その夜、孤児院
ステラ「マヤちゃん、ちょっと聞いてもいいかしら?」
マヤ「はい。何ですか?」
ステラ「マヤちゃんとグリー君はお仕事仲間なのよね。グリー君はお仕事中どう?頑張ってる?」
マヤ「それはもちろん頑張ってますよ。グリーさんは私より働いている期間が少し長いんです。私もグリーさんと同じで働くのは初めてだったんですよ。でも、先輩達も優しいしグリーさんもよく教えてくれます」
ステラ「そう....。よかったわ。あの子都会慣れしてないからどうしてるか不安だったのだけど、うまくやっていけてるみたいね」
マヤ「ステラさんはグリーさんの義理の親みたいな感じなんですね」
ステラ「そうね。私はそう思っているけど、グリー君は.....どうかしら。もう立派な大人なんだからこの孤児院の事を気にしなくてもいいのだけど」
マヤ「グリーさんは優しいからステラさんの事をきっと忘れませんよ。働いたお金をこの孤児院のために使おうとしてるくらいですから」
ステラ「やっぱり.....。少し前にたくさんのお金が送られてきたの。ありがたいのだけど、グリー君の生活は大丈夫かしら?」
マヤ「きっとなんとかしてると思いますよ」
ステラ「マヤちゃん、もしグリー君が困っていたら力になってあげてください。あの子には昔から辛い思いしかさせてこなかったから。あの子を守りたい.....。
そう思ってこの孤児院を建てたのですが、結局私は何も守れなかったわ。貧乏な暮らし、グリー君の先代の親からの理不尽な呪い、同年代の友達も出来なかった」
マヤ「呪い.....。来る時に村の人達も言ってました。何なんですか?それ」
ステラ「あまり気にしないでいいのだけど、この村にとってはかなり恐れられているの。海の呪い。グリー君の先代から続く不思議な現象の事をそう呼んでいるのよ。私は全く気にしてないんだけど、グリー君は昔からそのせいで周りから嫌われていたわ。
呪いはどうしてなのかわからないけど、先代の親からずっと海で死んでいっているの。グリー君の両親も海で死んじゃったわ。この村は漁業で成り立つ村。なので、必然的に村の男子は必ず漁師になるという決まりがあったの。漁師である以上海で遭難し、帰ってこないというのは珍しくないわ。
でも、グリー君の曾祖父の頃から続くというのはあまりにも不自然なの。帰りを待つ妻達も謎の波に呑まれ、そのまま命を落としていったそうだから。村の人達は海に嫌われたと言い、海の呪いと呼び始め生き残りのグリー君を遠ざけるようになっていったの」
マヤ「海に嫌われた海の呪い.......。呪いは実在するけどさ、偶然じゃないの?確かに変だけど、グリーさんは今も生きてるじゃん」
ステラ「それはグリー君も海に近づこうとしなかったからだと思うわ。でも、ふと近づけば何が起きるかわからない。私自身も信じてないけど、もし何かあってからでは遅いと思い海には行かせないの。
昔からグリー君は我慢して我慢して成長してきたわ。きっと彼の中で我慢する事は当たり前のようになっていると思うの。でも、もうグリー君には我慢してほしくないのよ。この村に無理に帰ってこなくていいの。グリー君にとってこの村は故郷だけど、決していい思い出は多くない。
私はデルカダール王国でこれまでの事を全て忘れて、楽しく過ごしてほしいのよ」
マヤ「でも......グリーさんはこの孤児院のためにっていって働いてるんだよ?そのグリーさんの気持ちは?それも忘れていいの?」
ステラ「実はまだグリー君に話していないんだけど、もうこの孤児院は取り壊しが決まったの。前からお金も厳しく、周りからの批判もあったから」
マヤ「そんな.......。それじゃあ子ども達は?どうなっちゃうんですか?」
ステラ「遠く離れたグロッタの街にも孤児院があるそうなの。そちらの方に移ってもらおうと考えているわ」
マヤ「ここは.....グリーさんの家も同然だったんでしょ?いいの?」
ステラ「それは......。でも、ここには辛い思い出しかないわ。辛い事など忘れていいの」
グリー「よくない!!!!」
二人「!!?」
グリーが叫びながら出てきた
マヤ「グリーさん!?いつから」
グリー「ごめんなさい。途中から聞いてました。海の呪いの説明あたりから。ステラさん!ここは僕にとって一番暖かい場所なんだよ!取り壊しなんてやめてよ!!辛い思い出は確かに多いけど、それでもここは僕の家だもの!これ以上.......僕から大切なものを無くさせないで.....」
グリーは最後を小さな声で言った
ステラ「グリー君.......。ごめんなさい、私が悪かったわ。そうよね、やっぱり取り壊しは嫌よね。わかったわ。明日村長にまた掛け合ってくるわ。せめて残しておいてほしい、と」
グリー「うん。お願い......。マヤさん、呪いの事聞いたよね?僕は、僕ら一家は海に嫌われてる。気持ち悪いでしょ?だからさ、もう僕は気にしな」
マヤ「何言ってるの、グリーさん!!」
グリー「え.....」
マヤはグリーの言葉を遮る
マヤ「確かにグリーさんの親達は海で死んじゃったかもしれないけど、まだグリーさんは生きてる!呪いがグリーさんにかかってるかなんてわからない!なら、諦めないで!グリーさんに呪いがかかってない可能性を捨てないで!
私は、呪いが大っ嫌いだしもう関わりたくもないけど、それでもグリーさんと一緒にいるよ!ちょっとやそっとの呪いじゃあもう驚かないんだから!」
グリー「マヤさんも......呪いにかかった事.....あるの?」
マヤ「そうだよ。私は黄金の呪いっていうのにかかって、自分が黄金の姿に変えられた。そのせいで五年間もずっと黄金のままだったんだ。だからもう呪いなんて大っ嫌い。でも、グリーさんはまだ呪われていない可能性を信じてる」
ステラ「黄金の呪い.....」
グリー「.....そんな事が。でも、それなら尚更だよ。僕が呪いにかかっていたら、マヤさんにも移ってしまうかもしれない。呪いはもう嫌でしょ?だったらさ、僕とは」
マヤ「それでも関係ない!もう呪いなんて怖くないから。グリーさんがいなくなる方がずっと怖い!だから、そんな悲しい事言おうとしないで。
この村の皆はグリーさんが嫌いかもしれないけど、私達は違う。私もビルさんもマドリーさんも、兄ちゃん達だって呪いがあるからってグリーさんの事嫌いにならない!だからさ、安心していいんだよ」
グリー「マヤさん......」
ステラ「マヤちゃん、ありがとう。ほら、グリー君。あなたの味方はここにいるわ。絶対に見捨てようとしちゃ駄目よ。マヤちゃんはあなたの事をとっても大切に考えてくれてるわ」
マヤ「え.....。なんだかそう言われると恥ずかしい....」
ステラ「あらあら、照れなくていいのよ。グリー君、明日にはもう帰りなさい。マヤちゃんと一緒にデルカダールへ。ここの事は私に任せて。グリー君はこれまで我慢してきた分、目一杯楽しんできなさい」
グリー「ステラさん。うん、ありがとう。ふふ、帰ろっか、マヤさん。デルカダールに」
マヤ「うん。でも何かあったらまた教えてね。私、力になるから。ステラさんも」
ステラ「あら、ありがとう。それじゃあおやすみなさい」
グリー「うん。おやすみ」
マヤ「おやすみなさい。また明日」
グリー「(マヤさん、かっこよかった。呪いなんて怖くない......か。ありがとう、マヤさん)」