残酷な描写があります。苦手な方はお気をつけください
その後、ガオスの村
ベル「ここが私の故郷、ガオスの村になります」
村は山の峠となった場所にあり、多少道は整備されている。その道に小さな家々が立ち並ぶだけの本当に小さな村だった
マーズ「これはまた......本当に小さい村なんだな」
ベル「大した物もない村ですが、一応織物を作って売る事で村を存続させていました。まずは村長の家に向かいましょう。こちらのバンが村を襲った者かどうかを誰よりもよく知る人物です」
ラース「了解した。案内頼んだぜ、ベル」
バン「............」
バンは村を見て呆然と佇んでいる
マルティナ「バン?どうしたの?」
バン「俺..........何か思い出せそうな.........。ここに俺はいた事があるような」
ラース「(やはりバンがそのベル達家族を襲った本人なのか?記憶がなくなっていただけの可能性が出てきたな)」
マルティナ「ゆっくりでいいわ。ほら、ベルさんに続くわよ」
バン「は、はい」
村長の家
ベル「村長、ベルです。ただいま帰りました」
村長「ふむ、無事帰ってきてくれたか、ベルよ」
ベル「はい。それと村長に会っていただきたい方達がいらっしゃるのでお連れしました。デルカダール王国からの者達です」
村長「デルカダール王国から?それはまた大層な所から。何かあったのかの?」
ベル「見ていただければわかるかと。入ってきてください」
ガラ
マルティナ「突然のご来訪申し訳ございません。デルカダール王国王女、マルティナと申します」
ラース「マルティナ王女を護衛する騎士、ラースという。よろしく頼む」
マーズ「兵士のマーズです」
村長「な、なんと........。まさか王女様が直接ご来訪なさるなんて。こちらこそこんな何もない村においでくださいまして大変ありがとうございます。ですがベルよ、この方達は一体どうして?」
ベル「もう一人います。本題はそちらの方です」
バン「あの........兵士長のバンといいます、村長さん。よろしくお願いします」
村長「な!?なんと!?」
村長は目を開いてバンをマジマジと見ている
ベル「全くの同一人物ではありませんか?村長。バンと名前も顔も同じです」
村長「..............バンよ」
バン「はい」
村長「お主は記憶はあるのかの?」
全員「!?」
バン「..........この村の記憶はほとんどありません。ですが、どことなくここに俺はいたような........」
村長「そうか。なら、帰るのじゃ。お主が今いるのはデルカダール王国なのじゃろう?それならそこで今まで通り暮らすのじゃ。ここの事は忘れなさい」
バン「え.......」
ベル「なぜです!!村長!!この男は私の家族を殺した」
村長「それは違うぞ、ベルよ。確かにお主の母と妹達はバンに殺された。じゃが、それはこのバンという人間がもたらした事ではない」
ベル「別人.......という事ですか!!ここまでそっくりだというのに!?」
マーズ「ラース将軍、マルティナ様、一体どういう話なんですか?あれ。俺には何が何だか」
マーズは小さな声でラース達に尋ねた
ラース「後で全部話す、少し待っててくれ。村長さん、少しお願いしたい事があります」
村長「はい、何でしょうか」
ラース「こいつの、バンの事を教えていただけませんか?」
村長「........私達の知るバンとこちらのバンさんはもう違う方です。私はこちらのバンさんの事は知りません」
ラース「俺にはそうは思いません。全く同じ見た目をしていて、同名。少なくとも何かしらの縁があるかと思います。親子.......とか」
バン「俺の親がここに?」
ラース「何かバンについて知っている言い方でした。なんでもいいのです、教えてください」
村長「...............わかりました。ベルのためにも、少し話しましょう。バン、あなたが何者なのかを」
バン「!?」
マルティナ「やっぱり村長さんはバンを知っている?」
村長「もう何十年も前になります。この村にとある不思議な夫婦がおりました。母は人間、夫は魔物の夫婦です」
全員「な!?」
マーズ「人間と魔物が夫婦!?」
ベル「そんな事があったのですか!?村長!」
村長「誠に異端ではあったのだが、その魔物もとても人に優しくての。その魔物の名はゲイン。ゲインはこの村を作るのに力を貸してくれたり、魔物の襲撃から何度も守ってくれておった。村人達も皆、ゲインを信頼しておった。そしてゲインは一人の女性に恋をした。
それがナーシャという女性じゃ。気立てもよく、優しい方だった。そうして二人は結ばれ、村の中でもおしどり夫婦と呼ばれる程仲がよかった。しばらくして夫婦の間に生まれた子どもがおった。その子どもの名前は、バン。お主じゃよ」
バン「!!?俺が........魔物の血を.....?」
マルティナ「本物の半魔人って事!?」
ラース「なるほど。だから魔物の言葉がわかったり、目が人間よりも優れていたのか。説明がついたな」
村長「子どももできて、村も二人を祝福しておった。あの時が最も幸せな瞬間じゃっただろう。じゃが、その幸せは長くは続かなかった。ナーシャが買い物に行くために村を出た後、帰ってこなくなった。ゲインは大層焦ってのう。何日も眠る事もせずに探し回っておった。
ナーシャがいなくなって数日後、死体となって見つかった。ユグノア地方の湖の中で沈んでおったそうじゃ。傷跡だらけになっており、元の美人とは思えないほどだったそうじゃ。盗賊の仕業だったんじゃ」
マーズ「酷え話だ」
ベル「そのゲインはどうしたのですか?」
村長「そこから歯車が狂っていった。ゲインは家に引きこもるようになった。バンの世話だけはしていたようじゃがな。村の皆もゲインの気持ちは痛いほどわかっておった。食べ物や服などを家の前に置いていったり、気持ちだけでもゲインに届くようにと祈る者もおった。
そんな時じゃったな、魔物達が凶暴になり始めたのは。何が原因だったのかは今でもわからん。周囲にいた魔物達が凶暴となり、この村も襲われる事が格段に多くなった。ゲインはそれでも出てこんかった。必死に村の戦える者達で対処をしていた。その中で最も優れた戦士がベル、お主の父じゃ」
ベル「..........」
ラース「(魔王の影響はこんな所にまで及んでいたのか)」
村長「そして、ついに崩壊は訪れた。ゲインも凶暴化してしまったのじゃ。暴走してしまったとでもいうべきじゃった。体は大きくなり、目は赤く血走っており、そこら中の家や人間達を壊していった。村の皆もゲインを傷つけたくはなく、必死に言葉をかけるがそれも届かず。
わし達は悩んだ。今まで平和に暮らせていたのはゲインのおかげ。ゲインがいたからこそ、安全に楽しく過ごせていた。ゲインもそれを望んでいたはずじゃった。じゃが、そのゲインが自らわし達を殺そうとしておる。村を守るためにはどうしようもなかったんじゃ。
わし達はゲインの討伐を決めたのじゃ。そのリーダーがベルの父じゃった。激しい死闘じゃったよ。ベルも見たじゃろう?村の奥にある祠と石碑がまさにその場所じゃ。ゲインとベルの父は相討ちじゃった。お主の父は最期まで勇敢じゃったんだぞ」
ベル「..........はい」
村長「ゲインが死んで残されたバンをどうするか。育てていく事を決めていたのだが、やはりゲインの件もあり魔物の血を少しでも持つバンを皆恐れていた。バンは当時6歳。まだよくわかっておらんかっただろう。そこでベルの母がバンを引き取った。バンは純真な少年でのう。よく笑っておる子じゃったよ。そこからすくすくと育っていった。何事もなく。
じゃが、そんなバンにすら過酷な運命は牙を向いた。バンが20歳になる頃じゃろうか。邪神が現れた」
マルティナ「邪神.......。ここでやってくるのね」
村長「そうじゃな。マルティナ様やラース様はよく知っておられるだろう。魔物が更に一段と凶暴になった。見慣れぬ魔物の姿やありえぬ程の強さの魔物も現れた。ベルもわかるな?」
ベル「はい。村を安全のため一時的に封鎖した時の事ですね」
村長「その時じゃった。偶然黒い太陽を見たバンに異変が起こった。バンが苦しみ始めたのじゃ。わし達は突然の事態に困惑したが、ゲインの事が頭に浮かび、すぐさま戦える者達でバンを囲んだ。そして目を疑う事態が起こった。
バンが二人になったのじゃ」
全員「!?」
ラース「バンが二人!?どういう事だ?」
村長「わし達も何が起こったのかはわからん。だが、見てわかった事があった。おそらくじゃが、バンの中にあった魔物のバンと人間のバンで分離したのじゃ。それを裏付けるかのように片方のバンは今まで通りの人間のように、片やもう一人はゲインを彷彿とさせる姿をしておった」
バン「じゃあ俺は人間の姿のバンって事ですか?」
村長「そうじゃ。そして、人間のバンは突如姿を消した。どこにいったのかは今までわからんかった。残された魔物の姿のバンは目を覚ますやいなや、暴れ始めた。姿も変えられるようでな。人間の姿になったり、魔物の姿になったりしながら暴れておった。
その騒ぎを聞きつけたベルの母と妹達がやってきた。ベルは確か遅れていなかったのじゃったな。その時、バンは偶然人間の姿じゃった。勘違いしたのだろう。ベルの母親と妹達は暴れているバンを止めに入った。そこをバンは何の容赦もなく切り裂いたのじゃ」
ベル「それが........私の見た瞬間」
マルティナ「じゃあ、ベルさんの見たバンは魔物の姿のバンという事なのね」
村長「そうじゃ。その後、バンを押さえ込もうとしたのじゃが、力はかなり強くてのう。封印するのがやっとじゃった」
ラース「封印?」
村長「この山の山頂に小さな遺跡があります。その中に封じ込めてあります。今もまだ中で暴れているでしょう」
バン「............」
マーズ「バン、こんな事があったんだな。記憶がなかったのなら言ってくれたって」
バン「ホメロス将軍に言われていたんだ。誰にも言わない方がいいって。俺もその方が怪しまれないし、城にいればいろんな人の情報がくる。もしかしたら俺に関する情報もあるかもと思っていたんだ」
マーズ「そうか......」
村長「これがこの村で起こった悲劇と、バンの出生に関する事じゃ。バン、生きていてよかった」
村長はバンの両手を優しく握った
バン「村長さん.......」
村長「ベルが勘違いしてしまってすまなかった。じゃが、わしはもう一度お主と会えただけで嬉しいぞ。さあ、帰りなさい。あなたがいる場所はデルカダール王国なのですから」
バン「..........」