ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション   作:さくらおにぎり

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6話 Wild wing girl

 銀髪の美女ダイバー……基、やべー奴の洩らした爆弾発言を聞いて、仮面の獣人は一瞬、コーヒーカップを手から滑らせかけた。

 

「あぁ、気にするな。いつものことだ」

 

 仮面の獣人の心中の驚愕ーーと言うよりドン引きを察したのか、トラちゃんは諭すように声を掛けてやる。

 一方のバーテンダーの方は、"相変わらず"の様子であるやべー奴を見流しつつ苦笑する。

 

「相変わらずま〜ちゃんは"彼"にゾッコンなのねぇ」

 

 その苦笑に対して、やべー奴はテーブルに俯いたまま応じる。

 

「そうなのだ……なのに、今のみ〜ちゃんは私に振り向いてもくれない……」

 

 が、不意にガバッと上体を起こしてバーテンダーに食い入るように顔を近づける。

 

「このままではっ、み〜ちゃんは大人になって可愛くなくなってしまうッ!そうなっては私のみ〜ちゃんが私のみ〜ちゃんではなくなってしまうのだ!これは由々しき事態だ、一刻も早くみ〜ちゃんをお持ち帰……ゲフンゲフンッ、ロシアへ連れ戻さなければならないッ!」

 

「今なんだかよろしくない表現が聞こえたような気がしたけど気のせいかしら。それはそうと、ご注文は決まってる?」

 

 このやべー奴、文字通りの"やべー奴"のようだが、バーテンダーもバーテンダーで付き合いが長いのか、まともに付き合わずに上手く躱しながら、流れの中で注文を取らせようとする。

 

「み〜ちゃんが浸かったお風呂の水と、爪切りで切ったみ〜ちゃんの爪を頼む」

 

「お白湯と柿の種ね、了解よ」

 

 やべー奴の無理難題を軽く受け流しながら、バーテンダーはコーヒーを淹れる際に一度沸かしたお湯をコップに注いでいく。

 

 その様子を横目で見つつ、仮面の獣人はトラちゃんに耳打ちする。

 

「何とも無茶苦茶な客だな……」

 

「フッ、いつものことだからそうとしか言えん」

 

 トラちゃんにとっては既に見慣れた光景であるらしく、特に何も気にすることなくワインを口に付ける。

 

「……コホン、話が脱線してしまったな」

 

 敢えて咳払いをしてから、仮面の獣人はフォース・アルディナに関する話題を戻す。

 

「そう言えば、『青き狂戦士』が自分のログデータを消しても、結局はGBNを続けているのだろう?その辺りはどうだったのだ?」

 

 トラちゃんは少し思い出すような仕草を見せてから、口を開き直す。

 

「ふむ……奴は自分が『青き狂戦士』であることを周りから悟られぬよう、全くの別人を装ってダイブしていたらしいな。貴殿は、『シャルル』と言う金髪の少女ダイバーを聞いたことはないか?」

 

 聞き覚えのない名前を耳にして、仮面の獣人は顎に肉球を置く。

 

「シャルルと言う名前は知らなかったが、噂の一欠片ぐらいは聞いたことがある。なんでも『トチ狂ったレベルでピーキーなSDのシャア専用ザクを駆る初心者』がいたとか……」

 

「まぁ、"中の人"がSランククラスのダイバーだからな」

 

 どこぞの"チャンピオン"も初心者を装いながら、全く正体を隠す気が無かった事だしな、と、トラちゃんは脳裏に壮年の金髪男性の顔を思い浮かべる。

 そもそもあの"チャンピオン"、初心者のフリをするのならせめて愛機ではない別のガンプラを使えば良かったものを、わざわざ擬装用のアウターパーツを用意していたくらいだ。そんな大掛かりかつ極めて緻密な製作技術を持った初心者がいるはずなかろうに。

 それでもアウターパーツが破壊されるまで正体がバレなかったのは、相手もまた純朴な初心者だったからか、ダイバーのアバターオプションとして仮面を付けていたからか。

 普通なら『素顔を隠す=怪しい』はずなのだが、"ガンダム"における仮面キャラはむしろ『基本の格好である』と認識されているからこそ、素顔を隠すことを怪しまれなかったのかもしれない。

 

 トラちゃんと仮面の獣人が話している隣で、バーテンダーはお白湯とおつまみの柿の種をやべー奴に用意していた。

 

「愛しのみ〜ちゃんが恋しいのは分からなくないけど、これでも食べて落ち着きなさいな」

 

「ムゥ……いただきます」

 

 やべー奴と言えども、その一言を忘れずに唱えてから、ポリポリとそれをつまんでいく。

 

「み〜ちゃんと言えば、彼もフォース・スピリッツの一員だったわね」

 

 ふと思い出したように、何気なく呟いたバーテンダーだが、

 

「スピリッツ!!そうだ……元はと言えばみ〜ちゃんは奴らに洗脳されて、奴らの言うことしか聞けなくなってしまったんだ!なのに周りの大人は、あんな人を人とも思わない非道な連中の味方ばかりィィィィィ……ッ!!」

 

 その名を聞いた瞬間、やべー奴は目尻をこれでもかと吊り上げてギリギリギリギリと歯を軋ませる。

 これで顔に傷が付いておかっぱ頭なら、完全に『女体化したイザーク・ジュール』そのものになるだろう。

 

「ん〜もぅ、落ち着きなさいなって言った端から何怒ってるのよ……あとそれ、間違いなくアナタの勘違いでしょ」

 

 頭が痛いとでも言いたげに片手で額を抱えるバーテンダー。

 このやべー奴、"み〜ちゃん"の姿でも見なければ落ち着こうともしないだろう。

 爆弾発言をしたと思えば落ち込んだりいきなり怒ったり忙しい奴である。

 

 それを横目で聞いていた仮面の獣人は、再びトラちゃんに耳打ちする。

 

「……何だ、彼女はスピリッツの面々に恨みでもあるのか?」

 

「恨みと言えば恨みだが、彼奴が一方的に勘違いしているだけ……恨みとすら呼べんよ」

 

 これもいつものことだ、とトラちゃんはわざとらしく肩をすくめて苦笑する。

 

 

 

 

 

 SDのシャア専用ザクの整備も終えて、シャルルは再びエントランスロビーに訪れていた。

 

「(さってと、次のミッションはどーすっかね)」

 

 先程のミッションの『ジャブローの風』で、結構なポイントを稼いだので、これだけでランクも『F』から『E』に上がっている。

 シャルルーー基、ハバキリとしては今日中に『D』ランクにまで上げたいと思っているところだ。

 想定外ではあったものの、あの正体不明のゼク・アインとの戦闘で、シャア専用ザクのスペック限界も推し量ることも出来た。

 一度の慣らし運転だけであれだけ戦えるなら、もう少し難易度の高いミッションを受けても問題ないだろう。

 それを踏まえた上で、どのミッションが効率よくポイントを稼げるかを思い起こしていく。

 

「(『イオの嵐』『ローエングリンを撃て!』『パラオ攻略戦』……『ガラスの王国(サンクキングダム)』でも……)」

 

 今まで自分が受けてはクリアしてきたミッションを連々と脳内に挙げている時だった。

 

「……ん?」

 

 ふと、その光景が視界に映った。

 

「ねぇそこの君、良かったら俺らと一緒にミッション受けない?」

 

「俺ら、そこそこ強いんだぜ?」

 

 高校生くらいのダイバー二人が、シャルルと同じくらいの外見をした少女ダイバーに言い寄られている様子だ。

 

「(おー、ナンパだナンパ。頑張れー)」

 

 シャルルは傍観者ーーと言うよりは野次馬として、言い寄っている二人組を心中で(成功するとは微塵も思っていないが)応援してやる。

 しかし、少女ダイバーの方は困ったような顔をしつつ、遠慮したがっているように見える。

 

「えー、あたし、連れを待ってるから……」

 

「(相手さんは乗り気じゃなさそーだけど……)」

 

 ありゃ失敗だなー、と呑気に眺めているシャルルだが、

 

「まま、いいじゃんいいじゃん、すぐ終わるからさ」

 

 ナンパ二人組の方も諦めが悪いのか、なおも絡むばかりか、さりげ無く手を取ろうとしている。

 

「ちょっと、しつこいんですけど!?」

 

 少女の方も声を荒げて乱暴に手を振り払う。

 

「っ、てめぇ下手に出てるからって調子に乗りやがって……」

 

「(あ、馬脚が出たな……)」

 

 このまま放置していたら、きっと気に入らないことになりそうだと判断して、シャルルはその場に介入することにした。

 

「しつこい男は嫌われるって言葉知らないの!?」

 

「あァ!?喧嘩売ってん……」

 

 いよいよ手が上がり始めるかと言う一触即発の瞬間へ、シャルルは何も恐れることなく堂々とやってきた。

 

「ごっめーん、待っちゃったかなー!」

 

 わざとらしく高い声を出しつつ、シャルルは少女ダイバーの方へ話しかけ、その場の三人の視線が集中する。

 

「ミッションの予約に手間取ってさー!ほら、行こ行こ!」

 

 誰の有無も言わせない内に、シャルルは少女ダイバーの手を取って、その場を去ろうとする。

 

「……そっちから喧嘩売っといてはいサヨナラ?ざけてんじゃねぇぞゴラァ!」

 

 二人組の内の一人がシャルルを殴ろうと拳を振り上げてーー

 

「ほーん?」

 

 シャルルは不敵な笑みを浮かべた。

 だが、その振り下ろされる拳に対して迎え撃つことはない。

 

 次の瞬間、シャルルの身体は床に叩きつけられ、転がるようにしてエントランスロビーの壁にぶつかった。

 

「え、は?」

 

 拳を振り下ろし終えた男は、何故か呆気を取られたような顔をしていた。

 

「ちょっ、ちょっとっ!?」

 

 庇われた側の少女ダイバーは、エントランスロビーの端で転がっているシャルルを助け起こす。

 

「いっつ……いくらGBNでも、殴られたら結構痛いね……」

 

 シャルルは顔を歪ませて、左の頬を手で押さえる。 

 今度は少女ダイバーがシャルルを庇うように、キッと二人組に侮蔑を込めて睨みつける。

 

「最ッ低……!」

 

「えっ、いや、ちょ、待てって……」

 

 すると、このやり取りに気付いた周囲のダイバー達ーー特に女性型のダイバーが、遠巻きに見ながら口々にヒソヒソ話を始める。

 

「ねぇ、見た?今の……」

 

「女の子を平気な顔して殴ってたし……」

 

「うーわ、キモッ……」

 

「自分が殴っといて何とぼけてるのかしら……」

 

「男ってあんなのばっかなのかな……」

 

 傍から見ればこの状況、『ナンパ男が逆ギレして女の子を殴った』と言う事に他ならない。

 だと言うのに、シャルルを殴った男は泡を喰ったように弁明しようとする。

 

「ち、ちげぇって!あ、あいつが勝手に吹っ飛んだだけで……!」

 

 しかしそれもそこまで、突然エントランスロビーに赤ランプが発光し、警報が鳴り響く。

 一拍を置いて、防護服を纏った運営ダイバー数人が現れ、その現場に駆け寄って来た。

 シャルルが殴られたのを見て、誰かが通報したのだ。

 

「IDナンバー01531482、レーク。01429371、ガイル。利用規約三章十二条、十五条、『他プレイヤーに不快を与えるような行為を行ってはならない』『みだりに他プレイヤーに暴力を振るってはならない』、以上二項目を違反したものとして、24時間の間、アカウントを停止させていただく」

 

「えぇぇぇぇぇ!?俺、殴ってねぇんですけどぉ!?」

 

「ってか俺、巻き添え喰らってる!?何で!?」

 

 男二人は慌てて否認しようとするが、運営ダイバーは被害者二名を指しながら理由を言い渡す。

 

「君達二人は彼女をミッションに誘おうとして、断られてもなお迫ろうとした。これがひとつ。もうひとつは、言わずとも分かるだろう」

 

「いやっ、だからさぁ……!」

 

 そしてトドメと言わんばかりに、ナンパされていた少女ダイバーからの証言だ。

 

「こいつがあの子を殴ってました。あたし、目の前で見てました」

 

 そう言いながら、なおも痛そうに頬を押さえているシャルルを指す。

 

「……だ、そうだ。言い訳があるなら、今から24時間後に受け付けよう」

 

 アウト。

 駆け付けてきた数人の運営ダイバーの内、二人がコンソールを開くと、即座に二人組を強制ログアウトさせ、さらにアカウントにロックを掛けた。

 それを確認してから、運営ダイバーの代表がシャルルと少女ダイバーに向き直って一礼した。

 

「お騒がせして申し訳ございませんでした。引き続き、GBNをお楽しみくださいませ」

 

 謝罪を終えるなり、再びコンソールを開いてエントランスロビーから去っていった。

 少女ダイバーは溜息をひとつついてから、シャルルの方へ向き直る。

 

「ねぇ、大丈……え?」

 

「お、どした?」

 

 殴られて痛がっていたはずのシャルルは、もういつもの調子に戻ったかのようにケロッとしていた。

 

「あ、えーっと……その、大丈夫?痛かったよね?」

 

 少女の心配をよそに、シャルルは特に痩せ我慢をしている風な様子は見せない。

 

「んー?これっぽっちも痛くねー……ってかそもそも殴られてねーしな」

 

「……え?殴られて、ない?」

 

 あれだけ派手に殴り飛ばされていながら、殴られていないとはどう言うことか?

 頭に疑問符を浮かべまくる少女を見て、シャルルはその疑問を説明する。

 

「簡単だって。殴られる寸前に、わざと仰け反りながら床を転がっただけ。ま、一歩間違ったらマジで殴られてたけど」

 

「じ、じゃぁ、痛そうにしてたのって……」

 

「もちろん演技。いやー、周りの皆さんがあっさり騙されてくれたおかげで、荒事しないで済んで良かったぜ」

 

「…………」

 

「そりゃな、あんなザコキャラ二人くらい力尽くでも良かったんだけどさ、喧嘩両成敗に巻き込まれたくなかったんだよなー」

 

 ケラケラ笑うシャルルを前に、少女は開いた口が閉じられなかった。

 

「っと、邪魔して悪かったね。じゃーな」

 

 それ以上話しかけることなく、シャルルは軽く手を振って踵を返す。

 さて、改めて次のミッションはどうしようかと、ミッションカウンターへ足を向け直す。

 が、

 

「あっ、ちょっと待って!」

 

 つい先程に自身が助けた少女ダイバーに呼び止められ、シャルルは足を止めて振り返った。

 

「あのさっ、手伝ってほしいミッションがあるの!あたし一人じゃどうしても……」

 

「んー?」

 

 自称・そこそこ強い二人組ーーどうせ大した実力も無いのだろうがーーからの誘いは蹴っておきながら、シャルルには自ら声を掛けてきた少女ダイバー。

 シャルルはその理由を瞬時に悟った。

 

「(……オレが"女キャラ"、だからか)」

 

 先程にあんなことが起きれば、男性に対する警戒心や不信感が強まりもする。

 その点、通りすがりなのに自分を助けてくれて、そして同性なら、と言う魂胆だろう。

 女の子だと思っていた相手が、実は男だった……と言うことが発覚すれば、相手にまた不快な思いをさせてしまうかもしれない。

 

 そこまで考えついたシャルルーーハバキリは、正直に答えることした。

 

「気持ちはありがたいけど、オレ、ネカマ(笑)だぜ?」

 

「え?ネカマ……男の子……って、え、えぇ……?」

 

 何?どう言うこと?と表情に出ている。

 

「だから、このアバターは女だけど、リアルは男ってことだよ。ちょーっと面倒な訳あって性別を変えてるだけで、別に隠すつもりはねーよ」

 

 だからドン引くなり嘲笑うなり罵るなりしてくれていーぜ、とシャルルはやや自嘲気味に笑う。

 しかし、対する少女はーー何故か笑った。

 

「ぷっ、ぷはははっ!自分で自分のこと「ネカマ(笑)だよ」って言う人とかっ、初めて見た……ッ!なっ、なんかおかしー!」

 

「……おいおい、嘲笑ってくれて良いとは言ったけど、爆笑されるとは思わなんだ」

 

 予想外な反応をされて、シャルルは返しに困って声を濁す。

 

 一頻り笑って、少女は落ち着いてからシャルルに向き直る。

 

「別にあたし、ネカマとかネナベとか気にしないよ。それに、君って良い人みたいだし」

 

「そこは気にせんのかい。いや気にしてほしくねーけどさ。……で、オレがネカマだって分かった上で、ミッションを手伝ってくれって?」

 

「そうそう。それで、このミッションなんだけど……」

 

 少女は頷きながら自分のコンソールパネルを開く。

 切り替え早えーなおい、と心中でツッコミを入れつつ、何のミッションを手伝うのかと身構えるシャルル。

 

「(まさか、難易度レベル10の『Awakening of the Trailblazer』とかじゃねーだろーな!?)」

 

 劇場版の『00』のタイトルから取られたそのミッションは、ほぼ無制限に出現する地球外生命体『ELS(エルス)』を相手に30分間生存する、と言うものだ。

 トップランカーが全力でスコア稼ぎをした結果、撃墜数がカンスト(カウントストップ)(99999999)に達したと言う逸話を持つ曰く付きのミッションだが、さすがにこれをクリアするには、シャア専用ザクではまず不可能だ。

 

「あった、これこれ」

 

 少女は自分のコンソールパネルをシャルルに見せてくる。

 シャルルはそれを目に通してーーーーー

 

「……コレクトミッションじゃねーか!」

 

 拍子抜けした。

 

 ミッション名『ピンクちゃん捜索任務』

 

 このミッションは『コレクトミッション』と言うカテゴリに含まれるもので、敵機の撃墜ではなく、特定のアイテムを指定数集めて納品するのが主な達成条件だ。

『ピンクちゃん』と言うのは、『SEED』のヒロインの一人、ラクス・クラインのお気に入りのピンク色のハロのことを指しており、その名の通りピンクちゃんを見つけ出し、指定ポイントまで運ぶと言うミッション。

 難易度レベルも1であるため、初心者一人でもまず失敗しないはずだが……

 

「何でこんな簡単なミッションで失敗するんだよ……」

 

「いやだって、ピンクちゃんほんっとに見つからないんだから!どこ探してもいないし!」

 

 少女の方は少女の方で、「難易度レベル間違ってるんじゃないのこれ!?」と頬を膨らませている。

 

「……とにかく、これを手伝ってほしーんだな。分かった」

 

 何故クリア出来ないのかと疑問は絶えないが、難易度レベル10のミッションを頼まれるよりも、数字的に10倍はマシだ。

 

「ほんと?手伝ってくれるの?」

 

「バカにするわけじゃねーけど、こんなもん手伝いの内に入らねーよ。もっとヤベーミッションを頼まれるかと思ってたからな」

 

「やったっ、ありがと!」

 

 パンッと手を打って喜ぶ少女。

 

「あ、そうそう、フレンド交換しとこうよ」

 

「おー、いーぜ」

 

 互いにフレンドリストを開き、プロフィールデータを飛ばし合い、登録。

 

「……Eランク?って言うか、え?ついさっきGBN始めたばっかりなの!?」

 

 シャルルのプレイ履歴を見て、少女は目を見開く。

 

「そーだけど」

 

 本当は一度ログデータを初期化してやり直しているのだが、そこまで説明するつもりのないシャルルは、嘘をつかない程度に頷く。

 

「……あたしもしかして、凄い人を誘っちゃったかも」

 

 頻りにプレイ履歴とシャルルの姿を見比べていた少女だが、気持ちを切替えて向き直る。

 

「あたし、『サッキー』って言うの。言っとくけど、ネカマとかじゃないからね?」

 

「オレはハバ……じゃなくて、シャルル。とりあえずよろしくな」

 

 シャルルと少女ーーサッキーは自己紹介を交わし、早速ミッションを受注、格納庫へ向かう。

 

 

 

「……ハバキリ?」

 

 ーーーーーシャルルのその後ろ姿を、誰かが見ていたことに気付くこともなく。

 

 

 

 

 

 つい先程に整備完了されたばかりのシャア専用ザクの隣に、もう一機ガンプラが追加されている。

 真っ先に目についたのは、暗緑色のガンプラが巨大な外套で身を覆う……と言うよりは、囲われているような外観。

 

「おー、エンドレスワルツのデスサイズヘ……ん?」

 

 シャルルはその機体が『ガンダムデスサイズヘル【EW】』をベースとしたガンプラだと読み取ったが、原典機とは明らかな相違点があることに気付く。

 

「なーんか、『アクティブクローク』がデカ過ぎるように見えるんだけど……」

 

 ガンダムデスサイズヘルの特徴とも言うべき黒い外套ーー『アクティブクローク』は、表面に耐ビームコーティングが施された増加装甲であり、通常はピッタリと覆うように本体に装着されるのだが、それを開いたその姿は蝙蝠の羽根か悪魔の翼を連想させる。

 しかし、シャルルの視界に映るそのアクティブクロークは、異様に大きいのだ。

 

「……あー、これ1/100のキットのパーツ使ってんのか」

 

「あ、やっぱ分かる?」

 

 シャルルの隣に立つサッキーは、悪戯っぽく口の端を曲げる。

 

「それに、よくよく見たらパーツの所々……ってか、本体の半分以上は『デスティニーガンダム』で構成されてるじゃねーか?」

 

 アクティブクロークの隙間から見えるパーツの面影から、このガンプラが『ガンダムデスサイズヘル【EW】の外見をした、デスティニーガンダム』であることにも気付くシャルル。

 しかし、待機状態にも関わらず装甲が有色であるところ、VPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲ではないようだ。

 

「凄い、そこまで分かるんだ」

 

「そりゃまー、ある程度ガンプラに詳しけりゃそれくらいはな」

 

 デスティニーガンダムなんかは特に有名な機体だしな、と口にしたところでシャルルは、あることを思い出した。

 

「(そー言えばあの『姐さん』は、ストライクフリーダムを"あんな風に"魔改造してた人だったな……)」

 

 幻愛(ラヴファントム)と銘打たれた、ショッキングピンクと黒で塗装されたガンプラを脳裏に思い浮かべる。

 そのストライクフリーダムガンダムのライバル機とも言えるデスティニーガンダムがこのような改造を施されているとなれば、何かの因果関係があるのかと勘繰ってしまう。

 

 そのことは一度頭の片隅に置いておくことにして、早速出撃準備を行う二人。

 

 今回のミッションの場所は『C.E.(コズミック・イラ)』の世界のひとつ、『ユニウスセブン』と呼ばれる、地球連合軍の核ミサイルによって破壊された農業プラントーーその周辺宙域だ。

 そのため、まずはガンプラを搭載可能なシャトルかクルーザーで大気圏を離脱する必要があるのだ。

 シャルルが手慣れたように格納庫からシャトルを準備し、シャア専用ザクとガンダムデスサイズヘルーーサッキーが言うには『ガンダムデスレイザー』ーーをシャトルに積載し、マスドライバーのレールへと誘導、乗り込むなりすぐにシャトルは発進、瞬く間に大気圏を離脱していく。

 

 大気圏離脱から間もなく、真っ二つに別れてしまった砂時計のような形をしたその質量物体ーーその片割れが無惨にも破壊されてしまったプラントが見える。

 これこそが、地球連合軍とザフト軍との本格的な開戦の引き金としまった、戦争の象徴ーーユニウスセブンだ。

 

 今回のミッションは『SEED』の時間軸で、ラクス・クラインがユニウスセブンで犠牲になった人間達への慰霊に訪れ、地球連合軍との諍いになった際に、ピンクちゃんを落としてしまったから見つけ出してほしい、と言うのが依頼文だ。

 

 シャルルはミッションの内容を確認しつつ、サッキーと簡単な打ち合わせを行う。

 

「発見したハロは、近くにいるアークエンジェルに届ける……んだったな」

 

「その見つけなきゃいけないピンクちゃんが、どこにもいないんだけどねぇ……」

 

「いないことはねーだろ。たまたま見つかりにくい場所にあっただけかもな」

 

 サッキーはこのミッションに何度も挑んでは、時間切れで失敗し続けていると言う。

 そんなに見つからねーもんなのか、とシャルルは少しだけ気を引き締める。

 

 ユニウスセブン周辺に近付いた辺りでシャトルを減速させ、ガンプラでの出撃に掛かる。

 ゼロGの船内を慣性運動しつつ、シャルルとサッキーはそれぞれのガンプラのコクピットへ乗り込んでいく。

 

 だが、シャルルはコクピットの中に入ろうとしてーー"ソレ"を見て思わずバランスを崩した。

 

「なっ……!?」

 

 崩したと言っても、すぐに手足を振るって姿勢を取り戻し、シャア専用ザクの装甲を掴む。

 目を見開くシャルルの目の前にいたのは、つい最近になって見覚えのあるピンク色。

 当然だが、探索目標であるピンクちゃんではない。

 

「こんにちは」

 

 シャア専用ザクのコクピットの中には、ジルがいた。

 

「ジ、ジル!なんでお前、こんなところいるんだ!?」

 

「ハバキリが見えたから、付いてきちゃった」

 

「付いてきちゃったって……お前はベルナデットかよ」

 

 シャルルの言うベルナデットとは、『クロスボーン・ガンダム』シリーズのヒロインの一人、『ベルナデット・ブリエット(テテニス・ドゥガチ)』のことだ。

 物語の中で度々密航を行っており、貨物船の倉庫からMSのコクピットまで、どこにでも潜り込み、その密航癖(?)は後の娘である『ベル・ドゥガチ』にまで受け継がれてしまっている。

 

『どこも出っ張ってない(身体の凹凸がない)』ところまで同じじゃねーか、と言いかけて押し止める。

 しかしその前に、シャルルは肝心なことに気付いていた。

 

「つーか、『何でオレがハバキリだって分かった』?」

 

 そう。

 ジルは「ハバキリが見えたから付いてきちゃった」と言った。

 "ハバキリ"がログデータを初期化して、名前も容姿も性別も変えていると言うのに、彼女は『シャルル=ハバキリ』であることを一目見ただけで見抜いた。

 

「? ハバキリでしょ?」

 

 何を言っているのかと、ジルは小首を傾げている。

 

「いや、確かにオレはハバキリに違いねーけどさ……」

 

 ジルはこの金髪碧眼のスレンダーな女の子のどこを見て、「ハバキリ」だと認識しているのだろうか?

 一説には、ログオフ中のプレイヤーのダイバーギアやガンプラを通じて、そのリアルの居場所を突き止めたりすることも出来るらしいが、それが何か関係しているのだろうか。

 つくづく、ELダイバーとはよく分からない存在だとシャルルは溜息をつく。

 

「シャルルー、どうしたの?」

 

 不意に、ガンダムデスレイザーに乗り込んだサッキーからの通信が届き、サイドモニターから彼女の顔が表示され、ジルの姿を視認して目を丸くした。

 

「あれ?そのピンク髪の娘、誰?」

 

 当然サッキーはそれを訊ねるが、シャルルは少しばかり返答に困る。

 フレンドだと答えれば「さっき始めたばかりの初心者じゃなかったのか?」と訊かれるだろう。

 しかし、知り合いのELダイバーだと答えるにも不自然だろう。

 なので、適当に誤魔化すことにした。

 

「拾った」

 

「……何言ってるの?」

 

 そう答えたシャルルに、サッキーは奇妙なものでも見たかのような顔をする。

 ……少なくとも、嘘はついていない。

 今はとりあえず有耶無耶にして、解決策を後で考えようと、シャルルは先行して格納庫のエアロックを開く。 

 

「シャルル、ザク、出るぞ!」

 

「あ、ちょっと待ってよ……サッキー、ガンダムデスレイザー、出撃するよ!」

 

 先にシャア専用ザクがハッチから発進し、続いてガンダムデスレイザーが出撃、最後にシャトルのハッチが自動的に閉じられる。

 

 シャトルからある程度距離を離してから、ガンダムデスレイザーは悪魔の翼(アクティブクローク)を広げ羽撃(はばた)く。

 

「なんつーか横に広いな、ソレ」

 

 シャルルはガンダムデスレイザーの姿を見て、率直な感想を口にする。

 横幅だけで言えば、アクティブクロークの左右でガンプラ四機分近くはあるだろう。

 目に見えるものが大きいと、敵対者へ威圧感を与えると言う副次効果が生じる。

 況してや、生物が本能的に恐れる『死』の象徴である悪魔、もしくは死神を模した姿だ、ガンダムデスサイズと言う機体を知らない者が見れば、無意識に恐怖を覚えさせるだろう。

 

「カッコよくしたのはいいんだけど、背中が重いし場所も取るから、鑑賞するにも保管するにもちょっと難しいんだよね」

 

 そう言ってサッキーは苦笑するものの、これだけ巨大な物体を背負いながら戦闘機動を行うのだ。

 ガンダムデスレイザーと言うこのガンプラ、ふざけたような見た目をしているがその性能はかなり高いのかもしれない。

 

 シャルルの考察もそこまで、ユニウスセブン周辺に到着する。

 

「んじゃー、二手に分かれて探しますかね」

 

「オッケー。見つけたらすぐ知らせてよ」

 

 シャア専用ザクとガンダムデスレイザーは左右に分かれて、スペースデブリの漂う中、ピンクちゃんの捜索を開始する。

 

 デブリからデブリへと蹴るように飛び移りながら、シャア専用ザクはモノアイをギョロギョロと左右させる。

 

「さて、どこにいるのやら……」

 

 プレイヤー個人が何度も同じミッションを受けても見つからないほどだ、それこそ難易度レベルを間違えたと錯覚するほど分かりにくいところにあるのか、それとも一周回って身近なところにあるのか。

 

「何探してるの?」

 

 シャルルの隣にいるジルが、そう訊ねる。

 

「今回のミッションのターゲットのハロ。……ほら、このピンクの丸いの」

 

 モニターから画像を呼び出し、それを見せてやる。

 ジルはその画像を見て、目をぱちくり、ぱちくりと瞬きを繰り返し始めた。

 

「これ、さっき見た」

 

「なんじゃとて?」

 

 シャルルは前進を止めて、手近にあったデブリを掴むようにして機体を静止させ、来た道を振り返る。

 

「どの辺で見たんだ?」

 

「ほら、あそこ」

 

 ジルがモニターのひとつを指差した。

 モニターを拡大表示してみると、暗礁となっているデブリベルトが映し出される。

 しかし、このデブリベルトでは目立つはずのピンク色は見当たらない。

 シャルルが見落としているだけか、それともジルが見間違えたのか。

 目を凝らしながらデブリベルトの様子をじっくり観察していくと、不意にシャルルはそこでモニターを止めた。

 

「……ん、んん?アレ、脱出ポッドじゃねーか?」

 

 モニターには、デブリベルトの中に埋まっているような形で、脱出ポッドーーそれも、ラクス・クラインが詰め込まれたそれと同じ型ーーが漂っている。

 それを目にしてシャルルは、何故サッキーがこのミッションを達成出来ないのかを悟った。

 

「……ピンク色を目印にして探してたら、そりゃ見つからねーわけだ」

 

 ピンクちゃんがそのまま放置されている、とはミッションに記載されていない。

 つまるところこのミッション、デブリベルトの中から脱出ポッドを見つけ出すことが成功の条件だったのだ。

 そー言うカラクリかよ、とぼやいてから、シャルルはアームレイカーを押し出して、再びデブリからデブリを蹴り移りながら、脱出ポッドの元へ向かう。

 もしかするとハズレの可能性もあるので、シャルルはシャア専用ザクのマニピュレーターを脱出ポッドに触れさせて、接触通信を試みる。

 

「おはよーございます。今朝のモーニングコールでございます。本日のユニウスセブンの天気は核ミサイル後デブリ、と非常に危険ですので外出はお控えくださ……」

 

『アィヤマタレィ!テヤンデーバーロー!テヤンデーバーロー!』

 

 シャルルのモーニングコール(?)を遮るように、機械音声が回線に届く。

 

「あ、これで間違いねーな」

 

 この似非江戸っ子な喋り方をするハロは、ラクスのピンクちゃんの他にいない。

 シャア専用ザクは右マニピュレーターで脱出ポッドを掴むと、デブリベルトから引き上げる。

 続いて、サッキーとの通信を繋ぐ。

 

『オヒケェナスッテ!オヒケェナスッテ!』

 

 数秒のノイズの後に、サッキーとの回線が繋がる。

 

「もしもーし、そっちの進捗はどう?」

 

「おー、見つかったぞ」

 

「えっ、嘘でしょ!?もう見つかったの!?」

 

 何気なく言ったシャルルだが、それを聞いたサッキーは驚愕する。

 

「マジ。とりあえず、アークエンジェルに持って帰るから、そっちは帰還の準備しといてくれ」

 

「う、うん、おっけー。シャトルに戻ってるね」

 

 サッキーとの通信を終える。

 何はともかく、これでミッションはクリアだ。

 

『ドスコイデゴワス!ドスコイデゴワス!』

 

「てめーはいちいちうるせーぞ、音量下げろ」

 

『コノ、バカヤロー!コノ、バカヤロー!』

 

「江戸っ子からいきなり標準語になったなおい」

 

『トゥッ!トゥッ!ウオォッ!トゥッ!ヘヤァーッ!モゥヤメルンダッ!!』

 

「別ゲーのヤツじゃねーか!いくら製作者がアスランだからってなんつーボイス吹き込んでやがる!?」 

 

 その内足からグリフォンビームブレイドでも生えてくるんじゃねーだろーな、と半ば本気でそんなことを考えたところで、

 

「……ハバキリッ」

 

 不意にジルが声を上げた。

 

「どーしたジル?」

 

「狙われてるっ」

 

 一拍を置いてから、『WARNING!』の赤文字がモニターに表示される。

 

「……何だ、長距離強行偵察型のジンでもいたのか?」

 

 少しだけ警戒心を強めて、モニターとレーダーを見比べるシャルル。

 レーダーには、"4つ"の敵対反応がこちらに向かってくる。

 シャア専用ザクはモノアイをその方向に向けた。

 

 鋭角な紅色のワントーン、スマートな青白色、ゴテゴテした緑と橙のツートン、左右非対称な目立ちにくい黒一色。

 

「おいおいおい……なんでXナンバー四機が、揃いも揃ってこんなとこに来てんだよ」

 

 イージスガンダム

 

 デュエルガンダム

 

 バスターガンダム

 

 ブリッツガンダム

 

『ヘリオポリス』内で極秘に開発されていたが、ザフトによって強奪された『地球連合軍のガンダム』である。

 それが、強奪された四機全てだ。

 しかし、このようなシチュエーションは難易度レベル1のミッションとは思えない。

 

「(……これはアレか?一定の条件を満たすと出現する隠し要素ってヤツか)」

 

 シャルルがそう呟くと同時に、四機分のターゲットロックがシャア専用ザクに集中、一斉にビームライフルによる射撃を行ってくる。

 シャア専用ザクは攻撃を回避すべく、脱出ポッドから手を離して、四筋のビームを掻い潜る。

 

「チッ、ジンライならまだしも、この機体でPS装甲持ち四機はキツイな……ッ」

 

 ビーム兵器を持たないシャア専用ザクで、PS装甲を持った機体を倒す手段は限られている。

 

 ひとつは、実弾射撃による攻撃でPS装甲に必要な電力を消耗させて、バッテリー切れーーひいてはPSダウンを起こさせること。

 PSダウンを起こして物理攻撃を無効化出来なくさえすれば、後はザクマシンガンを数発当てるだけで仕留められる。

 

 もうひとつは、バイタルバートへ正確にヒートホークを叩き込んで、コクピット内のパイロットに直接ダメージを与えること。

 PS装甲も完全無敵と言うわけではなく、通電された電量を上回る衝撃を一箇所に直撃させれば、少なからず破損させることが可能である。

 それだけの一撃をコクピット周辺近くに与えれば、少なくとも中のパイロットを負傷させて戦闘不能状態にさせられる。

 実際、ストライクガンダムが対装甲ナイフ『アーマーシュナイダー』をデュエルガンダムの腹部にフルスロットルで叩き込んだ結果、パイロットであったイザーク・ジュールは顔面に傷痕が残るほどの怪我を負っている。

 

 だが、前者を行おうとしても、先にザクマシンガンの弾が切れるのが先。しかも今回はザクバズーカを装備していない。

 

 後者の場合も、一対一ならそれも可能だが、相手は四機もいる。一人を狙えばその隙に他の三機がどう動くか。

 

 いずれにせよ、シャルルがこの状況を巻き返すのは非常に困難であることは変わらない。

 

 すると、イージスガンダムとデュエルガンダムが散開して左右から挟むように回り込み、その奥からバスターガンダムがさらに肩部のミサイルランチャーをばら撒き、ブリッツガンダムは『ミラージュコロイドステルス』を起動させ、この宇宙に溶け込むように"消える"。

 

「(イージスが支援射撃、デュエルが近接戦闘、バスターがその場で砲撃、ブリッツが死角から奇襲……ってとこか)」

 

 シャルルは努めて冷静に戦況を読み取り、対処に回る。

 シャア専用ザクはデブリの密集地帯に飛び込むと、手当たり次第にデブリを蹴り飛ばし、バスターガンダムからのミサイルにぶつけていく。

 続いてイージスガンダムからのビームライフルは、デブリに身を隠しながら凌ぎつつ、右手にはヒートホークを抜き放つ。

 数秒の間を置くなり、ビームサーベルを抜いたデュエルガンダムが、デブリを飛び越えながら肉迫してくるが、シャルルはアームレイカーを巧妙に上下させ、デブリからデブリへ、三角跳びをするように高速移動しつつ、ビームサーベルを振り翳そうとしていたデュエルガンダムに飛び蹴りを喰らわせる。

 

 しかし、波状攻撃の止んだその一瞬がシャルルの命取りだった。

 

「っ、ハバキリ後ろっ」

 

 ジルの警戒の声、次にアラートが反応、それに続いてシャルルがそれに反応した時には、既にミラージュコロイドを解除してPSを起動、複合防盾『トリケロス』のビームサーベルを振り翳すブリッツガンダムがいた。

 

「やっべッ……」

 

 完全にシャア専用ザクの死角に回り込まれていた。

 ビームサーベルがサーモンピンクの装甲を斬り裂くーーーーー

 

 その寸前、黄緑色に輝く三日月がブリッツガンダムを真っ二つに斬り裂いた。

 

 ブリッツガンダム、撃墜。

 

「ごめんっ、遅れちゃった!」

 

 ブリッツガンダムを斬り裂いた三日月ーービームシザースを振り抜いていたのは、巨大な黒翼。

 

 サッキーのガンダムデスレイザーだった。

 

「サッキーさん?わりー、助かった」

 

 撃墜寸前のところを救ってくれたことへの感謝もそこそこに、シャア専用ザクはザクマシンガンを連射、イージスガンダムを牽制する。

 

「シャアザクでこの四機相手にしてたの?無茶しすぎ……ってのッ!」

 

 ガンダムデスレイザーは左半分のアクティブクロークを閉じて、バスターガンダムからの集束火線ライフルのビームを防ぐ。

 

 シャア専用ザクとガンダムデスレイザーは背中合わせに立ち回り、残る三機を相手に死角をカバーし合う。

 乱戦による誤射を警戒してか、バスターガンダムは砲撃の手を止めて、イージスガンダムと体勢を立て直したデュエルガンダムはそれぞれビームサーベルによる近接戦闘を仕掛けてくる。

 

 シャア専用ザクがイージスガンダムと、ガンダムデスレイザーがデュエルガンダムと打ち合う中、シャルルは自分の中で何かが"噛み合う"感覚を感じていた。

 

「(こいつ……オレの動きに合わせてくれてるのか?)」

 

 背中合わせの立ち回りでも、ピタリと合わせてくる。多少の齟齬はあっても、すぐに修正もしてくれる。

 

「(いや、それだけじゃねー……オレもこいつの援護に回ってる……)」

 

 言葉無くとも、互いに互いをベストな位置でカバーし合える、絶好のポジショニング。

 

「(オレとこいつの、歯車が合う!)」

 

 再三四度、イージスガンダムとデュエルガンダムが肉迫してくる。

 

「シャルル!」

 

「おーよ!」

 

 いつの間にか、名前を呼ばれただけでその意図を読み取っていた。

 同時に、ガンダムデスレイザーは上へ、シャア専用ザクは下へそれぞれ散開した。

 肉迫する寸前に目標が動いたために、イージスガンダムとデュエルガンダムは衝突、体勢を崩してしまう。

 

「おら、よっとッ!」

 

 シャア専用ザクはすぐさまイージスガンダムに接近すると、ヒートホークを両手で握り直し、バイタルバートへと思い切り叩き付けてやった。

 PS装甲に阻まれるせいで真っ二つには出来なかったものの、衝撃と熱プラズマを直撃したイージスガンダムの胴体はズタズタになり、動かなくなった。

 

 イージスガンダム、撃墜。

 

 それとほぼ同時に、ガンダムデスレイザーのビームシザースの一閃が、デュエルガンダムをシールドもろとも真っ二つに切断したところだった。

 

 デュエルガンダム、撃墜。

 

 残ったバスターガンダムは、集束火線ライフルとガンランチャーを撃ちまくって二機を迎え撃つが、そのほとんどがデブリを盾にされるか、アクティブクロークに弾かれるだけ。

 悪あがきのつもりか、集束火線ライフルを前に、ガンランチャーを後ろに連結した、超高インパルス長射程狙撃ライフルをガンダムデスレイザーに向けて照射する。

 

 しかし、その濁った金色の火線が触れるよりも前に、ガンダムデスレイザーが"消えた"。

 

 ガンダムデスレイザーは、ガンダムデスサイズヘルのパーツを多分に含んでいるが、実際のベース機はデスティニーガンダムだ。

 デスティニーガンダムには、ステルス迷彩機能こそオミットされているが、ブリッツガンダムと同様にミラージュコロイドシステムを搭載している機体である。

 そして、ガンダムデスサイズヘルのパーツには、光学迷彩や撹乱物質の運用に適した性質を含む。

 謂わば、『ハイパージャマーの代わりにミラージュコロイドを搭載したガンダムデスサイズヘル』である。

 異なる世界観ながら、ミラージュコロイドとガンダムデスサイズヘルと言う組み合わせは、まさに水魚の交わり。

 

 視覚的にも電子的にも消えたガンダムデスレイザーから、シャア専用ザクへとターゲットロックを切り替えるバスターガンダムだが、そのシャア専用ザクはデブリからデブリへ蹴り移る高速機動により、正確な照準を付けさせない。

 不意に、超高インパルス長射程狙撃ライフルを構えたまま、右往左往するバスターガンダムの背後が"揺らぐ"。

 すぐ背後に敵対反応があることに気付いたバスターガンダムだが、もう遅い。

 

 三日月の形をしたビームが脇から生えたその瞬間には、バスターガンダムの半身は泣き別れてしまった。

 

 バスターガンダム、撃墜。

 

 周囲に他の敵機の反応はない。

 

「ふー……何とかなったか」

 

 シャア専用ザクのヒートホークのエネルギーを切りながら、シャルルは安堵に一息つく。

 同様に、サッキーのガンダムデスレイザーもビームシザースのエネルギーを消失させる。

 

「ねぇっ、今なんか、すっごい上手く行ったっぽくない!?」

 

 サイドモニターから、サッキーの笑顔が映し出される。

 

「ってか、あたしに合わせてくれてたんでしょ?」

 

「いや?むしろサッキーさんがオレに合わせてくれたんじゃねーのか?」

 

 サッキーは「シャルルの方から合わせてくれた」と言い、シャルルは「サッキーの方から合わせてくれた」と言う。

 無意識の内に互いを互いに合わせていたのだろう。

 

「そうなの?とにかく上手く行ったってことで!」

 

 どちらがどうだったと言う褒め殺し合いもそこそこにして、サッキーは先程にシャルルが手放した脱出ポッドを改めて保持する。

 アークエンジェルに到着するまでの間、申し訳程度にシャルルが周囲を警戒するものの、それ以上エネミーが出現することもなく、ピンクちゃんを乗せた脱出ポッドは無事にアークエンジェルーーラクス・クラインの元へ届けられた。

 

『Mission clear!』

 

 

 

 ミッション達成を確認して、シャア専用ザクとガンダムデスレイザーは、元々乱れ荒れていた上から戦闘の影響でさらにメチャクチャになったデブリベルトを渡って、自分達が乗っていたシャトルへと帰還していた。

 サッキーがデブリを避けるのに四苦八苦しているのを尻目に、シャルルはヒョイヒョイとデブリからデブリへ飛び移って行く。

 

「なんか、楽しそう」

 

 ふと、シャルルの傍にいたジルがそう呟いた。

 

「楽しそうって、サッキーさんが?」

 

 シャルルはジルが「サッキーがなんか楽しそう」と言ったのだろうかと反応するが、そのジルは「うぅん」と首を振る。

 

「ハバキリが、なんか楽しそうって」

 

「オレが?」

 

 そんな顔していたか、とシャルルは首を傾げる。

 

「うん。あの人と一緒に戦ってるハバキリ、すごく楽しそうだった」

 

「……そーかもな」

 

 否定はしなかった。

 あの背中合わせの立ち回りは、シャルルーーハバキリに確かな高揚感を与えてくれていた。

 昔のフォース仲間達と戦っていた時を思い出す。

 相手が格上だろうが何だろうが、負ける気がしないーーそんな高揚感だ。

 

「もっと」

 

 ふとまた、ジルが呟いた。

 

「楽しそうなハバキリを、もっと見たい」

 

 いつもは感情が抜け落ちたかのような表情しか見せないジルの、嬉しそうな笑顔で。

 

「……」

 

 シャルルは言葉を止めた。

 ジルの笑顔に見惚れたわけではない。

 しかしその笑顔は、今の自分が偽りの自分を演じていることへの罪悪感を問い詰めているようだった。

 

「(……どこかでケジメはつけねーとな)」

 

 いずれまた、『シャルル』から『ハバキリ』に戻る時が来るだろう。

 その時は……

 

「ねぇシャルル、さっきから気になってることがあるんだけどさ……」

 

 不意にまた、サッキーからの通信が届く。

 

「そのピンク髪の娘って、誰なの?」

 

「……」

 

 いつか来るその時よりも、今はこの時だ。

 もう有耶無耶には出来ねーな、とシャルルは誤魔化すかありのままを話すかを考え始めたーーーーー。

 

 

 

【次回予告】

 

 シャルル「サッキーさんと仲良くなったのはいいんだけど、コーダイとセアさんには何て説明すっかなー……今のオレがネカマであることも含めて」

 

 サッキー「んー……やっぱりシャルルって初心者じゃないよね?昔にGBNやったことあるの?」

 

 シャルル「しかもサッキーさんにはあっさりバレてるし……こりゃもう隠し通せねーか?」

 

 ジル「ねぇハバキリ。セアとこうちゃが、一緒にミッション受けようって」

 

 シャルル「おいマジか」

 

 サッキー「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション

 

『己の正義を貫いて』

 

 ……ちょっと、修羅場っぽい?」

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