次の日、医療部屋
バン「ん?ここは.....」
ラース「よお、バン。目が覚めたみたいだな。体は大丈夫か?」
バン「あ!師匠!情けない姿見せましたね。へへ、俺、負けちゃいました」
ラース「......ベグルと何があったんだよ。あいつ、前のお前みたいに出ていったぞ」
バン「ハ、ハハ。俺、兵士長なのに何してるんでしょうね。ベグルに何かあるのは昔からわかってたんですが、何も言わないから気にしていなかったんです。でも、どうやら無視できないみたいです」
ラース「お前はどうするんだ?ベグルをこのままにしておくのか?」
バン「師匠、わかってて聞いてますよね?俺の性格、忘れたわけないですよね」
ラース「ああ。お前はそういうやつだもんな。決めたんだな」
バン「はい!俺、ベグルが何抱えていても大丈夫です!あいつがいないと、俺はあの場所が楽しくありません。だから、這ってでも連れて帰ってきます」
ラース「おう!行ってこい!」
バン「はい!」
ダーハルーネの町 裏道の外れの墓地
ベグルはそこで一つの墓に手を合わせていた
ベグル「......姉ちゃん。俺、デルカダールの兵士になったんだ。かなり強くなったんだぜ。もう、あの男とは違う。見てて、必ず仇を取るから」
ザッザッザッ
誰かがやってきた
ベグル「?」
バン「何だか物騒な話が聞こえたぞ。仇って何だよ」
ベグル「何でここが。それに相変わらず馬鹿だな。その怪我でまだ動く気かよ。関わるなと言ったのが聞こえなかったのか?」
バン「昨日の話から何となくダーハルーネにいる気がした。後は気配だな。よいしょっと」
バンはベグルの隣に座って手を合わせた
ベグル「何してんだよ」
バン「お参りだよ。ベグルは俺の仲間で、皆と楽しくやってるって報告してやらないとな」
ベグル「そんなのはいらねえ。姉ちゃんの墓にデルカダール兵が近づくな」
バン「何だよ。ベグルだってデルカダール兵だろ」
ベグル「ハァ。何でそんなにしつこいんだよ。俺は傷だらけの人間をまた悪化させるような事はしたくないんだが」
バン「ベグルは俺が馬鹿なのは昔から知ってるだろ?俺は決めた事に、真っ直ぐにいきたいんだ。だから、何度だってベグルの元にくるぜ。俺はこれからもベグルと一緒に強くなりたいからな」
ベグル「......たくっ!バンのそういう所、昔から大嫌いだったぜ!家に来いよ。話してやる」
バン「おう!そうでもしねえと俺は帰らねえからな」
ベグル「面倒くせえったらありゃしねえな」
ベグルの家
バン「お邪魔しまーす」
ベグル「そんな事いう性格してねえだろ。この家は俺しかいねえ。気なんか使うな」
家の中は埃があり、生活感はあまり感じられなかった
バン「言っちゃ悪いが、あまり使われてない感じだな」
ベグル「当たり前だろ。ずっとデルカダールにいたんだからな。前にここに帰ってきたのは十年以上前だからな」
バン「ここで姉ちゃんと暮らしてたのか?」
ベグル「いや、違う。姉ちゃんは俺とは何の関係も無かったんだ。家族とかじゃねえんだ。この家は、俺の母親の実家だ。母親が死んで、俺にこの家の管理が任されたのさ」
バン「そうだったか」
ベグル「姉ちゃんは俺がガキの時、この家の近くに住んでた人でな。まだガキの俺にすごく仲良くしてくれたんだ。俺の初恋の相手でもあったんだ。もう二十年前の話だな。
俺が恋と認識するのにかなり時間がかかってよ。姉ちゃんはもう男ができてた。でも、それはそれでよかった。姉ちゃんが幸せなら、俺はそれでよかったんだ。
でも、それは長く続かなかった。姉ちゃんの体や顔には痣や傷跡ができるようになったんだ。姉ちゃんは必死に隠してたけど、俺は苦しんでる姉ちゃんなんか見たくなくてよ。姉ちゃんを守りたくて、よく相手の男に喧嘩を売りに行ってたんだ。
でも、相手はお城の兵士だった。俺なんか敵わず、毎日ボコボコにされてたんだ。弱い自分が嫌だった。そんな日々が数年続いたある日、姉ちゃんが家に助けを求めに来た。
俺はその時は母親に騙されて、姉ちゃんが遊びに来たんだと思ってた。姉ちゃんと小さい頃のように遊ぶのは久しぶりでよ。すっげえ楽しかった。姉ちゃんも昔みたいに笑っててくれてよ。幸せそうだった。
俺のやりたい事は、姉ちゃんをこうやって笑わせる事だと思ったんだ。あの男が姉ちゃんを泣かせるなら、俺がその分笑顔にしてやろうってな。
その夜に、姉ちゃんは俺に言ってくれたんだ。きっと強い人になって、と。その力を、あの人に見せてあげて、ってな。俺は普通に返事をしたが、俺が姉ちゃんと喋ったのはそれが最後だった」
バン「という事は、その姉ちゃんは」
ベグル「次の日、あの男に殺されたのさ。俺はショックでよ、悲しくてよ、悔しくてよ。やりたい事すらできない事にムカついてよ。それから、荒れに荒れた。腐り尽くしたんだ。この町で悪さをたくさんした。盗みや弱そうなやつからサイフを奪ったり、喧嘩に明け暮れていた」
バン「......」
ベグル「でも、母親が死んでからめっきりしなくなった。この家自体が嫌になったんだ。一人でこの家にいるのが苦しかった。その時、姉ちゃんとの約束を思い出して、あの男と同じデルカダールの兵士になる事を決めた。
俺はそこであの男より強くなって、絶対に姉ちゃんの仇をとる。何を犠牲にしようとも、それだけは必ず守ってみせると誓ったんだ」
バン「ベグル.....」
ベグル「俺自身、最もなりたくなかったデルカダールの兵士になる事で、あの出来事を忘れない。これは、俺自身への戒めとしていた!そのためなら、俺は一人でよかった!強くなって、強くなって、強くなって!あの男を超えるために!
それなのに.....お前は!何も知らねえくせに、初めからズカズカと入り込んできやがって!!」
バン「だが、ベグル....」
ベグル「何だよ」
バン「一つ間違ってんじゃないのか?」
ベグル「あ?」
バン「その姉ちゃんがベグルに言った力ってのは、仇の事なんかじゃねえはずだぞ。優しい姉ちゃんだったんだろ?そんな人が、お前に人殺しなんて願うわけねえ!」
ベグル「そうだろうな!そんなの、俺だってわかってる!だが、あの男に他にどうやって力を見せればいいんだよ!」
バン「その野郎と関わろうとするのをやめたらどうなんだよ」
ベグル「それは何の解決にもならねえだろうが!俺のこの後悔や苦しみは、どうすればいいんだよ!」
バン「力なんてものは、それを証明するのに拳や武器で語り合うものじゃない。本当に必要な時こそ出せるのが、力だ!守りたいものを守るのが、力だ!ベグルは力を間違ってるぞ!」
ベグル「守りたいものを......守る....」
バン「姉ちゃんを守れなかった悔しさとかは、全部これからに繋げるんだ。他の誰かを守れる力に変えるんだよ」
ベグル「なら俺は.....この数年間、何してきたんだよ!姉ちゃんの仇のために努力してきた!それを今さら否定されて.....無駄にした数年間だったのかよ!」
バン「俺達と出会えただろ」
ベグル「!?」
バン「一人になってるベグルを、俺が殴られながらも無理やり俺らのグループにいれただろ。それは最初こそベグルにとって嫌だったんだろうが、最後は今まで俺達とずっと一緒にいてくれた。それは何でだ?」
ベグル「......お前達は、眩しかった。俺には似合わねえのに、バンが無理矢理入れて、その光に俺を馴染ませてきた。俺は.....お前達が気に入ったんだよ。馬鹿で真っ直ぐで努力家で、そんなやつらの集まりだ。
俺も......お前達のように、なりたかったんだ。夢とかを追い続ける皆が、羨ましくて、俺も優しくなりたかった」
バン「ベグルは優しくはなれねえけど、俺達もお前の努力家な所に憧れてた!今だってそうだ!皆、待ってるんだぞ!」
ベグル「そ、そうか。俺....また守りたいものができた。でも、無理かもな。俺には身に余る」
バン「そんな事ねえよ!応援するぞ!何だよ?」
ベグル「ジェーンさんを守ってあげたい.....それに、結ばれたいっていうか.....そういう...」
バン「うわ、気持ち悪い顔だ。でも、そういうのは大事だぞ!いい事ゃないか!何も身に余る事じゃねえ!俺だって、メグと付き合う前は、付き合う事が夢だったからな!」
ベグル「でも、ジェーンさん、こんな俺でもいいのだろうか。こんな汚い俺でも」
バン「確かにベグルは汚ねえかもしれねえけど、ジェーンさんは優しいんだろ?前に言ってたもんな!なら、まずはぶつかってみようぜ!話はそこからだ!」
ベグル「俺、あの人のためなら何だってできる気がしてる。守ってやりたいって思えるんだ」
バン「そうだよな!俺もメグのためなら何だってできるぜ!その気持ちを伝えるんだ!ベグルならいける!俺は信じてるからな!」
ベグル「お前は本当、馬鹿だな。なあ.......また俺は、あそこに戻ってもいいのか?強くなりに.....誰かを守る強さを求めに戻っていいのか?」
バン「当たり前だろ!俺も皆もベグルを待ってるんだ!帰ろうぜ!俺達の場所に!」
バンはベグルに手を差し出す
ベグル「ああ。バン、ありがとよ!お前は最高だな。これから頼むぜ、兵士長!」
ベグルはバンの目を見て手を握り立ち上がる
バン「おう!兵士長だからな!兵士の悩みくらい、パパッと解決してやるよ!何でも頼ってくれよな」
ベグル「へへ、頼もしいな。なら、もう一つお願いを聞いてくれるか?」
バン「おう!どんどん来いよ!」
ベグル「誰が優しくなれなくて汚くて気持ち悪い顔だって?」
ベグルの顔には怒りが現れていた
バン「.........へ、へへへ、いやー、ベグルさん。あの、その、それは何と言うか」
バンは頭をかいてベグルの顔から目を逸らしている
ベグル「随分と言いたい放題言ってくれたな、バン。ありがとよ。たっぷりお礼をさせてくれよ」
ベグルからはどんどん殺気が出てくる
バン「ええっと......それは、お断りしたい.....な」
ベグル「兵士長だもんな?なら、兵士のお願いくらい聞いてくれよ」
ベグルは指を鳴らしている
バン「そ、それは.....お願いじゃなくて.....」
ベグルはバンの首をガッチリと掴んだ
ベグル「さあ、たっぷり楽しもうな」
バン「(あ、死んだ)」
その夜、デルカダール城 大広間
ベグルはボロボロになり動かなくなったバンを持って帰ってきた
ラース「お!ベグル、帰ったか!.......えっと、バン?だよな?生きてるか?怪我どころの騒ぎじゃないが」
ラースはバンと思われる姿を見て冷や汗をかいている
ベグル「急にいなくなりすいませんでした、ラース将軍。この馬鹿に説得され戻ってきました」
ラース「おう。バンは役に立っただろ?」
ベグル「はい。馬鹿は馬鹿なりに元気づけてくれました。これはこいつが俺の事を散々言ってきたので少し制裁をしただけです。なので心配しないでください。この後、医療部屋でザオラルしてもらいます」
ラース「なら大丈夫だな。ふっ、どうしたベグル。いい目つきになったぞ。何か覚悟を決めたな」
ベグル「はい!俺、守るべきもののために頑張りますよ!」
ラース「お!いい事だな。なら、楽しみにしてるからな。頑張れよ!(バン、お前が連れて帰ってこさせられてどうするんだよ)」