その夜、ダバンとミラの家 キッチン
ミラ「〜♪」
ミラは楽しそうに鼻唄を歌いながら鍋のカレーをかき混ぜている。もちろん、片手にはあのノートが握られている。それをリビングからダバン達が見ていた
ダバン「よかった。これでまたミラのカレーが食べられる」
リビングにはダバンとミラに招かれてイレブン達もやってきていた
イレブン「僕も楽しみだな、ミラさんのカレー」
ロウ「ほほ、わしもカレーを食べるのは久しぶりじゃの」
ミラ「お礼として招いたのに大したものを作れなくて申し訳ありません。イレブン様達に出すようなものではないんですけど」
エマ「気にしないで、ミラさん。王様だからとか関係ないわ。私だって田舎の村出身だからカレーのように馴染みあるものの方が嬉しいわ」
ミラ「それならよかったです。ねえ、ダバン。ケニーは来てくれないのかしら。ケニーのおかげでもあるのに」
ダバン「う〜ん.....どうだろうな。連れてこようか?」
ミラ「いえ、無理にとは言わないわ。ただ、皆で食べた方が美味しくなると思ってね」
ダバン「......まあ来た時のために用意だけしてもいいんじゃないか?」
ミラ「それもそうね」
少ししてカレーの独特なスパイスの匂いが家の中に広がってきた
イレブン「ん〜、美味しそうな匂いだ。どんどんお腹空いてくるね」
ロウ「ほほ、そうじゃのう。城では中々こういった出来立ての匂いは味わえんからのう」
エマ「この感じ懐かしいね、イレブン。よく私達もイシの村で匂い当てクイズやったよね」
イレブン「あ、やったやった。シチューの匂いとか揚げ物とかね」
ダバン「はは、そんな事やってたんですか?イレブン様」
エマ「イレブンはね、小さかった頃悪戯が大好きだったんです」
イレブン「言わないでよ、エマ〜」
全員「ハハハハハ!!」
ミラ「出来ました!特製カレーですよ!」
ミラが全員分の容器にたくさんのご飯とカレーを乗せて運んできた。少し大きめに切られた野菜や卵が乗ってとても色鮮やかになっている
イレブン「わ〜!美味しそう!!」
エマ「卵まで乗ってる、野菜もいろいろ入ってて栄養たっぷりね」
ロウ「ほほ、これがミラさんの特製カレーか。大切に味わわせてもらうとしよう」
ダバン「.....これまでもミラが作ってくれる特別なカレーだと思ってたが、母親から受け継いだ大切な思い出が詰まっていたって知ると、このカレーは更に特別に見えてくるな」
ミラ「ふふ、そうね。私にとってこのカレーは母親との思い出。特別なカレーなの。このノートが教えてくれるの。優しい味を、皆が笑顔で美味しいと言ってくれる温かい味をね。今日は本当にありがとうございました、またこのノートが戻ってきてくれてよかった」
ミラは幸せそうに笑ってイレブン達を見た
ダバン「ミラのその笑顔を見れただけでも必死に取り戻した甲斐があったさ。よし、食べるとしましょう!」
全員「いただきまーす!」
全員がパクリとスプーンに大きくかぶりついた
ミラ「.....ど、どうですか?」
全員「美味しい!!」
ミラ「〜〜っ、よかった!!」
ロウ「これぞまさに家庭の味。優しい優しい味わいじゃ、わしはこの味が大好きなんじゃ」
イレブン「懐かしい味がする。そう、本当に子どもの頃に食べたような懐かしい味だよ」
エマ「人の気持ちは料理のスパイスと聞きますが、これは正にその通りですね。ミラさんの優しい気持ちがしっかりとこのカレーにこもっています」
ダバン「おかわり、ミラ」
イレブン「え!?ダバン食べるの早すぎ!待って、僕もおかわりする!」
ミラ「ふふふ、そんな慌てないでください、イレブン様。たくさん作ったので大丈夫ですよ」
ダバン「......ちょっと待っててくれ、ミラ。俺、ケニーに渡してくる」
ダバンはケニーの分の容器を持っていった
ミラ「え、でも冷めちゃうわよ」
ダバン「大丈夫、すぐ戻る」
ダバンは外に出ていった
ミラ「もう」
イレブン「ふふ、大丈夫だよ、ミラさん」
ミラ「え?」
ロウ「そうじゃな。ケニーは近くにおるからのう」
ミラ「え!?そうなんですか!?」
エマ「え?イレブン達は気付いてたの?」
イレブン「うん。ケニーは、この家の屋根の上にいるよ。気配がするもの」
ロウ「隠しておらんからのう。きっと匂いに釣られてやってきたか、はたまた最初から来るつもりがわし達がおるせいで入れないかのどちらかじゃな」
ミラ「そうだったんですか!?もう夜なのにそんな所にいたら風邪引くわ!」
イレブン「まあまあ。ケニーも今回の事で少しダバンを見てくれるようになったと思う。きっとミラさんのおかげだよ、ありがとう」
ミラ「そうですかね。そうだといいんですけど」
ダバンとミラの家 屋根上
ケニーは屋根の上で横になっていた
ガッ....カッ....
ダバン「ふぅ、音をたてずに登るの難しいな。よくこんな器用な事やれるな、ケニー」
ケニー「コツがあるんだよ、クソ兄貴。とっととそれ置いて戻れ」
ダバン「まあ少しくらい話そうぜ。ほら、ミラの特製カレーだ。出来立てだぞ」
ダバンはケニーに容器を渡した。まだ湯気が立ち昇っている
ケニー「.....おう。いただきます」
ケニーはガツガツと勢いよく食べ始めた
ダバン「すっかりミラに胃袋掴まされたな。どうだ?ミラはいいやつだろ?」
ケニー「別に俺はそこまであの女の飯を好きじゃねえ。ただ食べる場所が他にないだけだ。それにあの女はクソ兄貴なんかには勿体ねえやつだ」
ダバン「そうかよ。今日はありがとうな、ケニー。お前がいてくれて助かった」
ケニー「何もしてねえ」
ダバン「お前がいてくれたからあいつを倒せた。俺一人だったら無理だったからな」
ケニー「はっ、そうかよ。まあ、クソ兄貴の盾もよかったんじゃねえの?魔法を完全に打ち消すあれには驚いた」
ダバン「ありがとう。前にジエーゴさんという方から教わったんだ。会得するのはかなり難しいって言われてたけど、なんとか土壇場で形に出来てよかった」
ケニー「は!?土壇場だと!?じゃあ、失敗する可能性もあったって事かよ!」
ダバン「まあな。でも、なんとなくだけどいけると思ったんだ。ケニーが近くにいてくれたから。絶対に守りたい対象が側にいてくれたからこそ、俺は力を出せた。ありがとう」
ケニー「〜〜っ!!ふざけんなよ!お前が守るって言ったから信じたんだろうが!」
ダバン「守り切れただろ?」
ケニー「結果論はな!だがそんな危なっかしい事何回も任せられるか!」
ダバン「はは、ごもっともだな。だが、一回出来たからな。コツは掴めた。次は絶対確実に出来るようにしておく。約束だ」
ケニー「はっ、んな約束なんかいらねえよ!俺は守られなくたっていい!」
ダバン「.......わかってるさ。お前が昔よりずっと強くなって、俺が守ってやる必要がないくらいになっているのはな」
ケニー「......じゃあ、なんで守ろうとしてくる」
ダバン「.....俺は、臆病なんだ」
ケニー「.....兄貴が.....臆病?」
ダバン「そうだ、俺は一人でいる事が怖い。一人でいると、不安で怖くて仕方ない」
ダバンは顔を下に向けている
ケニー「.......んなの、知らなかった」
ダバン「だろうな。俺も、俺自身がこんなに弱いなんて思わなかった。だからきっと、一人でも逞しく生き抜いてきたケニーは俺より強い。心が、精神が、俺より逞しく強く勇ましい。笑えるだろ?こんなやつが、お前を守りたいって言ってたんだぜ」
ダバンはケニーに力なく笑ってみせた。その顔はとても哀愁的で小さく見えた
ケニー「.......」
ダバン「だが、これだけは言っておく。ケニーは俺の大事な弟だ。昔も今も変わらずな。お互いどんなに変わってもこれだけは変わらない。強くなったな、ケニー」
ケニー「.....なんだよ、急に、訳わかんねえ!俺の親にでもなったのかよ!お前はもう兄貴でもなんでもねえんだよ!」
ダバン「それでもいいさ。俺がケニーの側にいたいのは変わらないからな」
ケニー「はっ、勝手に言ってろ!」
ケニーは屋根を飛び降りて走っていった
ダバン「......ミラの元に戻るか」