ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション   作:さくらおにぎり

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 今回を以て、この『ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション』シリーズも最終回です。


25話 Diver's high

 コーダイのキャノパルドを突破したトーシローは、シュツルムジンライーーハバキリを捜していた。

 

「(ハバキリの目的がELダイバーの奪還なら、ニュータイプ部隊と交戦に入っているはずだ)」

 

 先程に、ニュータイプ部隊の中核であるパトゥーリアが撃墜されたのは確認している。

 ならばその近くにいるはず。

 パトゥーリアの残骸のある方向へジャッジムメントを走らせるトーシロー。

 

 ふと、センサー範囲ギリギリの所から、ガンプラの反応が二つ。

 ひとつは激しく飛び回り、もうひとつは最低限の動きしかしていない。

 その方向を最大望遠で視認してみると、キャスバル専用ガンダムーー基、赤い『GBN―ベースガンダム』と、青いジンの改造機ーーシュツルムジンライが戦っている。

 確か、あの赤いGBN―ベースガンダムは、カツラギ氏の搭乗機であったはずだと記憶している。

 パトゥーリアが撃墜されたのを見て、総大将自ら出陣したと言うことらしい。

 

「…………」

 

 その光景を見てーーやはりトーシローは、己の本懐を為さんがために動く。

 

 

 

 

 

 ビームカービンを撃っても、それが装甲に届くよりも前に"逸らされて"しまうのは、Iフィールドを展開しているからだろう。

 その辺に転がっていたNPDリーオーの残骸が落としていたダブルガトリングガンを撃ちまくり、着弾はしているのだが全く効いている様子が見えないのは、PS(フェイズシフト)装甲か、もしくはナノラミネートアーマーか。

 同じく残骸と化していたGBNガードフレームのビームサーベルを投げ付けても、大したダメージも無くシールドに弾き返されるのは、表面に強力な耐ビームコーティングが施されているからか。

 シースザンバーによる近接攻撃を叩き込もうにも、相手の機動性も恐ろしく速い、シュツルムジンライの馬鹿げた機動性と同等かそれ以上か。

 

「ハーッ、ハーッ、ハーッ………」

 

 ハバキリは己の存在を確かめるようにアームレイカーを握り締める。

 GBN―ベースガンダムが反撃に放つビームライフルを躱す。

 しかし、掠めてもいないにも関わらず装甲の表面が焼け爛れている。

 ビームマグナム級の破壊力に、標準並の連射力を両立させているとでも言うのか。

 

「……ぐっ?」

 

 同時に、ハバキリは自分のダイバーとしての身体に異常が起き始めていることを自覚する。

 痛みを感じられなくなった。

 それは決して良いことではなく、むしろ事態の悪化。

 

『自分の感覚が薄れ始めている』のだ。

 

 シュツルムジンライの気狂いとも言える機動性は、ダイバーのライフを代償に与えられるものだ。

 感覚が薄れるということは、『ダイバーのライフはもはや底を着きかけている』ことを意味する。

 事実、アームレイカーを握る手の握力が弱まっている気がする。

 

 だが、まだ戦える。

 それを自認すると同時に、別の機体反応が背後から出現する。

 

「チッ……ここで増援か……っ」

 

 とんだクソゲーだな、と自分で軽口を吐いて気力を振り絞ろうとするハバキリ。

 

 現れたのはーートーシローのジャッジムメント。

 

「……てめーか、トーシロー」

 

 よりにもよって、強敵だ。

 ただでさえGBN―ベースガンダムを前にして打つ手が無いも同然だと言うのに。

 

 しかしーージャッジムメントのビームライフルはシュツルムジンライではなく、GBN―ベースガンダムを狙い撃った。

 それはIフィールドによって弾き逸らされるが、GBN―ベースガンダムの挙動が一瞬だけ乱れた。

 

『シルバ、貴様……裏切ったのか?』

 

 旧友に絆されでもしたか、と睨むカツラギ氏を前に、トーシローは堂々と答えた。

 

「何か勘違いしているようだな、カツラギ氏。『僕は最初からあなたの味方などしていない』さ。僕の目的はずっと『ハバキリと本気で戦う』ことだけだ。そのためにあなたを利用していたが……正直、今の"お前"は邪魔以外の何物でもない」

 

「トーシロー、お前」

 

 ハバキリが何か言おうとするが、即座にGBN―ベースガンダムからのビームライフルが応酬された。

 

『そうか……ならば、青き狂戦士もろとも消えるがいい、『白き聖騎士』』

 

 シュツルムジンライとジャッジムメントは同時に飛び下がってビームを避ける。

 

「今まで黙っていて悪かったな、ハバキリ」

 

 ビームを往なしながらも、トーシローとハバキリは昔のように会話を交わす。

 

「トーシロー。今すぐコクピットから降りて一発ぶん殴ってやりてーところだが、それは後にしてやる。……今は、あのヤローをブチ殺すことに協力しやがれ」

 

「お手柔らかに頼むよ。……君と共に戦うのも久々だな」

 

 青き狂戦士と、白き聖騎士。

 フォース・アルディナの最強の双璧が再び手を取り合った。

 

「『シナノ・トウシロウ』、ジャッジムメント!」

 

 ジャッジムメントが、脚部からビームサーベル抜き放って、切っ先を向ける。

 

「『アメノ・ハバキリ』、シュツルムジンライ!」

 

 シュツルムジンライが、シースザンバーを一度素振りして、構え直す。

 

 

 

「「行くぞ!!」」

 

 

 

 

 

 バギンッ、と言う甲高い音を立てて、GNソード【巨門】が半ばから砕け折れた。

 ビームサーベルもビームダガーもない、長短のGNブレイドは両方とも折れた。

 エミルの七星剣士エクシアは、戦えるような状態ではない。

 だが、

 

「こ、ん、のォォォォォッ!!」

 

 折れたGNソード【巨門】を振るい、NPDリーオーのバイタルバートへ無理矢理ねじ込ませた。

 眼前の敵はどうにか退けられた。

 最後まで共に戦っていたソードカラミティガンダムも、ついにエネルギーが尽きたのか、シュベルトゲベールのビーム刃が切れた。

 TP(トランスフェイズ)装甲であるため、外見上はPSダウンを起こしていないように見えるが、実際はエネルギーエンプティ状態だ。

 

 離脱する他ない、と言いかけたソードカラミティガンダムだが、またもやNPDリーオーの小隊が現れた。

 

「もはやこれまでか……せめて、自爆装置で奴等だけでも」

 

「それは本当に最後の手段だ。素手になったって、ボクはやってやるよ」

 

 倒したNPDリーオーからマシンガンを奪い取り、七星剣士エクシアは対峙する。

 

 が、

 

 突如、上空からビームが降り注ぎ、プラネイトディフェンサーを展開する前だったNPDリーオーは次々に撃墜されていく。

 

「っ、何だ?」

 

 上空に目を向ければ、『黒金のνガンダム』がフィンファンネルを呼び戻し、左肩へ取り付いて行くのが見えた。

 随伴しているのは、デュエルガンダムに似たアレックスーーブルシュヴァリエや、騎士ガンダム、ジンクスⅢ、グレイズリッター。

 その中で、νガンダムーーエーデルνガンダムを駆るダイバー『ノエル』は、名乗りを上げるようにビームレイピアを高々と掲げた。

 

「我等はフォース・ロイヤルナイツ!GBNの治安を乱す賊軍を、裁きを以て駆逐せよ!!」

 

「「「「ハッ!鉄拳制裁!一点突破!」」」」

 

 名乗りと共に、高貴なる騎士達は次々にNPDリーオーと言う名の賊を打倒さんと掛かる。

 

 その中で、ブルシュヴァリエのダイバーたる『リヒター』は、今なお前線で戦っている、ガンダムマナジュリカと接触していた。

 

「ユイ!まだ戦えるな!?」

 

「リヒターね?私なら大丈夫、手伝って!」

 

「任せてくれ」

 

 ガンダムマナジュリカが右肩のダブルガトリングガンで牽制し、動きを止めたNPDリーオーの中へブルシュヴァリエが切り込み、ビームサーベルで斬り倒していく。

 

 その反対側では、

 

「ホラホラホラホラホラァ!バラされたいヤツは来なさいな!バラされたくないヤツも来なさいな!」

 

 ブラッド・アテネがバスターソードと両足のビームサーベルを自在に振り回して、敵部隊を文字通り膾斬りにしていく。

 

 そして、ロイヤルナイツとは逆の位置から展開を始めたフォースがもうひとつ。

 ガンダムDX、グフカスタム、ストライクE、ジムスナイパーⅡ、デルタプラスの五機。

 

「少々出遅れてしまったが、問題はない。全機、フォース・リヴェルタのガンプラを援護しろ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 ガンダムDXーーローランはバスターライフルを撃ちながら、僚機達と共に戦線へと突入していく。

 彼らはフォース・サンダーバード。

 元マスダイバーの烙印を押された者達であったが、今はもう誰もそれを気にすることは無くなっていた。

 

 

 

 

 

 ビームシザースのエネルギーが減衰し始め、プラネイトディフェンサーもろともNPDリーオーを斬り裂くと言う攻撃が出来なくなったガンダムデスレイザーは、ビームシザースの柄尻でNPDリーオーのアイカメラを突き破り、怯んだところを足蹴にして押し倒し、その柄尻を突き立ててコクピットに当たる部位を潰す。

 それでどうにかNPDリーオーを撃墜しても、またしても次のNPDリーオー部隊がダブルガトリングガンを撃ちまくりながら迫り来る。

 

「……一休みくらいさせなさいよっ」

 

 アクティブクロークを閉じてダブルガトリングガンの銃弾から機体を守るガンダムデスレイザー。

 ダブルガトリングガンだけでなく、ミサイルランチャーまで一斉射してくるNPDリーオー。

 さすがにこれをアクティブクロークで全て受けるのは危険かもしれない。

 そう判断したサッキーは、頭部のバルカン砲でミサイルを迎撃しつつ後退していく。

 しかし全弾撃ち落とすことは出来ず、残った十数のミサイルがガンダムデスレイザーに襲いかかるーー

 

 その寸前、ガンダムデスレイザーの後ろからもミサイルの群れが飛び出し、それらはガンダムデスレイザーの目の前で爆発、その爆風がNPDリーオーからのミサイルを誘爆させていく。

 

「えっ、何っ?」

 

「下がれ!ここは任せろ!」

 

 すると、ガンダムデスレイザーを守るようにブルーディスティニー、ブレイズザクファントム、ウイングガンダム、ガンダムデュナメスが躍り出る。

 

「無事だね、サッキーさん」

 

 最後に現れたのは、モノトーンのゲイレール。

 ナオエの機体と、フラワーズ二軍のメンバー達だ。

 

「ナオエさんっ、助けに来てくれたんですか!」

 

「ちょいとばかり遅れてしまったけど、まぁそこは許してほしい。……後30分だけでいい。それまで堪えれば、この戦いも"終わる"」

 

「"終わる"?」

 

 希望的観測ではなく、確定事項かのようなナオエの物言いに、サッキーは疑問符を浮かべる。

 直後、二軍メンバー達とは逆サイドにも爆発や砂煙が巻き起こった。

 

 立ち昇った砂煙を切り裂きながら姿を見せるは、灰色を帯びた白い装甲に、赤い装飾が彩る、ガンダムフレームの機体。

 右手に握ったメイスを振り下ろし、NPDリーオーを地面に陥没させてみせたその機体は、『ガンダム端白星』

 

「んー、ルプスよりもこっちの方がいいねぇ……」

 

 そのガンダム端白星の近くに立ち、四丁のライフルを撃ちまくるのはガンダムグシオンリベイクフルシティ。

 

「親父、そのガンダム使うの初めてなんだろ?あんまり無理するなよ」

 

「無理はしないさ、無茶はするがな」

 

 突如、白灰色と焦げ茶色のガンダムフレーム二機の間を猛スピードでオレンジ色のケンプファー『ファストゥス』が駆け抜けて行った。

 

「一年ぶりの祭りだ……派手に行こうじゃねぇの!」

 

 祭装束を纏った男ーーレンジは、両手のスピニングブラスターのガトリングガンを乱射し、銃弾のスコールがNPDリーオーに降りかかるものの、すぐさまプラネイトディフェンサーを展開して銃弾を防ぐ。

 だが、そこで足を止めてしまったのが判断ミスであった。

 不意に、NPDリーオーの足元に潜り込んでいたらしいファンネルから多数のビームが放たれ、ファストゥスに注意を向けていたNPDリーオーの群れは慌てたように鑪を踏む。

 瞬間、ワイヤーに繋がれた三本の鉤爪の生えた腕がNPDリーオーを囲み、そのままクローの切っ先が突き刺し、メガ粒子砲が機体を焼き切る。

 

「どれだけ性能を高めて数を揃えようとも、やはりお人形。取るに足りせんわね」

 

 シスターの僧服を纏う女性ーーミスズは、前線へ突撃しに行くレンジを追い、その後をV2アサルトバスターガンダムと百錬も続く。

 

「フラワーズも来てくれたか」

 

 その様子を一瞥しながら、サヤのゼータプラスラファーガはWR形態へ変形し、NPDリーオー部隊の弾幕へ飛び込みながらも、反撃にビームライフルとビームカノンを撃ち返していく。

 

 ゼータプラスラファーガからのビーム射撃に重火器を焼き切られたNPDリーオー部隊は慌てたように後退しようとするが、

 

「これなら、何とか巻き返せそうです、ねっ!」

 

 そこへミーシャのガンダムアスクレプオスシャードが飛び込み、シザーブレードを抜刀、NPDリーオーの一機を"挟み込む"と、膂力に任せてそのまま真っ二つに断ち斬ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 極東ベースの外れで、コーダイのキャノパルドはメンテナンスハンガーに納められていた。

 だが、装甲の修復、及び推進剤と弾薬の補給が完了するや否や、コーダイはすぐさまコクピットに飛び乗った。

 

「待ってろよみんな、すぐ行くからなっ」

 

 機体の再起動完了、ビームライフルを手に取ると、キャノパルドはフットローラーを駆動させて戦場へ戻ろうと急ぐ。

 

 しかし、その行く手を阻まんとするのか、NPDリーオーの中隊がフォーメーションを組んで現れた。

 

「ちっ、邪魔が入ったな……!」

 

 舌打ちしながらも、指先はウェポンセレクターを回しており、ビームライフルと肩部キャノン砲を選択しーー

 

 同時に新たな反応が別方向から接近してくる。

 さすがにキツいか、とコーダイはその方向を一瞥する。

 

 その新たな反応は、反乱軍のNPDリーオーとは異なる、『黒いNPDリーオー』が九機ほどと、黒銀に塗装されたトールギスの改造機。

 

「フン……私のプログラミングをコピーしたようだが、果たしてそれはオリジナルを相手に勝てるものかな?」

 

 黒銀のトールギスーートールギスコンダクターを駆る獣人、フルメタルシェパードはプログラミングを打ち込み、自身のMD達に命令を与える。

 

「所詮は猿真似だ、格の違いを見せてやろう!」

 

 黒のMD達はフォーメーションを組みながらーーそれでいて生身のダイバーによる操縦と遜色ない有機的な動きを見せながら、数で勝る反乱軍のNPDリーオーを圧倒していく。

 

「ありがてぇ、助かった!」

 

 その光景を目にするコーダイは、フルメタルシェパードに礼の通信を入れつつ、先を急いだ。

 

 

 

 

 

 トーシローが率いていたNPDリーオーを撃破した、ステラとヤイコは、その場所から移動しながら通信を交わしていた。

 

「このまま絶対防衛ラインへ?」

 

 ヤイコの目的を聞いたステラは、次の目的地を問い掛けて、上記の答えが返って来た。

 

「おぅ、運営の奴さん達は、連中のニュータイプ部隊とか言うのを相手にへっぴり腰になってるそうだ。だから、アタシらで食い止めろってな」

 

「話は分かりますが……」

 

 最後に別れてから、兄ーーハバキリの動向が分からないのだ。 

 撃墜はまだされていないため、どこかで戦っているようだが、それでも不安なものは不安だ。

 

 すると、自分達に向かってくる反応が複数。

 また敵か、とノーベルガンダムを構えさせるステラだが、ヤイコの砕鎖裏守がそれを制する。

 

「待ちな嬢ちゃん、アレはお仲間だ」

 

 上空から降下してくるのは、トリコロールのリボーンズガンダムを先頭に、ガラッゾ、ガッデス、ガルムガンダムと言ったイノベイド系の機体達と、先程にコーダイのキャノパルドをメンテナンスハンガーへ送り届けた、ハルナの麗桜姫頑駄無。

 その中で、ガデッサの改造機ーーメガデッサが通信を繋いでくる。

 薄紫色の髪を持った中性的な容姿のダイバー、ミツキだ。

 

「ヤイコ、ご無事のようですね?」

 

「よぅミツキ、アタシなら余裕だ。こっちは今から絶対防衛ラインに向かうところだが、そっちはどうだ」

 

「こちらは、第二防衛ラインからの後詰め部隊を先んじて迎撃するつもりです」

 

 二人の通信内容を聞く中で、ステラはミツキと言う名前に聞き覚えがあることを思い出す。

 確かーーハバキリやコーダイの口から聞いた、そのような名前のダイバーがいるのかと。

 しかし今はヤイコに従って絶対防衛ラインに向かうべきか。

 数巡の後、ステラは意を決して通信に割り込んだ。

 

「すみません、ミツキさん、ですか?」

 

「はい、私がミツキです。あなたは?」

 

 突然割り込まれたにも関わらず、ミツキは嫌な顔ひとつせずに受け答える。

 

「ステラと言います。ミツキさんは、私の兄……ハバキリはご存知ですよね?」

 

「存じ上げていますが……あぁ、ハバキリの妹というのは、あなたのことでしたか」

 

 ミツキの方も、『ハバキリには妹がいる』程度には知っていたらしい。

 

「それなら、兄さんが今どこで、何と戦っているのか知っていますか?」

 

「……パトゥーリアの撃墜を確認してからの足取りが分かりません、恐らくその近くだとは思いますが」

 

 パトゥーリア……ジルが乗っていると思われる巨大な機体のことだ。それが撃墜されたと言うことは、既に作戦の成否が決定していると言うことだ。

 ジルの救出に成功したから破壊したのか、あるいは……

 

 その先は考えないようにして、ステラは頷いた。

 

「分かりました……ごめんなさいヤイコさん。私、兄さんを捜しに行きます」

 

 通信の先をヤイコに切り替え、ステラは小さく頭を下げた。

 

「おぅ、行ってこい行ってこい。妹が心配じゃねぇ兄弟がいるわきゃねぇんだ、その逆があってもいいだろ」

 

 自分にも三つ下の妹がいるヤイコにとって、ステラの気持ちは理解出来るものだった。

 故に、止めはしない。

 

「ありがとうございます。……行きます!」

 

 ステラはノーベルガンダムを加速させて、その場から飛び立つ。

 

「あの子だけじゃちょっと不安かもだし、わたしが付いていくね」

 

 そのあとすぐに、ハルナの麗桜姫頑駄無も続いた。

 

 

 

 

 

 ハバキリとは逆サイドから、セアのフルドレスフリーダムガンダムは、味方機の反応を探していた。

 時折襲い掛かってくるNPDリーオーをラケルタ・ビームサーベルで斬り倒しながら、極東ベースの本部近くにまで戻って来る。

 戦場を俯瞰してみると、GBNガードフレーム達は一箇所に戦力を集中して反乱軍を迎撃しているようだが、量産型キュベレイ部隊のファンネルやアクティブカノンによる攻撃に手も足も出せていない。

 

 しかしーー正規軍の動きがどこかおかしいことにも気付く。

 

「(形勢不利だと分かってるはずなのに、どうして動かないの?)」

 

 そう、まるで量産型キュベレイやNPDリーオー達を、自分達と同じ場所に誘き寄せているように……

 セアは事態を読み取りーーすぐに答えは導き出される。

 

「さっきのあの大型ビーム砲……まさかっ、味方もろとも撃つつもりなの!?」

 

 確かに、反乱軍のニュータイプ部隊を止めるには、あの大型ビーム砲ーーメギドフレイムーーで一息に薙ぎ払う他に手段は無いかもしれない。

 普通ならば、味方部隊が射線上から離れるのを確認してから放つはずだろうが、敵の目の前で不自然な挙動を見せれば、当然敵の方も警戒してその場から離れてしまうだろう。

 

 で、あれば。

 "そうするしかない"。

 

 そしてその射線上に、オペレーション・インテンションに参加した誰かがいたらーー

 

「撃たせない……ッ!!」

 

 セアはアームレイカーを押し出してフルドレスフリーダムガンダムを加速させて、極東ベース本部へ向かう。

 

 

 

 

 

『メギドフレイム、修復率90%に到達。発射は可能であるとのこと』

 

 オペレーターからの報告を聞き、ゲームマスターはすぐに指示を飛ばした。

 

「メギドフレイムのチャージを開始しろ」

 

『……司令、ガードフレーム部隊への通達は、本当によろしいので?』

 

 先程にも不審に思ったオペレーターが再確認するように問い掛けて来た。

 

「己を犠牲にして任務を達成出来れば、彼らとて本望だ……と言うのは詭弁だろう。我々には、守らねばならんものがあると言うことを忘れるな。……そして、そのためには犠牲を払うことを躊躇ってはならん」

 

『……了解。メギドフレイム、チャージ開始』

 

 メギドフレイムを表すモニターに、エネルギーチャージの%率が高まっていく。

 

 2%……8%……15%……

 

 すると、不意にアラートが鳴り響いた。

 

「何事だ!」

 

『め、メギドフレイムの砲口内部に所属不明機が一機、侵入した模様!』

 

 モニターの拡大図には、所属不明機を表す黄色のマーカーが侵入したと告げている。

 

「チャージは!?」

 

『51%です!』

 

 泡を喰ったように指示を飛ばすゲームマスター。

 

「撃て!フルパワーでなくとも構わん、砲口内にいるアンノウンを排除出来れば良い!」

 

『ハッ、メギドフレイム、発射シークエンスへ移行します』

 

 

 

 

 

 セアの目の前に見える、巨大な筒状物体。

 これこそが大型ビーム砲ーーメギドフレイムーーの本体だ。

 フルドレスフリーダムガンダムはその砲口の内部へ侵入していく。

 

 砲口内部には何百本と言うシリンダーが立てられ、それらは忙しなく朱光を点滅させている。

 だが、この砲口内部全体が眩い光に包まれつつある。

 

「撃たれる!?」

 

 一瞬、ここから離脱することを脳裏に過ぎらせたセアだが、今に撃たれるかわからないこの状況では、もう後戻りも出来ないだろう。

 

 破壊して止めるか、ここで蒸発するか。

 

 セアはすぐさまウェポンセレクターを開き、フルドレスフリーダムガンダムは両手の高エネルギービームライフルを重ねるように連結させ、バラエーナとナルカミも展開しーー

 

「止まってぇぇぇぇぇェェェェェーーーーーッ!!」

 

 広範囲ではなく、一点突破を前提としたフルドレスバーストアタックが撃ち放たれた。

 眩い光の中へ、五つの火線が飛び込みーー爆発。

 

「…………止まった?」

 

 ーー否、シリンダーの朱光の点滅は止まっていない。

 

「まだっ……!?」

 

 シリンダーの点滅が早まると同時に、セアのコンソールが、正面からの高エネルギー体に対するアラートが鳴り響く。

 

 撃たれる。

 

 半ばそう確信しかけたセアだが、その彼女のフルドレスフリーダムガンダムの背後から、何者かのガンプラが現れる。

 

「いーや、よくやった!」

 

 それは、大剣を両手に構えた漆黒のダブルオーガンダムーーガンダムダブルオーカイザー。

 黒翼をはためかせ、フルドレスフリーダムガンダムの前に立つ。

 

 大剣ーーバスタービームソードを一回、二回と振り回し、見事なサンライズパースを決めると、『メギドフレイムの砲口の中だと言うのに、いきなり暗雲が立ち込めて落雷が発生』し、落雷がバスタービームソードの刀身に打たれ、ビーム刃が暴れ狂い膨れ上がっていく。

 

「トゥウオォォォォォルフゥァンマァァァァァッ、ブウゥゥゥルエェイクアァァァァァーーーーーッッッッッ!!!!!」

 

 バスタービームソードの切っ先が突き出され、先程に何故か発生した落雷の何百倍にも相当する、凄まじい爆雷が叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 直後、極東ベースの司令部を激震が襲い掛かった。

 

「むっ……何が起こった!?」

 

 ゲームマスターの声に、オペレーターはすぐに報告しようとした。

 

『メ、メギドフレイム内部に……何?落雷が発生?落雷が発生し、メギドフレイムが大破した模様!』

 

「バカなことを言うな!砲口の中で落雷が発生するものか!」

 

 しかし現実問題、そんな「バカなこと」は確かに発生し、それは切り札たるメギドフレイムが破壊されたと言う結果を齎していた。

 

『メギドフレイムは修復不可能であるとのこと!』

 

「おのれ……どこのバカか知らんが、余計なことを……!」

 

 これでは敵ニュータイプ部隊の撃破が困難になってしまう。

 

「ふむ……抑止力のためだと言う理由で黙認はしたが、やはり欠陥品だったか」

 

 不意に、ゲームマスターの背後から声が届く。

 その場にいた全員が声に振り向きーーガンダイバーのアバターのダイバーを見て驚愕する。

 

「なっ、あなたは……『カツラギ』氏では!?何故ここに……」

 

 反乱軍の総大将が何故、とゲームマスターは動揺するが、ガンダイバーは右手を押し出して「待て」と制する。

 

 

 

「突然ですまない。だが、まずは私からひとつ言わせてほしい。件の『反乱軍総大将であるカツラギは、"なりすまし"だ』」

 

 

 

「『『『『!?!?!?』』』』」

 

 どういうことだ、と司令部に驚愕と困惑が渦巻いた。

 

 

 

 

 

 トールハンマーブレイカーなる必殺技により、メギドフレイムの破壊に成功したフルドレスフリーダムガンダムとガンダムダブルオーカイザーは、連鎖爆発の中を潜り抜けて砲口内部から脱出した。

 

「お前さんが攻撃したおかげで、あのクソデケぇビーム砲は一瞬とは言え止まって、俺が間に合ったんだ。礼を言わせてくれや」

 

 ガンダムダブルオーカイザーのダイバー、カイドウはセアに礼を言った。

 

「い、いえ、そんな……(私、あそこで攻撃した意味あったのかな……?)」

 

 果たして、セアの放ったフルドレスバーストアタックは貢献したことになるのだろうか。

 今ひとつそれが分からないままに外へ飛び出た二機に、GBNガードフレームの大軍がこぞって待ち構えていた。

 

「チッ、手前の邪魔したんだから当然っちゃ当然か」

 

 カイドウは舌打ちしつつ、ガンダムダブルオーカイザーにバスタービームソードを構え直させ、セアもフルドレスフリーダムガンダムに臨戦態勢を整えさせるが、

 

「待ってください、カイドウ先生」

 

 彼を制止させる声が通信に届くと、赤と黒のマスラオーーツルギのマスラオヴレイブレイズが降り立った。

 

「おぅどうしたツルギ、俺の心配はしねぇでいいぞ」

 

「先生は今さっき必殺技を使って消耗してるでしょう。……たまには、教え子の出番も取っといてくださいよ」

 

 フルドレスフリーダムガンダムとガンダムダブルオーカイザーの前に立つと、マスラオヴレイブレイズは一対のGNビームサーベル『ヘブンズ』と『クラウド』を抜き放って構えた。

 

「そうか。なら、任せるぜ」

 

 それだけ頷くと、カイドウのガンダムダブルオーカイザーは踵を返してこの場から飛び去った。

 

「あんたもここはいいぞ。俺に任せていい」

 

 ツルギはセアにも離脱するように諭すが、彼女は首を横に振った。

 

「私も戦います。援護くらいなら出来るつもりです」

 

「なら、好きにするんだな。……トランザム!!」

 

 マスラオヴレイブレイズは圧縮粒子を全面に解放し、眩い真紅色に輝きながらもGBNガードフレーム部隊へ突撃、遅れながらもセアのフルドレスフリーダムガンダムも続いた。

 

 

 

 

 

 オーストラリア・サーバー、アデレートからも、正規軍は極東ベースへの援軍に向かっていた。

 場所の遠さ故に連絡も遅れていたのだが、どうにか"明らかに遅すぎる援軍"と言うことにはならずに済んだようだ。

 サーバーゲートを通過し、極東ベースエリアに着陸、まずは本部へ向かうぞと言う時、

 

 突如、GBNガードフレームの大軍の横腹を突き破るかのような攻撃が発生した。

 何事かとそちらへ目を向けるGBNガードフレーム達。

 

 そこにいたのは、A.B.Cマントを纏った一機のSDのクロスボーンガンダムX1。

 

「惑星エルドラはGBNからログインしているにも関わらず怪我を負う……つまり!エルドラでアレをすればGBN上であるにもすればみ〜ちゃんの子どもを作ることがデキると言うことではないか!?やばいぞ!さすが私!天才か!?いやっ!天才だ!エルドラ万歳!エルドラ万歳!グッへへへへへッ!さぁみ〜ちゃんを見つけ出して一刻も早くエルドラに行かねば!み〜ちゃんの可愛らしさを保っていられる時間は残りわずかしかない!み〜ちゃんが完全なる神である内に私の胎に神の遺伝子を残さなければ!えぇぃ邪魔だブタどもが!誰か貴様ら虫ケラどもに私と言うま〜しゃ姉の行く手を阻んで良いとの許しを得たのだ!よいか阿呆ども!貴様らは私とみ〜ちゃんのドラマティックさを演出させるための役者!黒子!使い捨ての消耗品に過ぎんのだよ!私が死ねと言えば死なねばならんのだ!さぁ死ね!私がみ〜ちゃんに尊敬されるためのダイバーポイントの稼ぎに!家畜に!食い物に!なれ!私とみ〜ちゃん!み〜ちゃんと私のカップリングタグ『み〜マホ』を世界に認めさせるための!ゴミクズ以下のクダルに!成 り 下 が れ !!」

 

 手にしたビームザンバーに、内蔵物のようなどぎついピンク色の妖光が纏われ、振り降ろされた。

 

「み〜ちゃんみ〜ちゃんみ〜ちゃんみ〜ちゃんみ〜ちゃんみ〜ちゃんみ〜ちゃんみ〜ちゃんみ〜ちゃんみ〜ちゃん生後1秒後のみ〜ちゃん生後三ヶ月のみ〜ちゃん生後半年のみ〜ちゃん一歳のみ〜ちゃん三歳のみ〜ちゃん幼稚園年少のみ〜ちゃん幼稚園年長のみ〜ちゃん小学校低学年のみ〜ちゃん小学校高学年のみ〜ちゃん中学一年生のみ〜ちゃん中学二年生のみ〜ちゃああああああああああダメだダメだダメだダメだダメだそれ以上それ以上成長してはダメだ可愛くなくなってしまうやめてくれ!私に死ねというのですかいやいやいやみ〜ちゃんに死ねと言われたならすぐにでも死ぬ準備は14年前から既に出来ているがみ〜ちゃんが可愛くなくなってしまったら私は己の存在意義を失うことになるみ〜ちゃんの可愛らしさがそれだけが私の全てなんだよそれを奪うと言うことがどれだけの大罪であるか分からぬわけがあるまい許されるわけがないだろう罪を償え今すぐに!!!!!」

 

 たったその一振りで、その周辺にいたGBNガードフレーム部隊は"消滅"した。

 

「クンカクンカスーハースーハー……あっちからみ〜ちゃんの匂いがする!?そうかそうか!そこにいたんだねみ〜ちゃん!今いくよ!!」

 

 敵部隊の消滅など意に介することなく、クロスボーンガンダムX1は不意に明後日の方に向き直ると、その場から"消えた"。

 

 

 

 

 

『何故だ……?』

 

 GBN―ベースガンダムと言う機体は、外観こそRX-78-2に酷似しているが、実際は『機動戦士ガンダム』シリーズには存在しない、GBNオリジナルのデータだ。

 その装甲は『ゲインアーマー』と言う特殊なものが用いられており、それは『相手からの攻撃に応じて瞬時にその性質を変化させる』と言うもの。

 例えば、相手からビーム弾が飛んてくれば、即座に装甲表面には耐ビームコーティングが塗布され、さらにIフィールドバリアも展開される。

 実弾が飛んでくれば、データは上書きされてVPS装甲に切り替わり、さらにはニュートロンジャマーキャンセラーの起動によって電力ーーエネルギーへの問題も解決される。

 

『何故だ……』

 

 極めつけは、ビームマグナム級の威力のビームライフルに、超高出力のビームサーベルまで備えた、理不尽の権化とも言える機体。

 

 だと、言うのに。

 

『何故だ……!?』

 

 それを駆るガンダイバーは、眼前に見える事態を受け入れられそうになかった。

 

 青き狂戦士たる、シュツルムジンライ。

 白き聖騎士たる、ジャッジムメント。

 

 多少腕に覚えのあるダイバー二人など、すぐにケリが着くと高を括っていた。

 しかし、現実ではどうだ? 

 

 まるで見えない糸に繋がっているかのような、完璧なコンビネーション。

 前衛と後衛が変幻自在に入れ替わり、攻防共に付け入れられない。

 対する自身にはダメージこそほとんど入らないが、確実に被弾している。

 このGBNにおいて絶対的な機体であるGBN―ベースガンダムを使用しているのに、

 

『何故、倒せんのだ!?』

 

 何故だ何故だと喚くばかりだった。

 

 

 

 半ば薄れゆく意識の中で、ハバキリはコンソールを叩き、機体の状況を確かめる。

 さすがはコーダイと綿密に相談した末に完成されたシュツルムジンライだ、まだ機体が保ってくれている。

 だが、問題だらけだ。

 

「(推進剤は残り11%、ビームカービンはあと二発しか残ってねー。ついでに言えばシースザンバーも限界か)」

 

 ハバキリはウェポンセレクターを打ち込み、シースザンバーのロックを外し、その鞘の中から斬鋼刀を抜刀した。

 

「ハバキリ、まだ行けるか?」

 

 トーシローからの通信も、聞こえてはいるがそれもどこか朧げだ。

 

「……もーなんも残ってねーな。辛うじて"コイツ"が使えるかどーかってとこだな」

 

 トントン、と斬鋼刀の峰で肩を叩いて見せるシュツルムジンライ。

 生唾を飲み込み、腹を据える。

 ハバキリの目的は、急所を狙った一発勝負の一点突破。

 しかしあの機体の装甲は未知数、ビームライフルは通らない、ビームサーベルもダメージが低い、実弾は跳ね返され、物理打撃も効果が薄いと来たものだ、随分とデタラメな性能をしているらしい。

 だが、他に打開策が無いのならやるしかない。

 否、やるしかないのではない。

 0.001%でも勝機があるなら、それを全力で手繰り寄せ、貫き通す。

 

「……"仕掛ける"。合わせろ」

 

「了解」

 

 短いやり取りだが、たったその二言だけでハバキリとトーシローは互いの役目を理解する。

 が、

 

『少し待ちたまえ』

  

 グッ、と脚を踏み込むーー寸前、何者かの通信が割り込んだ。

 

『こちら、極東ベース司令部、元ゲームマスターのカツラギだ』

 

 発信源は、まさしく極東ベースの司令部から。

 その音声が流れた途端、GBN―ベースガンダムから動揺したような声が届く。

 

『な……何を言うかっ!?私こそがカツラギだ!なりすましたつもりかっ!?』

 

『さて、"私に"なりすましているのはどちらだろうな』

 

 カツラギ同士(?)による通信は、当然ハバキリとトーシローにも聞こえている。

 

「……おいトーシロー、どゆこったこりゃ」

 

「どうやら……僕が今までカツラギ氏だと思っていたガンダイバーは、"偽物"だったらしいな?」

 

「何で疑問形なんだよ」

 

 落ち着きを払い、悠然と構えるガンダイバーと、声が震え、慌てたように饒舌になるガンダイバー。

 どちらが"元ゲームマスターらしい"のか、一目瞭然とも言える構図だ。

 司令部にいる方のガンダイバーが話を切り出した。

 

『では、ひとつ問おう。貴様は"マスターコード"と言うものをご存知か?』

 

『な……何だそれは?そんなものは聞いたことがないな、私の知らないことを並べて立てて、自分のほうが上位だとでも言うつもりか?』

 

『そうか、知らないのだな。では、今ここで実践して見せよう』

 

 パチン、と司令部にいるガンダイバーがマニピュレーターを鳴らした。

 

 不意に、GBN―ベースガンダムの赤いボディが見る内に黒灰色に染められていく。

 

『なにっ、VPS装甲が……パワーダウンだと!?』

 

 コクピットにいるガンダイバーは慌ててコンソールを叩き、耐ビームコーティングの装甲とIフィールドバリアに切り替えようとするが、ゲインアーマーの設定切替がブロックされていることに気付く。

 それだけではない、コクピット内にいるガンダイバーの姿が、いきなりゲストアバター姿の『ハロ』に切り替えられる。

 

『お分かりかね?マスターコードは、私を含む開発に直接携わった者の中でも、指折りの人数しか知らない。やろうと思えば、今すぐ貴様をGBNからつまみ出し、アカウントを削除してやってもいい』

 

『なっ、な、な……』

 

『『私に濡れ衣を着せて動きを拘束させ、その隙にハッキングして私のアカウントを複製、盗用する』……見事と言いたいが、違うな』

 

 化けの皮が剥がされた。

 どちらが"なりすまし'か、これで確定だ。

 

『……だが、私とてそこまで鬼になるつもりはない。本当に現運営陣に反乱を起こし、メスを入れる必要があったのなら、カツラギの名前と、ガンダイバーのアバターなど、好きに使えば良い』

 

 だが、と目を細める"本物の"ガンダイバー。

 

『ここは、"ガンプラバトル"・ネクサスオンライン。選択を決めるのは、いちプレイヤーの声ではない。ならば、その意思の押し通し方は知っているだろう?』

 

 もう一度指を打ち鳴らすと、GBN―ベースガンダムの装甲がサーモンピンクに近い赤色に切り替わる。

 しかし、この装甲に耐ビームコーティングはなく、Iフィールドバリアもなけれは、VPS装甲もナノラミネートアーマーもない、ただのルナ・チタニウム合金の装甲だ。

 軽量で頑丈ではあるが、絶対無敵ではない。

 

『勝ち取ってみせろ。以上だ』

 

 司令部からの通信が切られた。

 それを皮切りに、ハバキリは回線をオープンに切り替え、とりあえず挨拶代わりに挑発した。

 

「おい"パチモン"。化けの皮剥がされてフル・フロンタルにされた気分はどーだパチモン。全世界にてめーの醜態が公開中だぞパチモン。だからてめーはパチモンなんだよ。分かったか、"ゲームマスターの出来損ない"」

 

『ぬ、ぐ、ぅ……ッ』

 

「出来損ない」呼ばわりされ、GBN―ベースガンダムの中にいるハロはその丸い機体を震わせている。

 だが、すぐにそのフレキシブルアームから伸びたマニピュレーターでアームレイカーを握り直す。

 

『やってやる……やってやるぞ!ここで"俺"が勝てば!GBNなんて"パチモン"を廃止にして、もう一度『GPデュエル』を復活させることが出来るんだ!』

 

 GBN―ベースガンダムは徐にビームライフルを構えてトリガーを引き絞った。

 ビームマグナム級ではないが、十分に高い出力のビームがハバキリとトーシローに襲い掛かってくるが、

 

「ハバキリ!」

 

「オーライ!」

 

 示し合わせたかのように、シュツルムジンライとジャッジムメントが散開、その二機の間をビームが通り抜けた。

 シュツルムジンライは残り僅かの推進剤を全力で使い切る勢いでGBN―ベースガンダムの背後へ回り込み、ジャッジムメントはシールドで身を守りつつビームライフルで牽制する。

 対するGBN―ベースガンダムも、ガンダイバーから指定された機動性を駆使してビームを避けてはシールドで防ぐ。

 どうやら、元はGPデュエルのプレイヤーらしく、素の実力は相応にあるようだ。

 だが、いくら操作系統がほぼ同じとはいえ、それはあくまでも『GPデュエルでの実力』であって、『GBNの中で培われたものではない』

 

「であれば!」

 

 トーシローはウェポンセレクターを開き、左右のビームライフルのコマンドを切り替えてから再び波状射撃を仕掛ける。

 銃口から放たれるのは、ビームマシンガンのようなビーム弾の連射だ。

 そして、そのビーム弾が狙っているのはコクピットではなく、四肢の関節や頭部。

 

『くっ!?』

 

 GBN―ベースガンダムはすぐにシールドで機体の前面を隠して身を守る。

 

 GPデュエルはGBNとは異なり、実物のガンプラを動かして戦わせ、その際に負ったダメージは『ガンプラの破損がそのまま実物にも反映される』と言うもの……つまり、バトルが終わっても、壊れたままの状態で返ってくると言うものだ。

 そのため、大半のGPデュエルプレイヤーは反射的に被弾することを恐れ、『相手を倒す』ことよりも『自機がダメージを負わない』ことを優先するケースが多く、攻防一体の武器や、装甲を分厚くすると言った防御的な工夫を凝らしている。

 一部のプレイヤーの中では『防御力は最低限に留め、攻撃に特化する』と言う"殺られる前に殺る"スタンスのものもいるが、これによってGPデュエルでは耐ビームコーティングによる防御力の強化が重点される=必須条件のひとつとして数えられる。

 

 トーシローはこれを逆手に取り、『相手を倒す』ことよりも『敵機に確実にダメージを与える』ことを優先した。

 例え一撃が弱くとも、脆い可動部などに当たれば、そこを基点にどんな二次被害が出るかわからない……そんな心理的な圧力を掛けさせているのだ。

 事実、彼の狙い通り、GBN―ベースガンダムは被弾を警戒してか、なかなかシールドの内側から機体を見せない。

 一発辺りの出力を絞っているビーム弾では、シールドに弾かれて拡散するだけで、大したダメージは与えられない。

 だが、それでいい。

『足を止めさせること』がトーシローの目的なのだから。

 

 GBN―ベースガンダムが足を止めている間に、その背後からシュツルムジンライが、斬鋼刀を構えて迫り来る。

 ジャッジムメントが囮になって注意を引きつけ、その背後へシュツルムジンライが斬り掛かると言う魂胆らしい……そう見抜いたGBN―ベースガンダムは、多少の被弾を承知で、背後を見ることなくビームライフルを放った。

 

『もらったぞ!』

 

 しかし、そう来ることはハバキリの想定の内、シュツルムジンライはそこで斬鋼刀を振るい、ビームを弾き斬る。

 そのまま斬鋼刀を振り上げ、GBN―ベースガンダムもまた左手にビームサーベルを抜いて迎え撃つ……

 

「……へっ」

 

 その寸前、ハバキリは薄く笑った。

 すると、斬鋼刀を振り下ろすはずだったシュツルムジンライは、『斬鋼刀を振り上げた姿勢のまま通過した』

 

『なっ?』

 

 迎え撃つためのビームサーベルが空振りするGBN―ベースガンダム。

 機体の不調でも起きたのか?

 そのことに一瞬とは言え、動きが硬直する。

 

 しかし、次の瞬間には硬直が驚愕に変わった。

 

「トーシローッ!」

 

「おうとも!」

 

 ジャッジムメントはシールドで身を固めてその場で踏ん張るような体勢を取った。

 シュツルムジンライは一瞬だけスラスターを切って、ジャッジムメントのシールドにフット裏を向けて、

 

 "壁キックを行った"。

 

『何ぃ!?』

 

 壁キックの跳躍と同時に、再びスラスターを加速させ、真っ直ぐに硬直するGBN―ベースガンダムへ突撃する。

 

 が、

 

 

 

「(……あっ、ダメだこれ"外した")」

 

 

 

 機体ごとぶつかるように、斬鋼刀の切っ先がGBN―ベースガンダムの"フロントスカート"を貫いた。

 

 本来なら、斬鋼刀の刃はGBN―ベースガンダムのコクピットをまともにぶち抜いていたはずたった。

 

 あとわずか、ほんの少しだけ、『シュツルムジンライの推進力が足りなかった』

 掛けていたリミッターが、こんなところで思わぬ足枷になっていたのだ。

 

 つまり、GBN―ベースガンダムはまだ"生きている"。

 

『ハハッ……残念だったな。GBNなんてヌルゲーじゃ、推進剤の管理は出来なかったみたいだな』

 

 密着した状態のまま動かないシュツルムジンライへ、逆手に持ち替えたビームサーベルを突き刺そうとする。

 

「チッ、ここで仕留められりゃ……」

 

 だが、ハバキリにはまだひとつ隠し手ーージョーカーを仕込んでいた。

 

「こんな死ぬか死にかけるかの超スーパーヤベーギャンブルに出ねーで済んだんだけどなッ!!」

 

 ビームサーベルがシュツルムジンライの装甲を焼く寸前、ハバキリはウェポンセレクターの『SP』コマンドを押し込んだ。

 

 ーー瞬間、シュツルムジンライのスラスター群が爆発を起こした。

 

 その爆発そのものが推進力となって、停止していたシュツルムジンライが突然急加速し、斬鋼刀が突き刺さったままのGBN―ベースガンダムを押し運ぶ。

 

『んなっ……!?』

 

 いきなり体当たりをされて、GBN―ベースガンダムはビームサーベルをマニピュレーターから落とし、無抵抗のままシュツルムジンライに押し込まれ、上へ上へと上昇して行く。

 

 そう。

 これこそがシュツルムジンライの『リミッター解除』である。

 その解除とは至極単純、スラスター群を自爆させ、その爆発に推進剤を引火させることだ。

 ほんの一瞬だけなら音速すらも上回る速度を叩き出せる。

 が、スラスターを全て失うためそれ以降の戦闘機動が出来なくなる。

 それ以前に、ダイバーの安全を完全無視した超加速は、それを行った瞬間、ライフを失って強制ログアウトされるのが関の山である。

 

 リミッターを解除した速度の中、ハバキリはもうほとんど意識が無かった。

 だが、無いに等しい感覚でコンソールを打ち込み、その中からスティック状のスイッチを取り出す。

 

『おいやめろ!こんなことをすれば、お前だって無事じゃ済まないぞ!?』

 

 相手のハロからそんな声が掛けられるが、ハバキリはもう聞こえていない。

 爆発に任せた超絶的な加速は、機体が耐えきれなくなっているのか、シュツルムジンライの装甲が剥がれ、砕けていく。

 

 ハバキリはもう一度コンソールを打ち、『コクピットハッチを開き』ーー雲を突き抜けるかのような上空からそのまま飛び降りた。

 

「(わりーなジンライ。オレのために、"死んでくれ")」

 

 身体が宙に放り投げられ、シュツルムジンライとGBN―ベースガンダムが遠ざかっていく。

 その光景を見送りながら、ハバキリは聞こえない自分の声で呟いた。

 

 

 

「失せろ」

 

 

 

 その一言と共にボタンを押し込むと、バラバラに空中分解していくシュツルムジンライの内側から眩い光が漏れ始めーー

 

『やっ、やめろぉぉぉぉぉ……』

 

 ーー大爆発した。

 

 

 

 シュツルムジンライ、撃墜。

 

 

 

「(あー……なんとかなったけど、こりゃオレも死ぬな)」

 

 パラシュートパックなんてものは装備していない、このまま地表に激突するのを待つだけだ。

 

「(それにこんなことまでしたって、ジルが生き還るわけでもねーし……)」

 

 あの偽のガンダイバーを殺したわけでもなく(犯罪を犯していることは世界中に知られているので社会的には死ぬだろうが)、それを為したところでデリートしてしまったジルが再生されるわけでもない、ただの自己満足。

 それでも、こうでもしなければきっとやり切れない思いがあつたことは間違いない。

 

 ふと、落下しているハバキリの元へ、ステラとノーベルガンダムと、ハルナの麗桜姫頑駄無が向かって来るのか見えた。

 

「兄さーーーーーんッ!!」

 

 ノーベルガンダムはハバキリに接近すると、コクピットハッチを開けながら彼の真下に回り込み、ステラはアームレイカーから手を離し、コクピット内に落ちてきた兄を抱き止めーー切れずに仰向けに倒れる。

 ステラの制御の手を離れたノーベルガンダムは失速していくが、麗桜姫頑駄無が機体を支え、ゆっくりと降下していく。

 

「兄さんっ、兄さんっ、しっかりしてくださいっ!」

 

 ハバキリに押し倒されたような形になったステラだが、それを意に介することなく呼び掛ける。

 

「……うるせーぞステラ、疲れてんだから寝かせろょ……」

 

「良かった……兄さんが無事で良かったぁ……!」

 

 いつも通りの兄の反応を聞いて、ステラは自分を押し倒しているハバキリの背中に手を回して抱きしめる。

 

「もうっ……なんで兄さんは無茶なことしかしないんですかっ」

 

「おー……何つったって無茶はオレの専売特許、無理はオレの十八番だからなー……」

 

 次第に、ノーベルガンダムと麗桜姫頑駄無が着陸した。

 

 

 

 ふと、聞こえるはずの戦闘の爆音が急に止まった。

 恐らく、反乱軍の総大将たるGBN―ベースガンダムが撃墜したことによって、NPDリーオー部隊は機能停止したのだろう。

 

「「「「ハバキリ(くん)ー!!」」」」

 

 ハバキリの名を呼ぶ声と共に、フルドレスフリーダムガンダム、キャノパルド、ガンダムデスレイザー、七星剣士エクシア、僅かに生き残ったオペレーション・インテンションに参加した者達が、ノーベルガンダムの元へ集まってくる。

 

 この戦いに、ようやく終幕が訪れたーーーーー

 

 

 

 

 

 ーーーーーように見えたが。

 

『ハハッ、ハハハハハッ……ホント、惜しかったな』

 

 シュツルムジンライの自爆をまともに受けたはずのGBN―ベースガンダムは、まだその機能を停止していなかった。

 極東ベースから随分遠く離れた荒れ地に倒れ込んでいたGBN―ベースガンダムは、歪みへしゃげた装甲を徐々に"自己修復"していた。

 これは、∀ガンダムやターンXなどが持つナノマシンによる自己修復機能を持った装甲ーーナノスキン装甲だ。

 全権をガンダイバーに没収されたこのハロだが、咄嗟ながら辛うじてハックに成功し、ナノスキン装甲をこの機体に組み込ませていたのだ。

 おかげでGBN―ベースガンダムは、徐々にその力を取り戻していく。

 あともう数分もすれば、完全に回復する。

 

 そんな時に突如、何者かのガンプラが接近してくることをコンソールが告げてくる。

 

『クソッ、まだ死んでないって勘付かれたか?』

 

 機体修復を中断し、機体を立ち上げるハロ。

 

 現れた機体はーーグレーと黒紫色のツートーンに塗装されたザクⅠをベースに、機体各部に"黒龍"の意匠を象った、もはやザクなのかどうかも怪しい機体。

 それは、かつて『ダークネスマスターザク』と呼ばれた機体であった。

 ひゃーっはっはっはっ、と感情を処理出来ぬゴミのような高笑いを上げながら、腕組みした状態のまま着陸した。

 

「諦めが悪いぞ、大人しく縄につけぃ」

 

 着陸すると同時に、ザクⅠーー機体銘『ザクリュウ』と言うらしい機体からの通信が届いた。

 

『はっ、誰がこんなところで降参なんざするか!GPデュエルを復活させるまで、俺は止まるわけにはいかねぇんだ!』

 

 GBN―ベースガンダムは、もう片方のビームサーベルを抜き放って対峙する。

 

「降参しないのだな。分かった」

 

 瞬間、ザクリュウはその場で腕組みをした状態のまま動くことなくーー"その姿が六機に増えた"。

 

『ハァッ!?なんだそりゃっ、チートか!?』

 

「なんだ、分身の術も知らんのか?GPデュエリストなら、ガンダムシュピーゲルの性能くらい理解出来るであろう」

 

 六機に増えたザクリュウは、それぞれが独立して動き始め、一斉にGBN―ベースガンダムへ襲い掛かる。

 ビームサーベルを振り回すGBN―ベースガンダムだが、それも瞬く間に弾き返されるとーー四方八方から殴打と蹴脚が浴びせつけられていく。

 

『なっ、ふっ、ふざけんなっ……こんなっ、こんなことが……』

 

 一際強く蹴り飛ばされ、GBN―ベースガンダムはズタボロにされて地面を転がった。

 

「さて、もう一度言おう。大人しく縄につけ」

 

『クソがぁぁぁぁぁァァァァァ!!!!!』

 

 スラスターもまともに機能しない機体で殴り掛かろうとする。

 投降に応じるつもりは無いと見てか、ザクリュウは自身の分身体を消失させると、その場で構えを取る。

 

「ならば受けてみろぃ、東西南北中央不敗ヶ究極最終奥義!」

 

 スラスターを使うことなく、自機の跳躍力だけで天高く飛び上がるザクリュウ。

 あ、そぉい!と空中でムーンサルトを決めてみせるとーー

 

 

 

「『だからお前はアホなのだ!!』ホゥォアチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャハァッチャーーーーーッ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 止まっているようにしか見えないーーしかし実際には凄まじい速度で浴びせ蹴りが放たれている。

 スタッ、とGBN―ベースガンダムの背後へ無駄に格調高く降り立つザクリュウ。

 

「俺はもう、蹴っている」

 

 その決め台詞の直後、GBN―ベースガンダムは必要以上に派手に爆発していった。

 

 GBN―ベースガンダム【キャスバル専用カラーver】、撃墜。

 

 

 

 

 

『カツラギ氏のなりすましダイバーによる反乱は、ここに鎮圧された。ガードフレーム各機は、全機帰投せよ』

 

 極東ベースの現ゲームマスターから発信された宣言により、展開していたGBNガードフレーム達は次々に帰還していく。

 

 そんな中、オペレーション・インテンションに従事していた者達は、酷く大きなショックを受けた。

 

 それは、ハバキリ本人の口から告げられた『ジルの救出失敗』の顛末。

 ジルは確かに自分の目の前で"デリート"してしまった、と。

 既にそれを知っているセアは静かに涙を流し、コーダイはその場で膝を着いて「何でだよ」と地面を何度も殴り、サッキーは帽子で顔を隠して嗚咽を漏らし、エミルはばつの悪そうに歯噛みした。

 コキュートス、元アルディナのメンバー達も、各々反応は違えど『彼らの大切な人が死んだ』ことへの悲しみや、助けられなかったことの悔しさを隠さなかった。

 ステラだけはハバキリに八つ当たりした。「どうしてジルちゃんを助けられなかったんですか」と。

 ハバキリはただ「すまん」としか言えなかった。

 

 トーシローのジャッジムメントは、その様子を遠巻きから見ていた。

 自分の本懐を為すためだったとは言え、こんな結末になるとは思わなかった。

 だが、今ここで姿を晒そうとは思わない。

 自分は今、あの中に関わってはならない、関わる資格などない。

 間接的にと言え、自分は彼女を殺したことに関与していたのだから。

 故に何もすることなく、ジャッジムメントは踵を返して飛び去った。

 

 

 

 

 

 現ゲームマスターの反乱終息宣言の直後、ある場所で一人の男が警察によって逮捕された。

 不正取引の捏造、犯罪行為の他人への押し付け、個人情報のハッキング、複製盗用、SNS混乱の誘発、etc……決して軽い犯罪ではなく、処分には時間を要した。

 匿名ではあるが今回の事件の主犯者は「自分はただ、自分の好きなことをもう一度広めたかっただけだ」と容疑を自認していた。

 

 開発陣からは、『過去のブレイクデカール事件もGPデュエルの熱狂的信者によって行われたことであり、このような事件の再発防止には、限定的ながらGPデュエルの関連商品を再販すべきではないか』と言う意見が挙げられた。

 しかし、元GPデュエルプレイヤーの中には『GBNの方が良い』と言う意見もあり、やはり二分されることとなる。

 アンケート調査と、それを元にした協議の末、『GBNとGPデュエルはそれぞれ別のコンテンツとし、GPデュエルの関連商品の一部再販決定』が可決された。

 

 しかし、彼らーーフォース・リヴェルタとその関係者は戦いには勝ったが、作戦には失敗し、それ以前に『大切なものを失った』ことに変わりはない。

 

 この事件は背後関係も含めて、後に『GM(ゲームマスター)の乱』と呼ばれるようになったが、この乱の全容を知る者は、少ないーーーーー。

 

 

 

 

 

 それから、幾日かが経った。

 フォース・リヴェルタの面々が一同に揃うことは少なくなっていた。

 理由は分かっていた。

 ジルと言う、メンバーの損失。

 彼女はもう二度と、自分達の前に現れない。

 GBNにログインする度に、「ジルを失ってしまった」と言う悲しみを思い出してしまうからだ。

 仮にログインしたとしても、ミッションを受けることも無く、ただ無為に過ごすことも増えた。

 

 そんな日々の中、セアは放課後の教室で溜息をひとつついた。

 

「はぁ……」

 

「幸せが光の速さで逃げそうな溜息だね」

 

 その彼女に声を掛けるのはカナデ。

 カナデもインターネットの配信動画を通じて『GMの乱がどうなったのか』の顛末は知っている。

 だが、ELダイバーのフレンドーージルがどうなったのかまでは分からず、セアに直接聞かなくてはならなかったが、セアの言い澱む様子見て、事を察した。

 恐らく、助けられなかったのだと。

 

 席に座ったまま動かないセアの、前の席につくカナデ。

 

「ELダイバーについて少し調べてみたんだけどね……ELダイバーって、デリートされた後は『データの海』って場所に残されるみたいで、"全く無かったことにはならない"みたいだね」

 

「……」

 

 それを知ったところで何になると言うのか。

 

「それってさ、電子の身体だけが消えるだけで、記憶とか心とかは残ってるってことだよね」

 

「どう言うこと……?」

 

「素人意見だから確証は無いんだけど。そのデリートされたELダイバーの身体を復元出来れば、その子は生き返るんじゃないかなって」

 

 一度死亡した人間は生き返らないのは、脈が止まった時点で身体機能が停止し、腐敗が始まるからだ。

 だが、ELダイバーの場合はどうか。

 単に肉体を構築しているデータが消失するだけで、記憶や感情などはそこから切り離され、GBNのデータ中枢に残される。

 つまり、記憶や感情の"器"があれば、肉体データの差異はあれど、心はそのままになるのではないかと、カナデは言うのだ。

 

「……」

 

 それを聞き取り、セアは頭脳を回転させーーーーー

 

「……あっ!」

 

 非現実的、だが一抹の望みはある、そんな妙案。

 

「何か、閃いたみたいだね」

 

「うんっ、うんっ、落ち込むにはまだ早かったみたい!ありがとカナちゃん!」

 

 こうしてはいられない、とセアは鞄を引っ掴んで教室を飛び出していく。

 彼女の中には、以前にアーモリー1で回収した、"ジルのデータ破片"のことが思い浮かんでいる。

 

 

 

 

 

 通話の着信を告げ、眼鏡を掛けたエルフ型の男性が応じる。

 

「はい、こちらELバースセンターです。……デリートされたELダイバーの再構築?それは、現状ではほぼ不可能です。膨大な中から特定のデータだけをサルベージすると言うのは……、……サルベージではない?それはどう言う……、……はい、はい。……分かりました、確約は出来ませんか、ベストを尽す所存です。それと、そのELダイバーの画像……全身が写っているものが望ましいですが……はい。……はい、確認しました、ありがとうございます。……フォース・リヴェルタの、セアさんですね。それでは、また折り返し連絡させていただきます。……はい、失礼致します」

 

 通話を終えて、エルフの男性は、近くでコンソールを相手に格闘をしている『目付きの悪い紫色のハロ』に話し掛けた。

 

「ツカサ、仕事の時間だ。今回はいつもと少し違う」

 

 コンソールの画面から視界を外さないままに、ハロは応じる。

 

「ぁん?どう言うことだコーイチ」

 

「今さっき頼まれたのはサルベージじゃなくて、『ELダイバーの電子の肉体の再構築』だ。少しばかり大掛かりなことになりそうだぞ」

 

「……詳しい説明をしろ」

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

「出来そうか?」

 

「……理論上は不可能じゃねぇ。だが、どうやっても100%完全にってのは無理だ。「どんな結果になっても文句は言うな」とだけは伝えとけ」

 

「分かった」

 

 言葉短く、二人は作業に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 12月。

 学期末の戦場ーー期末考査も乗り越え、あともうじきもすればクリスマスと言う時。

 

 ハバキリは自室で、愛機であるシュツルムジンライに手を加えていた。

 殺人的な負担をダイバーに強いることなく、本来の機動力を可能な限り追求した改良を行っているのだ。

 それも、じきに終わる頃だ。

 

「ふー……」

 

 作業が完了し、ハバキリは一息つく。

 あとはGBNで試運転をするだけだ。

 

 ふと、ダイバーギアにメッセージの着信が届く。

 発信者は、セアからだ。

 

「なーんだ」

 

 端末を手に取り、メッセージの画面を開き、その内容を目に通した。

 

「……、……テラスッ!」

 

 ハバキリはダイバーギアを持ったまま部屋を飛び出し、すぐ向かいのテラスの部屋のドアを蹴破った。

 

「ど、どうしたんですか兄さん?」

 

 ノックしなかったことを怒ろうとしたテラスだが、兄の鬼気迫るような顔を見て、それどころではないと察する。

 

「これを見ろ……っ!」

 

 ダイバーギアの画面を見せるハバキリ。

 

『もしかしたらジルちゃんが戻ってくるかもしれない』

 

 そう表示されていた。

 

 

 

 

 

 一ヶ月ぶりに、フォース・リヴェルタの面々は現実世界の方で集まっていた。

 場所は以前と同じ、シーサイドベースのガンダムベースだ。

 ハバキリ、セア、コウダイ、サツキ、メグミ、テラスの六人はこの日を今か今かと待ち侘びていた。

 

 今日は『ELダイバーの器である"モビルドール"の受け取り日』の予定日だからだ。

 

 セアが、ジルのデータの破片を手に『デリートされたELダイバーの再構築』についてELバースセンターに相談してみたところ、難しいとされながらもこれを快諾してもらえたのだ。

 折り返しの連絡を受けた際は『件のELダイバーの再構築に成功しました』とのこと。

 それが本当なら、とても喜ばしいことだ。

 

「……それにしても、まさかお前まで来るとは思ってねーぞ、トーシロー」

 

「旧友のよしみと思ってくれると助かる」

 

 ハバキリやコウダイと同じくらいの少年。

 

 彼は『シナノ・トウシロウ』、GBNで言うところの『トーシロー』である。ちょうど、GBN上では長髪であった髪を短くしたような容姿だ。

 

「まぁまぁ、いがみ合うことはねぇだろ?昔とは言え、俺達仲間だったんだからよ」

 

 二人の間を取り持つのはコウダイ。

 

 実は、『GMの乱』の後、トーシローは自らフォース・リヴェルタのフォースネストの戸を叩きに来たのだ。

 ELダイバー・ジルのことについて謝罪をさせてほしい、と。

 セアはそれを許し、サッキーとエミルは完全に納得しないながらも、過ぎたことは気にすまいとした。

 が、旧友であったハバキリとコーダイだけは少し違った。

 二人揃って「歯ぁ食い縛れ」と一言置いてから、

 

 思い切りトーシローの頬を一発ずつぶん殴った。

 

 トーシローが直接ジルを殺したわけではない。

 だが、例え結果論だとしてもそれに協力していたことに変わりはなかった。

 よって、一発ずつ殴る、と言うことでチャラにしたのだ。

 

 そして、ジルが帰ってくるかもしれないと聞いた時、コウダイはトーシローにも連絡を入れていた。

 

「せっかくの機会だ、ジルちゃんにも直接謝っとけ」と。

 

 その誘いを受けて、トーシローは『シナノ・トウシロウ』として、今日のモビルドールの受け取りに馳せ参じたと言うわけだ。

 色々とつまらない意地や蟠りはあった。だが、それも今日で全て清算したいと、トウシロウは言う。

 

 予定時刻になり、七人はガンダムベースへ入店する。

 

 

 

 受付所には、受取人としてセアが出向き、身分証明として学生証を提示し、伝票にサインを書き込む。

 そして、ちょうど1/144スケールのガンプラが納められそうな小さなケースを受け取る。

 

 受け取り完了後は、ダイブルームに入室する。

 モビルドールをGBNに接続し、ELバースセンターから送信されるデータの受信を行うためだ。

 

 ケースが開かれると、中にはクッション材に包まれた、手のひらサイズの"ジル"が眠っている。

 

「緊張するなぁ……」

 

 本当にジルと再会出来るのかと、サツキはそわそわする。

 スキャナーにモビルドールが設置され、読み込まれる。

 

 ELバースセンターとのマッチング、完了。

 

 受信を確認。

 

 ログアウト。

 

 すると、

 

「ーーーーーん、」

 

 モビルドールの"目が開いた"。

 ジルは、ここに目覚めることが出来たのだ。

 

「ジルッ!」

 

 それを見て、ハバキリが真っ先に飛び付いた。

 

「ひぅっ」

 

 飛び付いてきた彼を見て、ジルは怯えたように尻餅をついた。

 

「だ、"だれ"……?」

 

「っと悪い……オレだよ、ハバキリだよ」

 

 いきなり驚かせてしまったかと、ハバキリは少し身体を離す。

 

 

 

「……"知らない"、"誰"?」

 

 

 

「「「「「「「ッ!?」」」」」」」

 

 その場にいた全員が青褪めた。

 ジル……"彼女"は、ハバキリのことを覚えていないのか?

 つまりそれは、『自分の記憶が無い』のと同じだろう。

 

 そこで「あっ」とセアが気付いた。

 

「"完全じゃない"って、こう言うことだったの……?」

 

 セアは、ELバースセンターから注意事項を受けていた。

 元よりデータが不完全であるため、100%前と同じようにはならない、と。

 確かに"ジル"と言うELダイバーは再び生を受けることが出来た。ーー記憶を失った状態で。

 

「でもセアさん、記憶を失っているんじゃ……」

 

 メグミは声を震わせた。

 これではただ虚しいだけではないか、と。

 

 しかしーーーーー

 

「……ハバキリ、セア。なんか……懐かしい気がする」

 

 その二人の名前を聞いて、ジルは懐かしさを感じていた。

 知らないはずなのに、その名前に聞き覚えがある、と。

 

 完全に"知らなくなってしまった"のではなかったのだ。

 それなら、これから少しずつ思い出していけばいい。

 

 懐かしいと聞いて、ハバキリは涙を堪えて、そっとジルに手のひらを差し出した。

 

「……"おかえり"、ジル」

 

 彼の手を見て、ジルはじー……っと見つめて、そー……っと指先に触れた。

 

「えーっと……た、"ただいま"、ハバキリ?」

 

 ただいま。おかえり。

 

 そんなありふれたやり取りが、今はひどく愛おしかったーーーーー。

 

 

 

 

 

「ーーーーーと、言ったところだな」

 

 トラちゃんは、ようやく昔語りを終えた。

 

「ひとつ、質問いいかしら?」

 

 マイマイは問い掛けた。

 

「なんでELダイバー……ジルちゃんは記憶が無かったはずなのに、みんなのことを思い出すことが出来たの?」

 

 バーテンダーやケンさんもその辺りの顛末が知りたいようで、耳を傾けている。

 

「ふむ。ジル嬢のデータの破片は、あくまでも不完全なのであって、"全く記憶がないわけではない"。それでも思いだそうには情報不足のはずだが……」

 

 そうだな、と一言置き、ある一人のELダイバーを思い浮かべる。

 

「"誰かがジル嬢の願いを聞いて、手助けをしてやった"……と俺は考えている」

 

「分かんない話ねぇ」

 

 マイマイはお冷を傾けて一気に飲み干すと、カウンターの向こう側にグラスとコップを返す。

 

「っと……ママ、ご馳走さま。あたしそろそろ帰るわね」

 

「はーい、お疲れ様♪」

 

 バーテンダーはグラスとコップを流し台に移動させつつ、ログアウトしていくマイマイを見送る。

 

「さて、なら私もそろそろお暇するとしよう。バカ娘が帰ってこいとどやされる前にな」

 

 ケンさんも『俗物』を飲み干すと、それをバーテンダーに返却する。

 

「はいはい、1100ビルドコインよ」

 

「うむ」

 

 ケンさんは手羽を数度押し込み、コンソールから端末へ送金する。

 

「では、失礼する」

 

 送金を完了させてから、ケンさんもログアウトしていく。

 

「ふむ、すっかり長居してしまったな。俺もそろそろ帰るとするか」

 

 ワインに日本酒、コーヒー、随分と盃を傾けたものだ。

 トラちゃんはケンさんと同じようにコンソールを打ち込み、バーテンダーの端末にビルドコインを送金する。

 

「あらあら、急にみんな帰っちゃうわねぇ」

 

 お帰り寂しいわ、とバーテンダーは苦笑する。

 

「明日には、また准将からのご指示があるからな。では姐さん、ドリンクバーだ」

 

「そこは、サラダバーじゃないのね」

 

 さらばだ、と言いたいらしい。

 するとトラちゃんはその場でログアウトするのではなく、戸を開けてドアベルを鳴らしながら退店していった。

 

 

 

 夜道を歩くその最中、上空から風切り音が聞こえた。

 視界を上へ向けると、複数のガンプラが通過して行くのが見える。

 

 青灰色のジン。

 

 純白色のフリーダムガンダム。

 

 深紅色のガンキャノン。

 

 暗緑色のガンダムデスサイズヘル。

 

 SDの蒼いガンダムエクシア。

 

 色違いのノーベルガンダム。

 

 白銀のジム・クゥエル。

 

 そして、『桜色のモビルドール』

 

 その八つの機影を見送り、再び歩き出すトラちゃんーー『カゲトラ』

 

 GBNの夜は、まだまだ明けそうにない。

 

 

 

 

 

 END


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