…普通の哲学者ってなんなんでしょうね?
教室にチャイムが響く。少し遅れてボサボサの髪をした男が入って来た。だいぶくたびれた服を着ている。
「はぁ〜い。おふぁよう…」
教卓で大欠伸をかます。授業が始まったのに微塵も緊張感がない。
「えー…っと、今日から倫理の担当する事んなった。葛 五味雄だ」
この男はダメだ。クラス全員がそう思った。なんせ微塵もやる気がみえない。教えようとする気がない。
「あー…。はっきり言う。俺はクズだ。ゴミの類だ。でもな」
そこで言葉を切る。ゆっくりと教室を見回した。
「哲学者なんてみんな
これが葛五味雄の最初の哲学者としての言葉だった。
「じゃ。君!」
目の前の男が指したのは近くに座っている男子高校生。
1番最初はアイツが犠牲になったか…
皆がそう思った。かわいそうに。だが皆助ける気はない。自分が犠牲になりたくないから。
「倫理って。哲学ってどんな学問だと思う?」
それは予想外の質問だった。そんな事、考えた事ないだろう。普通の男子高校生は。
「…わかりません」
そう答えるしかない。だがその男は更に質問を掘るのだ。情け容赦なく。
「あー。俺の授業で「わかりません」は禁止。なんか考えて、答えて。別に違ってても怒りゃせんから」
ウザッ。
クラス中全員がそう思った。どうせ怒るに決まってる。さされた人間はヤケクソで答えた。
「…ワケわかんない事を学ぶ退屈な時間」
その教師はヤケになって答えた事に対し…
ゲラゲラ笑っていた。目に涙まで浮かべて。…さされた男子高校生は若干気まずそうだった。
「ハァ…はぁ。あー…面白かったぁ、おい。ワケわかんない事か。お前にとってはそうなのかもな!」
ウザッ。
「倫理ってのは、よーわからん。その気持ちはよくわかる。何故なら俺も一緒だったからだ。大学で学ぶまでは倫理って哲学って、なんの意味があるの?って俺も思ってたからな!
国語は読解力を鍛える。数学は論理的思考を鍛えるみたいな
クズは教室を見渡す。
「答えは簡単だ!
「…それで先生が勤まるの?」
どっかから聞こえて来た呆れ声。だがクズは明確に反応する。
「勤まるとも!何故なら
皆が絶句する。その言葉に。教卓の男は頭をポリポリかきながら、
「…まぁ俺の大学の先生は俺よりもマシだったがね」
そう吐いた。そりゃそうだろう。少なくとも高校生にする話ではない。教師がクズな事など。1番重要な事がわからん先生が多い事など。
「哲学者達は皆クズだ。俺も一応、哲学者にギリギリ引っかかってたりする様な男だ。例外には漏れずクズだ」
まぁ、そりゃそうだろうね。と生徒達は思う。
「さっきの答えを教えてやろう。心して聞くがいい」
さっきの答え?生徒達の疑問をクズが吹き飛ばした。
「倫理とは、哲学とはどんな学問か?だ」
腑に落ちる生徒達を見渡してクズが言葉を紡ぐ。
「哲学とは、」
倫理とは哲学とはじゃないの?という声。
「どっちでも一緒だ。哲学とは、」
違うと思うよ!大きな声が教室に響く。
生徒の声がうるさいな…と思うクズ。揚げ足取りが本当に上手い。
「ニュアンスが違うだけだ。同じ事。
そんで哲学とは、「
まずはここを1番最初に教えておく必要がある。
これが今日の授業の、1番の大事な所であり、哲学を学ぶ上で必ず知ってなければならない「基本のき」だ。
これを知らずに哲学者達の論を学ぼうなんて、そんなヤツは無謀が極まっているか、狂ってるのどちらかだろうとしか言えない。そんな事だから倫理の時間が「意味わからん退屈な時間」にしかならんのだ。
四則演算ができない子供に大学の数学の証明ができない様に。
漢字が読めない子供に現代の心をうたれる小説を読ませてもムダな様に。
物事には順序というものがある。過程というものももちろん必要だ。哲学ではその過程を大事にする学問なのである。
そこをすっ飛ばし、答えだけ教えることになんの意味があるというのだろうか。
答えを覚えるだけなら小学生でもできる。
「数学で先生に「計算過程を書きなさい」と言われてクソうぜぇなと思った経験があるヤツがいるだろ?答えを書き写すヤツは特に。
…実は俺もその類でな、マジでうぜぇと思ってた。じゃあなんで計算過程を見せなければならないか。それはな、計算過程も採点に入ってんだよ。
なんでそんな先生からしても、クソだるいモンいれてるかって言うとな。結局「考える過程を先生に見せなさい」って事なんだな。つまりな、
ちなみにそこで先生が減点しやすくなるというのも、もちろんある。
だがそれ以上に、本来は「考える過程を見せてほしい」という意図が強いのだ。
つまるところ倫理とは、学問にとっては1番大事な「考える時間を作る学問」なのだ。
全ての学問で、「考えない学問」なんてこの世に存在しない。
アリストテレスは「万学の祖」と呼ばれるから哲学をしたのではない。むしろ「万学の祖」が哲学をやるのは必然的行動なのだ。
哲学とは全ての学問の根っこに位置する「考える事」を基盤とする学問なのだから。
「だから哲学者はみんなクズなんだ」
なんでそうなるか。
「普通、こんな事、マジメに働いてたら考えもせんだろ。あくせく働き、疲れて眠る。たまに酒を飲みながらな。だが哲学者は考える。働きもせずに。1日中家でボーッと過ごしながらな」
そんなクズの集まりなんだよ。哲学者連中ってヤツはな。
俺は欠伸を噛み殺しながら言った。
結局、一回も怒らないまま話しを終える。
哲学者はクソつまらない事は言うが、基本、
嘘をつくと、自分の
まぁ俺の命題にはあんまり関係ないけどな。そんな事を考えながら、俺の授業時間は静かにゆっくりと過ぎていった。
いくつかの作者の論が入ってますね。
書いてて面白いのはこういうお話。哲学者ってあんまり大した事ないんだよ!ってお話ですね。
頭のネジが2〜3本ハマっているような人達ですからね!