ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション   作:さくらおにぎり

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9話 七星エクリプス

 それぞれ、ネオアメリカンコーヒーと鉄ノ華を啜る仮面の獣人とトラちゃん。

 やべー奴が椅子の上に立って『ガンダム草生エルの構え』を取りながら延々とみ〜ちゃんを崇め称える演説を続けているが、もはや店内に流れるクラシック音楽の一部と化している。

 

「しかし、『ELダイバー動乱』の終息の立役者である彼らが『ゲリラ』に身を落としているとは思わなんだ」

 

 仮面の獣人は、脳裏に毛先に赤みを帯びた黒髪に、時代遅れの番長のような学ランを着込んだ女性ダイバーを思い浮かべる。

 

「彼らだけではないぞ、ロイヤルナイツやトレイルブレイザー、サンダーバード……彼奴らと少なからず関わりのあるダイバーのごく一部もが、『ゲリラ』として行動していることがある」

 

 トラちゃんがそう補足する。

 なるほど、確かに一介のフォースでしかないのなら、『ゲリラ』の正体の尻尾も掴めないわけだ。

 

「ふむ……」

 

 仮面の獣人はマスクのフィルターの下で思案を浮かべる。

 

「何を考えている?」

 

 トラちゃんがそう問い掛けてから数秒の間が必要だった。

 

「彼ら……『ゲリラ』の面々は、ELダイバーを守るために行動しているのだろう?だが、反ELダイバーの勢力は……今でこそ沈静化しているが、少し前までは衰えるどころか、叩かれては硬くなる鉄のような勢いだったはずだ。活発化する都度に『ゲリラ』が火消しに回り、またそれ以上に活発化……そんなイタチごっこを繰り返すことが、『ゲリラ』の目的ではないはずだ。……物事の"落とし所"が見えんのだよ」

 

 過程と行動理念は分かる、しかし最終目標が何なのかが分からない。

 ただ理由もなく、自分に関係のない者のために矢面に立とうとする彼らの思惑が見えない、それが分からないほど彼らは賢く無くないはずだ、と仮面の獣人は言う。

 

 それを聞いて、トラちゃんは「くくっ」と低く笑った。

 

「貴殿はやはり優秀だ、そこまで読み考えているとはな」

 

「私はただ疑問を口にしたに過ぎんのだが……思わず的を射てしまったか?」

 

「フッ、糸口と言うものは得てして、思わぬところから引き当てるものだ」

 

 これだから不確定要素は面白い、とトラちゃんはお猪口に酒を注ぎ直す。

 

「『ゲリラ』の最終目標だがな、それは……」

 

 トラちゃんがそれを言いかけた時、

 

「御神体そのものであるみ〜ちゃんを洗脳し、意のままに操るフォース・スピリッツの愚者どもは、地獄に……」

 

 やべー奴がその先を言おうとした、その刹那

 

 

 

 

 

「使いじゃねぇぇぇぇぇェェェェェーーーーー!!!!!」

 

 

 

 

 

 どこからかそんな怒号が聞こえたと思えば、

 

 何者かがバーの床下をブチ破って現れた。

 

 

 

 

 

 アメノ・ハバキリがシャルルとして活動していたことを、彼自身の口から明かされて数日。

 ハバキリ、セア、コーダイ、ジルの四人の中にサッキーが加わるようになり、このメンバーが一緒になってミッションをいくつかこなし、一度は初期化したハバキリと、それに合わせたかのようにセアのランクが『D』にアップした。

 

 そんな数日後の金曜日の、学園での昼休み。

 

 高等部のクラスの教室で、セアとカナデは机を向かい合わせて昼食を摂っているところだ。

 

「最近何だか嬉しそうだね、セア」

 

 ここ数日上機嫌な様子のセアを見て、カナデはそう声を掛けた。

 

「そうかな?」

 

「そりゃぁもう。週明けの月曜日の時なんか、彼氏にフラレたみたいな顔してたのに」

 

「そ、そんな顔してたの、私……?」

 

 セア自身、ハバキリが自分から離れていった時(それだけ見れば彼氏にフラレたと言えなくもないが)はショックを受けたものだが、そこまで分かりやすく顔に出ていただろうかと思い直してみて、

 

「……うーん、確かにそうだったかも」

 

 思い当たる節しか無かったことに苦笑するしかない。

 

「でもまぁ、何かは分からないけど、悩み事が解決したわけだ」

 

「一応、解決したってことになるのかな?変な心配させちゃってごめんね、カナちゃん」

 

「心配してたことに変わりはないけど、そんなに深くは捉えてないよ。アメノくんに言いたいことを言っただけだからね」

 

 その週明けの月曜日の昼休みの屋上での出来事を思い浮かべるカナデ。

 あの時の彼ーーハバキリからは、もう一度やり直したいと言う気持ちと、やり直したところで結果は同じだと言う諦めがぶつかり合って、半ばどうでも良くなったように感じられた。

 そんな彼に、カナデは何かしたわけではない。

 ただ「やめたいならやめればいい」「それでもセアとは友達でいてほしい」と言ってやっただけに過ぎない。

 結局のところ、ハバキリは自分のことを自分でケリを着けたのだ。

 その彼が自分の決着を着けた結果、セアの悩みも解決したのなら、それでいいかとカナデはお茶の詰まったペットボトルを傾ける。

 

 

 

 その屋上では今……

 

 ハバキリが一人。

 急所をまともに打ち込まれて蹲っている男子が一人。

 後頭部をコンクリートの壁にぶつけて気絶している男子が一人。

 そのハバキリに首を握り締められて弱々しく抵抗している男子が一人。

 そして、床にぶちまけられたハバキリの弁当箱とその中身。

 

「なーお前ら……」

 

 いつものアメノ・ハバキリにしては珍しく、"キレて"いた。

 

「テラスの兄貴であるオレに向かって「妹さんを俺にください」って正面切って土下座しに来た、その硬化する前のパテ並みの根性だ・け・は・認めてやらんでもねーらしーからな」

 

 だけは、の部分だけを強調するハバキリ。それ以外は認めないどころか門前払いだと言うのは言わずもがな。

 

「でもなー……」

 

 首を握り締めている男子を振り下ろし、顔面を床に押し付けてやる。

 

「いくらテラスの作った弁当が食いてーからって、三人がかりでパクろーとした挙げ句台無しにするってのは、ちょーーーーーっとオイタが過ぎるんじゃねーのか、あ"?」 

 

 ハバキリがキレている理由とは至極単純。

 妹が作ってくれた弁当をーーひいては自分の食事をーーアメノ家の生活費をーードブに捨てたこと、だ。

 

「テラスがこの弁当を作るのに、何円掛かってると思ってる?」

 

 三人ともそれに答えることが出来ないと分かっていて、そんな問を投げ掛けるハバキリ。

 

「カネさえ払えば温めてから差し出してくれるコンビニ弁当じゃねーからな?」

 

 不意に、蹲っていた男子が立ち上がり、ハバキリの背後から殴り掛かろうとした瞬間、

 彼の顎に、ハバキリの上履きの踵ーー振り向き様の回し蹴りが炸裂していた。

 

「オレの昼飯代なんぞはそれこそカネを払えば済むけど、てめーらがテラスの睡眠時間と労力を返してくれるってのか?」

 

 倒れた頭を踏みつけてにじり、にじり、と踵を捩じ込む。

 

「てめーらは包丁で指を切ったことがあるか?跳ねた油で顔を火傷したことがあるか?玉ねぎを炒めて目に沁みたことがあるか?水分が多くてネッチャネチャになった米を残さず食べたことがあるか?表面が真っ黒になったハンバーグを飲み込んだことがあるか?」

 

 あるわけねーよな、と吐き捨てると、

 

「ありがたみも分からん畜生はその辺の雑草でも食っとけ!んでもって雑草を食うよーなド畜生に妹はやらん!!んーなド畜生以下に強制はしねーからあの世に行って帰ってくんな!!!」

 

 その怒号と共に、もう一度顎を蹴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 放課後。

 

「……で、今度は何をやらかしたんですか?に・い・さ・ん?」

 

 生活指導室の前で、鬼神のような笑みを顔に貼り付けたテラスが、仮にも兄であるはずのハバキリを見下す。

 

「あー……畜生と、ド畜生と、ド畜生以下に、食い物の恨みってのを教えただけだぜ?あと、ウチの妹を怒らせると世界が滅ぶから気をつけた方がいいって」

 

 指を手折りながら人数を数えるハバキリ。

 ついでに余計なことを付け加えた結果、

 

 

 

「ーーーーー兄さんって人はぁぁぁぁぁァァァァァ!!!!!」

 

 

 

 テラスの光って唸り輝き叫ぶ黄金の指を顔面にぶち込まれた。

 

「ギブギブギブ!頭部を破壊されたら失格になるから!」

 

「兄さんの悪評は私の悪評にも繋がるんですよ!それを分かっていてやらかしたんですか!?」

 

「人が作った弁当を台無しにするよーなアホにテラスの世話になる資格はねーよ!病院にでも行ってバカさを治してもらえばいーんだよ!」

 

「私のことを思ってくれてるのは嬉しいですけどね!だからって三人まとめて病院送りにすることはないでしょう!あと、病院ではバカもアホも治せません!」

 

 妹思いの末にキレた兄と、その兄を怒り叱る妹。

 とは言え、生活指導室前でギャーギャーと騒いでいれば、当然室内にいる者の耳にも入ってくるわけで。

 

「お前ら!兄妹喧嘩なら家でやれ!それと兄貴の方、ちょっと来い!」

 

 生活指導員に呼び付けられ、ハバキリは渋々と、本当に渋々と生活指導室に入る。

 

 

 

 

 

「あーもー、昼から最悪だったぜ……」

 

 生活指導員にこっぴどく言われた上に頬に拳骨を頂戴したハバキリは、下校の帰り道にガンダムベースに立ち寄り、そのままGBNへログイン。

 

 もちろん、金髪碧眼の少女『シャルル』としてではなく、本来の自分に近い容姿と、青と黒を基調とした軽装のダイバールックだ。

 

 既にベース基地のエントランスロビーで待ってくれていた、同じ学園のセアとコーダイ、ELダイバーのジル、最近になってよくつるむようになったサッキーの四人。

 

「そりゃお前、三人も病院送りにすりゃそうなるわな」

 

 久々にやりやがったなおい、とコーダイはおかしそうに笑う。

 

「中等部の男子が三人病院送りになったって聞いたけど、ハバキリくんが原因だったの?」

 

 高等部の生徒であるセアは詳細こそ知らないものの、学園に救急車が来校して来たのを聞いて、何かが起こったとは判断していたが、まさかそれが自分のよく知る人物によるものとは予想出来るものか。

 

「そいつらが、オレの昼飯をパクろーとしたんですよ。食い物の恨みってのはどー言うものかを身を持って教えただけなのに、解せぬ」

 

 オレ何も悪くないのに、とハバキリは拳骨を頂戴した方の頬を擦る。

 そんな彼の目の前に、ジルが歩み寄る。

 

「ハバキリ。悪いことしちゃ、めっ」

 

「……ハイ、スイマセン」

 

 よりにもよって、ジルにまで叱られる始末。

 とは言えハバキリとて自衛権を行使したに過ぎないのだが、さすがに「やり過ぎた」とは思っていなくもない。

 一人は今なお意識不明の重体、一人は窒息で心肺停止寸前のところにAEDで命拾いし、一人は顎関節が損傷して回復までまともに動かせなくなったのだ。

 状況が状況(そもそもの被害者はハバキリの方)だっただけに、辛うじて停学だけは免れたのだが、これからしばらく、ハバキリは教員達から目を付けられる日が続くだろう。

 

「まぁまぁ、自宅謹慎にならなかっただけ良かったんじゃない?」

 

 フォローのつもりなのか、サッキーはそれ以上その話題に触れようとはせずに、GBNに関する話をする。

 

「シャルル……じゃなくて、ハバキリもセアさんも、この間でDランクに上がったでしょ?だからさ、ここにいるみんなでフォース組んでみない?」 

 

 現在の彼らのランクは以下のようになる。

 

 ハバキリ︰D(元はSランク)

 

 セア︰D

 

 コーダイ︰S

 

 ジル︰D

 

 サッキー︰C

 

 そして、フォースを結成、もしくはフォースに参加するのに必要な条件は、Dランク以上であること。

 ここにいる五人ともDランクに到達しているので、フォースの結成、参加は可能だ(ELダイバーであり、なおかつ自分のガンプラを持たないジルのランクアップに関しては、他のダイバーと共にミッションに参加、クリアすることでポイントを得ている)。

 

 サッキーのその提案を聞いて、ハバキリは待ったをかけて、コーダイに向き直った。

 

「オレはアルディナから脱退してるからいーけど、コーダイはどーするんだ。お前、まだアルディナに所属してるんだろ?」

 

 そう。

 ハバキリは正式にフォースを脱退しているため、今現在はフリーのダイバーでしかない。

 だが、コーダイは今でこそフリーで活動しているものの、既存のフォースに所属していることに変わりはない。

 ハバキリからそう言われたコーダイは、何故か困ったように後頭部を掻く。

 

「……あー、そっか。あの時にはもうハバキリはいなくなってたから、知らないんだっけか?」

 

「?」

 

 彼が一体何を言うのかと耳を傾けるハバキリ。

 その内容は、彼自身の耳を疑うものだった。

 

「ハバキリがフォースを抜けてから四日くらいだっけか……『トーシローがいきなりフォースを解散させた』んだよ」

 

「……は?」

 

 ハバキリは聞き違えたのかと思い直すが、聞き違いようが無かった。

 トーシローがいきなりフォースを解散させた。

 どういうことかと、ハバキリはコーダイに続きを催促する。

 

「理由は分からん。通知が届いてると思って確認したら、もうフォースが解散になってたからな。トーシローに直接連絡取ろうにも、拒否される一方だ」

 

「……なに考えてんだ、あいつ」

 

 互いに額を突き合わせて思案を回す。

 女子三人は、二人で何か大事なことを話しているようだと遠巻きから見守っている。

 

「オレがアルディナから抜けてから、何か言ってなかったか?」

 

「特に何も……あーいや、んーとな……何か、「もう、こうするしか無いのか?」とか言ってた気がする。フォースを解散するしかない、って意味じゃ無さそうだけどな」

 

「……マジでなに考えてんだ、トーシロー」

 

 ハバキリにもコーダイにも、思い当たる節が無い。

 これ以上はただの憶測にしかならないと踏んで、コーダイは話を元に戻す。

 

「ま、トーシローのことは追々調べりゃいい。とにかく、今は俺もフリーってわけだからさ、このメンバーのフォースになるのは全然オッケーだ」

 

 遠巻きから見ている女子三人の方に意識を向け直して、フォースに関する話を続ける。

 

「……五人いるって言っても、ジルが自分のガンプラを持ってねーんだったな」

 

 ハバキリも、納得いかないながらも意識を切り替えて、このメンバーにおける懸念点を挙げる。

 彼の発言によって、ジル以外の四人の視線が彼女に向けられる。

 

「ガンプラが無いと、ふぉーす?に入れないの?」

 

 小首を傾げながらジルは訊ねるが、すぐにコーダイが補足する。

 

「いや、ガンプラが無くてもフォースに入ることは出来るんだよ。そこは心配しなくて大丈夫な」

 

 けど、とハバキリが言おうとしていた懸念も付け足す。

 

「フォース関連のバトルって、基本的に五人制なんだよな。このメンツでガンプラ持ってるのは、俺、ハバキリ、セアさん、サッキーの四人だろ?」

 

「あ……実質、一人足りないんだね?」

 

 何を懸念しているのかを、セアがすぐに読み取った。

 

「ってことは、あと一人勧誘しないといけないんだ?」

 

 サッキーもその懸念に気付く。

 

「まー、その辺はすぐに解決出来る方法があるわけじゃねーし、のんびり募ればいーだろ。頭数だけ慌てて揃えて、肝心のメンタルがあんぽんたんな奴だったら目も当てられねーしな」

 

 この間の"お気持ち警察"みてーな奴らとかな、とけったいな具体例を挙げるハバキリ。

 確かに、あのような連中は必要ない。むしろこちらからキックしてブロックもしてやるくらいだ。

 

「じゃぁ、フォースのことも考えながら、今日のところは普通にミッションってことで」

 

 最後にコーダイが締めてから、今日のミッションはどうしようかとミッションカウンターへ向かう一行。

 

 

 

 

 

 人の想いは、弱くて小さくて、不確かなもの。

 しかし、そんなちっぽけなものも集まり、繋がり合えば、強くて大きくて、確かなものになる。

 

 確かなものーーそれは、己の"魂"。

 

 肉体があろうとも、無かろうとも、自分は確かにここにいるのだと、感じることが出来る。

 

 感じることは出来る。しかし、それは自分にしかわからない。

 

 誰かにも、この喜びを分かってほしい。

 

 ならば声を上げるのだ。

 

 産声を以て、自分はここにいるのだと。

 

 "魂(スピリッツ)"に、"意思(インテンション)"を乗せてーーーーー。

 

 

 

 

 

 日の落ちた密林の中、黄土色の軍勢が、有機的な一つ目を光らせながら行列となって進む。

 手にしているのは、鬼の金棒の形に似たビームライフル。

『G』に登場する量産(増殖)機、『デスアーミー』の軍団だ。

 地球に落ちた『デビルガンダム(アルティメットガンダム)』が散布するDG(U)細胞によってほぼ無限に生み出される機体であり、単体であれば正規軍の量産型MSに譲る程度の性能だが、デスアーミーの恐るべき点はその何十、何百にもなる数の暴力にある。

 

 不意に、機械的に行軍を継続するデスアーミー軍団を照らす月明かりが陰った。

 

 デスアーミーの一機が、何事かとその陰に目を向ける。

 月を覆い隠しているのは、黒い"何か"。

 その黒い"何か"が、バサリと開いた。

 

 次の瞬間には、その黒い"何か"は緑色に輝く三日月を携えながら猛スピードで降ってきた。

 

 一閃。

 

 薙ぎ払われた三日月に、デスアーミー軍団はバラバラと壊れていった。

 

「これでよし、っと」

 

 黒い"何か"ーーガンダムデスレイザーを着地させたサッキーは一息つく。

 

 ミッション名『デビル包囲網を突破せよ』

 

 原典作品は『G』に当たり、南米ギアナ高地の広大な大自然の中で繰り広げられる戦闘系のミッションであり、弱小ながらも大量のデスアーミーを全機撃破し、最後にボスユニットであるデビルガンダムを撃破すればクリア、と言うものだ。

 

 サッキーは周囲に他のデスアーミーの反応がないことを確認してから、僚機へ通信を繋ぐ。

 

「こっちはもう片付いたよ。他のみんなは?」

 

 最初に応答したのはハバキリ。

 

「おー、こっちも終わってるぞ」

 

 一匹残らずスクラップだぜ、と機能停止したデスアーミーの首を蹴り飛ばすのは、シャア専用ザクではなく、ハバキリ本来の愛機、ジンライだ。

 以前のジンライとは少しだけ外観が異なっており、パーツの一部が『ジンハイマニューバ』の物に取り換えられている。

 元々が同じジンであるため、パーツの互換性を活かしたミキシングだ。

 

 機体銘はジンライ改め、『ジンライ改』

 

 彼の次に応答するのは、コーダイ。

 

「今忙しくてな……ほい来たっ、ストラーイク!」

 

 高台の上にいるコーダイのキャノパルドは、タイミングを計っていたようで、それに合わせてコーダイはスイッチを押し込んだ。

 すると、高台に近付こうとしていたデスアーミー軍団は突如として、爆炎に呑み込まれた。

 なんの事はない、デスアーミー軍団の進行路に地雷をいくつか仕込んでいただけだ。

 

「はっはーっ、これで済むなら安いものだ、ってな!」

 

 高笑いを上げながら、デスアーミー軍団の撃破を告げるコーダイ。

 

 最後に応答するのはセアとジル。

 

「ちょ、ちょっと待ってねっ!」

 

 セアのガンダムMK-Ⅱはビームライフルで一機ずつデスアーミーの数を減らしているのだが、さすがに数が多いので時間が掛かっているようだ。

 

「今は話しかけないで、って」

 

 代わりにジルが代弁して応答する。

 

 現状、ハバキリ、コーダイ、サッキーの三人は自分の持ち場のノルマは達成したが、セアだけが少し手間取っている。

 

「あたしが助けに行こっか?」

 

 サッキーは自分がセアの援護に回るべきかと進言するが、先にハバキリがそれを遮る。

 

「いや、オレが片付けるわ。どーせならライフルも使い切っておきてーしな」

 

 そう言うなりジンライ改は持ち場から飛び立ち、セアが相手にしているデスアーミー軍団の横腹にアサルトライフルを撃ち込んでいく。

 ハバキリの加勢によってデスアーミー軍団は瞬く間にその数を減らされ、ようやくセアの持ち場も制圧する。

 

「ありがと、ハバキリくん」

 

「どーいたしまして。それよりセアさん、次が本命ですよ」

 

 弾を撃ち尽くしたアサルトライフルを捨てて、ハバキリはすぐにコンソールを打ち込む。

 今回はボスユニットが予めデビルガンダムだと分かっているため、補給輸送システムを活用して、対大型目標用の火器に換装するのだ。

 ほんの十数秒後に、ミデア輸送機が飛来、パラシュートに括られた武装コンテナを降下してくれる。

 開封したそれから引っ張り出すのは、ザフト製のMS用無反動バズーカ砲『キャットゥス』と、マニピュレーターで保持して使用可能なように改造した三連ミサイルポッド『パルデュス』だ。

 

 もう少しだけインターバルを置いてから、ギアナ高地の一角が盛り上がり、ガンダムタイプの機体が地面から這い出てくる。

 上半身はやや着太りしたような外観だが、問題はその胴体から下。

 蛇腹状の腹部に繋がれた巨大な六本の脚部と、甲殻類の鋏のような前足。

 

 これこそが、『最強最悪のガンダム』、デビルガンダムだ。

 尤も、このミッションの難易度レベルは3なので、原作をそのまま再現しているわけではなく、スペックもそれほど高いわけではない。

 ただ、巨体に見合う耐久値だけはあり、サイクルこそ遅いもののDG細胞の自己再生によって自動回復までされるので、断続的にダメージを叩き込まなければ、いくら攻撃しても倒せない。

 

「イヤー、いつ見てもデカいな」

 

 こんな怪物を前にしても、コーダイはお気楽だ。

 

「んじゃー、サクッと終わらせますか」

 

 ハバキリも同じ。

 

「あ、セアさんとサッキーは無理しなくていーよ。めんどいところはオレとコーダイで処理するから」

 

 ジンライ改はキャットゥスとパルデュスを構え直して、キャノパルドと共にデビルガンダム目掛けて突撃する。

 

「だからって後ろから見てるだけってのはね、っと!」

 

 ガンダムデスレイザーもビームシザースを軽く手遊ばせると、アクティブクロークを翻しながら、先行する二機を追う。

 

「私もっ……」

 

 エネルギーの残っていないビームライフルを手放して、温存していたハイパーバズーカを手に取るガンダムMK-Ⅱ。

 遅ればせながらセアも続こうとするが、

 

「……待って、セア」

 

 不意にジルが、セアの服の裾を掴む。

 

「どうしたのジルちゃん?」

 

「ちょっと、あっちに行ってほしいの」

 

 ジルが指差す方向は、デビルガンダムが点在する位置からややズレた場所。

 あそこに何かあるのだろうか。

 ジルは時々、何の前触れもなくこのようなことを言う。

 それは決して、嘘や思いつきと言ったいい加減なものではない、彼女が確かに何かを感じたが故の言葉だ。

 セアはジルの言葉を信じることにして、デビルガンダムへの進行方向から少しズレた方へガンダムMK-Ⅱを向かわせる。

 

 

 

 ジンライ改、キャノパルド、ガンダムデスレイザーの三機がデビルガンダムとの戦闘を開始すると同時に、ギアナの地中から緑色の蛇腹状の装甲の先に、ガンダム頭をくっつけたような奇妙なユニットーーガンダムヘッドが何機も現れる。

 それらガンダムヘッドは、口の部分を牙のように変形させて襲いかかって来るが、

 

「ほい、こいつらは俺が相手するぜ」

 

 コーダイが迎撃を買って出ると、キャノパルドはビームライフルを連射、瞬く間にガンダムヘッドの首を貫いては機能停止させていく。

 ガンダムヘッドの壁を突破、デビルガンダムへ肉迫するジンライ改とガンダムデスレイザー。

 

「オレが上から、サッキーは下から」

 

「オッケー!」

 

 それだけで意思疎通し、ジンライ改は高度を上げつつデビルガンダムへ迫り、ガンダムデスレイザーは高度を下げつつ、やや迂回しながら接近を試みる。

 ジンライ改は左手に持たせたパルデュスを三発とも一斉発射してすぐに捨てると、続いてキャットゥスも発射する。

 放たれた四発ともデビルガンダムに直撃するものの、これだけの巨駆ともなれば、耐久値も半端ではない。

 ある程度のダメージを与えたことへの応酬は、デビルガンダムからの拡散ビームだ。

 肩部の砲口から何筋ものビームが、ジンライ改を撃ち落とさんとあらゆる方向へ吐き出される。

 

「よっと」

 

 そう来ることはハバキリにも読めており、即座にジンライ改を飛び下がらせて拡散ビームをやり過ごすと、反撃にもう一発キャットゥスをぶっ放す。

 デビルガンダムは頭部のバルカンを速射、キャットゥスの砲弾を撃ち落とすが、その撃ち落とした砲弾の爆煙を切り裂きながら、ガンダムデスレイザーがデビルガンダムの懐へ飛び込んでいた。

 

「てぇやぁぁぁぁぁッ!」

 

 振り抜かれるビームシザースは、デビルガンダムの巨大な脚部を一撃の元に斬り裂く。

 巨重を支える脚のひとつを失い、デビルガンダムはバランスを崩す。

 足元にいるガンダムデスレイザーを睨みつけるデビルガンダムだが、畳み掛けるように砲弾の嵐が降り注ぐ。

 キャットゥスを連射するジンライ改と、その奥から肩部キャノンを撃ちまくるキャノパルドだ。

 

 

 

 

 

 砲弾の嵐が藍色の空を眩く照らすその一方で、セアとジルのガンダムMK-Ⅱは、戦場からやや離れつつあった。

 そこは、ちょうどMS一機ぶんが入れそうなくらいの、ーードモン・カッシュが明鏡止水の境地に至るために籠もったーー滝の洞窟だった。

 

「この、奥」

 

 ジルは、白刃の滝の奥に広がる暗闇を指す。

 

「ここに、何があるの?」

 

 何が来ても対応出来るように、ハイパーバズーカをリアスカートへ納め、アイドリングストップを掛けた状態でビームサーベルを抜き、洞窟の奥へ踏み込む。

 

 地盤の割れ目から滴る川の水が水溜りに弾ける音が、やけに大きく、不気味に反響する。

 

 洞窟の奥行きはそれほど深くなく、すぐに広い空間が見える。

 不意に、ガンダムMK-Ⅱのセンサーが、ガンプラの反応を捉えた。

 

「ガンプラの反応……」

 

 有視界でも、その青基調のトリコロールカラーの姿を捉える。

 通常のガンプラと比べても頭が大きく、手足の短い、寸足らずな外観。

 それがSDガンダムと言うカテゴリであることは、経験の短いセアにも理解出来た。

 防御武装のひとつなのか、それとも飾りのひとつなのか、機体の左半分を覆うような黒マントが特徴的だ。

 

 だが、機体は見るからにボロボロで、とてもまともに戦えるようには見えない。

 

『……クッ、まだ追ってくる……ッ』

 

 目の前にいるSDガンダムーー機体銘『七星剣士エクシア』と呼ぶらしいガンプラは、ガンダムMK-Ⅱへ向けて右腕に備えた、折り畳んだ剣と一体化したような短銃を突き付けた。

 

「っ、戦うつもり?」

 

 セアは身構えるが、それはジルに止められた。

 

「セア、あの人は敵じゃない。だから、コクピットを開けて」

 

「え?」

 

 今ひとつジルの思惑が見えないことを訝しみつつも、セアはガンダムMK-Ⅱのビームサーベルを切り、彼女の言う通りに従って、コクピットハッチを開けて、生身を見せる。

 

 いきなりコクピットを開いてみせたガンダムMK-Ⅱを見て、七星剣士エクシアはその挙動に躊躇を見せた。

 

『なんだ、どう言う……?』

 

 戸惑う相手の前で、ジルはガンダムMK-Ⅱの開かれたコクピットハッチの上に立つ。

 

「そのガンプラに、『わたしと同じ人』が乗ってる」

 

 ジルの言葉を聞いて、セアはその真意が分かるまでは黙っている。

 そしてその相手の方は、向けていた小銃を下ろし、こちらと同じようにコクピットハッチを開いてみせた。

 

 現れたのは、"二人"。

 

 一人は蒼い髪をした、中性的な少女ーーと言うよりは美少年だろうか。

 もう一人は、その蒼い髪の少年に抱えられた、クリーム色の柔らかな髪を持った、ジルと同じくらいの少女。

 少女の方は怪我を負っているらしく、苦しげに肩で呼吸している。

 蒼い髪の美少年ーー七星剣士エクシアを操縦しているダイバーは、ジルの姿を見て少しだけ考えるような素振りを見せてから声を返す。

 

「君"も"、ELダイバーなのか?」

 

「うん。そう呼ばれてる」

 

「……良かった」

 

 どうやら敵ではないと判断してくれたらしく、蒼い髪の少年は安堵に息をつく。

 

「なら分かるとは思う。……この娘も、君の"同胞"だ」

 

 少年の視線が、抱えている少女に向けられる。

 

 ここまでの状況を見て、セアは理解する。

 

 ジルは、自身特有の感知能力によってあの二人ーーどちらかと言えば少女の方ーーの気配を感じ取ったのだろう。

 恐らく、少年は偶発的にELダイバーの少女を発見し、保護しているのだろう。

 そして、あの二人は何者かに追われているのだとも読み取れた。

 

「何とかして彼女をベース基地まで連れ帰らなくちゃいけない。でも外にはデスアーミー……いや、今はデビルガンダムがいるし、そうでなくてもELダイバーのアンチ勢に見つかるかもしれない」

 

「だから、ここに隠れていたんだね?」

 

 ジルの隣に立ちながら、セアが話に加わる。

 彼女の問い掛けに、肯定のために頷く少年。

 

「大丈夫。今、外で私の仲間が戦ってくれてる。外の安全を確認したらまた戻って来るから、もう少しだけ待っていてくれるかな」

 

 まずは外で暴れているだろうデビルガンダムを撃破し、周辺の安全を確保してから、二人を同行させて帰還する。

 そう算段を立てるセア。

 

 しかしーーその算段は即座に崩れることになる。

 

 コクピットを閉じて外に出ようと踵を返すガンダムMK-Ⅱのセンサーが、滝の壁の向こう側から迫る敵対反応を捉えた。

 

「敵!?」

 

 滝を突き破りながら、デスアーミーがガンダムMK-Ⅱへ金棒を振り降ろしてくる。

 咄嗟にビームサーベルのエネルギーを入れ直しながら振り抜き、金棒を持ったデスアーミーの腕を斬り落とし、続いて腹部にも突き入れて沈黙させる。

 

 デスアーミー、撃墜。

 

 だが、これだけではない。

 滝の洞窟の外で待ち構えているかのように、いくつもの敵対反応ーー大きさから見ても同じデスアーミーだろうエネミーが点在している。 

 

「(私がここに入るところを見られた?)」

 

 今まで少年が見つからずにいたのに、セアがここに来た途端敵機が襲い来ると言うことは、後を尾けられていたのだ。

 

「……見つかるのも時間の問題だとは、思ってたけど」

 

 すると、ガンダムMK-Ⅱの後ろで、中破状態の七星剣士エクシアが再起動する。

 

「ごめんなさい、私のせいかも」

 

「気にしないでいいよ。……それより、まずはここから脱出しないと」

 

 ガンダムMK-Ⅱと七星剣士エクシアは、同時に滝の洞窟から飛び出した。

 

 

 

 

 

 撃ち尽くしたキャットゥスを捨てて、ジンライ改はリアスカートからシースザンバーを抜き放ちつつ、ハバキリはコーダイに通信を繋ぐ。

 

「コーダイ、ちょっといーか?」

 

「ん、どうした?」

 

 執拗に襲い来るガンダムヘッドをビームライフルで排除しつつ、コーダイは応答する。

 

「セアさんの反応が見当たらねーんだけど、どこ行ったか知らねーか?」

 

 そう訊ねるハバキリのコクピットのレーダーには、ジンライ改、キャノパルド、ガンダムデスレイザー、デビルガンダムの四つの反応が表示されており、本来ならもうひとつーーガンダムMK-Ⅱの反応があるべきはずなのだが、それが見当たらない。

 

「え?ありゃ、いつの間に……んでも、撃墜されたとかそんな通知は来てねぇな」

 

 コーダイの方でもーー索敵範囲の広いキャノパルドでもガンダムMK-Ⅱの反応は見当たらない。

 

「いくらジルちゃんでも、こんなドンパチしてる中で遊ぼうなんて思わねぇだろうし……」

 

「ちょっと男子二人!サボってないでこっち手伝ってくれる!?」

 

 不意にサッキーの通信が割り込んできた。

 見れば、多数のガンダムヘッドがガンダムデスレイザーに集中してビームや火炎放射で攻撃している。

 

「コーダイ、とりあえずセアさん探しは後だ」 

 

「お、おぅっ」

 

 セアとジルがどこへ消えたのか気になるところだが、今はデビルガンダムの撃破が優先だ。

 

 ジンライ改はシースザンバーを構え直しつつ加速、キャノパルドは脚部ミサイルポッドを全弾発射して、ガンダムデスレイザーを攻撃しているガンダムヘッドの群れへ命中させていく。

 動きを止めたガンダムヘッドに、ジンライ改はシースザンバーを振り降ろして脳天から叩き斬り、ガンダムデスレイザーはビームシザースを一閃、ガンダムヘッドの蛇腹状の胴体を真っ二つに切断していく。

 

 その最中に、ジンライ改のモノアイと、ガンダムデスレイザーのツインアイが交錯する。

 

「ハバキリ!」

 

「よーし!」

 

 サッキーの声を聞いて、何をすべきかを瞬時に読み取るハバキリ。

 

 なおも襲い掛かるガンダムヘッドの群れは一斉にビームや火炎放射を浴びせ付けてくる。

 それらを前に、ガンダムデスレイザーはジンライ改の前に躍り出ると、アクティブクロークを閉じて、敢えてビームと火炎を防いで見せる。

 凌ぎ切るや否や、ジンライ改はガンダムデスレイザーのアクティブクロークを踏み台にして跳躍、ハバキリはアームレイカーを一気に押し倒して最高速度まで加速、ガンダムヘッドの群れの中を突っ切るようにデビルガンダムへ肉迫する。

 ジンライ改を後ろから狙い直そうとするガンダムヘッドの群れは、アクティブクロークを開いたガンダムデスレイザーが振るうビームシザースによって首を落とされていく。

 

「……息ピッタリじゃねぇか、あの二人」

 

 わずかな言葉を交わすだけで緻密な連携を見せるハバキリとサッキーの二人を見て、コーダイは苦笑する。

 自分とハバキリは小学生からの友達で、それなりに付き合いが長い方だとは思っている。

 それだけ付き合いが長ければ息が合うことも多いが、サッキーとはまだ会ってから一週間も経っていないはずだ。

 にも関わらず、自分と同等か、或いはそれ以上の連携を見せ付けてくれる。

「なんであんなポッと出の奴が」とは思わない、むしろ「負けてはいられない」とさえ高揚する。

 デビルガンダムへ突撃するジンライ改を援護すべく、キャノパルドは残り少ないキャノン砲を惜しみなく撃ちまくる。

 

 

 

 一方の、ガンダムMK-Ⅱと七星剣士エクシアの二機。

 今しがた、予備の弾倉も含めて弾の切れたハイパーバズーカを捨てたガンダムMK-Ⅱは、ビームサーベルでデスアーミーを斬り倒し、七星剣士エクシアもまた、右腕に備えたソードでどうにか血路を切り開かんと奮戦している。

 しかし、デスアーミー軍団の包囲網は決して脆いものではない、そればかりか徐々に集まってくることもあって、二機のガンダムは追い込まれつつあった。

 

「これ以上は、キツいか……ッ」

 

 元より消耗していた七星剣士エクシアは、ここまで機体が保っているのが不思議なほどの損傷を負っている。

 セアのガンダムMK-Ⅱも、少なくない回数を被弾しており、そろそろシールドも保ちそうにない。

 

 一段落が着いた、と思ったその矢先にまた現れるデスアーミー軍団が、金棒型ビームライフルを手にジリジリと迫り来る。

 

 セアは、迫り来るデスアーミー軍団を見据えながらも思考を回す。

 

「(こう言う時、コーダイくんならどうする?ハバキリくんなら……?)」

 

 追い詰められたその時、人は二つのタイプに分かれると言う。

 

 ひとつは、焦りによって思考を乱すタイプ。

 

 もうひとつは、逆に冷静になって冴えるタイプ。

 

 例外として、焦りしなければ冷静にもならない平常運転を続けるタイプも存在するが、それは余程な人間に限られるだろう。

 

 セアはどちらかと言えばーー後者。

 そして彼女は、優れた理解力と頭の回転の速さを持つ、秀才である。

 

 レーダー反応に目をやれば、遠いながらもデビルガンダムの反応が見える。

 そこから得られる情報を読み取れば、彼女の頭脳は瞬時に事態のリスクとリターンを打ち出し、そこから最も安全かつ効率的(ローリスクハイリターン)な突破口を構築する。

 

 このデスアーミー軍団を二機で殲滅させるのは不可能。

 ハバキリかコーダイかのどちらかに救援を頼むべきだが、二人ともサッキーと共にデビルガンダム攻略に集中しているし、何より距離があるせいで通信も届かない。

 しかし、裏を返してみれば三人ともデビルガンダムの近くにいると言うこと。

 ならば、一か八かーーと言う博打は必要ない、もちろん不確実ではあるが博打を打つよりは遥かに安全な道……

 それは、敢えてデビルガンダムの近くに接近することでハバキリ達に捕捉してもらうことだ。

 そのためにはーーこのデスアーミー軍団の包囲網を一点突破する他に手はない。

 

 この間、僅か2秒。

 

 セアは七星剣士エクシアに接触通信を行う。

 

「今から、11時方向に突っ切るよ」

 

「……そっちにはデビルガンダムがいるけど?」

 

「その近くに私の仲間がいるから、私達に気付いてくれるはず。それしかない」

 

「……了解」

 

 半信半疑ながら話に乗ってくれたようだ。

 間合いに近付いたデスアーミー軍団は、一斉に金棒型ビームライフルを向けようとしてーー

 

 その瞬間、ガンダムMK-Ⅱと七星剣士エクシアはデビルガンダムがいる地点目掛けて突撃を開始する。

 

 

 

 不意に、キャノパルドのセンサーが反応をキャッチ、コーダイはそれを見やる。

 

「ん?」

 

 その反応の方向を拡大して見ると、自分達以外の戦闘が見える。

 

「まさか、セアさんか?」

 

 先程から姿が見えないのは、孤立してしまったからだろうか、とコーダイは読み取る。

 次に、キャノパルドの残弾を確認する。

 肩部キャノン砲は弾切れ、ビームライフルも二発しか残っていない。

 さすがにこれだけでは心許ない。

 よって、コーダイはサッキーに通信を繋ぐ。

 

「サッキー!悪いが5時の方向に向かってくれ!セアさんがいるかもしれねぇ!」

 

「5時方向!?なんでそんなとこから……うんっ、分かった!」

 

 手近にいるガンダムヘッドを斬り飛ばすと、ガンダムデスレイザーは踵を返し、指示された方向へ飛び立つ。

 

 一方のハバキリのジンライ改は、デビルガンダムからの激しい弾幕を掻い潜りながらもシースザンバーの腹で防ぎ、確実にデビルガンダムへと迫っていた。

 迫り来るジンライ改を前に、デビルガンダムは胸部のクリアパーツに高エネルギーを集束し始める。

 デビルガンダム最大の内蔵火器、『メガデビルフラッシュ』を放つつもりだ。

 しかし、それこそがハバキリが待ち望んでいたタイミング。

 アームレイカーを押し出して、弾幕回避のために抑えていた速度を瞬時に最速まで加速、デビルガンダムの正面へと突っ込む。

 

「吹っ飛べ」

 

 その速度のまま、シースザンバーの切っ先をデビルガンダムのボディへ突き込ませた。

 肉厚の刃が深々と突き刺さりーー同時にメガデビルフラッシュが暴発する。

 その暴発に巻き込まれる前に、シースザンバーから手を離したジンライ改は急速離脱。

 

 デビルガンダムはもがき苦しみながら、ジェネレーターの連鎖爆発に包み込まれていく。

 

 デビルガンダム、撃墜。

 

 

 

 親機とも言えるデビルガンダムの機能停止によって、デスアーミー軍団もまた、電源を切られたかのようにモノアイの光を消して動きを止めていく。

 

「止まっ、た?」

 

 デスアーミー軍団の渦中に突撃してはビームシザースを振り回していたサッキーは、突如として動きを停止したデスアーミー軍団を見て、操縦の手を止める。

 

「あっ、サッキーさん!」

 

 ふと、停止したデスアーミー軍団の向こう側から、セアのガンダムMK-Ⅱが見える。

 

「セアさん、……と、そっちのエクシアは?」

 

 サッキーの視認するモニターに、隣にいる七星剣士エクシアが映り、誰なのかと訊ねようとするが、

 

「すまない、ちょっと急いでるんだ。いきなりで申し訳ないんだけど、ベース基地に帰還するまでの護衛をお願いしたい」

 

 七星剣士エクシアの方から、有無を言わせぬ内に護衛を依頼する。

 

「え?まぁ、帰るついでにって感じみたいだし、いいよ」

 

 ハバキリとコーダイにも伝えないと、とデビルガンダムを撃破しただろう男子二人に通信を飛ばす。

 

 

 

 

 

 無事にベース基地まで帰還するや否や、七星剣士エクシアの少年はすぐに『ELダイバー保護管理局』に連絡し、ものの数分で彼が保護していたELダイバーの少女は、管理局によって保護された。

 

「では、彼女は我々が責任を持って保護致します。ご協力、ありがとうございました」

 

 ELダイバーの少女が連れて帰られるのを見送って、少年は安堵に息をつく。

 

「何とか、なった……」

 

 それもそこそこに、突発的ながら護衛を依頼した彼らーーハバキリ達に向き直って頭を下げる少年。

 

「おかげで助かった、ありがとう」

 

「別に礼を言われるもんじゃねーさ。オレ達が帰るついでにアンタが勝手に付いてきたってだけだろ」

 

 ハバキリの言うそれは謙遜でなく、そのままの感想だ。

 

「……そう言えば、頼んでおきながら名乗ってなかったね。ボクは『エミル』。フリーのガンプラ乗りだよ」

 

 彼ーーエミルが名乗ったことに合わせて、ハバキリ達もそれぞれのダイバーネームを名乗り返す。

 互いの自己紹介を終えたところで、サッキーが話を持ち出す。

 

「あのさ、フリーってことは、フォースに所属してないってことよね?」

 

「そうだけど」

 

「だったらさ、あたし達の……」

 

 

 

「"フォースに入ってくれ"って言うのなら、遠慮させてもらうよ」

 

 

 

 サッキーがその先を言うよりも先に、エミルはそれを遮った。

 

「ちょ、何で?フォースに入ってた方が、絶対楽しいって」

 

 食い下がろうとするサッキーだが、エミルはあろうことか、声のトーンを落としてそれを否定する。

 

「……楽しいばかりが、フォースじゃない」

 

 冷たい目をしていた。

 それは、"拒否"と言う意味を言葉にせずとも表している。

 

「とにかく、フォースに入るつもりはないよ。じゃぁね」

 

 会釈として軽く手を振ると、すぐにコンソールを開いてどこかへ移動してしまった。

 

「断られるとは思ってなかった」

 

 サッキーは肩を落とす。

 

「……ま、何か事情があったんだろーよ」

 

 ハバキリはエミルの様子から何かーーそれも自分やコーダイに近いソレを察し取ったのか、「何か事情があった」としか言わなかった。

 

「そうかも、ね……」

 

 セアは、そう言ったハバキリにも「何か事情があった」ことがあったのだと、言葉にはしなかった。

 

「まぁまぁ、勧誘に失敗したことはいいじゃないの。とにかく、ミッションクリアを喜ぼうぜ」

 

 コーダイもコーダイで「何か事情があった」ことを察したようだが、その話題から遠ざけるべく敢えて明るい声で言い張る。

 

 

 

 この偶然の出会いが、彼らの躍進の第一歩となるか、あるいはーーーーー凄絶なる戦いへのシナリオとなるか。

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 セア「うーん……このままじゃちょっと辛いかな……」

 

 ハバキリ「どーしたんです、セアさん」

 

 セア「ミッションの難易度も上がってきて、今のガンダムMK-Ⅱじゃ厳しいかなって……」

 

 ハバキリ「んーじゃ、セアさんもそろそろガンプラの改造に挑戦する頃合いですかね」

 

 セア「でも私、ハバキリくんのガンプラみたいな改造とか出来るか分からないよ?」

 

 ハバキリ「いきなりそんな改造はしなくていーです。まずは、誰でも作れるオリガンの基本、ニコイチからです」

 

 セア「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツインテンション

 

『デートコースはありふれた街の中で』

 

 って、何このサブタイトル!?これ、デートなの!?」

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