ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション 作:さくらおにぎり
注がれたワインを口にして、トラちゃんは言葉を選んだ。
「まぁ……音沙汰が消えたと言っても、フォース・アルディナ内での活動が見られなくなっただけで、彼奴自身は細々とログインしていたらしいがな」
バーテンダーはテーブルに零れ落ちたワインの雫をサッと拭き取って頷く。
「そうねぇ。フォースを脱退して数日後には、初心者ちゃんを指導していたとも聞くわ」
「ふむ、当時のホシザキ……セア嬢のことだな」
手にしたグラスをテーブルの上に置くトラちゃん。
「あぁそうそう、セアちゃんと言えば……えーと……、確か、ステラちゃんだったかしら?あのELダイバーの」
「違う、そっちはアメノの妹君だ。ジル嬢のことを言っているのだろう?」
「あらん、ごめんなさいね」
うっかりしてたわ、とバーテンダーは苦笑する。
「ジルちゃんが、ハバキリ君に拾われて保護されたのも、ちょうどその時だったわね」
「うむ。とは言え、ELダイバーの存在自体は昨今珍しいものでもないからな。数年以内には、ELダイバーにも人権が定められ、法が適応されるようになるだとか」
「電子生命体達も、だいぶ社会に馴染んで来たわねぇ」
ふと、カランコロンと来客を告げるベルが再び鳴る。
バーテンダーが出入り口を見やれば、来店してきたのは見覚えのある顔、
否、仮面だった。
「あーら……珍しい。久しぶりじゃない?」
目元を覆う銀色のマスク。
モスグリーンのミリタリージャケット。
人間型ではない、焦げ茶色の毛並みをした、犬のシェパード型の獣人のアバター。
「半年ぶりだったな?この店も、代わり映えしていないようで何よりだ」
片耳に掛けるような形で被る軍帽を取ると、バーテンダーに軽く頭を下げる。
「ほほぅ、久しいな。こうして貴殿と顔を合わせるのは……一年前のあの戦い以来か」
トラちゃんは仮面の獣人を見てニヤリと口の端を曲げると、自分の隣の席を空けてやる。
「すまないね」
一言返してから、仮面の獣人はトラちゃんが空けてくれた席に座ると、バーテンダーに注文を頼む。
「マスター、美味いコーヒーを頼む。今日はローストを割り増しでな」
「ローストを多めにね、了解よ」
バーテンダーは頷くと、一度トラちゃんの前から離れてコーヒーメーカーに豆を注ぐ。
ガーガーとコーヒー豆が挽かれていく音をバックに、トラちゃんは仮面の獣人に話し掛ける。
「進捗はどうだ?」
「ふむ……早々上手くは集まらないものだな。やはり、SSランクと言う格が大き過ぎるのかもしれん」
この仮面の獣人は、以前までは無人機ーーMD(モビルドール)を主戦力としたフォースを率いていたのだが、今ではMDの使用を止め、現在ではフォースメンバーを募っていた。
しかし、彼自身を含む元のフォースのランクはSSランクであるため、初心者やビギナーはおろか、中堅クラスのダイバーにも敷居が高いと思われており、それよりも上の上級者は既に他のフォースに加入しているか、単独でのプレイを好むソリストや傭兵ばかりだ。
結果的に、彼のフォースは人が集まりにくいのだ。
「一度フォースを解散し、戦術予報士のように他のフォースに自分を売り込む、と言うのはどうだ?」
トラちゃんは案を挙げてみたが、仮面の獣人はその案に首を横に振った。
「私もそうしようとは思ったのだが、自分のフォースに愛着があってな……それに、せっかくここまで上げてきたランクも、そう簡単に捨てられん。恥ずかしい話だが……」
「そうか」
仮面の獣人の意見を否定も肯定もせず、ただ頷くトラちゃん。
自分の力をひけらかし、相手を見下すばかりだったこの男も、今では随分と丸くなったものだ。
自分の話などつまらないだろうと判断した仮面の獣人は、別の話題を振ることにした。
「ところで、マスターと何の話をしていたのだ?」
「うむ、姐さんを相手に昔語りを少しな。さて、どこまで話したか……そうそう、ELダ……」
そこまで言いかけたところで、トラちゃんは声を止めた。
「いやすまん、貴殿にこの話はよろしくなかった」
「ELダイバーについてか?確かにあまり良い思い出は無いが、興味はある」
気にせず話を続けてくれ、と仮面の獣人は諭す。
マスク越しでは表情は見えないが、少なくとも忌避感を覚えているわけでは無さそうだ。
「貴殿がそう言うのであれば。ELダイバーも社会に馴染み始めてきたと言う話だ」
「……しかし、良くない噂も耳に届く。ELダイバーの存在を危険視し、強引にデリートを行おうとする者が、今でも運営の中にいると」
それは、世界初の電子生命体、『サラ』の存在が全ての始まりだった。
GBN崩壊の危機へ陥れたブレイクデカールを無効化させたまでは良かった。
しかしその結果、GBNの内部深くへと干渉するようになり、今度はサラの存在そのものがGBN崩壊の危機を招くこととなってしまった。
サラに関しては、彼女の感情や記憶などの膨大な情報を、別のハードであるGPデュエルのシステムに移し替えることで解決した。
『第二次有志連合戦』以後、ELダイバーの数は急速に増加し、二年と言う時間で(確認されているだけで)87人にも及び、さらに五年が経過した時には既に100人を超えており、一部のELダイバーはサラと同じように現実世界での活動を可能な処置を施されている。
だが、現在のような派閥が形成される以前ーーちょうど一年前までは、運営の中でも特にELダイバーの存在を危険であると誤認している者が、ゲームマスターを通さず独断でELダイバーの排除を開始。
そうして数十人近いELダイバーがデリートされた頃、『ファーストELダイバー・サラ』を自称するELダイバーによる、新型ブレイクデカール『ルビスシステム』を用いてGBNの運営権のハッキング事件『ELダイバー動乱』が勃発。
これはすぐに収束したものの、この事件が残した爪痕は深く、ELダイバーのアンチ勢とも言うべきダイバーが現れ始め、結果的にGBNの治安は悪化、ユーザー人口はこの一年で百万人以上も減少した。
「デラーズ紛争からのティターンズ発足のようだ」と、古参のダイバー達は口にしていた。
「「ELダイバーはGBNにとって危険な存在だ」と、六年前の第二次有志連合戦で根付いてしまった面もある。その上から、昨年の動乱事件がトドメになったのだろう」
トラちゃんは両手を組んで両肘を突き、手の甲に顎を乗せた。
「世も末だとは、思いたくないものだな」
日曜日。
今日のハバキリの午後からの予定は、もちろんGBNだ。
夕方まではログインしているつもりだと、予めテラスには伝えておき、ハバキリは地元のガンダムベースへ向かった。
まずはコウダイと合流し、それからログインする。
ハバキリがガンダムベースに到着した時には、既に出入り口付近でコウダイが待ってくれていた。
それを見て、ハバキリは少しだけ駆け足になる。
「はえーなコーダイ。待たせたか?」
「ちょっとだけなっ。それよりっ、さっさとログインしてセアさんを待っとこうぜ!」
そのコウダイだが、何故かそわそわしている。
「コーダイ、お前なんでそんなにそわそわしてんだよ」
ハバキリが理由を訊ねれば、コウダイは興奮気味にーー否、実際に興奮しながら答えてくれた。
「そわそわしたくもなるっての!あの学園のアイドル、セアさんとGBNだなんて……ぁあー、生きてりゃいいことあるもんだなぁ!」
「あ、そー……」
訊ねるまでもない理由だった。
「超スーパーすげーどーでもいい」と吐き捨てて、ハバキリはさっさとダイブルームの使用許可を得に向かう。
「ちょっ、待って!?」
コウダイも慌ててその後を追う。
ログイン完了。
ハバキリはいつも通り長く伸ばした銀髪に、軽装の上から金属製アクセサリーをいくつも身に着けた出で立ち。
コウダイはダイバーネーム『コーダイ』としてログイン、黒髪は赤みを帯びた金髪へと変わり、タンクトップにカーゴパンツ、軍用ブーツを身に着け、腰には防刃性のジャケットを腰に巻いた、手練た傭兵を思わせる格好だ。ちなみに眼鏡はオプション。
「そー言えばコーダイ、この間に新しいガンプラ作ってるって言ってたけど、それってGBNで使うヤツか?」
ハバキリはログイン完了したのを確認してからコーダイに話し掛ける。
「まぁな。でも、その実態はお楽しみにな」
エントランスロビーに到着した二人は、ミッションカウンターの近くに移動する。
「セアさんはまだみたいだな」
コーダイはミッションカウンターの周囲を見回して見るが、あの人目を振り向かせる美少女ダイバーの姿は見えない。
「そりゃお前、13時の20分も前じゃいねーに決まってるだろーが」
ハバキリは溜息混じりにツッコミを入れる。
現在時刻、12:40。
五分や十分前の行動なら分かるが、さすがに20分前行動をする者はそういないだろう。
「なんだよハバキリ!そう言うお前だって、結局早くにガンダムベースに来てるだろうが!」
同じ穴のムジナだ、とコーダイは文句を吹っ掛けてくるが、ハバキリは真っ向から抗議で返す。
「オレはログインする前に買い物するつもりだったんだよ。オレの作品はチマチマしたパーツが多いから、マメに買い足しておかねーとすぐに無くなるんだよ。今日のプレイが終わった後で売り切れてたら困るだろーが」
「そう言うことなら先に言えよ!」
「コーダイがログインしてセアさん待っとこうぜとか抜かしだすからだろーが」
あーだこーだと言い争いになるハバキリとコーダイ。
そうこうしている内に、ログイン完了から10分近い時間が過ぎた時だった。
「ごめんなさい、待たせちゃったかな」
ミッションカウンターにセアがやって来た。
「セアさんっ」
コーダイはパッと振り返って何事も無かったかのように振る舞う。
「いえいえお気になさらずっ、俺もハバキリもついさっき来たばっかですから!」
ゴマずりでもするかのように腰を低くするコーダイ。
いくらセアの覚えを良くしたいとは言え、露骨過ぎやしないだろうか。
ハバキリはコーダイのゴマずりを遮るように、話を持ち出す。
「こんちはセアさん。早速ですけど、ミッションを受けに行きますか?」
「うん。……あ、でも、簡単なのを選んでね?」
当然ながら、セアはまだまだ初心者だ。
最下位ランクの『F』ランクのダイバーでもクリア出来るものを選ばなくてはならないが、ハバキリはいくつかアテがあった。
「その辺は大丈夫ですよ。んじゃ、受注しましょー」
ハバキリが先導していく。
ミッションカウンターの受付嬢に話し掛けて、難易度レベル1の項目を開き、数回のスワイプとタップを繰り返し、目当てのミッションを選択する。
ミッション名『オデッサの激戦』
原典作品は初代の『機動戦士ガンダム』であり、25話のサブタイトルから分かるように、ジオン公国軍によって占拠されたオデッサ鉱山基地での戦いになる。
原作設定では、地球上における一年戦争最大規模の戦いとされているが、GBNのミッションーーそれも難易度レベルの低さから見ても、初心者でも十分にクリア可能なものだ。
出現する主なエネミーは、F型やJ型のザクⅡ、グフ、ドム、MSを除けばマゼラ・アタックやドップと言った戦車、航空機、残るはダブデ級の陸戦挺やガウ攻撃空母ぐらいのもの。
敵機の数は多いものの、強さ自体は大したことはない。
『このミッションを受けますか?』と言う表示に、ハバキリは『YES』コマンドを押し込んだ。
「ミッションの受注が完了しました。作戦成功をお祈りしております」
受付嬢の営業スマイルを見流しつつ、ハバキリはフレンド交換を行っているコーダイとセアの元へ戻る。
「んじゃ、簡単にミッションの打ち合わせしますんで、『ブリーフィングルーム』に移動しますよ」
「ブリーフィングルーム?作戦会議?」
どこかに移動するのかと、セアはコンソールを開いて移動コマンドを選んでいる。
「ブリーフィングルーム、ブリーフィング……あ、これかな」
まだ数の少ない中から『Briefing room』と言う項目を見つけるセア。
それを選択しようと人差し指を伸ばそうとしたところで、
「あぁ、ここにおられましたか」
第三者の声が三人に届き、その方へ振り返る。
GBN運営の女性ダイバー、それも先日にハバキリがELダイバー保護管理局にコールした時に応対したスタッフだ。
「IDナンバー18420126、ハバキリさんですね。お時間少しよろしいでしょうか?」
どうやら、ハバキリに用があるらしい。
「少しってのが何分か知りませんけど、手短に頼みますよ」
「ありがとうございます。それで、先日より保護させていただいている、ELダイバー・ジルについての件なのですが……」
運営ダイバーは、自分の一歩後ろを見せる。
ヒョコと顔を覗かせたのはその本人、ジル。
しかし、ハバキリとセアが保護した時とは違い、傷だらけでボロボロのスモックを纏った姿ではない。
ボサボサだった桜色の髪は綺麗に整えられたショートヘアに、服装も保護管理局が用意したのだろう、白基調のワンピースに。
顔立ちの良さも合わさって、見違えるような可愛らしさだ。
「お、おいハバキリッ、誰だこの可愛……ほげっ!?」
「おい少し黙ってろ」
美少女を前にしてコーダイが興奮しかけるが、即座にハバキリが彼の脇腹を蹴り飛ばして黙らせる。
「よろしければ、彼女もミッションに同行させていただけないでしょうか?」
「ジルちゃんを、ですか?」
セアが目を丸くする隣で、ハバキリは訝しげな表情を隠さない。
「それ、何でって訊いてもいいですかね」
そう問われることは承知していたのか、運営ダイバーはジルの方を指しながらも説明を始める。
「まず、保護管理下にあるELダイバーは、セーフティーが掛けられているのはご存知でしょうか?」
「知ってます。ライフが一定値を下回るダメージを受けた際、デリートされる前に強制的に管理局に呼び戻される……ですね?」
通常のダイバーならば強制ログアウトか、もしくは最後にセーブしたポイントまで戻されるのだが、ログアウトする先のないELダイバーの場合は、そのままデリートーー死ぬことになる。
しかし、保護管理下にある者であれば、ライフが一定値を下回るとセーフティーが掛かり、強制的に保護管理局に帰還される。
これによって、管理下にあるELダイバーはデリートされる危険が激減し(保護管理局の監視の元ではあるが)GBNの中を自由に行動出来るようになったのだ。
「そうです。彼女……ジルは、ハバキリさん達と会いたいと」
運営ダイバーはジルに目配せをした。
それを見て、ジルはハバキリと目を合わせ、彼の目の前に立つ。
「こんにちは」
ぺこりとお辞儀するジル。
「はいこんにちは。自己紹介がまだだったよな、オレはハバキリ」
律儀に挨拶を返してから、ハバキリは名乗る。
「私はセアだよ」
「俺の名はコーダイ!良かったらコーちゃんでもいいからね!」
続いてセアが普通に、コーダイがテンションおかしく名乗る。
それをみて、ジルは三人を順番に確認する。
「えーっと……ハバキリ、セア、こー、こう?……こうちゃ!」
「ちょ、ジルちゃん!?俺飲み物かよ!」
紅茶呼ばわりされてコーダイは驚愕する。
普通にコーダイと名乗れば良かったものを、敢えてコーちゃん等と呼ばせようとするから勘違いされるのだ。
「アトミックバズーカで艦隊もろとも吹っ飛ばされそうな紳士だな」
「ソロモンよ、私は帰ってきた……ってそれはシャレになってねぇ!?」
ごく自然に『0083』のネタを入れるハバキリとコーダイ。
間を見計らって、ジルは再度ハバキリに話し掛ける。
「ハバキリ。わたしも一緒に行っちゃダメ?」
「…………」
そこでハバキリは、一度目を閉じて思考した。
「ハバキリくん?」
彼が何を考えているのか、セアは声を掛けようとするが、その前にコーダイが「ちょい待ってください」と遮る。
「あいつの意見が聞きたいんで、待ってもらっていいすか」
「う、うん?」
いつになく真面目に言うコーダイに、セアは気圧される。
もう数秒の時間の後に、ハバキリは目を開いた。
「…………いいぜ」
「ホント?ありがとう!」
ジルは喜んでいるようだが、そのハバキリの表情はあまり良いものではなかった。
渋々、と言うよりは、何か圧し殺したような顔。
「……」
それを見て、コーダイはハバキリの肩を掴む。
そこから、セアとジルの二人から少し離れたところで耳打ちする。
「いいのかよ?あの娘、ELダイバーなんだろ」
「……"あの時"とは状況が違う。「ELダイバーだから」なんて言い訳はしたくねーからな」
「けど、可能性だって全くのゼロパーじゃ……」
「その時はその時だ、何とかなるだろ」
「……わーったよ、しょうがねぇなぁ」
耳打ちを終えて、ハバキリとコーダイは二人の元へ戻ってくる。
ハバキリが、ジルを連れてきた運営ダイバーに向き直る。
「んじゃ、ジルはオレ達で一旦預かりますんで」
「ありがとうございます。では、よろしくお願い致します」
一礼してから、運営ダイバーはその場から移動して姿を消す。
「さて、と。改めてブリーフィングルームに移動しますよっと。ジル、分かるか?」
「……んーと、これ?」
ジルはコンソールを開いて、移動コマンドをハバキリに見せる。
「俺らは先に行っとくからなー」
それだけ告げてから、コーダイは一足先にブリーフィングルームへ移動、その後でセアも続き、もう一歩遅れてからハバキリとジルも移動する。
ブリーフィングルーム。
フォースを結成していない者がミッションを受注して格納庫から出撃する前に、モニター等を用いて綿密な作戦会議を行う時に利用される。
ハバキリとコーダイがモニターの前に立ち、残るセアとジルの二人が座席に座る。
このミッションを受けるのが前者二人だけだったなら、このような大々的にブリーフィングなどしなくとも、簡単な役割分担だけ最初に決めて、後はその場に応じて臨機応変に対応するだけで済む。元々は同じフォースに組んでいた者同士だ、戦闘中に呼吸を合わせるなど、文字通り呼吸するようなものだ。
しかし、今回は初心者であるセアもいるので、予めの打ち合わせも必要だ。
ハバキリが主導になって、ミッションの概要を説明する。
「今回のミッションは、エリアを移動しながらひたすらザコ敵を倒しまくるだけの簡単なお仕事です」
モニターに映し出されるのは、いくつかのエリアに赤く区切られた広大なマップ。その中に自軍の表示である青のマーカーが三つ。それぞれ、ハバキリ機、コーダイ機、セア機と割り振られる。
「基本は、スタート地点から道なりにエリアを順番に進んで、エリアごとに現れる敵機を順次撃破していきます」
青のマーカーがエリアに進入すると、赤のマーカーが複数現れては取り囲むが、青と赤のマーカーがぶつかると、赤のマーカーが消える。
赤のマーカーが全て消失すると、区切られているエリアが赤から青色に変わる。このエリアを制圧したと言う意味だ。
「たまーにグフカスタムみたいなエース級が現れますけど、そっちはオレかコーダイが処理します」
『Warning!!』と赤文字で表示されるのは、『グフカスタム』と呼ばれるグフの発展型。
「なので、セアさんは気にせずに思い切り戦ってください。エリアとエリアの間にも、いくつかメンテナンスポイントがあるので、そこで修復や弾薬、エネルギーの補給も出来ます」
ハバキリの説明を読み取り、セアは頷く。
「つまり……互いにフォローし合える範囲内であれば、基本的には自由に動いて構わない、ってことだね」
「さすがセアさん、理解が早くて助かります」
それだけ分かれば良し、とハバキリはモニターを消した。
「まー、細かいことは気にしなくて大丈夫です。それと、もーひとつ……」
ハバキリはジルへ目を向け、確認するように問い掛ける。
「野良のELダイバーってことは、ジルは自前のガンプラが無いんだよな」
「うん。わたし、ガンプラ持ってない」
こくりと頷くジル。
現実世界とを繋ぐ"器(ガンプラ)"を持っているELダイバーは、自分自身をGBNにスキャンすることで、自分の肉体であるガンプラにその自分が乗り込む、と言う奇妙な形で出撃することになる。
野良のELダイバー、ーーつまり現実世界との"器"の無いジルは、ここでは一個体の電子生命体でしかない。
ガンプラ同士による戦闘で、ビームや銃弾、爆風が飛び交う中、生身で立たせるわけにはいかないのだ。
「ハバキリくん。確かこの間は、ゲストモードにしてジルちゃんをコクピットに入れたよね。それ、私が引き受けるよ」
セアが挙手しながら進言した。
「ハバキリくんとコーダイくんは、特別危険な相手の対処に回るでしょう?それなら、比較的危険が少ない私のところに乗せた方がいいと思うの」
彼女の進言に、コーダイも笑いながら肯定する。
「ハバキリは特攻隊長気質だからな。一緒にいたら、コクピットの中は軽くミキサー……いや、ジェットコースターだぜ?」
「オレの操縦ってそんなに荒っぽい?まーいっか。セアさん、ジルのお守りは任せましたよ」
「うん、任されました」
セアのガンダムMk-Ⅱにジルが同乗することが決定したところで、最後にハバキリが締める。
「よし。それじゃー出撃するとしますか」
ハバキリはコンソールを呼び出し、ブリーフィングルームから格納庫へと移動、続いてコーダイも、最後にセアとジルが一緒になって移動していく。
格納庫のハンガーに並ぶのは三機のガンプラ。
その内の二つは、ハバキリのジンライとセアのガンダムMk-Ⅱ。
今回のジンライの装備は、リアスカートに懸架したシースザンバーだけではなく、本来のジンの武装であるアサルトライフル『76mm重突撃銃』二丁を両手に、実体剣の『重斬刀』を両サイドスカートに二丁装備している。
ハバキリ曰く「ザコ敵相手なら、シースザンバーよりこっちの方が楽」とのこと。
そして、もうひとつはコーダイのガンプラだ。
全身が濃い赤色に塗装され、両肩には大口径のキャノン砲が一対。
頭部のアイカメラはゴーグルのようにも見えるが、よくよく見ればその内部には複雑な内部構造が見え隠れしている。
胴体部の装甲は分厚く、キャノン砲が外付けされていることもあって、少々着太りしたような外観だ。
「お、『ガンキャノン』か」
それら特徴を目にしたハバキリは、原典作品『機動戦士ガンダム』における『V作戦』で試作されたRXナンバーの一機、ガンキャノンの名前を口にした。
「っても、脚部は別の機体のパーツ……『ガンダムレオパルド』か?」
「おぅ。ガンキャノンは足が遅いからな、一部をレオパルドのパーツに組み替えて、軽量化と陸戦での機動力の強化。っても、ペイロードにけっこう余裕があるから、武装はこれからもっと増やすつもりだぜ」
コーダイはハバキリの隣に立って自慢げに胸を張る。
「ガンキャノンとガンダムレオパルドを捩って……名付けて『キャノパルド』だ!」
「キャノパルドかー、なかなか語呂のいい機体名だな」
ハバキリとコーダイがキャノパルドを見上げている隣に、セアとジルもやって来る。
「あ、これがコーダイくんのガンプラなんだね」
セアもキャノパルドの姿を見上げる。
「どうっすかセアさん!俺のキャノパ……」
「よーし、出撃するかー」
コーダイがセアにキャノパルドを自慢しようとするが、言い終えるより先にハバキリが遮るように、コーダイの襟首を掴んでキャットウォークへ上がる。
「あっ、おいハバキリッ!ちょっとくらい自慢したっていいじゃねぇかぁぁぁぁぁァァァァァ……」
ズルズルと引き摺られていくコーダイ。
セアがその様子を苦笑しつつ見送っていると、不意にジルの口が開かれた。
彼女の視線の先には、セアのガンダムMK-Ⅱ。
「セアのガンプラ……」
「ジルちゃん?私のMK-Ⅱがどうしたの?」
何を言い出すのかと思えば……
「なんか、弱そう」
辛辣な評価だった。
「うっ……ごめんね、ハバキリくんやコーダイくんみたいな強そうなガンプラじゃなくて……」
耳の痛い評価だが、少し丁寧に組み上げられただけの無改造無塗装のガンプラだ、否定することも出来ない以上、セアはがっくりと肩を落とす。
だがジルはすぐに「でも」と言葉を紡いだ。
「あったかい。優しいのかな」
「あったかい?優しい?」
ジルの言葉に肩を落としていたセアは、今度は目を丸くする。
物を言わなければ、ただシステムに従って動くだけのガンプラに、心があるかのような言葉だ。
「うん。なんか分かる」
ジルは続いてコーダイのキャノパルドに目を向ける。
「こうちゃのガンプラは、なんかうるさい。早く早くって急かしてる」
「……出来たてのガンプラだから、早くバトルしたがってるのかな?」
セアはなんとなくながらも、ジルのことを読み取っている。
きっとジルには、他人には分からない"何か"を感じ取ることが出来るのだろう。
ELダイバーと言う存在の、全員が全員がそうではないだろうが、少なくともジルにはそのような能力を持っているようだ。
最後に、ハバキリのジンライを見上げる。
「…………」
しばらく見上げたまま、ジルは難しい表情を浮かべながら瞬きを繰り返す。
「なんだろう、「これでいいんだ」って気持ちと、「嫌だ」って気持ちがぶつかりあってて……なんか、ぐちゃぐちゃ」
「ジルちゃん……?」
セアはジンライと、それに乗り込もうとキャットウォークを渡るハバキリを見上げる。
ジルの感性は、彼の相反する二つの感情を感じ取ったらしい。
それだけではなく、情報の断片のようなーー何かが、ジルの口から流れる。
「……えるだいばー、うんえー、きょーこーは、あんちぜー、DELETE、あるでぃな、こうちゃ、……トーシロー!」
「!?」
突如、ハバキリはバッと振り返って、床にいるセアとジルを見下ろす。
「……気のせいか?」
ハバキリは小さく溜息をつくと、セアに手を振る。
「何してんですセアさん、出撃しますよー」
「あ、すぐ行くね!」
セアは、なおも難しい顔をするジルの手を取る。
「ほらジルちゃん、行こっか」
「……ん」
ジルが小さく頷くのを確認してから、セアもキャットウォークを登り、ガンダムMK-Ⅱのコクピットへと乗り込む。
「ハバキリ、ジンライ、出るッ!」
最初にハバキリのジンライがリニアカタパルトから撃ち出され、
「コーダイ、キャノパルド、行くぜ!」
次にコーダイのキャノパルドが続き、
「セア、ガンダムMK-Ⅱ、行きます!」
最後にセアとジルが同乗するのガンダムMK-Ⅱが発進、全機出撃完了だ。
ディメンションの蒼空を青、赤、白の三機が駆け抜けて行く。
出撃して間もなく、コーダイがハバキリに通信を繋ぐ。共通回線なので、セアとジルにも聞こえている。
「あー、テステス、マイクテス……オデッサってことは、ヨーロピアン・サーバーを経由するんだっけ?昔にやったっきりだから、あんまり覚えてなくてさ」
「そーだけど……あ、セアさんはサーバーゲート潜るの初めてか」
ハバキリはセアに呼び掛ける。
「セアさん、聞こえてますね?」
「うん、感度良好だよ」
「これから別のエリアにジャンプするんで、サーバーゲートってのを経由します。とりあえず付いてきてください」
「了解」
セアの応答を確認して、ハバキリは前方に視界を向け直す。
前方に見えるのは、三角形の角を切り落とした、ダイバーギアの形状に似たゲート。
三機はその中心へ突入した。
イースト・エリア、山岳地帯。
この地の山林に囲まれたフォースネストは完全和風仕様であり、各所には破魔を意味する赤い布地飾りを取り付けられている。
何よりも一番の見どころは、設備の一つとして天然温泉があることだろう。
その天然温泉の女湯では、一人の女性ダイバーが湯船に浸かりながらサウンドオンリーの通信を繋いでいた。
「……それで、強硬派の発言力や権力が日増しになっているってこと?」
頭に結び巻いたタオルの隙間から、黄土とベージュが混ざったような色の髪が見え隠れする。
「……分かった。私は伝手を通じて表から動くから。……は、はぁ!?ち、違うわよ!リヒターとはそんな関係じゃなくてっ、ただの男友達よ!ツルギとかサヤ先輩みたいなものだから!」
顔を赤くしながら慌てて否定する。
「……"裏"のお姉ちゃんだってそんなに暇じゃないんでしょ!?もういいからっ、切るわよ!」
乱暴に通話を切って、湯船から上がる。
湯気で曇った鏡には、藍色と菫色の二色が写った。
青く見える数字の壁を飛び越えること数十秒。
ヨーロピアン・サーバーを通過、ジンライ、キャノパルド、ガンダムMK-Ⅱの三機は、砂岩の大地へと降り立った。
連邦軍側として戦うことになるため、周囲の背景には61式戦車がずらりと整列し、その中に陸戦型ジムや陸戦強襲型ガンタンクと言ったMS隊、ビッグ・トレー級、ヘビィ・フォーク級の陸戦艇などが点在している。
現在地は、自軍拠点内。ここから敵軍エリアへと進撃するのだ。
「んじゃまー、サクッと終わらせますか」
76mm重突撃銃を構え直し、ハバキリのジンライが先頭になって前進する。
基本はハバキリが前衛、コーダイが後衛、セアは遊撃。
遊撃と言っても、二人からあまり離れず動き、積極的に前線へ飛び回るわけではないため、実質は後衛に近い。隙が見えれば前に出る、と言った感じだ。
拠点から出撃を開始してすぐに、敵エリアに進入する。
出現するエネミーは、F型とJ型が混在したザクⅡが二個小隊。
先頭に立つハバキリのジンライを捕捉すると、一斉にザクマシンガンを構えて連射してくる。
しかしその動作は緩慢で、ハバキリからすれば止まっているにも等しい。
「ま、セアさんの練習だし……」
ある程度は撃墜して数を減らし、残りをセアに戦わせるべきだと判断し、ハバキリはアームレイカーを軽く捻って120mmの銃弾を往なして距離を詰めつつも、
「おーいコーダイ、セアさんの分の的も残しとけよー」
普段の会話のようにコーダイに通信を繋ぐ。
「っと、そうだったな。ハバキリこそやり過ぎんなよ」
「大丈夫大丈夫、オレが本気だったらもうこのエリア終わってるから」
中距離と近距離の境目辺りまで接近すると、ジンライは76mm重突撃銃を連射、フルオートで放たれる鋭い銃弾が、ザクⅡ二機を立て続けに撃ち抜いた。
ザクⅡ(F型)、ザクⅡ(J型)、撃墜。
一瞬で二機も撃墜され、残る四機のザクⅡの注意がジンライに向けられる。
それを見て、ハバキリは即座に後退する。
ザクⅡの群れの注意が一斉に向けられたことへの警戒ではない。
ジンライがいた地点と入れ替わるように、一筋のビームが切り裂いた。
別方向からの攻撃に気付くザクⅡの一機だが、モノアイがその方向を捉えた時には、もう心臓部がビームで撃ち抜かれていた。
ザクⅡ(F型)、撃墜。
それは、スタート拠点とこのエリアの境目と言う長距離から、片膝を着きながらビームライフルを構えている、キャノパルドの姿だ。
「まずはひとーつ!」
撃墜スコアがひとつ加算されるのを確認して、コーダイは意気揚々とウェポンセレクターを回し、次は両肩の240mmキャノン砲をダブルセレクト、キャノパルドの体勢を変えてから即座に左右同時に発射。
タコォンキィィィンッ、と言う、重火器が放つにしては随分と甲高い砲声。
しかし、敵機のザクマシンガンの倍はある巨大な砲弾は高々と放物線を描きーーーーーほんの二秒のタイムラグの後に大地を抉り飛ばさんほどの威力を以て炸裂した。
砲弾の炸裂によって混乱するザクⅡの群れ。
残る三機の内の一機は不運にも着弾地点の至近距離にいたために、爆発に巻き込まれ大破した。
ザクⅡ(F型)、撃墜。
後退しつつあるジンライと、キャノパルドからの長距離砲撃。
残るJ型のザクⅡは、どちらを攻撃すべきなのかとモノアイを右往左往させているばかり。
そこへ、セアのガンダムMK-Ⅱが接近する。
「ターゲットロック……そこっ」
ロックオンマーカーが赤く点滅するのを見るなり、セアはトリガーを引き絞る。
しっかりと狙いを付けたビームライフルが一射、二射と放たれ、ザクⅡ二機は満足な反撃も出来ないままオデッサの地に平伏す。
ザクⅡ(J型)、撃墜、撃墜。
出現エネミーを全て撃破したことで、エリアを囲っていた赤いラインが消失する。
このエリアの制圧に成功したのだ。
「エリア制圧完了。次、行きますよ」
次の進行方向を示す矢印のマーカーを視認しつつ、ハバキリはセアに呼び掛ける。
「……このくらいなら、私一人でも大丈夫だったかな?」
「一応、操縦に慣れてくれば初心者一人でもクリア出来る難易度ですけど、油断せずに」
ハバキリの釘刺しを括りに、ジンライ、キャノパルド、ガンダムMK-Ⅱの三機は、次のエリアへ突入していく。
次のエリアは、高低差の激しい岸壁が連なっており、一度崖下まで降りると上に戻ってくるのは一苦労を掛ける。
遥か上空遠方より、紫色の太ったフクロウに似た大型の航空機ーーガウ攻撃空母が、艦載機であるドップを次々に発進させてくる。
それだけではない、地上からは戦闘車両のマゼラ・アタックが隊列を組みつつ砂煙を巻き上げながら向かってくる。
このエリアはザクⅡのようなMSが登場しない代わりに、大量のドップとマゼラ・アタックと戦いつつ、さらに空母であるガウを撃沈しなくてはならない。
数だけを見れば大群ではあるが、ハバキリは眉ひとつ動かさずに、コーダイとセアに簡単な指示を与える。
「コーダイは地上、オレとセアさんで空中。ガウは後回しで」
「おぅ、任された!」
彼の指示を受けて、コーダイのキャノパルドはその場から前進、マゼラ・アタック隊の迎撃に向かう。
それを見送ってから、ハバキリはセアと再度通信を繋ぐ。
「セアさん、ビームライフルからハイパーバズーカに切り替えてください。カートリッジは散弾で」
「ハイパーバズーカだね。っと……」
ハバキリの指示通り、セアはウェポンセレクターからハイパーバズーカを選択、さらにカートリッジは散弾を設定。
ガンダムMK-Ⅱは一度左手にビームライフルを持ち替え、空いた左手をリアスカートへ伸ばし、ハイパーバズーカを空いた右手で取り出し、それと入れ替えるようにビームライフルをリアスカートへ懸架させる。
その一通りの作業を終えて、一呼吸を入れ替えるくらいの余裕の後に、ドップの群れが編隊飛行を維持したまま二機へ攻撃を仕掛けてくる。
とは言え、対MSには大した威力を期待出来ない、それも大まかにしか狙いの付けられないミサイルランチャーだ。
ミサイルのシャワーを前にしても、ハバキリはマイペースを崩さない。
「「ミサイルのシャワーくらいでビビるな」っと……」
ハバキリがサウス・バニングのセリフを口にしつつ、ジンライは76mm重突撃銃を上空へとばら撒くように連射する。
「散弾ってことは……しっかり狙わなくてもいいよね」
弾種の性質を確認しつつ、セアはロックオンマーカーを使わずにハイパーバズーカを発射する。
砲口から放たれた弾頭は間もなく炸裂、同時に内蔵された多数のベアリング弾が飛び散る。
弾の一発一発が小さいとは言え、それは対MSから見たサイズだ。
戦闘機からすれば、そんな小さい一発でも喰らえば主翼が砕け散るかコクピットが潰されるかの二択しか無い。
その上から、76mmの銃弾が間断なく飛んでくるのだ、ドップの群れは戦果を挙げられず、被害ばかりが徒に積み重なっていく。
一方、マゼラ・アタック隊の迎撃に向かったコーダイのキャノパルドだが、こちらはこちらで一方的な蹂躙だった。
まず、マゼラ・アタックの射程外から、匍匐(ほふく)する体勢でビームライフルを発射。
マゼラ・アタックは、マゼラ・トップとマゼラ・ベースの二つから構成されているため、緊急時にはマゼラ・トップを切り離しての脱出装置としても機能する。
しかし、MSの装甲を吹き飛ばすほどの出力のビームライフルの前には脱出をする間もなくトップもベースも消え失せる。
ビームライフルで数を減らしてからは、キャノパルドは立ち上がって今度は左右のキャノン砲をマゼラ・アタック隊目掛けて撃ちまくる。
それらは決して正確な射撃ではないものの、240mmの砲弾が地面に炸裂する都度に、マゼラ・アタック隊は次々に爆発に巻き込まれ、直撃して跡形なく消滅したり、爆風で吹っ飛んで横転したりと、大惨事である。
それでも奇跡的に何機かのマゼラ・アタックが突破、健気に175mmキャノン砲や三連装35mm機関砲で抵抗するものの、キャノパルドの重装甲の前にはまるで歯が立たず、最終的には蹴り飛ばされ、踏み潰されていくのみ。
コーダイがマゼラ・アタック隊を壊滅させてから少しの間を置いてから、ハバキリとセアの方もドップの編隊を殲滅させた。
残るは、艦載機を全て吐き出し終えただろうガウだけ。
「ガウはメガ粒子砲の射角の正面と、爆撃の真下に立たなきゃ、ただのでかい的です。遠慮なくやっちゃいましょう」
ハバキリはそう言いつつウェポンセレクターを回し、二丁ある重斬刀の内のひとつを左手で抜き放つ。懐に飛び込んで肉迫攻撃をするつもりのようだ。
「じゃぁ、ハイパーバズーカのカートリッジを、通常弾に切り替えて……」
セアはウェポンセレクターのハイパーバズーカを再度選択、今度は通常弾頭に切り替えようとしたところで、
彼女の隣にいるジルがぴくりと挙動した。
「……なんか、嫌な感じがする」
ジルの溢した「嫌な感じがする」にセアは耳を傾けた。
「ジルちゃん?嫌な感じがするって……」
「アレ」
セアの問い掛けに、ジルは正面モニターに小さく映るガウを「アレ」と指した。
マゼラ・アタック隊を殲滅させたコーダイは、ビームライフルとキャノン砲の弾数を確認してから、一度ハバキリとセアの元に合流しようとしていた。
だが、不意にセアからの通信が届く。無論、ハバキリにもだ。
「二人とも、ちょっといいかな」
彼女の神妙な声に、ハバキリが先に応答する。
「どーしましたセアさん?」
「なんかね、ジルちゃんがガウ攻撃空母を見て、"嫌な感じがする"って……」
それを聞いて、思わずコーダイはオウム返しに反応する。
「嫌な感じがする?ニュータイプみたいに、何か感じたってことっすか?」
ジルがガウを見て何かを感じた……それはつまり、このエリアに接近しているガウは通常のモノとは違うと言うことだろうか?
一瞬の思案、ハバキリはコーダイに様子見を頼む。
「……コーダイ」
「あいよ、今やってる……」
考えることは同じだったか、ハバキリから言われるよりも先に、コーダイはウェポンセレクターからビームライフルを選択し、スコープを覗き込む。
倍率を最大にまで引き伸ばし、ガウ全体を睨むように観察する。
「んー、見たところはただのガウだな。ガルマ様みたいに特攻してくる気配もなし……」
ジルは一体ガウのどこから"嫌な感じ"を感じ取ったのか?
訝しみつつも、コーダイはガウの様子を観察し続ける。
ハバキリは、ジルの言う『嫌な感じ』とは恐らく別の意味で嫌な予感ーーと言うよりは既視感(デジャヴ)を覚えていた。
あの時もこんな風に、何事も無く成功するはずのミッションが、『嫌な感じ』の一言がトリガーとなってーー
「……ん、んん!?おいハバキリ!セアさん!気を付けろ!!」
ーー脳裏に浮かびかけた過去の意識は、コーダイの怒鳴り声によってGBNに呼び戻された。
「ガウから敵機……MSが出てくるぞ!」
このミッションが、原作のオデッサ作戦に忠実であるなら、ガウからMSが出現しても別段おかしいことではない。
だが、
「ドムに、グフ、イグナイテッド?……って、なんでザフト系が?」
そのガウからジオン系以外のMSまで出てくるなら、話は別だ。
そればかりか、
「エ、エアマスター!?スローネツヴァイに、スタークジェガンまで……ちょっと待てっ、こいつら絶対NPDじゃねぇだろ!?」
NPD機ではない、ダイバーの搭乗したガンプラ。
コーダイからの通信を聞き取っていく内に、ハバキリはジルの言う「嫌な感じ」の意味を悟った。
奴らは自分達を狙っているとーーーーー。
【次回予告】
コーダイ「おいハバキリッ、こいつらまさか……!」
ハバキリ「連中の狙いは……オレ達みたいだな」
セア「どうして私達が狙われているの!?」
ハバキリ「心当たりはあるけど、話は後です。このままじゃなぶり殺しだ」
コーダイ「クソッタレっ、やるしかねぇのか!?」
セア「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション
『ガイドポストは紅く染まる』」
ジル「……わたしのせい?」