ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション 作:さくらおにぎり
ディメンション内で電子の肉体を作り直すことを"クローニング"のそれだと言うトラちゃんに、マイマイは訝しげに目を細めた。
「あんた……今さっき自分でクローニングを否定したところじゃないの。なのに、よくそんなことを言えたわね」
「ふむ、何か勘違いをしているようだが……別に俺は「クローニングは唾棄すべき技術である」とは言っとらんよ。クローニングを行うも行わぬも、それを決めるのは結局のところ、人の選択だ。……むしろ、せっかくの技術の進歩を、『悪用することによってその価値を貶めてしまっていること』こそ唾棄すべきこととは思わんか?」
モノとは得てして、扱う人間によってその価値が決まる。
刃物は正確に安全に裁断することが出来る便利な物であるにも関わらず、殺傷を与えるにも向いている"凶器"にも成り得てしまうのだから。
「クローニングが生命への冒涜と言うのなら否定はすまい。だが、それによって『誰かの心の隙間を埋められる』のなら、クローニングも悪いばかりではないと思うがな」
「物は言いようね。まぁ、それで"あの子達"が喜んでくれたんなら、まぁいっか」
マイマイもトラちゃんの発言に納得したようで、それ以上の追及はしなかった。
だが、不意にトラちゃんの元より悪い目付きがさらに細まる。
「確かに、"彼女"の電子の肉体の再構築には成功し、再びGBNに生を受けることが出来た。……だが、成功後の問題が何も無かったわけではなかった」
それを聞いたバーテンダーのグラスを磨く手と、ケンさんの『俗物』を味わう手が止まる。
「元より破損したメモリーだったからな。容姿と身体付きはほぼ元通りに復元出来たが……"記憶まではどうしようもなかった"」
留置所。
被疑者の身柄を一時的に拘束するこの施設に、一台のパトカーが訪れた。
ドアを開けるなり、部下を連れて施設の玄関口へ向かうのは、警官服を着こなしたイノグチ・ナオエであった。
彼は、隠居した釣具屋の店主で、GBN上ではフォース・フラワーズの二軍リーダーでもある。
隠居した、と言うのは建前と言う名の隠れ蓑。
その正体は、今尚現役である熟練の刑事。
そのような人物が慌ただしい様子で駆け込んで来ようものなら、当然受付窓口を担当していた職員は何事かと思いながらも、すぐに応対に掛かる。
「警視庁生活安全総務部、イノグチ・ナオエ警部だ。こちらに留置されている、カツラギ氏の身柄の引き受けに来た」
「は、そのような連絡は通達されておりませんが……」
あくまで「マニュアル通りにやってます」と言う反応を示す職員に、ナオエは苛立っているように見せながら早口で捲し立てる。
「悪いが緊急時につきのイレギュラーだ、通達やら令状やらは全部後回し。ようやく『カツラギ氏が冤罪である』ことが突き止められたんでな。……ほれ何やってる!さっさと動けッ!!」
最後に語気を強めて怒鳴ってやると、職員は肩を竦めながらもすぐに行動に出た。
その狼狽えながらの後ろ姿を見つつ、ナオエは表に出さない程度にではあるが、少しだけ焦っていた。
「(後手に回ってしまったな。反乱軍が仕掛ける前に事を止めたかったが……そうは言ってられん)」
そう。
ここの留置所にカツラギ氏が拘束されていると言うことは、今ディメンション内にログインしているガンダイバーは、『カツラギ氏ではない誰か』である。
その背後関係を突き止めるためにこの一週間、寝る間も惜しんで捜査を続けた甲斐があったと言うものだ。
それも今からで間に合うかどうか、だが。
極東ベースエリアにて戦闘が開始してから、一時間が過ぎた。
フォース・リヴェルタの介入、メギドフレイムの照射、ニュータイプ部隊の出現。
この僅かな時間の内に戦局は目まぐるしく変化している。
その変化の中、エミルの七星剣士エクシアと、彼に付き従う一番隊メンバー達は孤立無援な戦いを続けていた。
ダブルガトリングガンを撃ちまくるNPDリーオーの弾幕を掻い潜り、GNロングブレイド【玉衝】を一閃、プラネイトディフェンサーの電磁フィールドもろともボディを斬り捨てる。
しかし、酷使に酷使を重ねていたせいか、ついにその刃が半ばから折れ、切っ先が地面に突き刺さった。
直後に、GBNガードフレームの小隊が現れ、一斉にビームガンによる射撃を仕掛けてくる。
七星剣士エクシアは咄嗟にA.B.Cマントでビーム弾を防ぐが、既にマントの対ビームコーティングも限界を迎え、シールドに着弾し始めた。
僚機であったソードカラミティガンダムが、胴体部から複相エネルギー砲『スキュラ』を照射しながらも、肩部に備えたビームブーメラン『マイダスメッサー』を二丁同時に投擲、GBNガードフレーム小隊を撃破する。
一息つく間もなく、また別方向から現れたNPDリーオー部隊が、ダブルガトリングガンやビームカノンを手に襲い掛かってくる。
「チッ、また来た……!」
ソードライフルを撃ち返しつつ、エミルは状況把握を急ぐ。
レーダーを見ても、敵対反応を示す赤いマーカーが埋め尽くすばかり。
「堪えろ!ここが踏ん張りどころだ!」
元アルディナのガブスレイが、左腕を失いながらもフェダーイン・ライフルを撃ちまくって抵抗するが、背後からダブルガトリングガンの銃撃を浴びせつけられる。
「ぐあっ、がっ、くそっがっ……ァ……」
その手からフェダーイン・ライフルを落としながら、ガブスレイは爆散していった。
ガブスレイ、撃墜。
「バノンッ!?……ちくしょうっ、こんなところでやられちまう奴があるか!!」
ガブスレイとバディを組んでいたバイアランは、相棒を討たれたことに怒りながら腕部メガ粒子砲を乱射する。
消耗は交戦時間が間延びし、交戦時間の間延びは増援を呼び、やがてそれが"犠牲"の増加に繋がっていく。
「ジルちゃんはまだ見つからないのか!?もう保たないぞ……ッ」
折れたGNロングブレイド【玉衝】を捨てて、GNビームサーベル【天権】を抜き放つ七星剣士エクシア。
さらに団子状になって現れるNPDリーオーの増援。
限界か……、とエミルの中で諦めが過りかけた時、
突如、どこからか振ってきた"ビームサーべル"がNPDリーオーの頭部に突き刺さった。
一機、二機、三機……と次々に機能停止していくNPDリーオーの群れ。
「ビーム、じゃない……ビームサーベルの弓矢?」
エミルがその"ビームの矢"が振ってきた方向にアイカメラを向ければ、
『ところがちょいさぁ!』
太陽を背にした逆光と共に、"血塗られたような"パラス・アテネがバスターソードを片手に急降下、ダブルガトリングガンを向けようとしていたNPDリーオーにその肉厚の剣刃を振り下ろし、頭から股関節までを荒々しく斬り潰した。
その姿はエミルにとって忘れられない、トラウマとさえ言える。
「また……またお前か!お前はまたボクを邪魔するのか!?」
一度目はELダイバー動乱の時に。
二度目はゼダンの門で。
何度もエミルの前に現れては、邪魔をしてきた、血塗られたように紅い機体。
『んー?あれ、その機体……あの時のエクシアくんかぁ』
ゆらりと七星剣士エクシアに向き直る紅いパラス・アテネーー機体銘『ブラッド・アテネ』
『この間はごめんねぇ、ちょっと止むに止まない事情があってさ……今だけは味方してあげるから、ね♪』
激しく警戒して敵意を顕にするエミルを前に、ブラッド・アテネのダイバーは悠然と背を向けると、NPDリーオー部隊に襲い掛かった。
一体どう言うつもりなのか、とエミルが戸惑う側に、もう一機別の反応が近づいて来た。
右肩にダブルガトリングガンを備え、左手には弓矢を握る、菫色のケルディムガンダムーー『ガンダムマナジュリカ』だ。
『もうお姉ちゃんってば!いきなり突っ込むんじゃないの!敵だって誤解されたらどうするのよ!』
『その辺はユイちゃんに任せるわぁ』
ブラッド・アテネとガンダムマナジュリカ。
似ず非なる機体でありながら、その連携力は機械的なフォーメーションしか取れないNPDリーオーを簡単に破壊して蹂躙して、殲滅していく。
その光景を見ながら、ソードカラミティガンダムからの接触通信が掛けられる。
「どうする、奴らは敵じゃなさそうだが」
「……ボク個人としては、あの紅い方に思うところはある。けど、今は信じよう」
この後をどうするかは分からない。
だが今は、今だけは戦力としてアテにしていいだろう。
一番隊とは別方向の、二番隊による戦いも激化している。
トーシローと交戦を開始したコーダイに代わり、今はサッキーが二番隊を率いている。
「さすがにこれ以上の持久戦はキツイわね」
まだエネルギーが保っているビームシザースでGBNガードフレームを撃破したガンダムデスレイザーは、コキュートスのジンクスⅣと背中合わせに立つ。
「倒すだけ倒したら脱出しろ……と言いたいが、そうも言ってられん、なッ!」
新たに現れたGBNガードフレーム小隊へ向けて、ジンクスⅣはNGNバズーカを撃ち込み、それが最後の一発だったためにその場で投棄する。
ガンダムデスレイザーはミラージュコロイドを起動、その場から姿を消しーージンクスⅣを攻撃するGBNガードフレーム小隊の死角へ回り込んでビームシザースを一閃、三機まとめて撃破する。
しかし安堵する余裕はない、すぐさま別方向からNPDリーオー部隊が遠距離からバズーカ砲による砲撃を仕掛け、ガンダムデスレイザーの背中のアクティブクロークに着弾、爆発が機体を吹き飛ばす。
「いっつ……ッ!」
体勢を崩したガンダムデスレイザーを追い込もうと迫るNPDリーオー部隊だが、その前にランドマン・ロディが立ち塞がる。
「やらせはせんッ!」
ハンマーチョッパーを片手に突撃、バズーカの直撃に怯みながらも肉迫し、一機の頭部を叩き潰す。
しかし、残る二機が挟み込むようにミサイルランチャーを発射、ランドマン・ロディの装甲が見る内に破損していく。
「やらせ、はせ、んッ、やら、せ、……」
しかしミサイルの群れをまともに直撃したせいか、機体よりも先にダイバーが先に力尽き、制御を失ったランドマン・ロディは機体の隙間からオイルを垂れ流しながら崩れ落ちた。
ランドマン・ロディ、撃墜。
「おいロッキィ!返事しろよバカロッキィ!……仇は取ってやるからなッ!」
ジム・ストライカーが味方の撃墜に涙しながらもツインビームスピアを突き出し、NPDリーオーを貫く。
ようやくNPDリーオーの数が減ったと思えば、今度はGBNガードフレームがまた現れてくる。
「ッ……いい加減しつこいっての!」
吹き飛ばされた機体を起き上がらせ、サッキーはGBNガードフレーム部隊に向き直ろうとして、
ーーふと、烈風が吹き抜けた。
『
烈風はGBNガードフレーム部隊を捕らえ、直後に稲妻が烈風の中を駆け巡り、機体をズタズタに引き裂いていく。
両手にビームサーベルを握るその姿は、深緑のゼータプラスーー『ゼータプラスラファーガ』
『何とか、間に合ったようだな』
「その機体、確か前にレジャーフィールドの時に……」
サッキーは見覚えがあった。
バラの花を集めていた最中に戦闘になり、その戦闘終了の直後に現れては、すぐに踵を返していった機体。
さらに、見覚えのある機体はもう一機現れる。
ゼータプラスラファーガの近くに着陸してきたのは、蒼いガンダムアスクレプオスーー『ガンダムアスクレプオスシャード』
『大丈夫、ボク達はあなた方の味方です!』
その証拠がこれだ、と言わんばかりに、ガンダムアスクレプオスシャードは白兵戦モードに変形すると、手近にいたNPDリーオーをパイソンクローで貫き潰してみせた。
『まずは敵の数を減らす、行くぞミーシャ!』
『はいっ、サヤさん!』
ゼータプラスラファーガとガンダムアスクレプオスシャードは、瞬時に二手に分かれて展開する。
GBNガードフレームにはゼータプラスラファーガが、NPDリーオーにはガンダムアスクレプオスシャードが。
暫しその光景を見ていたサッキーは、顔を綻ばせた。
「よく分かんないけど、ありがとね!」
自身もまたビームシザースを構え直し、敵部隊へ立ち向かう。
トーシローの護衛機であろうNPDリーオー三機は、特別高度なAIを組み込まれているらしく、ステラのノーベルガンダム、ヅダ、ネモは苦戦していた。
「時間掛けてらんねぇぞ!」
「分かっている。だが、簡単に行くものでもない……!」
ネモからのビームライフルは、隙間なく展開されたプラネイトディフェンサーによって弾かれ、接近しようとするノーベルガンダムとヅダには、ビームカノンの波状攻撃が迎え撃つ。
「早く兄さん達の援護に行きたいのに……ッ」
ミサイルランチャーをバルカン砲で撃ち落としながら、ステラは歯噛みする。
バルカン砲だけでは落とし切れなかったミサイルは小太刀てを斬り払いーーもうなまくら同然になっていた小太刀を捨てて、ビームソードを抜刀する。
「一か八か突っ込む!援護頼む!」
ザクマシンガンを撃ちまくりながら、ヅダはNPDリーオー小隊へ突撃する。
当然、容赦なくビームカノンの火線が降り注ぐが、ヅダはシールドで防ぎ、防ぎ切れなくなったら左腕を犠牲に、頭部が、右足が次々に貫かれていく。
「せめて一機だけでも道連れにィッ……!」
満身創痍のヅダはなおも突撃ーー否、特攻を止めず、中央のNPDリーオーに肉迫、その速度のまま体当たりをするように組み付き、ザクマシンガンのゼロ距離射撃を敢行しーー
「わりぃ妹さん、兄貴によろしくな」
機体が限界を迎えたヅダは組み付いたNPDリーオーもろとも爆ぜ散っていった。
ヅダ、撃墜。
「……あなたの犠牲は、無駄にはしませんよっ」
ステラはアームレイカーを握り締め直す。
「ヅダ乗りが自分からゴーストファイターになってどうすんだよ……バカ野郎が!」
ネモもビームライフルを捨てて、リアスカートからビームサーベルを抜き放った。
その、直後。
ノーベルガンダムとネモのレーダー反応が、上を示した。
「増援!?」
ステラが思わず上を見上げた時、逆光を反射しながら『黒紫色のサイサリス』が降って来た。
しかしそのサイサリスの狙いは二人ではなく、NPDリーオーの方のようだ。
『おぅるあァァァァァッ!!』
一抱えはあるだろう巨大なマニピュレーターを握り締めて、拳を振り下ろした。
突然の増援にもすぐ反応したNPDリーオーニ機はその場から飛び下がり、巨大な拳の一撃を躱す。
躱された一撃は地面を強かに捉えるとーー深いクレーターを穿ち、地割れを発生させてみせた。
『ちっ、外したか……』
黒紫色のサイサリスーー『砕鎖裏守』は自らが穿ったクレーターから拳を引き抜いて、ノーベルガンダムとネモを守るように仁王立ちする。
「あの、あなたは……?」
モニター越しに見える、『喧嘩上等』の金刺繍がデカデカと輝くド派手な特攻服を纏ったこの女性……敵ではないようだが、ステラは一応尋ねてみると、目を合わせてくれた。
『おぅ、いきなりでスマンな。アタシは『ヤイコ』ってもんだ。アンタらの敵になるつもりはねぇから、安心しな』
それだけ告げると、砕鎖裏守は両拳を打ち付けてみせた。
『さぁて、久々にでっけぇ喧嘩だ……思う存分暴れさせてもらおうじゃねぇかァ!!』
羽織った上着を翻してアームレイカーを勢いよく押し出し、砕鎖裏守も背部のスラスターバインダーを推進剤を吹かして、NPDリーオーへ正面から突っ込んでいく。
思わぬところで思わぬ援軍が来てくれたことに、ステラは胸を撫で下ろす。
「こっちは大丈夫そうですよ、兄さん」
遠過ぎて通信が届かなくとも、ステラはそう呟いた。
切り立った崖上の荒野では、赤と白が交錯する。
赤はコーダイのキャノパルド、白はトーシローのジャッジムメント。
フットローラーを駆使しつつどうにかイニシアティブを維持するキャノパルドは、両腕に抱えた180mmキャノンで迎え撃つが、ジャッジムメントは巧妙な機動で砲弾を躱し、牽制に放たれるバルカン砲はシールドで受け、確実にキャノパルドとの距離を詰めていく。
先程からこれが数分ほど続いているが、そう長くは続かない。
不意に右の180mmキャノンは弾切れを起こし、左の方も残弾は一発だけと言う事態に陥る。
舌打ちする余裕もなく、コーダイはウェポンスロットを切り替え、180mmキャノン二丁をその場で手放す。
温存していたビームライフルをリアスカートから取り出す、と同時にジャッジムメントからの左右のビームライフルが襲い掛かる。
致命傷を避けていくキャノパルドだが、その内の一発が左肩を掠め、それを気にすることなくコーダイはオープン回線を開いた。
「トーシロー……今更何故とは訊かねぇよ。だけどな、ひとつだけ教えろ。お前は、『何でハバキリだけを狙う』んだ?」
その問い掛けを受けて、ジャッジムメントの挙動が止まり、キャノパルドもまた静止、互いのビームライフルの銃口だけが睨み合う。
『……コーダイ、君にはあるか?誰よりも頼れる男が近くにいて、その男を越えたいと思ったことが』
「何を言ってんだ……?」
『君は感じたことはあるか?本気で戦いたいと思いながらも、いつも躱されてしまう悔しさが』
誰よりも頼れる男がいて、その男を越えるために本気で戦いたいと思っても、男はいつもその本懐を叶えさせてくれずにいる、と言いたいのだろう。
それはつまり……
「……ハバキリのことか」
思い当たる人物はただ一人。
直後、コーダイの中で渦巻いていた疑念が途端に噛み合った。
「お前……まさか、そのためだけにこんなことを?」
半信半疑……どちらかと言えば"信じられない"。
だが、トーシローはそれを肯定した。
『そうだ。機体と心構え、どちらも本気の全力でハバキリと戦うにはどうすればいいのか?簡単だ、『彼に"怒り"を向けさせること』だ!』
「おい……なんの冗談だよ、それ」
『冗談なものか。だから、ELダイバーを排除したい強硬派のせいでハバキリがフォースを去った時、どうすればいいと悩んださ。けれど、これはあくまでも僕の非常に個人的な"私情"だ。それよりも、フォースの存続を優先すべきとは思った。そんな時に、皆がフォースから次々に抜けて行った。もう二度と元通りにはならないだろう……そう思えば、辛く悲しく、寂しかった。だが、こうも思えた。「これはある種のチャンスなのだ」と。この状況を敢えて利用したんだ。……ELダイバーのクローン達が殺されるのを黙って見ていると言うのは、堪えるものがあったが』
それを聞いて、コーダイは「そんなバカな」と呆れと困惑が混ざった、複雑な心境になった。
今のトーシローは、ハバキリと本気で戦いたいがためだけに、これまで彼と敵対するかのような行動を取っていたと言うのだ。
たったそれだけのことを為さんがために、
(トーシローの本意では無いにしろ)ジルと言うELダイバーの命を弄び、使い潰そうとしたのか?
「…………けんな」
ここに至ってコーダイは、困惑を怒りへと炎上させた。
「ふざけんな、トーシローッ!」
怒りと共にキャノパルドのビームライフルのトリガーを引くが、それは躱された。
「だったら尚更だっ、てめぇをハバキリの元へ行かせるわけにはいかねぇッ!」
ビームライフルだけではない、波状的に肩部キャノンも連射してジャッジムメントを追い詰める。
「ジルちゃんを……俺達の"友達"をっ、そんな好き勝手な理由のために、殺させてたまるか!!」
バルカンを速射して牽制し、
肩部キャノンを散発させて誘導し、
回避先を予測してビームライフルを撃ち込ーー
『読めているぞ』
避けられた。
必殺必中だったはずのその一発を。
「!?」
コーダイは、激情によってひとつ見切れていなかった。
自分と付き合いの長いヤツは、ハバキリだけではないことを。
自分がハバキリの動きの癖などを知っているのなら、トーシローが自分の攻撃のタイミングの癖を知っているのは当然だった。
時にして、僅か0.2秒の硬直。
しかし、戦場でそれが命取りになるには十分過ぎた。
瞬時に距離を詰めて来たジャッジムメントのビームライフルの銃口からビームサーベルが発振され、袈裟掛けに振り抜かれた。
メガ粒子の光刃はキャノパルドの厚い前面装甲を捉え、深々と斬り裂いた。
「ーーーーーがはっ、ァ」
ビームサーベルの波動とスパークが目の前を塗り潰した時、コーダイのダイバーとしての意識は暗転した。
『行かせてくれ、コーダイ。僕はもう、止まれないんだ』
間際に、トーシローの物悲しい声と、推進剤の燃焼音が聞こえた気がした。
数十基に渡るファンネルの大群と、先読みでもしているかのような正確さで放たれるアクティブカノン。
三機の量産型キュベレイを相手に、セアのフルドレスフリーダムガンダムは苦戦していた。
スカートユニットとウイングを翻してビームのシャワーを掻い潜り、反撃に高エネルギービームライフルやバラエーナ、バックパックのナルカミを放っても、相手は即座に反応して躱してしまう。
ハバキリやエミルの情報が確かなものなら、この量産型キュベレイを操るのは、ジルーーELダイバーのクローン。
ジルと出会った時からのこと……時折、ガンプラの感情を読み取るようなことや、他者の悪意を感じ取り、攻撃を先読みしたりすることを、これまでに何度も行ってきて、それらは一度として外れたことはない。
その能力を、ただガンプラバトルに利用するために、彼女らは"造られた"のだろう。
確かに、相手の動きや攻撃を先読みするようなことが出来れば、ガンプラバトルに勝つことも容易いことかもしれない。
だがそれは、ジルと言う電子の人間が持って生まれた才能のひとつだ。
それを、「都合が良い」と言う理由で彼女から自由を奪い、その才能を模倣しようとする。
世の中がそんな才能ひとつで左右されていいはずがない。
しかし、愚か者はそんな才能ひとつで物事を推し量ってしまう。
才能があるから、才能があれば、才能さえあれば。
そんな透けて見えるような考えを、セアはーー「ズル」いことだと捉えた。
平然とそんな「ズル」が出来てしまうから、生命をモノとしか見ていない、見ることができない。
この量産型キュベレイは、そんな愚かで浅はかな「ズル」から生まれた存在だ。
ならばこそ、こんな"モノ"はあってはならない。
しかしーー生まれてきた命に罪はない。
セアは一度意図的に呼吸を行い、思考を整える。
その僅かな隙さえも、量産型キュベレイ達は突いてくる。
だが、その隙を突いてくることは『想定済み』だ。
フルドレスフリーダムガンダムはその場で跳躍してビームを躱し、そのまま上昇していく。
高度を上げるフルドレスフリーダムガンダムを追うべく、ファンネルの大群もその後に続く。
ある程度の高度にまで到達すると、フルドレスフリーダムガンダムは宙返りするようにしてファンネルと向き合いーー既にその火器群は向けられていた。
マルチロックオンシステムを起動、次々にファンネルと量産型キュベレイ部隊をロックオンする。
ロックオンされた時点で、ファンネルの大群は攻撃を避けるべくその場から散開するがーー
「見えてるよ。ーー"全部"ね」
いっそ冷淡とも言える声色と共に、セアはトリガーを引き抜いた。
高エネルギービームライフル、バラエーナ、ナルカミによる、フルドレスバーストアタックは放たれ、ファンネルの回避先すら見切ったように、次々に吹き飛ばしていく。
セアは先程から苦戦していたように見えたがその実、ファンネルの機動のひとつひとつを"見ていた"。
これは、空間認識能力の高さではなく、セアが持つ学習能力によるものだ。
そしてファンネルだけではない、三機いる内の量産型キュベレイのニ機、片方は頭部を貫き、もう片方は下半身を焼き払っていた。
可能な限りの数のファンネルを破壊し、同時に量産型キュベレイの戦闘力も奪う。
この瞬間に限れば、セアは『キラ・ヤマト』とほぼ同等の戦闘力を発揮していたと言っても良い。
残された一機の量産型キュベレイが、袖口のビームサーベルを抜き放ち、ビームガンを撃ちながら接近してくるが、フルドレスフリーダムガンダムは両手の高エネルギービームライフルをその場に捨てて、両手にラケルタ・ビームサーベルを抜刀、アンビデクストラス・ハルバードフォームとして連結、それを高速回転させ、ビームシールドのようにして量産型キュベレイのビームガンを弾いていく。
間合いを詰めて、ビームサーベルを振り翳す量産型キュベレイ。
しかしその光刃が届くよりも先に、フルドレスフリーダムガンダムの突き出したラケルタ・ビームサーベルの切っ先が、量産型キュベレイの頭部を吹き飛ばす。
「怖いかもしれないけど、我慢して」
連結したラケルタ・ビームサーベルを切り離し、両手両足、ファンネルコンテナを全て斬り飛ばした。
胴体以外の部位を全て失い、達磨にされた量産型キュベレイは、力無く倒れ、地面を転がった。
脅威はもう残っていないことを確認してから、フルドレスフリーダムガンダムはラケルタ・ビームサーベルを納め、高エネルギービームライフルを拾い直した。
最後にハバキリと別れた地点からだいぶ離れてしまったらしく、遥か向こうにパトゥーリアの巨体が微かに見える。
「……急がなきゃ」
遣る瀬無い気持ちを胸にしまい込み、セアはフルドレスフリーダムガンダムを飛び立たせた。
雑草が生い茂っていたはずの平原は、いつしか焦土と化していた。
パトゥーリアが放つ無数の有線ビーム砲と、荷電粒子砲の波状攻撃が、ハバキリのシュツルムジンライを追い込む。
「ぎっ、……ッ!」
有線ビーム砲からの攻撃を回避すべくスラスターを炸裂させるシュツルムジンライ。
しかしその機動を行う都度に、確実にハバキリの身体を傷付けていく。
これが現実のものならば、ハバキリの肋骨はとっくの昔にバラバラになっているだろう。
意識を手放して楽になることも許されない、ハバキリの精神は、集中力によって擦り減らされ、激痛によって蝕まれる。
接触通信でも、パトゥーリア内にいるだろうジルの声は聞こえなかった。
残された手段は、パトゥーリアの内部に侵入してコアユニットごと引き抜くこと。
だが、それすらも今は難しい。
せめてあの有線ビーム砲さえどうにか出来れば、どうにでも接近出来るのだが、ここにいるのは自分一人しかいない、ならば自分で切り抜けるしかない。
シースザンバーを構え直し、しかしどうするべきかと鈍り始めている思考を回転させーー
事態は突然の変化を迎える。
『トランザム!!』
彼方より、紅い輝きーー解放された圧縮粒子を放ちながら急激に接近してくる機体がひとつ。
クリアーオレンジ色の、反り返ったGNビームサーベルを両手に握ったその機体は、恐らくマスラオだろう。
突如現れたマスラオーー機体銘『マスラオヴレイブレイズ』に、パトゥーリアは迎え撃つべく有線ビーム砲の注意をシュツルムジンライから外し、そちらへと向かわせる。
しかしマスラオヴレイブレイズは有線ビーム砲からの攻撃を避けるどころか、さらにその術中へと飛び込んでいくではないか。
「おい何してんだっ、死ぬつもりか!?」
誰かは分からないがハバキリは広域回線で呼び止めようとするが、マスラオヴレイブレイズはその制止を聞かずーー両手のGNビームサーベルを凄まじい速度で振り回し、放たれるビームを全て斬り飛ばしながらもパトゥーリアへと距離を詰め、とうとうその切っ先が有線ビーム砲を捕らえ始めた。
マスラオヴレイブレイズの攻撃により、パトゥーリアの有線ビーム砲は次々に破壊されていく。
あのマスラオの改造機は敵ではないし、恐らく味方と判断してもいいのかもしれない。
だがあの機体のダイバーは、ジルのことを知っているだろうか?
パトゥーリアのことを、ただの殺戮マシーンにしか見ていないのではないか?
だとすればーー知らず知らずの内にジルを殺めてしまうかもしれない。
その証左として、有線ビーム砲のほとんどを破壊し、パトゥーリア本体へ接近したマスラオヴレイブレイズは、何の躊躇いもなく攻撃しようとしている。
そこまで見たところで、ハバキリはほぼ無意識でアームレイカーを殴り倒し、シュツルムジンライを急加速させた。
「や め ろ !そいつには手を出すなッ!!」
その速度のまま、GNビームサーベルを振り下ろそうとしていたマスラオヴレイブレイズへ体当たりし、そのままパトゥーリアから遠ざけていく。
『グッ……お前、何のつもりだ!?』
接触通信で青年の声が怒鳴ってくるが、ハバキリは音量を下げずにあのパトゥーリアのことについて伝える。
「あそこにはオレ達の仲間がいるっ、あんたには悪いが手を出すな!」
『……』
すると、マスラオヴレイブレイズは構えを解き、トランザムを強制解除して元の赤と黒のツートンカラーへと戻っていく。
『なら、任せる』
どうやら意図が伝わったようで、マスラオヴレイブレイズはこの場から離れた。
マスラオヴレイブレイズの背へ向けて、パトゥーリアは荷電粒子砲のチャージを開始するが、その前にハバキリのシュツルムジンライが立ち塞がった。
「ちょっと荒っぽくするぞ、覚悟しとけよ!」
荷電粒子砲の砲口に至近距離にまで接近すると、フィールドバリアの内側でビームカービンを撃ちまくる。
集束中だった荷電粒子砲のひとつが破壊され、沈黙する。
荷電粒子砲の破壊によって動きを鈍らせたパトゥーリアに、シュツルムジンライはコアユニットがあるだろう部位へ取り付いた。
その装甲に拳を突っ込ませ、突き破った。
突き破った部分をこじ開け、その内部へモノアイを通す。
無数のチューブやパイプに繋がれたカプセルの中に、虚ろな目をしたピンク色の髪をした少女がいる。
「助けに来てやったぞ、ジル!!」
その姿を確認すると、シュツルムジンライは右手を伸ばし、ジルが収められたカプセルを引き抜こうとするが、
ーーイヤッ、来ないでッ!!ーー
"声"が聞こえた。
来ないで、と言う拒絶の声を。
直後、残り僅かながら生きていた有線ビーム砲が蠢き、取り付いていたシュツルムジンライの右腕へ巻き付いた。
「ジル!?」
コアブロックから引き剥がされそうになるが、ハバキリは右のアームレイカーを押さえつけ、必死に抵抗する。
「「来ないで」って何だよ……お前は奴らの道具にされてんだぞ、それでいーのかよ!?」
ハバキリの呼び掛けに、"声"は応えてくれた。
ーーだって、わたしはこんなに酷いことをして、それで助けてもらうなんて、そんなの……ずるいに決まってるーー
「
"声"の、後悔にも似た懺悔の言葉は続く。
ーーごめんね、ハバキリ。わたし、みんなに「ありがとう」を返せなくなっちゃった。それより、もっと大事なことをしなくちゃいけないのーー
次に放った言葉。
ーーあのね……わたしを、
「ッ!?」
お願いと言うにはあまりにも残酷過ぎて、あまりにも声が穏やか過ぎた。
ーーわたしね、みんなに「ごめんなさい」をしなくちゃいけない。でも、こんなに酷いことしちゃったら、「ごめんなさい」って言うだけじゃ足りないよ。だから……ーー
「……」
命を絶つことで謝罪をしたいのだと、ジルは言う。
そこまでを聞いてハバキリは、
「バカじゃねーのか、お前」
呆れと共に溜息をついた。
なんだそんなことだったのかと、急に頭が冷えてくる。
「お前一人が死んで、それでおしまい?それじゃ誰も納得しねーよ」
シュツルムジンライは徐にビームカービンを左手に取り、右手に纏わりつく有線ビーム砲を撃ち抜いて破壊した。
ーーじゃぁ、わたしはどうしたらいいの?何をしたら赦してもらえるの?ーー
「この、ドあんぽん。お前の頭はピーマンか」
自由を取り戻した右腕を、もう一度パトゥーリアのコアブロックへ滑り込ませる。
「そもそもな、お前は何も悪くねーだろ。お前のことを利用したいチンパンが、全部お前のせいにしよーとしてただけなんだよ」
キスをするために顎を持ち上げるように、シュツルムジンライのマニピュレーターが、カプセルを掴む。
「お前は誰にも「ごめんなさい」をする必要なんざねーんだよ」
ーー「ごめんなさい」を、しなくていい……?ーー
「おー。だから、お前は黙ってオレに助けられて、そのあとでみんなに「ありがとう」を返せばいーんだよ」
ーー……ッ!ーー
ガラス越しに見えるジルの瞼に、一滴が溢れた。
開かれた瞳に、光が宿り戻る。
ーーいいの?わたし、「ごめんなさい」をしなくていいの……?ーー
「何度も言わせんなよ。……さてと、ちょっと揺れるぞ」
シュツルムジンライは少しだけ右手の握力を加えると、そのままジルが収められたカプセルを、チューブやパイプごと引き千切った。
「怖かったよな。辛かったよな。寂しかったよな。でも、もー大丈夫だ」
制御を失ったパトゥーリアがゆっくりとその高度を落とし始めていく。
シュツルムジンライはビームカービンを納め、カプセルを落とさないようにしっかりと両手で包み込ーー
ーーッ!ハバキリッ!!ーー
んだ途端、"声"が叫んだ。
直後にハバキリのコンソールがアラートを告げ、その方向からビームが放たれてきた。
「は!?」
完全にカプセルに意識を向けていたハバキリは、その方向からの攻撃への反応が遅れていた。
回避は間に合うはずもない。
ーーだめェェェェェーーーーーッ!!ーー
不意に、制御を失ったパトゥーリアが再起動し、そのビームの前に立ち塞がった。
しかしーービームはパトゥーリアの装甲を容易く貫き、その動力部までもを貫通してみせた。
動力の破壊、それは即ちーー爆発だ。
爆風は至近距離にいたシュツルムジンライを巻き込み、吹き飛ばす。
その拍子に、カプセルがマニピュレーターから離れ、飛んで行ってしまった。
「あっ!?ジルーーーーー!!」
ハバキリはすぐにシュツルムジンライの姿勢を正し、地表へ落下していったカプセルを追う。
「………………んっ、今意識飛んでたか!?」
気絶していたコーダイは、今どこかで起きた大爆発を聞いて意識を取り戻し、慌てて現状把握を急ぐ。
つい先程、確かにトーシローのジャッジムメントのビームサーベルによる一撃を受けてーー、一時的な気絶状態に陥っていたようだ。
今自分は、誰かが敷いたシートの上で横になっていた。
「あ、気が付いた?」
声が聞こえたのでそちらの方へ向くと、薄紅色の和装に身を包んだ少女と、その彼女のガンプラだろう、桜色のSDガンダムがいた。
どうやら、彼女が介抱してくれたようだ。
「君を助けるの、大変だったよ?サーベルでまともに斬られたのかな、装甲が酷いことになってたんだから」
彼女の視線が、横たわっていた赤い機体ーーキャノパルドに向けられる。
キャノパルドの前面装甲は、ビームサーベルの直撃を受けたのだろう、原型を留めていない。
それでも、コクピットにいたコーダイを守ってみせたほどの堅牢さはあったのだ。
「あ、あぁ……助かりました、ありがとうございます」
ともかく彼女が助けてくれたことに変わりはない、トーシローは頭を下げることで感謝を示す。
「(やられちまったのか、俺。情けねえな……)」
トーシローを足止めすることが自分の役目だったと言うのに、それも果たせなかった。
しかし、今はそれに落胆している場合ではない。
「ってか、今の爆発は?」
どこかで何かが爆発したのは間違いない、その爆音で意識が戻ったのだから。
「ここからだとだいぶ遠いけど……それより君のガンキャノン、メンテナンスハンガーに入れないと。そのままじゃ戦えないよ」
「ここで俺だけ逃げるわけにはいかねぇんですって。俺のキャノパルドはまだ動けるんでしょう、ならライフルが撃てりゃ……」
『悪いが、それは無理だな』
オープン回線で声が届いたと思えば、今度はマスラオの改造機ーーマスラオヴレイブレイズが着陸してきた。
『ハルナ、どうやら良いならぬ事態だ。正規軍は、完全にNT部隊に気圧されているらしい』
マスラオヴレイブレイズから「ハルナ」と呼ばれた少女は、コンソールを開いて通信に応じる。
「それはまずいけど……この人のこともほっとけないよ。ツルギくん、悪いけどこの人のガンキャノン、ハンガーに連れて行っていいかな」
『分かった。終わり次第、すぐに絶対防衛ラインに来てくれ』
それだけ伝えると、マスラオヴレイブレイズはすぐに踵を返して飛び去って行った。
通信を終えると、ハルナはすぐに自分の桜色のSDガンダムーー『麗桜姫頑駄無』に乗り込んだ。
「さっ、他のみんなを助けたいなら、今は我慢して機体を元通りにしないとね」
「……分かりました」
コーダイは横たわったキャノパルドのコクピットに乗り込む。
それを確認してから、麗桜姫頑駄無はキャノパルドを抱えて、近くのメンテナンスハンガーへ急行する。
ハバキリのシュツルムジンライは、忙しなくモノアイを左右させていた。
「どこだ……どこ行っちまったんだよ、ジルッ……!」
パトゥーリアの爆風に吹き飛ばされてしまった時、確かにジルのカプセルの行方も見ていたが、途中で見失ってしまったのだ。
この辺りに墜ちたはずだが、とハバキリは焦燥に駆られながらも目視とレーダーを見比べる。
ふと、シュツルムジンライの左足が何かにぶつかる。
拡大確認してみるとすぐ足元に、壊れたカプセルと、そこから放り出され、傷付いたジルの姿が見えた。
「ジルッ」
ハバキリはすぐにシュツルムジンライを片膝立ちにさせると、コクピットから降りてジルの元へ駆け寄る。
着込んでいるノーマルスーツはボロボロで、呼吸が浅い。
それでもここにいると言うことは、まだ"消えてはいない"。
「しっかりしろ、ジルッ」
ハバキリは少し強引にジルを抱き寄せる。
「……ぅ、は、ハバキ、……?」
「そーだよ、ハバキリだっ」
「ぅん、……ぅん」
存在を確かめるように頷くジル。
すると、ノーマルスーツの懐に手を伸ばし、何かを取り出した。
それは、ジルがフォース・リヴェルタのメンバー達のために作ったネックレスーーオブシディアンのそれは、ハバキリのための物だ。
「他のみん、なのは……無くしち、ゃった……けど、これ、ハバ、キリのは……持って、たか……ら。これ、あげ……る……」
覚束ない手で差し出されたそれを、ハバキリはしっかりと受け取った。
「おー、確かに受け取ったぞ……!」
「……え、へへ……せめて、ハバキ、リに……だけでも、返したか……たの……」
弱々しい笑みを浮かべるジル。
ーーその電子の肉体に、"ブレ"が生じ始めた。
「ッ、ジル!お前っ……!?」
抱き寄せている腕の感覚が薄まる。
「……ぁ、のね、ハバ……キリ、」
「ジル!!」
抱き寄せるだけでなく、そのまま抱きしめてやる。
しかしその感触は弱く、透けてしまいそうだった。
「「ありがとう」を伝えなきゃいけねーのはオレだけじゃねーだろ!?セアさんにコーダイ、サッキー、エミル、ステラ!何のために素材集めに行ったんだよ!?」
「わた、し……わたし、ね……」
"ブレ"ていく。
彼女の命が消えていく。
「ダメだ……死ぬなっ、ジル!!」
必死に呼び掛けても、止まらない。
「生ま、れ……変わ、 ら、みん、とい……しょ 、n 」
ジルを構成する"データ"が飛散した。
小さな光となって、消えた。
「ジ、ル……………………?」
ハバキリは呆然と、その消えた光を見つめていた。
彼の手にある、オブシディアンのネックレスが震えた。
ただ、膝を折るしか、出来なかった。
「冗談だろ……こんな、こんなことが……ッ」
ふと、遠くからMSの風切り音が近づいて来たが、ハバキリはそれに反応しない。
彼の近くに近づいて来たのは、セアのフルドレスフリーダムガンダム。
片膝立ちになっているシュツルムジンライを見て、フルドレスフリーダムガンダムも近くで片膝立ちになって着陸、コクピットからセアが降りてくる。
「ハバキリくんっ」
駆け寄ってきたセアを見て、ハバキリは歯を噛み締めた。
「ハバキリくん、ジルちゃんは、……っ?」
彼の手にあるのは、ジルが作っていたオブシディアンのネックレス。
それがここにあり、ジルの姿が見えないと言うことは……
「すいませんセアさん、作戦失敗です。ジルはもう、……」
「!!」
作戦失敗。
それがこの、オペレーション・インテンションにおいて何を意味するのか、理解してしまった。
「他の奴らはまだ戦ってますよね。なら、「作戦は失敗した、各員は随時撤退せよ」って伝えに行きましょ」
「……ハバキリ、くん」
「どーしたんです、セアさん。早く行かねーと、みんな、みん、なが……っ……」
ハバキリは淡々と言葉を発しているつもりだった。
だが、セアの目には『彼が泣いているようにしか見えなかった』
ボロボロ、ボロボロとハバキリの瞼から熱いものが垂れ流しになる。
「あーれ、っかしーな……なんで、っなんでこんな……っ」
涙。泪。ナミダ。
ハバキリは慌てて袖で目元を拭った。
拭っても拭っても、拭った後からそれは溢れ出てくる。
「チッ……んだよっ、泣いてねーよ……オレは別に泣いてるわけじゃ、ッ……!」
頭を振る彼を、セアはそっと手を伸ばし、自身の胸に抱き寄せた。
「泣いていいんだよ」
「ッ……」
優しく囁くようなセアの声に、ハバキリは硬直する。
「辛くて、悲しくて、泣きたいのは私も同じ……だけど、君が泣いちゃいけない理由なんてないよ」
セアは、コーダイが言っていたことを思い出していた。
彼は、家族であるステラにも自分の感情を隠すことがあると。
だから、誰にも見えないところで一人で怒っていたり泣いていたりしたら、気付いてやってくれと。
「男の子は泣いちゃいけないなんて、誰が決めたの。泣きたい時に泣かないと、辛いばっかりだよ……?」
「セ、アさん……でも、オレ……ッ」
不意に、セアの手がハバキリの銀髪を撫でた。
「ぽんぽん」
ぽんぽん、と。
いつかに、ジルがエミルにやっていたように。
その優しい仕草が、ジルを想起させる。
ハバキリはもう、躊躇することをやめた。
恥も外聞もなく、セアの抱擁の中でただ幼子のように、声を上げて泣いた。
言葉にするのなら、そこは『データの海』と言える場所だった。
誰かの記憶や感情が、泡沫のように浮かんでは消える、光の流れの中で、一人の少女が何かを感じ取ったように瞳を開いた。
エメラルドグリーンの双眸。
月の欠片と見紛う美しく長い白金色の髪は二つ結びに。
その身を包むは純白色のドレス。
「誰かが泣いてる、また……」
"自分と同じ存在の"少女が、願いを唱えた気がした。
弱くて、儚くて、脆くて、不完全で、砕けそうで、潰れそうで、壊れそうで……それでいて、純粋な願いを。
沈み込みそうだった"ソレ"を、そっと水面へ押し上げた。
「……あなたが誰かのために頑張れるのなら、わたしも誰かのために頑張る。そうでしょ?"ヒロト"」
時間にして、一分だけ。
「……もー、大丈夫です。みっともねーとこ見せました」
流したいモノを流したいだけ流してから、ハバキリは立ち上がった。
「撤退準備ですね。こっからじゃ極東ベース周りにまで通信が届きませんし、まずはそこまで戻らねーと」
「うん。なら私は、エミルくんの一番隊から探すことにするね。ハバキリくんは……」
「オレはまず遊撃隊をまとめ直します。そこから、サッキーの二番隊と、……コーダイは無事だといーんだが」
コーダイにはトーシローの足止めを頼んでいる。
そう簡単に撃破されるようなヘマはしないはずーーハバキリは知らないが、コーダイは不覚を取って一時戦線離脱しているのーーだが、勝てる保証もない。
「私は先に行くね。ハバキリくんも」
「了解です。合流地点で会いましょー」
フルドレスフリーダムガンダムとシュツルムジンライはそれぞれ別方向へ飛び立った。
先程までパトゥーリアと戦闘を行っていた地点にまで戻ってきたシュツルムジンライ。
目下には、爆散して原型を留めなくなった、パトゥーリアの骸が転がる。
「……」
もはや、振り向くまい。
そう振り切ろうとしたハバキリだったが、
正面よりアラートが鳴り響いた。
「前かッ」
咄嗟にアームレイカーを捻って、前方より放たれた高出力のビームがシュツルムジンライのすぐ側を通り過ぎた。
このビームに、見覚えがある。
と言うより、ついさっきも間近で見た。
「こ、の、ビームは」
視界を正面へ向け直す。
目視で見えるほどに目立つ『赤い機体』
一見するとそれは、RX-78を赤く塗装した『キャスバル専用ガンダム』に見える。
だが、機体各部は丸みを帯び、V字や十字のマークは無く、どちらかと言えば、GBNガードフレームに近いーー
「……キャスバル専用の『GBN−ベースガンダム』だと?」
そう。
その機体は、有事の際にゲームマスタークラスが乗り込むこともある、GBN−ベースガンダムのそれだった。
ユーザー達が目にしてきたそれらは、トリコロールだったり、プロトタイプカラーだったり、モノトーンだったりするものだったが、キャスバル専用カラーは過去に例がない。
ふと、通信が届く。
『君達の活躍は実に素晴らしいものだった。だが君の"お仲間"も、間もなく撃墜されるだろう』
通信の相手は、目の前のGBN―ベースガンダムから。
『無駄な抵抗はやめたまえ。例え『青き狂戦士』と呼ばれた君でも、この私は倒せまい』
こいつか?
こいつが、ジルを殺したのか?
否、ハバキリを討とうとして、そこにジルが割り込んだだけ。
だが、
だとしても。
「……反乱軍の、大将首だな?」
ハバキリは静かに、通信に応答した。
『「そうだ」と言えば、どうするのだ?』
質問に質問で返すとは、随分と余裕があるらしい。
「そーかそーか、てめーが総大将か……」
ギチッ……とハバキリの奥歯が軋んだ。
「
【次回予告】
ハバキリ「分かってんだよ、こんなことをしたって、ジルは戻って来るわけねーって」
エミル「作戦失敗か……それでも、ボク達は戦い抜いてやる!」
サッキー「そうそう!なんか援軍もたくさん来てくれたみたいだしねっ!」
ステラ「私達は、私達のために戦うまでです!」
コーダイ「遅れちまったが……"汚名挽回"と行くぜ!」
トーシロー「止まれないのさ……なら、貫き通すまでだ!」
セア「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション
『Diver's High』」
??「わたしは……誰?でも、何だか……懐かしい気がする」