ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション   作:さくらおにぎり

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7話 己の正義を貫いて

「み〜ちゃんとは神そのものであり、神が人の姿となって地上へと降り、母体を通じて現れた。それこそがみ〜ちゃんなのである。私は神が産まれた瞬間にしてこう叫んだ。「天の子、神の子、奇跡の子が生まれた!!」と。神が同じ人間として誕生したことが奇跡そのものであり、我々『み〜ちゃんファンクラブ』、その初代名誉会長である私、ま〜しゃ姉は神官としてみ〜ちゃんの可愛らしさに感謝し、そしてそれを世に広く教え説かねばならない。この教えに叛き、反を示すことは許されざる大罪であり、例えそれが同胞であろうとも粛正されなければならない。しかし、み〜ちゃんが完全なる神として存在出来る時間は極めて短く、一生の内、誕生から僅か15年にも満たない。15年の歳月を過ぎれば、その可愛らしさは急速に失われ、やがて神として存在出来なくなってしまう。み〜ちゃんが神である内に私、ま〜しゃ姉は彼との間に新たな生命ーーそれも彼の生き写しを残さねばならない。もしもこの神の遺伝子を後世に残せなければ、我々は存在する意味を失う。そして、み〜ちゃんはもう15を迎えて既に半年以上もの時が過ぎてしまった。我々に残された時間はあと僅かしかない。一刻も早くみ〜ちゃんを我が母国であるロシアへと凱旋させ、次の神となる命を胎に宿すための儀式を行わねばならない。み〜ちゃんが穢らわしい悪書を目に通し、結び付かせるための力を無為にしていなければ、儀式はほんの数回で完了される。これは全て、大いなるみ〜ちゃんの意志であり、全世界で僅か数百人の我々み〜ちゃんファンクラブはそれを遂行する義務がある。義務の障害となる存在はいかなる手段を以てしても排除せねばならない。そして、現時点で我々の最大の障害であるフォース・スピリッツは、まさに不倶戴天。しかし、あの愚者の集団はあろうことか、私のみ〜ちゃんの御身を捕えて洗脳し、奴らの盾になることを望まされている。み〜ちゃんの御身を盾にされては、我々は手出し出来ない。それは、我々自身が神に叛くことになるからだ。だが、好機がないわけではない。必ずやみ〜ちゃんの御身を奪還し、洗脳を解いた暁には、フォース・スピリッツの愚者どもを血祭りに上げ、そしてみ〜ちゃんと私は結ばれ、新たな神の子を育むために穢れ無き神聖なる我がスーシィヴァカ家にみ〜ちゃんを迎え入……」

 

「なーーーーーに冒頭から1000文字以上も無駄使いして演説してるの。新規の読者が見たら、これが何の二次創作なのか分からなくなるところよ」

 

 ※この小説は『ガンダムビルドダイバーズ』の二次創作です。

 

 一切の淀みなく流暢に舌を回すやべー奴に、バーテンダーはお白湯のおかわりを淹れながらそれ以上の演説を押し止める。ちなみに、この1000文字以上の中に15回も「み〜ちゃん」と口にしていたりする。

 

「…………」

 

 仮面の獣人は、このメタ過ぎる状況を前に居た堪れなくなったのか、残りわずかのコーヒーを一気に喉へ流し込み、カップだけをカウンターへ返す。

 

「すまんマスター、コーヒーをもう一杯頼む。今度は『ネオアメリカン』でな」

 

「はーい、ネオアメリカンね。少々お待ちを」

 

 オーダーを承り、バーテンダーはもう一度コーヒーメーカーに豆を注いでいく。

 

「全く、まさかコーヒーでヤケ飲みをすることになるとは思わなんだ……」

 

「Gガンダムのレイモンドは、コーヒーだけで一晩を明かしたことがあるわねぇ」

 

 再びコーヒー豆が挽かれていく音をバックに、トラちゃんは仮面の獣人へ話しかけ直す。

 

「おぉそうだった、シャルルと聞いてもう一つ思い出したことがある。貴殿はサギミヤ……いや、サッキーと言うダイバーをご存知か?」

 

 一瞬、本名を言いかけて、すぐにダイバーネームの方へ言い換える。

 

「……確か、デスサイズヘルの使い手だったか?あの突飛な改造を施したガンプラは印象深いと記憶している」

 

 仮面の獣人は、脳裏に巨大な黒翼を翻す暗緑の死神を浮かべる。

 

「まぁデスサイズヘルのパーツは多数用いられているが、正確にはデスティニーガンダムがベースだな」

 

 それはそれとして、とトラちゃんは話を続ける。

 

「そのサッキー嬢が、少しの間シャルルと行動を共にしていたこと。それともうひとつ……」

 

 ワイングラスに口を付けようとして、その中身が空になっていたことに気付くトラちゃん。

 

「……おっと、いつの間に飲み干していたか。姐さんよ、注文が重なって悪いが次は日本酒だ、『鉄ノ華』を頼む」

 

「はいはーい、コーヒーから先に用意するわね」

 

 コーヒー豆を挽き終え、粉末状となったそれに熱湯が注がれ、まずは蒸らしから。

 

「もうひとつ……なんだ?最後まで言ってくれんと後味が悪い」

 

「ハッハッハッ、めんごめんご。で、シャルルとサッキー嬢が行動を共にしていたところにな……」

 

 その先を聞いた仮面の獣人は、マスクのフィルタ越しに瞬きを繰り返した。

 

「それは……アレか?」

 

「そう、修羅場 と言うアレだ」

 

 

 

 

 

 フォン・ブラウン。

 宇宙世紀における月面都市のひとつで、ガンダム作品の中でも度々その場所を拠点として利用されている。

 

 そのフォン・ブラウン市周辺の広大な月面では、二つの機影が鎬を削り合っていた。

 ひとつは、ジルを乗せたシャルルのシャア専用ザク。

 

 相対するのは、ザリガニに似た真紅の巨駆ーーMA『ヴァル・ヴァロ』だ。

 

 初出となるのは『0083』。

 元ジオン軍のパイロットであった隻腕の男『ケリィ・レズナー』が、自分がパイロットとして戦えることを証明するがために、ガンダム試作1号機(フルバーニアン)のパイロットであるコウ・ウラキを名指しで決闘を行い、そして満足げに散っていったエピソードがある。

 

 ミッション名『蒼く輝く炎で』

 

 同作品のサブタイトルから取られた、難易度レベル『4』のこれは、月面でヴァル・ヴァロを撃墜すればクリア、と言うシンプルなミッションだが、その撃破目標のヴァル・ヴァロがかなり強く、レベル『5』、『6』のボスエネミーに匹敵するほどだ。

 

 シャア専用ザクと同じ単眼(モノアイ)を輝かせながら、機首となる頭部からメガ粒子砲が放たれ、シャルルとサッキーの二人を薙ぎ払わんとするが、両者は素早く散開して躱す。

 

「そらよっ!」

 

 地球の重力の1/6と言う半端な重力下の中で、AMBACによる姿勢制御とスラスターによる加速を同時に行う巧妙なマニューバを取りつつ、シャルルは照準をマニュアルで合わせ、ヴァル・ヴァロへ向けてザクマシンガンとザクバズーカのトリガーを同時に引き絞る。

 放たれる銃弾が装甲を叩き、続いて砲弾がヴァル・ヴァロに炸裂するが、MAの重厚な装甲の前には大した痛手にはなっておらず、表面が僅かに傷付き、焦げ目が付いたくらいだ。

 とは言えシャルルとて、これだけで倒せるとは思っていない。

 ヴァル・ヴァロの注意がシャア専用ザクに向けられ、対空ビームガンとバルカン砲が一斉に火を噴く。

 シャルルはアームレイカーを細かに振り回し、ビームガンとバルカンを確実に回避していき、そして隙が見えれば即座にザクマシンガンとザクバズーカを撃ち返してヴァル・ヴァロを被弾させていく。

 当然ながらそれは先程と同じ、大した痛手にはならない……だが、そんな「大した痛手にはならない」攻撃でさえ、一箇所かつ断続的に叩き込まれれば?

 

 ザクバズーカの爆煙が晴れたそこには、明らかに『被弾した』と主張するほどに傷付いたヴァル・ヴァロの姿が。

 如何に分厚く頑強であろうとも、集中的に衝撃を与え続ければ、やがては壊れていく。

 損傷によって動きを鈍らせるヴァル・ヴァロのすぐ側面が"ブレ"る。

 

「せぇのっとッ!」

 

 ミラージュコロイドを解除して姿を現した、サッキーのガンダムデスレイザーがビームシザースを袈裟掛けに一閃、ヴァル・ヴァロの左のクローアームを斬り落とした。

 

「もう一撃……」

 

 振り抜いた状態からもう一撃を与えようとビームシザースを振りかぶるガンダムデスレイザーだが、不意にヴァル・ヴァロのモノアイがガンダムデスレイザーの方を向く。

 すかさずもう片方のクローアームを伸ばし、ガッチリとガンダムデスレイザーのボディを挟み込んだ。

 

「あっ、やっば……!」

 

 深追いするんじゃなかった、とサッキーは慌ててヴァル・ヴァロの拘束から逃れようとするが、MAの臀力はMSの比ではない、むしろクローアームが挟む力は強まっていく。

 メギメギメギメギと嫌な音を立てながら、ガンダムデスレイザーの装甲が軋み始める。

 しかしーーーーー

 

「はいごくろーさん」

 

 そこへシャルルのシャア専用ザクが肉迫、ヴァル・ヴァロのクローアームを格納していたそのスペースへ潜り込むと、その内部へ向けてザクマシンガンを撃ちまくる。

 さすがのヴァル・ヴァロと言えども、装甲の内側までもが堅牢ではない。

 ザクマシンガンの銃弾が炸裂する度にヴァル・ヴァロは黒煙を上げ始め、

 

「んじゃ、終わりだ」

 

 トドメにザクバズーカを発射、反動に合わせるようにシャア専用ザクはヴァル・ヴァロから飛び下がる。

 一拍を置いて、ヴァル・ヴァロは小爆発を繰り返し、最後に派手に爆散した。

 

 ヴァル・ヴァロ、撃墜。

 

『Mission clear!!』

 

 

 

 

 

 数十分前に『ピンクちゃん捜索任務』をクリアしたシャルル(ハバキリ)とサッキー、ジルの三人は、続けてもうひとつミッションを受け、つい先程に『蒼く輝く炎で』もクリア、ベース基地に帰還しているところだ。

 

「やー、さっきはありがとね。危なかった危なかった」

 

 サッキーはシャルルに軽く笑いながら礼を言う。

 

「ま、結果的にオレがヴァル・ヴァロを仕留めれたし、文句はねーな」

 

 これでランクも『D』に上がるだろうしな、とシャルルは自身のログデータを目に通す。

 本来なら『B』か『A』辺りのダイバーが戦うだろうヴァル・ヴァロを撃墜したのだ、当然ダイバーポイントもそれに見合った数値を得られる。

 

「サッキーさん、次のミッションはどーする?」

 

 シャルルはサッキーに次はどうするのかを訊ねる。

 

「ごめんね、あたしそろそろ帰らないといけないから」

 

 サッキーの方はログアウトする予定の時間が近いらしく、今日はこれ以上ミッションを受けるつもりは無いようだ。

 

「そっか。んじゃオレも帰りますかね」

 

 早めに帰った方がテラスも安心するだろうと思いつつ、帰還用のシャトルを目視で確認する。

 

「ねぇシャルル、明日もログインする?」

 

「ん?何も予定が無かったらするつもりだな。行けるんならメッセ送るぜ?」

 

「うん、そうしてもらえると助かる」

 

「オケー。じゃ、乗りますか」

 

 そう告げると、シャルルのシャア専用ザクが先にシャトルの格納庫に乗り込む。

 その後で、サッキーのガンダムデスレイザーも続く。

 

「ジルちゃんは、この後どうするの?」

 

 サッキーは、同じくガンダムデスレイザーのコクピットに同乗しているジルに話し掛ける。

 

「……わたし?」

 

「あたし、ELダイバーって見るの初めてだからさ。シャルルが教えてくれなかったら、ジルちゃんがELダイバーかどうかも分かんなかったし」

 

 サッキー自身も「ELダイバーなる存在がGBNにいる」程度には知っていたが、実際にその目で確かめるのは今日が初めてだった。

 ジルは「んーと、んーと……」と言葉を選んでから、答えられるように答える。

 

「わたしと同じ、えるだいばー?がたくさんいるところにいて、いつもはそこで寝てる」

 

「ELダイバー専用の寮みたいな感じ?」

 

「りょー?って言うのは分からないけど、多分それでいいと思う」

 

 要約すると、ELダイバーとごく一部の管理者だけが立ち入り出来る場所にいる、ということらしい。

 

「そっか。そこって、出入りとかは自由なの?」

 

「うぅん、勝手に出ちゃダメ。外に出たい時は、ちゃんと外に出たいって言ってからじゃないとダメって」

 

「(……寮って言うよりは、まるで孤児院みたいね)」

 

 ELダイバー達がどのような生活を送っているのか、気になるところではあるが、恐らく一般ダイバーである自分では知り得ることは出来ないだろう、とサッキーは諦める。

 

「ふーん」

 

 ちょうど、ガンダムデスレイザーも着艦を完了する。

 

「着艦っと。ほら、降りて降りて」

 

「うん」

 

 サッキーに促され、ジルは開かれたコクピットハッチを伝ってガンダムデスレイザーから降りる。

 

 二機とも大きな損傷を負っていないため、整備を今日の内に済ませてから、シャルルとサッキーはログアウト、ジルは保護管理局の方へ呼び戻される。

 

 

 

 

 

 その日の晩。

 ログアウトして帰宅してきたハバキリは、今日はダイバーギアではなく、スマートフォンのアプリを使ってコーダイと呟き合っていた。

 

 ハバキリ:嘘・鋭敏

 

 コウダイ:本当・呆

 

 ウッソ・エヴィンとフォント・ボーの名前の由来を挙げることから始まったガノタ二人のトークは、相変わらず支離滅裂である。

 本日のお題は、『V』の量産型MS、『ジェムズガン』だ。

 

 コウダイ:ジェムズガンって、アニメだとポコポコやられまくってるけど、実際マジで弱いんかな?

 

 ハバキリ:『V』の企画当初は、『W』みたいに複数のガンダムがメインで、『トーマスガンダム』って青いタンク型の機体が主役機で、ガンダム05に当たるのが『ジェームズガンダム』って言う赤い中型の機体があったらしいぞ(真顔)

 

 コウダイ:えwマジかwwエヴィンだろお前www

 

 ハバキリ:でも監督の御大が「いくらなんでも子供向け過ぎる」って理由で却下したって。それで、考案途中だったジェームズガンダムをジム系の機体として再設計したのがジェムズガン。

 

 コウダイ:あっ(察し)。ジェームズガンダムを捩って、ジェムズガンか!なるほどなー(棒読み)

 

 ハバキリ:ちなみに武装に関しては、赤いから左腕ビームガトリングの全身重火器にするか、五番目だから右腕をドラゴンハングにするかどうか迷ったらしい。

 

 コウダイ:後のガンダムヘビーアームズと、シェンロンガンダムの原型であった。ジャスワイビー♪

 

 ハバキリ:トリアーエズ、クソ真面目に考察するとスペックそのものはヘビーガン先輩よりも遥かに上で、コスモ・バビロニア戦争でも余裕、木星帝国のバタラとも普通に戦えるレベル。

 

 コウダイ:ええやんジェムズガンイケるやん!誰だよ、ジェムズガンって実際マジで弱いんかな?とか寝言言ってるアホは。

 

 ハバキリ:ただ、ザンスカール帝国が地球侵攻に乗り出すまでの時間が長過ぎて連邦も暇だったんだよな。「俺らの相手になる奴いないし、ぶっちゃけスペックは低くていいよ(鼻をほじほじ)」って連邦のお偉いさん(笑)がクソみてーな要求した結果、ジェムズガンはそれ以上強くしてもらえなかった。

 

 コウダイ:そしたら、ザンスカールのヘリコプターとタイヤが強過ぎて草も生えなくなっちまったのか……(涙)

 

 ハバキリ:つーかタイヤが出てくる頃にはもうジェムズガンは画面からフェードアウトされてなかったっけ?同時期に作られたジャベリンの方がまだちょっと強かったのにな。

 

 コウダイ:それな、ジェムズガンとジャベリンだったらどっち派?俺氏はもちろんジェムズガン派。

 

 ハバキリ:オレもジェムズガン派。

 

 コウダイ:同志!

 

 ハバキリ:同志!!

 

 

 

 一頻りジェムズガンに関する話題で盛り上がり、切りのいいところでやり取りを終える。

 

「……どーするかね」

 

 とりあえず、そう口にしてみてから現状を認識し直す。

 

 今現在の『アメノ・ハバキリ』は、GBNのログデータを初期化し、それ以降の更新はない(と言うことにしている)。

 

 しかしその一方で、ダイバー『シャルル』としての活動は順風満帆。

 

 コウダイとセアは『シャルル』の存在を知らず、もう一方のサッキーの方は『アメノ・ハバキリ』のことを知らない。

 

 唯一、『アメノ・ハバキリ』と『シャルル』の両方を知っているのはジルのみ。

 ジルの場合は『シャルル=ハバキリ』と言う認識ではなく、容姿や性別などよりも先に『ハバキリ』だと思っているようだが。

 

「(なんだろーな、この、凄まじく宙ぶらりんな状況は)」

 

 シャルルと言うネカマでプレイしていることを、コウダイやセアに隠したいわけではない。

 ならば、今からでもシャルルからハバキリに戻れば良いだろうと思うその一方で、

 サッキーと共に戦えることを心地良く感じている自分もいる。

 あの、自分の歯車が相手の歯車が絶妙に噛み合う達成感と快感は、付き合いの長いコウダイとですら感じたことは少ない。

 だが、サッキーの方からすれば『シャルル』はただのネットワークの顔見知りの『シャルル』でしかないだろう。

『ハバキリ』の姿で彼女の前に現れて「オレはシャルルだよ」と言ったところで、嘘をついていると思われるのが関の山。

 とは言え、『シャルル』のままでコウダイやセアと接しようものなら、今度はその二人を混乱させてしまいかねない。

 

 どっち付かず。

 

「……あー、考えが纏まらん」

 

 ダイバーギアをベッドの上に放り出して、横になる。

 頭の中が煮詰まるような感覚は、これで二度目だ。

 

 その一度目は、フォース・アルディナから脱退するべきか否かを交錯していた時だった。

 あの時は、仲間達を火の粉から遠ざけるために、最適の行動を選択したはずだった。

 

 であれば今回は……コウダイとセアの元へ戻る代わりにサッキーとの関わりを絶つか、あるいはその逆か。

 

 そんな二者択一に視界を定められかけた時、ふと、ノイズまみれの耳障りな声が耳介に蘇った。

 

 ーーキミハ、オナジアヤマチヲクリカエシテイルジャナイカーー。

 

 フォース・アルディナを脱退し、コーダイとセアから身を置き、そして今度もまたか?

 

 二者択一から、自問自答へ変わる。

 

 …………………………

 

「なー、トーシロー」

 

 かつて、アルディナのフォース・リーダーにして、互いが互いの右腕となっていた、ある意味でコウダイ以上の親友へ呼び掛けた。

 

「こんな時、お前ならどーしてた?」

 

 返ってくるはずもない問い掛けに応えるのは、沈黙のみ。

 

「……それが分かるんなら、オレはアルディナの元から離れちゃいねーか」

 

 ワカラナイ。

 

 ふとまた、あのゼク・アインの耳障りなノイズが聞こえる。

 

 今はまだ、答えを出さなくとも良いだろう。

 だが、その出さなくとも良い時間も長くはない。

 焦燥感と、モヤモヤとイラつきが連続して襲って来る。

 

「分からねーのはオレの方だっつーの……」

 

 ふと、コンコン、とドアがノックされる音が意識に介入してきた。

 

「兄さん、晩ごはん出来ましたよ」

 

 テラスが夕食を作り終えて、呼びに来たようだ。

 

「ういうい、わーったわーった」

 

 自問自答は一旦棚に上げるとして、ハバキリは勢いをつけてベッドから跳ね起きた。

 

 

 

 棚に上げた自問自答とは言え、頭の片隅から消えたわけではない。

 豚肉の生姜焼きを箸で突きながらも、ハバキリは無意識の内に自問自答を繰り返していた。

 

「…………、ねぇ兄さん」

 

 そんな箸の進まない兄の様子を見兼ねたのか、向かいに座っているテラスが不意に話し掛けてきた。

 

「昨日から、何だか様子が変ですよ?」

 

「んー……?」

 

 自問自答のために意識片手間に反応するハバキリ。

 

「シャワーを浴びてるのかと思ったらいきなり怒鳴り声を上げて、どうしたのかと聞いたら「何でもない」って答えて、一日経ったら今度は考え事なんて……ほんと、どうしちゃったんですか」

 

「……オレがどーかしてるのは、昨日今日から始まったことじゃねーからな」

 

 意識片手間だろうが何だろうが、妹へ即座に軽口で返せる程度には冷静なつもりだった。

 

「茶化さないでくださいよ、私は本気で心配してるんですよ?」

 

 しかし、テラスにはとうにお見通しだろう。

 今の軽口がいつもと同じ調子で言えなかったことも。

 

「悪い。お前には話しておきたいとは思ってるんだけどな、オレも上手く整理出来てねー……」

 

 茶化すつもりはない。

 今ハバキリが抱えている問題とは、他人からすれば些細なことだろうが、本人はそうもいかない。

 

「……もしかして、ホシザキ先輩のことですか?」

 

 不意にテラスの口から、セアの名字が挙げられた。

 

「セアさん?あー、確かに関係してるな」

 

 何気なく答えたハバキリだが、その答え方に対してテラスは訝しげに目を細めた。

 

「兄さん?今、ホシザキ先輩のことを下の名前で呼びましたよね?」

 

「あの人、GBNはリアルネームでプレイしてるからな。そう呼ばせてもらってる」

 

「……あー、はいはい、そう言うことでしたか」

 

 何を察したのか、テラスは深い溜息をついた。

 

「最近、ホシザキ先輩がやけに中等部三年の男子と仲良くしてるって噂を聞いていたんですが、兄さんのことだったんですね」

 

 一度お茶を一口してから、言葉を続けるテラス。

 そこでコウダイの名前が挙がらないのは、何故かと突っ込むのは藪を突くようなものかもしれない。

 

「落ち込んでたりイライラしてたり、悩んでたりしてるから、てっきり兄さんはホシザキ先輩と付き合っていて、上手く付き合えていないんじゃないかって思ったんですけどね……まぁ、兄さんに限ってそれはないですよね」

 

「ひっでーこと言いやがる」

 

 とは言え、ハバキリにもそう言った自覚のようなものはある。

 学園のアイドルと言われるホシザキ・セアから(恋愛感情云々はともかく)一目置かれているとなれば、"そう言う関係"と疑われるのは当然だろう。

 

「で、兄さんはホシザキ先輩と付き合っているわけではないと」

 

「まーな。オレとセアさんが付き合ってる、なんて広まってみろ?オレは校門を潜った瞬間拉致られて何をされるか分からんぞ?」

 

 いくらハバキリが喧嘩のような荒事に慣れているとは言え、一人の時に完全な不意打ちを仕掛けられてはどうしようもない。

 あるいは、四人や五人ではなく、もっと十人二十人と言った数の暴力が相手でも同じことだが。

 

「それは可哀そうですね、恋人が酷い目に遭って悲劇のヒロインになってしまうホシザキ先輩が」

 

「おいこら、オレが拉致られることはスルーか」

 

 兄の心配をしていると言いながらサラッとぞんざいに扱う妹に、ハバキリは思わず素の反応で返す。

 まぁそれはともかく、とテラスはもう一口味噌汁を啜る。

 

「厳密な意味で、ホシザキ先輩絡みの問題ではないんですね?」

 

「そーなるな」

 

 例えもし、あの日にハバキリが請け負った初心者がセアで無かったとしても、今回と同じ問題に直面することになったかどうかは分からない。

 だが、セアのリアルの性別が女であることに別問題があった。

 テラスはハバキリの言葉を曲解して捉えたらしく、こんなことを言い出した。

 

「ホシザキ先輩と親交を深めている一方で、別の女の子にも手を出していて、二股に悩んでる……ってところですか?」

 

「HA?」

 

 ハバキリは「お前何言ってるんだ?」と言いかけて、テラスのその言葉が、『状況だけ見れば強ち的外れでもない』ことに気付く。

 

 セアとサッキー、時々ジル。

 

 そんな感じのタイトルのドラマがあったなー、と余計なことを頭に浮かべつつ、さらに余計なことにも気づいてしまう。

 

「(セアさん、サッキーさん、ジル……アレ?まさかオレ、二股どころか三股掛けてるんじゃね?)」

 

 いや、ジルはさすがにカウント外だろう(倫理的な問題ではなくELダイバーであると言う意味で)と思い直し、それでもやっぱり二股を掛けてるような状況には変わりないわけで。

 

「……に・い・さ・ん?まさかとは思いますけど、まさか?」

 

 自分の問い掛けを聞いた兄が固まっているのを見るや否や、テラスの纏う空気に怒気が見え隠れする。

 笑顔なのに目が一切笑っていない。それどころか、殺気立っているように見えるは恐らく気のせいではあるまい。

 

 こ れ は ヤ バ イ

 

 EXAMシステムのスタンバイか、『S.E.E.D』が覚醒したシン・アスカか、ガンダムフレームのリミッター解除か、いずれにせよ絶対に相手にしたくない状態だ。

 本能的にその危険を察知したハバキリは、多少嘘をついてでも弁解しなくてはならないとして、可能な限りいつものマイペースを装い直す。

 

「何を言い出すんだこの愚妹は、それこそまさかだ」

 

 わざとらしく大きな溜息をついて見せて、ついでに呼吸を入れ換える。

 

「大体な、オレがそんな器用な人間に見えるか?」

 

「見えます」

 

「なんでや」

 

 即答で返された。

 

「兄さんなら、身分を隠すために女装するくらい平気でやりそうですし」

 

 しかも、やけに核心を突きまくってくる。

 

「あのなテラス。確かにやろうと思えばそれも出来なくもねーけどな……」

 

「兄さんが普段人前でヘラヘラしてるのは、自分の腹の中うちを他の人に読まれたくないからでしょう」

 

 家族と言うのは、何故にこうも互いの思考を読み、読まれ合うものなのか。

 

「……ぐうの音も出ないとはまさにこれ」

 

「それで、実際のところはどうなんですか?」

 

 テラスの気配から怒気が消える。

 ハバキリはもう一度溜息をついてから、言葉を選びつつある程度は正直に答える。

 まともに答えれば問答無用で『二股男』の烙印を抉り刻まれるのは、目に見えているからだ。

 

 ログデータを初期化した後で、コウダイとセアに黙って新しく始めたこと。

 周りから自分が『ハバキリ』であることを隠すために、敢えてネカマとして活動していること。

 コウダイとセアのことを知らない(だろう)ダイバーとフレンドになってしまい、本来の『ハバキリ』に戻るべきなのか、それとも二人には黙ったままネカマとして動くべきなのかを悩んでいる。

 

 この時、テラスを誤解させないようにサッキーの性別は隠している。

 

 それを一通り聞き終えたテラスは、訝しげな顔を隠さない。

 

「所々、何か隠してそうな気がするんですが……まぁ、兄さんの事情は分かりました」

 

 どうしてそれをのらりくらりと躱そうとするんですか、とテラスは呆れたように溜息をつく。

 

「そんなもの、オオヤマ先輩とホシザキ先輩、それとそのフレンドさんに正直に話して謝れば済むでしょう……って言いたいですけど、兄さんの気持ちも分からなくはないです」

 

「自分が蒔いた種とは言え、めんどくせーことになっちまった」

 

 ハバキリは冷めかけて生温くなった生姜焼きと白米をかっ込み、それを味噌汁で流し込む。

 

「……ん。ごちそーさん」

 

「お粗末さまでした。……それで、これから兄さんはどうするんです?」

 

 現状をいくら認識したところで、打開策が見つかるかどうかはまた別だ。

 テラスもそれを理解した上で、ハバキリに問いかけた。

 

「もーちょい考えてみる。飯も食ったから、少しは頭も回るだろ」

 

 先に風呂入ってていいぞー、と言い残してから、ハバキリは自室に戻った。

 

 

 

 

 

 勉強机の椅子に腰掛けて、一番目につくところに置かれている、ジンライのモノアイと自分の瞳を合わせる。

 そのジンライの隣には、シャア専用ザクも置かれている。

 

 二機の蛍光ピンク色のモノアイが、試すようにハバキリを真っ直ぐに睨む。

 

 そうすること十数分が経ち、ふと脳裏に浮かんだのはーーーーー

 

 

 

 ーーもっと、楽しそうなハバキリを、もっと見たいーー。 

 

 

 

 ジルの笑顔だった。

 

 シャルルと言う名の仮面を被り、腹の中を見せたがらないハバキリの心底を見透かすような、曇りの無い純粋な笑顔を。

 

「(あいつに、嘘とか誤魔化しとか通じなさそーだしな……)」

 

 ハバキリはふと思った。

 

「……なにを、さっきから誤魔化すことばっか考えてんだオレは」

 

 そーじゃねーだろ、と自分に言い聞かせて頭を掻く。 

 

「あ、あー、そーかそーか。そーだったのな」

 

 そこに至って気づいた。

 自分は一体何に対してモヤモヤしてはイラついているのか。

 答えは単純。

 

『中途半端なことをしている自分が気に食わなかった』のだ。

 

 ストン、と何か腑に落ちるものを感じた。

 

 さっきまでは、『どちらを選ぶのが正しいのか』『選ばなかった方はどう誤魔化すのか』と言うことばかりを考えていた。

 そんなもの、どうでも良かったのだ。

 

「……よし」

 

 腹積もりは決まった。

 早速ダイバーギアを手に取り、メールの画面を開く。

 

 送信先は、サッキーだ。

 

 

 

 

 

 GBN上での現在時間は夜。

 暗い山中に紛れるように、一機のGBNガードフレームがホバー機動でアスファルトの上を滑り、それを警護するように、エールストライカー装備の『スローターダガー』と黒く塗装されたエコーズ仕様の『ジェガン』の混成二個小隊が、油断なく飛び交う。

 

「……こうもブンブンと飛び回っていては、かえって目立つのではないか?」

 

 GBNガードフレームを操縦するダイバーは、近くにいたスローターダガーのダイバーに通信を繋ぐ。

 

「だからといって、護衛機無しでは見つかった時に対抗し切れないでしょう」

 

「それを理解した上で、だ」

 

 スローターダガーとジェガンの群れに守られたGBNガードフレームは、順調に山道を下っていく。

 

「しかし、あの『ゲリラ』どもめ。我々がELダイバーを間引いているのだから、今のGBNが成り立っているのだぞ。必要悪と言うものを何故理解出来ん……」

 

「心中お察し致しますが、"悪"とは得てして理解されないものです。大儀と言うお題目はあっても、"マンハント"をしている以上、自分達はGBNの鼻つまみ者であることは、承知しております」

 

「悪党は悪党らしく皆から嫌われろ、か……」

 

 特撮アニメの結末のように、正義の味方が悪者を倒して終わりーーではない、その続きがあるのだから。

 

 謂わば、『正義とは悪を以て成り立つのであり、正義の味方にとって悪者とは必要な存在』である。

 

 "悪"と言う共通の敵がいるのだから、大衆は纏まっていられるが、それが無くなれば纏まりは簡単に解ける。

 大衆にとって、"敵"は常にいなければならない。自分の考えや行いが正しいのだと言う"愉悦"を覚えなければ、善悪の区別が出来なくなってしまうから。

 そして、その考えや行いを肯定してくれるのが正義の味方なのだ。

 自分を肯定し続けるために、大衆は声にせずとも"悪"の存在を望む。

 悪を演じるのも難しいものだ、とぼやいたところで、急にアラートが反応、宵闇の空を一筋のビームが切り裂いた。

 

「敵襲!ゲリラだ!上空から三機!急速に近付く!」

 

 敵機を捕捉しただろうスローターダガーの一機が敵襲を告げる。

 

 雲の隙間から現れたのは、『エアリーズ』と『クランシェ』、そして『ゼータプラス』の改造機だ。いずれも、モスグリーンやレーシンググリーンと言った、目立ちにくいカラーリングが施されている。

 

「ガードフレームの護衛はジェガン隊にさせろ!こちらのダガー隊で迎撃す……」

 

 そう言った端から、ゼータプラスから放たれたビームがスローターダガーの一機を撃ち抜き、墜落させた。

 

 スローターダガー、撃墜。

 

 それを口火にゼータプラスは下降し始め、それを援護するようにエアリーズとクランシェがスローターダガーへ向けて攻撃を開始する。

 

「ジェガン隊聞こえるか!スペード1シグナルロスト、ゼータプラスがそちらへ向かった!」

 

「クラブ1了解、引き続きガードフレームの護衛を継続する」

 

 スローターダガー二機と、エアリーズとクランシェによるドッグファイトが行われるのを尻目に、ゼータプラスは急速にGBNガードフレームと、それを護衛するジェガン隊を強襲する。

 

「予想よりも速いぞ!慎重にかかれ!」

 

 GBNガードフレームと足並みを揃えながら、ジェガン隊はビームライフルによる射撃を行うものの、対するゼータプラスはいとも容易くビームの弾幕を潜り抜け、その最中にもパイロンにマウントさせたビームライフルを発射、ジェガン二機を撃ち抜き、その速度のままMS形態へ急速変形、変形完了と共にビームサーベルを抜き放ち、最後の一機を斬り裂く。

 

 この間、わずか15秒。

 

 そのまま逃亡を続けるGBNガードフレームの正面に周り込み、ビームサーベルをもう一基抜刀、二刀流のビームサーベルによって、抵抗しようとしていたGBNガードフレームの五体をバラバラに斬り刻んだ。

 

 四肢を失い、地面に横たわるGBNガードフレームを見下ろしながら、ゼータプラスからの広域通信が届く。

 

『GBNプログラマーの、タカギ氏ですね?貴方に色々お聞きしたいことがあります。ご同行を』

 

 すると、既にスローターダガーを撃墜し終えたのだろう、エアリーズがその場でホバリングしながらサーチライトを照らしている。

 

「グッ、ゲリラどもめ……」

 

 MS形態に変形したクランシェに機体を拿捕され、そのまま上空へ連れて行かれてしまう。

 

 それを確認しつつ、ゼータプラスのダイバーはどこかに長距離通信を行う。

 

『こちら『フリューゲル』、ターゲットの確保に成功。これより帰投する』

 

 

 

 

 

 翌日の放課後。

 ハバキリは昨日と同じ体でホビーショップへ向かうと、すぐさまログイン、『シャルル』としてシャア専用ザクと共にGBNへダイブする。

 

 エントランスロビーに到着すると、その近くに翡翠色の髪と魔女っ子のコスチュームを身に着けたダイバーーーサッキーが待ってくれていた。

 

「あっ、シャルルー!」

 

 ハバキリーーシャルルの姿を見るなり、手を振ってくれる。

 

「おーっす、こんちはこんちは」

 

 シャルルもひらひらと手を振り返してサッキーの方へ向かう。

 会話が出来る距離まで近付くと、早速サッキーの方から話し掛けてくる。

 

「それでさ、昨日のメールにも書いてたけど『直接話したいこと』って?」

 

 そう。

 サッキーに自分に本当のことを話すのだ。

 自分は元々『ハバキリ』と言う名でログインしていたこと。

 ELダイバーの排除を推進している運営の強硬派達から狙われているため、そのハバキリのログデータを一度初期化し、今の『シャルル』として、全くの別人を装ってログインしていること。

 しかし、シャルルのままではハバキリだった頃の仲間と会えない。

 そんな中途半端な状況を嫌い、今一度シャルルからハバキリに戻ること。

 もちろん、自分が今までネカマとして行動していたことも、元の仲間たちにも話すこと。

 

「おー、とりあえず順を追って説め……」

 

 説明しますわ、と言いかけたところで

 

「あ、ハバキリにサッキー」

 

 どこからかジルが現れた。

 

「いしま……ってジルか」

 

 ジルの姿を見て、シャルルは話を止めてしまう。

 

「ジルちゃん?今日も遊びに来たんだ?」

 

 サッキーも意識をジルの方に向ける。

 

「うん、こんにちは」

 

 律儀にもぺこりと頭を下げて挨拶してくれるジル。

 保護管理局の方で、しっかりとした教育が為されているようだ。

 サッキーに挨拶を終えたジルは、シャルルの方に向き直る。

 

「ハバキリ、今日も一緒に行っていい?」

 

「んー、そりゃ構わんけど」

 

 しかし、それを聞いたサッキーが目を細めた。

 

「……あのさ、ジルちゃんってシャルルのこと「ハバキリ」って呼んでるけど、シャルル、ホントは初心者じゃなかったりする?GBNを始めたばっかりにしてはシステムとかすごい詳しいし、シャアザクの操縦技術だってメチャクチャ上手いし」

 

 なんかおかしいとは思ってたのよ、サッキーは訝しげにシャルルとジルを見比べる。

 

「サッキーさん、それを今から話そうとしてたんだよ」

 

 さて、話の腰を戻そうと改めて話そうとするシャルルだが、

 

「あれ?ジルちゃん?」

 

 聞き覚えのある声が聴覚に届いた。

 

「おっ、ジルちゃん。あっちは、ELダイバーの友達か?」

 

 ついでにもうひとつ。

 その聞き覚えのある二つの声を聞いて、シャルルは心臓がざわつくような感覚を覚えた。

 

 振り返って見れば、

 

 そこにいたのは、セアとコーダイの二人だった。

 ジルがその二人へ駆け寄るのを見て、サッキーは訝しげな表情を隠す。

 

「ジルちゃんの友達?」

 

「それっぽそーだな」

 

 ここでそれを肯定すれば、なおのことサッキーはシャルルを怪しむだろう。

 故にシャルルは曖昧に否定しなかった。

 

 そして、この状況。

 

 

 

 シャルル(ハバキリ)、セア、コーダイ、サッキー、ジル。

 

 

 

 ハバキリのことを知るーーセア、コーダイ。

 

 シャルルのことを知るーーサッキー。

 

 ハバキリとシャルルの両方を知るーージル。

 

 そしてこの状況を作り出し(てしまっ)た元凶ーーシャルル(ハバキリ)。

 

「(おいおいおいおいちょっと待てこの状況……下手したら修羅場か!?)」

 

 しかも、ジルはシャルルのことを何の疑いもなく「ハバキリ」と呼んでいるのだ。

 セアとコーダイの前で、ジルがシャルルを「ハバキリ」と呼べば「どう言うことだ」と。

 

 逆にサッキーの前で、ジルがシャルルを「ハバキリ」と呼んでもさらに怪しまれる。

 

 超スーパーすげーめんどくせーぞこれ、とシャルルは冷や汗が止まらない。

 超高速で頭の歯車をフル回転させるものの、打開策が見つかる間もなく、事態は彼の望まぬ方向へ突き進んでいく。

 

「ジルちゃん、向こうの人はお友達?」

 

 セアはジルと、シャルルとサッキーの二人を見比べる。

 

「うん」

 

 しかもジルは、今のハバキリがシャルルであることを認識していない。

 シャルル(ハバキリ)がこの状況と言う名の爆弾なら、ジルはそれを爆発させかねない火種だ。

 

 いつ爆発するか分からないこの修羅場。

 

「おっ、向こうの二人もなかなかの美少女……いいね」

 

 コーダイはコーダイで、シャルルとサッキーをロックオンしている。

 シャルルの正体を知った時のリアクションが気になるところだが、今はそれどころではない。

 

「ん?んーと、んーと……」

 

 そこでジルは何を思ったのか、セアとコーダイ、シャルルとサッキーの二人組ふたつをキョロキョロと見比べている。

 

「……うんっ」

 

 合点が入ったらしく、ジルはシャルルとサッキーの二人の手を取ると、セアとコーダイの方へ引っ張っていく。

 

「フレンド登録っ」

 

 ジルに引き込まれ、シャルルとサッキーは、セアとコーダイの前に立たされる。

 

「ジルちゃん、フレンド登録の前にまずは挨拶が先でしょ?」

 

 セアはジルの前で屈むと、人差し指を立てて優しく窘める。

 

「ん?はーい」

 

 ジルの素直な返事を聞いてから、セアはシャルルとサッキーの二人に向き直る。

 

「えーと、ジルちゃんのお友達ですか?」

 

 シャルルがすぐに受け答えしないと言う間を空けてから、サッキーが答える。

 

「あ、はいそうです」

 

 彼女が頷いてから、先にセアの方から名乗る。

 

「私はセアと言います。一応、ジルちゃんのお友達……だと思います」

 

 ジルとの付き合いが長くないためか、自信無さげに応じるセア。

 

「敬語じゃなくていいですよ。見た感じ、あたしより一個か二個上って感じですし……っと、あたし、サッキーって言いまーす」

 

 サッキーが自身の自己紹介を終えて、今度はコーダイ。

 

「俺の名はコーダイ!良かったらコーちゃんでもいいぜ!」

 

 女の子を前にしてか、コーダイはジルの時と同じような、調子外れなテンションで名乗る。

 一瞬、サッキーが怪訝そうな顔をしたことに気付いたのは、シャルルだけだった。

 

「そっちの金髪ちゃんは?」

 

 金髪ちゃんーーシャルルの方を見て、自己紹介を催促するコーダイ。

 シャルルーーハバキリは、この場では普通の女性ダイバーとして振る舞うべきかと考え、どうせ後で自分からバラすのだからいつも通りで良いかと決め付けた。

 

「オレはシャルルです。先に言うと、リアルの性別は男って言うネカマでーす」

 

 それを聞いたセアが「えっ、そうなの?」と驚いているのを尻目に、コーダイは不意にシャルルから見て半身の姿勢を取った。

 

「シャルル?女の名前なのに……なんだ男か」

 

 そのやり取りに反応したシャルルは、思わずその場のノリに乗った。

 

「シャルルが男の名前で何で悪いんだ!オレは男だよ!アバターは女だけどなー!」

 

 とは言え、最後に本当のことを付け足した上で、だが。

 

「おっ、これが通じるとはあんた、中々のガノタだな!」

 

 シャルルがネカマであることに落胆することもなく、ネタが通じたことを素直に喜ぶコーダイ。

 そんな妙な形の、双方の自己紹介が終わったところで、さてどうするかと互いに固まる四人。

 

「……あれ?ジルちゃんどこいったの?」

 

 最初にサッキーがそのことに気付いた。

 それで残る三人も気付き始める。

 いつの間にかジルが側からいなくなっている。

 

 ここはエントランスロビーなので、白昼堂々とELダイバーのデリートなど行われないはずだが……

 

「お待たせー」

 

 トテトテとジルがどこからか戻って来た。

 

「おいおいジル、勝手にどっか行ったら心配するだろーが」

 

「はい、ミッション受けてきた」

 

 一瞬、誘拐されたのではないかと思いかけたシャルルの不安を押し退けるように、ジルがコンソールパネルを見せてくる。

 

「受けてきたって……なに勝手に受注してるんだか」

 

 ジルはELダイバーではあるが、自身のプロフィールデータがあるため、ミッションを受けることそのものは可能だ。

 何を受けてきたのかと、シャルルはそれを覗き込んで内容を読み取る。

 

 ミッション名『トレーズ閣下からの頼みごと』

 

 このミッションの分類はコレクトミッションに当たり、ガンダムWの登場人物であるOZ総帥『トレーズ・クシュリナーダ』から「本日のバスタイムはバラのエッセンスを加えたいのだが、そのバラの花が足りないので、纏まった数を揃えて来てほしい」と依頼される、と言うものだ。

 

 達成条件は、『バラの花20本をスーパーソニックトランスポーターへ納品』

 

 ミッションが行われる場所は、エネミーが出現しないベースエリアの花畑なので、ガンプラに搭乗しなくとも、花畑へ移動するための足代わりさえ用意すれば良い。

 

「お花を集めてほしいんだって」

 

 なるほど、ジルが選びそうなミッションではある。

 ふむ、とシャルルは頷いてから、他三人にもそのミッション内容を見せてやる。

 

「ジルがこのコレクトミッション受けたいって言ってるんだけど、どーしますかね?」

 

 内容を目に通して、最初にセアが答える。

 

「簡単なコレクトミッションみたいだし、私は大丈夫だよ」

 

 次にコーダイ。

 

「ジルちゃんが行きたいって言ってるし、俺は賛成だ」

 

 最後にサッキー。

 

「バトルしないのはちょっと物足りないけど、たまにはいっかな」

 

 一応、全員賛成のようだ。

 

「みんな行きたいんだってさ。良かったなジル」

 

「うんっ」

 

 ミッションへ向かう前にフレンド交換をし合ってから、格納庫へ移動していく五人。

 

 

 

 

 

 現在の格納庫には、四機のガンプラが立ち並ぶ。

 

 シャルルのシャア専用ザク

 

 セアのガンダムMK-Ⅱ

 

 コーダイのキャノパルド

 

 サッキーのガンダムデスレイザー

 

 特に、コーダイのキャノパルドは、あれから武装を追加したのか、脚部のマウントラッチにミサイルランチャーを増設しているようだ。

 それ以外には特に見るべきこともなく、シャルルはキャットウォークを渡って、シャア専用ザクのコクピットに乗り込む。

 

「ジルちゃんは、私のMK-Ⅱに乗る?」

 

「うん、乗る」

 

 今回、ジルはセアと一緒に乗るようだ。

 コーダイが「たまには俺と一緒でも良いんだぜ?」とキメ顔でジルを誘ったのだが、

 

「こうちゃは大きくて狭そうだからやだ」

 

 と、ざっくりと心を抉るような発言を直撃し、泣き喚きながらキャノパルドに逃げ込んで行った。

 

 

 

 ハッチ開放、カタパルト展開、オールグリーン確認。

 

「ハバキ……んんっ、シャルル、ザク、出るぞ!」

 

「セア、ガンダムMK-Ⅱ、行きます!」

 

「コーダイ、キャノパルド、行くぜ!」

 

「サッキー、ガンダムデスレイザー、出撃するよ!」

 

 順々にカタパルトから打ち出され、ディメンションの空へ舞い上がる。

 

「(あ、そー言えばオレがハバキリだってこと結局言いそびれたな……ま、これが終わってからでもいーだろ)」

 

 そう気楽に構えるシャルル。

 

 しかし、この後に自分の想像とは違う形で正体を明かすことになるなど、この時は知るはずもなくーーーーー。

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 シャルル「さてと。さくっとバラを集めてとっとと帰るとしますか」

 

 ジル「あーか、あーお、しーろ、ぴんく、たくさんいっぱい♪」

 

 セア「こう言うミッションもあるんだね」

 

 コーダイ「しかし、まさかこの後であんなことになるとは、この時の俺達には考えられなかったのだった」

 

 サッキー「ちょっ、そう言うフラグ立てるような前フリはいらないから」

 

 シャルル「……あー、そんなこと言うから、なんかやばそーなのが来てるんだけど?」

 

 コーダイ「マジかよ俺のせいか!?」

 

 セア「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション

 

『迷い解き放つ時』」

 

 シャルル「いよいよ年貢の納め時……なんて言ってる場合じゃねーや、マジでどーするこれ」

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