一月後、マルティナ親子の部屋
バタン!
イレブン「助けて、ラース!明日のホワイトデーで町の皆にお返ししなきゃいけないんだけど、僕どうしたらいいかわかんないよ!」
イレブンが困り果てた様子で入ってきた
カミュ「やっぱりイレブンも来たな」
ロウ「わしもいるぞ。まあわしはそこまで困ってはおらんがの」
グレイグ「皆困っている事は同じという事か」
バン「勇者様でもこういう事には困るんですね」
部屋の中には既にカミュとグレイグとバンもいた
ラース「何で皆して俺に頼ってくるんだよ。俺は便利屋じゃねえぞ」
バン「師匠は料理できるじゃないですか。それで作ればすぐで楽ですよ。俺達は料理すらできないんです」
グレイグ「その通りだ、バン。俺達はお前のような器用さは持ってないのだ」
イレブン「僕も料理はそこまで得意じゃないから」
ラース「そんな事で誇るな。お菓子作りは俺も苦手だ。カミュはどうなんだよ」
カミュ「俺はそもそも甘い物がそこまで好きじゃねえ。だからやった事すらねえよ」
ロウ「わしもお菓子を作った事はないのう。カミュはどうして困っているのじゃ?甘い物が好きでないなら受け取らんのではないかの?」
カミュ「ベロニカ達から催促されたんだよ。宝石だのネックレスだのってな。シルビアのおっさんなんてショコラとか言ってやがった。マヤからも送られてきたし、どうしたらいいかわからねえんだ」
バン「え?皆さんってたくさん貰うのが普通なんですか?」
グレイグ「安心しろ、バン。俺も少ないからな。宝石やネックレスはイレブンの鍛治で作ってもらえばいいのではないか?」
イレブン「別に構わないけど、それって僕からのお返しにならない?僕もベロニカから催促されてるもん」
ラース「あの魔法使いはどれだけ欲張りなんだか。仲間達皆から貰う気だな」
ロウ「ふぉっふぉっ、ベロニカらしいのう。ラースはどれくらい貰ったんじゃ?」
バン「師匠は凄かったですよね。カゴ一杯だったじゃないですか」
グレイグ「あれを全部一人で食べたのか?」
ラース「ああ、三日かかったぜ。町の人達には俺からのクッキーで我慢してもらおうと思ってる。マルティナやマヤ、ベロニカ達には別の物だけどな」
イレブン「手作りクッキー!?ラース、それ僕もやる!僕も町の人達からたくさん貰って困ってたの!一緒に作ろう!!」
ロウ「わしもやろうかの。イレブンが返して、わしが返さないのは変じゃからの」
グレイグ「なら皆でやろうではないか。ラース、作り方を教えてほしい」
カミュ「まあ無難にいった方がいいよな。俺もやるぜ」
バン「師匠、お手伝いします!」
ラース「想像以上に増えたな。むさ苦しいったらありゃしないぜ。なら、材料もたくさん必要になるな。まず買ってきて欲しいものをメモに書くから、買い物を頼んだ」
その後、キッチン
コック「ラース様がここに来るのも久しぶりですが、グレイグ様までいらっしゃるなんて私、初めてお目にかかりました。勇者様方も明日のホワイトデーにお返しをするんですね」
ラース「急に悪いな。後片付けや掃除も全部俺達がやるから、道具だけ貸してくれ」
コック「はい。ラース様はいつも綺麗に使ってくださって私も嬉しい限りです。それでは型などあるだけ置いておきますね。では、頑張ってください」
バン「何だかいろいろ買いましたけど、こんなに使うんですか?」
ラース「まあ何百枚と作るからな。材料も必然的に多くなる。まずはこのバターを全部小さな四角形に切っていくぞ。俺がやってみせるな。このくらいの大きさだ」
カミュ「結構小さいな。まあそれくらいなら俺もすぐできるぜ」
ロウ「包丁を握るのは久しぶりじゃのう。キャンプでもあまり多くは握らなかったからのう」
グレイグ「む、これくらいか?」
ラース「おお、それくらいで大丈夫だ。じいさんは終わったらナッツと粉と砂糖を合わせたから、ヒャドで少しだけ凍らせてくれ」
バン「え?魔法なんて使って大丈夫ですか?」
ラース「あまり褒められた事ではないが時短になるなら俺は使うぞ。慣れて調整できれば一応できるからな。バターはそのボウルに全部入れてくれ。それも後で俺が冷やす」
その後
ラース「それじゃあ生地ができたからこの型で抜いていくぞ。好きなのを選んでどんどんやっていってくれ」
バン「スライム型とかドラキー型とかたくさんありますね。俺はおおきづちにしよう」
グレイグ「これは子どもも喜ぶな。マルス達にも作ってやるか」
イレブン「あれ?うまく型から離れてくれないよ」
ラース「あまり力を入れすぎるなよ?すぐに崩れるからな。型を回しながらゆっくり押していけば離れていくぞ。落としたら少し形を整えて大丈夫だ。だがあまりベタベタ触るなよ?」
ロウ「なるほどのう。これは慣れてくると楽しいわい」
カミュ「全部同じ味なのか?」
ラース「いや違うぞ。これが終わったら今度はもう一度別の生地で、別の味も作るんだ。たくさんあった方が楽しいだろ?チョコとイチゴと抹茶とレモンだな。色も鮮やかにしようぜ」
グレイグ「さっきすごい量の生地を作ったのはそのためか。だが確かに沢山の味があれば飽きないな」
バン「もしかしてこれ、慣れてくると苦行になりませんか?後何個ぐらい作りますか?」
ラース「各味で150個ぐらいか。一人2〜30個作ってくれ」
イレブン「あ、確かに少し大変かも。まあ皆のためだもんね。頑張ろう」
その後
ラース「よし、全部できたな」
カミュ「こりゃあすげえ。綺麗だな」
バン「レモンの皮だったり砂糖だったり付いてるのもいいですよね。これ、このままでも美味しそうですよ」
ラース「これから全部焼くんだよ。オーブンだけだと時間がかかるから、俺がメラで調整しながらやっていこう」
グレイグ「魔法をこんな所で多用するとは。他の料理でもそうしているのか?」
ラース「流石に普通はそんな事しないさ。今だけだ。それとカミュ。シルビアからショコラを要求されてるんだろ?俺はこれからショコラを作るが、やるか?」
カミュ「いいのか、兄貴?なら頼らせてもらうぜ」
ラース「おう、俺もシルビア達やマヤにショコラをあげるからな」
イレブン「マルティナにはどうするの?」
ラース「へへ、マルティナにはとっておきをやるんだよ。まあ、初めて作るんだけどな」
ロウ「ほほう、それは気になるのう」
数分後
クッキーが焼き上がった
バン「わあ、すごくいい匂いです。美味しそうに焼き上がりましたね」
ラース「思ってたより温度調整難しかったな。次からはやめよう」
グレイグ「ほう。模様もしっかりと残るのだな。これなら姫様も喜んでくれるだろう」
カミュ「後は詰めるだけか?」
ラース「おう。好きなだけ詰めていけよ。まあ味が偏らないようにな。それが終わったら持ち帰っていいぞ。カミュはまだ続けるから残ってくれ」
カミュ「おう」
イレブン「ありがとう、ラース。おかげで何とかなりそうだよ!」
ロウ「初めてじゃったが、随分楽しかったのう」
バン「流石師匠です!メグにも喜んでもらえます!」
グレイグ「最初は菓子作りは得意ではないと言っていたが、そんな事なかったではないか。すごくいい出来だ。もしよければ今度王とのお茶会でも作ってくれ」
ラース「おいおい、王様に出せるような品物ではねえぞ。喜んでくれそうだが、恥ずかしいからやめてくれ」
クッキーって簡単なようで作ると失敗する事多くありませんか?私だけですかね....?