その夜、バンの部屋
コンコン
バン「はい」
マルティナ「バン?大丈夫?少し相談に乗りましょうか?」
バン「マルティナ様!ど、どうぞ」
グレイグ「俺もいる。いいか?」
バン「グレイグ将軍まで。はい、構いませんよ」
ガチャ
マルティナ「ラースから話は聞いたわ。メグさんも店もボロボロになったって」
バン「はい........。俺、メグをなんとか励まそうとしたんですが、メグは俺すら信じてくれなくなってしまって」
グレイグ「喧嘩とは違うのだな。バンはどうしたいのだ?」
バン「...........元通りになりたいです。でも、そのためにはメグが俺を信じてくれないと駄目なんです。今俺だけが頑張っても駄目なんです。それに俺、メグに何もしてやれませんでした」
マルティナ「そんな事ないわ。バンはいつもメグさんの事を嬉しそうに話してくれていたじゃない」
バン「それでも、メグの力になれていません。メグは俺だけが美味しいと言ったって駄目なのだと言っていました。その通りです。メグはお店をやっているから、料理はいろんな人が食べます。俺だけが美味しいといっても、意味がないんです」
グレイグ「.........難しい事ではあるぞ。全ての人に好かれる食べ物などほぼ存在しない。だからこそより多くの人が食べて美味しいと思えるような物を作る必要がある」
マルティナ「待って、グレイグ。ねえ、バン。少しお話の内容を変えましょう。メグさんとの出会いを教えてほしいの」
バン「え?メグとの出会いですか?いいですけど」
グレイグ「しかし姫様、今の問題とそれに何の関係が」
マルティナ「いいの、グレイグも聞いてて。それじゃあ教えて。始まりは何だったの?」
バン「えっと、初めて出会ったのは俺がこのお城で兵士になったばかりの頃です。本当最初で、ギバやダバンと知り合いたての頃です。グレイグ将軍は覚えているかわかりませんが、グレイグ将軍に初めて乗馬の訓練を指導していただいた時でした」
グレイグ「ああ、それはまた懐かしい。基礎の一つとしてやっていたな」
バン「それが終わった帰り、疲れて甘いものが食べたくなった俺は偶然カフェに立ち寄ったんです。それがメグのやっているカフェでした」
マルティナ「あら、じゃあメグさんは随分前からカフェをやっていたのね」
バン「その時は知らなかったんですけど、メグがカフェを開いて数日しか経っていなかったんです。だから今思えばメグもどこか緊張している感じでしたよ。そこに兵士姿の俺が入ってきてもっと固くなってたように思います」
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カフェ
メグ「い、いらっしゃいませ!お好きなお席にお願いいたします」
バン「あ、ああ。ここ、カフェなんてあったんだな。知らなかった」
メグ「最近出来たばかりなんです。えっと、兵士さんは何を?」
バン「あ、悪い。鎧だと変だよな、気にしないでくれよ。えっと、甘いものが食べたくて立ち寄ったんだ。なんか甘いものが食べたいんだ!」
メグ「わかりました。ケーキでよろしいですか?チョコレートかショートのどちらかになるのですが」
バン「どっちもいいなー。じゃあ二つとも!」
メグ「わ、わかりました。飲み物はどうしますか?」
バン「そういや喉も乾いたな。あるやつのジュースで構わないぞ」
メグ「わかりました、リンゴジュースにしますね。それではお待ちください」
メグはキッチンに戻っていった
バン「(俺と同い年くらいか?頑張ってんなー)」
その後
メグ「お待たせしてすみません!あ、あの.......こちら、ショートケーキになります」
バン「あれ?チョコレートケーキは?」
メグ「す、すみません!私、まだ慣れてなくて失敗してしまって」
バン「あ、そうだったのか?いいよ、そんなの。俺、その失敗したやつでも食べるぞ」
メグ「ええ!?そ、そんな事出来ません!お腹壊しますよ!」
バン「大丈夫、大丈夫。お腹空いたからなんでも食べれるぞ!」
メグ「.......き、きっと見たら食べる気無くなりますよ?」
バン「へへ、そんな大失敗だったのか?」
メグ「そ、そうですよ!待っててくださいね!」
そう言うとメグはキッチンから焦げたチョコレートケーキを持ってきた
メグ「ほら!見てください!こんなに!半分も焦げちゃって!」
バン「アハハハハ!本当だ、焦げてる。でも、美味そうだぞ」
バンはそのまま食べようとしている
メグ「だ、駄目ですってば!!兵士さんにこんなの出せません!」
バン「平気、平気。それにここまで作ったのに捨てるなんてもったいないだろ?な?」
メグ「でも......」
バン「へへ、隙あり!」
バンはフォークでケーキを丸ごと持っていった
メグ「あ!!」
バン「あーん............うん!美味いぞ!甘いチョコレートの味がする!」
メグ「そ、そんなわけないですよ!絶対苦いですって!」
バン「いやいや、美味いぞ!優しい味もする。いいケーキだな!」
メグ「.........ふふ、変わった人ですね。ありがとうございます」
バン「これはこのショートケーキも期待出来そうだな!あーん!〜〜!美味えーー!」
メグ「ふふ、大きなお口ですね。一口で食べるとは思いませんでした」
バン「腹空いてたからな!」
メグ「訓練してたんですか?少し汗かいてましたけど」
バン「ああ、そうなんだ。だからクタクタでよー」
メグ「あ!それならいい物がありますよ。少し待っててください」
バン「?」
メグはまたキッチンに向かっていった
メグ「これ、よかったらどうぞ」
メグはクッキーがいくつか入った小袋を渡した
バン「お!クッキーだ!いいのか?」
メグ「はい、やはり兵士さんは大変ですから。疲れた時には甘いものですよ」
バン「美味そうな匂いがするー。これも君の手作りなのか?」
メグ「はい。そこまで自信はないんですけど」
バン「いやいや、そんな事ないって!さっきのショートケーキもチョコレートケーキも美味かったんだから、このクッキーだって美味いに決まってる!」
メグ「チョコレートケーキは失敗したんですよ!」
バン「ハハハハ!そうだったな!」
メグ「もう......。私、メグっていいます。このお店を開いたばかりなんです。パティシエになるのが子どもの頃からの夢だったんです」
バン「メグっていうのか、よろしくな!俺はバンだ!俺もこの間兵士になったばかりの新入りなんだ。まだまだ覚えなきゃいけない事たくさんでよ」
メグ「ふふ、お互い新米ですね。一緒に頑張りましょう」
バン「おう!それじゃあありがとな!また来るからな、メグ!」
メグ「はい、お待ちしてますね、バンさん」
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バン「って感じで、そこから俺がよく通ったりメグが訓練中に来てくれたりしたんです」
グレイグ「そうだったのか、知らなかった。だが、あの時は寄り道するなと言っていた記憶があるのだが?」
バン「..........すみません」
バンは少し下を向いて冷や汗を流している
マルティナ「まあいいじゃない、こんな素敵な出会いがあったんだから。バンがメグさんの作る物が美味しいって言うのはもう最初からだったのね」
バン「はい、そうなんです。やっぱりメグの作る物ってこう、食べると心が温かくなるっていうか、満たされるっていうか、優しい味がするんです。俺、それが一番大好きなんですよ」
グレイグ「気持ちがこもっているのだろうな。バンはそれを感じ取っているのだろう。しかし、作る人にとっても美味しいと言われるのは一番嬉しい褒め言葉なはずだ。なぜメグさんはバンの美味しいでは満足しなくなってしまったのだろうか」
マルティナ「仕方ないわよ。お店が大きくなったり、お客さんが増えるにつれていろんな人に美味しいって言われたいし、満足してもらいたくなるわ。メグさんもそうなっているのよ」
グレイグ「ですが姫様、姫様は前に料理を作ってくださった際、ラースが褒めていた時に一番嬉しそうな表情をされておりました。やはり料理は一番届けたい相手がいる物なのでは?」
マルティナ「!?ちょ、ちょっと!そんな所見てたの!?」
グレイグ「も、申し訳ありません!偶然そう感じ取ってしまったというか」
バン「一番届けたい相手.........。それって、メグにとっては俺じゃなかったって事ですよね。メグは俺の美味しいだけじゃ駄目だって」
マルティナ「そんな事ないはずよ、バン。メグさんの料理を一番初めに食べてたのは誰?」
バン「.......俺です」
マルティナ「でしょ?そしてバンの意見を聞いて、実際にお店に並べるか決めてたんでしょ?きっとバンの美味しいって言葉を聞いて、メグさんは安心してたのよ。だからお店に並べる事を決めていたはず」
バン「じゃあ........なんで」
グレイグ「それはきっとメグさん本人にしかわからない事だろう。ただ気が動転していた可能性だってある。バン、お前は料理が出来ない。だからアドバイスが出来ない事を申し訳なさそうにしていたが、おそらくお前がメグさんに出来る役目はアドバイスじゃない」
バン「え?」
グレイグ「メグさんに自信を与える事だ。例え作ったお菓子が自信がなくとも、お前が美味しいと嬉しそうに言えばメグさんはその姿を見て自信がつくのだ。誰よりも信頼出来る夫からの言葉だからな」
バン「俺が、メグに自信を.......。俺、そんな事」
マルティナ「ふふ、バンの言葉は真っ直ぐだからね。嘘をついてるなんて思えないもの。それが嬉しいのよ」
バン「お、俺、嘘下手くそですよ」
グレイグ「ああ、知っている。きっとバンと関わっている人は全員その事をわかっているだろう」
バン「本当に出来てたんでしょうか、そんな事。美味しいって思ったから言ってただけですけど、それだけでいいなんて」
マルティナ「明日、メグさんに聞いてみましょう。早く元通りにしてあげないと。お店も、メグさん自身もね」
バン「はい!ご相談に乗ってくださってありがとうございました!」
マルティナ「いいのよ、悩んでる時は話すのが一番なんだから」
グレイグ「頑張るのだぞ、バン」