ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション 作:さくらおにぎり
「あぁ、ELダイバーの話をしていて少し逸れてしまったか……」
ふと、トラちゃんはバーテンダーと最初に話していたことを思い出す。
「貴殿は、フォース・アルディナをご存知か?」
トラちゃんは仮面の獣人にアルディナの名前を訊ねる。
「うむ。ここ数年で一気に名を上げていた新進気鋭のフォースだと聞く。……最近、急にその名を聞かなくなったようだが?」
仮面の獣人も、バーテンダーと同じくらいには知っているようで、頷く。
「無理もない。何せ、『青き狂戦士』のログデータが抹消してから間もなく、示し合わせたかのように『フォースが解散になった』からな」
トラちゃんは何でもないようにそれを言うが、仮面の獣人は驚いたように挙動する。
「抹消した?運営によって消されたのではなく、自らの手で初期化したと言うのか?」
「そうらしいな。当時、強硬派の中で『フォース・アルディナのメンバーをマークすればELダイバーを捕捉出来る』と言うデマが流されていてな。自分の名前やデータが足枷になると言うのなら、そんなもの捨ててしまえば良いと言わんばかりに、あっさり消した」
トラちゃんの見解を補足するようにバーテンダーも口を挟む。
「データを初期化してしまったら、今までのランクやアイテム、フレンドデータがみんなパーになっちゃうのよねぇ。それを分かっていてやったんだから、アタシに言わせてみれば狂気の沙汰だわ」
「それも全て仲間を守るために、か……」
物悲しげに仮面の獣人はコーヒーカップを傾けた。
彼ですら、自分が積み重ねてきたランクを惜しんでフォースを解散しないのだ、むしろそれが普通の考え方だろう。
不意に、トラちゃんが低く笑った。
「まぁ……『青き狂戦士』の思考は一見まともそうに見えて、その実かなりブッ飛んでいるからな」
いや、あんたがそれを言うか、あんたが。
言外に、バーテンダーと仮面の獣人はそう呟いた。
ふとまた、カランコロンとドアベルが鳴り、客が訪れる。
バーテンダーはドアの方を目を向けて、
「……あらあら、今日は何だか懐かしいお客さんがよく来るわね」
「……」
来客はバーテンダーを一瞥して、無言のままカウンター席のひとつに座る。
端正な顔立ちに、純白の肌、短く切り揃えられた銀髪が特徴的な女性ダイバーだ。
「久しぶり……って言いたいけど、何だかお疲れみたいね?」
バーテンダーは気遣うようにお冷をテーブルに置いてやる。
「はァーーーーー……」
差し出されたお冷には口を付けず、大きく溜め息をひとつ。
そして、
「あーぁ、汗をかいたみ〜ちゃんの脇の下がなめたい」
来客ーー否、"やべー奴"は、ここが酒場で無ければドン引かれるような爆弾発言を洩らした。
紆余曲折のあった日曜日が明けた、月曜日。
昼休みになるや否や、セアことホシザキ・セアは教室を飛び出し、その足で中等部の校舎にまで向かう。
中等部の三年生の特定のクラスの教室にまで来ると、廊下から教室内を窺う。
周囲の人間が「ホシザキ先輩だ」「最近よくこっちに来るよな」「ウチのクラスに何か用かな」などとざわめいているが、セアの耳にそんな戯言は聞こえていない。
「……いない」
目当ての人物がいなかったことに、肩を落とすセア。
代わりに、その目当ての人物をよく知る男子生徒が駆け寄って来た。
「セアさん、どうしたんすか?」
コーダイこと、オオヤマ・コウダイだ。
「コウダイくん、お昼時なのに邪魔しちゃってごめんね」
「いやいや、別に構いやしませんが……ハバキリのヤツですよね?」
コウダイはコウダイで、セアがこの教室にやって来たことの理由を悟る。
いつもなら「セアさんが遊びに来たぜヒャッハー」と狂喜乱舞しているところだろうが、そんなことをしている場合ではないと読み取れる程度には、彼は空気の読める人間であった。
「スイマセンけど、昼休みになるなりどっか行っちまって……」
「そっか……」
「いきなりログデータ消しやがって。いちいちやることが極端なんだよ、あいつは……」
コウダイは憮然とした表情で呟く。
「……ねぇ、コウダイくん」
ふと、セアは顔を上げて向き直った。
「お昼ごはん食べながらでいいから、聞かせてほしいことがあるの」
「ん、そりゃまぁいいっすけど、聞きたいことって?」
一呼吸を入れ替えてから、セアは意を決した。
「ハバキリくん達の、過去のこと」
時を同じくして、ハバキリは校舎の屋上で弁当を食べていた。
米の一粒残さず食べ終えたのはいいが、今ひとつ味が分からなかった。とりあえず腹に入れるものを突っ込んだような感覚だ。
「……これからどうするかな」
ログデータは昨日に初期化して、再設定をしていないままだ。
昨日以降、セアはおろかコウダイにすら連絡を取っていない。
コウダイは教室に行けば否応なしに顔を合わせることになるので、何事も無かったかのように相槌を打っていた。
GBNを続ける理由が見つからない。
このままやめてしまうのも良いかもしれない。
だが同時に、それでは納得できない自分もいる。
考えが纏まらない。
ハバキリはコンクリートの床に背中を付けて、空を見上げる。
日の光は出ているが、青空には白灰色の雲がいくつも掛かり、今にも陰り出しそうなーー
「……先客がいると思ったら何だ、君か」
否、実際に影が差した。
自分の陰になっている顔を見て、ハバキリは上体を起こした。
「っと。クラサカ先輩?」
「どうもこんにちは、アメノくん」
ハバキリの隣に座り込むのは、先日に知り合ったばかりのセアの親友ーークラサカ・カナデだった。
「今日のセアは何だか様子が変でね、お昼を一緒しようと思ったら逃げられた」
「あー……ウチのクラスに行ったんじゃないですかね」
多分そーだろーな、とハバキリはいつもの自分を取り繕う。
「……まぁ、ちょうど君にも用事があったところなんだ、良しとしましょ、そうしましょ、べー」
「何故花いちもんめ?」
カナデは持ってきた昼食に手を付けることもなく、ハバキリに向き直った。
「単刀直入に聞くよ。……昨日、セアと何かあった?」
「……」
その件か、とハバキリは眉を顰めた。
「そこで言葉をすぐに返さないってことは、何かはあったのかな?」
心配するわけでも責めるわけでもない、抑揚に乏しい声は、自然とその場の空気を支配していく。
ほんの数秒の思考を回し、ハバキリは応えた。
「オレが……セアさんを見捨てたんですよ。弱くてつまらねーから」
嘘をついた。
そう言えばカナデは責めるだろう、『ハバキリが悪い』と言うことに出来る。
それでこの議題は終わりだと高を括っていたハバキリだが、
「それはウソだね」
バッサリと嘘だと切り捨てられ、ハバキリは舌打ちする。
「チッ、誤魔化せなかったか」
「君がそんなくだらない人間なら、弱くてつまらない相手のために、ガンプラ製作をレクチャーしたりしないよね?」
ご丁寧にも嘘をついていることに対する裏付けの理由まで言われる。
それに、とカナデは不満げに鼻を鳴らす。
「私はセアが心配なんだよ、仮にも親友としてね。それに、あの娘の感じからすると、君に何かされたから様子がおかしくなった……とは思えなくてね」
「なんでそこまで分かるんです。先輩って実はニュータイプかスペシャルかサイキッカーかなんかですか?」
「別に。ただ状況の前後と、セアの性格を考えた結果だよ。あの娘がちょっと天然で分かりやすいって言うのもあるけど」
それは何となく分かるな、とハバキリは心底で呟く。
セアはきっと、人から何かを頼まれたら断れないタイプの人間だ。
付き合いの短いハバキリですらそれくらいは分かるのだから、カナデならばもはやセアの頭の中を見ているようなものだろう。
「……それより、早く話してくれないかな。昼休みは意外と短いんだから」
食べる時間無くなるよ、とカナデはマイペースに急かす。
「(なんかこの人苦手だな……)」
彼女に対する苦手意識を自覚しつつも、ハバキリは溜め息をひとつ置いてから、昨日に起きたことと、その後自分がどうしたのかを、包み隠さず話した。
ハバキリの言葉が止まるのを見計らってから、カナデは再び口を開いた。
「仲間のために自分すら捨てる、ね……カッコよく聞こえるけど、裏返してみればただの自己中だよね。それで他の仲間がどんな思いをするのか、考えなかったんだ」
「お言葉ごもっとも。返す言葉もございません」
取ってつけたような返し方をするハバキリを見て、カナデは少し思案する。
「何が君をそうさせたのかな?」
「……今度は何の話ですか?」
話の中身が見えない問い掛けに、ハバキリは訝しげに目を細める。
「君が、自分のセーブデータを消してまで仲間を守ろうとする、その理由。余程のことでも無い限り、せっかく進めてきたデータを全部パーにしようなんて思わないよ?」
「……、……」
ハバキリは瞬きを繰り返して思案する。
このクラサカ・カナデと言う人物、マイペースで何も考えてないような顔をしながら、僅かな発言から真意を手繰り寄せてくる。
とんだ狸ーー否、雌狐とでも言うべきなのか。
下手な誤魔化しが通じないのは先程に理解している。
ここは素直に言ったほうが、自分自身のためにもなる。
そう判断したハバキリは、まずは前置きから始めた。
「少し長くなるんで、昼飯食べながらでいーですよ」
ーーーーー時は二年前にまで遡る。
ハバキリとコーダイは『アルディナ』と言うフォースに加入していた。
フォースメンバーも十代半ばの少年達で構成された、新進気鋭のルーキーフォース。
しかしながらその実力は下位ランカー勢を飛び越し、数々のフォースを破竹の勢いで破り続け、上位ランカー達からも一目置かれていた。
その噂を聞きつけ、自分も彼らと共に戦いたいと門を叩く者も現れ始め、着実にフォーストーナメントに出場するための人数である10人が集まりつつあった。
フォースリーダーは『トーシロー』。
『白き聖騎士』と呼ばれる、ハバキリ達と歳の変わらない少年だった。
だが、後の世の伝説にもなるだろうと囁かれた彼らに、ひとつの事件が襲い掛かった。
今から一月ほど前のある日、フォース・アルディナの面々はいつものようにミッションを受注し、何事もなく目標を達成、さて後はベース基地へ帰還するだけだと言う時。
帰還途中にハバキリが、野良のELダイバーを発見した。
野良のELダイバーをふと見かけるだけなら、珍しいことではない。
その時は無視してスルーしようとしていた。
けれど、当時はまだ表沙汰になっていなかった強硬派の運営ダイバーと遭遇。
強硬派ダイバー達は、アルディナの面々がELダイバーと接触したと誤認し、何の勧告も無しに攻撃を仕掛けてきたのだ。
攻撃された以上は反撃せざるを得ず、アルディナのメンバー達は徹底抗戦。
犠牲を払いながらも、どうにか撃退に成功したまでは良かった。
だが、その日を境にアルディナのメンバー達は、何者かーー恐らく強硬派の連中から執拗な妨害行為を受けるようになった。
尤も向こうからすれば妨害などではなく、『ELダイバーと言う害悪を守ろうとする悪質なプレイヤー』などと認識されていたのだろうが。
この件を運営に通報するものの、運営側は了解を返すのみで、妨害行為の数は日増しになるばかり。
ついには、フォースを辞退する者まで現れる始末だ。
そこに至って、ハバキリは悟った。
「オレがELダイバーと接触したから、運営の奴らから目をつけられるようになったのか」と。
そんなことはない、ただ偶然が重なっているだけだ、と他のメンバーは言ってくれたものの、その言葉の尽くを裏切るように強硬派からの妨害は続いた。
そして、今から約一週間前。
この日に至るまで、散々悩んだもののついにハバキリはフォースの脱退を決意。
自分が去れば、全ては元通りになる……そう信じていた。
しかし、つい先日にコーダイの口から出た『お尋ね者扱い』と言う言葉を聞いた。
その発言が意味するところは『強硬派の狙いはハバキリではく、アルディナのメンバー全員である』と言うことと、『強硬派の連中は少しでも疑わしいと感じた者に無差別攻撃を仕掛けている』ことの二つ。
つまり、『ハバキリ』と言うダイバーの存在そのものが疑わしいのだと理解出来てしまった。
それはハバキリだけに限らず、アルディナに所属していたメンバー全員がそうだろうとも読み取れる。
だったらデータを消してしまえばいい。
アルディナの仲間達と過ごしたことを、何もかも無かったことにすれば、強硬派から狙われることも無くなるだろう、と。
そう決め付けて、昨日の帰りに誰にも何も言わずにログデータを初期化した。
そこまでを語り終えて、コウダイは溜め息で締め括った。
「そんなことが……」
セアは箸の手を止めてコウダイの話を聞き入っていた。
「信じられんでしょ?ELダイバーの近くにいただけで不正行為同然の扱い。……正直、今のGBNはどうかしてますよ」
どうかしてるのは今に始まったことじゃありませんけど、と皮肉るように吐き捨てるコウダイ。
「自分らが幅効かせてるから、GBNのユーザー人口が減りつつあるんだって知らねぇんですよ、"アレ"は」
ついには"アレ"呼ばわりまでする。
「酷い話……って言うのは簡単だけど、いちプレイヤーでしかない私達じゃどうしようも……」
昼休みの終始、セアの表情は浮かないままだった。
「……とまぁ、こんな感じですね」
ハバキリは語り終えたように、水筒の中身を喉に流し込む。
しかし聞き手であるカナデは、もぐもぐと自分の食事を続けているだけ。
「途中の反応も相槌も何も無かったんですが、オレの話聞いてました?」
話も聞かずに食べるのに夢中だったのかと疑うハバキリだが、
「ひうめひはべはわわえうぃうぃっえいっはおあうぃみべふぉ?」
「すいません飲み込んでからでいいです」
すぐに軽く頭を下げた。
「…………っん。昼飯食べながらでいいって言ったのは君でしょ?」
「だからって、人の顔も見ずに自分の弁当ばっか見てたら聞いてねーのかって勘違いもするでしょーが」
「大丈夫、ちゃんと聞いてたよ。それで、君達のチームが連日ストーカーに襲われて色んなものを卒業してしまったって話だっけ?」
「……間違ってねーようで話が明後日の方向にイッちまってるようで、一部の女子の皆さんが発狂して鼻からバラ色の液体を吹き出しそうな表現ですね?」
たまに女子の中にウホい男が混ざってそーな気もするが、とハバキリは露骨に嫌そうな顔をした。
「かなーり大雑把に纏めるとそーなります」
「うん。それで君は、ストーカーの皆さんから狙われないように、名前も姿も変えて、全くの別人になろうとしてるわけだ」
「そーしよーとは思ったんですけどね……」
大きく溜め息をついて再びコンクリートに背中を下ろすハバキリ。
「正直、今の環境下でGBNを続けたいとも思えないんですよ。やってられねーと言うか」
「まぁ、やりたいことをやってもいいのに、動いた端からそれを邪魔されたんじゃ、やる気も何も起きないよ」
分からないでもない、とカナデは食べ終えた弁当箱を仕舞う。
「じゃ、やめたらいいんじゃない?」
さも当たり前のことを言うかのように、カナデはやめれば良いと勧める。
「えっらい簡単に言いますね」
「そりゃぁ私は傍観者に過ぎないし、そこからの視点しか持てないから他人事だって他人事にしか思えない。だから他人事のようにしか言えない」
「クラサカ先輩って、相手に思ったことハッキリ言って傷付けるタイプでしょ」
「そうかな?」
まぁそれは置いといて、とカナデは話を続ける。
「君がGBNを続けるかどうかは勝手だから、私は「頑張れ」とか「諦めるな」なんて無責任なことは言わないよ。ただね……」
今まで感情が抜け落ちたようにしか話していなかったカナデが、不意に真剣な表情をハバキリに向けた。
「セアとは、友達でいてあげてね」
「……急にクソ真面目な顔して、何言うのかと思ったら」
何を当たり前のことを、とハバキリは呆気を取られるが、カナデの表情は真剣なままだ。
「ほら、あの娘って誰からでも好かれてるみたいな感じ出してるけど、周りからチヤホヤされてるのを快く思わないのも多いんだよ。顔やメンタルどころか存在そのものがブスいメスブタとか」
「あんたそれ下手するとブーメランになりかねねーから気を付けた方がいーぞ」
あまりにも酷い物言いをするカナデに、思わず素の反応を返すハバキリ。
「心配無用。私自身、綺麗だとは思ってないけどそこまでブスい方じゃないと自覚するくらいには女の子だから」
「そーゆーことじゃなくて……ま、セアさんの方から「友達やめたい」なんて言われない限り、オレは裏切りませんよ」
それはハバキリの本心だった。
「うん、それが聞ければ良し。君が、セアに纏わりつこうとする烏合の衆と同じじゃなくて良かった」
ハバキリはセアを裏切らないと言うことを聞きたかったらしく、カナデは軽く背伸びをして立ち上がる。
「さて、それじゃぁ私はそろそろ教室に戻るとするよ。君と会えなくてしょげ返っているセアを慰めに行かないと。君も、うっかり遅刻しないようにね」
「へーい」
カナデが出入り口に入っていくのを見送ってから、ハバキリも背伸びしてから立ち上がる。
「……とりあえず誰かに吐き出してみるってのは、意外と有効なストレス解消法だな」
十数分前と比べると、幾分か気分が軽くなっていたことを感じながら。
放課後。
帰りのホームルームが終了するや否や、コウダイがハバキリの席にやって来た。
「ハバキリ、お前は今日どうするんだ?」
「んー、そーだなー……」
とは言うものの、ハバキリ自身の今日の予定は決まっていた。
「今日は家族サービスでもするとしますかねー」
「家族サービス?あぁー、妹ちゃんに対してか」
コウダイも、ハバキリが妹のテラスと二人で暮らしていることは知っている。
「GBNのことについて訊きたかったけど、まぁ今日のところはいいか」
「わりーなコーダイ。また気が向いたらログインするからさ」
「データ消しちまったんなら、ランク上げでも手伝ってやろうと思ったんだけどな。じゃ、またなー」
用件はそれだけだったようで、コウダイは鞄を担ぎ直して軽く手を振ると、教室を後にしていく。
「……」
ハバキリはコウダイが廊下に出るのを見送ってから、自分も席から立った。
家族サービスをするとは言ったものの、それは嘘だ。
「(試さなきゃいけないことがあるしな)」
玄関の靴の数から見て、テラスはまだ帰って来ていないようだ。
それを確認してから、ハバキリはスマートフォンを取り出し、メールで「GBNをしてくる。帰りは少し遅いかもしれん」と連絡しておくと、自室に入る。
制服から私服に着替えて、本棚を改造したショーケースの戸棚を開く。
ここにずらりと並んでいるのは、全てハバキリが作り上げたガンプラだ。
「さて、どれにするか……」
今回持っていくのは、ジンライではない。
ジンライはハバキリの象徴的なガンプラだ、いくらデータを初期化したとしても、使っているガンプラがジンライでは"中の人"がバレる。
故に、ジンライではないガンプラを使うべきだとハバキリは考えている。
「ま、とりあえずシュヴァルべで……」
ハバキリは最初に目についた青い『シュヴァルべ・グレイズ』を手に取ろうとして、止めた。
いくらジンライとは違う機体とは言え、見る人間が見れば、パーソナルカラーと機体の動きで、ダイバーが誰かを見破れる。
そうなると、青く塗装されたガンプラではダメと言うことで再考。
「……あ、そーだ」
ふと何かを思いついたハバキリは、視線を左右させて特定のガンプラを手に取った。
彼が手に取ったのはSDガンダムの『シャア専用ザク』だった。
シャア専用ザクと言えば、ガンダムを知る者なら、否、例え知らずとも日本で生まれ育った者なら誰でも見聞きしたことはある、初代ガンダムこと『RX-78』と双璧の知名度と人気を誇る、歴史的な"ロボットアニメのメカ"だろう。
赤くて頭に一本角が生え、量産型ザクーー通常の三倍速いと噂される、『シャア・アズナブル』の愛機のひとつ。
とは言え、マシンスペックそのものは量産型のザクⅡの三割増程度なのだが、それでも通常の三倍速いと伝えられるのは、パイロットであるシャア自身の力量によるものだ。
120mmのマシンガンをほぼ無傷で跳ね返すルナ・チタニウムの装甲、戦艦の主砲並みの威力を持つビームライフルとバズーカ砲、あらゆる装甲を一刀の元に切断するビームサーベル、ザクⅡと比較しても五倍以上の機体出力……と言う、規格外も規格外のスペックの『ガンダム』を相手に互角以上に健闘して見せたのも、ひとえにシャアの実力があってのもの。
しかし、この時のガンダムのパイロットである『アムロ・レイ』がまだ未熟だったこともあり、事実アムロが戦闘経験を重ねるその都度に、シャアとアムロの実力差は縮まるどころか、逆にアムロがシャアを引き離してしまう結果となる。
それは、装甲材質以外はガンダムとほぼ同様のスペックの『シャア専用ゲルググ』を以てしてもシャアが苦戦を強いられるばかりか、討ち取られる一歩手前にまで追い詰められたことが物語っている。
このSDガンダムのシャア専用ザクだが、近年に発売された『CS(クロスシルエット)フレーム』に対応したキットであり、組み合わせによって、従来のSDガンダムと比べると等身が上がったり下がったり、可動範囲が追加される仕組みだ。
それだけでなく、往年のSDガンダムのキットと比べても色分けが細かく、組み立てるだけでもほぼ設定に近い配色となるのだ。
ハバキリは手に取ったシャア専用ザクをいつものケースに入れて、昨晩から充電器に差しっぱなしのダイバーギアを鞄に放り込み、手荷物を軽く纏めて、自宅を出た。
最寄りのガンダムベースだと、コウダイと遭遇する可能性を考慮して、ハバキリは今日はガンダムベースではなく、自転車で十分ほどの距離にあるホビーショップからログインすることに決めた。
自転車を駐輪場に止めておき、入店する前にダイバーギアを起動、初期設定画面を立ち上げる。
「えーと、そーだな……」
ハバキリは少しだけ頭を働かせ、頭の中に書いた内容を設定画面に反映させていく。
ダイバーネーム…Charles(シャルル)
性別…女
年齢…15歳
身長…158cm
ダイバーギアの画面には、ややウェーブのかかった金髪のショートヘアと蒼い瞳をした、中性的な少女型のアバターがプレビューとして表示されている。
何せこのアバターの設定は『シャア・アズナブルの性別を変えて、年齢も15歳にまで落とした姿』をイメージしたものだ。
シャルルと言うダイバーネームも、シャア・アズナブルのフルネームの元になった、実在していた人物から取ったものだ。
「(これだけ元と違えば、簡単にバレやしないだろ)」
設定を完了させてから一旦スリープモードにしておき、ホビーショップへ入店、真っ直ぐに受付に向かってダイブルームの使用許可を得る。
シートに腰を落ち着け、ダイバーギアとシャア専用ザクを筐体にセット、読み込ませていく。
「(そーそー、今のオレは『ハバキリ』じゃなくて『シャルル』だったな……)」
今の自分が女の子であることを自覚しつつ、ハバキリーーシャルルーーは自意識がディメンションへと飛び込んだ。
ベース基地エントランスロビーへ到着。
シャルルは、ダイバーとしての自分の身体を確認する。
「(……うん、男の時とそう変わらないな)」
これなら問題なさそうだ。
それだけ確認してから、シャルルはミッションカウンターへ向かう。
今回のシャルルの目的は、ランク上げを兼ねたシャア専用ザクの慣らし運転だ。
それを見越した上で、どのミッションにするか。
難易度レベル2の項目を開き、スライドを繰り返す。
「んー……ま、これでいっか」
シャルルが選択したミッションは『ジャブローの風』
原典作品は『Z』からで、地球連邦軍本部ジャブローを攻略せんとするエゥーゴと、それを妨害するティターンズとの戦闘を再現したミッションだ。
登場するエネミーは、少数のハイザックにジムⅡ、ザクタンクや飛行型のグフと言った、低性能な機体ばかりだ。
ざっくりとミッション概要を確認してから、シャルルは格納庫へ移動する。
いつもの見慣れたMSハンガーに鎮座しているのは、いつものジンライではなく、寸足らずなシャア専用ザク。
そのことに違和感を覚えつつも、シャルルはキャットウォークを渡り、シャア専用ザクのコクピットへ滑り込む。
コンソールを起動させ、システムオールグリーンを確認、ハンガーからシャア専用ザクが降ろされ、カタパルト展開、ハッチが開かれる。
「ハバキ……んんっ、シャルル、ザク、出るぞ!」
一瞬、自分のダイバーネームを間違えて、シャルルはシャア専用ザクを発進させた。
ベース基地から発進してすぐに進路変更、南方へ向かう。
今回のバトルフィールドであるジャブローは、南米に点在するため、まずはそこまで移動するのだ。
移動すると言っても、それほど時間はかからない。
数十秒ほどそのまままっすぐ進んでいると、広大なジャングルが目下に広りつつある。
境界線を潜り抜け、ミッションスタートだ。
このミッションの達成条件は敵機の殲滅ではなく、作戦進行に合わせることにある。
まず地表に着陸して、そこからジャブローの内部を目指して進撃していく。
「さってと……」
降下中にも関わらず、シャルルのシャア専用ザクは徐にザクマシンガンを構えると、自機よりも下にいる、バリュート装備をパージして降下中のハイザックの背後へトリガーを引き絞った。
戦場とは非情であり、正々堂々と言う言葉など通じない。
撃たれ、墜とされる方が悪いのだ。
バックパック、背面装甲を立て続けに撃ち抜かれたハイザックは炎上しながら墜落、森の中へと突っ込むとそこに火の手が上がった。
ハイザック、撃墜。
「HGの120mmと比べても、銃身が短いぶん射程が落ちてるか」
シャルルはそれだけの射撃で、ザクマシンガンの性能がどれほどのものかを読み取った。
それならバズーカも一緒だな、と呟きながら重力に任せて高度を落としていく。
時折捕捉するハイザックを随時ザクマシンガンで排除しながら、シャルルのシャア専用ザクは地表ーージャブローの滑走路に着陸する。
着陸すると同時にザクタンクと飛行型グフが機関砲やジャイアントバズで迎撃して来るが、シャア専用ザクはその場から身を翻し、飛行型グフをザクマシンガンで撃ち抜き、ザクタンクは着陸するついでに踏み潰す。
飛行型グフ、ザクタンク、撃墜。
「第一関門突破。ここまでは順調だな」
ザクマシンガンの残弾にも余裕があることを確認しつつ、シャルルはジャブローの内部へと進行していく。
『妙だな、ジャブローの抵抗はこんなものではない』
雰囲気を出すためにか、クワトロ・バジーナの台詞が通信越しに聞こえてくる。
とは言え、原作を知っているシャルルは、今のジャブローがどんな状態にあるかを知っている。
そしてこの後に何が起こるのかも。
『やはりおかしい……まるで空き家ではないか』
「実際、空き家同然だからなー」
クワトロの台詞に応えるように呟くシャルル。
U.C.0087時点では型落ちして既に久しい、骨董品扱いされるのMSを排除しつつ、ジャブロー内部を悠々と突き進んでいくシャア専用ザク。とは言え、シャルルの駆るシャア専用ーーS型のザクⅡでは骨董品どころかもはやガラクタレベルの旧式だが。
「「MSの性能の違いが戦力の決定的差では無い」とは言うけど、ザクⅡで恐竜進化世代の機体を相手にするのはさすがに無理だよなー」
しかし、遥か先の未来であるU.C.0153では、その時代のワンオフ機、それも1対1000を想定された『サウザンド・カスタム(サーカス)』のMSを相手に予想外な形で善戦することになるのだが。
ドックの中枢辺りにまで到達した時点で、再びクワトロの通信が届く。
『総員脱出するぞ!このジャブローの地下に、核爆弾が仕掛けられている!外の滑走路にガルダが待っている、そこまで急げ!』
「はいはい、知ってますっての……」
ミッション達成条件の変更が告げられ、一応確認するシャルル。
達成条件:制限時間以内にアウドムラへ到達
失敗条件:自機の撃墜、または制限時間オーバー
「さて、早いところ脱出しましょーかね」
シャルルはアームレイカーを捻り返して押し出し、シャア専用ザクは反転、元来た道を戻っていく。
ダイバーポイントを得るために、脱出を妨害してくるハイザック、ジムⅡなどを可能な限り撃破しつつ、道程の半分辺りに差し掛かると、『WARNING!』の赤文字がコンソールに表示される。
『ここで会ったが百年目ってね。カクリコンの仇を取らせてもらうぞ!』
目の前に立ち塞がるのは、マラサイとハイザック二機の一個小隊。
エース機であるマラサイには、ジェリド・メサが搭乗している設定であり、原作におけるカミーユ・ビダンを狙うがごとく、執拗にプレイヤーを妨害してくるのだ。
「(ジェリドのマラサイはやたらと硬いからなー、120mmじゃなくてバズーカの方が早く済む)」
そろそろ残弾が心許ないザクマシンガンを捨てて、リアスカートからザクバズーカを取り出すシャア専用ザク。
一拍を置いて、マラサイと二機のハイザックがビームライフルを構えて、
ーーーーー突如、明後日の方向からのビームが、マラサイとハイザック二機を撃ち抜いた。
「……何だ?」
マラサイ、ハイザック二機、撃墜。
『これからは自分の力で生き延びろ!運が良ければ生き残れる!』
ジェリドの台詞など聞いていない、シャルルはその攻撃が行われた方向へ、シャア専用ザクのモノアイを向けさせる。
その方向ーー岩陰から現れたのは、ずんぐりむっくりとした青いガンプラだった。
ジオン系統を思わせる、丸みを帯びた太い脚部。
しかし腕部の形状は四角張っており、どちらかと言えばハイザックに近い。
胴体部もまた丸みを帯び、動力パイプが露出しているものの、コクピットハッチの位置や装甲の構成具合から、連邦のジム系列とも読み取れる。
頭部の形状も独特で、戦国武将の兜か陣笠のような形。近いもので言えばマラサイが当てはまるだろう。
「……『ゼク・アイン』、か?」
ジオン系の外観を思わせるモノアイ頭でありながら、各部に連邦系の意匠が見られるその機体銘を呟くシャルル。
明確な原典作品は存在せず、元々は模型雑誌のフォトストーリーとして展開していた(今でこそ公式化されているが)『ガンダム・センチネル』と言う作品に登場するガンプラだ。
機体各部に設けられたハードポイントに装備を換装することで性能を特化させると言う、後に登場する『ストライカーパック』や『ウィザードシステム』の先駆者とも言える機体である。
現在ではHGブランドとして商品化されており、第三種兵装(要塞戦仕様)の機体が再現されているが、目の前にいるゼク・アインは、乗り手のカスタムによるものなのか、右手に装備されているのは、120mmのマシンガンではなく、リック・ディアスや百式と同じスネイルタイプのカートリッジを持つビームライフルだ。
しかし、ゼク・アインの登場する年代は、U.C.0088における『ペズンの反乱』が起こった時代だ。
その一年前であるU.C.0087には、そもそも存在すらしていないはずの機体。
それが何故、この『ジャブローの風』に現れたのか?
シャルルは気を引き締めて、目の前にいるゼク・アインにオープン回線で通信を送る。
「そこのゼク・アイン。援護のつもりだったんだろーが、余計なお世話だ。礼は言わねーぞ」
すると、シャルルの通信に応えることもなく、ゼク・アインはモノアイを光らせていきなり襲い掛かってきた。
ビームライフルを連射し、数筋のビームがシャア専用ザクを貫かんと迫る。
「……だんまりかよ!」
シャルルはアームレイカーを引き下げて、ゼク・アインからのビームを躱すと同時に、シャア専用ザクのザクバズーカを構え直して発射する。
ザクバズーカの弾頭は胴体への直撃コースだが、対するゼク・アインは左手をシールド裏に手を伸ばし、ビームサーベルを抜き放ち様に振るい、弾頭を切り裂いて無力化させた。
「オレと殺り合うつもりか?いーぜ、慣らし運転は十分だ……!」
残り時間のタイマーを一瞥して、シャルルはもう一発ザクバズーカを放ち、その弾頭の後ろを追い掛けるようにゼク・アインとの距離を詰めていく。
ゼク・アインは二発目のザクバズーカもビームサーベルで斬り防ぐ。
すかさずシャア専用ザクはザクバズーカを捨てて左手にヒートホークを抜き放って斬り掛かり、同様にゼク・アインは防御に回って受け止める。
熱プラズマの斧刃と重金属粒子の剣が衝突し、日の光が遮られたジャブローの洞窟内を眩く照らし出す。
シャア専用ザクはそのまま鍔迫り合いには持ち込まずにすぐにヒートホークを弾き引いた。
小柄なSDガンダムと、見るからに重そうなゼク・アインだ、正面からぶつかってどちらが競り勝つかなど、誰の目にも明らかだ。
無論、シャルルもそれを理解しているため、シャア専用ザクはその場を蹴るようにして機動し、ゼク・アインの左側面を陣取ろうと動く。
振り抜かれるヒートホークと、それを迎え撃つビームサーベル。
一撃、二撃と交錯し、三撃目はまともに打ち合わずに受け流し、ゼク・アインのビームサーベルを空振りさせる。
「よっと!」
受け流した勢いをそのまま活かすように、横薙ぎにヒートホークを振るうシャア専用ザク。
カウンターの一撃は、ゼク・アインの胴体は捉えられなかったものの、左肩のシールドを真っ二つに溶断しーー
たその斬り目の隙間から、ゼク・アインのビームライフルの銃口が覗いておりーーーーー
ーー同時に、"何か"が瞼の裏に映ったーー。
「ッ!?」
撃たれるその寸前に気付いたシャルルだが、肝心のシャア専用ザクはヒートホークを振り切ったせいで隙を見せていた。
放たれるビーム。
シャルルは強引に機体を挙動させて、ショルダーシールドでビームを受けるが、表面に何の耐性もないシールドでは、ビームの一発を防ぐのが精一杯だ。
撃ち抜かれる寸前にショルダーシールドを本体から切り離し、飛び下がってビームサーベルの間合いから逃れるシャア専用ザク。
「チッ……こいつ、なかなかやるな」
シャルルは目の前の相手の実力に舌を巻く。
単純な操縦技術もそうだが、一対一における"殺陣"たてを知る相手だ。
先程に、仕方なくシールドでヒートホークを受けたように見えたが、恐らく違う。
「(あのヤロー……敢えてシールドを犠牲にして、ビームライフルで一撃必殺を狙ってやがった……)」
平たく言えば『肉を斬らせて骨を断つ』だ。
シャルルがその意図に気付くのがもう0.2秒でも遅れていたら、シャア専用ザクはこの場で撃墜されていただろう。
カウンターに対してカウンターを返すなど、どうやらこのゼク・アイン、相当腕のあるダイバーが乗っているらしい。
「(それにしてもさっきのヤツの動き、どこかで……)」
すると、再びゼク・アインからのビームライフルが連射され、シャア専用ザクは回避に徹しつつ、ザクバズーカを捨てた地点まで移動し、それを拾い上げる。
「(そろそろ時間がやべーな、こいつは無視して脱出を優先するか)」
シャルルとて引き際は弁えているつもりだ。
この強敵との戦いに時間をかけ過ぎて、肝心のミッションに失敗した、などと言う結果など目も当てられない。
さて、どうやってこのゼク・アインを突破しようかと頭の回転速度を早めるシャルル。
だが、今まで通信に応じてこなかったゼク・アインのダイバーからのオープン回線を通じた声が、シャルルの聴覚に届く。
『ワカラナイ』
「は……?」
『ボクニハワカラナイ。キミハイッタイ、コンナトコロデナニヲシテイル?』
ノイズの掛かった、耳障りなボイス。
「それはこっちの台詞だ。てめーこそ、オレのミッションを妨害して、何のつもりだ」
得体の知れない相手だろうが、売られた喧嘩はもれなく買い取るシャルル。
しかし、次の相手の発言でそれも躊躇を覚えることになる。
『"ハバキリ"』
「ッ……!?」
ゾクッ、とシャルルーーハバキリの背筋が震えた。
本名を言い当てられた。
明らかに仮の姿を変えていると言うのに、しかもその相手は初対面のはずだ。
声が震えそうになるのを必死に堪えながら、シャルルは言葉を突き返す。
「……人違いだ。オレはハバキリじゃない」
『ウゴキヲミレバワカル。ソレニ、ボクノウゴキニタイオウシテミセタ』
「おい……」
冷や汗と悪寒が止まらない。
『データヲショキカシ、ヨウシトセイベツ、ナマエマデカエタヨウダケド、キミジシンノジツリョクダケハカワラナイ。ダカラワカル』
「何なんだ……」
こいつは一体何なのだ?
『エルダイバーニカカワッテシマッタコトヲコウカイシタカラ、キミハフォースヲヌケタンダロウ?』
「待て……」
こいつは何をどこまで知っている?
『キミハ、オナジアヤマチヲクリカエシテイルジャナイカ』
「待てよ……ッ」
シャルルはついに堪え切れなくなって、吐き出すように質問を求めた。
「てめーはオレの何を知っている!?てめーはオレの何だ!?何が目的だ!?答えろッ!!」
だが、返ってきたのは落胆したような気落ちした声だ。
『……ボクデスラワカルノニ、キミニハワカラナイノカ』
すると、不意にゼク・アインはシャア専用ザクに背を向けると、
『ダカラ、ワカラナイ。ザンネンダ、トテモ』
ジャブローの出口へ向かって飛び去っていった。
シャルルは、ただそれを見送るしか出来ない。
「ハーッ、ハーッ、ハーッ……薄気味悪ぃ。何だったんだ、今のは……」
本当なら少しだけへたり込んでいたいところだが、ミッションの制限時間は刻一刻と迫りつつある。
落ち着くのはまた後にして、シャルルはアームレイカーを押し出して、シャア専用ザクをジャブローから脱出させた。
離陸を開始しているアウドムラの格納庫に飛び込み、その直後にジャブローの地下が盛り上がり、空に巨大なキノコ雲が浮かび上がった。
『Mission Clear!』
ミッションをクリアし、そのままアウドムラに乗せられたままベース基地へ帰還、シャア専用ザクはメンテナンスハンガーへ放り込まれる。
ショルダーシールドを失った以外に大きな損害を被っていないため、シャルルはすぐに整備に取り掛かる。
シャルルーーハバキリは先程まで鎬を削り合った相手である、ゼク・アインのダイバーの言葉を反芻する。
「(何であいつが、オレ達のフォースのことを知ってやがる……)」
アレも運営の強硬派だろうか?
否、仮にそうだとすれば、この間のオデッサ作戦の件を知らないはずがない。
それならばもっと大人数を以って攻め込んでくるはずであり、エース級一人だけをぶつけてくるはずがない。
仮定条件を組み立て直す。
ゼク・アインがシャルルのシャア専用ザクを捕捉したのは恐らく偶然だろう。
しかし、運営の強硬派の人間でないのなら、何故フォース・アルディナの内情を知っている?
シャルルは一瞬、コーダイがサブアカウントを使い、別人を騙って近付いてきたのかと勘繰ったが、
「(いや、あいつはそんな回りくどい腹芸はしない)」
とすぐにその勘繰りを止めた。
コーダイとは、フォース・アルディナの結成以前からの付き合い。
故に、コーダイーーコウダイの性格もよく知っているつもりだった。
お調子者で声量的にうるさい奴ではあるが、悪意を持って誰かを陥れるようなこととは無縁の男。
そもそも、仮にあのゼク・アインのダイバーがコーダイだとして、動きを見ただけでハバキリかどうか分かるのなら、いきなり攻撃を仕掛けたりせずにまずは馴れ馴れしく話し掛けてくるはずだ。
だとしたら、であれば、ならば……
延々と"たられば"を頭の中に浮かばせては消すを繰り返して、ふと気が付けば整備の手が止まっていた。
「ゴチャゴチャ考えてもしゃーねーか」
意識を切り替えて、シャルルはシャア専用ザクの整備に集中する。
その聴覚に、あのノイズ混じりの耳障りな声を残したままーーーーーー。
【次回予告】
シャルル「さて、ザクの整備も終わったし、次は何のミッションを受けるかなー。効率よくランクを上げるには、質のあるミッションをこなすしかないし……ん?ミッションを手伝ってほしい?オレ、ネカマだけどいーのか?
次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション
『Wild wing girl』
逃げも隠れもするし、嘘ぐらいついて当たり前だよな」