーが納められている格納庫内や、その周りを注意深く見回してみるが、これと言ったジルの痕跡や足跡は見つかりそうにない。
ここはもう探索済みとしてエンハンスドガンダムMK-Ⅱの元へ戻ろうと、格納庫の出入り口へ振り返ろうとして、その近くに転がっているコンテナーーその中からはみ出している何かが見えた。
セアはそれに近付いてしゃがみ込み、注視してみる。
「これは……?」
消えかかっているそれは、何かのデータ片だった。
コンソールを呼び出し、あるコマンドを入力する。
『サーチモード』と呼ばれるこのコマンドは、カメラ機能を利用し、ダイバーの目視だけでは視認出来ないような情報を確認したりすることが出来る。
実は、これを使うことで光学迷彩なども見破れるのだが、ガンプラに搭乗した状態では、機体のカメラを通す=フィルターがかかる ことになるため、この恩恵は受けるにはコクピットから生身を晒す必要があるのだが、戦闘中でこれをやろうものなら、狙ってくださいと言っているようなものだ。
セアはこのサーチモードを使って、足元に転がっているデータ片の情報を読み取っていく。
『e ダi ー .136:z 』
『精s t:不a 』
『γ リfェp ンをf用:tg 18 昇』
『空 n n力:71% 7%n s 』
『mモリ- 枢 sn:k w確n』
『s正 kチ を服y:h損 n修s 』
『サ k ェ ブ測t:79 →93% 』
所々が文字化けや虫食いになっており、これだけでは内容がよく分からない。
しかし、ハバキリ達にこれを見せれば、何かが分かるかもしれない。
セアはサーチモードを切り、そのデータ片を回収してから、アーモリー1を後にした。
この後は、フラワーズと会うために。
長距離ブースターと連結されたシャトルに七星剣士エクシアを載せたエミルは、マスドライバーから打ち上げられて大気圏を離脱している最中であった。
行き先はゼダンの門宙域。
「(まぁ、可能性は低い方だと思うけど)」
何せゼダンの門の周辺宙域は、一度襲撃を受けているのだ。
航路が割り出されていると分かっていて、なおかつ他に道がいくつもあるのなら、わざわざ危険な可能性の高い航路を取るはずがない……しかし「二度も同じ航路を取らないだろう」と言う心理的な裏を考えれば、"高くはない"可能性もある。
それと同じ理由から、サッキーが向かったホンコンシティも同じだろう。
重力の振り切りに成功、進路を微調整しながらエミルは速度を少し落としてから、コンソールを開いてメールの画面を呼び出す。
自分達の一大事だ、"彼ら"ならきっと力を貸してくれるはずだ。
ゼダンの門へ接近する頃には、メールの本文の入力を終え、各人へ送信を完了。
少しだけ気を引き締めて、ブースター付きシャトルから七星剣士エクシアを発進、センサーの範囲を広げつつ捜索を開始する。
ゼダンの門の周辺をぐるりと一周しても、特に変わったものは見つからず、アクシズも近くに来ていない。
どうやらここはハズレかな、とエミルは捜索を切り上げようかと思った時。
七星剣士エクシアの視界に、巨大な筒状のソレがゼダンの門の近くを通過しようとする光景を捉える。
「……コロニー?」
エミルが見間違いでもしなければ、それは紛れもなくスペースコロニーのそれだった。
何故こんなところに、とエミルは七星剣士エクシアを加速させて、そのコロニーへ接近する。
どうやら廃コロニーのようで、予備電源は生きているようだが熱源などは感知されない。
何かのミッションで使われるために移動してきたのだろうか。
「……何もない、とは思うけど」
一応、一応確認するだけだ、と言い訳がましく言い聞かせるのは、得体の知れない胸騒ぎがするからか。
ウェポンフォルダにソードライフルを先頭に回してから、エミルは廃コロニーに取り付いた。
外壁を伝い、コロニーの外部ハッチに移動していく。
ハンドルを回してハッチを開けて、コロニー内へ進入。
気密状態が為されているのを確認してから、エミルは七星剣士エクシアのコクピットを開ける。
「酸素は薄いけど……生身でも大丈夫そうか」
懐に拳銃を忍ばせつつ、エミルは機体から降りて通路を進む。
コロニーの港エリア付近に接近すると、話し声が聞こえてくる。
それを耳にしたエミルは一度そこで足を止めて、通路の角からその先を覗う。
そのすぐ下にはドックが広がっており、そこら一帯を支配するかのように流線型の紅い戦艦のような機体がハンガーに掛けられている。
「(戦艦……グワシリーズやレウルーラ、サダラーンでもないな)」
ドックのキャットウォークでは数人のダイバーが話し込んでおり、エミルは耳を傾ける。
「……では、作……始は…………18…………言う……」
「うむ、…………と同時に…………イプ部隊を降下、…………まま…………部を制圧……」
何かの作戦の確認をしているようだが、距離があるせいで上手く聞こえない。
「(ここからじゃ上手く聞こえないな)」
ここは諦めて他を探るべきかと考えた時、
「失礼します!プロト01の再調整が完了致しました!いつでも搭乗可能です!」
後から来たハキハキとした声の男は、ノーマルスーツに身を包んだ小柄なダイバーと共にキャットウォークに歩み寄ってきた。
「ご苦労だった。他はどうか?」
「ハッ、大気圏突入オプションも含め、全て実戦投入可能な状態にあります!」
無駄に大きくハキハキとした声のおかげで、エミルにもよく聞こえる。
「プロト01の再調整……、大気圏突入オプションも含め、全て実戦投入可能な状態……」
再調整、と言う言葉を耳にして、あまり考えたくない想像をしてしまう。
そこから先は一度棚上げすることにして、エミルは踵を返して来た道を戻る。
七星剣士エクシアに乗り込み直し、コロニーの外へ出る。
怪しいコロニーを発見したことを、ひとまずフォースメンバーに伝えようとメール画面を開こうとして、視界に映った光景にその手を止める。
「制動を掛ける?こんなところで?」
このコロニーは明らかに方向制御用のバーニアを噴射している。
方向転換が完了してか、コロニーは再び慣性で移動する。
その進路はーーーーー地球だ。
ジャブロー上空に進路を取るジンライ改弍とノーベルガンダム。
「兄さん、機体の調子はどうですか?」
先行するステラが、ハバキリと通信を繋ぐ。
「……とりあえず、スピード出しても空中分解はしなさそーだ」
今のところは問題ねーな、とハバキリは返す。
ジンライ改弍の各部スラスターは正常に蒼炎を吐き出しており、機体のバランスも不安定ではない。
尤も、不安定ではないだけで、安定もしていないのだが。
ジンライ改弍のモノアイが、広大なジャングルを捉える。
「降下するぞ。ステラ、付いてこれるな?」
「兄さんがバカみたいに飛ばさないなら、大丈夫ですよ」
「よし。んーじゃ、行くか」
ハバキリはやや下向きにアームレイカーを押し出し、ジンライ改弍は下方へ向けて加速、一歩遅れてステラのノーベルガンダムも続く。
今はミッション中ではないため、対空砲火が飛んでくることもなく、ハバキリとステラは何ら苦労することなく滑走路に着陸しようとした、
その時、ハバキリとステラ、共々アラートが反応する。
「敵!?」
ステラのノーベルガンダムは着地すると同時にビームソードを抜き放って臨戦態勢を整える。
ハバキリのジンライ改弍はアサルトライフルをその方向へ向ける。
前方より現れるのは、この白昼の空に浮かぶ太陽のような白銀の姿。
ステラはそれが何かは分からなかったが、ハバキリはそれを見て、敵意によって目を細める。
それは、トーシローのジム・クゥエルロゥ……だが、以前に見たゼク・アインへの偽装体ではない、明らかに戦闘力を高めるための改造が施されている。
まず目につくのは、『サンダーボルト』版のジムを思わせるバックパックから伸びたフレキシブルアームと連結された一対のシールド。
両腕にはギャプランのムーバブルシールドをコンパクトにしたような、ビームライフルをマウントした盾。
脚部は一見変化が無いように見えるが、アポジモーターの配置から見るに、ブルーディスティニー系列の物が移植されている。
機体銘も変更されているのか、コンソールには『ジャッジムメント』と表記されている。
身構えるジンライ改弍とノーベルガンダムの前に堂々と着陸する
「……今度はゼク・アインに偽装もしねーでいきなり来たか」
回線をオープンモードに切り替えつつ、ハバキリはジンライ改弍を一歩前に踏み出させる。
すると、ジャッジムメントの方からも通信が届く。
『君ならここに来ると信じていたぞ、ハバキリ』
「その言い方からすると、オレがここに来るのを最初から読んでやがったか。……なら話は早えーな」
アサルトライフルの銃口を向けながら、ハバキリはトーシローに問い掛ける。
「トーシロー。ジルをどこに連れてった?三秒以内で答えろ」
どーせ答える気は無いだろーが、と決め付けつつ最初の一秒目のカウントを取ろうとした時、
意外にも率直な答えが返ってきた。
『彼女なら今、宇宙にいる』
「宇宙……ってことは、ゼダンの門の方だったか」
アタリを引いたのはエミルかもしれない。
「……で?それを簡単に教えてくれるってことは、ここから生きて返すつもりはねーってことだな?」
ジンライ改弍のマニピュレーターがアサルトライフルのトリガーに掛けられる。
『想像に任せよう』
対するトーシローも、両腕のビームライフルを構えさせる。
「ステラ、こいつは生半可な相手じゃねー。お前は先にフォースネストに戻ってろ」
「大丈夫です。援護くらいなら私にだって……」
「要らん。邪魔だ。帰れ。……さもなきゃオレがお前を撃墜せにゃならん。オレに余計なことさせんな」
ハバキリは低くドスの効いた声でステラを脅す。
トーシローの実力は知っている。
だからこそ、一人で戦う方が良い。
聞き慣れない兄の声色に身を竦ませ、ステラはノーベルガンダムのビームソードを納め、機体を反転させてジャブローから離脱する。
ノーベルガンダムを見送ってから、ジンライ改弍はアサルトライフルを構え直す。
「さーて、邪魔はいなくなった。二人きりのデートと洒落込もうじゃねーか」
『……待ち侘びたよ、この時をな』
アサルトライフルとビームライフルが睨み合う。
………………
…………
……
ふと吹いた風に、木の葉が舞った。
その木の葉が、ジンライ改弍とジャッジムメントとの間に舞い降りーーーーー
銃弾とビームが交錯した。
互いの一発目は挨拶代わり。
ハバキリは瞬時にアームレイカーを引き下げてジンライ改弍をバックホバーさせて距離を少しだけ取る。
対するジャッジムメントはサブアームのシールドでアサルトライフルの銃弾を防ぎ、一対のシールドの隙間からビームライフルを連射する。
左右から次々に放たれるビームをジグザグにホバーさせながら回避し、接近しながらもアサルトライフルを撃ち返すジンライ改弍。
一箇所を狙った射撃ではなく、散発的に銃口のズレた射撃だが、これはハバキリが意図的に銃弾を散らしているのだ。
サブアームによる制御はマニピュレーターを必要としないために、一度に複数の武装を使用可能ではあるが、その分操縦系統が複雑化し、ダイバーの負担が掛かる。
これを防御しようものなら、シールドを制御するためにダイバーに細かくて煩雑は操縦を強いることになって神経を擦り減らし、無視して銃弾を受けようものならガンプラ自体へのダメージは少なくとも、「被弾している」と言う認識を植え付けさせて精神衛生を害する、と言う二段構えのストレスを与える。
ジャッジムメントは、メインカメラや関節部と言った被弾に脆い部分だけをシールドで防ぎ、それ以外は装甲の厚い部分で受ける。
ダイバーの操縦は最少限に、ガンプラの被弾も最低限に。
理想的な捌き方とも言うべき形だ。
ジンライ改弍はアサルトライフルを撃ちながらも右手に重斬刀を抜刀、ジャッジムメントとの距離を詰めていく。
接近してくると知るや否や、ジャッジムメントは頭部バルカンで牽制しつつも左マニピュレーターを左脚へ伸ばし、脚部内に格納されたビームサーベルを抜き放つ。
牽制射撃のバルカンの銃弾を、ジンライ改弍は構わずに受けながら突進、真っ直ぐにジャッジムメントへ迫る。
瞬間、重斬刀とビームサーベルが衝突し、耐ビームコーティングとメガ粒子の刃が干渉し合う。
鍔迫り合うことはなく、ジンライ改弍はすぐにその場から飛び下がり、その0.2秒後には右サブアームシールドが振り下ろされた。
あのまま足を止めていたら、横殴りの一撃を受けて体勢を崩し、ビームサーベルで止めを刺されていただろう。
飛び下がらせたジンライ改弍を安定させつつ、着地させると同時に加速、大きく回り込むようにジャッジムメントへ接近しながらも、ハバキリはトーシローに問い掛ける。
「ここにはオレとお前以外は誰もいねーさ。だから答えろトーシロー、何がしたくてこんなことをする?」
回り込むジンライ改弍に対してジャッジムメントは左右のビームライフルを連射し、踏み込んでくるタイミングを計る。
「強硬派のドアホどもに協力して、連中の汚職の片棒担いで、ついでにこーしてオレに喧嘩を売ってくる……オレもお前もニュータイプじゃねーんだから、言わねーと分かんねーぞ」
連続出放たれるビームを掻い潜り、ジンライ改弍は踏み込みと共にスラスターを点火、瞬時に加速してジャッジムメントとの距離を詰める。
『そうだな、その通りだ。言葉を交わさないから誤解が生じる』
迎撃にビームサーベルを薙ぎ払うジャッジムメント。
しかし、その寸前にジンライ改弍は跳躍、薙がれたビームサーベルを飛び越え、そのままジャッジムメントの頭部へ飛び蹴りを喰らわせる。
『……だがっ、言葉にすることで不必要な擦れ違いが生じることもある!』
蹴り飛ばされて崩れた姿勢を強引に立て直すトーシロー。
その瞬間には既にジンライ改弍が重斬刀を振り降ろして来ておりーージャッジムメントは左のサブアームシールドを突き出して防ごうとするものの、ハバキリの手によって文字通り"鍛え"られた一閃は、丹念に加工が施された防盾すらも容易く叩き斬るが、ジャッジムメントを仕留めるには至らなかった。
「(今のはヤツの操縦によるものじゃねー……肉迫攻撃に対する自動近接防御か?)」
恐らくは、敵機接近に対してダイバーの操縦が間に合わないと判断された場合に限る、自動操縦だろう。
それを瞬時に読み取ったハバキリはすぐにアームレイカーを捻って距離を取らせる。
「そいつは詭弁(きべん)の類だなトーシロー、人間なんざ擦れ違ってなんぼのモンだろーが」
一拍遅れて、ジャッジムメントの反撃のビームサーベルが振るわれ、ジンライ改弍の前面装甲を薄く焼いた。
「擦れ違ってはぶつかって、手前に非がありゃ謝罪の意を見せる。テメーはオレのそこが気に入らねーみてーだが、それのどこが間違ってやがる?」
『君はいつだってそうだ!仲間の気遣いや善意を受け取らず、いつも自分一人で背負い込んで!』
しかしビームサーベルを躱されることは想定の範囲か、ジャッジムメントはすぐに右手のビームライフルを連射する。
『"あの時"もそうだった……ッ、自分一人が立ち去れば全て解決すると!そう思い込み、誰にも相談せずに行動に移した!何故もっと僕達を信じてくれなかったんだ!』
放たれるビームに対し、ジンライ改弍は重斬刀を振るい、時には寝かせて構えて、ビームを捌いていく。
『君がフォースを抜けてから、後を追うように仲間はみんなフォースを去って行った……僕はそれが悲しくて寂しくて辛くて堪らなかったッ!』
今度はジャッジムメント自らが接近する。
『コーダイだけは最後まで残って一緒に考えてくれたさ、どうすればみんながフォースに戻って来てくれるのか……』
向こうから近づいてくれるならば、とジンライ改弍は重斬刀を納め、リアスカートからシースザンバーを抜き放つ。
「それが、フォースを解散させて運営のイヌに成り下がることか?」
ジャッジムメントは右のサブアームシールドで機体を守りながら、ビームサーベルをランスのように構えて迫る。
『成り下がるだと!?』
迫り来るジャッジムメントに対し、ジンライ改弍はシースザンバーを構えた状態から動かない。
「違うってのか?」
激突……したのはシースザンバーと、右腕のムーバブルシールドだった。
今度は力による押し合いへし合いになり、ジンライ改弍とジャッジムメントの膂力が拮抗する。
『僕は自分自身の意志で……ッ!』
ギャリギャリギャリギャリッ、とシースザンバーとムーバブルシールドとの間で火花が散り、互いのフット裏がジャブローの滑走路のアスファルトにめり込み合う。
「自分自身の意志で……イヌに成り下がったのか。救えねーな」
『そ、う、じゃ、ないッ!!』
拮抗し合っていた力比べ。
どちらかがこの拮抗を中断するかに掛かっていたが、その中断の時は予想外の形で訪れる。
不意に、ハバキリのコンソールが警告を発し、両腕部に赤い『DANGER!』の表示が点滅している。
「両腕装甲に過度な負荷……まさかっ」
まさか、と思った時には既に遅かった。
ジンライ改弍の両腕の、補強した上で消してあるはずの『合わせ目』に亀裂が走り、真っ二つに割れた。
その装甲の下にある、ガンダムフレームが露出し、内部からスパークが漏れている。
『……不完全な機体だったのか?』
トーシローのその言葉と共に、ジャッジムメントは急に押し比べを中断して飛び下がった。
『それならもう、ここで戦う理由はない』
「は?」
突然どうしたと言うのか。
ハバキリが疑問符を浮かべるのを余所に、ジャッジムメントは踵を返す。
『この勝負、一時預ける!』
そのままスラスターを点火させ、飛び去った。
ハバキリは反射的にジンライ改弍のアサルトライフルを手に取らせ、銃口をその背中に向けてーーーーー撃つことはしなかった。
「オレの機体が不完全だから勝負を一時預ける、か。100%完成してたら……何をやらかすつもりだ?」
ひとつ貸しにされたな、とハバキリは溜息をついた。
とりあえずは帰還して機体の整備を行うために、ジンライ改弍を飛び立たせ、ベースエリアへと向かう。
その帰り道の途中、不意に通信が何かを傍受した。
「……なんだ?」
ハバキリの操作に関係なく、勝手にその通信が開かれる。
画面に移るのは、ガンダイバーの姿をしたダイバー。
『GBNをお楽しみの皆様、そして、GBNの現運営本部へお伝え致します。私は、元ゲームマスターの『カツラギ』と申します』
「……元ゲームマスター?今は拘束されてるんじゃなかったのか?」
何故、とハバキリの中に疑念が生じる中、元ゲームマスター・カツラギのメッセージが続く。
『私は四年前に、今の運営陣にゲームマスターを引き継がせ、オブザーバーとしてのポストについておりました。ですが、翌々年に大問題が発生してしまいました。皆様もご存知でしょう、あの『ELダイバー・サラ』を名乗るELダイバーによる、運営権のハッキング事件『ELダイバー動乱』を』
どうやらこのメッセージ、通信回線に強制的に割り込んで、全世界のダイバーの元へ届けられているようだ。
『あのような混乱を招いてしまい、多くのユーザーが命の危険に曝されてしまったのは何故か』
フラワーズのフォースネストに赴いていたセアにも。
『それは、当時の運営側の、ELダイバーへの対応が不適切であったことに他ならないことでしょう』
オデッサ鉱山基地周辺にいるコーダイにも。
『私は、現運営の不甲斐なさに激怒しました。何故止められなかったのかと』
ホンコンシティで聞き込みに回っているサッキーにも。
『動乱事件そのものは、多くの有志達によって終息しましたが、その爪痕はあまりにも深く、運営の者であると騙り、ELダイバーを排除せよと言う声を唱えるダイバーが各地に続出するようになりました』
今、ゼダンの門付近にいるエミルにも。
『これによって、GBN全体の治安は悪化の一途を辿り、ユーザー人口は百万人以上も減少しました。このような現状を招いた現運営に、オブザーバーとしてハッキリと言いましょう。「これが無能以外の何であるか」と』
ベース基地に帰還してノーベルガンダムを整備していたステラにも。
『ここに至って私は、GBNはこのようなことを二度と繰り返してはならないと、確信したのです。そのためには何をすべきか……それはこの現状に対して、反旗を翻すことです』
「反旗を翻すだと……?」
反旗を翻すーーつまりは、"叛乱"を起こすことだ。
『今の運営陣に、本当にGBNと、そこに生きるELダイバー達を守れるだけの力があるのか。それを試すがために、私は確固たる意志の元、現運営陣へ"宣戦布告"します!』
あまりにも堂々とした宣戦布告。
当然これは、運営本部にも届いている。
『我々はこれより自らを"反乱軍"を名乗り、11月18日に極東ベースへ攻撃を仕掛けます。これは脅しではありません。もしも現運営が対応を怠るようであれば、我々反乱軍はベースエリアの施設を破壊します。当然、ELダイバーの保護管理局にも攻撃を加えます』
つまり、無差別攻撃を行うということだ。
『現運営から見た我々は、サイバーテロそのものです。しかし、これを防げぬようでは、二千万人以上のユーザーの期待を裏切ることになるでしょう。私からのメッセージは以上になります。お時間をありがとうございました』
回線は自動的に切られ、コンソールがホーム画面に戻る。
「……」
ハバキリはアームレイカーを押し上げてジンライ改弍を加速させ、ベースエリアへの帰路へ急ぐ。
先程の宣戦布告。
つまりは、『大義名分を掲げて堂々とELダイバーを虐殺する』と言っているようなものだ。
ジルは、その見せしめにでもされるのか。
ELダイバー動乱に続く、二度目の乱。
恐らく、乱は納まるだろう。
しかし、そこに至るまでの過程に、『大きすぎる損失』が起きてしまうことは、今はどこの誰にも分からない。
【次回予告】
ハバキリ「みんなもさっきの演説は聞いてたな?」
コーダイ「あぁ、聞いたぜ。連中、どうやら本気でやるつもりだ」
サッキー「でもこの運営の内乱に、あたし達で何が出来るの?」
エミル「それは分からない。でも、やれることはやっておきたい」
セア「そうだね、今は何も分からなくても、ジルちゃんを助けられる手立てが見つかるなら」
コーダイ「そうだと思って、助っ人を呼んでおいたぜ!」
エミル「あれ?コーダイも呼んでいたの?」
ステラ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション
『意思の名の元に』」
ハバキリ「……いやいやいや、シャレになんねーぞ。何だよ、ニュータイプ部隊って」