夜、ラースの部屋
ラース「......。どうしたもんかな」
コンコン
バン「ラース将軍、いらっしゃいますか?バンです」
ラース「おう、入ってこい」
ガチャ
バン「失礼します」
ラース「それで、俺に相談ってどうしたんだ?」
バン「実は、俺付き合ってる女性の方がいるんです」
ラース「なるほど、そういう相談か。まあ、座れよ」
バン「はい。それで前に休みをいただいた時に、ソルティアナ海岸にデートに誘ったんです。その時、彼女が魔物に襲われまして。
俺は何とか倒したんですが、彼女は大怪我をしてしまって....。俺が.....弱いせいで、彼女を傷つけてしまったんです」
ラース「その彼女さんはどうしてる?」
バン「今、治療していてまだ目を覚まさないんです」
ラース「そうか.....。それは、つらいな」
バン「俺、ラース将軍にたくさん教わって、グレイグ将軍にも褒められて、調子にのってたんだと思います。でも、いざ一人で戦ってみたら、自分の事で手一杯で.....大事な人一人すら、守れなかったんです。俺....自分が情けなくて....弱くて....」
バンは下を向き、震えながら話している
ラース「......俺もな、魔物に村を滅ぼされ、村の皆も殺された時、そんな気持ちだった。俺のどこが強いんだ、この有様で何が村一番の戦士だってな。そうやって、絶望の中に飲み込まれていきそうだったんだ。
でもな、俺はその時に、イレブンとマルティナがきてくれた。二人は特に何をしたわけじゃないんだが、俺が話す事をずっと聞いてくれた。そうする事で一人で黙って考えてるよりも、自分の心が何を求めてるかが見えてきたんだ。
だからな、バン。お前は今、絶望に落ちようとしている。その悲しみのあまり、立ち直れなくなりそうになっている。絶望は、絶対にいけない事だ。人の歩みや成長を止まらせるからな。
だからそうならないために、俺でもいい、他の仲間達だっていい。言いたい事を言え。必ず受け止める。馬鹿になんて絶対にしない。いろいろ吐き出してみろ。お前は、何がしたい?自分は、どうなりたい?」
バン「......俺、昔から人によく笑われてて、だらしないやつだとか、適当すぎるって馬鹿にされてて、それが気に食わなくて、見返してやろうと思って兵士になるって決めたんです。
親には反対されたんですけど、俺が押し通して、ここにいるんです。ここでたくさんの強さとか戦いとか、心構えとかを教わりました。俺は昔より強くなったとは思います。
でも!俺は!!もっともっと、強くならなくちゃいけないんです!大事なあいつだけは、守れるような男になりたいんです!」
ラース「それがお前の心の声か?」
バン「はい!これが、俺の今なりたい自分です!俺は、もっともっと強くなりたいんです!もう、あいつが痛い思いなんてしないように、俺が守ってみせるんです!ラース将軍!俺を鍛え直してください!!お願いします!」
バンははっきりとラースを見つめ、頭を下げた
ラース「わかった。お前のその決意、絶対に無駄にはしないからな。そうと決まれば、明日からバンには特別メニューだ。だが、普段より量も多くなるし、厳しくもなるぞ。つらいことも多くなる。逃げずについてこれるか?」
バン「はい!絶対についていきます!逃げませんよ!」
ラース「ハハ、愚問だったようだな。いい決意だ。男は信念を決めた時、本当の強さに近づく。バン、お前はこれからどんどん強くなる。楽しみにしてろよ?」
バン「ありがとうございます!ラース将軍!いえ、師匠!」
ラース「おいおい、急に呼び名変わったな。まあ、構わねえけどな。元気も出たみたいだし、これで平気か?」
バン「はい。相談に乗っていただき、ありがとうございました。それでは失礼します」
ラース「おう、ゆっくり休めよ」
次の日、訓練場
ラース「今日からバンだけ特別メニューのため、お前達には参加しないが、あいつも頑張っているんだ。お前達も負けずに頑張っていけよ」
兵士達「はい!」
バン「師匠!朝の筋トレ、素振り、模擬戦は終わりました!」
ラース「おう、そしたら次はこれをつけろ」
そういい、ラースは重りをバンと自分の両足と両腕につけた
ラース「その状態で、俺と体術で戦ってもらう。体術はお前もそれなりにできる分野だからな。まずはそこを伸ばしていくぞ。体術ができれば、武器がなくとも戦える。行くぞ!」
数分後
バン「ゼェ、ハァ、ハァ」
ラース「どうした!その程度か!もっとこい!」
バン「はい!」
その特訓は普通の訓練の時間だけでなく、夕方と夜も続いた
バンは諦める事なく、ラースについていった
それから半年後、マルティナのお腹はかなり大きくなっていた
中庭
そこではバンとラースが組み手をしていた
バン「ハア!トウ!」
ラース「よし!いい動きだぞ!かわし方や力の込め方も上手くなったな!」
バン「はい!ありがとうございます!」
ガチャ
マルティナ「あ!ラース、やっぱりここにいたのね。バンも頑張ってるじゃない。今の蹴りとっても綺麗だったわよ」
ラース「あ!マルティナ!またグレイグから抜け出してきたな!」
マルティナ「私も体動かしたいのよ。ねえ、いいでしょ?グレイグったら何言っても聞かないのよ。お願い!少しだけ!ね!」
バン「姫様、そのお体であまり動かれない方がいいと思いますよ」
ラース「全く......。少しだけだからな。俺が止めろと言ったら止めるんだぞ?絶対だからな」
マルティナ「やったわ!ありがとう、ラース。少しだけでも構わないわ」
その後、少しラースと組手をした
ラース「何だよ、全然鈍ってないじゃないか。さては、部屋でもやってたな?」
マルティナ「あら、わかっちゃった?だってグレイグがあまりにも何もさせてくれないんだもの」
バン「姫様、すごい。俺と全然動きが違う。隙が少ないな。あれが洗練された動きってやつか」
ラース「!?マルティナ、止めるんだ。これくらいでいいだろ?」
マルティナ「あら、やっぱり終わっちゃうのは早いのね」
ラース「何やら怒っている気配がこっちに来ているからな。まあ、誰とは言わずもがなだけど」
バン「あ」
バタン!
グレイグ「姫様!!やはりここにおられましたね!あれほど動き回らないように言ったのに!ラース、貴様!姫様のお腹が見えないのか!お前も夫なら、むやみに動くなと姫様を止めろ!」
マルティナ「もう!大声出さないでよ、グレイグ。中の赤ちゃんが驚いちゃうじゃない」
ラース「グレイグ、マルティナに何もさせないなんてかわいそうだろ。それだとストレスになるぞ。ストレスはよくないんだぞ?」
グレイグ「ぐっ....。ですが、姫様....」
マルティナ「ラースが少し体を動かさせてくれたから、スッキリしたわ」
ラース「まあ、グレイグの言う事はわかるからな。それじゃあ、よいしょと」
ラースはマルティナを抱き上げる
マルティナ「キャッ!ちょっと、ラース。私自分で歩けるわよ!」
ラース「はいはい、姫様は自分の体を大事にして、俺につかまっててくださいね」
ラースはマルティナを持って出ていった
バン「ハ、ハハ....(ラブラブだなぁ)」
グレイグ「はぁ、まったく。姫様もだが、ラースにも困ったものだ。バン、すまなかったな。ラースと特訓をしていたのだろう。俺が見ていた頃より、体も戦い方も大分見違えたな。俺でよかったら少し相手になろうか」
バン「え!?いいんですか、グレイグ将軍!ぜひ、お願いします!」
グレイグ「ああ、それじゃあかかってこい!」
マルティナの部屋
ラース「はい、お姫様はここで休んでいてくださいね」
マルティナ「もう!ラース!いろんな人に見られたじゃない!恥ずかしかったわよ」
ラース「お転婆なお姫様には、これくらいの罰がちょうどいいんですよ。ほら、楽にしとけ」
マルティナ「もう!......あ、そう言えば一昨日くらいにカミュから手紙が来て、マヤちゃんがまた行きたいってうるさいから、近々来るそうよ?ベロニカ達も一緒に来るみたい」
ラース「おお!また数ヶ月ぶりになるな。マヤちゃんがこのお腹みたら驚くだろうな」
マルティナ「そうね。....ねえ、ラース。私、この子が男の子ならマルスって名前にするわ。私とラースの名前をとったの」
ラース「ハハ、いいな、気に入った。それなら、女の子だったらルナだな。マルティナの名前からもらおう」
マルティナ「あら、嬉しいわ。......すっごく楽しみ。早く産まれておいで」
ラース「俺も楽しみだ。家族が増えるんだもんな。そういえば、最近よく動くんじゃないか?」
マルティナ「そうね、たまに蹴ってるのかしらね。この様子だと男の子かしらね」
数日後、マルティナの部屋
ベロニカ「マルティナさん!会いにきたわよ!」
セーニャ「まあ!とっても大きくなってますわ!」
マヤ「うわー!姉ちゃん、動きづらくないの?大丈夫?」
マルティナ「フフ、いらっしゃい、待ってたわよ。私はそこまでつらくはないわね。疲れやすくはなったと思うけど。マヤちゃん、約束通り触っていいわよ」
マヤ「本当!?いしし!覚えててくれたんだな。それじゃあ.....おお。妊婦さんのお腹ってこんな感じなんだな」
カミュ「おい、マヤ。あまり激しく触るなよ?」
マヤ「それくらい俺でもわかってるよ!あ!今動いた!俺の手が蹴られた!」
ベロニカ「あら!元気なのね、その子。ラースに似るんじゃない?」
セーニャ「でも、ここまで大きいと双子かもしれませんね」
カミュ「そうなのか?俺は初めて妊婦を見たからわからねえが、そんなに大きいのか?」
マルティナ「ええ、お父様もおそらく双子の可能性が高いって言ってたわ」
マヤ「なあなあ、姉ちゃん。名前は決めたのか?」
マルティナ「ええ、少し前に決めたのよ。男の子ならマルス。女の子ならルナにしようってね」
セーニャ「素敵ですわ、マルティナ様。お母様の姿になられても優しいお母様になりそうですわ」
ベロニカ「ラースなんて親バカになるんじゃないかしら?」
カミュ「ハハ、ありえそうだな」
マヤ「子どもはこうやって産まれてくるんだな。.....きっと、俺達も....産まれた時はこうやって、お腹の中にいたんだよな....」
カミュ「マヤ....」
マルティナ「大丈夫よ、マヤちゃん。その後がどうだって、あなたが産まれた時は、こうやって誰かに望まれて産まれてきたはずだわ。そうじゃなきゃ、マヤちゃんはこの世界に生まれてこないんだから」
マヤ「そっか.....。そうだよな。いしし」